吸い込まれるような青く清々しい空。晴れ晴れしいその空と木々の香りに交じって潮風そよぐような天気。西ヨーロッパ、イタリアに風景になりそうな建築様式の建物の門には、フェルディナントルーク孤児院と書かれていた。
よく、孤児院であれば問題は付き物であるが、そこの管理や教育をしている大人は非常に熱心であるのか、その孤児院では子供の笑い声が度々響いている。良い学校や孤児院などの教育機関であれば、休み時間には子供の笑い声や遊んでいる様々な音が聞こえる。たまに、それが耳障りであると言う地域もあるものの、大抵は微笑ましく見ていることが常であろう。
平和で健やかな成長をする子供であっても、たまに友人とぶつかり喧嘩することも稀にある。これはいかに教育しようとも人とのぶつかり合いは無くせぬものである。そんな喧騒を聞いた教育者はその子供たちの喧嘩を取りやめさせる。
「コラーッ!二人ともやめなさ~~い!!!」
孤児院で響き渡るのは、孤児院を管理する大柄な神父であった。慈愛と労わりを併せ持つ神の代理人として宗教業務を行う彼は子供を叱る一人の養育者であった。大柄な頼りがいのある彼の容姿は他所からみれば少々厳ついものの、孤児院の子供たちは「神父さま」と呼び、親しまれている。決して殴ったりはせず、優しい神父として子供たちの父として親しまれている。だが、戦場や裏社会、勘のいい人間なら彼の容姿に真っ先に気づくだろう。そして彼の動きや気配などで必ず分かるはずだ。
顔の傷や無駄のない動き。そしてこちらが彼をじっと見つめれば視線を感じ、にこやかに挨拶をする裏腹にこちらの状態を鑑みる目つき。
どれしも、神父たる者がやって良い者ではない。堅気の者がやるしぐさではない。
「一体、どうしたというのです?」
子供たちは叱られ、事の顛末を話してそれを神父は聞いていく。喧嘩の原因は一方が本を汚し、それを見た本の所有者の子供が殴り喧嘩に発展してしまったのだという。そう説明しているうちにふつふつと双方の怒りがこみ上げていき、再び殴り合いの喧嘩に発展しそうになる。
「なんだと、こいつ!」
「やるのか、てめぇ」
「やめなさ~~い!!!」
神父の一喝によって双方の殴り合いはストップとなる。
「暴力を友達に振るうなんて・・・・いけません!そんなことでは天国へは行けませんよ~」
「神父様!ごめんなさい」
「ごめんなさい!」
敬虔な信者であれば、悪いことをすれば天国へ行けない。これを言われれば忽ち自分たちが悪いことをしたのだと自覚する。孤児院は信仰を重んじており、世界最大の宗教である彼らは孤児院の子供たちを温かく迎え入れている。彼らもまた信仰を重んじ、その行為を反省し、神父へ頭を下げた。神父は安心の表情を浮かべながらため息を吐くと、すぐに笑顔になって彼らへ説法を唱えた。
「いいですか?暴力を振るってよい相手は化物共と異教徒共だけです」
この孤児院にいるどれだけの子供たちがそれに気づくだろうか。多分、気づかないであろう。神父の笑みはまるでその挙げた相手を嘲笑うかのような聖職者がやってはいけない笑みだった。もちろん、言っている言葉も神父とて見逃せない言葉である。だが、子供達の常識はこれだった。異教徒はこちらが慈悲の心で見逃し、化物共は打ち倒す。それはその神父の異常性を顕していた。
すると、門の向こうから二人の人物が現れる。その人物はこの孤児院の院長とアンツィオ高校神学科を受け持つ老年の教師と不機嫌そうな表情を浮かべ、薄緑の縦巻ドリルの髪形をしたアンツィオ戦車道の隊長、安斎千代美。またの名を「
その光景を見た神父は目を細めると喧嘩をしていた二人を帰らせるため手を叩く。
「よし、じゃあ二人とも部屋に戻りなさい。」
「「はーい!神父様」」
元気よく子供たちは走っていき、神父はそれを見送った。手を振る神父は視界から子供が消えていくと、眼光に鋭く殺気が滾っていく。
「何のごようでしょう?一体どうしたというのですか?」
「ここのところ、歩兵道で新たな動きがあるのを知っているかね?」
「ええ、生徒や教師を加えた多人数殲滅戦。男女の隔たりをなくしたあれですな?」
歩兵道。それは戦車道と同じくして出来た武道の一つである。古来より国家や君主を守るために軍の要とされてきた歩兵である。それが「競技」として行われ始めたのは、古来からオリンピックや武術の競い合う事があり、それを総合した武術競技も史料に記されている。現在のような学生が歩兵として訓練を行い、戦車道の様に競技化されたのは、つい最近の事であろう。
ただし、戦車道のように安全性が確立されているわけではない。過去においてエアガンやペイント弾が使用されたが、どれも競技用としては確実性に欠けていた。
現在では近年開発された防弾や耐久性の高いナノカーボンを使用した繊維によって一定の安全性が確保され、弾頭は樹脂を主としたセルロース弾やゴム弾などに変更された。また、車両の安全装置や戦車との合同協議においても精度の高い電子安全装置が設置され、より安全な競技として確立され、ほぼ戦車道を行う学校は歩兵道を行い始めていた。また、戦場を「競技」としたが、各国の軍事関係者の援助により、安全を考慮して成人選手の一定数参加や男女の隔たりをなくなり、そのマイナーな競技ではあるものの、国の支援など潤沢に受けられているのが歩兵道という競技であった。
「ここのところ、聖グロリアーナ女学院で不穏な動きがある」
「ええ、良く兵を訓練しているようですな。」
聖グロリアーナ女学院は付属の男子校を持っており、イギリス流の紳士を育成するための学校も併設してある。また、男女の健全な育成を兼ねて女学院の女生徒と男子生徒の交流もある。
そんな男子生徒が履修するのは大半が歩兵道であった。第二次大戦中にイギリス軍が使用する兵装を装備して競技を行う生徒達。その中でも空挺部隊は精鋭であり、黒森峰の精強な歩兵部隊も手を焼く有様であった。神父はそのことを言っているのかと思うが、老教師は首を振る。
「違う、新たに作られたHELLSINGと呼ばれた特務部隊だ」
「!!・・・・・ほう」
老教師のただならぬ様子と新たな特務部隊の名前に聞き覚えがあったこと、神父は若干驚きつつも、歩兵道連盟の発行する機関誌の一部を思い出していた。
流星のごとく現れた特務部隊「HELLSING」。その実力は精鋭兵一個中隊を上回る。人数や装備などは全く分かっていないが、赤いコートを着た長身の男が精鋭一個中隊のプラウダ高校所属の部隊を全滅させたのだという。神父はそれを見たとき、満面の笑みを浮かべていたらしいが、孤児院の子供たちの感性はずれている。そのときの笑みは眼前に好敵手を垣間見る狂戦死の笑みであった。
「奴らによって歩兵道の履修する高校が次々とやられている。その兵力差は明らかに劣っているにも関わらずだ」
「結構なことじゃないですか。歩兵道を履修する貧弱な高校が負けたのでしょう」
「そうでもない、聖グロリアーナ女学院戦車道の隊長ダージリンは知っていよう。彼女の従僕のようだ。その従僕・・・うまくやっているようだぞ」
老教師の言葉に神父は笑う。
「ハハハッ!あんな素人集団、
アンツィオは!
カトリックは!
そして『我々』は!
遥か昔より闘争を続けてきたのですから」
神父は勝利を信じる眼で話す。それは慢心したものではない。勝利を確信し、絶対の勝利しか考えない狂信者の顔である。それは聖職者の表情とは言えなかった。
「で、私は?記憶ではアンツィオ高校と彼らとは練習試合をする予定はなかったはずですが・・・」
「・・・・・・今回は野試合だ」
「ほう!!・・・すると?」
老教師の言葉に神父は驚きの声を上げる。
野試合とは歩兵道連盟が未公認な試合の事である。学校間の練習試合申し込みもあるのだが、今回は毛色が異なる。
「今回聖グロリアーナ女学院に宣戦布告したのはベイドリック高校だ」
「ほう」
宣戦布告とは歩兵道履修高校が隠語として使う非公式な敵対を意味する。歩兵道は基本的にスポーツマンシップを志し、友愛精神で相手高校に対しても敬意を払う。しかし、歩兵道は過去に使用された武器を使用する殆ど戦争と同じような競技である。それを考えれば、相手高校を激しく憎むこともある。そして今回、ベイドリック高校は宣戦布告という敵対意思を固め、聖グロリアーナ女学院に対して野試合を要請したのだ。
「聖グロリアーナ女学院はその要請を受諾した。奴らは小手調べとしているようだ。我々はベイドリック高校とは旧知の仲だ。それを黙ってみているわけにはいかん」
「当て馬と言わんばかりに新設部隊派遣するとは、あいも変わらず厚顔無恥な連中ですな」
ベイドリック高校は北アイルランドの文化を組み入れた高校であり、聖グロリアーナ女学院はイギリスの文化を取り入れている。新設された部隊の当て馬としてベイドリック高校を使うのだから、舐められていると言わざる負えないだろう。
「奴らは勘違いしている。聖グロリアーナ女学院が強いと思っているようだ。違う我々が最強なのだ。」
「本当に乱入しても構わないので?」
神父は最後通告のように肩を震わせながら問いかける。
「・・・・・・ベイドリック高校は負けるだろう。ここで恩を売っておいて損はない。同じ系列校だ。軽んじられるわけにはいかんのだ。」
老教師は振り向きざまに口を開いた。
「我々は唯一絶対の神の代行者だ。同胞を見捨てるわけにもいくまい。」
神父は受諾するかのように聖書の一節を一心に唱える。それは狂信者にしか見えず、その一部始終を見ていたアンチョビは後ずさった。
「エェイィメンン!!」
老教師はその言葉を聞き、顔色を悪くさせたアンチョビと共に孤児院を後にする。
「先生・・・・・あの方は?」
ある程度孤児院から距離を置いた二人。そこにはアンツィオ高校戦車道を率いてきた隊長の面影はなく、恐ろしいものを見て恐怖するか弱い少女であった。老教師は首から下げた十字架を握り、語り出す。
「彼はイタリアで神学校において歩兵道をしていたのだ・・・」
「神学校でですか?!」
老教師の言葉にアンチョビは驚きの声を上げた。なにせ神学校である。神の言葉を信者に伝え、神に尽くす代行人である。彼らが歩兵道を履修しているなど何の冗談だろうかと思いたくなるのも無理はない。感覚的に日本人であるアンチョビには信仰に剣や銃が必要なのかと考えてしまう。だが、それはヨーロッパにおいては違うのだ。かつて彼の宗教は聖地を求めて各国の軍を連合させて戦いを8回にわたって仕掛け、日本においても一向宗が戦国大名のように覇権を争った。現在のような宗教に寛容な日本人には考え付かないかもしれないが、神のためなら死ぬことも厭わない者もいるのだ。
「そうだ。かれは世界大会でもイタリア代表として暴れまわった男だ。今では日本の学校の付属孤児院の管理を任された神父だがね」
歩兵道を履修しているものなら、だれもが知っていよう。その男。数々の武功を挙げ、物量の差を感じさせず、勇猛果敢に突撃をする。そして異常なまでの戦闘能力。彼の獲物は|銃剣≪バヨネット≫のみ。近接戦闘に特化した彼は歩兵道において異質であった。
「なぜ・・・そんな人物が・・・」
アンチョビは疑問を抱くものの、老紳士は彼女の肩を叩く。
「時として安斎。人には知られたくない事もある。好奇心は力を得るのに必要なものだ。だがな、それは身を亡ぼすかもしれない。それを肝に銘じておくのだぞ」
人の過去をほじくり返すなど、された人から見れば不愉快極まる。たとえ其れが興味本位であればいい思いはしないだろう。アンチョビは諭され、「すいません、先生」と申し訳なく呟く。
「まあよい、道を誤ることもあろう。大事なのは踏み出した足を元に戻して正しい道を歩むことが肝心じゃ。さて・・・、学校に戻るとしよう」
老教師とアンチョビはアンツィオ高校へ帰宅の途に就く。だが、彼女の心には言い知れぬ不安が存在していた。
ここでアンチョビ登場。
ガルパンのキャラクターはほとんどモブになるかとw
ダージリンはインテグラポジですけどw