チキンハート・レボリューション   作:モクロウ

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革命チェンジ、楽しいですね。
ドギ剣、ヘンザも強いですけど、個人的にはクエスチョンがお気に入りだったりします。


美少女と怪物

「・・・・・・負けてしまったんですね。私達」

「あァ・・・。完敗って奴だな」

 

二回戦終了後。

対戦の盛り上がりも去り、誰もいなくなった会場。

泉美はただ一人残って、会場の隅で膝を抱えていた。

 

「すみません、オンセン。・・・あなたを勝たせてあげることができませんでした」

「なぁに、気にすることはねぇ。・・・アンタを選んだのは俺だ。んで、そのアンタと闘って負けたとあっちゃあ、誰と組んでもそれ以上はねェよ」

 

オンセンは、カードからひょっこり顔を出ししみじみと語った。

 

「思い出すねぇ・・・。友達作りの切っ掛けにって、じいさんが俺を嬢ちゃんにプレゼントした日を。俺を見た瞬間、”もっと可愛いのがいいです!”つって泣きながら投げ捨てられたっけなァ・・・」

「そ、その話はもういいじゃないですか・・・。何年前だと思ってるんです・・・?」

「しかも折角買ってもらったのに、デッキビルディングにばかり夢中になって対戦に行かないし・・・。本末転倒もいいところだぜ」

「・・・それは、その・・・。恥ずかしくて・・・」

「あの頃の嬢ちゃんは、今よりもっとちっちゃくて、泣き虫で、愛らしかったよなァ・・・。それが今は、こんな無愛想になっちまって!」

「オ、オンセン・・・!い、いい加減にしないと怒りますよ!」

「ハハハ!すまねェすまねェ!」

 

からかうオンセンに抗議を上げる泉美。

人のいなくなった静かな会場に、少女の小言と怪物の笑い声が響いた。

 

「・・・その分だと、もう大丈夫そうだな」

「あ・・・」

 

気が付くと、泉美の涙は止まっていた。

オンセンと言い争っている内に、気が紛れたのだろう。

 

「さあて、そろそろ夢から醒める時間だ」

「・・・・・・」

「そんな顔をするな。俺らクリーチャーは、いつだってカードを通してお前達を見てる。・・・たとえ、声がと届かなくともな」

 

オンセンがカードから出現すると、鋭い爪を持った大きな手で、泉美の頭を優しく撫でた。

粗暴で、浅はかな態度ばかりを取っていた先程とは違う、優しい手付きだ。

「・・・ズケズケと人の悩みに踏み込んで来たと思ったら、今度はもうサヨナラですか・・・」

 

先程まで止まっていたいた涙が、再び泉美の頬を伝い、地面に零れた。

 

「私はまた、絆を失ってしまうんですか・・・?」

 

失ったものを、取り戻す為の闘いだった。

そのために組んだ、ギブアンドテイクの関係だったが、泉美はオンセンに対して友情にも近いものを感じていた。

 

「・・・嬢ちゃん。確かに、俺はアンタの願いを叶えられなかった。アンタの取り戻したかった絆とやらを、再び繋ぎ止める事が出来なかったよ。・・・それは、ホントに申し訳ねぇ」

 

柄にもなく、丁寧に頭を下げ謝罪するオンセン。

 

「ただなァ、人と人・・・。まァ俺はヒトじゃないが、とにかく一度強く繋がった絆って奴ァなかなか切れやしねェ。嬢ちゃんが、一度は放り捨てた俺を、再び使ってくれたようにな」

 

泣いている子どもをあやす様な、慈しむような表情だった。

口もないし、目も一つだし、顔のパーツは人間のそれとは随分違うけれども、泉美にはそう思えて仕方がなかった。

 

「本当は、嬢ちゃんがなくしたと思ってるだけで、案外まだ繋がってるかもしれないぜ?・・・ま、うまくやんな」

 

そこまで言ったところで、不意に、泉美の意識が遠のく。

 

「・・・っと。捨てる神あれば拾う神ありだな。向こうでオトモダチが呼んでるぜ」

 

自分の意識がこの世界から乖離し始めていくのが解った。

朦朧とする意識の中、オンセンに向かって縋るように手を伸ばす。

 

「・・・待って・・・。まだ・・・。だって、せっかく・・・」

 

ー お友達になれたと思ったのに ー

 

少女の思いは、声になる前に沈みゆく意識に遮断され、そして消えていった。

 

 

暗い。

まどろみと覚醒の間を漂うような、曖昧な感覚。

自分が眠りから目覚めようとしているのがなんとなく解る。

 

「ーーーちゃん!ーーみちゃー!」

 

誰かが呼んでいる。誰だろう。

おじいさん、にしては声が高く若々しい。

聞き覚えはあるが聞き慣れてはいない。曖昧に記憶に残るその声は、

 

「ーー泉美ちゃん!」

「・・・鳥羽さん?」

 

場所は、銭湯からは少し離れた泉美の自宅。その一室の泉美の部屋だ。

淡い色合いの内装に、所々ぬいぐるみが点在している、女の子らしい部屋だった。

 

「・・・・・・って、どうして私の部屋に!?」

「場所はおじいさんに聞いた。お母さんにも、お友達ですって言ったら快く通してくれたけど・・・」

「普通通しますかお母さん!?」

 

ここにはいない自分の母親のデリカシーに欠ける行為に対して悪態をつく泉美。

しかし、先程までの状況が状況だけに騒ぎ立てる気分にはならなかったようで、すぐさまいつもの表情に戻った。

 

「・・・それで。わざわざ場所を聞いてまで私の部屋へやってきて、どの様な要件ですか?」

 

対戦中、勝利に撤する為とはいえ、割と失礼な言葉を使っていたかも知れない。

鳥羽の言葉に激昂した時も、きつい言葉を使ってしまった。

正直、鳥羽の怒りに触れていたとしても仕方ないとは思っていた。

 

「・・・えぇと、泉美ちゃん言ってたよね?自分にも負けられない理由があるって」

「・・・はい」

「・・・・・・それって、昼間に話してた家族喧嘩の事、だよね・・・?」

 

二人で銭湯にいた時、泉美は自分の家族の仲が上手くいっていない事を話していた。

対戦中に見せた泉美の態度から、彼女が何を願おうとしているのかは想像に難くなかった。

 

「・・・・・・」

「・・・やっぱり、そうなんだ。・・・その、ごめんね」

 

無言の肯定を返す泉美に、思わず謝ってしまう。

どちらが悪いなどということは決してない。

正々堂々勝負した結果での結末だ。

だからこそ、鳥羽の申し訳なさそうな態度が、泉美は少し気に入らなかった。

 

「・・・謝る必要などありません。例え、結果的に私の望みを絶った事になったとしても、ですが」

 

我ながら、意地悪な事を言ってしまった。

デュエマにも負け、オンセンも去り、希望も断たれた。

口ではあんな事を言っていても、やはり心のどこかで鳥羽を恨んでいる自分がいる。

 

「(嫌な子ですね・・・、私は・・・)」

 

苦悶の表情で俯き、泉美は言葉を閉ざしてしまう。

しかし、そんな彼女に対して、鳥羽は困った様に手を差し伸べ言った。

 

「うん。・・・えっと、だからさ、手伝いに来たんだ」

「・・・え?」

 

一瞬、鳥羽の言葉の意味がわからず間の抜けた声が出てしまう。

不思議そうに顔を見つめて来る泉美に対し、鳥羽は、その弱々しい笑顔を保ったまま告げる。

 

「だって、君の言う通り僕が勝ったおかけで願いが叶わなくなっちゃったんだよね?だから、責任取って僕が君の願いを叶えるお手伝いをしようかな、なんて思って・・・」

 

文句こそ言われるだろうとは、思っていたが、鳥羽の発言は泉美の理解の範中を越えていて、呆れにも似た感情が沸き上がってくる。

 

「どんだけお人好しなんですか・・・。他人のあなたが、そこまでする必要も無いのに・・・」

「他人って言うのは、ちょっと違うと思う。・・・僕にもさ、大好きなじいちゃんが居たから、仲のいい二人を見て、思い出しちゃったっていうか・・・。一緒にお手伝いしたりお茶菓子食べたりして楽しかったってのもあるし・・・」

 

言葉が上手くまとまらず、どうにも締りが悪い。

そんな自分のコミュ力の低さを煩わしく思ったのか、小さく呻きながら頭をくしゃくしゃと掻きむしる。

少し赤面しながら、改めて泉美に向き合い告げた。

 

「僕はもう、友達だと思ってたから・・・!!」

 

「・・・あなたはーー」

 

なんて馬鹿なんですか。そう思った。

そう思ったから、口に出そうとしたが、喉が引きつって続きが出ない。

涙で視界が霞んで、ようやく自分が泣いていると気付くことができた。

 

「あれ、なんで!?僕と友達になるのってそんなにイヤ!?」

「・・・イヤなんかじゃ、ないです。えへへ・・・、ありがとう、ございます」

 

差し出された手を、そっと握り返す。優しくて、不器用な笑顔をうかべながら。

初めて見せる泉美の年相応の表情を見て、鳥羽も、頬をほころばせた。

 

 

数日後の朝。

高級住宅街に居を構える一件の豪邸から、爽やかな朝には相応しくない喧騒が聴こえてくる。

と思ったら、玄関の扉を勢いよく開き、鳥羽が飛び出してきた。

 

「・・・あーもう!ドラッチのしょうもないドラゴン談義聴いてたら案の定遅刻しそうだよ!!」

 

死ぬ気の全力ダッシュで遅れを取り戻し、学校近くの交差点で膝をつく。

早朝の過激な運動のお掛けで、鳥羽の血圧はフルスロットルである。

よいこのみんなは遅刻なんかせず余裕を持って登校しようね!モクロウとの約束だゾ!

 

「あぁ・・・。キツぅい・・・」

「こっちはまだまだ喋り足りないくらいだッチ!ボルメテウスさんがアフロヘアになった逸話とか、ボルバルザークさんの温泉レポートとか、話したい小ネタはまだまだ・・・」

「どうでもいいよそんなのぉ!!」

 

信号待ちの合間に巻き起こる些細な討論。

鳥羽の血圧は上昇の一途を辿るばかりである。

 

「朝から騒がしい人達ですね・・・」

 

エキサイトする鳥羽達の熱を冷ますように、落ち着いた、しかしどこか幼さの残る声が聴こえてくる。

青みがかった白く長い髪に、表情の変化に乏しい幼顔。

先日のデュエマ以来鳥羽の友人となった、温水 泉美だ。

しかし先日までとは少し違い、髪の両サイドをそれぞれ赤と青の小さなリボンで飾り、表情もどこか柔らかくなっている。・・・気がする。

 

「あ、おはよう泉美ちゃん・・・。聞いてよ、ドラッチがさぁ・・・」

「見てれば大体わかりますよ。・・・おはようございます、アラタさん」

 

 

「えぇえええええええ!?おじいさんの早とちりだったぁ!?」

 

登校中、鳥羽の驚愕の叫びが響く。

 

「はい。お父さんがおじいさんに提案したのは、取り壊しではなくリフォーム。つまり一度取り壊してから最建築する、という事だった様です。最近働き詰めだったのも、リフォームに当てるお金を用意する為だった、と」

「・・・じゃあ、泉美ちゃんのお父さんは、はなから取り壊すつもりは・・・」

「微塵もありませんでした」

「なんだそりゃ・・・」

 

脱力して思わずその場にへたり込んでしまった。

泉美を手伝う約束をしたその後の数日間、泉美の父との話し合いに応じるよう、まず泉美の祖父である湯治を説得することに決めた。

鳥羽のなけなしのメンタルをガリガリすり減らした必死の説得により、ようやく話し合いに応じさせることが出来、これからが正念場、と息巻いていた出先でのこのオチである。

 

「お父さんの言い回しが回りくどかったのも一因なんですがね。素直になれないだかなんだか知りませんが、いい迷惑です・・・」

「まぁ、親子なんだし色々あるんじゃないかな・・・?」

 

「年端もいかねぇ小娘の嬢ちゃんには、親父に対する息子の気持ちはわからねえかもしれねぇなァ」

 

「ーーえ?」

 

二人のぼやきに対して、不意に聞き覚えのある声が答えた。

泉美は慌てて懐からデッキを取り出し、先頭に配置していたカードを見る。

そのカードから顔をのぞかせていたのは、

 

「よォ嬢ちゃん。久しぶりだな」

「オンセン!?」

 

カードからひょっこり顔を出していたのは、先日涙ながらに泉美と別れを告げたはずのオンセンだった。

 

「敗退したらクリーチャーとも会えなくなるんじゃ・・・」

「へ?別にそんな決まりねーッチよ。大会期間中だったら、好きに会いに行けるッチ」

「ど、どういう事ですかぁ!」

 

突然の事態に珍しく取り乱してしまう泉美。

そんな泉美をとりなす様に、オンセンは飄々とした態度だ。

 

「勿論、ありゃ全部芝居だったって話よ」

「なんでわざわざそんな事をしたんですか!?こっちは今生の別れだと思ってたんですよ!?」

「あァ、それは・・・」

 

得意気な顔で顎に手をやり、目をキラリと輝かせ語った。

 

「女って奴ァ精神的に弱ってる時に優しくされるとコロッと落ちちまうもんなんだよ。あの坊ちゃんなら、嬢ちゃんを放置する様な事は無いとは思ってたが・・・、見事に作戦大成功だったみたいだなァ」

「な、なにを・・・!」

 

オンセンは愉快そうな顔をしながら、泉美のリボンに視線を向ける。

 

「あの嬢ちゃんがそんな可愛らしいリボンをつけるとはねェ!誰か見せたい相手でもいるのかいこのお洒落さん!そういやさっき坊ちゃんを見つけた時もそれはそれは嬉しそうな顔を・・・」

 

直後、氷の様な冷ややかな表情で、オンセンのカードを折れるか折れないかの絶妙なパワーバランスで痛めつけた。

 

「あだだだだだだだだだだだだだ!!!やめてやめてやめてまじであぁああああああっっ!!!」

 

ひとしきり痛めつけた後、満足したのかオンセンを開放する。

 

「死ぬかと思った・・・。けど嬢ちゃんのそういうとこ、嫌いじゃないぜ・・・」

「・・・ドMなんですか・・・?」

「いやいやいやいやいや!そう言う意味じゃねェよ!!?」

 

必死の表情で抗議するオンセン。

しかし泉美は、そんな発言は気にもとめずカードを拾い上げ優しく語りかけた。

 

「・・・おかえりなさい、オンセン」

 

「おう、もうちょっとだけ、よろしくな」

 

鈴を転がしたような少女の笑い声と、雄々しく低い怪物の笑い声が混じり合う。

一見不協和音にも聴こえるその二つの音は、しかし、鳥羽の耳にはとても心地よく、優しく届いたのだった。

 

 

 

 

 

〜END〜

 




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