快晴に見舞われた鎮守府近海の上空を一機の零戦二一型が飛んでいた。
後方を、追うようにもう一機、零戦が飛ぶ。
後方を飛ぶ零戦は機関砲を掃射しているが、前方を飛ぶ零戦にはペンキが一滴も付かない。
それどころか、前方の零戦はいっきに速度を落とし、後方を飛ぶ零戦に近づく。
後ろの零戦が驚き、速度を落とした隙に、前方に居た零戦はいっきに上昇、宙返りをして、後ろに付く。
そして、驚いて体制が直しきれていない零戦にペンキを塗りたくった。
◇ ◆ ◇
6月も終わりに近づき、そろそろ扇風機やらがほしくなるような日に俺は、鎮守府近海の海上を進む「赤城」の飛行板の上に立ち、二機の零戦の帰りを待っていた。
「そろそろ戻ってきます」
「そうか」
赤城が妖精からの報告を伝えてきた。遠くにはこちらに向かって来る零戦が二機見える。片方はペンキできれいな白がオレンジに変わっていたが、もう片方はきれいな白に日の丸を輝かせながら戻ってきた。
「ううっ。負けてしまいました、赤城さん」
「いいですよ」
ペンキを塗られたほうの零戦を操縦していた妖精は、赤城に手に乗せられ頭を撫でられ、慰められていた。
一方、もう片方の零戦に乗っていた妖精は、零戦の主翼に乗っかり、その様子を見ていた。
「なぁ、提督」
「ん?」
「いいな、あの妖精」
「撫でて貰ってか?」
「ああ」
「お前のその機体が練習機みたいになって帰ってきたら、俺が撫でてやろうか?」
「いや、そんなになるんならいいや」
自分の愛機をなでながら妖精は、そっぽを向いた。
◇ ◆ ◇
ー執務室ー
執務机で報告書の空欄を埋めていると、机に先ほどの妖精が上がってきた。
「よう、撫でて貰いに来たのか?」
「違うわ!ちょっと暇だったから来ただけだ」
「そうか。ならそこら辺でゆっくりしといて、これが終ったらお茶でも入れるから」
「あいよ」
妖精は机に置いてあった模型に近づいた。
「何か増えてるな」
机の上にある紫電改の模型の横には零戦五二型が置かれていた。
「相変わらず、ダイキャストモデルのやつなんだな」
「まあな。組み立てる模型も作ってみたいがな」
「最初は何を作る気で?」
俺は、ペンを走らせるのをやめ、顔を上げる。
「『吹雪』」
「お前の口から最初に出てくるは大抵それだな」
「悪いか?!」
「いや、悪くは無いが」
報告書を端に置き、席を立つ。
「じゃあ、終ったからお茶入れてくる」
「あいよ」
~お茶タイム~
「ふぅー。お茶は美味しいな」
「確かにな」
妖精は小さな湯飲みを置いて、模型――紫電改を見ていた。
「紫電改がどうした?」
「ん?いや、アレに乗りたいなって思ってな」
「残念ながら、無いんだよなうちの鎮守府には紫電改も紫電改二も」
「そうなんだよな...」
妖精は、肩を落としながらまた湯飲みに手をつけた。
◇ ◆ ◇
「じゃあな」
「ああ」
妖精は、机から降りようとした
「そうだ」
「ん?」
妖精は俺の声に、足を止めた。
「紫電改に乗りたいか?」
妖精はこちらに向いた。
「ああ。紫電改に乗れるのなら、今演習で相手にしている、機体数の2倍と戦って見せる」
「そうか。なら、明石に頼んでみよう。お前も紫電改の機体のほうがいいだろう」
「ああ、だって俺は、菅野直」
「菅野デストロイヤー。だもんな」
「よく覚えているな」
「忘れないさ」
提督と妖精――菅野は笑いあった。
誤字脱字等ありましたらご報告くださると有り難いです。
ご感想ご意見等ありましたら、お気軽にどうぞ。