カルデアにおけるマスターとサーヴァントの日常   作:猫の手書房

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食堂でのひととき、前編。
穏やかな日であればこんな日もあるかもしれません。


食堂でのひととき 【前編】

唐突だが、現在のカルデアの食糧事情について簡単に説明をしようと思う。

まず前提として、カルデアは人里離れた山奥、それも吹雪が吹き荒れる、凡そ生物が生活など出来ないような場所に存在している。

さらには未来観測レンズ、通称シバの観測により2016年で人類(世界)の消滅が証明されたことにより、カルデアの外の世界は既に終末(終わって)してしまっている。

そんな状況の中、カルデアで働いている人間を賄う程の食料が存在しているのか否か。

答えは、以外にも問題ないのである。というのも、ある意味タイミングがよかったからなのだが。

カルデアが人類史の歪みを修正するために招集した、マスターの適正を持つ48人の選ばれし人間。それだけのマスターと、さらには現状務めているカルデアの職員を含めて、長期間に及ぶ任務、聖杯探索――『冠位指定(グランドオーダー)』を執行しようとしていたのだから、その際に数ヶ月分の食料が運び込まれていたのは自明の理なのである。

しかも、訓練として初のレイシフトを行った時に問題が発生し48人いたマスターはマシュと僕(正確にはマスターは僕だけだが)の二人を残し、全滅。辛うじて生きているマスターは存在しているが、現在のカルデアでは治療を行うことは出来ず、コールドスリープでの延命という状況だ。

また、その際に多くの職員も巻き込まれ、現在のカルデアで生活(生き延びた)をしているのは数十人に満たない。

まぁ長々と語ってしまったが、要は現在のカルデアにいる人員であれば、1年は食料に余裕があるということだ。

――だが、油断をしてはならない。その食糧が全て有効活用されるわけはないのだから。

「先輩! どうやら今日のオススメは合成獣(キメラ)の照り焼き~爪を添えて~のようですが、いかがしますか?」

「……うん。とりあえずそれはいいかな。てか貴重な爪を料理に使った奴は誰だ、おい」

「……フォーゥ」

食堂につくと、マシュが今日のオススメ料理を教えてくれた。

だが、果たしてそれはオススメなのかどうかは不明なものだった。というか本当に誰だ作った奴。覚えてはいないけど、爪の在庫はそんなになかったはずだぞ。

心なしかフォウさんも、おいおい大丈夫かよカルデア……みたいな表情をしている気がする。たぶん大丈夫じゃないと思う。

マシュは少し、いやそれなりに常識に疎いところがある。

だからこそ、ここカルデアで学んだことを常識と捉えてしまう節がある。

であれば、マシュのマスターとして、先輩としてこの穢れのない後輩を正しい道へ導くのも使命の一つだと、心のなかでは考えていたりもする。

まぁそんなことは置いておいて、今はこのお腹を空かした後輩とご飯を食べることが先決だ。――安全に、即座に。

「あー、とりあえずマシュさ」

「海魔のたこ焼きも中々……あ、はい先輩! どうされました?」

「一旦、モンスターを食材とした料理は置いておいて、僕のオススメなんてのはどうだろう?」

そう言った瞬間。マシュの目がキラキラと輝いた気がするのは気のせいだろうか。

自惚れでなければ、期待されていると捉えてもいいのかな。というより、マシュはどうしてそんな明らかなゲテモノばかりを選択しようとしていたのだろうか……後で問い詰めよう。どうせ唆した(サーヴァント)がいるに決まっている。

っと、少し思考の海に潜っていたら目の前にましゅまろ……ではなく、マシュが迫っていた。

「是非! 是非ともお願いします! 先輩の好きなものを知ることもサーヴァントの努めですからっ!」

「あはは、そこまで大げさなことじゃないさ。とりあえず、僕が料理を受け取ってくるから、マシュには席の確保をお願いしてもいいかな?」

ふんす!と言わんばかりの表情のマシュ。

……なでなで。

思わず頭を撫でてしまったのは仕方のないことだと思う。

だって子犬みたいなんだもの。

「……!? せせせせせ先輩!? あわわわわ、せ、席ですね! 今すぐ確保してきますーーーー!」

「……おーい、そんな走ってまで行かなくても。あ、転んだ」

「フォ、フォフォーウ」

やれやれだぜ、と言わんばかりのフォウさん。そのままマシュを追いかけて行ってしまった。

ちょっと心配だけど、お腹を空かしているマシュのためにもさっさとご飯を確保して席に向かうのが最良だろう。

なんて考えながら、取り敢えず僕はカウンターへと向かうのだった。

あわわわわ……先輩に頭を撫でられてしまいました。

暖かくて、大きくて……なんだか気持ちがふわふわとしています。

今までも、先輩と様々な時代を旅した時に頭を撫でて頂いたことは何度かあります。

その時もとても嬉しいという感情が溢れていましたが、さっきのは何かが……違いました。

どうしましょう。私は今のこの状況を表現する言葉を知りません。

なぜか、勝手に頬が緩んでしまいます。

 

「……ふぅ」

ですが、今は取り敢えず先輩から頼まれた席の確保を優先しましょう。

私のこの感情については後回しです。とはいえ、お昼には少し早いこの時間、食堂には早めの昼食を取りに来たカルデアの職員さんと暇つぶしに来ているサーヴァントの方が数名いらっしゃるのみ。

私と先輩、フォウさんの分の席を確保することは容易です。

そして、いざここにしようと席に座りかけた時。

「あら? マシュじゃない。こんな場所で会うなんて珍しいわね」

ふと、私へ掛けられた声に後ろを振り向く。

そこには、カルデア内でも大体の方がどんな接点が? という疑問を抱くであろう、とても仲が良いお二人がいらっしゃいました。

「珍しいですね――さん」

「さて、今日のメニューはーっと……おや?」

マシュに席の確保をお願いしたあと、僕は一人食堂のカウンターへと向かっていた。

ここの食堂には、聖杯へと囚われてしまったオルガマリー所長の専属のシェフが務めている。かといって、全ての料理をそのシェフが作っている訳ではなく、事前に連絡をしておけば調理場を借りることも可能だ。

現に、今も調理場では料理を作っているサーヴァントが二人……いや、一人いた。

「やぁ、お昼には少し早いと思うけど、もしかして僕が来ること予想してた?」

「ん? あぁなんだマスターか。別にお前の為ではないぞ? そこの腹ペコ王との勝負に負けてな……罰ゲームってわけさ」

「その通りです。如何にマスターと云えども、私のご飯を奪うというのであれば容赦はしません。それとアーチャー、誰が腹ペコ王ですか誰が」

「相変わらずエミヤは、アルトリアには甘いよね」

そう、調理場には二人のサーヴァントがいた。

アーチャーのエミヤ、セイバーのアルトリア。どちらも、始まりの特異点(冬木)からの付き合いとなるサーヴァントだ。思えば、この二人はマシュの次に付き合いが長いサーヴァントとなる。

「む、相変わらずとは聞き捨てならないなマスター。私は真剣勝負で――」

「口を動かす暇があれば料理を作りなさいアーチャー」

「あはは……相変わらずだね」

 

そして、カルデア内では腹ペコ王とその執事として、ある意味では有名な二人である。

先程も真剣勝負で負けた、とエミヤは言っていたが、相性で考えればエミヤは圧倒的に有利であろう。とはいえそれはクラスとしての相性だ。まぁ神秘、英霊としての差で言えば、エミヤは勝てないかもしれないけど。というかエミヤって何の英霊なんだろう。やっぱり執事(バトラー)

「いやー、いつもながらお熱いねぇ。火傷しちゃいそうだよ」

なんて、思わず二人を弄るような言葉を言ってしまう。

だが僕は悪く無い。いつもいつも、人目も憚らずにいちゃいちゃしている方が悪いのだ。

リア充は爆発するべし。黒髭の船長もそう言っていた。

「マスター、それは聞き捨てならない!」

「マスター、撤回を要求します!」

「む?」「ん?」

「……くくく、そこまで息が合っていると夫婦みたいだね」

あまりにも息が合っているものだから、思わず笑いを堪えきれずに二人へと言葉を投げる。そこまで相性がいいと、生前の二人に何か縁があったのではないか、なんて有り得ないことも毎回の如く考えていた。

――チャキ。

と、からかい過ぎては命が危ないのでそろそろやめておこう。

というか、こんな狭い場所でエクスカリバーを抜かないで欲しい。

風王結界で料理器具が飛んでしまう、って言ってるそばから舞い上がる機材に食材達。

あーあー、エミヤの眼光が凄いことに……。

流石にやり過ぎたかな、っとフォローをするために声をかける。

「ごめんごめん。悪かった。お詫びに今度レイシフトした際に何か買ってあげるから許してくれない?」

「さすがは我がマスターです。次回のレイシフト、我がエクスカリバーに誓い勝利を捧げましょう」

うん。さすがは腹ペコ王と呼ばれるだけはある。これくらいで矛を収めてくれるなら実に扱い易いものだ。というより、ここまで簡単に食べ物に釣られてしまうと、敵に罠を仕掛けられた時が少し心配になってしまうのは、杞憂だろうか……?

「……ふむ、マスターの為に勝利を誓う。いやはや素晴らしいなサイバー。……ところで、ここ調理場で料理人の魂とも言える器具、食材を吹き飛ばすことについてはどのように考えているのかね? なぁ、セイバー」

……ああ、うん。これはちょっとまずいなぁ。というより少しからかい過ぎたね。

反省、反省。久々の休日だから、自分でも意識してないながら舞い上がっていたらしい。

普段はここまで他人をからかったりなどしていないつもりではあるが。

――いや言い訳は宜しくないね。怒らせてしまったのは僕の所為だ。

お腹を空かした娘も待たせているし、多少荒っぽいけどそろそろ場を収めよう。

「ッ……い、いや違うのです! アーチャー! これは私の所為というよりも私を焚き付けたマスターの――」

「ほう。それで自身のマスターに罪を着せる、と。これはこれは……天下の騎士王が聞いて呆れるな」

「――ほう、所詮力ではまったく敵わない弓兵風情が大きく出ましたね」

「お腹が空くと力が出なくなる騎士王(笑)よりはよっぽどマスターの役に立つとは思うがね。……フッ」

「いい度胸ですアーチャー! 表に出なさい。その性根、叩き直してくれる!」

「それはこちらのセリフだセイバー。いつまでも私がただの弓兵だと思っていると痛い目を見るぞ」

売り言葉に買い言葉。こうしてみるとただの仲の良い兄妹、恋人のようだが実際はそんな生易しいものでないことは、数多の戦いから僕は知っている。

そしてサーヴァントを止めるに一番の手段も知っているのだ。

『――令呪を持って命ずる』

「!? ちょっ! 待て待て早まるなマスター!」

「!? ま、待ってくださいマスター!? こんなことに令呪なんて!」

「…………なーんてね。ほらほら、落ち着いたかい?」

そう言って、目の前に翳していた右手を下げる。

目前には、ぽかんとした表情のエミヤとアルトリアの姿があった。

どうやら、二人を止めることに成功したようだ。まぁ知っていたが。

しかしふむ、ぽかんとした表情のエミヤなんて珍しいかもしれない。アルトリアに関しては割りと見ている為、とくには何も感じない。

あーでもアルトリアかぁ、この表情を円卓の騎士達が見たらそれこそ唖然とした表情をするんだろうなぁ。なんて考えながら左手で翳した携帯端末のカメラを二人へ向け。

――パシャ。

遠慮をせずに写真に収めさせてもらった。今度何か会った際には、この写真も使えるかもしれない。

「うん。いい表情が撮れたね。ほらほら、いつまでもそんなところでぼうっとしてたらシェフの邪魔だよ! 早く片付けてこっちへ来る! それとも本当に令呪使われたい?」

そう、未だに呆然としている二人へ声をかけると、慌ててこちらへとやってくる。

別に、二人で言い合いや喧嘩(イチャイチャ)をすることには文句も何もない。むしろ、今回は僕が炊きつけてしまったような部分もあるし、普段の様子を見る限り仲が良いことで大変良いことだと思う。

しかし、非戦闘員がいる場所での喧嘩となると流石に見過ごせない。

普段のエミヤやアルトリアであれば、そこら辺は弁えているというのに、こと食と、お互いについての指摘が絡むと若干ポンコツになるのがこの二人なのだ。

「……その、流石にやり過ぎた。すまないマスター、そしてセイバー」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。少々熱くなりすぎてしまいました。まだまだ精進が足りませんね……」

「まぁまぁ。ちゃんと止まってくれたから僕からは特に言うことはないよ。しいて言えば……」

そこで言葉を区切る。エミヤもアルトリアも、恐らく何か罰でも与えられると思っているのか、真面目な表情だ。

だが、僕は別にそこまで厳しいマスターではありたくない。何より今日は休日。サーヴァントだってハメを外すのは必要だ。だからこそ。

「なら……一緒にお昼ご飯でもどうかな? マシュがお腹を空かして待っているんだ」

そう、笑いながら二人へと問いかけた。

すると、二人してきょとんとした表情をし顔を見合わせる。

ありゃ……ダメだったかな?

そんな僕の思いとは裏腹に――

「……フッ。よし! そういうことなら私がパパっと昼食を作ってこよう。別に、作ってしまっても構わんのだろう?」

「こちらとしては願ったり叶ったりの提案ですマスター。やはり貴方は素晴らしい」

――なんて、笑顔で答える二人だった。

「……まったく、巻きで頼むよアーチャー! それと、セイバーは飲み物の準備を手伝ってくれるかな?」

「任せろ」

「はい! マスター」

こうして、図らずとも美味しい昼食にありつけることとなったのだった。

やはり、今日は素晴らしい一日に違いない。そんなことを思い浮かべながら、セイバーと共にマシュの元へと向かった。




次回、食堂でのひととき【後編】
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