IS x 龍騎〜インフィニットストラトス:鏡の戦士達 作:i-pod男
休みが終わり、一夏は授業の合間にある十五分弱の時間を使ってスケジュールを忠実に手帳に書き込んでいた。もう片方の手で携帯端末を弄ってメール、報告書等の書類の作成を行っていた。
(しかし、嫌な役回りを押し付けられたな。まさか、俺が鈴を勧誘して必要になるならデッキを取り返さなきゃ行けないなんて。指名された以上やるけど・・・・)
一夏は一段落ついた所で二組の教室に向かって行った。扉を開くと、
「鈴!いるか?」
大声でそう叫んだ。
「何か用?」
「ちょっと時間をくれ。十分もあれば終わる。」
二人は屋上に上がった。どんよりとした空は、今にも雨を降らせそうな雰囲気を醸し出している。風も出て来て、一夏のコートがバサバサとはためいた。
「で、何の用?」
「頼みがある。俺達に、AD・VeX7に協力してくれ。」
「え・・・・?」
「お前は迷っている。戦いに一人で本当に勝てるかどうか。方法を探そうとしているが、見つからないまま迷ってるんだろう?戦いに於いて、迷いとは、即ち死だ。お前は俺の幼馴染みだ。死なせたくはない。だから、頼む。断るなら、デッキを取り戻さなきゃならない。」
一夏はポケットに入ったデッキを握り締めて必死で震えを押さえようとしていた。やはり、いくら戦闘になれているとは言え、中学時代の幼馴染みを手にかける必要があるかもしれないと言う事実は、まだ高校生の一夏には重過ぎるプレッシャーだった。鈴音は何も言わずに只見つめ返す。
「もうどれ位の間ドラグレッダーに餌を与えていない?遅かれ早かれ、契約破棄と見なされて殺されるぞ。だから、そうなる前に」
「嫌よ!私は自分の力でどうにかしなきゃならないの!これは私に与えられた力。私が使うわ!私だって馬鹿じゃない。それなりに考え位ある!!」
「お前に計画があろうと無かろうと、俺達に協力すれば、両親を取り戻す事は可能なんだ!」
「私がやらないと意味が無いのよ!」
「お前一人では出来る事は限られているから言ってるんだ!!」
一夏はリボルバーを構えて撃鉄を起こした。レーザーポインターが鈴音の額に映し出される。
「コイツは殺傷能力を極限まで押さえたゴム弾だが、俺はお前を撃ちたくない。だから、頼む。どうしても強力しないと言うのなら、デッキを力ずくで奪う事になる。お前と、戦わせないでくれ・・・・頼むから・・・・」
雨は更に激しくなり、一夏の顔は涙なのか雨の雫なのか分からない程に濡れており、銃を握った左手は震えていた。
「ごめん、一夏・・・・でも、私は・・・・私の願いは、私が叶えるからこそ意味があるの。一人だけだったら何も出来ないのは分かってる。でも、もう無理なの・・・」
そう言って、地面に出来た水溜りにデッキを翳した。
「戦うしか、無いのか・・・・」
一夏はポケットからリュウガのデッキを引っ張り出した。基本スペックは龍騎とは変わらないが、全体的にパワーは上である。
「鈴・・・・俺は、この世界を変えたいんだ。皆の為に・・・・ISがあろうとなかろうと、男だろうが女だろうが、みんなが普通に暮らせる世界に。だから、力を貸してくれ。俺は、お前と戦いたくない・・・!やめろよ・・・!」
「私だって・・・私だって嫌よ!一夏と戦いたくなんか無いわよ!でも・・・!」
「・・・・・いや・・・・ 分かった。もう何も言わない。」
一夏も袖で顔から水を拭うと、デッキを水面に向けた。
「「変身!」」
龍騎とリュウガ。相反する赤と黒は、それぞれの感情を表しているかの様だった。悲しみと葛藤に溺れる、底の見えぬ奈落の黒。願いを叶える為に奔走し、血を吐く様な決断を迫られた自分への苛立ち、怒りを表す赤。二人はミラーワールドに飛び込むと、戦い始めた。リュウガは龍騎の攻撃を受け流しながら反撃は一切しなかった。まだ迷っているのだ。
(迷えば死ぬと言ったのは自分なのに、何て様だ・・・・所詮人の子って訳だな、俺も・・・・)
鋭いラッシュを潜り抜けると、右足を軸に裏拳の要領でダークドラグバイザーを顎に叩き込んだ。その攻撃で龍騎は後ろにひっくり返る。
「アグッ!」
「鈴、もうやめてくれ。」
だが龍騎は立ち上がり、ドラグセイバーのアドベントカードをベントインした。
『ソードベント』
振り下ろされたその剣はリュウガの胸を的確に捉えたが、彼は動じなかった。
「いち、か・・・・?」
「もう良いんだ・・・・・そこまで辛いなら、ライダーとして戦う必要は無い!!もうやめろ!俺は・・・・これ以上は、どうにかなっちまいそうだ・・・・幼馴染みと・・・・・殺し合いなんか俺はしたくない!!」
ミラーワールドを出ると、雨はやはりまだ降っていた。
「ごめん、一夏・・・・私、最低の馬鹿よ・・・・」
そう言って龍騎のデッキを一夏の胸に押し付ける。そして意識が遠のいたのか、ぐったりと動かなくなった。
「・・・・中に入ろう。風邪引くぞ。」
一夏は彼女を優しく抱き上げ、医務室に運んで行った。
「ごめんな、鈴。お前に成り代わって、お前の家族は俺が取り戻す。だから、お前はもう戦うな。」
封印のカードを彼女の手に握らせ、軽く頭を撫でてやると、静かに出て行った。
「勧誘、無理でした。すいません。デッキは取り戻して来ましたけど。」
一夏は龍騎のデッキを司狼に渡す。司狼はそれを残っているリュウガを含めた四つのデッキと一緒に保管した。
「ご苦労さん。すまないな、本来なら俺がやるべき事なのに。お前は大丈夫なのか?斬られたんだろ?」
「大丈夫です。俺だからこそ大丈夫なんですよ。俺じゃないと、彼女は聞かないかもしれない。俺だって、初対面の時友達になるまでかなり時間が掛かりましたから。今は医務室に寝かせています。」
だが、一夏の硬い表情に司狼は顔をしかめる。
「お前、少し休暇を取れ。お前の書類はマドカ辺りに回しておく。幼馴染みと戦ったんじゃ、寝覚めも悪いだろう?身が入らなくて当然だ。お前にこんな重荷を背負わせたのは俺の責任でもある。本当にすまない。そして、ありがとう。」
「司狼さん・・・・」
「ゆっくりしていろ。お前が本格的に参加するのは、まだ少し先だ。織斑先生辺りでもデートに連れて行ってやれ。休息は大事だ。(さてと、ゾルダとタイガのデッキはまだ渡していないが・・・・果たして向こうはどう動いてくれるんだろうな?後は・・・・・)」
二枚の写真と二つのデッキを手にした司狼は軽く下唇を噛んで思案に耽った。
「じゃ、俺はこれで・・・」
「ああ。お疲れさん。」
一夏の背中は暗く、重い物を背負い込んでいる様だった。
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