艦これ-提督と艦娘の鎮守府物語-改   作:鶴雪 吹急

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第四十二話「片付け」

「…何だこれ」

 

「あ、はは…」

 

 会議室の扉を開くとそこには物の山が広がっていた。

 誰が持ってきたのかボードゲームが数十個に何かしらの小物が入っているであろうダンボールが何十個。それらの隙間に設けられた小さな通路が出来ていて、その先には文庫本が山を作ってその真ん中に人ひとり入れるスペースが作られていた。

 

「部屋にいても妹たちがいろいろ言ってくるので、一人になりたくて最近はここで過ごしてたんですよ」

 

 そこまでたどり着くと、照れた様子で吹雪が言った。

 

「二階って滅多に用事がないじゃないですか」

 

「だからってこんなことになるわけないだろ」

 

 あきれ交じりにつぶやくと吹雪が慌てるように続けた。

 

「本って意外と読むとハマるんですよ?気付いたらこんな山になっちゃって…。で、でも私の荷物はこの本だけで他のは私が使う前からこんなことになってましたからっ」

 

 本は吹雪が座っていたであろう所の周囲に積み上げられているだけで、他はダンボールの山であることを考えるとほとんどが吹雪以外の誰かの荷物になるってことか。

 

「誰だ置いていったの。物を置くなら物置きがあるだろ」

 

「それが…物置きに置くほどの物でもないものをここに置くようにしてるって、足柄さんが言ってました」

 

「ってことは足柄の荷物が殆どってことか?」

 

「いえ、他の人の荷物もありますよ。私がここで読書しているのに気付いて話しかけてきたのが足柄さんだっただけで、他にも誰かが出入りしているのが音でも分かりましたし。」

 

 誰がやり始めたかは分からないが、足柄が使っているのは分かったな。

 

「とりあえず、足柄を呼び出せ。他に荷物を置いているやつがいたら足柄が知っているだろう。…全く」

 

「分かりました。とりあえず呼んできますね」

 

「頼んだ。俺は空いてる段ボールに本を詰めておくから、他のやつらの片付けが済んだら部屋に運びに行こう」

 

「いいですよっ!私が広げたものですから、自分で片付けますって!」

 

「遠慮するな。それより、こんなにたくさん部屋に入るか?」

 

 立てかけてあった段ボールを組み立てて、手ごろな山から本を詰めていく。

 慌てて近くに戻ってきた吹雪は作業を手伝いながら、そのまま考えるような声を出す。

 

「んー。部屋から持ってきたものは入りそうですけど、本棚にはそこまで空いてるとこないですし…」

 

「じゃあ、俺の部屋に置いておくか?置くようなもんがあんまりなくてスペースだけは空いてるから、段ボール2、3箱ぐらいなら余裕で置けるぞ?」

 

 置くようなものが無いだけだが…。

 

「そんな悪いですよ!」

 

 吹雪は両手を振って遠慮した。

 そう何度も遠慮されるとこちらも勧めずらい。

 

「だから遠慮するなって、俺の部屋に置いとけば執務室と同じ階だし、仕事の合間とかに読みたい本を持って行ったり、逆に読み終わった本を仕舞いに行ったりできるだろ?それに、吹雪が読んでる本俺も少し気になるし」

 

 後者が本音だが、これくらい言えば伝わるだろう。

 

「わ、分かりました。それならお言葉に甘えて置かしてもらいますね。本は勝手に取り出したりして構いませんから」

 

 やっと吹雪が折れてくれ、段ボールは俺の部屋に持って行くことに決まった。

 吹雪と言い合ってる間にほとんどの本を段ボールに仕舞い終え、本が置かれていた周囲だけでも広くなった。

 

「よし、あとは一人でも仕舞えそうだから、吹雪は足柄を連れて来てくれ」

 

「分かりました!」

 

 持っていた本を段ボールに入れると、吹雪は部屋を出ていった。

 数十分で吹雪は足柄を連れて帰ってきた。

 

「戻りましたー。足柄さん連れてきましたよ」

 

 吹雪に続いて足柄が入ってきた。ジャージ姿であるのを見るに部屋でくつろいでいたのだろう。

 

「提督が個人的に呼び出しって珍しいわね。こんなところに呼び出して何の用かしら?」

 

 あきれ気味に部屋に入ってきた足柄は理由が分かっていなかったようで、俺が指した先を見て察したのか乾いた笑いをもらした。

 

「あのな?ここは会議室であって、物置じゃないぞ?」

 

「べ、別にほとんど使ってなかったんだからいいじゃない。いちいち物置に行くの面倒だったし、丁度良かったのよ」

 

「部屋の収納はどうした?」

 

「あるけど、こんなに入らないわよ。だからここに置いてたの」

 

「そんなに収納少ないのか?」

 

「ええ」

 

「確かに収納面は少し手狭ですねー…」

 

 二人とも頷いた。

 今まで誰にも言われなかったし、相手が女性だから部屋に入る事も滅多に無かっったから気付かなかったが、艦娘の部屋はどうやら収納が少ないらしい。

 

「そうなんだな…。分かった、その事はどうにかしよう。とりあえず今はこの部屋を使いたいから、他に荷物を置いてるやつにも言って片付けて貰ってくれ」

 

「分かったわ」

 

 そう言うと、足柄は自分の荷物を持って部屋を出ていった。

 その後も吹雪と共に掃除をしたり吹雪の私物を纏めている間に、巡洋艦娘をはじめ何人かが荷物を取りに、駆逐艦娘たちが片付けの手伝いに来てくれ、三時間程度で片付けは終わった。

 

「ほんとにきれいになりましたねぇ」

 

「あぁ、この鎮守府に初めて来た時ぐらいピカピカになったな」

 

 室内は雑多に置かれていた荷物がすべて取り除かれ、中央に会議机と椅子がきれいに並べられた。

 これで会議は問題なく行えるだろう。

 

 

「今日はすごく疲れたな…」

 

 窓の外はすでに真っ暗。夕食の時間は終わってしまったようで、廊下には食堂で食器を洗ってる音が聞こえるだった。

 

「朝からずっと動きっぱなしですからね」

 

「そうだったな」

 

 よく考えれば、午前中は吹雪二人で出掛けて途中から防衛のために空に上がり、夕方からは会議室の片付け…。ここ最近では一番ハードな一日だっただろう。

 気付けば、吹雪とは今まで通りに話をしていた。一緒に片付けをしていたということもあるんだろうが、ここまで関係を戻せたことが一番うれしかった。

 

「今日はその、いろいろありがとうな」

 

「えぇ?!」

 

 柄にもなく素直な感謝の言葉がこぼれたことで、吹雪が驚いた顔でこっちを見た。しかし、すぐに居ずまいを正すと、

 

「い、いえ!こちらこそ、よく話もせずに色々と…えっと、そのぉ…ごめんなさい!」

 

 吹雪も謝ってきた。悪いのはこちらなのだが、吹雪も思うところがあったのだろう。

 

「私も意気地を張りすぎました。鶴さんが考えてたことも聞かずに、一人で思い込んじゃって…」

 

「気にするな、こっちが悪いんだから」

 

「で、でも…」

 

 不安げな吹雪。

 その表情は愛らしく、自分の顔が熱くなるのが分かった。

 

「やっぱり私が…あっ」

 

 その顔を見ていられる自信が無くて、俺は吹雪の頭をなでていた。

 

「と、とりあえず飯食べに行くか。鳳翔に頼んで軽い夕飯でも用意してもらおう」

 

「んっあちょっと!」

 

 吹雪が追いかけてくる前に、さっさと部屋を出ていく。

 どう頑張っても火照った顔は隠せなかった。




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