チキンハート・レボリューション   作:モクロウ

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pixivからの転載です。



一章
その少年、小心者につき。


『ほらよ、四光だ!』

 

『えええ!?またおじいちゃんの勝ち!?』

 

『ガッハッハ!お前もなかなか上達したが、じーちゃんにはまだ適わんようだなぁ!?』

 

田畑に囲まれた木造の一軒家に、豪快な老人の笑い声が響く。

対照に、向かい合って座っていた少年は、ぶすっとむくれた様な顔付きだ。

 

『ほれ、約束通り今晩の風呂焚きはお前さんの仕事じゃ!とっとと行け行け』

『は~い...』

 

勝負の結果にやや不服気味の少年は、竈に薪をくべながら文句を呟く。

 

『”今晩の”って言うけどさ、ぼく、花札でおじいちゃんに勝ったこと、一度もないんだけど...』

『文句があるのなら勝ってみぃ!勝負の世界はいつだって、勝った方が正しいんじゃからのぉ!』

『......おとなげない』

『何か言ったか、こんのクソガキぃ!?』

 

少年の物言いが気に入らなかったのか、老人は少年の頬をつねり上げた。

しかし、はたから見たら怒っている様にしか見えないが、そのやり取りには何処か暖かみが感じられた。

 

『たいたいたいたいたいっ!!!いたいよぉおじいちゃん!!』

 

その暖かで優しい痛みを、5年の歳月が流れた今も、少年はっきりと覚えている。

それ程までに、彼にとって、この老人との暮らしはかけがえのないものとしてずっと記憶に刻まれているのだ。

 

そしてーー

 

 

「ど、土井中町から引っ越してきました...!鳥羽 革(あらた)です...!よ、よろしゅくおねがい、ます...っ!」

 

かつての少年は、ド緊張していた。

 

「(あ、噛んだ...)」

「(声裏返ってるし)」

「(しかも一文字飛ばしちゃったよ...)」

 

「はいは~い!どうやら鳥羽くんは、少々緊張してしまってる様ですね~。...まぁ、あんな辺境のド田舎から一気にこんな都会に越してきた訳ですから、仕方ないとは思いますけど~」

「え"」

「さ、グズグズしてないで。とっとと座っちゃって下さ~い♪」

「…は、はい」

 

物腰柔らかそうな、担任と思われる教師からの思いがけない辛口コメント、そして冒頭の自己紹介のやらかし具合に、鳥羽は、転校早々ハートブレイク寸前であった。

 

「(こんな調子じゃ、友達なんて絶対出来ないよ…)」

 

沈んだ表情のまま指定された席に着席する。

教卓から見て最後列、真ん中辺りの席だ。

着席するなり、右隣の席の活発そうな少年が話しかけてきた。

 

「乗っけからぶっ込まれてんな~、転校生!ま、新田センセはいつもあんな感じだから気にすんなって!」

「...そ、そう」

「オレは並木 太朗。よろしくな!学校の事で解らない事とかあったら聞いてくれよ!」

「...あ、うん、よろしくね...」

 

人懐っこい笑顔を浮かべ、親しげに話しかけてくれる級友に少し安心しつつも、一方で、特に気の利いた返事の一つも出来なかった自分に対し、若干自己嫌悪に襲われてしまうのだった。

 

「はい!これで鳥羽くんも、我ら兎飼(とかい)中学1年B組のお友達です。仲良くしてあげて下さいね~。では、授業を始めま~す」

 

 

「...つ、疲れたぁ...」

 

放課後。その日の授業をすべて終えた頃には、鳥羽は心身ともに疲労困憊していた。

 

「よ!お疲れ転校生!色々大変だったな!」

「...あ、えと、並木くん...。...ありがとう...」

 

そんな鳥羽に、隣の席の並木が労いの言葉をかける。

先程からの鳥羽の挙動不審ぶりを見ても臆せず話しかけてくれる彼は、鳥羽にしてみれば、さながら救世主のように見えるだった。

 

「ま、初日の質問攻めは転校生の宿命みたいなもんだからな!」

 

「でも、都会の子ってみんな色んな事知ってるんだね...。色んな事聞かれるんだけど、正直よくわかんなくって...」

「...にしてもお前、色々とものを知らなさ過ぎんぞ。ポケモンも、モンハンも、ドラクエもしらねーんだもん」

「...えと、あまりそういうの、買って貰えないから...。おかけで、みんなと話題も合わなくって...」

 

確かに、先程まで鳥羽に興味を示していたクラスメイト達も、既に興味は薄れ、それぞれの趣味や、部活の仲間達と会話を始めていた。

 

「...ふーん。お前、何か趣味とかねーの?」

「...え?あ、その、...花札とか、麻雀とかなら...」

「ハナフダ?マージャン?何それ?」

「......あはは」

 

都会の同級生達との文化の差に若干げんなりしつつ、乾いた笑いを返す。

最も、全国的に見ても鳥羽の趣味の方が少数派なのは明らかだが。

 

「ま、いーや!じゃ、オレは部活あるからもー行くわ!うちのバスケ部、練習遅れるとちょー怒られるからさ!」

「あ、そか...。並木くん、部活やってるんだ...」

「おー、まーな!...あ、そう言えばさ、新田センセーが放課後に職員室まで来てくれって言ってたぞ!んじゃ、バイビー!」

 

鳥羽に別れを告げると、同じ部活仲間と思われる仲間達と共に、廊下を駆けていった。

 

「(...行っちゃった。学校の案内でも、お願いしようと思ったけど、部活なら仕方ないよね...)」

 

周りの生徒達も、下校する者、部活に行く者がそれぞれ教室を後にして行く。

 

「(...帰ろう。あまりあの家には帰りたくないけど、これ以上居ても仕方ないしね...)」

 

教科書や筆記用具を鞄に収め帰り支度をする。

 

「(...取り敢えず、職員室に行かなくっちゃ...)」

 

先ほどの担任の天然毒舌ぶりを思い出しながら、今度は何を言われてしまうのだろうかとため息を零してしまうのだった。

 

 

「も~、遅いですよ~鳥羽くん。先生、首を長~くして待ってたんですから~」

「...ご、ごめんなさい、先生」

 

しばらくして、職員室で鳥羽を迎えたのは、担任の新田 瞳 (にった ひとみ)だった。

 

「先生、首を長~くし過ぎてキリンさんみたいになっちゃうところでしたよ~。ちゃんとキリキリ動いて下さいね~。...キリンさんだけに。クスッ♪」

「...はぁ...」

 

毒舌を織り交ぜつつマイペースに話す担任に困惑し、ため息とも返事とも取れるよくわからない返事をしてしまう鳥羽。

 

「クラスのみんなとは、もう挨拶出来ましたか~?」

「え、えと。一応、みんなとは挨拶しました。...一応ですけど」

 

コミュ障をこじらせている鳥羽にとって、初対面の人間と、しかも一度に多数会話する事は非常に酷な事であった。

緊張でガチガチになってしまい、正直名前を覚えるどころではなかったのである。

 

「…そうですか~?あまり顔色が優れませんけど~?...何か悩みがあるのなら、言って下さい。私はあなたの担任の先生なんですから、いつでも相談にのりますよ?」

 

にっこりと。天使と見紛うほどの笑顔を浮かべ微笑む新田。

ところどころおかしい言動はあれど、彼女も一教師。心根は優しい女性なのだろう。

 

「先生...。あ、ありが」

「もちろん、有料で♪」

「ええぇぇぇぇぇ...」

「ウソで~す♪」

「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

彼女の今日イチの笑顔であった。

 

「さ、おふざけはこれくらいにして、本題に入りましょうか~。鳥羽くんがあまりにもからかい甲斐があるから、つい遊びすぎてしまいましたね~」

「(都会って怖い...)」

 

先程までからの仕打ちに、鳥羽はすっかり疑心暗鬼に陥っていた。

そんなビビリまくる彼をよそに、うぉっほんとわざとらしく咳をした後、ズビシっ!と音が聞こえて来そうなくらい勢いよく指を突きつけてきた。

 

「鳥羽くんに来てもらったのは、先生にパシられて欲しいからなんです~♪」

 

なんかもう、泣けた。

 

「でもでも、ちゃ~んと理由あっての事なんですよ~?あなたの左隣の席が空席だったのには気付いてましたか~?」

「…えと、はい」

 

確かに、鳥羽が授業を受けてる間、左隣の席に人が座る事はなかった。

空席なのかとも思ったが、いくつかのプリントが入れられており、今日は欠席しているのだろう、程度に思っていた。

 

「実はあの席は、既に一人の生徒に割り振られているんです〜」

「今日はお休みだったんですか?」

「うぅんと...。実はね、今日だけではないの。彼女、持病があって学校を休みがちでね。転入生が来るって聞いて、とっても楽しみにしてたんだけれど、今年の春からずっと入院してて、それで淋しがってると思うの...。そこで〜!」

 

そこまで言うと、いくつかのプリントが入ったクリアファイルを鳥羽に差し出し、パチリとウインクをした。

 

「丁度彼女に渡さないといけないプリントがあってね〜。顔合わせも兼ねて、渡しに行ってくれないかなって思って〜」

「...え!?僕がですか?」

「ええ。...本来はこういう事、生徒に頼んではいけないんだけど、折角同じクラスになったんだし、会いに行って上げてくれないかしら〜?」

 

彼女、と言うからには女子生徒なのだろう。

クラスメイトになるとはいえ、初対面の、しかも女の子に自分から会いに行くなんて、コミュ障の鳥羽にはいささかハードルが高かった。

 

「(...でも、こんな考えだから、友達もできないのかな...)」

「どう?行ってくれる?」

「...わ、わかりました。行きます」

「そう、よかった♪じゃ先生がわかり易~く病院の地図を書いてあげますから、ちょっと待ってて下さいね~」

 

 

新田に渡された地図を頼りに、指定された病院にたどり着く。

都内では一二を争う規模を持つ病院で、設備や建物の敷地ともにかなりのものであった。

 

「(うわぁ...。やっぱり都会の病院って大きいなぁ。さっそく迷いそうだよ...。引っ越す前は、小さな診療所しかなかったもんね)」

 

あれやこれやと廊下を進む内に、鳥羽はすっかり道に迷ってしまった。

それこそ、道行く職員や看護師に聞けば住む話なのだが、いかんせん人見知りの激しい性格が邪魔をする。

 

「(...はぁ。おつかい一つも満足に出来ないなんて、情けないな...)」

 

昔から、人に合わせたり、人と話したりする事が苦手だった。

他人が何を考え、自分をどのように捉えるか。

その事を考えると、必要以上に慎重になってしまう。

緊張し過ぎて、声が震え、挙動不審になってしまう。

嫌われまいと振る舞うあまり、結果好かれる事もなくなってしまっていた。

 

「(………なんか、やんなっちゃうな)」

 

ネガティブがネガティブを呼び、負のスパイラルに陥る。

一度悪い風に思い込むと止まらなくなるのは、彼の悪い癖だった。

 

「(今日だって、折角の転校初日ってチャンスを不意にしちゃったし...。僕なんてやっぱり…)」

 

誰に話しかけるでもなく、誰かに話しかけられることも無く、俯き、ひたすらに廊下を彷徨う。

 

するとーー

 

「はい。《ボルシャック・ドラゴン》でダイレクトアタック」

「うぎゃー!また負けたぁぁ!!」

「すごーい!!またお姉ちゃんの勝ちだぁ!」

「次はボクとデュエマしよーよ!!」

 

まるで、鳥羽の負の感情を吹き飛ばすように、陽気で明るい笑い声が響いてきた。

休憩所か何かだろうか。沢山の子供たちがカードの様なものでなにやら遊んでいる。

 

「あーー」

 

しかし、鳥羽の目を引いたのは、その中の一人の少女だった。

小学生位の子ども達にまぎれ、中学生位だろうか。鳥羽と同年代と思われる少女が一人。

凛々しく、整った顔立ち。長く艶やかな黒い髪を一束に結わえた、清楚な印象の少女だ。

鳥羽が一方的に見とれていると、こちらに気づいたのか、少女と目が合う。

 

「こんにちは」

 

とても美しい、優しい笑顔だった。

時間を忘れて、何時間も眺めていたいと思えるほどに。

 

「こーー」

「...?」

「......こんにゃちわっ!!」

 

盛大にかみまみた。

 

少年は、この時の出会いを一生忘れる事は出来ないだろう。

 

そして、この出会いこそが、彼の人生を劇的に変えていくキッカケとなるのだった。

 

 

「そっか。あなたが今日転校してきた鳥羽くんなんだね!」

 

鳥羽が落ち着きを取り戻し、彼女とまともに話せる様になるまで軽く二十分は要した。

 

「...え?じゃあ君が...」

「うん。あなたと同じクラスで、キミの隣の席。仙川 菖蒲(せんかわ しょうぶ)です。よろしくね?」

「う、うん。こちらこそ...」

 

差し出された手に戸惑いながらも握手を返す。

何の因果か、その少女こそが鳥羽の探していたクラスメイトその人だった。

お互い挨拶を交わした後、菖蒲はその穏やかな笑顔を崩さぬまま話を続ける。

 

「私は普段、あまり学校に行けていないから...。今日は会いに来てくれて、嬉しいな」

「...そ、そんな。どういたしまして...」

 

照れたように笑い返す鳥羽。

最初はガチガチに緊張していた鳥羽だったが、彼女の人柄の良さからか、今ではしっかりと会話が成立している。

しかし、彼女の姿を改めて見返し、ひとつの疑問が浮かぶ。

 

「(彼女...、仙川さん。一体どこが悪いんだろう...)」

 

見たところ、包帯やギプスなどのひと目でわかるような外傷はなかった。おそらく内科系の病なのだろうが、現状では苦しそうな様子も見受けられない。

 

「...そうだ!よければ、学校の様子とか...」

 

菖蒲がまたひとつ話題を切り出そうとしたその時。

 

「ねぇお姉ちゃん!早くさっきの続きしようよぉ!!」

 

先程まで菖蒲と戯れていた子供たちが彼女の元へ駆け寄ってきた。

 

「もう、仕方ないなぁ。...ごめんね鳥羽くん。この子達の相手をしてあげなくちゃ」

 

そう言って菖蒲が懐から取り出したのは、一束のカードだった。先程まで、子供たちが遊んでいたものだ。

 

「...ねぇ、仙川さん。それ、一体何?どうやって遊ぶの?」

 

一瞬、場の空気が凍りつく。

 

「ええええ!!お兄ちゃんデュエマ知らないの!?」

「ありえなーい!」

「ありえなくなくなくなーい!?」

 

鳥羽の質問に対して、周囲の子ども達から一世代前の渋谷の女子高生みたいなノリ(偏見)でディスられた。

 

「こら!知らないからってそんな風に言っちゃダメでしょ!みんながみんな、デュエマやってる訳じゃないんだから」

 

菖蒲の叱咤に、子供たちもはーいと生返事を返す。

 

「...ごめんね。この子達が、失礼な事言って。みんなまだ小さいから、許してあげてね?」

「...ううん、いいよ。小学生に笑われるほど、僕が世間知らずなだけなんだし...」

 

ちょっとした事ですぐに落ち込むのも、彼の悪い癖だ。

少し落ち着きを取り戻し始めていた表情も、さっきのようにまた沈み始めている。

 

「...ねえ、鳥羽くん」

 

隣に座っていた菖蒲がふと立ち上がると、鳥羽の正面に立ち、一束のカードを差し出した。

 

「...一緒にデュエマ、やってみない?」

 

 

「うりゃー!《トリケラX》でWブレイク!効果で《ボルシャック・ドラゴン》をマナ送りだ!!」

 

 

「......おぉ」

 

 

「...シールドチェック。S・トリガー《ナチュラル・トラップ》。《ホルデガンス》をマナへ」

「あぁ!!ちくしょう!!」

 

 

「おおぉ...!」

 

 

「...私のターン。《コッコ》の効果でコストを二つさげ、《ボルシャック・NEX》を召喚...!」

 

 

「...おおおおぉぉ!!」

「お兄さんうるさい」

 

 

 

「《マッハ》でダイレクトアタック。...ありがとうございました...♪」

「うわぁぁ!!凄い凄い!!」

 

菖蒲にデュエマを教えてもらう事になった鳥羽。

いきなり実戦は難しいという事で、まずは菖蒲達のデュエマを見学していたのだが、初めて見るデュエマに、すっかり興奮していた。

 

「...上達したね、アツシ君。でもあの場面はブレイクするより、《NEX》と《コッコ》をアタックと能力で両方除去して、場の制圧を優先した方が良かったかな?」

「はーい...」

 

デュエマが終わり、菖蒲が対戦した少年にアドバイスを施している。

周りの子供たちも、うんうん頷きながら聞き入っていた。

 

「どうかな、鳥羽くん。これが、デュエル・マスターズ カードだよ」

「...うん、面白いね...!絵柄が派手なだけかと思っていたけど、カード一枚一枚に独自の効果があって、凄く奥深いよ!」

「ふふ。喜んで貰えたみたいでよかった♪...じゃ次は実際にプレイしながら覚えていこうか。...私がとなりで見てて上げるから...」

 

そう言って、菖蒲のは鳥羽の隣に腰をおろした。

突然距離が近くなり、鳥羽は全力でキョドり始める。

 

「...あ、うん、ありがと…っ!で、でも、さっきので大体"解った"から……!」

「え?でも、まだ一度見ただけじゃ……」

 

デッキをセットしゲームを始めようとしたその時。

 

「はーい、みんな~!もう日が暮れるから、今日はもうおしまいにしましょうね〜?」

 

看護師と思われる女性から、自由時間の終了が告げられた。

病室への到着が遅れてしまった事もあり、外はもうすっかり日が暮れていた。

 

「...残念だけど、今日はもうおしまいだね」

「そっか..。それじゃ、このデッキ、返すね」

 

結局一度もプレイすることなく終わってしまった事もあり、少し名残惜しそうにデッキを返す。

しかし菖蒲は、差し出されたデッキ遮った。

 

「...いいよ、返さなくて。そのデッキ、君にあげるから」

「ええええぇ!!」

「大事なデッキ上げちゃうのー!!」

 

仙川の言葉にその場にいた全員が驚きの声を上げた。

 

「いいのかよ姉ちゃん!それ、次の大会で使う予定だったやつじゃねぇかよ!!」

「お兄ちゃんだけずるーい!私も欲しい!」

「みんなは自分のデッキ持ってるでしょう?...それに、次の大会はもう、出られそうにないから...」

「お姉ちゃん...」

 

周囲の反対を制し、菖蒲は続ける。

 

「何より、私の大好きなデュエマを、君も好きになってくれた事が嬉しかったの。私の気持ちだと思って、受け取ってくれない?」

「...うん、ありがとう...!大事にするよ!!」

 

貰ったカードを握りしめ、喜びがこみ上げる。

ここでなら楽しくやっていける。鳥羽は、期待と喜びで胸がいっぱいだった。

 

 

「♪〜」

 

翌日の放課後。相変わらず鳥羽は周囲と馴染めずにいたが、それでもいつもの様な沈んだ表情は見られなかった。

 

「お!どしたトバッチ!今日は機嫌いー見てーじゃん!」

 

帰り支度をしていると、隣席の並木が声をかけてきた。

 

「うん。この後、人と会う約束があるんだ…」

「ほ〜ん。さては、昨日の放課後、なんかあったな?」

「え、えと...、まぁね。...それより、そのとばっちって...」

「あだ名だよ、あだ名!いつまでも転校生じゃよそよそしーだろ?」

 

いつもの人なつっこい笑みを浮かべながら、鳥羽の背中をバシバシ叩く。

痛かったが、不思議と嬉しかった。

 

「オレ達もう友達じゃん?俺の事もタローでいいぜ!」

「ありがとう...!じゃ、えっと...。よろしくね。タロー...くん」

「って、くん付けかよ!!でもお前らしーから許す」

 

そこまで言うと、勢いよく机から立ち上がり向き直る。

 

「じゃ、オレもう部活いくわ!休みの日はまたどっか案内してやるからよ!バイビー!!」

「...あ、バイバ...。行っちゃった」

 

鞄を背負い立ち上がると、自分も教室を後にする。

 

「さ、早く仙川さんのところに行かなくちゃ!」

 

 

「ーーあれ」

 

放課後、病院の休憩所にやってきた鳥羽を出迎えたのは、昨日と変わらぬ笑い声...ではなく、空いた窓から吹き抜ける寂しい風の音だけだった。

 

「あら、あなたは...」

 

呆然と立ち尽くす鳥羽に声をかけたのは、昨日の看護師だった。

だが、昨日子供たちに対してに向けたような活気はなく、その表情は曇っている。

 

「...あ、あの。...今日は誰も来ないんですか...?」

「......」

 

看護師が何か言おうとした所で、一度言葉に詰まる。

何かがあったと、只ならぬ様子を感じ取った鳥羽が続けて問いかけた。

 

「...彼女に、何かあったんですか...?」

 

 

「...はぁっ!はぁっ!」

 

菖蒲が倒れた。

それが看護師から聞かされた事実だった。

ざっくりと道順だけを聞き、すぐ走り出す。

なりふり構わず廊下を走る。後ろの方で何か注意を受けた気がするが、構わず走り続けた。

せめて昨日、病室の場所だけでも覚えて変えればよかったと、今更になって後悔する。

 

「(...せっかく、見つけたと思ったのに……!!)」

 

思わず涙が流れる。こんな時にはいつも、最悪の事態を想像してしまう。

 

「ちくしょうっ...!!」

 

顔をグズグズにしながら、教えて貰った病室にたどり着く。

 

「仙川さん!!」

 

ノックもせず、無作法に開いたドアの向こうにいたのはーー

 

「.........え」

 

どう見ても着替え中の菖蒲だった。

 

「.........」

「.........」

 

「どっしぇえええええええっ!!!??」

 

 

「...ご、ごご、ごめ、ごめ、ごめんなさいごめんなさい...!!」

「...ううん。カーテンも閉めずに着替えてた私にも責任はあるから...。...でも、入る時はノックくらいしてね...」

 

気にしないでと語る菖蒲だが、顔は真っ赤に染まっており、まともに目も合わせられない始末である。

 

「...ほ、ほほ、ホントにごめんなさい!!次は絶対気をつけるから!!...でも、仙川さんが倒れたって聞いて、いてもたってもいられなくて...」

「あはは...。倒れたって言っても、少し目眩を起こしただけだよ。病院の人達ったら、大袈裟なんだもん。困っちゃうよ」

 

何でもないよと笑って返す菖蒲。

その表情からは、鳥羽の不安を煽るような苦しさは微塵も感じられなかった。

 

「そっか、よかった〜...」

「でもお陰で、今日はもう絶対安静。デュエマは出来そうにないね...。申し訳ないけど、明日また来てくれる?」

「...うん、わかった。今日はゆっくり休んでね」

 

安堵の表情を浮かべながら、鳥羽は病室を後にした。

 

「(...時間余っちゃったな。そうだ、家に帰って、昨日もらったデッキの見直しでもしようかな?)」

 

この後の予定を考えつつ、帰ろうと歩き出したその時。

 

「......腫瘍がどんどん大きくなっています。このままのペースで広がっていけば......、非常に危ないです」

「...先生!!はっきり仰って下さい!!」

「仙川さん!落ち着いて!」

 

廊下を渡った先の診察室から、なにやら大声が聞こえてくる。

いつもなら関わらないよう立ち去るところだが、聞き覚えのある名前に思わず立ち止まってしまう。

 

「さっき、"仙川"って...」

 

いけない事とは思いつつも、壁に寄りかかり聞き耳を立てる。

なにやらただ事ではない事だけは解った。

 

「...ここまで来ると、もはや手の施しようがない...。もって後半年、と言ったところでしょう...」

 

 

「.........」

 

帰り道。貰ったデッキを握りしめ、雑踏を歩く。

 

「(......なんでだよ)」

 

気が付くと、涙が零れていた。

やっと見つかったかもしれない自分の大切な友達が、理不尽な現実によって奪われようとしている。

 

「(...どうして僕みたいなダメダメな奴がピンピンしてるのに、彼女みたいな、あんないい子が死ななきゃならないんだ...!!)」

 

現実が受け入れらなかった。

思わず力が入り、強くデッキを握り締めたその時。

 

『いでででで!!いきなり何すんだよぉ!!』

「なんだ......?」

 

突然、すぐ近くから何者かの声が聞こえてきた。

しかし周りを見返してみても、自分に話しかけてくるような人物は見当たらない。

 

『たくっ、乱暴な奴だなぁ...。...それより、なんかお困りみたいだな?』

「...な、なに?誰なの!?」

『まぁ聞いてくれよ。...なぁ。もし、たった一つ、何でも願いが叶う方法があるとしたらどうする?』

「...!あるの!?彼女を助ける方法が!?」

『...おう。あるぜ』

 

直後、鳥羽のケータイに着信が入る。

宛先人不明のメールが一通。アドレスも文字バケしてしまっていて確認出来ない。

メールの本文には、簡素な質問が一つ。

 

「エントリーしますか。しませんか...?」

『そう。そいつに返信してエントリーするだけだ。...最も、必ず叶うとは限らないし、それなりに痛みも伴う。...それでもやるか?』

 

低く、試す様な声で問いかける。

しかし鳥羽は、声の主に答えを返すより先に、メールを送信した。

 

『...ちょ、おま、ヒトの話聞けよ!?』

「...これで仙川さんをたすけられるなら、やるよ…!」

 

そう返す鳥羽の声は震えていたが、瞳には、決して揺るがない意志が感じられた。

 

『...気に入ったぜ!』

 

しばらくすると、突如協力な眠気が鳥羽を襲う。

 

「...な、なに...?」

『おっと。次回以降は気をつけとけよ。なんせ会場は...』

 

声を最後まで聞き終わる前に、立っていられなくなりその場に倒れ込む。

 

『...”夢の中”だからな』

 

 

「...う、ん...」

 

鳥羽が目を覚ましたのは、全く見覚えのない一室の中だった。

六畳程のスペースにベッドが一つと、机が一つ。

宿泊施設かのようにも思えたが、その割にはあまりにも簡素すぎる。

 

「こ、ここは...、...夢、なの?」

 

何より一番不可解なのは、ここが夢の中であると自覚できた事だ。

意識ははっきりしているのに、どこか現実とは違う様な、妙な感覚。

 

『お!やっと起きたか!』

「...あ、さっきの声...」

 

すると、意識が落ちる寸前に聞こえていた先程の声が、また聞こえてきた。

 

「...ねぇ、君は一体誰なの?」

『おう、オイラは...』

 

すると、話し終わる前に、突如ブザーのような音が声をかき消した。

音がなり終わると同時に、ヘアのドアの鍵が開く音がした。

 

『うわわっと!おしゃべりしてる暇はないみたいだな!ほら、早く行かねぇと!』

「...え?う、うん...」

 

声に急かされ扉を開ける。

ドアの先に広がっていたのは、ただただ真っ白な空間だった。

 

「な、なんだこれ...。...うわっ!」

 

淡い光に包まれ、思わず目を閉じる。

ゆっくりと、瞼を開いたその瞬間ーー

 

 

「「ワアアアアアアアアアッ!!!!!」」

 

地面を揺るがす様な、あまりにも大きな歓声。

先程の閉鎖的な空間から一変。鳥羽が立っていたのは、映画で見たような、コロシアムの会場だった。

しかし、明らかに異常なのが、観客の殆どがどう見ても人間ではない事だ。

機械仕掛けのロボットや、二足歩行のトカゲや獣。中にはちらほら自分と同じような人間も見受けられるが...

 

「...な、なに!?何が起こって...」

『さあ始まりましたぁ!!『ランド大陸王位争奪戦』!!1回戦第50試合目!!実況は私、《炎舌実況 DJ・ショー》が務めさせて頂きます!!』

 

会場アナウンスから流れる実況。

その中で気になったのは、いくつかのキーワード。

 

「(『王位争奪戦』...?)」

『おい。あんまりうかうかしてられないぞ。...見ろ』

 

鳥羽と、その向かい側にスポットライトが当てられる。

 

『さあ、まずは出場選手の紹介だ!!...もっとも、まだ一回戦だから使用デッキは不明ですが...、しかし!その分予想もつかない展開が期待できそうです!!さ、両者とも!ステージへ!!』

『おし!行くぞ!!』

「...う、うん」

 

実況に促され、向かい合った両者が壇上に上がる。

相手は、鳥羽よりも少し年上だろうか、ガタイの良い、高校生くらいの少年だ。

不敵な笑みを浮かべながら、こちらの様子を伺っている。

 

『まずは赤ッコーナー!!十文字 篝(かがり)選手ーー!!』

「うおおおおお!!」

 

対戦相手が拳を突き上げ、客席に叫びを上げる。

それに答える様に、客席から歓声が巻き起こる。

 

『なんとなんと、十文字選手は人間界での公式大会でナンバー8に勝ち残った実力者!!今大会の上位入賞候補の一人です!!...さぁ十文字選手!試合前に一言!!』

 

対戦相手、十文字にスポットライトがあたり、彼の元に、服を着た獣人がマイクを運ぶ。

この大会のスタッフか何かだろうか。

 

『...ハンっ!上位入賞候補ってのが気に入らねぇなぁ...!優勝候補の間違いじゃねぇのかぁ!?』

「「ワアアアアアアアアアアアッ!!!!」」

『おおっと!これはすごい自信だー!!さすがはベスト8と言ったところかー!?これは期待できそうです!!…それでは、続きましてーー』

 

そこまで言ったところで、スポットライトがこちらに当たる。

会場の注目が一気にこちらに集まった。

 

『青ッコーナー!!鳥羽 革 選手ーーー!!』

「うわ!まぶっ...、ってうわぁ!」

 

突然の強い光と会場の雰囲気で、思わず何も無いところで転んでしまう。

先程の歓声とは打って変わって、笑い声が会場に湧き上がった。

 

『おおっと!鳥羽選手はかなり緊張している様ですねー!それもその筈!なんと鳥羽選手は、公式戦歴は一切なし!エントリー締切5分で滑り込み出場を果たした、無名のラッキーボーイだ!果たして!十文字選手という上位入賞者候補...、おっと失礼。優勝候補相手に、どの様なファイトを見せてくれるのかーー!?』

 

立ち上がった鳥羽の元に、先程のスタッフがマイクを運んでくる。

 

「うわ、えと...」

『さ、鳥羽選手!!景気よくいっちゃってー!!』

『...え、えと。...が、頑張ります...』

 

あまりにも頼りないマイクパフォーマンスが終わると、またしても笑いが巻き起こる。

 

「頑張れよー!ガキンチョーー!!ちょっとは応援してやるぜー!!」

「やーん!怯えてない?カワイー!」

「今ならまだ帰ってもいいんだぜぇ!?」

 

会場の雰囲気は、どう見ても十文字に味方していた。

当の十文字も余裕の表情で挑発する。

 

「おいおい...。初戦だからって気合入れてきたのに、そんな調子で大丈夫かよ、チキン野郎!!」

「......」

『おい!!』

 

何も言い返さない鳥羽に、先程の声が少し苛立った様子で話しかける。

 

『...言われっぱなしじゃねえか!なんとか言い返せよ!!』

「...だって、正直、こわいよ。君がなんなのかもよくわかんないし、この状況も意味わかんないし、今すぐにでも逃げたいよ...!」

『………』

 

改めて考えてみれば、今、鳥羽が置かれている状況はあまりにも異常だ。

得体の知れない声に導かれ、挙句の果てにはおかしな夢まで見てしまっている始末。

怖気づかない方がおかしい。

 

「...でも」

 

それでも、湧き上がる恐怖を勇気で押し殺し、一歩を踏み出す。

涙目で、声も震え、膝も震え、生まれたての小鹿の様な状態でも。

歯を食いしばり、まっすぐ前を見据え、震える声で。

 

「仙川さんを救えるんなら、絶対勝つ……!!」

『...おし!やれんだな!!』

「うん...!!」

 

『さあ!それでは準備はいいかー!?二人とも、デッキをセットして下さい!!』

 

突如、選手二名の前に透明なデスクが展開される。

デッキをシャッフルし、所定の位置にデッキを置く。

 

『さぁ!それではいくぞーー』

 

実況に促され、観客が、スタッフが、選手が。一斉に声を上げた。

 

「「デュエマ・スタートォ!!!」」

 

『見せてやろうぜ!!チキン野郎の革命ってやつを!!』

 

 

 

 

 

〜つづくかも〜

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