チキンハート・レボリューション   作:モクロウ

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真夏の夜の熱狂(意味深)


悪夢よりの追跡者

場所はとある病院の一室。

入院患者同士の交流の為に開放された多目的室は、年齢層の低い患者達のデュエルスペースと化している。

そうなるに至った経緯としては、とある少女の布教活動あってのことなのだが、それはまた別の話。

その日も、いつもと変わらず子供たちと、そのお世話役兼先生を務める仙川菖蒲が、和気藹々とデュエマを楽しんでいたのだが...。

 

「久しぶりやな、仙川。俺の顔、忘れたとは言わせへんで...!」

 

なんか変なのが来た。

 

多目的室の扉に背中を預け、不敵な笑みを浮かべながら挑発的な視線を仙川に送っている。

 

「あ、貴方は...!」

 

一方、敵意をバリバリに浴びている当人である菖蒲は、ハッと息を呑むと...。

 

「...だぁれ?」

 

「あぁ、その通りや!半年前のあの準決勝...!息を呑むような接戦で苦しくも敗北を期した......。...って、覚えてへんのかーいっ!!」

 

菖蒲の容赦のない誰てめえ発言に、騒がしくノリツッコミをかます少年。

ズビシッと効果音が聞こえてきそうなぐらい気前よく虚空をはたくと、腑に落ちない様子で地団駄を踏んだ。

 

「こっちは遠路はるばるここまで来てやったんやぞ!そらないやろ!泣くぞコラ!」

「ふふふ、冗談だよ冗談。去年のトーナメントで当たった人だよね?」

「解りづらいボケすなや...。本気でツッコんでもうたやないかい...」

 

出だしから菖蒲にペースを乱されっぱなしの少年。

傍目に見ていた周囲の子どもたちからも、両者の上下関係はもはや勘ぐるまでもなく確定したのだった。

少年は取り乱した呼吸を整え、表情を元の余裕ぶったものに戻すと、再び扉に背を預ける。

 

「せやかて、改めまして自己紹介や!」

 

「(誰も頼んでないのに...)」

「(騒がしいヤツ...)」

「(この間のお兄さんといい、中学生て変な人ばっかなの...?)」

 

周囲の子どもたちにの冷ややかな視線に気づくはずもなく、関西弁の少年は大層調子が良さそうに高らかに名乗りを上げた。

 

「この俺こそ!西日本最強と謳われた決闘者!その名を、おおがm」

「こんにちは!仙川さーー」

 

少年が言い終わるのを待たずに、彼の背後の扉が突如開かれる。

無論、体重の拠り所をなくした彼の全身は、そのまま扉を開けた人物の元へ雪崩込む。

 

「のわぁ!!」

「いでぇ!?」

 

不意に体が傾いた関西弁の少年は勿論の事、扉を開けた赤髪の少年、鳥羽革も、少年の体を支えることが出来ず倒れ込んでしまった。

 

「なにやってるんですか...」

 

そんな二人に、後方に下がりちゃっかり回避していた泉美が、呆れるような視線を送っていた。

 

 

「だーっ!もう!どいつもこいつも邪魔しおって!これやからガキンチョはキライやねん!!」

「...えぇっと、君も同い年くらいに見えるけど...」

「...なんやモヤシ。お前歳は?」

「えと...、十二...」

「俺は十三!!中二や!!」

「ひぃ!!」

 

結局、初登場がぐだぐだに終わってしまった少年は、行き場のない憤りを鳥羽にぶつけていた。

理不尽なクレームを真正面か受ける鳥羽も、慣れない年上相手に萎縮してしまっていた。

 

「おい仙川!ってかなんやこのモヤシ野郎は?お前の知り合い...」

 

「...私は温水泉美と申します。鳥羽くんのデュエ友をさせて貰っています」

「ご丁寧にありがとう。私は仙川菖蒲だよ。宜しくね」

「オィイイイイイイッ!!無視すなや無視ィ!!」

 

存在そのものをガンスルーされ、勝手に自己紹介に入る少女二人。

すかさず、またまた特大のツッコミが炸裂するが、周りの子供たちも謎の騒がしい関西人には愛想を尽かした様で、二人の周りを取り囲んでいた。

 

「何で先に来た俺より後から来たそいつが先に自己紹介しとんねんっ!!?順番が逆やろっ!!」

「あぁ、確かに」

 

合点がいったと言うように拳を手のひらにポンっと乗せ、『なるほどのポーズ』をとったかと思うと、皆の前に向き直り、全体に聴こえるように言った。

 

「みんな。彼の名前は《大上 久朗(おおがみ くろう)》くんだよ。宜しくしてあげてね?」

「んでもって結局自分で自己紹介させてくれへんのかい!!!」

 

菖蒲から紹介を受けた少年、久朗は、菖蒲の気持ちざっくりしすぎな自己紹介に不服だったのか、これまた声を荒らげ喚き散らす。

 

「ってか、俺はお前にリベンジマッチしに来たんや!エキストラのガキどもを巻き込んだしょーのないコントをしに来たんとちゃうわい!」

 

そして、その怒り心頭の表情のまま、懐からデッキを取り出し、菖蒲に向けて突き出した。

 

「まさか、あの最強の名を欲しいままにした伝説の決闘者、《竜姫(ボルシャック・プリンセス)》ともあろうモンが、勝ち逃げしようってんじゃないやろな?」

 

「(......???)」

 

なにやらシリアス顔でよくわからない単語を口走る久朗。

一瞬、思考を放棄するが、次の菖蒲の発言で再び思考回路がレッドゾーンに突入する。

 

「ふふ。...流石はその執念深さから《悪夢よりの追跡者(ナイトメア・ストーカー)》と呼ばれただけはあるね。粘り強さだけなら、私でも敵わないかもね?」

 

まさかの便乗。

 

久朗の挑発に対して、先程までの穏やかな気配はなりを潜め、しかし、何処か余裕を保ったまま軽口を返す菖蒲。

ただならぬ雰囲気の二人を前に、鳥羽は。

 

「え...なにこれは...」

 

混乱していた。

 

 

「僕の知ってる仙川さんとちょっと違う!」

 

聞き慣れないちょっとイタイ通り名の応酬に、思わず叫びを上げる鳥羽。

憧れの思い人が、今まで自分が思っていたそれとは大きく違い、なんとなく受け入れ難い。

 

「...まさか菖蒲さんがあの《竜姫》だったなんて...!話を聞いていてまさかとは思いましたが、感激です...!」

「ややや。待って待って。僕を置いてかないで。説明して。お願い」

 

鳥羽を置き去りにして、勝手にキラキラと羨望の眼差しを送っている泉美に情報の開示を要求する。

先の言葉から察するに、泉美は菖蒲の通り名について知っているようだ。

 

「かつて、《ボルシャック》と名のつくドラゴンを使いこなし、ありとあらゆるデュエマ大会を総ナメにした天才少女が居たという...。その圧倒的且つ優雅に敵を葬る様から、付いた渾名が《竜姫》...!」

「とりあえず君たちの界隈で変な渾名が流行ってるってことはわかったよ...」

 

いまいちその場のノリに着いていけていない鳥羽は、『そんな大層な渾名をつけられるなんてやっぱり仙川さんはスゴイや!!!』と無理矢理自分を納得させ気持ちをリセット。

興味の対象を久朗へと移し、これまた事情に精通していそうな泉美に質問を投げかける。

 

「じゃ、じゃあ、あっちの人は?」

「さぁ...知りませんね。文字通り、夢に出るレベルで悪質なストーカーって意味なんじゃないですか?」

「聞こえてんでゴルァ!誰が悪質ストーカーや!」

「まぁ大上くんは関西を中心にデュエマしていたから、知らなくても仕方はないね。でも、向こうではかなり名の知れた実力者で、西日本最強の呼び声も高いくらいなんだよ?」

 

菖蒲の言葉に期限良くウンウンと頷き返す久朗。

先程までからのお調子者らしい言動からイマイチ納得いかないが、自分すら適わなかった菖蒲にここまで言わせたのだから、強者であるものは明らかだろう。

 

「ま、てなわけで負けっぱなしでいるんは俺のプライドが許さんのや。...黙って相手してもらおか?」

「...そうだね。わざわざ来てくれたんだし、全力でお相手させて貰おうかな?」

 

椅子から立ち上がり、鳥羽と久朗のいる入口付近に向かう菖蒲。

久朗の正面、鳥羽の隣まで来て足を止めると、ポンと鳥羽の肩に手を置き、答えた。

 

「この鳥羽くんがね?」

「...ふぁっ!?」

 

突然の指名を受け、慌てふためく鳥羽。

一方、要求に対して予想外の回答が帰ってきたせいか、久朗は不服そうに鳥羽を凝視している。

 

「おい、なんて言うたんや仙川。俺の相手が、このなよなよしたモヤシやゆうんか?」

「うん♪」

 

しかし、聞かれた菖蒲も穏やかな表情はを崩さず平然と答える。

 

「ちょ、ちょっと仙川さん!?どういう事!?」

「彼はね、現在赤マル急上昇中の私の一番弟子さんなの。彼に勝てたなら、私も対戦してあげる」

「...ほう」

 

ひとしきり菖蒲の話は聞いた後、目線を再び勝負の元に戻す久朗。

面白そうに、にやりと笑いながら、菖蒲の提案に乗ってきた。

 

「ま、前座には丁度ええやろ。さっきまでの腹いせにギタギタにしたるから、覚悟せえや!」

「そ、そんなぁ...」

 

 

という訳で久朗とデュエマをする事になった鳥羽。

多目的室の机に向かい合って座り、お互いにデッキをシャッフルしている。

 

『なんだか面白いことになったッチね』

「ドラッチ...」

 

準備を進める鳥羽の手元のカードから顔を出したのは、ラブ・ドラッチだ。

しかし、その言葉とは裏腹に、真剣味な表情で久朗を一瞥しながら言う。

 

『にしても、気を付けた方がいいッチ。...アイツからは、クリーチャーの気配がビンビン感じるッチ!』

「え...、それって」

 

「ーーこそこそと作戦会議かなんかか?」

 

そんなふたりのやり取りを、まるで聞こえているぞと言わんばかりに割って入る久朗。

卓上にシールドを配置しながら、淡々と語っていく。

 

「まぁええわ。どっちみち、お前とはデュエルする事になったやろうしな」

「...ま、まさか...」

「......お前も”大会”でとるんやろ?《チキンハート》さんよぉ」

「...!?」

 

予想通りの鳥羽の反応に気を良くしたのか、口元から八重歯を覗かせ、イタズラっぽく笑う。

シールド、手札を準備し終えると、己のデッキに向かって言葉を投げかける。

 

「前もって、実力の差ってもんを教えてやろうやないか。...なぁ、ボロフ?」

『まぁまぁ。相手は初心者みたいだし、少しくらい手を抜いてやったらどうなんだ、クロ?』

 

久朗の呼びかけに答え、デッキから顔を覗かすのは、狼のヌイグルミの様なクリーチャーだ。

その手にはボクシンググローブの様なものをはめており、上半身のみをひょっこりと覗かせたポージングも相まって、とても可愛らしく見える。

 

「な、なんかかわいいのが出てきたよドラッチ...!いいなぁ...。僕、実は犬派なんだよね...!」

『...んな呑気なこと言ってられんのも今の内だッチよ。こりゃ、とんでもねーのが出てきやがったッチ』

「何言ってんのさドラッチ。だってあんなにかわいいんだよ?」

 

今すぐにでもモフりたい衝動を必死に抑え、軽く興奮する鳥羽。しかし...

 

『それにさ。簡単に殺っちゃったら楽しくないだろ?どうせなら、じっくり楽しんで殺りあおうじゃないか!』

「ひっ...!」

 

思わず背筋に寒気が走った。

愛らしいマスコットの様な見た目に反して、その発言はあまりに物騒なものだ。

まして、まるでこれからパーティでも始めるかのように楽しそうに言うものだから、一層気味が悪い。

 

『落ち着けッチ。これは本戦でもない野良デュエル。向こうも安易に実体化は出来ないはずだッチ』

「う、うん...」

 

襟元をただし、おっかなびっくり改めて久朗に向かい合う鳥羽。

早速臆病風に吹かれつつある鳥羽を見て、久朗はケラケラと楽しそうに笑っている。

 

『殺ったねクロ、こりゃ思ったより殺りがいがありそうな相手だ!』

「ハン!ほな、とっとと始めよか。言うとくけど、俺はめっちゃ強いで...!!」

 

そして今、白く平和な一室で、黒く残忍な闘いが始まった。

 

 

 

 

〜つづく〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「(二人とも、なんか独り言多いなぁ。...楽しそう♪)」

 

 

「(ビビりまくるアラタさん...、可愛いです...!)」

 

 

一方、少女二人は、どこまでもマイペースなのであった。

 

 

 

 

 

〜おわれ〜




鳥羽くんの次なるお相手は、デスをシラないあのお方?
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