仲間(クリーチャー)達と親戚達
「た、ただいま帰りました~・・・」
高級住宅街に構える、傍目にもそれなりに裕福であることが伺える一軒家。
門前にあるネームプレートには、『天司』と書かれていた。
「具合はいいのか」
時刻は既に午後九時半。通常、中学一年生である鳥羽の帰宅時間としてはかなり遅いものである。
帰宅した鳥羽を出迎えたのは、現在の鳥羽の保護者である叔父の天司 正(あまつか ただし)だ。
自宅の中であっても私服をきちんと着こなし、どことなく神経質な印象を感じさせる。
「だ、大丈夫です。・・・あの、心配かけてすみません」
「一応は、今の君の保護者だからな。・・・謝るくらいなら、あまり面倒は起こさないでくれ。娘の試験も近いのだからな」
正は鳥羽の謝罪を遮る様に言った。
「夕食はキッチンに用意してある。・・・それを食べたら、今日はもう休みたまえ。では、私は失礼するよ」
「はい、叔父さん・・・」
それだけ言うと、正は背を向け、二階へと向かって行った。
『かーっ!なんか素っ気ない奴だったッチね!身内に対する態度とは思えないッチ!』
キッチンには作り置きの夕食がラップされて置かれていた。
レンジで温め直していると、”声”改め、ドラッチが声をかけてきた。
「仕方ないよ。僕は厄介になっているだけの居候なんだもの。置いてもらってるだけでも有難いと思わなきゃ・・・」
『なんか色々と複雑なんだッチねぇ。で、お前の両親はどうしたんだッチ?』
「・・・・・・」
程なくして、レンジから加熱終了を知らせる電子音が鳴る。
鳥羽は、ドラッチの問に答えることもなく、夕食をリビングまで運んで行った。
『(・・・あちゃー。なんか地雷ふんじゃったみたいッチね)』
ドラッチも、鳥羽にそれ以上聞く事はしなかった。
※
夕食を盆に載せ、リビングへとたどり着く。
扉を開けた先には、先客が一人いるようだった。
「あら!おかえりなさい、兄さん!」
「・・・た、ただいま」
黒く長い髪を、ワンサイドアップと言うのだろうか、片側だけまとめた少女。
鳥羽の従兄妹に当たる美夜(みや)だ。
机の上には参考書や筆記用具等が広げられている。
「出先で倒れたって聞いたけど、具合は大丈夫?」
「う、うん。この通り、ピンピンしてるよ」
「そう、それは良かった!私、ずっと心配してたのよ?」
最初は心配そうな顔をしていたが、鳥羽の無事を聞くと安心したのか、パァっと笑顔を振りまいた。
「心配かけてごめん・・・。それより、なんでリビングで勉強してるの?」
「だって、自分の部屋だとついつい私物に手を出してしまうんだもの・・・。ここにいる方が集中出来るの!お父様へのアピールにもなるし♪」
「そう・・・」
何気ない会話の中でも、コロコロとよく表情を変え、どこか人懐っこい印象を与えられる。のだが・・・。
「僕、これから食事だから・・・。勉強するなら部屋に戻った方がいいと思うよ。参考書とか、汚れちゃうかもしれないし」
人見知りしがちの鳥羽にとっては、距離感の近すぎる彼女がイマイチ苦手なようだった。
「あら、私は気にしないわよ?」
「僕は気にしちゃうよ・・・」
「ふーん。・・・そ。じゃあ今日はもうお終いにしちゃおっと♪」
そう言うと美夜は、手際良く勉強道具をまとめ始めた。
「いいの?試験近いって、叔父さんに聞いたけど・・・」
「うん、大丈夫。だって、勉強なんかしなくったって、どうせ満点とれちゃうもの♪それより私とお話ししましょ?一人でお食事なんて、兄さんが可哀想・・・」
「あ、あはは・・・」
※
食事を済ませ、自分の部屋へと戻る。
鳥羽が与えられている部屋は、人ひとりとしては十分な広さだが、家全体から見ると比較的小さな一室だった。
「なんだなんだ!この家にもまともなニンゲンがいるじゃないかッチ!」
部屋に入るなり、何処からともなくドラッチが出現してきた。
「うわっ!?いきなり出て来ないでよ!?」
「こんな事でイチイチ驚くなッチ!お前ホントヘタレだッチねぇ。さっきも、あの娘とまともに会話できてなかったし」
「ほっといてよ・・・。あの娘は僕なんかと違って出来がいいんだ」
鳥羽は俯きながら、ぼやく様に続ける。
「成績優秀で、運動神経も良くて、見た目もいいし。学校だって、県内でも有数の私立中学に通ってんだよ?・・・歳も一緒だし、あの娘と話してると劣等感で押し潰されそうになるんだよ・・・」
今度は勝手に落ち込み出した。
「とことん負け犬根性の染みついた奴だッチね・・・。さっきのデュエマでの強気はどこに行ったんだッチ。・・・まぁいいッチ」
軽く咳払いをした後、ドラッチは鳥羽の正面に居座り切り出した。
「とりあえず、話しの本題に入らせて貰うッチ。戻ったら話すって約束だったからなッチ」
「そ、そうだよ!僕、まだまともに話聞いてないし・・・!結局あそこって、夢の中だったの?ていうかあの大会はなに・・・」
「んな一変に聞くなッチ!!・・・うーん、どこから話したもんか・・・」
ドラッチが話を纏めようとうんうん唸っていると、また別の声が聞こえてきた。
『そこから先はワタクシが説明しましょう!、ッチ!』
「・・・え?」
すると、机の上に置いていたデッキが突如光を放つと、一羽の鳥が姿を現した。
「(なんか増えたーー!!?)」
赤と白を基調とした、戦闘機の様な武装をした小鳥だ。
ただ、鳥羽はこの小鳥になんとなく見覚えがあった。
「(確かこいつ、僕のデッキに入ってた・・・)」
「はじめまして、ですね!先程のデュエマの腕前、感服致しました!・・・ッチ」
小鳥は鳥羽に向き直ると、ペコリと一礼した。
「既にご存知かも知れませんが・・・、『ゴーゴー・ジゴッチ』と申します!ッチ。以後、お見知りおきを!ッチ」
「えっと・・・。ご丁寧にどうも・・・」
あっ気に取られ、鳥羽も締りのない返事をした。
「どうしたんだッチ、ジゴッチ?今日のボスのお世話は、お前が当番だっただろッチ」
「こっちが心配だったから、バトッチさんに変わって貰ったんですよ!ッチ!」
ジゴッチは、さっきの態度とは打って変わって、ドラッチに怒鳴り散らした。
「さっきのデュエマにしても、アラタ様はかなり焦っていらっしゃいましたからね!大方、ろくに説明もせず、詐欺まがいな事を言ってエントリーさせたんでしょう!?」
「時間がなかったんだッチ!しょうがないだろッチ!・・・てかお前、語尾忘れてんぞッチ」
「うぐぅっ・・・!しまった!・・・ッチ!ワタクシ程にもなると普通に話すことも出来ますが、それだとファイヤーバードとしてのアイデンティティが・・・!!」
突然ケンカしだした二羽をよそに、鳥羽は頭を抱えるのであった。
「何でもいいけど早くしてくれー!!」
※
結局、騒がしくしていた所を壁の向こうから正に咎められた為、説明は翌朝となった。
さっさと朝食を済ませた後、自室にて改めて話を聞く事に。
「えー、それでは・・・」
バツが悪そうに咳払いをした後、ジゴッチが改めて語りだした。
「語彙力の低いドラッチに変わりまして、本大会について説明させて頂きます。・・・ッチ」
「むぐーーっ!!」
因みに、ドラッチは全身緊縛されたうえ、猿ぐつわまでされていた。
なにやら抗議の声を上げているようだが、話が進まないのでそっとしておく事にした。
「・・・何でも願いが叶う、って聞いたけど」
まず、鳥羽は真っ先に一番気になっていることを聞いた。
ドラッチは確かに、菖蒲の病気を治す手段があると言っていた。
鳥羽にとっては、その為だけに勝負に挑んだのだから、はやる気持ちも仕方がない。
「ふむ。正確に言うと少し違います。ッチ。そこを話すには、まず大会の目的について説明する必要がありますね。ッチ」
すると、どこから取り出したのか、小鳥サイズの小さなホワイトボードを取り出し、丁寧に解説し始めた。
「今大会の正式名称は『ランド大陸王位争奪戦』。文字通り、我らが母国、ランド大陸の王位を争う大会です。ッチ」
「そう言えば、ドラッチも王様がどうとかって言ってた」
「そのとおりです。ッチ」
ジゴッチは、取り出したホワイトボードに要所々を書き込みながら話し続ける。
「簡単に言えば、新国王候補がトーナメント形式で優勝を競う大会です。ッチ。当初は格闘大会が予定されておりましたが・・・。かつて行われた似たような武闘大会が、世界の存亡をかけた超大戦に発展してしまった、という事例もあり、別の手段が検討されることになりました。ッチ」
「お、おっかないなぁ・・・」
あまり穏やかではないジゴッチの発言に、鳥羽は思わずたじろいでしまう。
対してジゴッチの方は、よくある事だと言わんばかりにあまり気にしていなさそうに見えた。
「そこで、『平和的手段』として考案されたのが、我々の世界を模して作られたカードゲーム、デュエル・マスターズを用いて行う代理戦争です。ッチ」
「代理戦争・・・」
ジゴッチの発言の中には、他にも気になる点は幾つかあったが、正直長くなりそうだったので続けて話を聞く事にした。
「はい。各自、自らが見込んだデュエリストに自分自身、もしくはチームメンバーを使用したデッキを使わせ優勝を競うのです。ッチ」
「えっと、質問いいかな・・・」
情報を整理する中、ジゴッチの説明に気になる点を見つける。
「それだと、国王になるのはその”代表クリーチャー”って事だよね?・・・僕達プレイヤーは?」
先程の説明だと、結果的に選ばれたプレイヤーはただ利用されているだけのような気がした。
肝心の、菖蒲の病気を治す手段には直結しない。
ほんの少しだけ、自分が騙されただけという恐れを感じ取るが・・・
「そこで、最初のアラタ様の質問に戻ります。ッチ」
鳥羽の不安を払拭する様に、ジゴッチが説明してくれた。
「新国王に即位したものは、優勝へと導いたプレイヤーに対して、あらゆる要求を受け入れる義務が生まれるのです!ッチ!そこでアラタ様は、菖蒲様のご病気の完治を頼めば良いのです。ッチ。我々の世界には何かと超常の力が多いので、おおよそ不可能ではないかと。ッチ」
「・・・なるほど。つまり、ギブアンドテイクって事だね」
「そ、そういうことだッチぃ・・・」
自力で拘束を解いたドラッチが、息たえだえといった様子で答えた。
「おや、自力で抜け出しましたか。ッチ。もっとキツくすれば良かったですね。ッチ」
「充分キツかったッチ!一週回って気持ちよくなっちゃうとこだったッチよ!!」
「えぇ・・・」
ドン引きしている鳥羽を他所に、ドラッチは抗議の声をあげながら飛び回った後、手に持ったサイリウムを鳥羽に突きつけながら言った。
「ってなワケで!オイラたちのボスが王様になれる様に、宜しく頼むッチよ!」
「う、うん。・・・うん?ドラッチが王様になるんじゃなくて?」
ドラッチの先程の口ぶりだと、鳥羽の率いるチームには別のボスが居るように受け取れるが・・・。
「んっふっふ・・・!そうだッチ!オイラたちの王様は、王になるべくして生まれた、王の中の王!その名も、ドギーー」
「・・・って、んなーーっ!?」
ドラッチが気分よく語りだそうとした時、鳥羽は突然驚いた様に声を上げた。
視線の先には時計。
ぶっちゃけ、遅刻スレスレの時間となっていた。
「もうこんな時間!?遅刻なんてしたらクラスで目立ちまくっちゃうよ!急がなきゃ!」
「ちょっ、オイ!これからがいいところ何だッチよぉ!!」
ドラッチの話を最後まで聞かずして、筆記用具や教科書をカバンに突っ込み玄関へ駆け出した。
そして、ドラッチもそんな鳥羽を追いかけていくのだった。
「・・・なんだか先が思いやられますね。・・・ッチ」
※
『おやおや、あんなちっこい小鳥を連れて・・・。こりゃ今度の対戦相手はまさしく”カモ”ってやつだな』
「・・・油断は禁物ですよ。どんな相手であっても、全力で勝負するのみです」
とある学校の屋上から鳥羽を見下ろすのは、年端のいかない一人の少女。
少し青みがかった白い髪をなびかせながら、その手にはデッキが一つ握られていた。
『ハハハッ。相変わらず、冷たい顔して言うことは激アツだねぇ・・・!ま、そういうところが気に入ったんだがな』
「・・・・・・大したことはありませんよ。ただ、私には負けられない理由があるだけです」
始業のチャイムが鳴り響く。何かの始まりを告げるように。
~END~