IS x 龍騎〜インフィニットストラトス:鏡の戦士達 作:i-pod男
鈴音との衝突から数日後、一夏はバイクで夜の町中を走っていた。シートに伝わるエンジンの振動が体を落ち着かせ、心を白紙に戻してくれる。夜風が体に当たって頭も冴える。だが、走っている最中に千冬の姿を見たので、そちらに向かってバイクを止めた。
「千冬姉、乗って。」
「一夏・・・・!」
「プライベートで会うのは久し振りだから。ちょっと話したくなった。」
「良いだろう。」
予備のヘルメットを被ると、再びバイクをスタートさせた。行きつけのカフェに入ると、ケーキセットを注文してテーブルを挟んで座った。
「お前から誘うとは珍しいな。どうした?」
「いや、何つーか・・・・あ、独り言と思って聞き流して欲しいんだ。何でISが出来たんだろうなと思ってさ・・・・ISが無かったら、どうなるんだろうなとか。特異ケースの内一人だし、問題の火種でしかない。でも、やっぱり俺は戦い続けなきゃ行けないんだ。俺を見失わない様に。」
「一夏・・・・(いつから、お前はそんな悲しそうな目をする様になったのだ?いつから私が知っていた昔のお前は、『黒』に染まってしまったのだ?)」
「でも戦う事に、俺は疲れたのかもしれない。でも、止まったら、そこで終わってしまう気がして、怖い。もし、友達が俺を倒す事になって差し向けられたら・・・・俺はどうすれば」
「もう黙れ、馬鹿者。」
千冬は一夏をゆっくりと優しく抱きしめた。幸い死角に当たる席を取っているので他人には見えないが、突然の行動に一夏は慌てた。
「ちょ、千冬姉・・・・?」
「いつからそんないっちょまえの考えをする程偉くなった?まだ弱冠十六歳の小僧がそんな大層な事を心配する必要は無い。今まで私が知らない所でお前に何があったかは聞かない。だが、無茶はするな。私には、もうお前しかいないのだ。」
久しく触れなかったその温もりに、一夏の目から涙が零れ落ちた。
「お前はお前だ。好きに生きろ。ただし、私に何の断りも無く勝手に死地に赴く様な馬鹿な真似は許さん。良いな?」
「・・・・・分かった。」
涙を拭き、少し冷めたコーヒーを飲んだ。涙の所為で塩っぱくなっていたが、気にせずに飲み干した。会計を済ませると店を出たが、その時千冬の業務用端末に連絡が入った。
「ん・・・・?(今頃何の用だ?)」
それを見た千冬は表情が固まった。
(AD・VeX7の、捕獲命令だと?!確かに、あの中継は世界に喧嘩を売った様な物だが、だからと言って・・・・!)
「千冬姉、どうかした?」
「いや、何でも無い。仕事をしろと、うるさくてな。」
一夏には悟られない様に表情を出来るだけ変えずに取り繕った。
「そっか。そろそろ門限だ。帰ろう?」
再びバイクに乗ると、一夏の心は真っ白になった。考えたくない時、何も考えられずに行き詰まる時にはいつもツーリングに行く。だが、今はいつも以上に落ち着いていた。後ろには姉が乗っており、その温もりが心地良くじわじわと体に広がって行った。
(千冬姉・・・・・絶対俺は、強くなる!)
学園に向かうモノレールの駅に着くと、別れを告げて社宅に向かった。内装はシンプルな作りで、家具以外私物は殆ど無かったが、広かった。ソファーではマドカがファイルを読んでいる。
「兄さん、お帰り。」
「ああ、ただいま。悪いな、俺の後始末を任せちまって。」
「全く・・・・いくら社長から休暇を貰ったとは言え私に押し付けるとは・・・」
「ごめんごめん。夕飯は?」
「兄さんが冷蔵庫に入れた残り物を食べた。冷めても美味しかったな。今度私にも教えて欲しい。」
「ああ。良いぞ。」
マドカの隣に腰を下ろし、書類の整理を手伝い始めた。
「長かったな。ここまで。」
「そうだな。今まで色々あった。初対面の時は兄さんの事が大嫌いだった事を覚えている。ミラーワールドやISで
「あ、あれは、その・・・・咄嗟にやった事だから。気にするな。」
照れ隠しに顔を背けてパタパタと手を振る。
「それに、形はどうあれ俺達は兄妹だ。ちゃんと守れて良かったよ。でもあの時はヒヤッとした。」
「それでも・・・・ありがとう。私は、これからも兄さんと一緒に戦う。兄さんを守る。」
マドカは一夏の肩に撓垂れ掛った。
「そうか。今夜は久し振りに一緒に寝るか?」
「え・・・・あ、う・・・・」
「まあ、俺の部屋の鍵は開けてるから、気が向いたら来い。先に寝てるから。お休み。」
一夏は二階に上がって部屋のベッドに寝転がった。いつ眠りについたかは分からなかったが、眠っている事は確かだった。
「ん・・・・・?」
だが、突然顔に眩しいライトを当てられた様に瞼の裏がほんのりと明るくなり始めた。目を開けると、そこは何も無い白い空間だった。
「ここは・・・・?」
『ようやくここまで来たか。』
『お待ちしていました。』
『待ちくたびれたぞ、小僧。』
「え・・・・?ダークレイダー・・・?!それに、その二人は・・・?」
『何を寝ぼけている?私はお前とともにずっと戦っていたではないか?』
『酷いです、分からないなんて。』
「て事は・・・・まさか、白式・・・・と、白騎士!?」
『そうだ。』
『正解でーす!』
「でも、何で?俺は、確かに・・・・寝ていた筈なのに・・・」
『ここはお前の精神世界の中だ。私達とお前の間に相互意識干渉が起こっていると思えば良い。』
「成る程。」
『小僧、お前は何の為に戦っている?』
「この世界を変えて、俺の仲間を守る為だ。」
一夏はダークレイダーを見据えてハッキリとそう答えた。
『今のお前に、そこまでの大言を吐く実力は無い。』
ダークレイダーはそう斬り捨て、鼻を鳴らした。
『私達を倒す事すら不可能だ。あの時の様に、迷ってしまえばな。』
「っ!?(こいつら・・・・何故知ってる?!)」
白騎士の言葉に一夏は思わず目を見開いた。
『驚く事はありません。私達は二十四時間貴方と行動しています。貴方の行動は全て見聞きしていました。甲龍の使用者との戦い、そのやり取りも。世界を変える代償として、仲間を手にかけてしまう事に恐れを抱いている。違いますか?』
白式の言葉に、一夏は見事に図星を突かれ、俯いてしまう。
「だったら何だ?!誰だって友達を殺したいなんて奴はいない!仮にいたとしても、俺はそんな事はしたくないし、しない!」
『フン、甘いな。その考えがどこまで通用するか、我々が見極めてやろう!』
白式、白騎士、ダークレイダーの姿が掻き消え、一つになった。現れたのは、一夏の専用機、ウィングナイトサバイブだった。
「力試しって事か・・・・良いぜ。やってやるよ!」
一夏もISを展開し、ダークブレードを引き抜いた。だが、攻撃も防御も悉く通用せず、二分と経たずに吹き飛ばされた。
「っく・・・・!」
『脆弱だな、主よ。』
重なった三つの声が発する辛辣な言葉が刃となって一夏の心を突き刺した。
「脆弱だろうとなんだろうと、俺は考えを変える気は無い!」
二人のナイトサバイブのダークブレードがぶつかる度に火花を散らす。だがやはり一夏の方が劣勢に追い込まれて行く。理由は単純、行動を全て読まれてしまうのだ。
「ちっ・・・・俺の攻撃パターンは既に織り込み済みって訳か。」
『そう言う事だ。互いの手札は曝け出されているが、我々の方が質は上。つまり、主よ、お前は我々の力に振り回されながら戦って来たと言う事だ。』
「だろうな。」
『何?』
「こんな力を、扱い切れる様な奴なんかいない。正直俺だって扱い切れてるとは思えない。手に余るのも仕方無いだろう。でも、使いこなせる様になるまで俺が強くなるしかない!俺は、ここで停められるわけにはいかない!勝たせてもらうぞ、白騎士、白式、ダークレイダー!」
『面白い。では、来るが良い!全力で、我々を倒してみせろ!」
『トリックベント』
『ブラストベント』
『シュートベント』
『ファイナルベント』
デッキに残っているカードを纏めてベントインした。シャドーイリュージョンによって数を増やし、更に全員がブラストベント、シュートベント、そしてファイナルベントのカードを装填した。ダークレイダーが翼のタービンから竜巻を発生させ、バイクに変形する。空中に浮かんだ所でダークアローの一斉射撃から必殺の疾風断で、ウィングナイトサバイブを貫いた。
「・・・・・・これでも、俺はまだ、弱いかよ?」
『認識を、改める必要がある事は認めよう。』
そこで一夏は目を覚ました。時計に目をやると、六時を少し過ぎた所だった。隣にはいつの間に潜り込んで来たのか、三毛猫の着ぐるみパジャマを着たマドカが潜り込んで丸くなっていた。
「夢・・・ではないよな・・・・」
ウィングナイトを見ると、特に変わった様子は無かったが、何時もより上手く同調していると言うのを直感的に感じ取った。まるで本当に体の一部になったかの様に、待機状態のそれを装着している感じが全くと言って良い程しないのだ。
「何かが、変わった・・・・のか?」
目が覚めても特にやる事が無いので、スケジュール帳に目を通した。
「キャノンボールファスト・・・・申し込まなきゃいけないか。」
遠巻きに一夏の様子をミラーワールドから眺めていたオーディンはデッキから己の力の源でもあるサバイブ『無限』を引き抜いた。それには不死鳥の頭と体を模した金色の絵柄が載っていた。
『私も、動く頃か。』
「キュエエエエエエ!!」
後ろでは、不死鳥型契約モンスターのゴルトフェニックスが翼を目一杯広げて鳴き声を上げた。金色の羽の旋風に包まれると、一人と一匹の姿は掻き消えた。