「『瑞鶴』が沈んだ後か、分かった。少しずつになるかもしれないけど話そう」
そう言って宮島は、口を開いた。
瑞鶴が沈んだエンガノ岬沖海戦。俺は、瑞鶴格納庫で愛機の零戦二一型と共に居た。海水が入ってきたときの衝撃は、戦闘機のGとは違った感覚だったのを覚えている。
格納庫の壁に叩きつけられて気を失った後、俺は気付けば零戦に乗っていた。それも駐機している零戦ではない、飛んでいる零戦だ。周りを見ると、何処か懐かしい山々が回りにあって、下はほとんど森だった。俺の意識がはっきりした途端に、ガタンっと揺れて機体がバランスを崩し始めた。まるで俺が起きるのを待っていたようにな。
咄嗟に操縦桿を握り、各計器を見た。そしたら燃料はもうほとんど無く、あと数キロも飛べるほど無かった。その時、森の中に開けた場所を見つけた、神社っぽい建物があったが着陸するには問題ない。俺は、そこに着陸する事にした。
普通は着陸には自機が程よい速度で、十分な距離と幅のある滑走路が必要なのだが、そこの開けた場所は幅はあっても距離が無かった。なので俺は、神社にある鳥居を着艦フックの容量できっかけ速度を落とす事にした。
車輪とフックを出して鳥居から神社の本堂への直線に機体を合わせて、不時着に移る。鳥居にフックを引っ掛けると、グイっと速度が落ちてから鳥居が壊れ、機体はそのまま参道に落ちた。
機体は所々損傷して、もう飛べる状態じゃなかったがどうにか俺は無事に地上へ降りることが出来た。
「ちょっと!何やってんの!?」
まあ、鳥居をぶち壊して、参道をめちゃくちゃにすれば、神主か巫女は出てくる。驚きの混じった声にあわせて一人の巫女服の女性が出てきた。
「ああ、鳥居がめちゃくちゃ。参道もこんなにして……」
女性は腰に手を当てながらあたりの惨劇を見渡していた。
俺は申し訳なくなって、彼女に声をかけようとした。
「あの、すみません」
「もう。成功したと思ったら、っと何?」
彼女はその声が聞こえていなかったらしく、ブツブツ小言を言いながら振りむいて、俺と目が合った途端「?」が浮かぶような顔でこちらにたずねてきた。
「ここは何処でしょうか?」
「あ~ここ?ここは邂逅神社よ。んで私はここの神主兼巫女の生駒よ」
「生駒さん?!」
吹雪は宮島の話の途中で声を上げて驚いた。自分の悩みの種となっている、生駒の名がここで出るとは思っても居なかった。
「あぁ、そうだ。生駒とはその邂逅神社で出会った」
「でも、生駒さんって青ヶ鳥神社で巫女をやっていたような…?」
「確かに今は青ヶ鳥神社での巫女だ。まあ、色々あったわけなんだよ、今から話すから聞いとけ」
宮島は吹雪の疑問の言葉を止めて自分の話を進めた。
「かいこう神社?」
「そう。邂逅神社。かいこうって字はめぐりあうとか思いがけなく会う事の「邂逅」ね」
そう言われて俺はあたりを見渡した。崩れた鳥居から取れた表札って言うのか?板には確かに「邂逅」の二文字が書かれていた。生駒はそんな俺に付け足すように言った。
「ここら辺は何も無いわよ?この神社以外何もね。一様数時間も歩けば町にも繋がるけれど、それも不安定だし」
「不安定?」
俺はそこに疑問を持った。この神社が町から離れすぎている事は百歩譲っていいとして、どうしてそれが不安定なのだろうか。
「様々な世界軸と繋げていると不安定なものなの」
「世界軸?」
俺の疑問に生駒は、一つため息を吐くと、説明をし始めた。
「世界軸ってのはその世界の時間など、全てを含めた一本の軸の事よ。それを繋いだりする事で別の世界と別の世界をつなげて行き来をしたり、人を送り込んだりするの。で、その世界軸を操って、人を送り込んだり世界の調査をするのが、あなたと私が居るこのを始めとする『狭間』というところ」
生駒の話を聞いていくと、狭間と呼ばれたこの世界は母艦のような世界が存在し、そこから派遣されたものが死んだ人間を天国か転生か、転移させるかを問うところらしい。
全ての説明を終えると、生駒は「あなたにはお願いがあって強制的にこの狭間へ来てもらったわ」といった。
「お願いですか?」
そう、と言って、生駒は言葉を続けた。
「あなたは大東亜戦争のエンガノ岬沖海戦にて空母瑞鶴と共に運命を共にした。本当なら、そのくらいの年代の人は転移に向いていないので転生か天国を勧めているんだけど、今回は転移をしてもらおうと思ってこの狭間に呼んだ。転移先は制空海権を奪われた世界。奪った敵に対抗できるのは大東亜戦争の兵器のみの世界。その世界への救いの手として、あなたには行ってもらいたいの」
「救いの手って、俺は戦闘機ぐらいしか乗れないぞ?」
「だから、その戦闘機に乗って、先ずは救いの手、救世主になってもらいます」
生駒はそう言うと、大破した零戦を光で包み込み、元の状態に戻した。零戦に近づいて中も見たが、燃料が満載になっていること以外は、そこに来る前の状態に戻っていた。
それに驚き、生駒のほうを見れば、彼女はにやりと笑って「行ってくれるかしら」といった。
これらを目の当たりにして、俺の心の中は決まっていた。
俺は「もちろん」と答えた。
すると生駒は満足げな表情になり、神社の母屋へ促しながら「なら、その世界の説明をしなくちゃね」といった。
それからの数日間はその狭間で過ごした。狭間には昼夜が無く、いつも日が上空に昇り続け、気が向いたら雨を降らしているらしい。数日の間は、生駒からその世界についての話を聞いた。そうなった経緯やそこに存在する敵の名称、艦娘と呼ばれる存在。その世界で教えられている常識を一通り聞いた。それと同時に、自分の嗜好で現代兵器――護衛艦やジェット戦闘機などの事も調べ、生駒から他の世界の話を聞いたりした。俺が使っている青い玉はその中で自分の興味で護身用として習得したものだ。技術の進歩に驚きながら、どうにか知識を詰め込んだ頃には、出発のときになっていた。
数日間の間に神社の隣にあった森は滑走路に変わっていた。生駒の話だと「あなたが飛びだったら元の森に戻る」らしい。そうこうしている内に離陸のときが来た。
「実は、こういう他の世界からまた別の世界にって事には一つだけ特典をつけるのが普通なんだけど、特典の取得には時間とかが掛かるから私も全面的にサポートするわね」
生駒の説明に了解とだけ返し、エンジンを回す。
エンジンが温まり、カタカタと零戦は滑走路を走り出す。向かい風を起こさせて、発艦と似た状態にした滑走路で俺はいつも通りに離陸する。
地上では生駒が小さくなるまで見送っていた。
しばらくすると一瞬、気が遠くなり、場所が森の中から近代的な町へと変わる。正面に見えたのは昔の面影が消えた厚木の飛行場だった。
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