「な、何言ってんだ!」
「今俺と吹雪は二人で出掛けられるような状態じゃないんだぞ」
「そんなの百も承知ネ。でも、ブッキーにはもう話をして了承も得たのし、既に逃れる事は不可能デース」
は?吹雪は二人で出掛ける事を了承した?
「説得するの大変だったんデスよ?いつもより頑なに拒否してましたから」
「吹雪が本当に良いと言ったのか?」
「そうデス。ブッキーがやっと折れて了承してくれたのデスから、提督もしっかり向き合って欲しいデス」
向き合って欲しい…。
確かに、自分だけで考えるより、本人と向き合ったほうが良いのかもしれない…。
「分かった」
「出掛けてくれマスか!」
「ああ。出掛ける日はいつだ?」
「出掛ける日はデスね……」
金剛は安心したのか、声音を若干変えながら集合時間などを話始めた。
「じゃあ、頑張ってくださいネー」
金剛が吹雪と出掛ける約束を取り付けてから数日後、庁舎前で金剛は笑顔で俺を送り出した。
この数日の間のどこかで聞きつけたのか、瑞鶴が一緒に行くと出掛ける直前にやってきたが、今は金剛に行く手を阻まれ、身動きが取れないでいる。
「ちょっと!通しなさいよ!」
「ダメデース。今日は提督とブッキーだけのお出掛けなのデスから、他人がちゃちゃ入れるもんじゃないデース。てーとくぅ!早く行くデース!」
「あぁ」
瑞鶴を押さえつけながら大きく手を振る金剛に、どうもうまく答えられず、短く返事をして正門のほうへ向かう。
庁舎のすぐ脇に、駆逐艦娘が生活している寮があるのだが、吹雪とはそこの入り口ではなく正門での集合になっていた。
―そういや、ここ数日吹雪と会っていないな…。
秘書艦の仕事は白雪たちが代行していたし、鎮守府内を歩いていても吹雪にだけは出会わなかった。
正門に近づくと、一人の人影が見えた。きっと、吹雪だ。
金剛は頑張れと言っていたが、今の俺は吹雪とどう接すればいいのだろう…。
考えている間にも、吹雪の前までたどり着いてしまった。
吹雪もこちらに気付いたのか、俯かせていた顔をこちらに向けてきたので、咄嗟に声を掛ける。
「よ、よう。吹雪」
「おはようございます。鶴さん」
吹雪は普段の元気な声ではなく、真面目な声音でこちらの挨拶に答えた。
服装はセーラー服のようないつもの服ではなく、私服。
挨拶の後に会話は続かず、仕方なく吹雪に出発を促す。
「…行くか」
コクっと頷くと、吹雪は先行して行ってしまった。
――そういや、吹雪。お前あん時も…
「早くしてください」
吹雪の急かす声に、背中を追いかけるように俺も歩き出した。
青ヶ鳥島は中規模の鎮守府が設けられるくらいには大きく島の中には空港や小さな鉄道があったりする。
今は吹雪と一緒にその鉄道に乗り、空港近くの街に来ている。
改札を抜けると今までムスッとしていた吹雪が町の景色に顔を輝かせていた。
「色々ありますねぇ!どこからいきましょ…あっ」
自分の顔を見たとたん、思い出したかのようにムスッとした表情を見せる。
「い、行きましょう。どこから行きますか?」
そう言いながら吹雪はスタスタと街のなかに踏み出してしまった。
素直になればいいのに…。
「早く、行きますよ」
吹雪にせかされて、俺も街のなかに踏み出した。
普段は鎮守府の周りの街に出掛けており、そこにも様々な店が立ち並ぶ通りは存在するが、ここは空港が近いからかお土産屋など旅行客向けの店はもちろん、店も鎮守府周辺の街以上に様々な種類のものが軒を連ねていた。
「吹雪はどこに行きたい?」
隣を歩く吹雪に視線をおとして聞いた。
今は二人で大通りをを歩いており、左右には洋服屋や雑貨屋など女子なら寄ってみたくなるであろう店が立ち並んでいた。
「そうですねぇ~…あっ。…あそこでいいです」
辺りをキョロキョロしながら、答えようとした吹雪だが、また思い出したかのように不機嫌そうな声音を発すると、すぐにピッとある場所を指差した。
指先には、店内から軽快な音楽を響かせているゲームセンターがあり、店先には数台のクレーンゲームが置かれていた。
「ゲームセンターか、OK行くか」
店内にはいると、音楽はさらにうるささを増して、音楽ゲームから流れるものも合わさりごちゃ混ぜになっていた。
「何をやろうか?」
吹雪に大声で問いかけると、吹雪はスタスタと店内を歩き始めた。なにも言わずに後を付いていくと、クレーンゲームが密集しているエリアに入っていき、吟味するように筐体を見始めた。
工廠や酒保で時々見かけるペンギンや雲の形をしたぬいぐるみや最近人気のアニメなどのキャラクターグッズはもちろん、大きいお菓子のセットが山積みになったものやアイスが取れるものもあった。
いろいろと面白げなものを見ていると、不意に吹雪が足を止め一つの台を指さした。
「これ、やりたいです」
指さした先には、モコモコした雲のようなカワイらしいぬいぐるみが大量に積まれた筐体があった。
「これって失敗の時に出てくるヤツだろ?なんでまた…」
俺はこのぬいぐるみに覚えがあった。
火砲などの開発を行うとき、開発に失敗すると妖精がダンボールにぬいぐるみを詰めて寄こしてくる。
はじめぬいぐるみは希望する艦娘が自分の部屋に持って帰っていたが、段々量が需要を越していき最終的にはこうしてクレーンゲームの景品として一般に販売されるようになった。
鎮守府が初期のころ、開発によく立ち会っていたのでぬいぐるみを見ることがよくあった。その頃には景品化していたため、ぬいぐるみは全て出荷品に回されていた。
「いいから、やりたいです」
「だからなんでって聞いてるんだけど…っ」
吹雪にしっかりとした理由を聞こうとしたとき、彼女の向こうにある筐体が目についた。
中身は今目の前にあるぬいぐるみと同じ鎮守府産のぬいぐるみだが、向こうの筐体に入っていたのはペンギンだった。
―――――確かあのペンギンのぬいぐるみ。
「…ん?」
「あの、早くやりましょ」
袖を引っ張られ、すぐにコインを入れる。
軽快な音楽とともにゲームがスタートする。吹雪は一歩下がって俺は作業に集中する。
操縦桿と同じ仕様の操作のため、思っていた以上に簡単に操作することができた。
「…よし、取れた!」
ポヨンという音がしそうな勢いとともにぬいぐるみが取り出し口に落ちた。
「二回で取れるとは運がいいな」
吹雪にぬいぐるみを渡す。
「…ありがとうございます」
「他のも見ていくか?」
「はい」
ぬいぐるみを抱きかかえながら、吹雪は他の筐体を見始めた。
(…うまくなりましたね)
ボソリと、横切るときにそう呟いて。
その後も、洋服屋に雑貨屋を回っているときに吹雪は今までの元気な表情を見せたり、ムッとした表情を見せたりと、感情はコロコロ変わった。まるで何かを抑えるような仕草は気になったが、折角金剛が用意してくれた二人だけのお出掛け、少々歪だろうと最後まで楽しもうと思った。
―――――それに、今日を最後まで楽しめば何かが分かる気がした。
「次はどこに行くんだ?」
吹雪に次に行きたいところがあるか聞こうと隣を向いたとき、その瞬間に携帯が鳴った。
「っ!」
それはプライベートで使っているものではなく、緊急連絡用の携帯だった。
それには吹雪も気付いたようで、スイッチが切り替わるようにこちらに向き直った。
『もしもし』
『もしもし、こちら大淀です』
電話の相手は大淀で、その向こうでは妖精が指令を出しているのか怒号が飛び交っている。
『本日ヒトサンフタマル頃、青ヶ鳥島近海南方に展開していた哨戒艦隊がさらに南方に敵機の大編隊を確認しました。』
『数と編成は?』
『戦闘機、爆撃機と攻撃機がそれぞれ半々といった編成のようです』
防御に回るであろう戦闘機と攻撃に専念する爆撃・攻撃機が半々となると、被害を抑えつつある程度の被害を与えに来たという感じだろう。
『迎撃機は?』
『すでに上がり始めています』
『市民に被害を出すわけにはいかない、最低でも青ヶ鳥近海で撃墜できるようにしてくれ。あと、あきづきたちを中心に防空艦隊を出撃させてくれ。青ヶ鳥南方に展開、戦闘機を優先して撃墜してくれ』
『了解しました』
『あっ、あと、零夜戦改を一機空港の方へ寄こしてくれ』
『わかりました。提督は迎撃に上がりますか?』
『いや、とりあえず天城を中心にすぐに出撃できるように準備してくれ。俺の零戦はそこに乗せてくれ』
『了解です』
大淀との会話を終えると、そばで心配そうに話しを聞いていた吹雪に視線を戻した。
「吹雪」
「はい」
ムスッとした声音ではあったものの、緊急事態であることは分かっているらしく、やる気は感じ取れた。
「青ヶ鳥南方方面の太平洋で、敵の大編隊が確認された」
「では今から鎮守府に戻りますか?」
「あぁ、でも直接は戻らない、空港から零夜戦改で戻る」
「わかりました。では空港に向かいましょう」
吹雪はスタスタと空港の方へ歩を進め始めた。
零夜戦改はすぐにやってきた。
乗ってきた操縦手の妖精はこちらに航空機を引き継ぐと、一緒にやってきていた零夜戦改に乗り込んで先に鎮守府に戻った。
「よし、行くぞ」
吹雪を後部に乗せて、離陸する。
他の航空機の邪魔にならないように旋回を行いながら高度を上げる。ある程度の高度になったところで、鎮守府の方向へ機首を向かわせる。
「…なぁ、吹雪」
「…何ですか?」
プロペラの回る音にかき消されないように多少声を張って話しかける。
外でも見ていたのか、一拍遅れて返事が返ってくる。
「
「だから、それには反対って言ったはずです!」
吹雪は今までと違い感情を隠すことなく反応した。
俺は今まで吹雪は、青ヶ鳥が大本営の傘下に戻ることで
「それはあいつらが出してくる作戦で俺の身が危険になるかもしれないからか?」
「っ!」
実際には彼女、吹雪は自分の命より真っ先に俺の命のことを心配したのだろう。彼女にとっては『艦娘の命を軽率に扱う命令』ではなく、『
「青ヶ鳥沖での戦闘の時、俺は久しぶりに飛んだ。別に敵機と交戦するでもなく、ただ敵艦に爆弾をぶつけるだけだったが、その一部始終を大本営は見ていた」
「…」
「あの時はお前とあきづきが自沈処分を命令されるだけで済んだが、俺が艦娘と作戦を共にできる、艦娘と同等の作戦行動ができると判ると、どういう扱いがされるか…」
「それを想像して反対の意見を言っていると言いたいのですか?」
「ああ、そんなことそれるぐらいならいっその事大本営の傘下になんか入らずに、青ヶ鳥で静かに、自分の身のみを守っていきたいと思ってるんだろう?」
その先の言葉を待つように吹雪は黙っていた。
「だがそれは出来ない。青ヶ鳥だけで生きていくのには限度があるし、たとえ青ヶ鳥だけで生きていこうとするならば、日本本土や海外とのシーレーンを構築していかないと生きていくことは難しい。それにシーレーンの構築防衛は結局のところ大本営の傘下で行っていることと何ら変わりはない。それなら大本営の傘下に戻って資材の供給を確保し、いざというときのに使える手段を多くしたほうがいいだろう」
「そうですけど、結局命令を受ける可能性は…」
「その心配は恐らく無い」
「何故ですか?」
「傘下に戻る意思を示す前に、実践を通して青ヶ鳥鎮守府の実力を示す。しかもただ示すだけでなく、俺が司令官であり、その下に慕ってくれている艦娘たちがいることでその実力が発揮できているということも示してだ。そうすれば大本営は俺が死ぬような作戦を命令することは出来ないし、またそんな鎮守府の艦娘が死ぬような作戦も出せないはずだ」
そう。そうすれば吹雪の危惧しているであろう俺が死ぬような作戦も、俺の危惧しているであろう艦娘が死ぬような作戦も受けないで済む。
「だから、心配するなって」
「…」
そこから沈黙が続いた。二人とも何も言葉を発することなく、エンジンの音だけが響いていた。
「…私は、」
しばらく経って吹雪が口を開いた。
「私は、私の心配していたことはそのことです。けど、ちょっと違います」
「違う?」
「私はただ、ただ鶴さんに私たちの司令官のままでいて欲しいだけです。最初のころのように一緒に書類仕事して、直掩して、時々模型演習やって、食堂で雑談したり、一緒に執務室にダラダラしたり、休日に遊びに出かけたり…。作戦の時はただ執務室で私たちの帰りを待っていて欲しい…」
「吹雪…」
「私はただ、そんな鶴さんであってほしいだけです」
最後の言葉はなんだかとても優しいかった。
「吹雪、俺がお前に告白したとき何て言ったか覚えてるか?」
「今度は絶対に俺がお前を守る。沈めたりなんかさせない…です」
「俺が昔瑞鶴の直掩だったのも話したよな?」
「はい」
「俺は大切なやつのことを守る方法は直掩として守る…ということしか知らないんだ。さらに、たとえ他の方法を教えられたとしても直掩として守るということしかしないだろう」
俺は昔から吹雪のことが好きだ。直掩として守りたかったがしかし、その前に逝ってしまった。
「だから、吹雪の言うただの司令官でいることは出来ない」
「でもそしたら鶴さんが…」
「俺は全力で吹雪のことを守る」
俺があのころ艦隊の鶴さんと呼ばれているほどになったのはそのためだった。
「だから…」
「分かりました」
言葉を遮るように吹雪が口を開いた。
「鶴さんが私のことを全力で守ってくれるなら、私は鶴さんのことを全力で守りますね」
吹雪はにこやかな口調で言った。
彼女との間にあったもやもやが晴れた気がした。
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