デュエマ回とは名ばかりの真歩回。
「ククク...、では行くぞ!ボクのターン!」
混乱を極める中始まった九十九と真歩のデュエル。三ターン目、先攻の真歩へと移る。
わざとらしい引き笑いをしながら軽快にカードをドローする真歩。そんな彼女の後ろには、戦況を静かに見守る久朗の姿が。
『おいストーカー!ちょっと目を離した隙に寝返るとは何事だッチ!やっぱりお前も所詮はただの中二だったッチか!?』
「やかましわい!確に俺は年齢こそ中二やけど魂までは侵されとらんわ!」
ドラッチの指摘をきっぱりと否定する久朗。
確かに口調は至ってノーマルで、言動もいつも通りだ。
だからこそ、彼が向こう側についている事が一層理解できないのだが。
「行くぞ!二マナをタップし、《戦略のD・H アツト》を召喚!」
「あ、あれは...!」
真歩が繰り出したのは、マントを羽織りスーツを着こなす妙齢の男性のクリーチャー。
ピッチリ分けられた七三分けと片手に握られたペロペロキャンディのミスマッチ感が、なんともいえないシュール感を醸している。
「あれは...なに...?なんか、こう、雰囲気が...。クリーチャー?っていうか...、取り敢えずなんか違う」
『うん、まぁアイツは別枠っていうか、まぁ気にするなッチ』
どんなカードが出てくるか身構えていた鳥羽だが、今までとまったく雰囲気が違うカードの登場に少々困惑してしまう。
「ぐぅ...!やっぱりネタ感溢れるこんなカードを使うのはボクのプライドが...!」
「アホ抜かせ!お前アイツに勝たなアカンのやろ!ええから作戦通りにせんかい!」
「フッ...、そうだったね。...《アツト》の効果でカードを二枚引き、二枚捨てるよ!」
「...むっ!!」
宣言通り、真歩の手札から二枚のカードが捨てられる。
真歩が墓地に送ったカードを見るや、九十九僅かに眉を潜める。
「なるほど、確に前とは少し違うようだっ!!以前までのデュエルは初動はマナブーストだったが...。どういう心境の変化だっ!?」
九十九にターンが移行し、手札からマナを一枚チャージする。
「(置いたカードは......、自然!)」
「行くぞっ!!呪文《巨大設計図》っ!!その効果で山札の上四枚を捲り、コスト七以上のクリーチャーを全て手札にするぞっ!!」
呪文の効果で山札の上からカードを1枚ずつ晒していく九十九。公開されたカードのコストは...
「九っ!!九っ!!三っ!!九っ!!」
「すごい、三枚も!!」
「二コスで三ドロー、...めっちゃウマいやんけ!」
通常、三枚のドローには五コスト相当が妥当だ。
単純なドロー性能のみでプレミアム殿堂を果たした《サイバー・ブレイン》が四コストであったことを考えると、九十九が手にしたアドバンテージはあまりにも大きい。
「ぐぬぬ...」
そしてその事実は、真歩の精神的な焦りにも繋がる。
真歩のターンへと移行するが、表情からは余裕の色が消え、首筋に冷や汗が伝っている。
「...《ボーン・おどり・チャージャー》を発動。山札から二枚墓地へ送り、一マナ加速する」
「あれ、久朗くんもよく使ってた呪文だ」
「まだまだ準備期間と言った所かっ!!だが、もたもたしている余裕はないぞっ!!」
ターン移行。九十九のターン。
「呪文《進化設計図》っ!!山札の上六枚を捲り、進化クリーチャーを全て手札にっ!!進化クリーチャーは...三枚っ!!」
「また手札が増えた!?」
二ターン連続での不確定ドロー呪文で、六ターン目にして九十九の手札は既に九枚。
「水文明なしのデッキでここまで引くか...。どんだけ偏った構築やねん!」
爆発的なアドバンテージを稼ぐ九十九に、真歩陣営である久朗も思わず肝を冷やす。
「(この手の序盤で手札を大量に確保してくるデッキは、コンボを仕掛けてくる四〜五ターン目が一番厄介や...」
久朗が真歩へと視線を送る。俯いたままで、彼女の表情は分からない。
「......しっかりせぇや。負けられへん理由、お前にもあるやろ...!」
※
「いででで...!いきなり殴ることないやんけ!」
時間は数時間前に巻き戻る。
真歩を追いかける過程で、彼女のキャストオフを思わぬ形で目撃し拳で撃退されてしまった訳だが...
「いくらなんでもやりすぎやろ!ちゃんと頭下げて謝r」
「すみませんごめんなさい申し訳ありませんでしたぁっ!!」
「......へぁ?」
先程までの態度から、謝るどころか開き直り、なんならディスり返してくるだろうぐらいの心構えだったのだが、彼女の口から飛び出したのは、予想外の謝罪三段活用。
「驚いてしまってつい乱暴な事を...!はわわ...、大きなコブが出来てます!すぐにお手当しないと...!」
「え、あの」
「打撲のお手当なので、まずはアイシングしなきゃ...!はわわ...でも冷やすものが...!あ、あそこに水道が!」
「え、え、あの」
「じっとしてて下さい!お水を汲んできましたから...、って、ふわぁっ!?」
「ぶびゃあ!!!」
真歩がひっくり返した水のお陰で、全身びしょ濡れの久朗。
そんな、明らかに状況が悪化した久朗に、真歩はペコペコとひたすら謝罪を繰り返す。
「すみませんごめんなさい申し訳ありませんでしたぁっ!」
「いや、もう分かったっちゅーに。一周回って怒りの感情すら起こらんわ」
「うぅ...」
水を被って冷えた頭でもう一度真歩を冷静に分析する。
...やはり何度見ても、申し訳無さそうにこちらを見つめてくる小動物系美少女にしか見えない。
「いやお前誰やねん!!?キャラ変わりすぎやろ反則やぞっ!!?」
涙目になりながらも、わざとではないのだろうが上目遣いで見つめてくる真歩に思わずハートを持っていかれそうになるが、関西人特有のツッコミ魂でそれを相殺。すんでのところで踏み止まった。
「ふぇ...?す、すみません...」
「それよか、話聞かせてもらうで。さっきからの態度の変わりよう、動揺しちゃいました、じゃ済まへんやろ」
久朗の疑問も当然。先程までふてぶてしい態度を貫いていた真歩が、今は大げさなくらい低く構え、眉毛も八文字に垂れ下がっている。これではまるで別人だ。
「あの...、その...、九十九先輩には、黙っててくれますか?」
「それは理由による」
「うぅ...、わかりましたぁ...。ちょっと恥ずかしいけど、お話しします。真歩が、あんな"お芝居"をしていたワケを...」
※
あれは、今から一年前。真歩がまだ、入学したての一年生だった時の事です。
「えぇっと...、保健室はどこでしょう?」
パパをお医者さんに、ママを看護師さんに持つ真歩は、二人の影響で、昔から看護師さんになるのが夢だったんです。
だから、所属する委員会を決める時、迷わず保健委員になる事を決めました。
そして...
「あ、ここかな?し、失礼しまーー」
「ぬぉおおおおおっ!!必殺っ!!究極地獄包帯縛りっ!!これで貴様等は、怪我が治るまで動くことは出来んぞっ!!」
「治療なのに必殺してどうするんだー!」
「うわぁぁぁ!!!」
「た、助けてくれー!」
真歩は、九十九先輩と出会いました。
「何ぃーーっ!!?昼休みのドッジボールで流血沙汰だとーーっ!!?よしっ!!保健委員出動だーーっ!!」
「は、はいぃっ!!ま、待ってくださーい!」
保健委員になってからは、それはそれは大変な毎日でした。
どこからともなくケガ人の情報を仕入れてくる九十九先輩は、誰よりも速く現場に駆けつけ、その度に全力で治療をしました。
「よしっ!!もう大丈夫だぞっ!!さ、横になって大人しくしておけっ!!」
どんな些細なケガにも、常に一生懸命な九十九先輩を見て、真歩はいつの間にか...。
先輩の事を、好きになっていました。
「て、なんでやぁぁぁぁぁぁ!!あんな暑苦しいアホのどこがええんやぁぁぁぁ!!?」
「ふぇ...!?ひ、ひどい...。と、とにかく、話は最後まで聞いてください!」
真歩はそんな先輩に追いつこうと、一生懸命頑張って、保健委員のお仕事もそれなりにこなせる様になってきました。
「はい、応急処置が終わりましたよ」
そして、真歩が保健室で治療をしていたある日...。
「おいっ!!救急箱はどこだぁっ!!」
「きゃあっ!!せ、先輩。入る前はちゃんとノックして下さい。寝ている生徒さんだっているんですよぉ...?」
「おお、スマンっ!!...では行ってくるぞっ!!"斉藤"っ!!」
「え」
そう、先輩は、真歩の名前すら覚えていませんでした。
先輩はいつも治療に一生懸命。ケガ人や病人にしか、興味がなかったんです。
「...はぁ」
ショックを受けて、教室で落ち込んでいた時に、クラスのお友達が真歩を励ましてくれました。
「ほら、真歩。いつまで落ち込んでんのよ。恋はね、諦めなければいつか実るものなのよ」
「そうだよ真歩ちゃん!これ読んで、元気出して!」
「...?これは......」
その時、お友達が貸してくれた本が...
「『中二病でも恋がしたい!』の原作全巻でした」
「いやお友達のチョイスぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
※
「それを見て閃いたんです。先輩は病人にしか興味がない。だったら、真歩自身が病人になっちゃえばいいんだって」
弱々しい素顔のまま、自嘲気味に笑う真歩。
「その後は、クラスのみんなに協力して貰って、真歩が中二病に侵されたと嘘の情報を伝えてもらいました」
大方話し終えた後、丁寧に畳んでいたマントを拾い上げ、再び肩に羽織る。
「...そして!"ボク"は邪眼の力に目覚め、見事奴の宿敵になる事に成功し痛いたいたいたいたいたいっ!!」
ドヤ顔で決めポーズを取ろうとしたところを、久朗に頬をつねられた。
「ふぇ...。いきなりなにするんですかぁ...」
「途中までええ話やと思っとったのに、なんでそんな奇策に走んねん!...ったく」
しゃがみ混んでつねられた頬を摩る真歩に、腰を下ろし、同じ目線になって話す久朗。
「確かに、結果的には構って貰えてるけど、それは宿敵としてや。...お前が本来なりたかった関係とは、ちゃうんやないか?」
「......」
久朗の質問に、黙って俯いてしまう真歩。
恐らく、彼女自身もとっくに気づいているのだろう。
気づいていて尚、元の関係に戻ってもどうしていいか分からないから、今の関係に甘んじてしまっている。
「でも、そんな関係すらもう終わってしまう。もし、今日デュエルに負けてしまえば、真歩は九十九先輩にとって、何者でもない存在になってしまいます...」
真歩の瞳から涙が落ちた。
充実していた保健委員を放棄してまで縋った歪な関係すら、もう続けられなくなってしまう。
「ほんとは真歩だって、保健委員に戻りたい。ケガをした人達を助けたい。でもそうしたら、先輩は真歩の事を見てくれない。...真歩はワガママな悪い子です...」
「......」
「流石に九連敗はしないと思って約束しちゃいましたが、安請け合いはするものではないですね。...今日のデュエルに負けたら、大人しく引き下がってーー」
「だったら勝てや」
真歩の言葉を遮り、久朗が手を差し伸べる。
立ち上がれと、道を示す様に。
「ただし、もし勝てたら、アイツに気持ちを伝えるんや」
「で、でも...」
「大丈夫や。...心躍るデュエルは、いつまでも心の中に残る。俺にも経験あるから解るんや。...ま、俺はこじらせ過ぎて、わざわざ東京まで来てもうたけどな...」
『ははは...!そういう意味では、キミも似たようなものだね?』
「...?」
廊下の窓から、遠くを見つめる久朗。
視線の先には、とある病院があるのだが、真歩はそれを知る由もない。
「乗りかかった船や!俺も協力したる!お前があいつの心に深く突き刺さるようなデュエルが出来るようにな!」
「あ、ありがとう、ございますぅ...!」
※
「あ、今ので俺にも惚れてくれても別にええんやでっ!?」
「いやそれは無いです」
※
場面は戻り、真歩の八ターン目。
「...やっぱり、九十九先輩は凄いです。...いつもの"真歩"なら、敵いっこない」
「(...あれ?今、喋り方が...)」
「むんっ!」
迷いを断ち切るように、両手で強く頬を叩き、真っ直ぐな瞳で前を見据える。
鳥羽はその瞳に見覚えがあった。
圧倒的不利にも怯まずに突き進む、自分と同じ、勇敢な臆病者の瞳だ。
「いつまでタラタラやってるんや!勝負はこれから!一気に畳み掛けたれやぁ!」
「解っているさ!」
カードをドローし、マナをチャージ。これで真歩の使用できるマナは五マナ。
「...これはボクのパートナーの受け売りなのだがな。呪文の力とは、思いの力だ。敵を破壊したい。知識を得たい。死んだ仲間を蘇らせたい。願いを、思いを紡ぐ力だ」
久朗の知る、弱々しいかった彼女からは考えられない様な鋭い視線。
不敵に、邪悪に微笑み、手札を弄ぶ。
「そして僕は!そんな呪文を、使って使って使いまくるのが...!たまらなく好きなんだっ!!」
「っ!!」
「見せてあげよう!ボクの"心躍るデュエル"をっ!!」
すると、手札から一枚のカードを抜き取り詠唱する。
「呪文、《龍素知新》!」
「いきなり全マナ使っちゃったよ!?」
「アホ抜かせ!こっからや!」
「効果で、墓地からコスト七以下の呪文を一つ唱える!」
呪文が呪文を紡ぐ。
「その効果で《煉獄と魔弾の印》を発動!墓地からコスト七以下の火か闇のクリーチャーに、スピードアタッカーを与えバトルゾーンに出す!」
呪文からクリーチャーへ。
「出でよ!《邪眼教皇 ロマノフⅡ世》!その効果で、山札の上五枚を墓地に置き、その中から呪文を唱える!」
そしてまた、クリーチャーから呪文へ。
「来たぞ!再び《煉獄と魔弾の印》!...さぁ来い!!」
墓地から迷いなく一枚のカードを繰る。
「誇り高き邪眼の王よ!《†暗黒の魔道騎士†》の名の元に命ずる!遥か煉獄より来たりて、極黒の魔弾で敵を撃て!!」
「あのセリフいる!?」
「言うたるな!」
「行け、我が切り札!!《邪眼王 ロマノフⅠ世》っ!!」
邪悪にして高貴。
高貴にして狡猾。
か弱き乙女の紡ぐ思いが、誇り高き魔弾の射手を具現する。
〜つづく〜
実際、こんなに上手く回ればいいんだけどなぁ...。