私は、おじいさんとおばあさんが大好きだった。お父さんも、お母さんも大好きだった。
祖父母とは離れて暮らしていたし、両親も共働きだったので、友達を作るのが苦手な私は、いつも独りぼっちだった。
でも、毎日夜になれば、みんなで銭湯で顔を合わせることが出来た。
お風呂上りにおじいさんに貰う牛乳と、あばあちゃんから貰うカステラは本当に美味しくて、毎日の楽しみになった。
ある日、お婆さんが死んでしまった。
私は一晩中泣き続けた。涙も声も、枯れ果てるほどに。人が死ぬという事がどういう事なのか、初めて解った気がした。
おじいさんは、ただただ黙って遺影を眺めていた。
私が、おばあさんの分まで頑張らなければ。
そう思って私は、銭湯のお手伝いを申し出た。
あれ以来、家族みんなで集まれていない。おじいさんが店を開けられずにいたからだ。
そんなに忙しい訳では無いけれど、今のおじいさんには支えが必要だ。私が支えてあげなければいけない。
お手伝いを申し出てから、数年がたった。
最初はまともにこなせなかったお仕事も、今ではすっかり板についてきた。・・・一番上の棚には、まだ背が届かないけど。
この間、仏壇の前で笑っているおじいさんを見た。どうやら私の事を話しているようだった。
今度、お父さんとお母さんを誘ってみよう。
おばあさんはもういないけど、またみんなでお風呂に入れるかもしれない。
そう思うと、私はなんだか嬉しくなった。
「・・・店を取り壊すじゃとぉ!?」
いつもの様にお手伝いをすべく銭湯にやってきた時、おじいさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「店の老朽化も進んでるし、もういい頃だろう!?それに・・・、取り壊しって言ったって・・・」
「やかましい・・・っ!!もう話す気にもならん!・・・今日はもう出て行け!!!」
「親父!!!話を聞いてくれ!!」
あれ以来、おじいさんはお父さんとの交流を絶った。
どうしてお父さんがあんな事を言ったのかはわからない。
私自身も、お父さんと話す気にもならなかったし、お父さんも、前にもまして仕事に構いきりになった。
おじいさんも、お父さんの話は何もしなくなった。
一度瓦解した関係は、なかなか元には戻らない。
それこそ、魔法か何かでも使わなければーー
『嬢ちゃん、お困りの様だねェ・・・』
打ちひしがれる私に、突然声が聞こえてきた。
『共に闘うなら、アンタだと決めていたよ。・・・俺に力を貸してくれないかィ?変わりに、俺も力を貸してやるよ』
※
ランド大陸王位争奪戦会場。
中世風のコロシアムの様な、荘厳な佇まいの建物は、内側から突き破られたかの様に半壊していた。
そんなコロシアムの中央にそびえ立つのは、圧倒的な熱と禍々しさを放つ多頭の龍。
泉美の切り札、《絶対絶命 ガロウズ・ゴクドラゴン》だ。
「・・・な、なんなの・・・。あれ・・・!」
『・・・あれはサイキック・スーパー・クリーチャー・・・!指定のサイキック・クリーチャーが複数揃った時、一体の超弩級クリーチャーになるんだッチ!』
「・・・そんな・・・!」
鳥羽がうろたえている間、泉美は追い打ちを掛けるように次の一手に出る。
「《コーライル》を召喚します。その効果で、《ストライク・アメッチ》を山札の上へ」
今度は、液体の体を持った人形のクリーチャーが現れる。
《コーライル》の放つ水流に巻き込まれ、《ストライク・アメッチ》は山札の上へと封じられてしまう。
『鳥羽選手!!出したばかりのクリーチャーさえも消されてしまったぁーーーっ!?』
「・・・念には念を、ですよ」
「それによォ!本当の地獄はこれからだぜェええええっ!!!」
泉美が、三枚のカードが連なった《ゴクドラゴン》のカードをタップする。
「行きますよ・・・!《ゴクドラゴン》で、シールドをTブレイク・・・!!」
「ヒャハハハハハ!!消し炭になりやがれぇ!!!」
ゴクドラゴンの数多の口からドス黒い業火が放たれる。
しかし泉美の宣言に反して、その炎の矛先が向けられたら先はーー
「!!?・・・ぼ、僕の山札が・・・!?」
炎に焼かれ、鳥羽の山札のカードは次から次へと灰に変わって行く。
「これこそが《ゴクドラゴン》の能力です・・・!アタックする時、相手の山札の残り二枚を残して墓地に葬り去ります!」
そして、潤沢にあった鳥羽の山札は、たった二枚を残し、すべて墓地へと送られた。
「ご存知とは思いますが、デュエル・マスターズでは山札の最後の一枚を引いた時点でそのプレイヤーの敗北になります。最後の一枚は使用出来ません」
山札を燃やし尽くした後、ゴクドラゴンの牙がシールを三枚を喰らい尽くす。
シールド・トリガーはゼロだ。
「次のターン開始時のドローで、山札は残り一枚。つまり鳥羽さんには1ターンの猶予しか残されていないという事です」
「オマケに、山札が一枚しかない状況じゃ、お前の切り札《ドラッケン》は使えないぜェ!?つまり坊ちゃん、あんたはもう終わりって訳だ」
追撃は加えず泉美は静かにターンエンドを宣言する。
ターンは鳥羽に移るが、絶望的な現状を目の当りにし、俯いたまま動かなくなってしまった。
『これは・・・。鳥羽選手、なかなかドローをしない!!まさかの戦意喪失かー!?』
「・・・い、いやだ・・・。負けたくない、負けたくない・・・!」
絞り出すように、鳥羽は、震える声で言葉を吐き出した。
「・・・ぼ、僕には、負けられない理由があるんだ・・・!!お願いだよ・・・!僕を勝たせてよ・・・」
口から出たのは、敵に対しての情けない要求。
勇ましさもへったくれもあったもんじゃなかった。
「・・・ふざけないでくださいっ!!」
突刺すような視線で、吐き捨てる様に鳥羽につっ返す。
「・・・そんなの、みんな一緒なんですっ!!貴方が一回戦で倒した相手も!今戦っている私にも!負けられない理由はあるんです・・・!!」
泉美が怒気を顕にしながらな叫ぶ。
「ちょっと親しくなったからって、同情が得られるとでも思いましたか!?・・・だったら、勘違いも甚だしいです!生半可な覚悟だったなら、今すぐ帰ってください・・・!!」
泉美の言葉に対し、何も言えなくなってしまう。
「あ・・・う・・・」
「どのみち、あなたはもう終わりです。・・・何も出来ないまま、無力感に苛まれて、・・・果ててください」
声も無く涙が溢れる。肩が震え、ちっぽけな自分が情なくて仕方がなかった。
「(・・・・・・泉美ちゃんの言う通だ。彼女を救って見せるとか、絶対に勝つとか、大口叩いておいて、カッコ悪すぎるよ・・・。でも・・・でも・・・!)」
行き場のない憤りを、握り拳に込める。
手のひらに血が滲むほどに。
「負けちゃうけど・・・!負けたくないんだよぉ・・・・・・っ!!」
おぼつかない言葉でも、精一杯紡いだ、鳥羽の心からの気持ちだった。
『・・・・・・ならば引け』
「え・・・?」
『引けと言ったのだ。弱く、小さき者よ』
※
気が付くと鳥羽は、白く、何も無い空間にいた。
「・・・え、・・・あれ?」
無限に広がる空間で、聞き覚えのない声だけが響く。
『お前は言ったな。負けたくないと』
荘厳で、しかしどこか暖かな包容力を感じさせる声だ。
すべてを委ねられるような、そんな器の大きさを感じさせる。
声を聞いただけで解るというのもおかしな話なのだが、何故か鳥羽はそう直感出来た。
『ならば、すべき事はたった一つだ。カードを引け。・・・・・・そして、諦めるな』
ドクン、と。鼓動が高鳴る音が聞こえた。
「僕だって、・・・僕だって!諦めたくなんかないよ!!でも・・・どうしたらいいのか・・・・・・!」
『一回戦でドラッチに言われた事を、もう忘れたのか?』
「・・・・・・っ!!」
ーーテメェが諦めない限り、オイラ達は何度だって、力貸してやるぜ!!ーー
『無論、私も同じだ。・・・私だけではない。お前と共に闘うクリーチャー全ても』
鳥羽の目の前に、ゴクドラゴンによってたったほ二枚まで削られた山札が現れる。
『・・・お前は独りではない』
いつの間にか震えは止まっていた。
山札の一番上のカード。無論、鳥羽にはそれがなんなのかはわからない。
『・・・さあ!"私"を引け!!』
だが、迷いも不安もふきとばすように、腹の底から叫んだ。
「・・・・・・こんちくしょうめぇえええええええええっ!!!!!」
カードを引いたその瞬間、赤く激しい光を放ったかと思うと、目を閉じた一瞬の間に、辺りの景色は元の会場に戻っていた。
「・・・・・・・・・」
「な、なんですか、いきなり大声を出して・・・!何をしたところで、結果はもう見えて・・・」
「見えてない」
しかし、泉美の言葉を遮る様に、真っ向から否定する。
「だって僕、・・・まったく負ける気がしないんだもん」
「・・・・・・っ!!」
「(・・・あの坊ちゃん、目の色が変わりやがった!何を仕掛けてくる気だ・・・!?)」
「行くぞ!!まずは、呪文《ドギラゴン・エントリー》っ!!」
マナを5枚タップし、カードを掲げる。
鳥羽の頭上に、青白い光を放つ陣が現れはじめた。
「その効果で、僕は自身のシールドを一枚手札に戻す!・・・この時、交換発動っ!!!」
鳥羽の宣言と同時に、一枚のシールドが炎の渦に巻き込まれる。
「手札に加えられたシールドを捨てる事で発動するよ!S・バック!《デュアル・ショック・ドラゴン》!!!」
炎の渦が弾け、中から一匹のドラゴンが現れる。
全体的には刺々しいフォルムに、両腕に大きな刃を仕込んだドラゴンだ。
バトルゾーンに躍り出たデュアルショックが大きな雄叫びを上げると、隣にあった最後のシールドさえも消し飛ばした。
「・・・な!?」
「デュアルショックはバトルゾーンに出た時、自分のシールドを一枚犠牲にする。・・・これで、仕込みはオーケー・・・!!」
次の瞬間、鳥羽の頭上の魔法陣が突如炎を纏い始める。
そして、魔法陣の中央から、星に握り拳を掲げたマーク、革命軍のシンボルが浮かび上がる。
「・・・コスト7以下の火のコマンド・ドラゴンをバトルゾーンに!!」
魔法陣が弾け、巨大な炎が吹き出し場のデュアルショックを包む。
爆炎を纏ったデュアルショックが輝きを放つと、やがて、別の一体のドラゴンと化した。
全身を包む真っ赤な鎧。背中から伸びる蒼く輝く大剣。
勇ましい四足のその激龍、革命の咆哮を上げる。
「・・・グオォオオオオオオオオオッ!!!!」
「行けぇえええっ!《燃える革命 ドギラゴン》!!!」
ドラゴンを超えしドラゴン、ドギラゴン。その雄叫びは千里を越えて轟き、かの少年に無敵の革命をもたらす。
※
『なななななんとぉ!?鳥羽選手が土壇場で引き当てたのは、ここランド大陸の前国王、《燃える革命 ドギラゴン》だぁあああああ!!!』
「行くぞ!!ドギラゴン!!」
「応っ!!!」
鳥羽の呼びかけに対し、ドギラゴンは力強く答える。
間違いない。先程まで自分に語りかけ、背中を押してくれたあの声の主だ。
本当にともに戦ってくれているというのだから、怖いものなど何も無い。
鳥羽はドギラゴンのカードを勢いよくタップし、攻撃を宣言する。
「ドギラゴンでシールドをTブレイク!そして、ドギラゴンの革命ゼロを発動っ!!!」
ドギラゴンの背負う大剣から巨大な斬撃が放たれた、その次の瞬間、柄にある革命のシンボルが輝き出すと、大剣全体も再び輝きを取り戻した。
「ドギラゴンはアタックする時、自分のシールド一枚もなければアンタップ出来る!!・・・後1ターンで終るなら、1ターンでケリをつけてやる!!」
「これこそ、革命ゼロの真髄!《
ドギラゴンの第一撃が泉美シールドを粉砕する。
「シールドトリガー・・・!!トリガーさえ引ければ、後は相手の山札の切れで勝てる!!」
砕かれたらシールドが泉美元へ集まっていく。
しかし、最初の一枚、二枚、三枚にトリガーは入っていない。
「・・・そ、そんな!!?」
「それ!!もう一発!!」
一方、鳥羽とドギラゴンは、何のためらいもなく残りのシールドを砕いていく。
「(お願いです・・・!出て・・・!!出てください・・・!!)」
四枚目のシールドチェック。嫌になるくらい大きくなる鼓動を抑え、勢いよくめくる。
「(《サラマンダー・リザード》・・・!!トリガーじゃない・・・!!)」
そして、最後の五枚目。勝敗を掛けたシールドチェックを行う。
目を瞑りながら、カードを捲る。目の前にあったそのカードはーー
「・・・《超次元 エナジー・ホール》。トリガーではありません。・・・私の、敗けです」
泉美は力なくカードをデュエル台におくと、その場で膝から崩れ落ちた。
鳥羽はアンタップされたドギラゴンを再びタップする。
「・・・ありがとう、泉美ちゃん。君の言葉で覚悟が決まったんだ。・・・だから僕、もう絶対弱音は吐かないよ」
「・・・健闘を祈ります。頑張ってください」
「・・・・・・ドギラゴンで、ダイレクトアタック!!」
ドギラゴンの大剣が、泉美の頬をかすめ、会場の地面に深く突き刺さった。
『決まった!!決まった決まった決まったぁああああ!!!山札切れスレスレからの奇跡の逆転劇!!どんだけ逆転が好きなんだお前はぁ!!・・・第二回戦を制したのは、《
盛り上がる実況。湧き上がる歓声。
しかし、勝利を手にした鳥羽の目に映るのは、自らの功績ではなく、目の前で泣き崩れる、泉美の姿だけだった。
〜END〜