艦これ-提督と艦娘の鎮守府物語-改   作:鶴雪 吹急

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第四十一話「鎮守府防空戦」

 空港から鎮守府へ向けて飛ぶこと10分ほど。

 無言に耐え切れなかった吹雪が雑談し始め、それに付き合っていたので鎮守府までの時間を長いと感じることはなかった。

 

「鎮守府が見えてきましたよ!」

 

 吹雪は眼下に見えてきた鎮守府の施設群を見て、声を上げた。海上から敵機が向かっているが、そこまで近くないためか、上空から見る鎮守府は静まり返って見えた。

 

「とりあえず零夜戦改は滑走路に降ろす…ぞ」

 

「鶴さん?どうしました?」

 

 言葉の端切れが悪くなったのを不思議に思ってか、後ろから声がかけられる。

 だが、俺はその問いには答えなかった。

 

「吹雪」

 

「はい?」

 

「今から少し無理な動きをするから耐えられるかどうか答えてくれ」

 

「え、え?」

 

「行くぞ!」

 

 戸惑いの声を上げる吹雪をよそに、操縦桿を前に倒した。

 機首が思いっきり下を向き、機体が速度を上げて降下していく。

 

「きゃぁ!?」

 

 後ろから悲鳴が上がるが、お構いなしに今度は操縦桿を手前に引き上げて、機首を上へ向けた。

 減速が最大になると、頭上には青い海が見える。

「うわぁ!海!海が上に!」

 

 叫んでいられるってことは、まだ大丈夫そうだな。

 一回転をして水平に戻ると、今度は操縦桿を右に倒した。

 

「鶴さん、ちょっ…んわぁ!」

 

 吹雪が何か言おうとしていたが、その前に機体が旋回を開始したために、途中で言葉が叫び声に変わった。

 てか、いちいち叫び声が可愛い。

 

「んー!んー!」

 

 今度は悲鳴ではなく。耐える声が聞こえてくる。

 一通りの動きを終えて、安定した状態に戻ってくると、すぐに吹雪が抗議の声を上げた。

 

「い、いきなり何するんですか!」

 

「なにって、空戦時にかかるGをかけてみたんだが」

 

「これから着陸するだけですよね?!そんなことしなくてもいいじゃないですか!?」

 

 これから着陸するだけ…ほんとにそれだけならこんなことしないんだがね。

 

「吹雪。前を見てみろ」

 

「え?…ん?あの黒い点は…敵機?」

 

 進行方向正面、おそらく五六キロ先に黒い無数の点が見えた。その点は徐々にシルエットがはっきりしてくる。

 吹雪も海上から何回も似たのを見ていたのだろう、すぐに状況を理解したようだった。

 

「鶴さんのことだから、迎撃機を上げてないわけはないですよね。ってことは迎撃を避け切ったって事?」

 

「多分迎撃を避け切ったといより、時間をかけてさらに爆撃機の連中より高い高度でこちらに飛んできたといった方がいいだろうな。しかも少しでも動きやすくするためか編成は戦闘機のみだし」

 

 徐々にはっきりししてきたシルエットは敵機の中でも戦闘機として会敵してきてたものだ気だった。しかもそのほとんどが爆弾をおなかに抱えている。

 

「すぐに対空戦に対応できる艦艇は全て迎撃機と一緒に出しちゃいましたし、鎮守府の対空砲が射程に入るころには、墜落した機体で結局被害が出る羽目になる。どうしましょう、鶴さん?」

 

 どうしようも何も他の設備が機能出来ないなら、残された方法は一つしかない。

 

「俺らで迎撃する」

 

「何言って…。あ、そのために」

 

 先ほどまでの行動を思い出したのか、合点がいったような声とともに吹雪が押し黙る。

 

「その無言は肯定ととるぞ?」

 

 その問いに吹雪は不敵な声で答えた。

 

「とらなくたって、肯定で正解ですよ!」

 

 吹雪の答えを聞いた途端、機首を下げて地面へ向ける。

 

「うわわっ!?」

 

 速度計があっという間に400km/h近くになり、それを確認するとすぐに機首を水平に戻す。スロットはもちろん全開だ。

 

「このまま編隊後方の敵機の腹に20mmをぶっこみに行く」

 

「あの私は?」

 

「そのままじっとしててくれ」

 

 そう言っているうちに、敵機はすでに真上に来ている。こちらがすぐに距離を詰めたので、戦闘は海上で行えそうだ。

 すぐに機首を上げて旋回。編隊後方の敵機の尾翼から敵に突っ込む。

 

「っ!」

 

 両翼から放たれる20mmと7mmの雨はあっという間に敵の両翼付け根に吸い込まれてゆき、ほぼ同時に両翼が折れた機体は重たい機首から海上めがけて落ちていく。

 そいつが落ちるのを確認して次はそのそばの機体に狙いをつける。今度は翼の付け根ではなく端、エルロンの機構が備わっている箇所めがけて機銃を打ち込む。エルロンとさらに翼の先端を削られた機体は当然バランスを崩し降下を開始、回転しまいと耐えながら落ちる機体のすぐそばをすり抜けてゆく。

 

「ざっとこんなもんか、あと4機…どうすっかね」

 

 後ろを見れば、2機は爆弾を落としてこちらに向かってきていた。

 

「鶴さんこの斜銃って使えますか?」

 

 斜銃を指しながら吹雪が聞いてくる。

 

「あぁ、一応弾は込めてあるから撃てるぞ」

 

 そんなことを聞いて何をするのかと思った次の瞬間、後方から銃撃音が鳴った。

 視界に曳光弾はない。後方に付いていた奴らがステルス弾でも撃ったのかと思い後方を確認すると、1機が煙を噴き上あげて落ちていた。傍らでそれを見ていた敵機は撃たれるのを回避しようと後方の位置を離れる。

 

「吹雪、お前…」

 

「飛行機を操ることが出来なくても機銃を撃つぐらいならできます!だから、私にも手伝わせてください!」

 

「…よろしく頼む!」

 

力づよく言った吹雪に俺はそう短く返してしまったが、彼女は嬉しそうに「はい!」と答えてくれた。

 敵編隊に背中を向けていた機首を戻し、再び敵機に狙いをつける。最初に中心を飛んでいた機体。おそらく隊長機。

 

「後方注意!これから敵の首を取りに行く!」

 

「了解!」

 

 元気な応答。高度を高く取り、位置エネルギーを最大限に使って降下する。

 接近に気付いた敵は回避するために、隊を乱して逃げようとする。

 

「遅い!」

 

 曳光弾で狙いを位置を定めて、本命のステルス弾を打ち込む。

 全て先頭の機体に吸い込まれ、操縦席後方の胴の部分で二つに分かれた。

 周囲を見渡すと、残りの機体は一直線に陸へ降下を始めていた。降下まで一連の動作を見るに、帰還は考えない突っ込み攻撃らしかった。

 

「特攻かよっ!」

 

「とりあえず攻撃を防がないと!」

 

「爆弾による攻撃は特にだ!」

 

 街に落ちようものなら、鎮守府への信用不振に繋がるし、鎮守府敷地内に落ちたとしても、それで機能が停止しようものなら今後の作戦展開に制限を受けかねない。

 

「止まれぇっ!」

 

 すぐに爆弾を抱えた敵機の横に回り、機銃発射レバーに手を掛ける。

 標準器に映る目標に集中し、射撃のタイミングを計る。

 

「鶴さん左前方!」

 

 吹雪の声で集中していた視線をずらすと、さっきまで俺らを追いかけまわしていた敵機が、こちらに機首を向けていた。

 このままいけば、爆弾を抱えた敵機は確実に落とせるが、こちらも落とされる。

 気付けば、機首を上げて俺はこちらに向かう敵機を狙っていた。

 弾は全てエンジンに吸い込まれ、盛大に炎を噴き上げて落ちていった。

 

「鶴さんもう1機が…!」

 

 吹雪が叫んだ時、左側から轟音が響いた。

 地面から吹き上がる黒煙。警報がワンワンと鳴り、小さな人影が火元に集まり出す。飛行場側から化学消防車が向かってきていた。

 ドックは混乱に包まれていた。

 

 

 

 その日の夕方、執務室に大淀がやってきた。手には書類の束を持ち、一部を執務机に置いた。

 戦果報告ですと一言置いて、話を始める。

 

「今回の奇襲による戦果は、敵空母ヌ級を3隻と戦艦複数を撃沈。旗艦と思われる空母ヲ級は戦闘不能にまで追い詰めましたが、沈んだかどうかまで確認できませんでした。敵航空機は爆撃機、攻撃機共にほとんどを撃墜、戦闘機も半分を撃墜しました」

 

 大淀は書類に視線を落として報告した。

 

「こちらの被害は?」

 

「機銃による甲板装備の損傷を受けた艦艇が数十隻、爆弾の至近弾による被害が数隻。どちらも主力艦を中心に被害が出てます。…それと」

 

 落としていた視線をこちらに向けた。夕日が差して顔に影を作る。

 

「一番ドックが損傷被害を受けました。詳しい内容はその書類にありますが、修復には一か月はかかると思われます。また、これによって修復能力が低下、被害艦の修復に時間が掛かるようです」

 

 報告を聞きながら、机の上にある書類の束をめくった。

 最初の数ページには、海上で展開されていたであろう戦闘の戦果が書かれていた。先ほどの報告通り戦果は良く、これなら硫黄島の敵艦隊は今後思うように動けないだろう。

 束の後半には、鎮守府への被害が纏められていた。大きな被害はドックに集中している。爆装戦闘機の捨て身の攻撃によってドックのそこには大穴を開けられ、爆風により水門機能や周囲の施設の機能さえマヒさせた。

 被害艦は片側のドックで修理をするしかなく、次の作戦展開に全ての艦が健全な状態で参加するには予定の二倍の時間が掛かりそうだ。

 

「結局、横須賀鎮守府と対話できるぐらいの時間は出来たってことですね」

 

 ソファで同じ書類を読んでいた吹雪が不意に言った。

 視線は書類に向いているが、声音に反対の意思は感じられなかった。

 

「あぁ、今回は互いにいい関係を築けるように話を進めるつもりだ。横鎮のドックを借りれるように話が持って行ければ、作戦の遅れを少しは取り戻せる」

 

 陸に戻った後、吹雪一対一で今後について話し合った。二人のではなく、鎮守府の方針だが。

 結果として、横須賀鎮守府との対話は予定通り行われることとなった。相手の意図が組み切れないが、こちらが要求することは大本営との仲介役と鎮守府間での協力体制の設定の二つに決められた。対話には吹雪も出席する予定だ。

 そして硫黄島奪還作戦も水面下で進められることになった。今は青ヶ鳥近海の制空海権の確立、潜水艦や陸攻部隊による敵硫黄島泊地の監視や他の基地からの通商(シーレーン)破壊で敵硫黄島泊地の弱体化を行う。横須賀鎮守府との対話次第で本格的な奪還の時期を確定する。

 

「先ほど横鎮の方にも予定通りに行う旨を伝えました。当初は海路を予定していたそうですが、空路で向こうの秘書艦と来られるそうです」

 

 概ね返答が遅れたことで海路だと予定日にたどり着けないとかそういう理由だろう。

 

「空路か、ならこちらも相応の対応を取らなければな」

 

 視線を書類から大淀に向ける。

 大淀は俺の視線と言葉の意味を図りかねてきょとんとしている。

 

「横鎮の航空機が来たら護衛と誘導のために菅野隊を上げよう。せめてもの歓迎はしないとな。大淀、菅野隊を天城から降ろして飛行場に設置しといてくれ」

 

「分かりました。指示してまいります」

 

 大淀は敬礼をするとすぐに部屋を出ていった。

 

「吹雪は俺と会議室を準備しに行こう」

 

「えっ!…執務室でしないんですか?」

 

 動きを止めて吹雪は聞いてきた。

 書類の束をテーブルに置いて、足は給湯室に向いている。

 

「互いにある程度の緊張感の上で話せるようにと思ってね。…なんか不都合でもあるのか?」

 

「い、いや~…」

 

 曖昧に返事をしながら微笑を浮かべる。これが数時間前まで怒っていた奴なんだから、ほんと表情の変化についていけない。

 

「とりあえず行くぞー。来ないと置いてくからな」

 

「あ!待ってくださーい!」

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