「「デュエマ・スタート!」や!」
都内のとある大型病院。
患者達に開放された多目的室に、デュエル開始の合図が響く。
「うぅ...」
しかし、デュエマに投じる鳥羽の表情には若干の怯えが見受けられる。
それは、自身と向かい合う少年、大上久朗が殺る気満々の笑みを浮かべこちらを睨みつけている事に他ならない。
「ほな、先攻は頂くで!...1マナチャージして、ターンエンドや」
「...僕のターン。1マナ貯めて終わりで」
両者、一ターン目はマナチャージのみに留まりターンエンドを宣告。
鳥羽は変わらず火文明単色の構成。火のカードをマナゾーンへと置く。
対する、久朗のマナは、
「闇文明、《ポーク・ビーフ》ですか。通り名に"ナイトメア"なんてあったものですから、ある程度予想はしていましたが...。闇単色のファンキー・ナイトメアデッキ、と言ったところでしょうか...」
二人のデュエマを傍らから観戦する泉美の口から独り言が零れる。
昔からデッキビルディングばかりにかまけ、対人戦をチャットでのデュエマばかりで行っていた泉美は、戦況を一々口にする癖があった。
しかし、そんな彼女の悪癖を自身への問い掛けと受け取ったのか、菖蒲が楽しげに応答する。
「ご明察。泉美ちゃんも、なかなかに玄人みたいだね?」
「あ...、ありがとうございます。...ですが、ストーカーさんの超次元ゾーンを見れば、ある程度の経験者なら解ると思いますよ」
泉美の視線の先にあるのは、久朗の超次元ゾーンに置かれた一枚のカード。
禍々しい正気を放つ闇色の凶刃を、忌々しげに見つめていた。
「チャット対戦で私も何度か見ましたが、...厄介なカードです。まして使い手が、《
「うんうん。...ふふ。どうやらほんとに、かなりの実力者みたいだね、泉美ちゃん」
泉美の考察に興味深げに相槌を打つと、機嫌よく微笑む菖蒲。
長い間子供たちと戯れのデュエルを行っていた事もあり、久しぶりに話の通じる相手に会えてゴキゲンのようだ。
「泉美ちゃんの言うとおり、凄く強いよ、彼は。...だからこそ、鳥羽くんにデュエルして欲しかったんだけどね?」
「?」
菖蒲の言葉の真意を掴みかね、首を傾げる泉美。
一方菖蒲は、自身の教え子を優しく見守るように、鳥羽に視線を送っていた。
「大上くん、今回は『お城』の方は使わないんだね。...鳥羽くんに、一体どこまでやれるかな?」
※
続く先攻二ターン目。先に動き出したのは大上だ。
「俺のターン!マナを一枚貯めて...、《オタカラ・アッタカラ》召喚や!」
2マナをタップし、クリーチャーを召喚する。
場に置かれたのは、血走る目玉が目を引く、宝箱の様な怪物の描かれたカードだ。
勿論、大会でのデュエマではない為、実体化はしないが、その不気味なビジュアルが、鳥羽の不安を煽る。
「こいつは登場時、山札の上二枚を墓地に送ってくれる、闇文明にとってはそれはそれは使い勝手のええやつでな。初手で出せたのは、ホンマ幸先ええわ」
《オタカラ》の効果により、山札の上から二枚が墓地に置かれる。
墓地に落ちたカードを確認すると、久朗はケラケラと愉快そうに笑いながら、《オタカラ》のカードを指先で優しく弾く。
「っしゃ!ええ仕事したでぇ!ほな、俺はこれでターンエンドや」
「じゃあ、僕のターン...」
ターンは鳥羽に移り、山札の一枚目をドローする。
己の手札と、相手の場、マナ、墓地を見ながら少しのシンキングタイム。
「(自分の墓地を増やすカード。あれも"墓地ソース"って奴なのかな...)」
思考の傍ら、鳥羽の脳裏を過ぎったのは、一回戦で戦った十文字とのデュエルだ。
過剰なまでの墓地肥やしからくる予測不能の大量展開と、その速攻性。
苦しくも勝利を収めることは出来たが、あの時はシールド・トリガーと革命0トリガーに助けられた運的要素が強い。
「(今回も前みたいな...ワンショット型?かどうかはわからないけど、一斉攻撃には警戒しといた方がいいかも)」
鳥羽の視線を落とした先には、手札にあるニ枚の《革命の鉄拳》。
「一マナ貯めてターンエンド...」
「...あん?」
鳥羽がマナに置いたのは、このターンに召喚できたはずの《ラブ・ドラッチ》。
「(手札は結構整ってるし、守りの札はある程度握っておきたい...。悪いけど、今回は下がっててね)」
「(おうよ、やりたい様にやりやがれッチ)」
相手の出方がわからない以上、以前の同系統のデッキの試合展開から守りを固める事を選択する。
「せっかく手札に来たのに召喚せんのかいな。...まぁええわ。どうゆうつもりかは知らんけど、こっちもその間に仕込みを進めとくで?」
※
大上の三ターン目。3マナをタップし、久朗が繰り出したのはクリーチャーではなく呪文だ。
「《ボーンおどり・チャージャー》。またまた山札を2枚が肥すで!しかもこいつはチャージャー、使った後はマナに置かれるんや!」
マナと墓地を一度に潤し、確実に準備を進める久朗。
「(うえぇ...。なんかすごい順調そう...)」
墓地とマナを見渡しながら、イタズラを仕掛けるワルガキの様に愉しげに笑っている。
そんな久朗の態度が、やはり鳥羽の不安を煽るが、
「(まぁでも、僕もそれなり順調だけど...!)」
続く鳥羽のターン。3マナタップし、クリーチャーを召喚する。
「《コッコ・ルピア》を召喚するよ。...これでターンエンド」
鳥羽が召喚したのは、毎度お馴染み《コッコ・ルピア》だ。
能力に関しては、最早説明不明であろう。
「なるほど。《ドラッチ》をマナに置いたのは、出す必要がなかったから、ですか。...手札の温存を考えてのナイス判断です!さすがアラタさんです!」
「いや、えっと、そんな明け透けに解説されるとちょっと困るんだけど...」
泉美の贔屓目バリバリのコメントに困惑する鳥羽。
しかしそれでも、対する久朗も余裕の態度を崩さない。
「ふーん。まぁ?お前がどんだけ順調でも俺の勝利は変わらんわ。...こっから更に加速すんで!一マナ貯めて、《パックポック・ピッグ》を召喚や!」
一転、ギラリと目を滾らせると、チャージャーによってブーストしたマナから5マナのクリーチャーを召喚する。
豚の、これまたヌイグルミの様なクリーチャーだ。イラスト中では、食い倒れて目を回しており、なんとなく愛嬌がある。
「こいつはバトルゾーンに出た時、なんと一度に五枚も山札から墓地に遅れるんや!」
「ご、五枚も!?」
久朗の山札の上から、一気に五枚のカードが墓地へと葬られる。
「それだけやないでぇ!しかもこいつは、墓地のファンキー・ナイトメアの数だけパワーが上がるっつうオマケ付きや!」
前ターン、前々ターンの墓地肥やしにより久朗の墓地は既に九枚。
その全てがファンキー・ナイトメアという訳ではないが...
「ひー、ふー、みー...。ナイトメアは全部で七枚!これでパワーは8000まで底上げや!ターンエンドやで!」
「8000、か...」
鳥羽にターンが渡り、またしても短い思考。
考えがまとまると、チャージして四マナになったマナゾーンのカードを全てタップする。
「...だったら勝てる!」
場の《コッコ・ルピア》を進化元に、己を切り札を重ね進化させる。
「行くぞ!《コッコ・ルピア》を《革命龍 ドラッケン》に進化だ!」
『ドォラァアアアア!お久しぶりの!俺様、参・上!』
場に出したのと同時に、卓上の《ドラッケン》のカードから、ミニチュアサイズのドラッケンご本人が出現する。
最近進化の機会がなかったからか、特に意味は無いがテンションが上がって出てきてしまったご様子。
「進化クリーチャーは召喚酔いしない!このままシールドをWブレイクだ!...その時、能力発動!山札の一枚目がドラゴンなら場に出せる!」
宣言と同時に、山札の一枚目を捲る。
引いたそのカードは...
「来た...!《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》!」
「うわ!?ホンマに引きおる!?」
ドラッケンの能力により、《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》がバトルゾーンに出される。
件の一回戦でも活躍した、鳥羽の奥の手。ブレイクしたシールドを直接墓地に叩き込む、殿堂入りカードだ。
本来であれば十マナという多大なコストを要する重量級だが、ドラッケンの能力の前では、それも気にならない。
「びっくりしてるところ悪いけど、ドラッケンの攻撃は続いてるよ!」
「わかっとるわ!...チッ、トリガーはないで」
手札に加わるカードを忌々しげに見つめながら舌打ちする久朗。
そんな久朗に、鳥羽も容赦なく追撃を加えていく。
「次!《サファイア》でTブレイク!」
鳥羽の《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》のアタックが通り、その能力により久朗のシールドを墓地に葬る。
トリガーの発動も許さず、相手のシールドを一気にゼロへとたたき落とした。
「.........」
「(うわぁ...、なんだか怖いくらい順調に進んでるぞ!この調子で行けば...)」
自身の圧倒的有利に手応えを感じ、安堵する鳥羽。
しかしーー
「あー、アカンでお前。今、内心勝った思たやろ?」
そんな鳥羽の心象を見透かすように、呆れた様な視線を送る久朗。
自身のカードの効果と、"《サファイア》のシールド燃却によって"墓地に置かれたカードを手で持て余しながら、獰猛に、ギラリと笑う。
「それな、死亡フラグやで?」
※
「っしゃ!俺のターンや!」
自分のターンが回ってきた久朗は、ここぞとばかりに調子よくカードを捲る。...その前に。
「マナ武装5、発動!」
「...え?」
突如、能力発動の宣言と同時に、山札の上五枚を墓地に叩き込む。
それと同時に、久朗の墓地から一体のクリーチャーが現れた。
「こいつは《シバカゲ斎》。自分のターンの初めに闇マナが五枚以上あれば、山札のカード五枚と引き換えに墓地から出せるんや!」
「ま、またぁ!?」
『んだよてめえ!そんなに墓地を肥やして、一体何がしてぇんだ!?」
執拗なまでの墓地肥やしに、思わず抗議の声を上げるドラッケン。
「それはこっからわかる事や...!《龍覇 ウルボロフ》!召喚や!」
『オーライ。待ちわびたよ...!』
久朗が召喚したのは、先程デッキから顔を覗かせていた、彼の相棒と思しきクリーチャーだ。
「(...!警戒していたやつが来た)」
相手のエースカードの登場に一瞬心がざわつくも、自分に言い聞かせるように、互いのアドバンテージの差を見て冷静を保つ。
「(シールドも全部割り尽くして、こっちは大型を二体も抱えてるんだ。負けっこない!...でも)」
そんな不利の中でも、変わらずギラついた笑みを送ってくる久朗に、自身の第六感が危険信号を発している。
「(あの人の顔、..."負ける気がしない"って顔だ...!)」
「《ウルボロフ》の効果でコスト四以下のドラグハートを装備する!」
「クリーチャー、じゃない。あれは、武器...?」
このデュエルは王位争奪戦ではない野良デュエル。故に、クリーチャーが実体化をすることは無い。
それでも尚、久朗の繰り出すそのカードは、抑えきれない禍々しさと殺意を放ち、その存在を主張する。
『おいで、俺の滅殺刃ーー』
「《ゴー・トゥ・ヘル》、装備や!!」
殺意に塗れた漆黒の凶刃が、闇に照らされ不気味に輝く。
ーー全てを壊せと、邪悪に輝く。
〜つづく〜