艦これ-提督と艦娘の鎮守府物語-改   作:鶴雪 吹急

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第四十四話「忘れていたこと」

 屋上からの階段を降りると、大淀が丁度こちらに上がってきていた。

 目が合うと、やっと見つけたとその場に直って口を開いた。

 

「横須賀鎮守府の一行が到着されました。もう会議室の方へ通しており、吹雪さんがお茶を出しています」

 

「了解、今行くよ」

 

 

 会議室に入ると、白い軍服を着こなした男が艦娘を脇に従えて座っていた。

 お茶を飲んで一息付くとこちらに一瞥くれた。

 

「すいません。お待たせいたしました」

 

「いいや、私も今来たばかりだから気にしなくていい」

 

 首を横に振ると、客人でありながら男は自分を向かいの席に促した。

 

「失礼します」

 

 言われるままに正面に座った。

 

「久しぶり、というべきかな?宮島大尉」

 

「泊中将殿、自分はもう中佐です。その階級はもう4年も前の話ですよ」

 

「そうか。もう4年も経ってしまったか…。宮島、ちなみに俺も中将ではなく大将なんだぞ?上官の階級を間違えるでない」

 

「申し訳ありません」

 

 ずっと側で立っている吹雪が気になって顔をうかがうと、ぽっかり口を開けて唖然としていた。

 どうした?と声を掛けると我に返ったのか。いきなり泊大将に向かって頭を下げた。

 

「泊大将殿申し訳ありません。宮島中佐が階級を間違えるなど…」

 

 本当に間違えて咎められているのだと勘違いしてしまったようだ。俺が口を開こうとすると先に泊大将が吹雪に話しかけた。

 

「はっはっ冗談だよ冗談。俺も宮島も分かってて言っているんだよ。なあ宮島?」

 

「はい。流石にお世話になった上官の階級を忘れるなんてことないから安心しろ吹雪」

 

「はっはぁ…」

 

 なんともピンと来てないようで頭にハテナが浮かんで見える。

 

「本題の前に少し彼女に私と泊大将との関係を紹介してもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

 吹雪を隣の席に促して、俺は正面の上官の紹介をすることにした。

 

「改めて。横須賀鎮守府提督の泊大将殿だ。提督をする前は特設空母『伊勢』の艦長だった」

 

「特設空母『伊勢』ってあの相模湾沖戦で大戦果を挙げたと言われる…」

 

「あれ?吹雪知ってるのか?」

 

 相模湾沖戦や『伊勢』の話はした覚えがない。

 

「確か、あの作戦には艦娘が投入されていたようだな。『伊勢』の護衛としては配属されてなかったはずだが」

 

「はい、私もその作戦に参加していました。『伊勢』の行動も実際に目にしたのと見聞きしたのである程度は把握しているつもりです」

 

 その時の艦長が泊大将だとは思いませんでした。と吹雪は驚きを隠せないようだった。

 俺も吹雪があの作戦に出ていたと聞いて驚いた。

 

「じゃあ話が早い。あの作戦行動に移る大元の進言をしたのは、そこの大尉なのだよ」

 

「宮島さんが大元ですか⁈」

 

「我ながら出しゃばり過ぎる行動だと今でも反省しているので、その話は触れないでいただきたいのですが…」

 

「なぁに、この前も大本営の方で出しゃばってきたばかりなのだろう?今さら気にすることではない」

 

「ですが…」

 

 言い訳をしようとするもガハハという大将の笑い声に遮られた。

 

「私は君のその出しゃばりも含めて評価しているのだ。だからこうして戦線のここ(青ヶ鳥)まで足を伸ばして会いにきている」

 

 そうですがと曖昧な返事をする。

 年功序列な軍という世界でそれはどうなのかと思わなくもないが、自分もそれに準じてる気はしないので人のことは言えない。

 

「そろそろ話に入った方がいいかな。一応急ぎでの案件なのだよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 居住まいを正して泊大将に向き直す。

 おほんとせき払いをしてから、泊大将は話始めた。

 

「青ヶ鳥鎮守府の艦隊が戻ってきた時に、大本営からすぐ横須賀鎮守府へ連絡がきた。内容は、青ヶ鳥鎮守府の大本営海軍への再編入を打診してきて欲しいというものだ。宮島たちがいない間の太平洋方面の戦況悪化が想像以上に堪えたのだろう。ある程度自分らの扱える範囲にいて欲しいらしい」

 

「察してはいましたがやはりですか…。もし、再編を拒否した場合はそうするつもりでしょうか?」

 

「私としては、強制してまで再編してくれとは言わないから、結果をそのまま上に言うだけだ」

 

 まあ、と泊大将はそこから一間置いて。

 

「お前の生死とここの娘たちがどうなるかは想像に難くないが」

 

「はい?!」

 

 吹雪が思わず声を放った。俺の生死と艦娘がどうなるか。ちょっと前なら俺は生死はともかく指揮官としての立場を失くすだろうし、艦娘は解体だったろう。

 

「そうでしょうねぇ。少なくとも艦娘は横鎮編入で戦力強化して戦線維持といったところでしょうか」

 

「その時提督はいないのでしょう?それは許せません!」

 

「結局再編入したところで変わらない気もしますけど」

 

「まあ、うまい具合にお前は邪魔な存在だろうしな」

 

「そんなっ…」

 

 上層部、大本営にとっては俺は目の下のたんこぶ、異物だ。気に食わないが『戦争の道具』である艦娘を一番保有し、最大限に活用して運用してしまっている。

 

「…その程度の認識だと思いますが…。」

 

「俺もそう思う。指揮取りなんて誰にでもできると思っているやつだっているだろうな」

 

「上は士官コース上がりが多いですからね。流石というか何というか」

 

「…ねぇ鶴さんやっぱり編入を受けるのは止めましょう?対立姿勢にいた方が、私たちも一緒に戦えますし」

 

「はっはっ。君のところの吹雪は怖いなぁ!君想いのいい子だが、一度君に牙をむこうものなら私が殺されそうだ」

 

 それを聞いた吹雪は一気に顔を赤くして我に返り、すみません…と自分の席に縮こまってしまった。

 その様子を見て泊大将はまた笑う。

 

「なぁに、別に謝ることはない。私も宮島の身だけを案じるなら、横須賀の航空隊に幽閉しときたいところだよ」

 

「幽閉って…それはそれで楽しそうですが」

 

「乗り気になるんじゃあない。それに再編を拒むつもりもないのだろう?」

 

「はい。資源の枯渇が一番怖いですから…。自力確保もできなくはないですが、本分である日本防衛に全力が出せませんしね」

 

「じゃあ目先の案件はこれで終わりだ。私がここに来る()()も終わり」

 

 泊大将がお茶をもらえるかなと言うと、吹雪は湯飲みを受け取り給湯室へ消えていった。

 吹雪がいなくなったのを確認して、口を開く。

 

「…では、本題の方を聞きましょうか」

 

「ああ、よかろう」

 

―――――――

 

 吹雪はやかんを火にかけながら考えに耽った。

 事前の話し合いの通りに青ヶ鳥は大本営傘下に戻る。資源のシビアな状況が後々に来るであろうことは、秘書艦である彼女にもわかっていた。その面ではこの話で今後の心配事が一つ消えたといってもいい。

 しかし、傘下に戻るということはある程度行動を大本営によって制限されるという事。つまりは、危険な作戦を指示される可能性だってあるし、その結果またあの時代(とき)のような状況になる可能性だってある。

 私達を守るために鶴さんがいなくなることは嫌だ。それだけは、絶対に。

 

 お茶を淹れて会議室に戻った。泊大将と鶴さんは話し込んでいてこちらに関心を示すことはなかった。

 それぞれの側にお茶を差し入れると、ありがとうと一言いい話に戻ってしまう。

 

「もう少し時間が欲しいみたいだ。吹雪さん、私と散歩に付き合ってくれないか」

 

 終始蚊帳の外であり、暇を持て余していたのか、泊大将が連れてきていた艦娘。戦艦武蔵は、吹雪にそう声を掛けた。

 

 

 

 

 

「ここは向こう(横須賀)より海までが近いな」

 

 桟橋までやってくると、武蔵はそう口を開いた。

 

「横須賀は東京湾の中にありますからね。青ヶ鳥も湾内にありはしますが」

 

「横須賀はそのおかげで攻められずらいからな。いい基地だと思うよ」

 

 桟橋から眺める青湾は静かに波打っていた。近海に敵潜水艦が潜伏している可能性もあるため、民間船の往来は無いに等しく。水平線まで海が広がっていた。

 武蔵は桟橋に胡坐を掻いて座った。吹雪にも座るように促し、彼女もそれに従う。

 しばらくして武蔵が問いかけた。

 

「吹雪さんは提督が好きか?」

 

「え⁈あ、はぃ…」

 

「好き所か夢中みたいだな」

 

 そう言って武蔵は笑った。吹雪は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまっている。

 

「私はまだそういう相手に会ったことが無いから、そういう好きは分からないが、けど、大事な奴…いいや奴らがいるんだ」

 

「誰ですか?」

 

「横須賀の仲間たちだ」

 

 仲間たちの顔を思い浮かべるように武蔵は、空を見上げた。

 

「留守が多い私でも慕ってくれたりしてな、ともに厳しい戦いをくぐり抜け、勝利を分かち、助け合い。日本を守る大切な仲間だ。って、これだと横鎮だけみたいだな。もちろん、他の鎮守府の仲間も大事だ。私たちの本命は日本を守る事だからな」

 

 ああ、そうか。

 

 鶴さんもそうだが、私たちはともにあの戦いを戦った仲間(戦友)だった。

 

「…武蔵さん」

 

「ん?どうした?」

 

 吹雪は立ち上がると深くお辞儀をした。

 

「ありがとうございます。忘れていたことを思い出せたような気がします!」

 

「ふ、そうか」

 

 武蔵も立ち上がると、左手を差し出した。

 

「何かしたか分からないが、これからもよろしく」

 

「ふふ…。はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 互いに手を交わした。視線が合うと、気持ちが一致しているのを感じる。

 

「そうだ、間宮さんのところへ行きませんか?日替わりで色々な定食があるんですよ」

 

「青ヶ鳥の食堂料理か…。いただくとしよう」

 

「是非!私たちの仲間も紹介しますね!」

 

――――――

 

 泊大将との話し合いの後、執務室に吹雪、赤城、長門、大淀、明石を集めた。

 横須賀の提督との話の後なのか、それぞれ緊張の面持ちで構えている。

 

「いきなりだが、集まってくれてありがとう。まず、話し合いの結果、正式に大本営傘下へ戻ることが決まった。これで、資材等の供給レーンを確保できるようになった」

 

 明石や大淀は明らかに胸をなでおろしたようだ。少し緊張がほぐれたように見える。

 

「それで、私や長門さんが呼ばれたのは別の報告があるからでしょうか?」

 

「鋭いな赤城、その通りだ。硫黄島奪還作戦を再開する」

 

 ほぐれた空気が再び張り詰める。一度は休止に入った作戦が、再び動こうとしている。

 

「そして、新たな海域奪還作戦も硫黄島奪還後に開始予定だ」

 

「ほう、いきなり飛ばしていくな」

 

 長門が感心したように声を上げた。

 

「しばらくは硫黄島奪還に注力することになるがな。この硫黄島を奪還することが、後の作戦を行う上で重要になってくる、みんなよろしく頼む」

 

『了解!』

 

 気合の入った応答。戦闘に備える凛とした目が、俺をさした。




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