――あなたは、厚木基地の飛行隊に数年勤務、一等飛行兵曹までになった小隊二番機。実用機の訓練を終えて厚木基地に着陸するところへ送り込むから、後はうまくやりなさい。
出発前日に生駒に言われた言葉を頭で思い出しながら着陸へ移る。厚木の飛行場は使った事は無いが、着陸は瑞鶴に乗り込むまでずっとやってきた事だ。何も考えずに着陸態勢に入る。
脚を出してフラップを降ろす、地に脚が着いた後に惰性で流れるのに少し違和感があったが問題なく着陸できた。そのまま周りの奴らにならって長官らしき人物の元へ集合する。移動中に見た九六艦戦や零戦が並ぶ光景は、懐かしさを感じたな。
「佐藤長官に向けて、敬礼!」
どれもこれも、懐かしいと号令に習いながら思う。佐藤長官が各中隊長に労いの言葉をしているその言葉を聞く限り、大尉階級の奴が中隊長なのは変わりないのか。というより、自分の階級
「第四中隊第一小隊飯田
あぁ、その時代のか。って事は陸軍々曹と同じか。
そこに合点が言って一人納得したが、今度は周りの目が気になった。第四中隊第一小隊と言う時点で、周りの目が笑っているようにも見えた。
「はい、良好でございます」
「また戦闘が起きた際はしっかり頼むぞ、ノルマを超えられなかったら、九六へ降格全機降格だからな」
その言葉におそらく第一から第三中隊の奴らが笑った。
飯田小隊長は「了解であります」と言っていたが、俺は我慢ならなかった。九六艦戦は俺が操縦訓練生を卒業してから瑞鶴に搭乗するまではずっと乗っていた飛行機だ、当時は零戦が出るまでは高速で運動性能の良さを武器に中国とかとやり合ってた。四年後に出た零戦のほうがさらに重武装と来てそっちの方が主力になっていったが、こちらでも戦えない事は無かった。笑い声は他から見れば飯田飛曹長に向いてるように見えるんだろうが、俺は九六艦戦に向いてるようにも思えた。
「では、佐藤長官」
「なんだ」
「ノルマの倍の数を撃墜した場合はその機種降格、永久的に白紙としては頂けないでしょうか」
「何だと」
飯田小隊長に向いていた視線は全てこちらへ向いた。それどころかすぐ周りにいる奴らもこちらを向いた。
全ての視線を集めたことに緊張感さえ持ったが、今はそれど頃ではない。
「もしそれが出来なかったらどうする」
「九六艦戦へ機種降格して、半永久的に零戦への更新はしなくて構いません。代わりに、成功した際は九六艦戦を零戦に更新してください」
「ふっ。なら良いだろうやって見せろ」
佐藤長官は鼻で笑って、それを許可した。解散の号令を掛けると、真っ先に飯田小隊長が俺の元にやってきた。
「どうしてあんな事言った?」
その口調はキレたものになるかと思ったが、彼はそんな事も無く興味が先行したものだった。
「飯田少隊長が小ばかにされていた事に怒りを感じましたが、それと同様に九六艦戦が小ばかにされている事にも怒りを感じました。九六艦戦は確かに零戦と比べると劣りますが、一様に弱いとは言い切れるものではないと自分は思います」
「では、零戦への更新を成功代償としたのは?」
「敵深海棲艦の差向ける航空機は九六艦戦では戦えても荷が重い、あのままでは搭乗員が危険です。なので零戦に更新して少しでも戦えるようにしなくてはならないのです」
そこまで答えると飯田小隊長はそうかとだけ言って、ではよろしく頼むといって、自分の機体の元へ行ってしまった。
その日の空いた時間は散歩と言って基地内を散策した。厚木は深海棲艦が現れたときと時同じくして現れた艦娘が扱う装備のうちの航空機を、人間が扱えるように変更させて対深海棲艦として航空運用をしてきた基地だった。基地内には攻撃機、爆撃機もあったが、圧倒的に戦闘機のほうが数が多く、そのほとんどが零戦だった。そこからでも九六艦戦が差別を思わせる使用がなされてきた事が分かった。
基地内を一周して自分の機体へ戻って来た。垂直尾翼には『EⅠⅠ-105』の文字が俺の気持ちを高めた。あの『狭間』と呼ばれる世界でこいつと再会して以来、こいつへの気持ちの入れようは一層高まった。今回はそれを九六艦戦のこの基地の一部の搭乗員の苛まれている状況を覆す事に使う。自分の空戦の腕は胸張って良いとは言うともりは無い、むしろ足りないとさえ思っている。しかし、前線退役も出来ずに差別化の道具として扱われている
その時だった。サイレンが基地内に響き渡り、整備員が次々に零戦や九六艦戦について発動機を回し始めた。
「戦闘想定空域は基地より南500km地点、数は50。準備出撃可能な機体から、順次発進せよ」
サイレンと共に流れた放送が終った後に各中隊長が小隊長を呼び寄せ、号令を終えると小隊長が隊員を呼び寄せた。
「これより、敵機の迎撃に向かう。宮島一飛曹、何か迎撃作戦案はあるかな」
発動機の音やサイレンが鳴り響く中、飯田小隊長は俺に作戦案を聞いてきた。突然の事で驚いたが、飯田小隊長の真剣な眼差しに、咄嗟に浮かんだ案を話した。
「先ず、我が第四中隊第一小隊は低空で戦闘空域に向かいます。巡航速度を超えた時速400kmほどで南進、戦闘空域へ達します。先に戦闘に入り、爆撃機を最優先に攻撃します。」
「低空で飛んでいくのか、それは何故だ」
「低空を飛ぶという事は、機体下の死角がほとんどなくなり、代わりに自分の上空は敵味方からは死角になります。死角からの攻撃は相手に有効ですし、急降下が苦手な零戦や九六艦戦にとって下からの攻撃はやりやすいもののはずです。また、九六艦戦は帰投を考慮すると戦闘可能な時間はわずかです。帰投が危うくなったら、すぐさま帰投に入ってください」
「なるほど」
「しかし、これは下手をすると我が小隊を壊滅させる可能性もありえますので、この作戦で行くかは飯田小隊長の判断でお願いします」
俺が作戦案について一通り話すと、飯田小隊長しばし無言でこちらを見つめた。そして一つ頷くと「その作戦で行くぞ」と言って、出撃のために機体に乗り込んだ。それは気付けば出撃は他小隊より遅れており、南には飛び立った戦闘機が、小さくなろうとしていた中での事だった。俺は飯田小隊長に続いて、空へ上がった。
空母に乗っていたときの小隊は大体3機が一個小隊だったが、基地の航空隊ってのは6機で一個小隊って括りらしく、俺が居た小隊は6機で低空を鶴翼陣形の形を採って空戦海域に向かっていた。6機中九六艦戦と零戦の数は半々、飯田小隊長と僚機2機が九六艦戦で他が零戦だった。
他の小隊をしたから追い抜き先に戦闘空域付近に差し掛かる。上空には複数の小さな機影が見える。レシプロ機に見えないそれは、深海棲艦の機影だった。他の小隊を追い越して来たので現在は基地から550kmの地点。基地に戻る事を考えると九六艦戦は一回の攻撃しか許されない。
飯田小隊長の機体が翼を振り、一気に上昇する。俺もそれに続いてというより、九六艦戦に先行して敵編隊に突っ込む。7.7mm機銃と20mm機関砲を一気に掃射、九六艦戦が目標にしている機の両端にいる機を撃墜してそのまま敵編隊を突き抜ける。続けて九六艦戦が目標機を攻撃、7.7mm機銃は時間が掛かったが何とか敵機を撃墜する。すぐさま飯田小隊長に並び、九六艦戦は退避するように手信号を送る。了解と返事をした飯田小隊長はそのまま九六艦戦たちを連れて、零戦たちには俺に続くように手信号を送って帰路につく。しかし、それを追うように敵機がそれを追尾しようとする。反転してそれを撃墜、そのまま他の敵機を引き付けて九六艦戦から引き離す。
「零戦隊、そのまま2000mまで降下、追ってきてる奴倒して、もう一回爆撃機行くぞ!」
無線機にそう叫んだ後に機体を降下、2000mをきった所で左に旋回して後ろを回りこんでいき撃墜する。他の機も習って撃墜してもう一度上昇、爆撃機を狙って向かう。気付いた敵戦闘機の攻撃をかわして爆撃機を撃墜、上空で一回転した後に反転、これを繰り返す。
何回も同じようには行かないが、大まか同じように攻撃を繰り返した。
爆撃機への攻撃を六回、護衛の敵機との戦闘を四回。総撃墜数は自分だけで八機、うちの小隊では二十六機の大戦果を飾った。確たる証明は難しいが、途中からは観測のために第一中隊第一小隊に随伴していた観測機が観測しているため、ある程度は証明できる。
厚木へ帰還したとき、零戦から降りて一番に俺の元にやってきたのは飯田小隊長だった。
「どうだった」
「自分は十機、他の奴も最低でも五機はやった筈です。観測機が観測した分が、我が小隊の最低撃墜数です」
「そうか」
そこから飯田小隊長は何か言おうとしたが、俺と飯田小隊長は佐藤長官に呼ばれて長官室に出向くことになった。
「…小隊の撃墜結果を見たよ」
佐藤長官はこちらを睨むような視線でそう言った。
「申告撃墜数二十六機、観測機が観測した第四中隊第一小隊の撃墜数は二十機、他小隊の撃墜数と比べても申告撃墜数はほぼ合っている様だな」
「……ノルマがどれ程かは、忘れましたが敵編隊のほぼ半数を撃墜しました。これは約束を守っていただきたいと思います」
「わかった」クシャっと手元の紙を握り締め、佐藤長官は呟く。「零戦へ更新しよう」
「ありがとうございます」
飯田小隊長と共に海軍式の敬礼をし、部屋を後にした。中から何かを机に叩きつける音が聞こえたが、そんなものは気にしない。
「それから…」
宮島が続きを話そうとしたところで、執務室にノックの音が響いた。
続けようとした言葉を一旦引っ込め、吹雪に断りを入れてから、ノックした主の入室を促す。
「どーも」
「…っ!」
扉から覗かせた顔に、吹雪は目を見開き、宮島は呆れ混じりにため息を吐いた。
入室した本人は二人の表情を見てむっとなるも、すぐにその表情をやめ、応接間のソファへ腰掛けた。
「何の用だ。生駒」
「ちょっと吹雪ちゃんには席を外してほしいんだけど」
彼女は真剣な表情で、そう告げた。
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あと、活動報告にて「今後の予定その2」を出す予定です。
そちらに拙作やその他自分の作品の更新予定を書く予定ですので、そちらもどうぞお暇でしたら、ご覧ください。