艦これ-提督と艦娘の鎮守府物語-改   作:鶴雪 吹急

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第四十三話「飛行団飛来」

 対話の会が開かれる日は思っていたよりすぐにやってきた。当日は鎮守府の主要部を受け持っている艦娘たちを中心に慌ただしく物事が動いていた。

 大淀は相手方とこちらとの中継役として、通信設備のある艦隊司令部と俺がいる執務室を行き来し、明石は俺の代わりに向こうの飛行隊の先導のために用意した菅野飛行隊の整備と飛行時の誘導をするため、飛行場の管制施設に缶詰めになっていた。

 他は周辺海域の安全確保のために護衛艦娘を中心に先の防空戦で被害の出ていない艦は外洋へ出ていた。

 

「やっていることは通常より多いのに比べて、結構静かですね」

 

「ほとんどが外洋にいるかドック修理の手伝いに行ったからな。この辺りが静かなだけで、島の南側海域は割と騒がしいかもしれない。にしても、久方ぶりに静かなところで物事の進行を見ている気がする」

 

 今まで現場に出て回っていた俺としては、こんな執務室に居るんじゃなくてそれこそ、菅野隊に混ざって一緒に相手方を迎えに行きたいところだが、それをしようとしたところで、吹雪と大淀に止められるだけなのでここに居て吹雪と時間を潰すしかない。

 

「外洋に出てった艦隊の皆さんは今日は帰ってこないんですよね?」

 

「あぁ、陸の近くじゃ何されるか分からんからな。指令室と連絡が取れるぐらいの距離で適宜補給を受けつつ外洋待機だ。横鎮の連中がさっさと帰ってくれるようなら今日のうちに帰すことも考えられるけどな」

 

「鶴さんのことですから逆に堂々と見せびらかして戦力の誇示でもするのかと思いましたよ」

 

「やりたいとこだが、今回は他のカモフラもやらなきゃいけないからな。それはそのうちもっと盛大にやりたいところだ」

 

「他のカモフラ…?奪還対策の他に何かありましたっけ?」

 

「ほら、『あきづき』に付いて行かせたのは?」

 

「確か『土佐』さんと最近改修を加えた駆逐艦が数隻でしたっけ」

 

「そうそう、そして『きりしま』にも改修を加えた駆逐艦を連れて行った」

 

 ドックの修理を依頼してから数日、突然の思い付きをすぐに明石にお願いしに行ったのだが、いやな顔一つせずに了承してくれた。仕事が増えたために、ドック修理の終了は遅れると言われたが、妖精を別の仕事に割くのだから仕方ない。

 

「そうでしたね。でもなんで…あぁ!」

 

 はじめは悩んでいたようだが、途中で合点がいったのか手をたたく。

 

「相手がどんな人間か分からない以上、問題になりかねないネタは伏せておくに越したことはないからな」

 

 カップを傾けると中身がなくなっていることに気付き、吹雪にお代わりを頼もうとしたら、彼女が口をぽかんと開けてこちらを見ているのが目に留まった。

 

「どうした?そんなツラして」

 

「いえ!鶴さんが珍しく考えて指示をしていたんで驚いただけです」

 

「いつも考えてないで指示してると思ってたの?!」

 

「言い方が変でしたね?上とか下とか、あまり考えない指示ばっかりしてるのかと思いました」

 

「間違ってはいないが…面と向かって言われるとやはりグサッとくるな」

 

 

 

 大淀から横鎮の飛行隊が到着するという報を受けたのは30分程経った後だった。

 本来なら会議室で待っているか、飛行場まで迎えに行った方がいいのだろうが、飛行隊を見るために空母寮の屋上へ向こうことにした。

 吹雪は支度をすると言って、庁舎へ残ったため一人で寮まで来たが、屋上には先客2名居た。

 彼女たちは特に話をすることもなく並んで寝ころんでいたが、一人が俺の存在に気付き起き上がると傍らの蒼髪の少女を起こした。

 

「やほー。どしたのここまで来て、珍しい」

 

 蒼髪の少女を起こしながらサイドテールの少女はこちらに問うた。

 

「そろそろ横鎮の飛行隊が来るから護衛機になに従えて来てるのかと思ってな」

 

「ほぉー、ねぇ蒼龍蒼龍!私たちも見よ?」

 

 蒼龍と呼ばれた蒼髪の子は寝起きなのか、目を擦りながらいいよ~と同意をした。

 

「寝てたの~?そんなに最近疲れることあったっけ?」

 

「長期の艦載機を使わない機会が出来たから、一機ずつ立ち会って整備してたの。朝から晩まで作業着で工廠に籠ってたらクタクタになっちゃって…。そういう飛龍こそ艦載機の整備とかしなくてもいいの?」

 

 どこからか現れた妖精を手にのせながら、飛龍と呼ばれた少女は大丈夫大丈夫と空いた方の手を胸の前で振って見せた。

 

「日々入念に点検してるからそうそう故障とか出ないよ!そもそも搭乗員も整備員もみんな休ませちゃったしねぇ」

 

 どうぞ、飛龍は自分の隣の床をトンと叩いた。立ってみるつもりだったが、促されれば仕方ない。言葉に甘えて隣に座ることにした。

 

「そういえば、少人数で提督とこうして一緒になるのも久しぶりだね」

 

「本土防衛戦前に空母で集まった時以来じゃない?」

 

 蒼龍が飛龍とは反対側の隣に座りながら、懐かしい作戦名を出した。然程日時は経っていないのに懐かしいと感じるのはその間が今まで以上に濃密だったからだろうか。

 そういえば、まともに彼女らと話したのはそれ以来か。

 

「何なら、こうして会話を交わすのは着任すぐに空母の数が少なった頃以来じゃないか?」

 

「私はそのあとも時々埠頭で話すことあったけどね~」

 

「そりゃ、蒼龍は暇あれば整備ばっかりしてるからね。私より話す機会多いでしょ」

 

「そういや、会えばいつも(ふね)のそばでなんかしてたな」

 

「整備が好きなだけですよ。私自身がそうだからか、弄ってると落ち着くんです」

 

 蒼龍は照れ臭そうに頬をかきながら答えた。

 

「飛龍は?蒼龍と違ってあんまり姿を見なかったけど、何やってたんだ?」

 

「私?私はーご飯食べたり、本読んだり…休む時にしっかり休んで仕事に備えてたよっ!」

 

「ダウト!さてはご飯時だけ食堂に出かけてそれ以外は、ずっと本は本でもマンガを読みふけってたでしょ」

 

 蒼龍に図星を付かれたのか、少し息を詰まらせたが、

 

「何だ悪いかっ!出撃にはちゃんと出てるし、しっかり休んでいるという点では間違ってないでしょ!」

 

 すぐに開き直ってけろっとした。

 

「そんなグータラしてるからこんなお腹になっちゃんだよー」

 

 蒼龍は手を飛龍のお腹に伸ばした。ムニと肉が摘ままれ、飛龍は頬を赤らめて止めてと抵抗した。

 

「抵抗するくらいなら、少しぐらい運動すればいいのに」

 

「運動は艦橋に出入りする時にいっつもしてるよ、ここ最近の出撃は泊りがけも多くて寝室まで移動するのも一苦労だったんだから」

 

「それでもこれだけお肉が余ってるってことは、もっと運動しないといけないってことだよ。今度一緒に走ろ?ね?」

 

「やーだー、めんどくさいぃ~」

 

「ほら、本音が出た!もー、嘘つきにはこうだ!」

 

「お、おい!」

 

 本格的にじゃれ始めたので、止めに入る。

 

「じゃれるのは構わないが、人を挟んでやるのは止めてくれないか?」

 

「え?じゃあ提督も混ざる?」

 

「そういう事じゃない!」

 

「本当はこうやってゆっくりお話しできるの久しぶりだから、提督とゆっくりお話をするためにこっち来たんだけど、飛龍が変なこと言うからつい…ね?」

 

「それ私のせいなの?!もとをたどれば提督が私に何をやってたか聞いたんだから、変なこと言ったのは提督でしょ?」

 

「そこ!原因をこっちに振らない!」

 

「それもそうだね…。じゃあ、提督に」

 

「え?あ、ちょ止めて!くすぐり苦手だから!」

 

「私も私も~提督くすぐっちゃお!」

 

「飛龍もヤメロ!」

 

 両側からのくすぐりに身をよじっていると、白いお腹が上空を抜けていくのが見えた。紫電改と零戦五二で構成された編隊が飛行場へ向けて高度を徐々に落としている。

 

「あ、ほら先導が来たぞ、そろそろだ」

 

 二航戦の二人と先導である菅野隊が飛んできた方向を見ると、デカい黒点を中心に小さな点がいくつも飛んできた。

 先頭に立つのは両翼かに機体と同じ蒼色の増槽を二個備え、他を大小様々なミサイルで固めたエアロインテークが特徴の機体。2機組みで先頭を抜けていく。次に飛んできたのは、恐らく横須賀の提督が乗っているであろう輸送機、珍しい胴体上部から延びる主翼は先端に向かうにつれて下方に傾き、翼下に2基のエンジンを備える。ずんぐりむっくりな印象の機体だ。そしてその両脇を固めるのはライトグレーを纏う機体。さっき先陣を切ってきた機体より大柄で確かな存在感を放つ。胴体下部に増槽を備え、両翼下にはミサイルが満載されていた。

 

「まあ、道中を考えればそうだろうが、それにしても重武装だな」

 

「資料は見たり読んだりしたことあるけど、実際に見るとやっぱでかいんだねぇ」

 

「今の戦闘機は零戦みたいな戦闘だけ特化みたいなやつじゃないからな、爆撃だってこなす。爆戦のその先のようなもんだと思えばいいかもしれん」

 

 飛龍も蒼龍も感心して声を出していたようだが、聞こえたのはそれだけで他はジェットの轟音にかき消されてしまった。

 輸送機たちの後、最後に飛んできたのはまた戦闘機だったが、数が少し多かった。まず先頭でやってきたのと同機種が1機、そのあとにはまた別の機種が2機飛んでくる。胴体下方からのびる主翼は茶目っ気を感じるが、形状から見れるスマートさは、他の戦闘機より印象が強く、汚れ具合から見ても歴戦の猛者の風格を感じられる。

 

「こんな異種ばっか持ち寄って航空祭でもやるのかな」

 

「そんなわけないだろ。こんなとこでやるなら横須賀でやった方がまだ人が来るだろう。きっと向こうに何かしらの意図があるんだろうな」

 

 2番手以降の戦闘機は輸送機の後に降りるためか、上空で何回か旋回を繰り返し並び直している。

 地上では輸送機回りで作業が始まっているようなので、そろそろ会議室に戻ることにする。

 

「よし、俺はそろそろ戻るわ」

 

「えーあんまりお話できなかったなぁ」

 

「今度ゆっくり話そう。鳳翔の居酒屋で食べながらでもな」

 

「もちろん3人だよね?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

「やったー。約束だかんね!」

 

「あぁ」

 

 手を振る二人に軽く手を振り返して屋上を後にした。




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 20/02/12 誤字修正しましたご報告してくださった方ありがとうございます。

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