「ひとまずの作戦が纏まった」
執務室で吹雪、大淀、瑞鶴、赤城、大和、長門、おおすみ、あきづき、明石を前にそう口にした。
演習ばかりの日々が二週間続き、その後に呼ばれた瑞鶴や大和達はこのことを察していたのか、真剣な表情をしている。
「詳しい編成は後に表にして出すが、今説明すると、青ヶ鳥島奪還作戦は重巡戦隊を主軸に、二個の水雷戦隊と一個の航空戦隊の援護の下、おおすみが戦車を揚陸。戦車はソロモン作戦時に使用した戦車を流用し、Ⅳ号戦車はF2型、H型を一両ずつ、
「青ヶ鳥の防衛はどうされますか?」
話を聞き終わったところで、赤城が手を挙げた。
本当は赤城は呼んではいなかったが、瑞鶴だけだと心配だと出席していた。
「もちろん青ヶ鳥の防衛にも手を回す、大淀を旗艦に複数空母と航空戦艦、重巡の戦隊と少数の水雷戦隊を残すつもりだ」
「私達現用艦艇はどうなりますか」
続いてあきづきが手を挙げる。
「今回も前回同様、その索敵能力を存分に発揮してもらう、情報供給を密にし、艦隊の損害を抑えてもらいたい」
「了解しました」
「あと、今回はあきづきや今ここには居ないがたかなみには防空の面でも力を借りたい」
「防空の面といいますと?」
「空母機動艦隊ではレーダー・ピケット作戦を起用する」
レーダー・ピケットという単語であきづきは納得がいったようだか、他はピンときていないのか首を傾げていた。
「レーダー・ピケットというのは空母中心の輪形陣の外郭のさらに外郭に対空電探を搭載した駆逐艦を配置して、敵機をいち早く発見、漸減し輪形陣側にも情報共有することで輪形陣への損害を減らす作戦だ」
「太平洋戦争では沖縄での戦闘での神風特攻隊への対策として行われた事が有名でしょうか」
俺に説明にあきづきが補足を加える。沖縄戦や神風特攻隊は艦娘にとって苦い記憶で、そこで次々と容易く航空機を落としたアメリカの戦闘機にどんな思いを抱いているかは自分の知るところではないが、その裏側で行われていたこの作戦を使える事自体は心強いであろう。
「遊撃艦隊のほうでは採用しないのでしょうか?」
大和が質問する。大和はさっき言ったとおり、遊撃艦隊の旗艦だ。自分の艦隊でもその作戦を起用したいのだろう。
「遊撃艦隊は対水上戦に注力してもらう、ためそもそも空母を随伴させていない、なので今回は支援艦隊に防空してもらうことにする」
「そうですか…」
「まぁ、対空電探自体はほとんどの艦に装備させるつもりで配備を進めているから、レーダー・ピケットのような効果が期待できなくても、これまでより敵機を発見しやすいだろう、だからそんなくらい顔するな」
「そうだぞ、艦隊旗艦がそんな顔していると僚艦の指揮にも関わる」
俺の言葉を継ぐように長門がフォローに入る。
「でも出来るでしょうか?たった九隻でさえまともに守りきれなかった私に…」
「ソロモン攻略でも艦隊の旗艦を受けたではないか。それに他の艦はほとんど損害を受けていない」
「でもあの時は夜間奇襲でしたし、長門さんもフォローもありましたから」
「大丈夫だ。過去の記憶を色濃く残す大和なら、昼戦でもきっと艦隊を守りきれるはずさ」
「大和が皆を守ろうとするように、皆も大和を守ろうとする、信頼する。大和はそれに応えられればいいんじゃないかな」
「……はい!頑張ります!」
大和の暗かった顔が少し明るくなったような気がした。
「他に質問あるか?」
気を取り直して全員の顔を見ると、質問が無いのか全員が首を横に振る。
「各艦隊に編成されている艦娘の名前が載っている紙はここにある。後で枚数を刷って書く艦娘寮などの前に張っとくから見といてくれ。あとこれは、向こうの状況を調査してもらってる奴から情報次第では変更もありえるからな」
「「はい」」
全員が返答すると同時に執務室の扉が開かれた。扉の向こうから、先ほど話をしていた調査してもらっている奴が姿を現した。
「宮島、待たしたわね」
「生駒さん?!」
「っ貴様が、あのときの」
長い黒髪を靡かせ、驚く吹雪や、掴みかかろうとする長門とそれを押さえている大和を気にも留めず、生駒は書類を机の上に置いた。
「とりあえず分布図に纏めておいたから、目を通して」
生駒の置いた書類に目を通す。分布図には日本の各鎮守府と基地に配属されている各艦種の艦娘の数が書かれ、青ヶ鳥付近で確認されている艦艇については味方に関しては所属や艦型が詳しく書かれており、同じに敵艦も艦種艦型、航空機にいたっては形まで書かれていた。
各鎮守府や基地に配属されている艦娘の数はこちらはいつでも確認できるので、あまり目に留めず、視線は敵の状況などに集中した。
「調査中に数十回の敵機飛来、二回の空襲が起きているわ、島民のほとんどは防衛線が下がった時点で青ヶ島などに避難していて人への被害は少ないけど、建造物への被害は徐々に大きくなってきているわね、敵戦車の存在が確認されていて、数両は市街地に入り込んで他はおそらく周辺をうろついてるワ級だったかしらね?その輸送艦の中だと思うわ」
「どうしてそう思う」
書類から顔を上げて生駒を見た。ワ級は輸送艦では有るがそのほとんどが燃料などを積んでいる補給艦で、そうでなくても輸送するのは前線への物資輸送が主任務であるはず。
「宮島から渡された資料を何回も見直して確認したけど、物資輸送仕様の輸送艦と微妙に違うのよね、揚陸艦に使われているようなハッチみたいなのがついてたし、あと戦車輸送仕様に無理に改造したのか他のより速力が遅め、攻撃できる類の武装は積んでなかったわ」
「ちなみに市街地に侵入している戦車はどんな形したのか分かるか?」
そう言って、戸棚からⅣ号戦車、TigerⅠ戦車、10式戦車、Churchill戦車、M4Sherman戦車の模型を机の上に並べた。
「んー。今のところ確認したのは、それに近い形のしか無いわね」
「シャーマンか」
生駒はM4Sherman戦車を指差した。この戦車はアメリカの戦車で太平洋戦争では日本軍を苦しめた戦車だ。
「ほとんどそれしか見なかったというよりそればっかりだったわね。あとは車体に砲身が引っ付いた戦車を見かけたぐらいかしら」
「駆逐戦車か…」
車体に砲身を付けた戦車は普通の戦車でもいくつかいるのだが。大体は駆逐戦車だろう。
「明石」
「あ、はいなんでしょう?」
戦車という艦娘にとってはほとんど無縁な存在の話に上の空で居た明石が慌てて返事をする。
「Ⅳ号戦車70(V)って分かるか?」
「一様前に模型を作った事は…。確かドイツのⅣ号戦車を改造した戦車でしたっけ」
「そうそれ、Ⅳ号F2型の新造する一両と今ある一両をそれに改造してくれ、そうすれば少し強力な砲を搭載できるはずだ」
「分かりました」
書類に目を戻して、ある一行を指す。
「横須賀から出ている青ヶ鳥警備隊てやつのこの駆逐隊のZ1とZ2は本当にそれでいいのか?」
「多分あってるわ。日本の駆逐艦の艦影と照らし合わせてもどれとも違ったし、話ではドイツからの救援艦に似ていたからそれだと思ったのよ」
救援艦として来たとして、そんな艦艇を一番危険な警備隊のうちに入れるのだろうか?一様横須賀所属なのだから指揮は横須賀の提督が執っているのだろうが…。
「分かった。調査ありがとう」
俺と生駒の会話の終了を見て、吹雪が生駒にお茶を渡す。生駒はありがたくそれを受け取りながら、ソファに腰掛けた。吹雪は他の艦娘にもお茶を配り始めた。
それを尻目に一度資料に視線を戻した。敵の戦力分布に視線を合わせる。
自然と深いため息が出た。
「明石、艦娘達の装備などの転換はどれくらい進んでいる?」
「はい、現在は空母は艦載機の更新を終了、今まで搭載されていた機体は戦闘機、攻撃機、爆撃機の順で保管できるだけ保管しあとは解体しています。艦砲などの装備も最新のものに変更後、搭載されていたものは解体または改修に使われています」
「改装のほうは?」
「改装可能な艦娘から順次改装を行っています」
「大淀、資材のほうはどうだ?」
「はい、ゆっくりではありますが備蓄が進んでいます」
「分かった」
二人の報告を聞き終えるとまたため息が出た。こんなに人前でため息を吐くのは良くないな…。
「あの、どうしました?」
あきづきが心配そうに声を掛ける。
「敵艦は嫌というほど湧き出てくるから、敵の数がこちらの数を上回るのは承知だが…」
今までも、敵の艦艇の数が多かった事は数回あるため想定の範囲内の事だった。が、しかし……
「未確認の深海棲艦を青ヶ鳥島付近で確認。ワ級輸送艦を複数隻、空母隊と戦隊、水雷戦隊を随伴して青ヶ鳥近海から青湾に居座る。他、空母機動部隊、戦艦主軸の遊撃部隊少数確認、水雷戦隊については明確な部隊個数不明」
その言葉の意味を理解できる、その場に居た誰もが静まりかえった。
「本当だったら、硫黄島の敵戦力も確認したかったところだけど、強行偵察に向かった艦隊に大破艦が続出してそれっきり、航空機で偵察しようとも母艦航空隊と基地航空隊に行く手を阻まれるばかりで、情報が全然入ってこなかったわ」
生駒が書類に書かれていない情報を付け足す。
「どうするのだ提督。現在青ヶ鳥に向けている戦力だと対処しきれないかもしれないぞ」
生駒の付け足した情報に長門が判断を煽る。敵に未知の深海棲艦、しかも空母隊や戦艦隊を引き連れているとなると、重巡だけではどうにもならない。
「全ての艦隊に番号を付番する」
手元にある艦隊編成表に手を加え、艦隊に第一から順に艦隊番号をつける。
「今のところはこのうち第六と第七を主軸に、鎮守府防衛の艦と第二艦隊の戦艦戦隊で青ヶ鳥に望むことにする」
「各艦隊麾下の戦隊はどうする?今のところ番号が無いが」
「それは上から順に番号を付番する。航空戦隊は…順番が違うかもしれないが、許してくれ」
「了解した」
全ての資料を一つにまとめ、机に置きなおす。
「あと、作戦決行は一週間後だ。どの艦隊もいつでも出撃できるように備えるように」
執務室内には了解の応答が響いた。
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