GIRLS und PANZER 地獄ハ謳ウ   作:文月蛇

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まさか続くと思ってなかったw


















主と下僕

  嘗て失われた多くの貴族階層の家々は常に内部崩壊の危機に晒されていた。特に重要な役職を持つ貴族は家族の中で内紛の起こる危険性を秘めている。それは古今東西の貴族社会においてみられるものであり、時には父と子。兄と弟、姉と妹が争うことがあった。そこには富と名誉。権力が存在し、外からの圧力などによって権力闘争が多発する。フランス革命以降の近代において、貴族階級の激減と市民階層の急激な発展によって家族間の内紛は徐々に無くなった。

 

しかし、生き残った名家や資本家などの上流階層などは時にして旧時代の血みどろの肉親同氏の骨肉の争いが行われることもあった。

 

 

 

 

 

薄暗く、蜘蛛や鼠が巣くうダクトを10代前半の少女が息を潜め、通風孔の隙間から外を覗き見る。

 

「どこだい?どこにいるんだい?可愛い可愛い姪っ子。私の可愛い姪っ子。可愛い可愛い私のフロイライン(お嬢さん)。」

 

そこには中年のゲルマン系イギリス人の男が姪っ子を探しているようであった。しかし、その手にはあってはならない名設計者ブローニング氏が手掛けた9mmブローニング・ハイパワー拳銃が握られており、彼の周囲には黒いスーツにサングラス、そして銃火器で武装した男たちが控えていた。

 

「聖グロリアーナ女学院戦車道「Royals Horse Guard(近衛騎馬隊)」と呼ばれるに相応しい部隊の隊長を継し、うら若き乙女。ダージリン、君は何も分かっていない・・・」

 

愛称で呼ばれた少女、ダージリンは狂気と沙汰としか見えないその叔父の背中を見、震えた体を押さえるようにその場にちじこまる。

 

「君の兄上、いや君の父上が理事長を解任されるまで私が二十年も待ったというのに。・・・なのに辞め際の兄上は君に戦車道の隊長をやらせるという。容認しがたい決定を残していった。それはいけない。」

 

叔父であるその男はスライドを引き、次弾を装填すると再び話し続ける。

 

「それはいけない。・・・・・聖グロリアーナ女学院、そして戦車道は私のものだ!」

 

彼らの足音が遠ざかっていったあと、ダージリンは息を潜め、音を立てないようゆっくりとした足取りで目的地を目指す。彼らに見つかれば何をされるかわからない。震えるダージリンは心身衰弱した父親の話を思い出す。

 

 

『ダージリン・・・・・もしもの時・・・お前に危機が迫ったとき・・・・どうしようもない敵の勢力に追い詰められた時、地下の忘れ去られた資料室に行け。そこには我々、聖グロリアーナ女学院の一つの成果がある。お前を守るすべがある。』

 

 

病院に入った父の言葉を思い出したダージリンは急いで地下に降り立つと、一目散にその地下の忘れ去られた資料室へ走っていく。物置として新旧の備品が混在する地下室を走り抜け、奥の古びた資料室と書かれた部屋へとたどり着き、扉を開いた。

 

 

そこには、積み重ねられた長年の研究資料が残されていた。

 

 

古今東西の兵器の資料。技術強国であったドイツ国防軍の遺した資料やかつてソヴィエトと呼ばれていた時代の軍事資料。果ては日本の試作戦車の設計図。ありとあらゆる資料が納められていたそこは戦車道を履修する者、軍事知識を欲するものにしてみれば宝の山であった。当時の遺された書類もあり、史料的価値があるものも存在するであろう。それらはご丁寧に劣化しないようアルカリ性の大判の封筒にて保管されており、膨大な資料は山積みとなっていた。

 

それらは戦車道の試合で必要になるだろう。だがそうではなかった。

 

危機的状況は試合ではなく、貴方の叔父による敵勢力が迫っていることであった。そうなればこれらの資料は何の意味も持たなかった。

 

「これが・・・私を守る術・・・・」

 

本心を呟きたかったが、今この時でなければ喜んでいたであろう。ダージリンは足元にある資料をその憤りに任せて蹴ることはせず、ただ唖然とそれらを見る。

 

 

「見つけたよ、ダージリン・・・」

 

部屋に叔父の声が響き渡ると同時に撃鉄を下す独特の金属音が部屋を再び響かせる。ダージリンが死を覚悟した瞬間、銃声が響き渡り、その衝撃でダージリンは資料の山に叩き伏せられる。悲痛な叫び声と共に彼女の血が資料のそこかしらに飛び散り、硝煙がその部屋に染み込んでいく。不幸中の幸いか資料に埋もれた彼女の傷は肩を掠るだけに過ぎず、飛んで行った弾は資料室の壁にめり込んだ。

 

とどめを刺そうと歩み出す叔父にダージリンは起き上がり睨みつけた。

 

「叔父上・・・」

 

「その通りだよ。フロイライン(お嬢さん)

 

「・・っ!・・貴方はそこまでして・・・そんなにまで学院長の座が欲しいんですか!」

 

「またまたその通りだよ。フロイライン・・・君を亡き者にすれば、私の娘を戦車道の隊長にするだけだ。」

 

ハイパワー拳銃を彼女の眉間に狙いをつけ、邪悪な笑みを浮かべた叔父は人の姿をした悪魔だった。再び撃鉄が下げられ、死を覚悟したダージリンは目を食いしばる。

 

引き金を引かれようとしたその時だった。書類の擦れる音と共に何者かが奥の書類の山から這い出てきた。そこにいたダージリンや叔父、彼の取り巻きは皆その光景に驚く。

 

まるで漆黒の拘束着のような服を身に着け、腰まで延ばされた髪の毛は重力に逆らい、異常なまでに白い肌は不気味さを演出させる。そして奇妙なまでに真っ赤な瞳。彼らは直感するその存在は人ではない。化け物であると。

 

その男は醜悪に見つめるその瞳と殺そうとする殺気。手袋には魔法陣のようなものが描かれ、彼の瞳と共に赤く発光する。その恐ろしい姿を見た一同は恐怖のあまり叫びながら銃を乱射する。

 

「ば、化け物め!」

 

叔父、そして取り巻き達は銃を乱射。背後にある資料など考えもせずに発射し、貴重な資料が穴だらけとなる。それに憤怒を掻き立てられたのか、人とは思えない雄たけびを上げると取り巻きの一人を投げ飛ばした。取り巻きの男は壁にぶつかり腕と足をあらぬ方向へ向き、痛みのあまり気絶する。銃弾はその暴れる彼に命中するかと思ったが、やはり当たらずに逸れて行ってしまった。

 

「なぜ当たらぬ!」

 

取り巻き一人一人を戦闘不能にさせ、取り巻きの持ち物であったハチェットを構えると目にもとまらぬ速さで叔父の手首に切りつける。

 

「遅すぎるぞ、人間・・・・。それでは当たらぬし、掠りもしない」

 

化け物と呼ばれた手には叔父の持っていた銃の弾倉と9mmの弾丸が転がっていた。そして銃を構えた右手に切れ目が走り、血が噴き出すと同時に叔父は痛みのあまり絶叫する。

 

「雑魚め」

その光景に罵倒すると、傷口を押さえて無双ぶりを見ていたダージリンに近づく男はまるで高貴な貴婦人に対するように腰をかがめ膝を折った。

 

「お怪我は御座いませんか、お嬢様」

 

先ほどまでの殺気を放っていた男はどこへ行ったのか。まるで女王の謁見の様に慎み深く接する臣下のようでダージリンは戸惑いを露わにする。

 

「ご命令を・・・・ご主人様(マイマスター)

 

この男はただの人ではない。ダージリンを主人と定め、類稀なる戦闘能力を発揮する。それは中世の領主と臣下の関係。絶対的な忠誠を捧げ、彼の者のためなら命を捧げるという熱狂的な心酔。ダージリンは直感した。彼はただの人ではない。『変態(紳士)』であると・・・。

 

 

「名前は?」

 

 

至極単純な質問。だが、ダージリンのその決意のもとに言われたその言葉何よりも重い。そして、漆黒の衣服に身を包んだその紳士は口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーカード(ARUCARD)・・・・・・。先代(お父上)はそう呼んでおられました」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「それが出会いだったんですね」

 

刻は戻り、現代。大洗学園との親善試合が終わってから、ダージリンにいつもついているオレンジペコはダージリンの話を聞き、紅茶を飲む。

 

彼女たちの間柄は学院内の制度である上級生が下級生の面倒を見る姉妹制度に由来する。ダージリンはオレンジペコを妹として、学院の様々なことを教え、戦車道でもダージリンの乗る戦車の装填手として選ばれる。そして、ソウルネームも紅茶から来ていることから二人の結びつきは実の姉妹以上に深いものとなっていることが窺い知れよう。

 

「その後、ダージリン隊長の叔父様はどうなったのですか?」

 

「その後、執事(ウォルター)によって警察に引き渡されたわ。引き連れていた取り巻きはとりあえず病院行きになったわね」

 

計画的殺人として主犯のダージリンの叔父上は無期懲役。その取り巻きも懲役刑が言い渡された。政治的陰謀に関与したとして聖セントグローリア女学院の理事と教員の何名かも依頼辞職によって学園艦から追放され、心身を回復したダージリンの父は学院長から理事長に昇格した。その後、内部改革とダージリンによる戦車道の育成によって強豪校として勢いを甦らせた。

 

その力の源は旧校舎内の地下室に隠された古い資料であり、それらによって戦車道が強くなったといっても過言ではない。さらに、その膨大な資料は学園艦内に博物館が出来るほどの値打ちの物があり、ダージリンの父は早速、文書の保管を名目に博物館を建設。戦車道関係者を唸らせ、学園の収入として繁栄した。

 

「こんな言葉を知ってるかしら?『銃剣で王座を築くことはできるが、長くは座ってられないだろう』」

 

「ん~・・・ミハイル・ゴルバチョフ?」

 

オレンジペコはどっかで聞いたことがあるフレーズに考えるが、思い出すことができない。すると、ダージリンは微笑んで回答を言った。

 

 

「ボリス・エリツィンよ。私や父が何かしなくても、横暴なやり方では反発を招くわ。私たちはもっと優雅にことを運ぶべきね」

 

 

「意外です。ロシアの格言がでるとは・・・」

 

 

ロシア方面のボキャブラリーが乏しいオレンジペコは悔しそうに俯き、「要勉強ね」とオレンジペコの苦手な分野が分かったのがうれしいダージリンは後ろに控えていた執事を呼んだ。

 

「ウォルター、アーカードは?」

 

後ろに控えるのは初老のイギリス人であった。後ろ髪を紐で纏め、片眼鏡をつけた古風なステレオタイプな老執事であるが、長身な体躯とすらりとした姿勢。そして、異常なまでに鋭い眼光と物腰。それは歴戦の兵士にも似た風格を併せ持っていた。彼は女学院内でも有名であり、ダージリンの私生活をサポートする傍ら、闇家業に従事しているのではないかともっぱらの噂であった。

 

そんな老執事ウォルターであったが、オレンジペコ、ダージリンのカップに追加の紅茶を注ぐと微笑みながら答えた。

 

「はい、アーカード様は現在、御当主様と共に博物館で文書整理を行っております。何分、膨大な資料がありますので」

 

ダージリンの父、聖セントグローリア女学院の現理事長は昔から軍事文書や秘密資料など買いあさるのが好きなイギリス人であった。古今東西の軍事資料を集め、学院内の学道に反映できればよいと考えていたが、やはり趣味と実益を兼ねたものであったのは娘の目からしても明らかであった。叔父に付け入る隙を与えたのは高額な軍事資料を購入したことにダージリンの母であり、愛妻に愛想を付かされ出て行ってしまったからで、心身衰弱してしまい、ダージリンが叔父に殺されかけ、アーカードに救われてから、ダージリンの父は更生して愛妻とも仲直りを果たした。ただ、仲直りの条件として出された、すべての軍事資料の開示とそれを学院に売るという条件であり、ダージリンの父は涙ながら資料を女学院に半分を寄贈。半分を格安で売却することになった、そしてアーカードは非常勤講師と学院に設置された軍事資料の図書室の専属司書として働くことになった。

 

現在では、軍事文書購入は諦め、膨大な量になったそれらの資料を整理しており、何故か司書の免許を持つアーカードがそれを整理している。オレンジペコはアーカードが何者なのか全くわからなかった。何度か聞いてみても、ダージリンにははぐらかされてしまう。

 

 

「ウォルターさん、アーカードさんって一体何者なんですか?」

 

 

オレンジペコの問いかけにウォルターは苦笑を漏らす。

 

 

「何者と言われましても・・・そうですなぁ。さっきの話の通りでございます。異常な戦闘能力と御当主に任された資料整理。正直申し上げますと、あの悪趣味な赤いコートとハットは普通の人間ならば着ません。そして、資料の片隅に置いてある『魔法少女』を題材にした漫画や怪しげなゲーム・・・・・・それらを統合して話しますに・・・彼の者は紳士(ヘンタイ)としか言えませんな」

 

「あ・・・はは・・・」

 

なんとも言えない表情のオレンジペコ。それはそうだろう。彼女から見てアーカードはかなりの美形である。異常な程白い肌の色や奇抜な真っ赤なコートやハットを除けば、女子は黄色い叫び声をあげることであろう。加えて言うなら奇抜なファッションセンスは一部の女子から好評らしく、アーカードファンクラブなるものを結成しており、崇め奉られている。そんな様子や彼の性格を知れば失望すること請け合いだろう。

 

オレンジペコも知りたくなかったであろうアーカードの秘密。

 

 

実は黒森峰女学院の理事長とも隠れた趣味で交流があり、秋葉原に繰り出すこともあったりするがまた別の話。

 

ダージリンはジョン・マクレーン並の大冒険の果てに助けてもらったのが、紳士(ヘンタイ)だとは知りたくなかったのだろう。存外、彼女の強かな処は父やアーカード、そして何故かたまにやってくる黒森峰理事長とも面識があるためかもしれない。

 

 

 

 

それらを忘れ去ろうとするようにオレンジペコは砂糖とミルクを増し増しにして紅茶を飲む。想像や妄想は限りなく甘く、現実は生姜紅茶のように辛かった

 

 

 









次はアンツィオ高校かもしれない。

さて、皆さんご一緒に


「エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!」
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