奇妙な味のドラクエ3   作:ケット

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アレフガルド

 高いところから落下している感覚。

 ガブリエラがトベルーラを唱え、瓜生もそれに合わせる。四人減速して、夜の小さな建物の外に着地する。

 暗い暗い夜。空に星も月も見えない。

 強い潮の香りがする。

「ここは」

 見える建物に入ると、人が迎えてくれた。

「あんたも、上の世界からやってきたんだな。ここは闇の世界、アレフガルドって言うんだ」

 建物を出ると、そこはしっかりと守られた古い港だった。

 埠頭には一つだけ、8mほどの一本マスト縦帆スループがあった。

「東に行くと、ラダトームのお城だよ。船なら、自由に使っていいって」

 と、子が声をかける。その父親はつかれきった表情をしていた。

「金貨なら」瓜生が言うが、首を振る。

「とにかくやるよ。あんたのものだ」

 わけもわからず、とにかく金塊だけは置いて船に乗り、もやいを解く。

 軽快で水漏れもない。遠洋航海はきつい小型船だが甲板もあり、四人が乗るだけならなんとかなる。

 瓜生は早くもM2重機関銃と船外機をどこに設置するか、めどをつけ始めた。

 ごく近い対岸の埠頭に船をつけ、コンパスを頼りに新しいナメルで東に向かう。途中の道ではスライムが出ただけだった。

 双眼鏡で城の尖塔を見つけ、すぐに岩場に車を隠し、歩いて城に向かう。

 そこは山を背に海に面しており、周囲は広い沃土が広がり、そして海の向こうには山に囲まれた別の城の尖塔が見えた。

 

 城からやや離れた、大きな城下町に入った。

「ラダトームの町へようこそ」と、門衛が歓迎してくれる。

 といっても深い闇の中、魔力の明かりを一瞬使って姿を確かめ、あとは遠くに光るかすかな灯明に頼るだけ。

 町の人にミカエルが、バラモスを倒した勇者と名乗ると、「それはまあ。でもバラモスなど、ゾーマの手下の一人に過ぎないのですよ」と笑った。

 四人にとっては呆然とする話だった。あの強さで、手下。その上にいるゾーマはどれほど強いのだろう。

 話を聞くと、このアレフガルドという世界はもう長いこと日が出ることなく、闇と絶望に沈んでいるという。

「だがおかしい。日光がなければ作物も実らないし、病にもかかるだろう」瓜生が聞くと、

「それはルビス様の御恵みがあるからですよ」と深い信仰を見せて答えるが、それも哀しみになる。

 魔王が求めているのは絶望と苦しみ、それを供給するために飼われている、と聞いて、

「ま、こっちが家畜を飼って肉を食ってるのとどれぐらい違うのかと言えばな」と瓜生が眉をひそめる。

「冒涜はともかく、家畜にはそれほど複雑な心はないのです。人間にはこの心と魂があるではないですか」ラファエルがとがめた。

 

 町からやや離れた城に向かう。

 そこで、海の向こうに見えた城がゾーマの城だと聞く。

「だったら核砲弾が届くぞ。ここの人を三年ぐらい避難させれば」

 ミカエルは「バカ」の一言。

「地下に逃げたら?」とガブリエラが問い返す。

「上空から核バンカーバスター……は無理か。滑走路を整備しても爆撃機は難しいからな」と肩をすくめた。「でも、挨拶がわりに通常火砲でも叩きこんでやれないか?大量にぶちこんでいればそのうち城なら崩れるぞ」

「入れなくなるだけよ」ガブリエラが瓜生の背中を叩いて、王の謁見室がある二階へ向かう。

 ラルス王のところに行く前に、女官が突然驚きを見せた。

「オルテガ様!?」

「オルテガ、オルテガがどうしたって!」激しく詰め寄るミカエルに、女官は涙をこぼした。

「お子様か、なにかでしょうか?わたくしがお世話をしたのです。ひどいやけどを負って、城の外に倒れていて。記憶をなくされたらしく、ご自分の名前以外何も覚えてはいらっしゃらなかった」

「何年前の話だ!」

「時など無意味なこの闇の世界ですが、おそらくは十年ほど前と」

 ミカエルは恐ろしいほど青ざめ、吐きそうになっていた。

 話を聞いていた大臣も寄ってきて言った。

「そう、オルテガ。恐ろしいほど強い勇者だった。そしてゾーマを倒すと旅に出て、いまだに帰ってはこぬ。他のあまたの勇者たちも」と苦悩に頭を抱えた。

「どうやってこんなところに」

「オルテガが落ちた火山、そこがギアガの大穴と同じような穴につながってたのかもしれません」ラファエルが考え考え言った。

 あらためて王に謁見し、名乗る。

「魔王バラモスを倒したアリアハンの勇者、オルテガの一子ミカエル。ゾーマを倒すために旅をしている」

 本来ならアリアハン王の紹介状など意味を持たない異界、ということがわかっていないのか?と瓜生は内心首をひねった。

 だが、ラルス王は威儀を正して受けた。ミカエル自身の持つ気品、誠意がおのずから伝わるのか。

 この国には絶望しかない、だが希望をもたらしてくれるなら待つとしよう……深く絶望しているその表情に、ミカエルは不満げだった。別れ際の、自らの王と同じ表情に。

 だが瓜生には、その絶望はむしろ自らの故郷で見慣れていた。むしろ、その絶望が暴走していないことが不思議だった。

 

 それから町に戻り、武器屋に行ってみる。

「ほう、すごいじゃないか」ガブリエラが感心する。

「これほどのものは、わたしたちの世界にはありませんね」

「じゃ、買っとくか」と、瓜生がメイプルリーフ金貨を店頭に積み上げ、瓜生の世界のジュラルミン盾より軽く丈夫な、鏡のような素材でできた水鏡の盾を四人ともつけた。縦長で肩にかけられるようになっており、手を離して左手を使うにも便利だ。

 

 宿では普通に食事があった。

 ニンジンに似て甘味がより強い根菜が半ば主食。それに豆のような味がする桜の葉に似た木の葉、塩味の強いちくわのようなキノコが、たっぷりと蒸されて盛られる。

 脂肪がとても多い木の実のローストも香ばしい。

 その油で大きな蜂のさなぎとシロアリを揚げたものは、ミカエルは驚いたがガブリエラは喜んだ。

 甘味の強い蜂蜜酒もある。

「不思議なもんだな、闇なのに作物があるって。どうなってるんだろう」瓜生が首をひねる。

「おいしけりゃいいんだよ」ガブリエラが酒を頼んだ。

 

「もし、またバラモスと戦うとしたら、どんな戦術がある?」瓜生は闇世界の宿で、三人に聞いた。

 三人とも黙りこむ。

「ずっと思い返してる。どうすればよかったか」

「もっと剣を磨けば」ミカエルが言って、首を振った。「それは当然の前提として、だな。もうすぐ、より強力な雷が使えると思う」

「あたしはもう、人に使える呪文はすべて使える。どうしようもないよ」とガブリエラが苦笑した。

「ダーマで、素手で敵と戦う武闘家に転職してもよいでしょうか?」ラファエルがミカエルを見た。

「それが夢だったな。昔、アリアハンに来た武闘家の演武をすごい目で見てたっけ」小さい頃の思い出をミカエルが語った。

「おれはどうすればよかったと思う?」瓜生が言う。

「最初から、あたしごと最強の銃で」ミカエルが言うが、瓜生は首を振る。

「もし次がすぐ出てきたら?あんたが死んでたら、大きな戦力減だ」

 ミカエルがうなずく。

「第一、最強の銃というのが複雑だ。おれが呼び出せる、軍で採用されていて地上で使える最大口径は200mm級。でも大人数がいるしスペースもとる。

 現実的には155mmと戦車の100~120mmが最大かな。ただし自走砲も野砲も、至近距離にはほとんど役に立たない。訓練がいるし、四人でも足りないぐらいだ。155mmなら核砲弾もある、ものすごい安全距離が必要だし周囲を汚染するが。

 機関砲で最強クラスなのが、アベンジャー30mmガトリングとボフォース40mm。どちらも地面に特別な台が必要な規模だ。車に積める限度がナメルに積むサムソン30mmブッシュマスター2と、.50BMGガトリングだ。ミニガンもある。

 自走対空砲なら動き回りつつ大口径砲弾をあらゆる方向に高速連射できる。紙装甲だけど。

 人が運べる最大はM2重機関銃だが、三人で短距離運ぶのがやっとだ。

 一人で持ち運べる限度は、20mmアンチマテリアルライフルだな。立ったまま振り回すのは無理、寝たまま狙うだけだ。

 50m程度の距離と後方噴射スペースをとれるのなら、RPG-7などの成型炸薬弾頭がいろいろある。

 ついでに、特定の地面を踏んでくれるなら対戦車地雷がある。迫撃砲は上が開けてないと使えないし……待てよ。床じゃなく壁に当てれば、60mmなら直射できるかもしれない。

 ぶっちゃけほしいのは300m、いや30mの距離と、50cmの土手とレーザーワイヤーとクレイモアなんだ、それさえあればバラモスが何匹いようと……」

「ナメルに最初から乗って戦っていたら?」ガブリエラが言った。

「バラモスはナメルを破壊したからな。あの程度の広場なら、ヴィーゼル空挺戦車なら自在に動けるし、主力戦車ならなんとかあの攻撃にも耐えられると思う。主力戦車に大口径機関砲を積んどいてもいいな、できたらだけど」

「ブッシュマスターとやらだったな、バラモスにとどめをさしたのは」ミカエルが憮然とする。

「剣で止めてくれたからだ」瓜生が微笑んだ。

「普段使う銃も、より強力なものにすれば」ラファエルが言うが、

「それだけ重くなって、右から左に振るだけでも遅くなる。普通に前で戦う者は軽い銃、後方支援は重い銃かな。おれはFN-MAGでもいいけど、ガブリエラには重いだろ?」

「ま、ここでしゃべってても何にもならない。いろいろ試そう」とミカエルが代金を置き、立ち上がった。

「あのバカ重いのはかんべんしとくれ、女の子は腰を大切にしなきゃね」ガブリエラが笑った。

「じゃあガリルなら操作法同じだ。でかい敵も多いから7.62mmNATOだな。C-MAGつければ百発連射できる。おれもMAGは重いからな、歩くときはMk48、ミニミの7.62mm版にするか」

「重いものなら私が持ちます。力だけはありますから」ラファエルが微笑む。

「じゃ、バレットM82を持ってもらうか、あれが一人いれば相当戦力は増す」

「ま、種のおかげで力もあるしね」

「まずダーマに行くぞ。オルテガのことは気になるがな」

 ミカエルがルーラを唱える。幸い無事にダーマに戻れた。

 

 ダーマ神殿では転職を求める人々が並んでいた。

 ラファエルの順番が来て、神官の前に額づく。

「そなた、僧侶の祈りはすべて極めたな?」

「まだ未熟者ではありますが、使える呪は修めました」

「では、何に転職せんとする?」

「武闘家に」

「学んだことは残るとはいえ、力が半減することもいとわぬか?」

「確かに」

「ならば」と、賢者でもある長老が、神殿そのものの力も借りてきわめて奇妙な、瓜生には全貌を識ることもできないほど複雑な模様を編み上げ、ラファエルの存在全体を編みなおすのが分かる。

 一瞬倒れようとして、そしてラファエルの目に光が戻った。

「転職は成った」と宣言され、ラファエルは拳を突き上げる。

「だがその技は自ら磨くもの。励むがよい」と励ましの言葉をかけ、送り出す。

 それからラファエルはカザーブにいたという武闘家を探した。伝説の人は故人だったが、技を伝えていた弟子がシャンパーニュにいてごく基礎の、四十八の動きだけを習う。門外不出の技術で、瓜生は見ることを許されなかった。

「この動きをそのまま何万と繰り返せば、戦えるそうです」とラファエルは笑顔だった。

 それから、アレフガルドに戻ってあちこちで話を聞くのを続けた。

 ラダトームでは興味深い事をいろいろ聞いた。魔王に奪われた三つの武器防具、その話を聞いたときミカエルは奇妙なものを感じた。

「雨と太陽が合わさるとき、虹の橋ができる。古い言い伝えですじゃ」

 その言葉も心に刻んでおく。

 瓜生にとって興味深かったのは、人々は昔ギアガの大穴を通って上から来たという創世神話だった。

 

 教会の二階で、意外な再会があった。

 囚人服のカンダタがじっと勤行していたのだ。

 ガブリエラが一瞬驚き、あっさりと

「どうしたんだい?」と笑いかけた。

 他の三人は何もいえない。

「ああ。ちょっと色々探ってたらこっちに落っこちてな。そうそう、オルテガが生きてるってのはもう聞いたよな?」

「まあね」

「太陽の石ならこの城にあるはずだ。盗もうとしたけど、タイミングが悪くてな」

 その笑い顔を見ると、本当に彼にとっては、なんでもないことだとわかる。

「ま、ちょうどいいさ。しばらくここでのんびりするよ。上はどうだ?」

 ガブリエラが軽く笑って、

「あんたの組織のほとんどはサマンオサの新体制の恩赦、というか幹部扱いで迎えられてる。ハイダーの街や、オリビアの海と地中海の海峡の都市の再建に回ってる奴らもいる」

「一時はその皆さんに、大変にお世話になりました」

 瓜生は妙にカンダタには礼儀正しくなってしまう。自分には遠く及ばない剣の達人、ということで。

「世話になったのはうちらのほうさ。紅の女からも聞いたぜ」

「は、はい」

「バラモスは倒した。だがこっちが本体だって聞いてね」

 ガブリエラが問いかけるような目。

「ああ。そんなに広い大陸じゃない、くまなく回ってみるんだな。もうしばらくしたら出て、こっちの難民をまとめていろいろやるよ」

 そうガブリエラに微笑みかけると、ミカエルをじっと見つめた。

「どうだい?バラモスは倒したんだってな」

「ああ」

「なら立派な勇者だ。一度バラモスにはお目にかかったことがあるからな、オルテガやサイモンも。サイモンの仇をとった、ってのは聞いてるよ」

 ミカエルはただうなずくだけだ。

 カンダタはうなずきかけ、再び勤行に戻る。

 肝心なことは言葉にならない。オルテガのことも、どちらも出さなかった。

 瓜生とラファエルは深く礼をして、ミカエルは決然と背を向けた。

 

 それからカンダタの暗示を元にラダトーム城を探る。

 ふと瓜生が台所をのぞいた。

「何が楽しいんだい?」

「何を燃料にしているか、どのような効率の」

 と瓜生が言おうとしている時に、ミカエルが隠し扉に気がついた。

「うまく隠されてるな」

 といいながら開けて、隠されていた上の階を見たら特殊な祭壇に太陽の石があった。

 太陽の石は手に入れた。強大な魔力は分かるが、それは瓜生にもガブリエラにもまったく使いようがない。

 

「さて、マイラに行くか」

 ラダトームで聞かされたマイラに船で向かう。

 ただ、ラダトームから西にある港に向かう途中、前はスライムしか出ないので油断していたら、突然泥土が無数の、長い手となって体に絡みついてきた。

 それ自体は炎の呪文で容易に倒せたが、その一つが呼び出した……身長の三倍はある、青銅のような巨人!

 銃も剣もほとんど感じない。前に動く石像対策に使った、重りをつけた縄で足を絡め、ガブリエラのベギラゴンで泥の手を一掃してからRPG-7を叩きこみ、やっと倒した。

 それでやっと海にたどり着き、深い湾で外洋に出る。

 本来ならその湾全体が水上交通でつながるはずだが、魔王の脅威ゆえか人口は少ない。

 海でもとてつもなく巨大なイカが襲ってきたが、船につけたM2重機関銃が撃退し続けた。またザラキやザキが有効なのもありがたい。

 巨大だけに、一度殺すことができれば膨大な食料になる。

 といっても日光がないから、ぶつぶつ言いながら上陸しては大きな帆布をパイプ足場にかけて、中で大量のチップを焚いて燻製にする。

 三匹を二回燻製にすれば小さい船は一杯になるぐらいだ。

 一度陸から離れて外に向かおうとしたら、巨大な壁のような何かに阻まれたのには驚いた。

「この大陸全体が、外からものすごい結界で隔離されてる」

「空も、その上もだ」瓜生が魔力を探った。

「まったく、なんて」ガブリエラが、口に出すのもはばかれるゾーマに怯えた。

 

 北東の岬に炊煙があり、天然の良港でもあったので上陸し、船一杯のイカの燻製で一夜の熟睡をあがなった。そこの夫婦は吟遊詩人で遊んでいる息子の行方を案じていた。

「ここもすごい水源地と天然の良港があるな。町になりそうだ」

 瓜生が言うのを、ガブリエラは船酔いに苦しみつつ懲りてないのかとぶつぶつ言う。

「そうだ。なんで今まで思いつかなかったんだ、海から飛び立つ空飛ぶ機械があるんだろ、あたしはそっち使うよ」

 ガブリエラが叫んだ。

「結構操作ややこしいし、ここは上に結界があるから危ないぞ」

「へえ、王女様たちは遠慮なく乗せるけど、あたしは乗せないんだね」

 とまで言われたら断りようがなく、一人用の小型水上機を出して、いろいろと教えたり練習させたりした。何しろ暗いから、レーダーと夜間計器を大量につけなければ飛べたものではないし、元々この暗さで飛ぶほうが無茶に近い。

 幸い彼女は船酔いはひどいが飛行機酔いはないようだ。

「いいか、何かあったらすぐ離脱しろよ」

「わかってるって。なんて快適!」

 ガブリエルの嬉しそうなことといったら。ミカエルたちにとっても、高いところからあっという間に、レーダーの荒い映像でも地形を偵察できるのは実にありがたい。

「だったら、それで直接ゾーマの城に行けないのか?」

 ミカエルがいらいらと言ったが、

「無理だね。あの城の結界はやばすぎる」

 が答えだった。

 そのままガブリエラが空から先導して密集する小島を抜ける。

 一度、やや大きな島に立つ高い塔に激突しそうになって、それを回避する機動から失速し、墜落直前でトベルーラで立て直したことがあった。

 なんとか大陸に上陸して水上機を隠し、船をもやって山奥に向かう。

 船を置いて、大型の飛行艇で旅をするというのも考えたが、飛行艇では魔物に応戦できないし、激しい嵐だと離着陸できないので不便だ。

 

 武闘家となったラファエルが、グールの激しい攻撃をさばいて投げ飛ばし、蹴りつける。

 魔力が半減したしこれ以上伸びることがないのは痛いにせよ、肉弾戦要員が二人いるのはありがたい。

 ただ武闘家は全身を使うため、荷物の制約が大きくAK-103さえ携帯できない。

 またやっかいなのが、巨大な骨だけの体のスカルゴン。圧倒的な力と死を忘れたタフさ、銃弾で一つ一つ関節を正確に狙って破壊するほかない。

 出ると思ったら素早く穴を掘って手榴弾を放るか、ナメルにもぐって大口径機関砲を叩きこむかが多くなってきた。

 

 山奥の、豊かな温泉が湧くマイラの村はとても活気がある。

 周囲は森が広がり、日光がなくなったことで狂った生態系でもいい食物や油がたっぷり得られる。

 王者の剣が砕かれた、という話にはミカエルはとても失望した。

 強力な魔力を持つ水の羽衣をガブリエラと瓜生が手に入れた。また、ベホイミと同様に回復できる賢者の杖がとてもありがたかった。

 温泉でゆっくり身を休め、宿で料理を楽しんだが、ふとかすかな違和感を感じた。

「この漬物」

「ああ、ジパングの味だ。でもジパングで使う野菜じゃないし、糠じゃなく塩だな」

「ジパングからこっちに来ている人がいるのか?」

 そのまま、眠って、普通なら朝だが、朝のないこの地では意味がない。

 誰もが、だらだらと好きな時間に営業し、好きな時間に寝ている。

 精霊ルビスが塔に封じ込められている、という噂を聞いて、それが来る時にガブリエラが、飛行機でぶつかりかけた塔か、と納得した。

 でも必要な、妖精の笛がないので行っても無駄そうだ。

 村はずれの予言者に、光の玉が魔王に有効であろうと告げられた。

 町から少し外れた、やや新しい店や工房が集まったところ。そこでは、二階の道具屋がとても器用で、いろいろなものを直したりすると聞いた。

 上がってみて、四人ともはっとした。

 ある意味見慣れている、ジパングの衣と髪。何よりも、店の隅の神棚。

「いらっしゃいませ」

「はじめまして。上の世界から来た勇者、オルテガの一子ミカエルと申します」

 何度も瓜生とともに、あちこちのジパング村を訪れているミカエルが、見よう見まねで頭を下げた。

 それに、店主が驚き、絶望、そしてすぐに表情がなくなる。

「覚悟はできております」

 いぶかしむミカエルに、瓜生が進み出る。

「オロチがヒミコを殺し、その顔を奪って化けていたのです。オロチは倒しました、全て終わったのです」

 店主は目を見開き、しばし瞑目して、目を上げた。それに、瓜生がはっとした。

「自害はなりません」

 瓜生の言葉に、今度こそ床にくずおれる。

「同様に、ジパングを裏切った人、またその他多くの恨みつらみや罪があり、かなりの人数がジパングを離れ、世界各地で新天地を切り開いています。あなたも同様です。これはオロチを倒した現人神が最初に出し、宿老に承認された命令です」

 と言って、ミカエルを振り返る。

「死ぬな。殺すな、居られぬ者は去らしめよ」

 彼女の力強い一言は、人を圧倒した。

 ただ、ひたすら店主は下を向いていた。泣かない、表情も変えない。

「ですが、家内とひきかえにヤヨイを」

 男のしぼりだすような小声。

「もしかして、マサムネおじさんですか?ヤヨイさんが何度か話していました。腕のいい刀鍛冶だった。キサラギさんが選ばれたとき、共に逃げた、と」

 ラファエルが聞いた。

「ヤヨイは、ヤヨイは」

「生きています、間一髪で。ハイダーバーグのジパング村では要です」

 ラファエルが笑いかけた。

「おお……」

 ぎゅっと、泣くのをこらえて歯を食いしばり、全身を震わせる。

「どうか、家内にもお話を」

 と、店主の案内で、小さいがしっかりした、畳のかわりに縄屑を編んだ床に案内される。

「こちらの植物の粗茶ですが」

 と、出された茶を、もうだいぶジパングの礼法にも慣れた四人が受け取る。

 そして、美しい妻が話を聞き、必死で涙をこらえていた。

「余計とはわかっていますが。ルーラで、行きますか?」

 夫婦は静かに首を振る。

「ヤヨイたちには会いたい、ですが、もう決めたことなのです。こちらに骨をうずめる、故郷のことは思うまい、と」

「ヤヨイさんたちも、故郷を思いつつ新しい地に根付こうと必死で日々働いていますよ」

 瓜生が笑いかける。

「こちらとしても、少なくともゾーマを倒すまではこちらのことは秘密です。ですが……ご心配なく。上の人々には漏らしません」

 と、ルーラで瓜生が飛んだ。

 そしてハイダーバーグに行くと、いろいろ買っては運ぶのを繰り返した。

 俵ごとの玄米や大豆、小豆。味噌・醤油・酒。餅、餡菓子。糠漬け。茶、薬草。魚の丸干し。生漆。

 ついでに、ヤヨイたちと談笑し、隠したカメラで写真を撮った。

 夫婦はひたすら瓜生を拝んでいた。

「ジパングの味噌!夢にまで、毎夜毎夜夢に見て」

「言うな、ありがとうございますありがとうございます」

「あのヤヨイ、なんて美人に、美人になるのはわかってましたが、よかったよかった」

「あの赤ん坊が!」

 写真という奇妙な技術にも、驚くよりむしろ感激のほうが大きいようだった。

 

 

 マイラからラダトームに戻り、そこからあちこちに陸路で移動してみる。ラダトームの北で深い洞窟に達し、そこでは魔法がまったく使えなかったことをきっかけに、装備や戦術も再検討・再訓練を始める。

 地下一階は敵が出なかったが、魔法が使えないというのは焦る話だった。いくらガブリエラが賢者の杖を持っていても。

 洞窟内で動ける、ということを考えて、瓜生がヴィーゼル空挺戦車を出してみた。

 ヴィーゼルは普通の自動車ぐらい小さく、操縦手と砲手の二人で運用できる。20mm機関砲で火力もあり、狭いがもう二人なんとか乗れる。装甲は7.62mmに耐えられる程度、荷物もあまり入らないが、洞窟にも入れるコンパクトさが魅力だ。

 洞窟の中でも、なんとかヴィーゼルが通れる道は多い。階段すら下りられる。

「最初の洞窟からこれ出すか、または小型自動車の前に鉄板当てて強引に行ってたら楽だったな」と、瓜生が今更なことを言った。

 ガブリエラが操縦、瓜生が砲手と機関整備を担当することが多い。

 そして時々は乗車し、敵が多いときはその影に隠れてミカエルとラファエルが歩く。

 ちなみに歩く二人は、小さな台車に乗せてワイヤーで牽引しているM2重機関銃も担当している。

 まあとにかく、巨大なトロルやヒドラが出ても、すべて20mm機関砲だけでばらばらになる。

 そして地下二階の一番奥、深い深い地割れが洞窟の床を切り裂いていた。

 その、あまりの深さに本能的な恐怖が四人を襲う。ギアガの大穴すら比較にならない。

「よし、勇気だ」

 ミカエルが口走り、四人とも飛びこむ……彼らは何を見たのか聞いたのかも分からず、とにかく飛びこむ直前の状態で止まっていた。

 あまりの恐怖に、四人とも震え上がって、二度と試そうとはしなかった。

 まさに深淵。

 だが、その傍らにあった宝箱に、ミカエルが妙に惹かれた。

 開けてみると、盾があった。

 不死鳥を図案化した紋章が刻まれた、ハートマークに似たやや小さめの盾。素材は……なんとも言いようがない。ただ純粋な、深海の青。

「重さはほとんど感じない」ミカエルが驚いた。

「これが、ラダトームから盗まれたって言う勇者の盾だね」ガブリエラが息を呑んだ。

「なんだこの感じ。まるで、小さい頃から左手がなくて、それがまた生えてきたような気がする」

 ミカエルはただ感動していた。

 そして、直後襲ってきた巨人と多くの頭を持つ竜相手に、とんでもない防御力がはっきり見えた……巨大な棍棒をやすやすと受け止め、まるでバリヤーでも張るかのように竜が吐いた炎息をそらしたのだ。

 直後、ミカエルが右片手でAK-103を連射、巨人の頭をぐちゃぐちゃに撃ち抜く。

 我に返った瓜生がヴィーゼルに飛び乗ると、砲塔を回してヒドラを消し飛ばした。

 ガブリエラも呪文を唱えかけて、かき消されることを思い出して舌打ちし、ヴィーゼルを盾に巨人の足を狙って射撃する。

 目も見えず暴れる巨人の一撃を、ラファエルがさばいて投げ倒し、掌底を背中の中心に軽く当てると、奇妙にも巨体が痙攣し、動かなくなる。

 魔の生命を断ち内部から破壊する、武闘家の素手でしか発しない一種の魔法。編み目の解釈によっては回復呪文の過剰とも読めるし、内部に炎と冷気の境に生じる虚無を送るとも読める。

 円に沿って歩く独特の動き、全身から手足に集中する螺旋が魔力を増幅集中させ、特異な形で解放するのだ。

 

 その洞窟から、両親が息子を待つ小さな村まで特に何もなかったので、そのまま船と水上機を組み合わせて南下した。

 大きく大陸を回る旅。

 水上機でならかなり内陸も探れるので、何かありそうなら上陸する。無論、水上機の燃料が減ったら船の近くに着水、船も岸につけて瓜生が補給する。

 陸上でも、確かにナメルは便利だが、ヴィーゼルを訓練を兼ねて使うことも多い。

 またラファエルにも肉弾戦の経験を積ませ、実戦で鍛える必要もある。

 

 四人とも歩くときの装備は、ミカエルが剣とAK-103。銃を使うときは盾を肩に吊り紐でかけ、ライトで射撃を統制し大口径弾をばらまく。そして敵が迫れば盾を手にし、剣を抜いて戦う。剣を振りかざしたときの、広く敵全体を打つ攻撃も魅力だ。

 ラファエルは瓜生の近くでバレットM82を担ぎ、距離に余裕があるときは一撃必殺の巨弾を叩きこむ。敵に突進するときは重い巨銃を瓜生に渡し、S&W-M500マグナムリボルバーを抜く。敵のすぐそばからレーザーサイトの助けを借り最強拳銃弾を急所にねじこみ、素手の戦いなら即座に腰のホルスターにしまう。

 ガブリエラは魔法の杖数本を使い分け、それにガリルACE52も加える。強力な7.62mm×51NATO弾の、特に近距離ではダットサイトでの素早い射撃。100発入るC-MAGを使えば、実質機関銃と変わらない。

 そして瓜生は愛用のサイガ12ブルパップフルオートで、最初にフラッシュライトで敵を探り目をくらませ散弾やスラッグの嵐をぶちこむ。といっても、ここではフルオートの12ゲージもとりあえず生中程度だ。

 魔力の助けを借り、「ハンマースペース」から瞬時に装填済みの火器を「出」すのも慣れてきた。Mk48、ミニミ軽機関銃の7.62mmNATO版……FN-MAGよりはかなり軽い……で確実に支援射撃に入るし、バレットM82をぶっぱなすこともある。ダネルMGLグレネードリボルバー、カール・グスタフ無反動砲、RPG-7も、距離さえ取れれば一撃必殺。密集して剣を使うこともある。

 特に中距離以遠、瓜生がRPG-7であぶり出し、ラファエルがバレットM82で貫くコンビネーションは極悪ともいえる。動く石像さえも、RPG-7が少なくとも一体を粉砕し、同時にバレットM82が別の一体の足を一本吹き飛ばす。

 警戒しながら歩くときはミカエルと瓜生が並ぶ。ミカエルは左腕の盾をしっかり構え、フラッシュライトをつけたAK-103を右片手で持つ。親指ひとつでライトを点灯させて前面を探り、敵の気配があれば一発撃ちこんでみる。かたわらの瓜生はサイガブルパップを構え、赤外線暗視装置や双眼鏡でフォローする。そのすぐ後ろに巨大なライフルを担いだラファエル、ガブリエラが後方警戒の2-1-1変型アローだ。

 また余裕があるときは、ガブリエラ以外の三人でM2重機関銃を、三脚ごと運ぶというのもやってみたりする。ラファエルの怪力があっても長い山道ではきついが、特に強力な炎を吐く長い竜が出現したらこれほどありがたいものはない。

 

 大きく大陸を回った島に、小さなほこらがあったので入った。

 そこの老人はミカエルを見ると、「出直してくるがよい」と怒鳴りつけ、次の瞬間ほこらの外にいた。

 それでなんとなく、ちゃんと陸を探らなければ、と沿岸沿いに引き返していく。

 ゾーマの城を求めて深い湾を北上したが、浅瀬と結界に阻まれてやはり進入路はなかった。

 

 大陸全体の南側、海岸沿いに広がる広い毒の沼地。

 そこはかなり敵も強い。沼を歩くだけでも体力を、または軽く浮くための魔力を消耗する。また穴掘りはもちろん伏せ撃ちもできず、どうしても炎や呪文を浴びてしまう。

 無論キャタピラさえ動かず、迫撃砲もM2重機関銃も使えない。瓜生の世界の兵士にとっても実に嫌な戦場だ。

 多彩な攻撃をし、しつこく腐った死体を呼び続けるマクロベータがうっとうしい。特にそれが補助に回ったときは厄介だ。

 

 水上機から見えていたところに、小さく見えるが内部は恐ろしく美しい、古く神聖な建物があった。

 だがそこに近づいた瓜生たちを、沼から浮き上がった何かが急襲する。勇者の盾があやうくその、ホオジロザメより巨大な牙をそらした。

 腐泥に飛び込もうとするそれを、瓜生のショットガンが追う。それを横から攻撃呪文が襲った。

 ミカエルがAK-103を高く掲げ、左右に振る。

 見たラファエルが大きく横に走り、ミカエルはガブリエラのところに走って、また飛び出した何かに銃弾を叩きこんだ。

 ガブリエラがピオリム・スクルト・フバーハと次々に補助呪文を唱える。

 瓜生がマクロベータに軽機関銃から重い銃弾を浴びせ、倒した。

 そしてミカエルが銃弾を撃ちこんでラファエルを見た、そこにラファエルは立ち撃ちでバレットM82フィフティを叩きこむ。

 銃口から左右に噴き出す強烈な気流が沼を乱し、大きく泥が柱のように跳ねる。

 突然、巨大な多頭竜が出現した!

 一つ一つの首が長く、あちこちからミカエルたちを取り囲み、ある頭は突進し、ある首は口を開いて炎を内部に宿す。

「伏せろ!」

 ミカエルが叫び、泥に飛び込むように潜り、目と銃だけ出して突進する口にフルオートを叩きこんだ。

 半ば泥に潜った四人の頭上を炎の嵐が過ぎる。ヘルメットやフードの上からも熱で頭が焦げる。

 ラファエルのバレットM82が、次の炎を吐こうとする首を吹き飛ばし、漏れた炎がその頭を焼き焦がす。なんとも言えない煙と臭いに息が詰まる。

 ラファエルと瓜生を襲う牙。ショットガンのフルオート、次いで軽機関銃の7.62mmNATO弾が注がれ、その下あごが吹き飛ぶ。ラファエルは自ら手を伸ばし、暴れる角につかまって泥から体を引っ張り揚げられる。

 そのまま、長い首を伝って走る!

 ガブリエラとミカエルの十字砲火が、それを襲おうとした別の頭を穴だらけにする。

 小山のような胴体にたどりついたラファエルが、その心臓に巨大なライフルを突きこむようにセミオートで全弾ぶちこむ。

 吹き上がる煙。巨体がゆらぎ、まったく無秩序に炎を吹き上げる。

 振り落とされたラファエルが沼にはまる。

 剣に稲妻を落としたミカエルが、また一つ首を切断する。

 頭が一つまた一つと、7.62mmNATO弾の嵐とショットシェルグレネードに中の骨を砕かれ、力なく横たわる。

 瓜生に炎を吐こうとした最後の頭が、ミカエルの投げた手榴弾に吹き飛んだ。

 

 その建物にいた美しい妖精は、この世界アレフガルドを創造した精霊ルビスに仕える者と名乗る。

 「どうかルビスさまのためにもこの世界をお救い下さいまし。神も魔も竜も殺す者よ」とミカエルを、半ば恐れながら見つめ、雲の色をした真っ直ぐな棒を手渡した。

 雨雲の杖。アレフガルドに伝わる神器。人に使うことなどできない桁外れの力を秘めているとはっきりわかる。

 

 毒泥の汚れもひどく、一時船に戻って海水で身を洗った。それから誰ともなく、どこか町があったら入浴したい、と陸を行く旅に。

「こっちのほうに、そらから炊煙が見えた気がするんだけどねえ」と、ガブリエラが大体指差した方向に行こうとしたが、まるで迷路のように川と橋、山が入り組んでいる。

 だがついに、水と山、そして人口の盛り土と頑丈な石壁に守られた城塞都市が見える。

 橋の出口を守る泥田が、突然無数の手となりミカエルを絡めとろうとし、切り刻まれる。

 稲妻の剣とガブリエラの雷の杖が掲げられると、稲妻の嵐が周囲を襲う。さらに瓜生がベギラゴンを詠唱する……そこに、手が形作る奇妙な図形が大岩を覆うと、そこから金属色の巨人が出現した!

 ベギラゴンがやっとマドハンドを焼き払い、ラファエルが巨体にバレットM82の50口径を二発叩きこんで瓜生に手渡し、走った。

 ミカエルも剣を上段に構え、駆ける。

 足に風穴が開いているのに痛みがないのか、容赦なく打ち下ろす前腕の一撃。勇者の盾が受け止めてミカエルが吹き飛び、着地した。

 瓜生がバレットM82で狙うが、ラファエルが飛び込んでいる。その体が大きく円を描き、もう一発の巨拳をかわして地面にめり込ませ、そのまま穴の開いたすねに一撃叩きこむ。

 閃光が走って足が崩れ、ミカエルのハンドサインを見たラファエルは離れて伏せた。

 瓜生が待ってましたとばかり、RPG-7を叩きこむ。

 その砕けた残骸から、奇妙な光の柱が立ち昇るように見えた。

 調べたガブリエラが、それを見て驚いた。

「雷神剣。道具として向けても、人間に使える最大級の魔法と同等の威力だ」

 そう言って取り出したのは、稲妻の剣の柄と同様の文様が刻まれた、革と金属の中間のような素材の籠手。

 それをミカエルがはめ、剣を握ると同じ拳の形をとると、まばゆい稲妻が吹き上げて直線状に固まり、ドラゴンキラーのような刃をなす。鋼の剣同様確かな質量のある刃は、輝きながら一瞬ごとに姿を変えて揺らめく。

 その美しさにミカエルは長いこと魅せられていた。

 

 城塞都市メルキド。そこは絶望の町だった。

「こんな城塞など、魔王の手にかかれば」と力なく斧槍によりかかる衛兵。

 宿は普通に営業し、待望の風呂と洗濯にもあずかれたが、人々は絶望に沈滞し、ものを売り買いもせず泣き崩れるのみ。

 ただ、その宿には町の人々とは違う、目に光のある青年がいた。

「うん、僕がガライだよ。せっかくだから歌ってあげいたいけど、一番いい竪琴は家に置いてきたんだ」

 その屈託のない笑顔だけでも見ていて楽しい。

 もう一人面白い人がいた。

 奇妙な研究所の老人が、自ら魔物を作って町を守らせたい、という。

 その求めに応じて、ミカエルはさっきの魔物の破片や竜のうろこなどを老人に与えた。

 広い都市の中央に、大きな建物がある。

 その内部は水が流れ、ほのかなロウソクに照らされた花園となっていた。

 そこにいた人が、奥の神殿を指し示す。

 神殿は入るだけで身をさいなむ魔力に守られているが、ガブリエラはそれを無効化する呪文を知っていた。

 奥にいた、威厳のある恐ろしいほど年をとった老人が、魔王の島に渡るには太陽の石、雨雲の杖、そして聖なる守りが必要と告げた。

 太陽の石と雨雲の杖はある。あとは聖なる守り……そのために必要とマイラで聞いた、妖精の笛というのはどこにあるのだろうか。

 

 メルキドを拠点に、主に陸路を通じて大陸内部を探索する。

 雷神剣の、グールを一撃で両断し、拳を突き出しただけで残りも焼き払った威力には四人とも驚いた。

 だが敵も、サマンオサの偽王と同種の魔物をはじめ強く、ついにイスラエルのメルカバ戦車を出した。何とか動くまでに学ぶことは多く、通信・情報処理能力など切り捨てた点も多かった。

 後方のハッチがあるため乗り降りが楽、鉄壁の重装甲。

 ミカエルが車長、ガブリエラが砲手、瓜生が装填手と情報補佐、ラファエルが操縦がいつものパターンだ。

 ミカエルとラファエルが飛び出した場合は移動は諦め、瓜生が標的を判断しガブリエラが射つ。

 M2重機関銃とFN-MAGだけでは足りないとでも言うのか60mm迫撃砲まで備えた、圧倒的な近接歩兵掃討火力。120mm砲の威力も言うまでもない。

 さらに路面がよければ、戦闘機の標準武装でバルカンと呼ばれる20mmガトリング砲の対空バージョンM167や、ボフォース40mm機関砲を牽引することすら可能だ。120mmと60mm迫撃砲とM2重機関銃、そして40mm機関砲の四つが火を吹いたときには、巨竜すら瞬時に肉の霧となる。

 

 瓜生の時計で朝六時、目覚ましが鳴って、見張りの一人を除いた三人が起きる。魔物が地面から出てくる世界ではテントでキャンプなど論外、聖水で清めた岩場などにメルカバを置く。

 ちなみにヴィーゼルの時にはナメルを出す。そっちのほうが広くて楽、というか体を伸ばせるし、電子レンジと冷凍食品で食事もうまいのでみんな好きだ。

 メルカバの後ろに、普通は弾薬庫に使うし緊急時には二人乗れる部屋があるが、体を伸ばして寝るなど無理だ。

 まず全員、自分の銃を確認して、朝食。ラファエルが朝の祈りを、もう武闘家なんだからいいだろと毎朝毎晩言われながらやる。

 今日はメルカバなので周囲を軽く警戒しながら、ヒーターに水を入れてレーションを温め、そのまま食べて、穴を掘ってトイレ。それに大体三十分ほどかかる。

 すぐに出発する。瓜生が無人機を飛ばして周囲を警戒、まったくの闇の中ヘッドランプと、車長のミカエルが見回すレーザーレンジファインダーと光増幅暗視装置のついた双眼鏡が頼りだ。そのデータを瓜生が簡単にマッピングする。この世界全体の地図は手に入っているので、精密測量はやらない。

 体を壊さないよう、一時間に一度ぐらいは下車して、ミカエルが指示した標的を狙ったり、少し溝を掘ってついでにトイレにしたり、軽く剣を振ったりラファエルは四十八の基本動作をしたり、と少しくつろぐ。

 十二時に昼食。それ以前も、ちょこちょこスナックなどは食べている。

「朝がフランス軍だったから昼は、たまにはドイツ軍にするか」

 瓜生が出して分ける。

「あれ肉が強いわね」

 ガブリエラが毎度文句を言い、

「それがうまいんじゃないか」

 とミカエルが返すのがいつものことだ。

 十八時まで……朝夜の区別がないここでは、瓜生の時計を二十四時表示にするしかない……延々と走る。

 形なき魔物が迫撃砲から放たれた照明弾に悲鳴を上げ、死の呪文を唱える前にM2に撃ち抜かれる。走り寄る巨人が迫撃砲弾の破片に絶叫を上げる。

 同時に、車内からも魔法攻撃が走る。

 ミカエルの指示一つで、一気に戦車が加速して溝を越えて走る。

 溝の中に集まって追う巨人たち。あの偽王と同じく、時速70kmでさえも振り払えないし、疲れも事実上ない。

 だが、戦車は一瞬で、左のキャタピラだけ逆回転させて曲がりつつ、主砲が縦に並んで走る巨人たちを向いた。

 キャニスター弾……合計11kgものタングステン合金の球の小山が、ライフルの初速を越える高速で打ち出される。球をまとめる筒は即座に分離し、球が広がる。要するに、戦車砲自体が巨大な散弾銃となったわけだ。

 前方の二匹は挽肉の塊。後ろにいた一匹が、頭の半ばと右腕を肩から吹き飛ばされ、ほとんどの内臓をばらまきながら立ち上がろうとしたのはさすがというところだ。

 無論、それも即座にM2重機関銃に残る部分を次々と粉砕され、最後まで立っていた片足も崩れ落ちたが。

 単純な故障を修理することも多い。舗装道路を走る自動車と違い、戦車の類はしょっちゅう故障するのだ。

「またヘブライ語マニュアルしかないの?なんで母国のにしなかったのよこのアホ!それならあんたが普通に読める言葉のマニュアルもあるでしょうが」とガブリエラがぶつぶつ言いながら、賢者としての能力で強引にマニュアルを訳し、必要な部品の名前を指示する。

「生存性とかが全然違うからね、こいつは。自衛隊のだと米軍由来ブラックボックスがあったら面倒だし」

「単なる趣味だろ」

 ミカエルがツッコミながら、キャタピラのリベットを止めなおす。

 何もなくても十五時ごろには一度止めて、戦車全体の点検に最低三十分ぐらいはかける。気分転換にはなる。

 そして十八時になると戦車を止める。疲労が激しいとミスも多くなるのだ。

 一時間ほどかけて戦車の保守点検、それぞれの銃器を数発ずつ射撃練習して分解清掃。それから剣の練習もする。ミカエルと瓜生は基本の素振りだけを丁寧に。ラファエルは伝えられた四十八の動きを、レムオルで隠れて。ガブリエラもゆっくり練習をしているが、彼女も練習を人に見られたがらない。

 それから夕食。この下の世界には、上と違って食べられる魔物がほとんどないので、大抵は瓜生が缶詰などを出す。レーションは朝昼だけでもう飽き飽きする、ということだ。食パンにレトルトカレーとコンビーフやスパムの薄切りをはさんでギラで焼いたのも結構人気がある。

 気分転換に適当な水場があれば水浴び、なければ主砲の先端に穴を開けたビニール袋とテントを引っ掛け、シャワーを浴びる。

 いつもそのときは、アッサラームやマイラの風呂のことばかり言う。

 それから、湯を沸かして熱い酒を飲みながら一日の反省をしたり、その日通った地域の地理を確認したり、こんな手は使えないかと話し合ったりする。

 二〇時ごろから、一人の見張りを残して車内で、軽いラリホーをかけ、しっかりと耳をふさいで寝る。寝ている間も魔物は出るが、戦車の装甲を破ることはできない。車内から遠隔操作砲塔でFN-MAGを一連射すれば大抵は充分だ。

 三時間弱で見張りを交替するのが、また目覚ましが鳴るまで繰り返される。

 たまに多数の敵にまとめて襲われ、念のため四人とも起きて戦うこともあるが。

 そんな日々が続く。

 

 広い砂漠。隊商の姿を小型無人機がとらえたところで戦車を降り、歩く。

 隊商に近づき、銃も隠したところでキメラの群れに襲われたが、フバーハと攻撃呪文の集中攻撃で先制した。サイモンJrとの旅も無駄ではない、銃を使えなくても息を合わせれば戦える。

 そのとき、本来同時にマヒャドを使うはずが、瓜生が間違えてベギラゴンを唱えてしまう。空気が液化しかねない冷気、岩が蒸発するほどの熱線で相殺されるか、と思ったら、間隙にいたキメラが瞬時に消滅した!

「まさか」ガブリエラがぞっとする。

「メドローア……あれはマンガだろ。人間に二種類の呪文を同時に唱えるなんてできるはずがない」瓜生が震える。

「こっちでも、あんたが来る以前から賢者の間の伝説にはあるよ。二人同時にやるのは不可能じゃない。難しいからダーマじゃ実質禁呪だけどね」

 ガブリエラが微笑んだ。

「危険すぎる。暴走したり、マホカンタで跳ね返されたりしたら全滅だろ」

 ミカエルが言うのに、瓜生が肩をすくめた。

「それよりあれだな、うまくいけば強敵相手でも重火器が使える」

 瓜生がガブリエラと目を合わせる。

「もうちょっとなんだけどね」

 

 隊商たちと共にたどりついたのは、砂漠の雄大なオアシス街、ドムドーラだった。

 イシスの清潔さ、食物のうまさを思い出す。

 だが日光がないため、他の町とそれほどは変わらない。明るい世界だった頃は砂漠ならではの楽しみがあったのだろうが。

 多少違うと言えば、やたらとうまい挽肉料理だが……材料が一種のミミズだと知って聞かなきゃよかったと後悔した。

 大魔王を倒さぬ限り、という予言を聞き、あらためて心熱くなる。

 武器屋の一つは、ひたすら子供の名前ばかり考えて商売が手につかないようだった。

 瓜生はちょっといたずら心で、自分の世界の命名本を読んでやろうと思ったがやめた。

 力の盾と呼ばれる、回復呪文にも使えるし防御も強力な円盾を手に入れたのは実にありがたかった。

 町の外で水を汲んでいた美女が、ミカエルたちを見て驚いた。

「あんた、勇者様じゃない!アッサラームで見たわ!」

「ああ、劇場で」ガブリエラも驚く。

「意地悪な人がいたんで逃げてきて、気がついたらこんなとこ。そうそう、うちの劇場の支配人に知らせてくれない?」

 さっそくルーラで往復し、ついでに上の世界の食物もちょっと調達してくる。

「ありがとう!」

 と喜んでもらえるのが素直に嬉しい。

「そうそう、牧場で光る何かを見たの」と聞いたので牧場を探ってみると、そこには奇妙な、黄金に似るがもっと深く純粋な、あえていうなら太陽色に輝く金属片がいくつか、なかば埋まっていた。

「オリハルコン」ラファエルが呆然とする。「ランシールの授業で、針ほどのひとかけを見たことがあるのです。神の金属と呼ばれ、ダイヤモンドでも傷つけることはできないと」

 それから花畑で、「マイラのお風呂の南に笛が埋まっている」と聞き、四人は顔を見合わせてマイラに飛んだ。

 

 マイラで、オリハルコンを予言者に見せた。

「これは砕かれた神剣」老いた予言者がおののき、その目が突然狂いを宿し、泡を吹きながら体を痙攣させ、その口から漏らす、「おお……彼方より来たりし鍛冶ならば神剣を復活させよう」

 言い終えて気絶した。

 瓜生があわてて介抱する。

「あの人か」ミカエルがいい、ジパングから来た道具屋の店主に見せた。

「これは」彼は即座に身を引き締める。

「確かに、鍛冶をやっていました」そう言って、ひたすらに震える。「ああ……」

「任せた」ミカエルはそれだけ言って立つ。

「時間はかかります。必ずや、御恩にかけても」オリハルコンをおし頂いて頭を下げる店主の表情は、恐ろしいほどの覚悟が死の静謐にさえ似ていた。

 それから温泉で温まるついでに聞いていたところを掘ると、何の加工もされていない石がそのまま笛になったような、奇妙なものを見つけた。

 強い魔力が手に取っただけで分かる。

「これか」ミカエルが吹いてみる。深い、世界樹の葉音、ラーミアの歌声のような音が響いた。

「行こうか、ルビス様を助けに」

 

 少し海を越えたところにある、やや大きい岩がちの島から天高くそびえる塔。

 ヴィーゼルが台車のM2重機関銃を引きずるのを、ラファエルがコントロールする。

 前に一歩出て勇者の盾を掲げ、雷神剣をはめた右手にAK-103を握ったミカエルが、塔の扉を開く!

 待ち構えていたメイジキメラの炎を勇者の盾がそらし、伏せながら撃った銃弾が一匹をえぐる。

 そして後方からの、ヴィーゼルの20mm機関砲の衝撃波が伏せるミカエルを叩き、次々と飛ぶ火獣が粉砕される。

 狭い通路はヴィーゼルも通れないが、逆に敵も弾幕を逃れられない。

 四角形をベースとした、とても対象性が高く美しい塔の二階、奇妙な模様のある床はとても奇妙だった。次の一歩を踏み出そうとすると、まったく別の方向に足を踏み出しているのだ。

 ただ、ランダムではなく決まったずれなので、覚えればなんとかなった。ただし、慣れたつもりでやると間違える。一々一歩ごとに指で行きたい方向とずれを確認しなければならない。実に面倒だ。

 はぐれメタルが多数出てくる。相変わらず瓜生は逃げるのは追わないが、特に竜に変身し吐く炎で掃討すると報酬は大きい。

 そのまま上の階に上がると、そこは周囲が底抜けの道、しかも回転床。

 一歩一歩慎重に指差しながら進み、もう少しというところで多数のメイジキメラに襲われる。

 メダパニに瓜生が狂い、危ないところをガブリエラが眠らせたが、その火力減は痛い。ミカエルが瓜生の銃を手にし、炎を浴びながら一匹また一匹と叩き落す。

 そしてたどりついた奥、その宝箱にあったのは、白銀に輝く頑丈な全身板金鎧だった。

「盗まれた光の鎧か」

 ガブリエラが息を呑む。

「すごい」

 ラファエルはただ呆然としていた。

 まさにあつらえたようにミカエルに合う。勇者の盾としっくりと一体化する。

「金属のようなのに、皮みたいに柔らかい。それに軽い」ミカエルがいろいろ動いてみる。「布服より動きやすい」

 起きた拍子に驚いた瓜生が落ち、追って三人も飛び降りながらトベルーラで減速した。下の、見覚えのある大広間に着地する。

「ルビス様は?」

 今更気がつく。

「あちこち試してみるか」と、別の道も見てみる。

 裏のほうに、行き止まりで横が開いている窓があり、その周囲の回転床を慎重に歩いていると、突然足元をはぐれメタルにすくわれて落ちた。

 落ちたところは塔自体の裏口。そのまま、一つ一つ上がっていくと、外からなら見える最上階にたどり着く。

 広い回廊が囲む美しい建物、敵も強まる。強力な呪文と攻撃力を持つライオンの頭・多くの足・コウモリの翼をもつラゴンヌが多数出現する。

 だがその広さはヴィーゼルを使用可能にし、20mm機関砲が吼えれば一発で巨体が両断され、散乱するだけだ。

 回廊に囲まれた広間、その奥にあるもう一つの建物。それを前に、膨大な魔物が一気に襲ってきた!

 ラゴンヌ。メイジキメラ。ボストロール。動く石像。バルログ。スカルゴン。グール。動く石像……

 百を越えそうな数がひしめき、津波のように押し寄せてくる。

 20mm機関砲すら、押し寄せてくる津波を機関銃で撃つようなものだ。

「くそっ」

 瓜生が叫ぶ。ガブリエラがヴィーゼルの針路を変え、ミカエルの盾になりながらイオナズンを唱える。

 多数の敵を、飛び出したラファエルが怪力に任せて押しとどめ、同時に十以上の敵と戦うが、敵はあまりにも多い。

 だめか。一瞬思った瞬間、強烈な閃光がはじけた。

 ミカエルがまばゆく輝き、膨大な稲妻の嵐が吹き上げる。

 何千もの稲妻が、瞬時に次々に敵を叩きのめし、焼き払う。

 それにまたガブリエラのイオナズンが引き起こす大爆発の嵐が、瓜生のヒャダインが呼び出す氷刃の疾風が敵をなぎ払う。

 気がついたときには、動く敵は一つもなかった。

 

 広間の中の建物は、まるで教会のような雰囲気だった。

 その奥に、複雑できわめて邪悪な魔法で封印された、とても美しく気品のある女神像が安置されていた。

 ミカエルが妖精の笛を取り出し、吹く。

 どのときよりも深い音色が響く。この世界、そして上の世界の全てが歌になる。

 世界樹とラーミアが。森が、海が、風が。光が。

 歌と光が響きあい、踊り、何かまったく違う旋律を、編み目を形作る。

 その美しさに酔う中、像がいつしか生きた、だが歌として存在するような、風の中のような、夢のような存在となる。

 美しい。

 その声が静かに告げる。

「ああまるで夢のよう。よくぞ封印を解いてくれました。わたしは精霊ルビス。このアレフガルドの大地を創ったものです。

お礼にこの聖なる守りをさずけましょう。もし大魔王を倒してくれたならば、常にあなたの子孫を守護し、恩返しをいたしますわ。

この国に平和が来ることを祈っています」

 それだけ言って、消えた。

 ミカエルの手には、奇妙な形があるようなないような、ラーミアの紋章が刻まれた護符が残っていた。

 あまりの美しさと魔力に、誰もが毒気を抜かれたようになっていた。

 

 マイラに引き返すと、剣ができていた。

 すっかりやつれ果てていた店主が、恐ろしく礼儀を正して捧げた剣。

 半円の鍔、流れるような幅広い両刃。

 太陽の色に輝く刀身に、ミカエルはいつまでも魅せられていた。

「定命の人間が鍛えた剣、神の力を使い身を清めましたが、それでも寿命はあるでしょう。三百年もしたら、普通の剣とそれほど変わらない威力になるでしょう。しかし今このときは、神々の武器としての力をできうる限り再現しました」

 そう言って倒れこむ。

 ミカエルはそれも耳に入らぬように、ただ見事な剣を眺めていた。

 

 太陽の石、雨雲の杖、聖なる守り。全てそろった。

 王者の剣、勇者の盾、光の鎧も。

 

「じゃ、あの南のほこらに行くか」と、マイラの東岸から南下した。

 最初に出てきたクラーゴンが、王者の剣の実験台になった……その雷神剣をもしのぐ威力に、四人とも恐怖さえ感じた。

 やはり魔の海には入れないだろうなと思いながら湾に入ると、そこには毒の沼地の中に洞窟があった。

 そこは魔物もおらず、多数の人間がひたすらトンネルを掘っていた。

「なかなかいい技術だな」

 瓜生が満足そうに言う。

 対岸のリムルダールまで掘っている途中だと言う。

「船が使いにくい時代だからね」

「でも、鉄道以前の時代にはトンネルより、むしろ運河や港湾に力を入れたほうが費用対効果は高いはずだ。産業革命前のイギリスも、トンネル運河などが大きい役割を果たしたって」

 ガブリエラがザキを唱え始め、瓜生が対抗してマホカンタを唱えだし、ミカエルが二人とも銃床で殴った。

 

 やはり魔の海はふさがっており、そのまま大陸を大きく回って、南の島にたどりつく。

 ほこらの老人は今回は、「よくぞ来た!今こそ雨と太陽が合わさるとき。そなたに虹の雫を与えよう!」

 と、ミカエルに聖なる守りをかかげさせ、雨雲の杖と太陽の石を、そのために作られたような輝く祭壇に置いて、きわめて複雑な呪文を唱え始めた。

 どれほどの時間か……あとで時計を見たら丸半日。

 ひたすらな呪文が、祭壇の内部で複雑に反響し、その一つ一つの構造が楽器のように、巨大な交響曲を奏でる。

 力が解放され、太陽と雨が編み合わされる。

 虹は水滴による日光の屈折、と理解している瓜生にとっても、その魔力による面ははかりしれないほどだ。

 そしていつしか、ミカエルの手に握られていた奇妙な輝石。見る角度によって七色に輝きを変える。

 

「さて、次はどこに行くか。この大陸の、まだ行っていないところを回ってみるか」

 と、ラダトームとドムドーラの間をまずナメルで探索した。

 

 岩山の影に、深い洞窟があった。ラダトームも近いので、瓜生たちはあらゆる戦術を試してみる。

 ミカエルの右手には、王者の剣と並んでH&K-MP7が握られるようになった。

 AK-103は威力はあるが、操作に両手が必要で、盾と剣で戦う状態に切り替えるのに時間がかかるので背に回し、余裕がある時に伏せ打ちすることにした。

 MP7は拳銃感覚で、ホルスターから片手で抜き片手で安全装置、付属の小型フラッシュライトを操作できる。威力は低いが貫通力はあるし、ミカエルの役割は元々射撃管制が主だ。

 広い道ではヴィーゼルで、狭い道は歩いて、時にM2重機関銃を三人で運んで戦い続ける。

 ここには大きさだけでなく、強さとスピードが桁外れの熊の怪物が多数いた。

 ネクロゴンドの洞窟にいた踊る宝石、ガメゴンロードなどもいる。どちらもいろいろと厄介な敵だ。

 ひどく構成が複雑で迷う。

 その中で、瓜生とガブリエラは特殊な呪文を練習し始めた。

 前線で戦っているミカエルやラファエルを、別のところに瞬間移送するルーラの応用。なかば冗談でサガルーラと名づけた。

 バラモス戦で、ミカエルとバラモスが二人の世界に入ってしまい、重火器を使えなかったために危うくやられるところだった。

 かといって剣による接近戦を捨てるのもありえない。となると、この呪文の成否が、おそらくはゾーマにも……

 だがまったく別の呪文を作り出すのは難しい。何度も魔力の暴走で重傷を負うが、ミカエルもやめろとは言わなかった。

 地下二階の奥、二つの素晴らしいが禍々しい剣と鎧があった。

「どっちも呪われてるね。ピサロがいたら役に立っただろうけど」ガブリエラが肩をすくめる。

「ピサロ?天空の勇者の敵?」ミカエルがいぶかしむのをごまかした。

 ガブリエラは、瓜生からもう一つの物語も聞いているが、それはこの世界の人間に聞かせられる話ではないのだ。

 そしてくまなく洞窟内を見回ったが、それ以上別に何もない。

「何もないのかここは」瓜生が静かに怒っていた。

「訓練にはなりましたよ」ラファエルが必死で慰める。

「許す。洞窟の底から、山脈を破壊したって爆弾で根こそぎ爆破しろ」ミカエルのほうがたちの悪い怒り方をしていた。

 

 何もない洞窟が悔しかったのでイシスでおもいきり日光を浴びて飲み食いし、トンネルを掘っている人たちに聞いたリムルダールの町を探しに行った。

 スカルゴンが出る山道。

 そして突然、手足のある金の塊のような魔物が出てきた。その密度と重量は厄介だったが、王者の剣の敵ではなかった。倒すと純金の塊が残る。

「普通のパーティにとっては、この大金はありがたいだろうな」とミカエルが軽く笑った。

 

 山に囲まれた湖の島にリムルダールの街が見える。その北岸に、ふと懐かしい気配を感じて木の葉を手に取ると、それは世界樹の葉に他ならなかった。

「こっちにも根が伸びてるのかな」と瓜生。

「見た感じは普通の木なのに、不思議なものです」ラファエルが祈っていた。

 木々の陰から飛び出す巨大熊を、ラファエルが鮮やかにさばいて足を蹴ってひっくり返しながら脇腹に掌を打ちこんで即死させ、すぐもう一匹とまともに力比べになって、気合と共に投げ倒した。倒れたところで瓜生のMk48が頭を粉砕する。

 ミカエルの背の倍近くある巨獣をラファエルの怪力に任せて近くの木に吊り上げ、内臓を抜いて皮をはぐ。

 一本の橋を渡り、街自体も細い水濠で守られていた。

 宿屋で出た、骨まで食べられる長い揚げた魚が、普通の食物らしくてなんだか嬉しかった。巨大熊の肉や皮も売れて、あらためて宿の皆と鍋にした。液面に1cmは浮く分厚い脂の強烈な臭みに、一口で建物ごとニンニク系に匂うたちの悪い香草がめちゃくちゃに合う。

 

 そこの子供が「お兄ちゃんたちも魔王を倒しにいくの?でも遅かったね。きっとオルテガのおじちゃんが、魔王を倒してくれるよ」と言ったのには驚かされた。

 聞くとごく最近、オルテガがこの町に来て、町を襲っていた魔物たちを全滅させて旅立ったという。

「一人で、剣と魔法だけであいつらと戦えるってのもすごいよな」瓜生がつぶやいた。

 共に戦ったという旅の戦士が、「年老いた男がこの島の西の外れに立っていたのを見た。あの男は今どこに……」とつぶやく。それもオルテガの人相に一致した。

 また、「魔の島に渡る術を知らず海の藻屑と消えた」という噂もあったが、ガブリエラがきっぱり否定した。

「あいつは殺しても死ぬ奴じゃない。生きてるよ」と、半ば泣きながら。

 ミカエルの聖なる守りを見た女が、「それは精霊ルビス様の愛の証」とミカエルを拝んだ。

 

 店にあった、恐ろしく軽い、短めの日本刀に似た剣。それを手にした瓜生は、奇妙な時間のずれに戸惑った。

 振ってみると、普通の剣で一撃する時間に二回斬りこめる。

 ガブリエラは、「賢者の伝説にあったんだ。ずっと欲しかったんだよ」と嬉しそうに腰にした。

 町を一度出てから堀を回って行ったところの老人が、魔法の鍵を見てみたいといったのでミカエルが見せた。

「これと同じものを作って売ろうと思うのじゃ」と言ったのには鼻白んだ。

「いや、それは泥棒と特殊業者のための品になります。必要なのは、決められた鍵で確実に開く、他の手段では決して開かない錠前ですよ」

 瓜生が言ったが、相手はろくに聞かず魔法の鍵を分析し始めた。

 

 町の一方に、教会を兼ねた大きな建物がある。

 その二階を探し当てると、嘘つきと言われていた囚人が、魔王の城の玉座の後ろには秘密の入り口があるらしい、と言った。どうせ信じないだろう、というふてくされた声に、

「信じる信じないはおいといて、試してはみる。それが難しいんだが、それが人間なんだから気にするな」

 と瓜生が言い、ミカエルもうなずいた。

 雫が闇を照らすとき、この島の西の外れに虹の橋が架かりましょう……その予言になんとなく、次に行く場所が分かった。

 

 リムルダールのある大陸と、魔の島を結ぶ狭い海峡。そのすぐそばまで砂漠を渡り、動く石像を爆砕したメルカバを降りる。

「いくら狭くても、これを泳ぎ渡るって」

 瓜生が震えた。

「無茶にもほどがあります」

 ラファエルが祈る。

「あ、あのオルテガならやるかもしれない」

 ガブリエラが乾いた笑いを浮かべる。

「なら、さっさと合流してゾーマを倒そう」

 ミカエルがぶっきらぼうに、だが少し弾んだ声で言うと、首に下げていた虹の雫を高く掲げた。

 内部の、姿を見せぬ太陽と雨の力が解放され、周囲が七色の光に包まれる。

 光は踊り、編み合わさり、響きあう。

 そして気がついたときには、魔の海を越えてゆるいアーチを描く橋がかかっていた。

 四人、びくびくしながら歩いて越える。

 

 はっきりと空気が変わる不毛の島、荒い山道をメルカバで走る。次々と出てくる、恐ろしく強いトロルや動く石像を迫撃砲とM2重機関銃で消し飛ばす。

 毒の沼地を歩いて抜ける。ミカエルの聖なる鎧はその影響を受けない。

 沼地を抜けた、と思ったらすぐ近くの泥から、巨大で恐ろしい姿が出現した。

 ドラゴン。

 15mに達しようとする巨体。四足の、長い鉤爪。燃える目と、長い牙をむき出した巨大な口。

 その喉が膨らみ、強烈な炎が吐かれようとした、その時にミカエルと瓜生が動く。

 ミカエルの神剣が天に突き上げられ、雷の嵐が吹き上がり、爆音と共に巨体を襲う。

 瓜生が投げた手榴弾が、大きな口に飛びこみ、後を追うようにショットガンが喉をえぐる。

 爆!

 炎が吐かれようとした瞬間、爆発が頭を吹き飛ばし、逆流した炎が稲妻にえぐられた胴体から噴出し、自らを焼き尽くす。

 だが、竜はその一匹だけではなかった。

 彼方にかすむゾーマ城、そこへの道に三匹!

 瓜生がRPG-7を構え、素早くラファエルとガブリエラが後方噴射がかかる扇形から退避。

 ガブリエラがバイキルトをミカエルにかけ、ラファエルはバレットM82を構えて先頭の一匹の肩をぶち抜く。

 RPG-7が後方炎と共に飛び出し、直後炎の尾を引いて、二匹目をぶち抜いた。

 直後、ミカエルのHK-MP7についた強力なライトが、ひるまず恐ろしい速度で駆けて来る竜を照らし、また数発の銃弾が硬いうろこを貫く。その光を狙い、ガブリエラのガリル7.62mmNATOが、瓜生のミニミ7.62mmNATOが、そしてラファエルのバレットM82が集中する!

 大量の重い銃弾に、タフな巨体が一歩また一歩と弱りつつ接近しようとする。

 ミカエルはすかさず、その背後から迫ろうとしていた三匹目にライトを切り替え、叫びながら拳銃に近いPDWを腰のホルスターに納め王者の剣を抜いた。

 まず稲妻の嵐が竜たちを打ちのめす。断末魔の炎を勇者の盾でほぼそらし、それでも体を真っ赤に燃やしながら跳びこみ、振るわれる爪をかいくぐって下から喉を刺し貫き、えぐる!

 絶叫と共にふるわれるもう一方の前足に吹き飛ばされるが、最初の竜が斃れる。

 同時に炎を吐こうとしたかなり遠くの竜に、銃弾の嵐が降り注ぐ。魂を凍らせる轟音と共に吐く炎も、この距離では、ましてフバーハの幕にもさえぎられてほとんど効かない。

 ミカエルも、もうAK-103を竜の近くから急所にセミオートで連射し、最後に牙をむき出す口に手榴弾を投げこんだ。

「行くか」と、メルカバに四人乗り、40mmボフォースを牽引する。

 次々に出現する竜も、主砲同軸のM2重機関銃に足を止められ、60mm迫撃砲で吹き飛ばされて絶命していく。

 城門を守るように五匹ほどドラゴンがたむろし、さらに門の脇に並ぶ石像も動き出して襲ってきたが、それも120mm多目的榴弾、60mm迫撃砲、40mm機関砲の一連射にばらばらに飛び散り、高速のダッシュで駆け下りてきたトロルキングもキャニスター弾に砕け散った。

 

 禍々しい彫刻に彩られた、見上げると上が見えないほど巨大な城門を押し開き、狭くなった通路を見てヴィーゼルに移る。

 まず一階を回り、目に入った階段を下りて探ってみたが、何もなかった。

 出てくるドラゴンが、大口径機関砲の餌食になる。

 囚人の言葉を思いだして、大広間から玉座に行こうとするが、道は閉ざされていた。

 ふと、周囲の像を見る。

「まさか」瓜生がつぶやき、その大広間の広さを利用してメルカバに乗り換えた。

 戻ろうとしても、扉が閉ざされる。

 六つの像がかわるがわる動き出し……120mm主砲と牽引されたボフォース40mmに粉砕される。

 開いた扉から、魔力を帯びた床の玉座。その後ろの石に、ラファエルの怪力でバールを突っこみ戦車の牽引力で引っこ抜くと、階段があった。

 その下はまさに悪夢だった。一面の広い、あの回転床。

 ついにミスし、その下の広間に落ちる。そこには、おぞましい剣を六の腕に握る骸骨が多数群れていた。

 銃器使用不可能な乱戦。瓜生も愛用の手斧のようなナイフを抜き、力の盾を掲げて切り結ぶ。

 ガブリエラの隼の剣も冴えていた。

 相手も恐ろしいほど腕が優れている。

 だが王者の剣とミカエルの腕は、まさにアシラを倒すインドラだった。剣が螺旋を描く度に、一体が断ち切られ霧散する。

 その繰り返しでついにスペースを作り、瓜生のRPG-7のサーモバリック弾頭が、ダネルMGLグレネードリボルバーが、カール・グスタフのフレシェット弾と後方噴射が、多数のソードイドを蹂躙した。

 そこに残されていたのは、吹雪の剣。氷の刃に魅せられはしたが、誰にとっても用はない……ただしまうだけ。

 三つの道、二回間違えて、最後に下への階段にたどり着く。

 その前後から、周囲に広がる新しい闘いの気配、魔物の死体に気がつくようになった。

 ミカエルの足に、焦りが見える。

 広くりっぱな階段を昇り、門を開けると通路は狭く、徒歩で静かな水音の立つ美しい城を行く。

 地下の川、長い橋。

 突然上から襲撃する、多数のサラマンダー。

 吐かれる炎と戦っている中、橋の向こうで戦う音がした。

 ミカエルがそれを見て、表情を変える。

「どけえっ!」

 叫び、ギガデインでサラマンダーを一気になぎ払う。

 橋の向こう。巨大な、オロチより巨大な多頭竜と、一人の男が戦っていた。

 跳ね飛んだかぶと、白い髪があふれ、一瞬で焼けてただれた地肌となる。

 ミカエルが飛び、まだ生きて炎を吐こうとしたサラマンダーを切り捨て、火傷も癒さず走る。

 背の銃を手にし、走りながら震える手で狙い、わめきながら放り捨てて剣に持ち替える。

 その前に立ちふさがる、青銅の巨人!

 瓜生が、ラファエルが背後から銃砲撃を加える。ラファエルが瓜生にバレットM82を渡して走った。

「狙撃で掩護」

 巨大なライフルを受けとった瓜生が伏せる、が、ガブリエラがむしゃぶりつく。

「やめとくれ、もしはずれたら、当たっちまうよ!」

 ひたすら、走るミカエル。ガブリエラも走り出した。

 夢のように、泥沼を走るようにのろい、一歩一歩。

 たどりつこうとしたとき、老いた勇者は倒れた。

 ミカエルが絶叫と共に剣を向けたが、その巨大な竜は影のように消える。

 ガブリエラとラファエルが、その男を抱き起こす。

「カンダタ!?」瓜生が驚く。その顔は、ラダトームの教会に囚われている盗賊と似ていた……だがより老けている。

 繰り返し、ベホマが唱えられる。さらにはザオリクも。世界樹の葉を噛み砕いたガブリエラが、口づけて流しこむ。

「診せろ」瓜生が出て、その脈を診て凍りつく。「死体だ、でも、死を判定できるのは医師だけだ」

 小さく叫び、点滴を血管に挿し込む。

 焼けた鎧の革紐を板金を切れるハサミで切り、焼けただれた身体に呆然としながら、胸に除細動器を押しつけて電源を入れる。二度、三度とスパークが走る。

「だめか」と、さらに胸にナイフを突き立て、ハサミで肋骨を断ち切り手を突っこむ……直接心マッサージ。同時に、かたわらに酸素ボンベを転がし、気管挿管の手順も確かめる。

「やめろおっ!」ミカエルが瓜生を突き飛ばした。

「心臓が、心臓が、ないんだ。ないんだよ」瓜生が半ば泣きながら震えていた。

「旅の人よ」

 老いた男が、そっと言った。

「ありがとう。だが痛みもない……もう何も見えぬ、何も聞こえぬ。治療は無駄だ。今、すべて、思いだした」

「そんなこと、そんなことない!あんたは不死身なんだ!」

 ガブリエラが、少女のように泣き叫ぶ。聞こえていない。

「私は、もう、だめだ……どうか、伝えて欲しい。

 私はアリアハンのオルテガ。もし、そなたが、アリア……行くことが……。

 その国……ミカエル……ミカエラを……訪ね、オルテガがこう言って、いたと、伝えて……くれ。

 平和な世界にできなかった、この父を、許してくれ……とな」

 それだけ、ミカエルの耳元に言うと、その巨大な身体はゆっくりと、黒い塵となって崩れていった。

「禁呪にも、ほどがある……自分を、ゾンビというか、もっとひどいものに……わああああああっ」

 ガブリエラが崩れ、ただただ泣いていた。それは普通の女でしかなかった。

 ラファエルが沈痛に、目を背ける。

「そうとわかっていれば……イシスの女王陛下は、あなたを忘れていない。多分、ルイーダも。ラダトームの女官も」瓜生がつぶやく。

「うわああああああああああっ!」

 ミカエルが叫び、三人を蹴飛ばした。

「行くぞ!車長命令だ、ウリエル、メルカバを!」

 飛び乗り、全速力で急かした。左右の、宝だらけに見える部屋にも目もくれない。

 立ちふさがるものはすべて粉砕する。恐ろしい腕の骸骨の剣士も、無力に轢き潰されるだけだ。

 大きく回って階段にたどりついたら、ハッチから飛びだし、イオナズンを唱えかけているマント姿の魔人を切り捨て、自分一人走りこんだ。

 瓜生は慌ててメルカバを、ハンマースペースと呼ぶ、すぐ使えるよう調整した機械やベルトリンク済み弾薬を詰めこんでいる自分専用の別空間に入れてミカエルを追う。

 彼女はもう、父の仇であるキングヒドラと激しく戦っていた。

 銃を構える三人に、「手を出すな!」と叫ぶ。炎を全く構わず突っ込み、一つまた一つと稲妻をまとった聖剣が豪円を描き、首をはね断っていく。

 稲妻の螺旋に力尽きる巨体を、踏み越えるように突進するミカエルの前に、あの忘れがたい恐ろしい姿が出現した。

 バラモス?いや、微妙に違う、まるで兄と弟が、オルテガとカンダタが違うように。

「わが弟の仇、とらせてもらう」

 そう叫びながら唱えられるイオナズン、だがミカエルの身につける神の武装はそれをそよ風のように受け流し、飛びこむと剣を逆袈裟に切り抜け、そのまま駆け抜けた。

 一瞬の隙にラファエルが.50BMGをたたきこみ、腹に風穴を開けられひるみながらもラファエルを襲い……射線からミカエルが外れた瞬間、40mmボフォース機関砲の対空牽引砲架版が咆哮し、バラモスブロスを粉砕した。

 ミカエルは目もくれず突撃する。瓜生とガブリエラがヴィーゼルに滑りこんだのは、やっとそのときだった。

 玉座のそれに向けて駆ける、燃える光。その前に突然出現し、強烈な腕をふるったのは、バラモスと同じ体格をした……骸骨!

「わしはあきらめぬ。なんとしても、かならず」

 地獄の底から響く不気味な声。鈍重な動きで、重い腕を叩きつける。

 固く厚い石で築かれた床が、人が隠れられるクレーターのように弾ける。

 二発、三発。ミカエルはひたすら飛びこんで斬り合っている。激しい絶叫と咆哮を上げて。

「受け入れてくれ!」

 ガブリエラが叫び、何か呪文を唱えるが、それも高まった何かがはじき返す。

「ある意味、人じゃないんだ。今のミカエルは」魔力の流れ編み目を読んだ瓜生が震えた。

「邪魔だ!」ミカエルが叫んで切り払い、衝撃を勇者の盾で受け止めてはねとばされた、その一瞬にヴィーゼルの20mm弾が一発二発と巨大な骨の山を粉砕する。

 あの奇妙な美しさはどこにいったのか、あまりの禍々しさと悲惨さに、瓜生は半ば泣いていた。

「そんな姿に……葬ってやるよ!」

 叫び、壁に詰めていたヴィーゼルから飛びおりると、一人手持ち用に二脚を外し、底板も小型のものにした軽迫撃砲の底を床ではなく壁に当て、砲弾を滑りこませて砲身に留めたレーザーで狙い、トリガーを引いた。

 激しい砲口炎が広い聖堂を照らし、優雅な彫刻を一瞬浮かび上がらせる。

 重い砲弾が直撃し、爆発が骨の山を砕き飛ばした。

 

「ミカエルよ」ゾーマの呼びかける声も耳に入らない。

 ミカエルは、全身を剣にして斬りかかりながら、光の玉をかかげた。

 だが何の光もない!

「かまうものか、死ねえっ!」

 叫びと共に、かかるバイキルトとピオリムとフバーハ、振りおろされる神剣。

 それがあっさり振りはらわれ、吹き飛ばされる、そこにガブリエラとラファエルが向ける40mm機関砲、瓜生の迫撃砲弾……直撃。

 頬と腹を軽く押さえ、闇の衣をまとった姿は立っていた。鍛えられた大男が子供に殴られたように。

「痛いではないか」

 穏やかに、愉快そうに、愛おしむように、底なしに冷たい声が響く。

「慮外者め!」

 何か、白く輝く。

 液化した空気のシャワー。超低温の氷の弾幕。

 フバーハもほとんど無意味だ。

 一瞬で牽引対空砲が凍りつき、ゾーマが軽くはたくだけで低温脆性に砕けていく。

「ちいっ」

「うおおおっ!」

 ミカエルが身体を半ば凍りつかせながら、膨大な稲妻を嵐のように撃つ。

 そして巨大なドラゴンが出現する。ガブリエラが唱えた変身呪文。その口から吐かれる猛炎がゾーマを包む。

「小賢しいわあっ!」

 地獄の声と共に、何か凍てつくような力がその指先からほとばしる。

 バイキルトが、フバーハが、ドラゴラムさえも無効化され、無力に放り出された。

「うわああっ!」

 焦った瓜生がメルカバを出す。そしてバラモスの時がフラッシュバックし、ミスした、やられると覚悟したが、ゾーマは平然と待っていた。

「なめやがって」

 後方ハッチから四人滑りこみ、キャニスター弾を装填する。

「砕け散れえっ!」

 瓜生の叫び、主砲が膨大な砲口炎を噴く。大量の散弾が高速で飛び散る。

「やったか」と見ているそこに、何ら変わらず闇は立っていた。手の傷をなめ、微笑みながら。

「う……」

 恐怖。絶望。底なし。

 悲鳴と共に突進する重戦車。ゾーマの笑いが聞こえる。

 あっさりと、普通の戦車と違い前に置かれたエンジンブロックで守られた、自らの主砲も成型炸薬弾頭も通じない複合装甲の正面に、拳がぶちこまれる。前面が潰れ、時速50kmからの瞬間的な急停止に全員が体を何かにぶつける。

 ラファエルの脚が潰れる、くぐもった悲鳴。燃えあがる炎も、マヒャドの凄まじい冷気が一瞬で消し止める。

 車長ハッチから飛びだしたミカエル、後方ハッチから這い出した瓜生とガブリエラ。恐怖に青ざめ、芯から震えていた。

 ミカエルの絶叫が上がる。

 襲い来る大魔王、ミカエルをかばったのは片脚を自分で切断し這い出したラファエル、だが無力にもその胸を貫いた拳はミカエルを吹き飛ばしていた。

 拳が抜かれ、血を吐きながら押し、拳を振るおうとするラファエル。大魔王の優しい優しい、子猫を撫でるような声。

「その武術ははるかなはるかな昔、わしが神々に盗まれたものだ。人の子の模倣の醜いこと……手本を見せて進ぜよう。マホイミ」

 軽く、あまりにも優雅にゆっくりと舞った手が、額に触れる。胸の傷が瞬時に癒え、さらに光を発しながら融け崩れ、上半身があっという間に跡形もなくなり……残った、断たれた片足は無惨に癒えた下半身がくずおれる。

 その間に、ガブリエラと瓜生が唱えていた禁断の呪文。

 瓜生の左手とガブリエラの右手が、しっかりと合わされる。

「左手にメラゾーマ」

「右手にマヒャド」

 魔力がふくれあがり、合成され、絡み合ってすべての編み目をほどく……

「メドローア!」

 光の太矢がゾーマに向かう。だが、ゾーマが軽く手を振っただけで、光は跳ね返って……ガブリエラと、瓜生の左腕を呑んだ。

「マホカンタだ、愚か者め」

 そこには何も残っていなかった。

 呆然と立ちつくした瓜生が、サイガブルパップをもつ右手を軽く差し上げる。背後に、巨大な水爆が出現した。

「……」

 黙って、複雑に魔力を編む。そして銃口を大魔王に向け、カウントダウン。

「2……1、メガン、デ」

 瓜生の全身から光が放たれ、同時に引き金が引かれ、水爆が起爆する。

 ほんの百分の一秒が、ずいぶんと長く感じられる。

 内部の原爆が起爆し、核融合、さらに核分裂物質の覆いによる核爆発。

 そのすべてのエネルギーを、生命そのものを魔力に変えて操る。

 メガンテは、生命そのものを魔力に変えてザラキを増幅し、まったく違う形に制御する禁呪だ。だからこそ、ザラキが根源的に効かない魔王級には通じない。

 だが、その瞬間の巨大な魔力を、別のエネルギーを制御することだけに使えば。

 十メガトン水爆の巨大なエネルギーすべてを、12ゲージスラッグ一発の加速に注ぎこむ。

 銃と右手は瞬時に蒸発する。その重い鉛弾は、ニュートン方程式なら光速をぶっちぎる加速度を受け相対性理論の制限で質量を増し、水爆のガンマ線や放射能すべても呑みこんだ……スターウオーズ計画の、要塞粒子ビーム砲の計画数値より強力な……大半のリアルロボットアニメの設定数値をしのぐ高エネルギー中性子ビーム砲となって、ゾーマに突き刺さった。

 本来なら城ごと、ラダトーム城までも吹き飛ぶ爆発、だが……閃光と、瓜生が塩の柱に変じ崩れ落ちるだけ。

 そこに、大魔王の哄笑が響いた。

「やってくれおる、やってくれるわ!闇の衣をまとったこのわしを傷つけるとはな」

 ゾーマの左腕は、なかった。

 エネルギーを奪い尽くされてうずたかく積もる、超高レベル放射性廃棄物のなおも高熱を放つ巨大な塊を、ゾーマはうまそうに右手で口に運び、食い尽くしていく。

「うまい、これこそが異界の恐怖と破壊か。なんという美味、なんという力。感謝しよう」

 言葉もなく立ったミカエルが王者の剣を天に掲げ、呪文を唱える。

 無数の稲妻の無量光が、その身を明るく照らす。

 身体と剣をすべて稲妻に変えたミカエルが、異界の美食を楽しむゾーマに向かって……

 

 目を覚ましたのは、見慣れない教会だった。

「ここは」

 瓜生が激しくえずきながら、棺桶から起き上がる。

「父上!」

 起き上がったラファエルが、沈痛な目をした神官に背をさすられる。

「こんなところで、目がさめるとはねぇ。アリアハンの教会だよ、ウリエル」

 ガブリエラがのびをする。

 ミカエルが、目を伏せていた。

「全滅した。最後の、ギガデインを乗せた剣の制御に失敗して」

 それだけ言って、座りこむ。

 四人とも、言葉もなかった。ひたすらラファエルの父親、アスファエルが祈る声だけが響く。

「どうか、お休みください、勇者様」

「勇者じゃ……ありません、知っているはずです」

 ミカエルの、奇妙に礼儀正しく凍った声。

「勇者じゃなかったら、全滅して王様の元に戻るはずがありません。消滅した身体までも再生されて届けられるはずがありません。それもすべてルビスさま、神々の御加護なのですよ」

 アスファエルの、穏やかで優しい声。

 ミカエルはただ、黙っていた。

 そしてつぶやくように、

「ウリエル。おまえのあれは、確かに傷つけていたよ」そしてしばらく黙り、「だがもうやめてくれ。なんとか、生きたまま……」

 そう言って、うずくまった。

 それからミカエルは、ダーマに飛んだ。だが何も話さず、ただ賢者たちと目を合わせて瞑想しただけ。

 ランシールに飛び、サー・ジェニファー・メイガスと激しく剣を交える。本来ならもう、彼女を圧倒する腕のはずだが、なぜか勝てない。初老の達人は静かに、柔らかくミカエルの剣を受け止め続けていた。

 さらにハイダーバーグを、またロマリアが再建しつつある海峡都市ビスターグルを見た。

 ラーミアに乗って、瓜生の水爆が粉砕したクレーターを見る。世界樹に抱きついて目を閉じ、時々狂ったように叫ぶ。

 ラダトームに行き、城ではなく教会の二階に行って、なにも言わずにカンダタを引っ張り出し、裏庭で長いこと稽古していた。一言の言葉もなく。オルテガの死も告げず。

 ルビスの塔の最上階、誰もいない祭壇をただ、丸20時間見つめる。

 そして、ランシールのあの洞窟の奥。何もない空の宝箱を見つめ、光の玉を取り出して語りかける。

 出てきたミカエルは三人に微笑を向け、そしてアリアハンに戻った。

「言うよ。全部」そう瓜生に、震える声で。

「言いたくなければ、別に言わなくていいぞ」言う瓜生に、ミカエルは拳を一瞬握り締めた。

 実家……そこに待っていた母親が、涙をあふれさせる。

「仲間、には、話して、おきたい、んだ。ラファエル、家族、呼んで、ほしい」ミカエルはそれだけ、つっかえつっかえ必死で言った。

 オルテガ家は広く、十人以上が楽に座れた。

 ミカエルの母親と、瓜生はほぼ初対面だ。こうしてみると、アリアハンの人たちとは少し違う、王族の噂が理解できるような美女。年齢より老いてはいるが。

 アリアハンならではの、新鮮な魚の塩焼きとチーズ、細かい穀物の粥がたっぷり。それに、瓜生はロマネ・コンティの1985年、シャトー・ムートン・ロートシルトの1945年、シャトー・ディケムの1886年を出した。彼が知り、市場で売られている最高のワイン。

 天上の味に驚く家族を見ながら、突然ミカエルが口を開く。

「わたしは、ラファエルの妹ナレルを殺した」そう、ミカエルがはっきり言う。

 ラファエルが激しい表情を見せて立とうとして、また座った。

 ミカエルの祖父が、悲しげに目を伏せ、その後はずっと沈黙を守り通した。

「同い年の彼女は、わたしについてくるつもりで、魔法と剣両方の修行をしていた。魔法使いを極めたら盗賊になって、二人でバラモスを倒す。そう言ってともに修行した」

 ラファエルの家族が、感情を極度に抑えて目を閉じる。

「天才だったよ、正真正銘の。あんたじゃなくて彼女だったとしても、同じぐらい簡単に旅は進んだと思う」

 ガブリエラが瓜生を見て、沈痛に言う。

 ありえない、と一瞬思った。無限の富と強力な近代兵器、それよりも強い戦力、だと?ミカエルと同世代の子が?

「ずっと二人で訓練してた。ラファエルも入りたがったけど、レベルが違った」

 ガブリエラが微笑む、「ぶっちゃけたほうがいい。王位継承権が高い男子であるラファエルに、無闇な力をつけるのは危険だとされたんだ」

 ラファエルの父親アスファエルが身をすくめ、「父が、ロマリアのモンスター闘技場に狂って廃嫡されたのです」とだけ言って美酒をなめた。

「野心はなくても危険視され、気がついたら同意した覚えもない反乱の首謀者にされ決起しなければ殺されるだけだ、とやられかねない。お辛かったでしょう」

 瓜生の声に一礼した。

「二人とも、ほかの子供たちとはあまりにも違いました。だからこそ、本来なら許されぬ十歳で、魔物たちの攻撃を相手に実戦訓練が許されたのです。それがどれほど大きな過ちだったか」

 アスファエルが涙ぐんだ。

「のぞきにいきました。二人とも見事に戦っていました。多数の魔物を、こともなく」

 ラファエルが、重い声で言う。

「ついていっていた衛兵たちも、あっというまに置き去りにされ、彼ら自身生き延びるので精一杯だった。魔物の強さも異常だった」アスファエルが洩らす。「わしがあの場にいたら」

「あの二人の強さに反応したんだろう」

 ガブリエラが苦々しげに言う。

「制御できなかった。襲い来る魔物を、殺して殺して殺しまくった。魔血と内臓にまみれ、楽しくて、まるで腹の底に大穴が開いたトロルが食物の山をむさぼり食うように、殺しても殺しても腹が減って止まらなかった。どこかが冷え切っていた。身体が勝手に動いた。今思うと信じられないようなむごいことも楽しんだ」

 瓜生が震え、目が飛び出そうに見開かれる。

「気がついたら……ただ、敵だと、斬っていた。ナレルを」

 味方、幼なじみの少女を。血に飢えた剣を制御できずに。

「斬らなければ殺されていた……見ていました。衛兵の一人が殺されています」

 ラファエルが言うのを、ミカエルが首を振る。

「知ってる。嫌って、いうほどな。相手が人間でも、人間がそうなるのは変わらないんだ」

 瓜生が、聞こえないような声でつぶやく。

「おまえが知ってるって、あたしも知ってる。見たんだ。ランシールの、地球のへそ」

 瓜生のいすが跳ね飛んだ。

「かまわない、なにをしても。あたしはあんたのすべてをのぞいた」

 ミカエルが冷たく言う。

「なら」

「責める資格なんて……ない。だから、なにをしても、いいから」

 ミカエルが、泣きじゃくっていた。

 百年以上熟成を極めたシャトー・ディケム、神の甘蜜……それすら苦かった。

「その、見たのは、選んでか?」瓜生が静かに聞く。ミカエルが首を振った。

「自分の選択以上のことは負わせてはならない……感情の部分は負わせるもんだが、知るか。みんなが罪人の家族に石を投げても、おれはやらない。死んでも。性犯罪被害者の妹の縁談も潰し、天災の責任に女の子を生き埋めにし、本の解釈一つで女子供も虐殺するような感情の畜生には、行動を左右させない。善意の行動がひどい結果になるだけで、たくさんだ」

 怒りに歯を食いしばってうめく瓜生の言葉に、ミカエルが深く息をつく。

「それがきっかけよ。この子が、オルテガじゃなくてカンダタの子かもしれない、なんて誰かが言い出して」

 ミカエルの母エオドウナが、言った。

「かなり、むごかったね……みんな、この子のことを恐れて、責めて」

 ガブリエルが無理に笑いにした。

「わたしです」

 ラファエルが顔を覆った。

「つい……」

 アスファエルが立ち上がり、拳を固めたが、ガブリエラの目に首を振って止めた。ラファエルは過剰に自分を責めている。

「子供が馬鹿なのは当然だろ」

 瓜生が言い放つ。それは、ラファエルの両親やエオドウナにとっては、鞭以上だった。特別扱いし、ただの子供としての彼らをまったく見なかったということなのだから。

「すまん」ミカエルの祖父ボルヘスが、一言だけ漏らす。

「わたしが、カンダタとも一度関係したのは事実ですよ」

 エオドウナの、恐ろしく冷たい枯れきった声。それはゾーマの哄笑より怖かった。

「どっちの子なのか」ミカエルが、それを口に出すのも恐ろしいように。そして瓜生を見る。

「血液か毛髪でもあれば、でも判定できるように、おれ自身を訓練するのに時間がかかる。一人では難しいと思う」瓜生の目に苦慮があった。

「無理よ。父親が兄弟」ガブリエラが冷たく言った。

「わたしにも、わからないの」エオドウナが泣き伏せた。

「確かめてみようか、毛髪か何かがあれば。あと、カンダタの遺伝子を採取して、ロマリアかハイダーバーグで部屋借りて、DNA検査キットの使い方勉強して」瓜生が立ちかけるのを、

「や、やめて」

 ミカエルが止めた。まるで、子供がしがみつくように。

「このようなことは、あるのです。どちらであるか知っても、幸福にはなれない」アスファエルが沈痛に言う。

「どちらであっても、このじいの、孫じゃ。それでは、不満か?」ボルヘスが、うめいた。

「ロマリアでは王の冠を取り返し、アリアハンでもバラモスを倒した。それでも勇者の資格がないのか?」瓜生がいう。

「それは、おまえがいたから」ミカエラが瓜生につかみかかろうとする。

「違うよ。おれだけだったら、ただの素性不明の旅人だ。あんたの、アリアハンの勇者という手形、ガブリエラやラファエルの顔の広さがあって、やっと王室の人にも話を聞いてもらうことができるんだ」

「でも」

「第一、おれ一人じゃあのオロチとも戦えない。神々の類が敵意を持って向かってきたら、ただの人間なんて凍りつくだけだ」瓜生が自嘲する。

「その能力は、桁外れなんだよ」ガブリエラが沈痛に言う。「でも」

 静かに沈黙し、ロマネ・コンティを深く味わった。

「疎外された勇者。それほど怖いものはない……そう、あんたの叙事詩」と、ガブリエラが瓜生を見る。「勇者ダイの父バラン」

「疎外するほうが馬鹿なんだ。剣の切れ味に関係あるか。切れればいいんだよ切れれば。そうじゃなかったら、おれなんて何回死んだってすまない」

 瓜生がもう礼儀をかなぐり捨てて、鋭く吐き散らす。

「くそっ、人間のクソ道徳め……罪なき者のみこの女を打て、人を裁くな……まして親が何してようが、切れ味に関係あるか、切れるかどうか、切れる刃なら何に使うかだ、同じ刃でも包丁にでも人殺しにでも手術用メスにでもなる」

 ただただぼやいて、ワインでは気が済まずワイルドターキーをラッパ飲みにする。

 みな、恐怖を込めて瓜生を見ていた。

「おまえが……人間を憎む心を行動にしたら。容易に人を滅ぼせる」

 ラーミアから危険なほど近づいて見下ろした、広い広いクレーターのネックレス。

「あたしも多分。ハイダーバーグで、簡単に、たくさんの人を操れた。止めて……殺してくれるよな、ガブリエラ。そのためにいるんだから」

 ミカエルがうつむく。エオドウナがガブリエラを、愕然と見た。

 ガブリエラも、瓜生の手からワイルドターキーの瓶を奪い、干した。

「もう絶対に虐殺はしない、誓ったんだ」瓜生が口の端を噛み、瓶を取り返して血を酒で洗い呑む。「ただし、おれの故郷じゃ虐殺を止めようとしたら、いっつももっとひどくなるから、どうしようもないけどな。人は虐殺を好きすぎるんだ」

 無力と絶望に身を投げる。

「さぞうまいだろうよゾーマにとっては、この絶望は。どうぞめしあがれ、だ」

 それだけ言って半ば狂った自嘲をこめた笑い、もう一口干す。

 ガブリエラがまた瓶を奪い、飲む。

「その笑い方、だいっきらいだよ。わかってるだろ。どうなるかなんてわからないんだから好きにしな」

「くそったれ、罪悪感なんてゴミ箱に放り込め!人間のアホらしさなんて知るか。それでどうなろうと知るか。今、患者を一人でも助ける。今、ゾーマのあのしたり面に鉛弾叩きこんでやる。バラモスをあの姿にした、それだけで理由には充分だ……それだけだ。

 ごちそうさまでした」

 瓜生は最後だけ礼儀正しい口調で言い、席を立った。

「また、会えて良かった……かあさん、じいちゃん。オルテガは最期まで勇者だった。カンダタも元気だ」

 そう言うときは顔を見ず、ミカエルは立ってラファエルの家族を見て、一瞬ジパング式に土下座しようとしてただ深く身体を折り、瓜生に続く。

 ラファエルは黙って、家族にかわるがわる抱きしめられ、立った。

 ガブリエラが最後に、戦勝記念でもある史上最高のワインを飲み、背中にかすかな憎しみをこめて去る。

 

 勇者の盾があった洞窟に行き、敵のいない地下一階の広いところにクレーンと発電機を据える。

 M2重機関銃を、土木工事用一輪車のように車輪がついた三脚に据えた。さらに水鏡の盾をとりつける。

 ヴィーゼルは主砲同軸にM2重機関銃を二門強引に溶接し、M202四連焼夷ロケットランチャーも固定する。

 メルカバになんとかM61バルカン20mmやアベンジャー30mmガトリング砲を主砲にできないか、アセチレントーチであちこち切ったりしていじくり回し、燃料が充填された複合装甲の火災にびっくりして諦めたりする。

 車長用銃架に、無理やりM134ミニガンを据えるのは成功した。さらに、急な温度低下で起爆するよう仕掛けた爆発反応装甲を大量に用意する。他にも増加装甲を何重にもつけ、前方にもブルドーザーの刃をつける。

 また牽引40mm機関砲を、メルカバの車内で照準ビデオカメラを見て、遠隔で発射できるようにした。

 さらに別に、ファランクス自動艦載対空システムを調整していた。

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