魔の島に向かう。
遠慮なく主砲を連射して敵を掃討、ミニガンのテストも充分してから城に突入する。
瓜生の手元に映し出される、無人ヘリからの映像。1キロ以内に出現した敵は即座にミニガンに足止めされ、60mm迫撃砲に粉砕される。それより遠くても、3km近い射程を持ち、大きい放物線で岩や木々を越えて重い砲弾を落とす迫撃砲を逃れられる敵はない。
大きく動きが速ければまず主砲同軸のM2重機関銃、それで照準を調整した主砲が咆える。
なんとなくだが、もうわかっていたことを、四人とも内心言葉にする。メルカバで、四人が一つの生き物のようだ、と。
ヴィーゼルの主砲同軸機銃のテストがてら、ライオンの頭で強力な呪文を使う魔物を倒し、下に降りる。
前とは違う道をじっくり探検したら、宝箱から禍々しいが、恐ろしい切れ味を感じさせる剣を見つけた。
さらに、オルテガが死んだあの橋を急ぎ足に抜けた。前はすべて放り捨てていた、遺品の鎧などを拾い集める。
大きく回って、前は行きすぎた宝箱を探る。
「賢者の石」ガブリエラが息を呑んだ。
あらゆる錬金術が追い求める、神々の滴。その力は、賢者であるガブリエラが使えば消耗なく全員を一度に癒すことができる。
さらに、前に手に入れた呪われた剣を見ていた瓜生とガブリエラが、同時に気がついた。
「前に言ってたあれ、これがあればできるんじゃないか」
「だよね」
「あの夢か」
武器を合成する魔法がありえる。たとえば破壊の剣と隼の剣を合成すれば、呪いもなく破壊の剣の攻撃力で二度攻撃できるかもしれない。人間には無理だ、彼らにも想像もできない邪神の力が必要だ。
そのミカエルが一度、夢に見ている。ミカエルと同じ甲冑盾をまとう青年と、男女二人。こことは違う、雪原の中の魔城の入口で二つの剣を合成して、今もミカエルがもつ聖なる守りを掲げるのを。
それと同じように、これらの魔剣と普通の鋼の剣を合成できるかもしれない。
どこででもできるわけではない。だが、覚えのある、ある場所でなら。あそこには、邪神の力が満ちていた。
リレミトで一度城の入り口まで戻る。そして、ダミーでしかない一階左右の階段から下り、無限ループの階段だけがある小さな部屋に着いた。
ただ昇る。妖精と山彦ふたつの聖笛を同時に吹きながら。
どれだけ昇ったのか、突然ミカエルが叫ぶと、そこは奇妙な祭壇だった。
ガブリエラと瓜生二人の賢者、そして精霊ルビスの加護を秘めた聖なる守り。二つの笛、賢者の石。そして、はぐれメタルの精髄。
ガブリエラが試しに、破壊の剣と隼の剣を合成して、その力を確かめた。ただしこの合成魔術はそう何回も使えるわけではない。
次いで嘆きの盾と力の盾を合成した。
ラファエルはパワーナックルと雷神剣、そして武闘着と地獄の鎧を合成した。
アレフガルドの三神武装は邪神の力など受けつけず、ミカエルはこのままでいいとそっぽを向いた。
瓜生は自分の世界で市販され、普段使う刃をいくつか選んだ。コールドスチール社の両手剣。シャベルにも包丁にも手斧にもなる山刀。柄一体ステンレスの14cmぺティナイフ。そして手術用メス。
それらを一つにして、〈編み目を解いた〉諸刃の剣の本質・はぐれメタルの精髄・そして炎氷二つの魔力を絡めた境界に垣間見える消滅の力を編み合わせ、撚り合わせ、織り直した。一人ではとても織れない糸を、ガブリエルと二人たがいにかせとなり、おさとなって編み、撚り、織ってゆく。
光とも音とも匂いともつかない力の織物。
そこには、外見はそれほど変わらない剣や刃物がいくつか転がっていた。
どれも錆びることも欠けることも折れることも曲がることもない。研ぐ必要もない。岩をも豆腐のように切り裂き、呪われることもない。瓜生の故郷で市販されている物と同じくハンマースペースに入るので、いつでもどこでも手にできる。
それぞれ、形や握りの素材も微妙に変化した感じがある。シャベル兼用の山刀は包丁正宗に長い柄をつけたようになり、両手剣の刃は身長ほどにも長く薄くなっていた。
それから、瓜生の世界で市販されている耐熱服や特殊繊維の布を用意し、竜の女王にもらった鱗、はぐれメタルの精髄、水の羽衣、力の楯をまとめて合成して不定形にした。それは二着作り、ガブリエラも身にまとう。
そこまで済ませて一度、アリアハンの宿に戻って、ゆっくりと食事をとり、熟睡する。
それからは一直線。どれほど敵がいても膨大な火力、そしてミカエルの王者の剣、ラファエルの拳に合成された雷神剣がすべてをなぎ払い、わずかなダメージもすべて賢者の石が癒す。
まったくの無傷、一度も呪文など使わぬまま、ゾーマの待つ祭壇を登った。
闇の中静かにまがまがしい魔炎の松明が灯り、巨大な姿が一歩ずつ迫る。
「ミカエルよ!我が生贄の祭壇へよくぞ来た!我こそは全てを滅ぼす者」
その魔の、圧倒的な邪悪の声を、ミカエルの放つ光の力がはらいのける。それがなければ、瓜生たちも瞬時に塩柱と化して息絶えているだろう。
ミカエルと瓜生が目を合わせ、ガブリエラと静かに呪文を重ねた。魔王の邪悪に飲まれぬよう、何重もの魔法防御を固める。
「ゾーマ!話したい」瓜生が決然と目を向ける。「ただ魔王だ、と言われたから戦って、後で間違いだとわかって後悔するのは嫌だ」
「我を殺せると思うのか、凡人、異界の放浪者、故郷に役割のない賢者よ。話すことなどあるのか?」
「まず聞きたい。……おまえは、任意の角を、目盛りのない定規とコンパスだけ、有限回で三等分できるか?」瓜生が、マイクに言ってそれが無人機のスピーカーから流れる。そこまでしないと邪気に飲まれる。
「愚か者め。三角関数の三分角は三次式となる。定規とコンパス、二次式の繰り返しの集まりで、できるはずがなかろう」
瓜生が微笑む。
「ならば、3と4と5、5・12・13のように直角三角形をなす数がある。それは、それぞれの数に自分自身をかけて、直角をはさむ二つの数の自乗を足せば斜辺をなす一つの数の自乗に等しい。同じように、自分に自分をかけて、もう一度自分をかけても同じような関係になる三つの自然数はあるか?さらに三以上、無限に至るまであらゆる回数で?」
フェルマーの最終定理。最初に、瓜生が自己紹介がわりに言った言葉。相手が何星人でも通用する、彼の世界の人間の最大の達成。
ゾーマの舌打ちのような気配。
「ややこしい問いだな。言葉にすれば時がかかるぞ。さっさとしよう」
瞬間、凄まじい頭痛が四人を襲う。瓜生はもう知っているワイルズの証明と同値、より洗練された、準備のための数学も含めた膨大な知識として、ほかの三人の脳にも直接流しこまれた。
「あのなあ。痛いぞ。こんなこと知って何の役に立つ?」
ミカエルが文句を言いたげに瓜生を見る。
「水爆も数学がなきゃ無理だ」
瓜生が頭をさすり、深呼吸しながら答えた。
「恐ろしい世界なのですね、あなたの故郷は」
ラファエルがぞっとしたように瓜生を見た。
「アホ馬鹿アホ馬鹿アホ馬鹿」ガブリエラが瓜生に繰り返す。
ゾーマはつまらなそうに、
「知恵比べはこのあたりにしようではないか。単に、話せるだけの言葉があるか試しただけであろう?」
「それと、一度成功したことがあるんだ。人を攻撃してくる言葉を使える魔物に、リーマン予想とP=NP問題を出してやって。何百年かは退屈しないだろうから」
瓜生が笑う。
「ならば無駄はやめておけ。人を生贄にすることはやめぬぞ。そのような知識、面白くも何ともないわ」
「代替手段はないのか、他のもので腹を満たすことは?それに、そうやって攻撃するより生物兵器や化学兵器を使うほうが楽じゃないのか?人間に科学技術を与えて人口を増やし、宗教戦争で殺し合わせるほうがより大きな絶望と憎しみを味わえないか?そういえばミカエルが言ってた、核廃棄物を食べてたって……ほしけりゃいくらでもやってもいい!」
「もはや問答無用。共存はない……ただ、全ての命を我が生贄とし絶望で世界を覆い尽くすのみ!ミカエルよ!我が生贄となれい!いでよ我が僕たち。こやつらを殺し、その苦しみを我に捧げよ!」
「間違いの心配はないようだな!」瓜生が小さく叫ぶ。
まだゾンビになりたてで肉も生々しいキングヒドラとバラモスブロス、そしてバラモスゾンビ。
ミカエルたちは素早くメルカバに乗り込む。
遅れた瓜生は、隅に、束ねた二液式接着剤を大量にばらまく。その上にファランクス対空システムを出現させた、その重みでチューブは潰れ接着剤が混ざり、床に巨体を固定する。駆け出す動きでスターターの紐を引いて発電機を始動させ、別の一角に40mmボフォース対空機関砲を出現させると、戦車に飛び乗った。
そして、ハッチから顔を出してバラモスゾンビに叫ぶ。
「そんな姿にされて、文句はないのか。あれほど力あった、魔王が」瓜生が骨のバラモスに問いかける。
「思いやりには、人間なら礼を言うべきか。わしはゾーマさまに仕える者。主人の剣。ならば、死してもこうして仕事ができることは喜びに他ならぬ!戦い抜くのみ!」
骨の塊が、きしむように、だがはっきりと語る。
「そうか」瓜生は眼を閉じた。「余計なお世話だったようだな、救おうなどとは。……おれに牙を向ける者は、動かなくなるまで鉛をぶちこむだけだ。人間だろうが魔物だろうが、生きていようが死んでいようが!」
「そうこなくては!」
バラモスゾンビの嬉しげな咆吼。
ミカエルが、炎を吐こうとするキングヒドラに車長ハッチからミニガンを浴びせる。目線一つ、もう瓜生が装填していたキャニスター弾がバラモスブロスの脚をぐずぐずに砕き、突進しかけた巨体が横転する。
叩きつけられようとするバラモスゾンビの腕を、ラファエルの素早い操縦でかわし、壁寸前で旋回する。身を翻そうとする脚をミニガンの間断ない7.62mmNATO弾のシャワーが刻み、一瞬止める。
走りながら自動調整された次の主砲、タングステン合金の重い太矢がキングヒドラを貫通した。同時に瓜生が無線操作したファランクス……全自動で、レーザーと赤外線で超音速のミサイルをロックオン、追随して毎秒百発近い20mm弾で粉砕するシステムが、まずバラモスブロスを蜂の巣にぶち抜く。吐こうとしていた炎が無数の穴から暴走し、吹き上がった。
それからキングヒドラにもう一発主砲の多目的榴弾を打ちこんで爆裂させ、ファランクスと40mmボフォースがバラモスゾンビの背骨を粉砕し、ミカエルの合図で即座に停止、すぐさまガブリエラと手を合わせ、ハッチから手だけ出して放ったメドローアがバラモスブロスの残骸を消し去る。
もう車長ハッチから突進していたミカエルが、バラバラに打ち砕かれながらなお執念で骨腕を振るうバラモスゾンビを断ち切り、光の霧と消し去る。駆けたラファエルが、キングヒドラのもがれなお首をもたげ食いかかる牙を柔らかくそらし、掌を前よりはるかに美しく打ちこみ、光と共に魔の生命を滅する。
「お手本ありがとうございました」
皮肉にゾーマを見る。
「ミカエルよ!何ゆえもがき生きるのか?滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい。さあ、我が腕の中で息絶えるが良い!」
ゾーマの声が響く。
バラモスゾンビを滅ぼして立つミカエルが掲げた光の玉。もう迷いも怒りもない、自らと調和した彼女の手から、光がほとばしる。
それは巨大イカの長い腕のようにゾーマにからみつき、光と闇が激しく相剋し、混じり合う。はざまから混沌が、始まりと終わりが首をもたげる。
神々の領域。神話の力。
そこには、生身のゾーマが立っていた。
「ふふ、上の世界の、竜の女王か。あの女とも長いつきあいだったわ……これが断末魔か。その子、おまえたちは知るまい」
楽しげに大魔王は嗤う。
ラファエルのフバーハと、ガブリエラのバイキルト、瓜生がディスプレイを操作して離れたファランクスに標的選択をさせるのが戦闘開始の合図だった。
バルカンの20mm弾が魔王を包み、その弾幕が途切れた瞬間にミカエルの聖剣が一閃される。
あちこち傷つきながら、魔王は得たりと応え、強烈な拳と吹雪を放った。
メルカバが鋭く動いて冷気の激しいところをかわし、魔王の拳に逆らわずわざと吹き飛ばされたミカエル、そこに120mm口径の徹甲弾が正確に打ち出され、瞬時にサボが分離し長く太い矢形の高密度合金が飛ぶ。
大魔王の魔力が凝縮した、スカラを極限化した手に高密度合金が高速でぶち当たり、砕けながらも最後のエネルギーは硬い硬いそれを打ち抜いて肉の部分に突き刺さった。
すぐさま、次の砲弾とミカエルの全身を乗せた突きの二択。大魔王は平然とミカエルの剣を選び、恐ろしく美しい動きで肉一枚貫かせ、ミカエルの踏みこむ足をひょいと蹴り上げながら肘でふっ飛ばし、その流れで次の徹甲弾を裏拳で弾く。
マホイミの魔力でミカエルの体が崩れそうになるのをアストロンが無効化し、一拍で解除されてまたも切りかかる、それを返そうと大魔王が腰を落として手を上げた瞬間ミカエルが消える。研究していたサガルーラ……一瞬でミカエルの体が、数メートルだけ移動する。
ファランクスが咆哮する、その弾幕の影に隠れてギガデイン、同時に戦車は近接信管の榴弾と巨大な砲口炎を吐き、その影でハッチから身を乗り出した瓜生がRPG-7を発射している。
わざと狙いをわずかに外した近接信管、避けようのない破片と爆風の嵐、それを貫いて20mm弾と40mm弾、そしてRPG-7のタンデム成型炸薬弾が次々と命中する。
砲口炎と爆炎がマヒャドの強烈な冷気で打ち消され、傷もかまわず……同じ大きさの鉄塊なら原形を残していないはずだが、闇の衣がなくてもそれ以上に頑強……突進して放つ拳がメルカバのドーザーブレードをへこませるが、そこにミカエルが再び斬りかかる。
その戦いは、一つの戦いでありながら、いくつもの面を持つようだった。
一つの面しか持たない現実の戦いとは、まったく違っていた。
ある面ではミカエルも、生身の人間ではなかった。王者の剣、光の鎧、勇者の盾……神の武器防具と一体、その叫び声が秘める力と融合し、どちらが主と言うこともなく、戦うための神に等しい存在となる。
人の世界とは、鋼の刃や火薬、また人の弱い魔法とも隔絶した、神々の次元。その一人と言える大魔王ゾーマと、その叫びと魂を最大限に高めればその域に足をかけることができるミカエル。
ほかの三人、さらに彼らが操る機械とその砲弾さえも、ミカエルの神力の一部となる。
その、神と神との神話の戦いが、この世ならぬところで繰り広げられている。
ある面では、時にはメルカバでひたすら、膨大な増加装甲と賢者の石でかろうじて命をつなぎながら、ひたすら強力な砲弾を魔王にぶちこみ続けている。
メルカバの四人はもとより、長い訓練で一体の生物に等しい。それが、魔法的にも文字どおり一つの存在となり、その巨砲を牙に戦い続ける。
液体空気の極冷気を爆発反応装甲が吹き飛ばし、時にはハッチから放たれるRPG-7サーモバリック弾の獄炎が、ベギラゴンやメラゾーマが、そして聖堂を覆い尽くすナパームが相殺する。
主砲の合間に絶え間なく同軸の重機関銃が鋭い打撃を加え、一瞬の隙を作り続ける。
時にはメルカバを降り、ヴィーゼルの瓜生とガブリエラが動き回り、空挺戦車を守るべくミカエルとラファエルが激しい接近戦を続ける。
20mm機関砲と二門のM2の、濃密な弾幕を切り破る大魔王の突進を機動性でかわし、魔法で一瞬幻惑して隙を作ってロケット弾を命中させる。
ボフォース40mm機関砲の盾に隠れながら、誰かが動き回って山積みの砲弾を装填し、次々に発射する。
ミカエルの真っ直ぐな剣技と、ラファエルの怪力を抜いて美しく敵の力を生かす武術、それが見事に息を合わせる。ゾーマの動きの美しさもそれに負けてはいない。それは剣戟だったのか、それとも美しい舞踏か。
激しい打ち合いから、時に後ろの賢者二人がサガルーラで前の二人を瞬時に呼び戻し、一瞬空振りする魔王にヴィーゼルの、後方のファランクスの20mm弾の嵐を撃ちこむ。
時にはゾーマが巻き起こす、大気も露となるような低温の嵐にM202連発ロケット焼夷弾を叩きこみ、またメラゾーマやベギラゴンをぶつける。
バイキルトやフバーハをかけ続け、それがゾーマの凍てつく波動で無効になるのも繰り返される。
そして繰り返し、全員が負う重傷をガブリエラの賢者の石が、瓜生やラファエルのベホマラーが癒し続ける。
ある面では、ひたすら四人固まって盾を並べ、ミカエルの叫びと歌に合わせながら剣を、拳を振るい続ける。
フバーハやバイキルトをかけては無効化され、また賢者の石で体力を回復しては呪文を唱え、剣を振るう。
ミカエルの王者の剣が、ラファエルの雷神剣を合成したパワーナックルが、ガブリエラの破壊隼が、瓜生の諸刃を変じた両手剣が繰り返し魔王のうつし身を切り裂き、マヒャドと凍りつく息、美しく過剰な癒しをまとう魔拳とダメージを交換する。
時には死ぬものもある猛攻に、かろうじてザオリクで命を蘇らせる。
時には全員が瀕死になり、そこにミカエルの全員が完全に回復するベホマズンの無量光が轟く。
時には瓜生はバギクロス、ガブリエラはメラゾーマを指三本に同時に浮かべ、叩きつける。半ば禁呪のフィンガー・フレア・ボムズも、体勢を崩し一時冷気を封じる程度にしか効かない……だが、ミカエルが斬りつけ、ラファエルが会心の一撃を決める役には立つ。
二人息を合わせたメドローアが、ラファエルが拳を食らいながらの蹴りでゾーマの重心を崩した隙に放たれ、一瞬だけ大魔王の腹をえぐる。瞬時に再生するが、一瞬の隙にはなる。
さらにはミカエルのギガデインが魔王を打ち据え、それに負けず大魔王の肘が瓜生を打ちのめす。
ひたすら、こちらの魔力と魔王の生命、どちらが先に尽きるか。
ある面では、ミカエルとガブリエラ、ラファエルと瓜生の二組に分かれ、銃撃と接近戦を使い分ける。
ゾーマの放つ巨大な冷気弾をガブリエラのガリル7.62mmのフルオートが撃墜し、その間に、三脚に車をつけて動きやすくしたM2重機関銃が咆哮を上げてゾーマを追い、足に一発二発と当たる。無論瓜生のミニミ7.62mmも激しい連射で十字掃射、どれほど速く動いてもどれかは命中し続ける。
強烈な冷気を吐きながら突進するゾーマに、瓜生のRPG-7がぶち当たる。その隙に飛びこむラファエルが怪力で押しこみ、押し返す力を利用して腰に乗せ投げる、と見せ、ゾーマが潰そうとするのを退いて至近距離から口にS&W-M500マグナムを二連射。ひるまず襲うゾーマの腹を瓜生の切れぬものなきナイフがえぐり、ラファエルの全身が美しく螺旋を描いて拳をそらす。
二人が吹っ飛ばされた瞬間王者の剣、ガブリエラの破壊隼が三カ所を斬りつけ、稲妻の嵐を浴びせながら離れてすぐラファエルのバレットM82が轟音を上げ、瓜生の操作する40mmボフォースの巨弾が襲う。
銃、魔法、剣……相容れぬ三つの力を自在に使いこなす四人、魔氷を自在に操り死の癒しを拳に乗せる大魔王、どちらも退かず戦い続ける。
ある面では、それは瓜生の世界の過去、第二次世界大戦などいくつもの戦争でどちらが勝つかでさえもある。瓜生の張り巡らせた魔力の網目が、そのことに気づいて愕然とさせられた……前の全滅でミカエルが諦めていたら、瓜生の世界も確実に滅んでいたのだ。
それどころか、言葉ではなく網目だけを感じる竜王とミカエルの子孫や、瓜生はフィクションと知っているはずのピサロとエビルプリースト、勇者ダイと大魔王バーンの最終決戦さえもその戦いの一面に他ならない。
いや、膨大なファミコン・スーパーファミコン・エミュレーターの内部で行われる0と1の演算……恐ろしい数のプレイヤーによるゲーム自体のプレイ、公式非公式を問わぬあらゆる小説、それら全てすらこの戦いの一面だ。
神々の世界の戦いはあらゆる世界に影響を及ぼす、無限の厚フェルトの大きな結節点なのだ。
あらゆる面で、永劫の時を螺旋巡るかのように繰り返される戦い。
だが、ついに終わるときがきた。
膨大な火力が、無限の魔力で形造られる大魔王のうつし身を削り、押し切る。
半神となったミカエルが叫び、一片の迷いもなく、流星のように突く。
ギガデインの雷嵐を、瓜生とガブリエラが五指全てに一つずつ編み織るメドローアを、ラファエルが全身で螺旋に練り攻撃にかえるベホマを全て剣にのせて。
神も、魔も、竜も殺せる、全てを滅ぼし時を変える剣。
その闇の体から、無数の光が、深い闇夜の蛍のようにちりばめられていた。
それほど美しいものを、誰も見たことがなかった。
闇の底から、なおも聞いただけで灰になりそうな地獄の声が響く。
「ミカエルよ、よくぞわしを倒した、だが、光ある限り、闇もある。
わしには見えるのだ。ふたたび、なにものかが闇から現れよう。だがその時、お前は年老いて生きてはいまい……」
深い深い哄笑と共に、大魔王は炎の明かりに彩られ、稲妻に身を焼かれて消えうせた。
四人とも瀕死で、ただ呆然とその最後をみつめていた。敬礼をする余力もない。
その、大きな変化を感じることはとてもできない。
だが突然、激しい揺れと共に城が崩壊していく気配があり、ミカエルが逃げようとした、その時に地面が崩れ、四人とも深淵に呑まれた。
もう終わりか、などという思考もない。
ただ漂っていた。永遠より長く、プランク時間より短い時間。
気がついたときは、勇者の盾を得た、ちょうどそこにいた。
「この盾の、力で、現世に、戻された」
ミカエルが震えた。
リュックの底に残っていた薬草で、かろうじて生気を取り戻した瓜生が、ブランデーを一人一人の口に垂らす。
それで何とか起き上がり、四人肩を組み支えあって必死で歩く。
「今出てこられたら、それこそスライムでもやばいねぇ」
ガブリエラが冗談を言う。
「落ち着ける場所があったら輸血できる」
瓜生が歯を食いしばり、半ば切断され凍りついた片足を引きずる。
必死で深淵の大溝から逃れ、洞窟内に戻った、そこでヴィーゼルを出して、低いハッチに上るのもまるで大きな崖を登るように支えあって登り、全員が崩れ落ちる。
そのまま、ほとんど目も見えないまま運転して角を曲がった、そこで奥に向かう部分が、激しい轟音と地震の末に崩れ落ち、埋まった。
それから必死で、生き埋め覚悟で逃げて地上に戻ると、まぶしい光が降り注いだ。
それとともに、瀕死の四人の傷もいえていく。
ヴィーゼルから這い出して見回すと、光は消えていない。いや、むしろ見慣れた、まぶしい昼。
みるみるうちに広い草原に、一瞬奇妙な黒が見えていた森に、豊かな緑が、色とりどりの花々が咲き乱れる。
「なんて」
ガブリエラが驚きに口を覆う。
「一瞬で、闇の生態系から光合成による植物相に転換するなんて。これが精霊ルビスの力」
瓜生が魔力の網目を垣間見て、驚きに腰を抜かした。
ラファエルはひたすら祈っていた。
ミカエルは、なんとなく淋しそうな目を、真上に向けていた……その時、空の上のほうで、何かが閉じるような音がした。
「そういうことか」
ミカエルがルーラを唱えようとしたが、その候補はラダトーム・マイラ・ドムドーラ・メルキド・リムルダールだけ。上の世界、故郷アリアハンを含めどの街にも行く術がない。
瓜生が望遠鏡で上空を見てみるが、空がまぶしくて何も分からない。
「あの結界の名残はあるけど、すぐ解けるよ」
ガブリエラが手を上に伸ばし、魔力を探って笑った。
「どうする?地上を去るか?」
ミカエルが瓜生に、淋しそうな目で話しかけた。
「マイラに行ってみよう。あそこには予言者がいた」
マイラの入り口では、光が戻っていたことでまさにお祭り状態だった。
ミカエルをほめたたえる声がする。
「上でも思ったんだが、何でミカエルだってみんな知ってるんだ?」
瓜生がボソッと言った。
「こっちの編み目見てごらん。ルビスがあっちこっちに伝えたんだよ」
ガブリエラがため息をつく。
「それにしても、いきなり事実上体を改造されて大丈夫かな。光の世界の作物作ったりするのも大変だろうに」
「あんたの心配することじゃないでしょ、余計なことしなさんな」
「ついに、全てが報われましたね」
ラファエルがミカエルをじっと見つめる。
「終わっただけだ」
ミカエルが、むなしい目で目の前の女性が差し出す手を取る。
「ああ、光がこんなにも、まぶしいものだなんて……夢のようですわ。小さい頃、光を見たこと、い、いえ、そんなときには生まれてもいませんでしたとも、もちろん」
などとあわてたのにガブリエラが苦笑する。
前には、大魔王を倒すなど夢物語だ、と言っていた戦士が「なんというお方だ!」と称賛するのを、苦笑と取られないように笑顔で返す。
ゆっくりと温泉につかってから、レムオルで人目を避けて、埋まっていたところに妖精の笛を埋め戻し、魔法で封じる……ミカエルの血筋だけが見つけられるように。
前から話した、村の隅の予言者にどうすれば戻れるか聞きに行ったら、
「ゾーマが滅び、別の世界に通じていた空間の穴は、閉じられたようです。ここアレフガルドは、光あふれる世界として歩み始めたのです。もはやあなたがいらした元の世界に戻ることはできないでしょう。この土地に骨を埋めなさいまし」
と、沈痛に語りかけてきた。
「しかし、王城に留まり領地や爵位を受けるのは愚かなことです。あまりに大きな功労者は、誰にとっても目障り……巨大な力は恐れとなり、時と世の風が掌を翻したとき、悲劇を生むでしょう。この土地で、少し人里から隠れて過ごされませ」
その言葉に瓜生とミカエルが目を合わせる。
ジパング出身の夫婦を訪ねると、マサムネはむしろさばさばと、
「もう故郷の事は思うまい、ここがわしの世界でござる」
と笑った。
「光が戻った以上、ジパングの作物も育つでしょう。たくさんの子を育て、ジパングの優れた技術を伝え広めてください」
瓜生が稲・大豆・小豆・ヒエ・ソバ・漆・柿・コウゾ・茶、さらに椿・桜・松などの種や苗、それに漆が育つまでと生漆を一樽渡し、夫婦は嬉しそうに押し頂いた。
ドムドーラに行って、もう帰れないと踊り子に告げたら、彼女は泣き崩れながらもじゃあ責任とって、などと女の武器を使ってきて、ミカエルが困っていた。経験豊富なガブリエラがいなければどうにもならなかったろう。
子供の名前を考えていた武器屋が、やっと名前を思いついたのはほっとした。
そのとき、ふと気がついた。本当に魔物が一切出てこない、ということに。
「魔物がいない旅なんて、どうすりゃいいかわからないよ」
「初めてですね」
「逆に食料調達が難しくなるな」
「あんたがいる限り大丈夫、でしょ?まあレーションってのは食べてると飽きるけど」
ガブリエラが笑って、テントに寝袋で寝るという新鮮な体験を楽しんだ。
虹の雫を作ったほこらでは、老人にゾーマの予言のことを伝えると、
「再び、このようなことが起こらぬとも限らん。そなたの、勇者としての血筋を後の世のために残されよ!わしは待っておるぞ!」
と言ってくる。そこでなんとなくガブリエラが、ラファエルとミカエルをからかう目で見て、ラファエルが真っ赤になった。
それから、深刻な目で、「王城に長く留まってはならぬ。栄光を捨てる勇気がなければ、せっかくの勲功も無となろう」と忠告した。
それから、求めのままに虹の雫を返し、老人が何か儀式を行うと再び太陽の石・雨雲の杖に戻る。
ガブリエラがついでに、何か紙に書かせて受け取っていた。
ほこらを出てから瓜生が、「いつごろからなんだ?」とガブリエラに聞いたが、
「上の世界の笑いもの、伝説のヘタレの知ったこっちゃないよ」が答えだった。
それから、妖精が守っていたほこらに回り、雨雲の杖を返納する。
「いつの日か会いましょう、とルビス様は言っておられましたわ」と伝言してくれた。
特に褒美とかがなかったのは苦笑するだけだったが。
光あふれるアレフガルドを静かに周り、ガライの両親がいた港に飛行艇を係留し、その近くの豊かな森と水源で、四人ぐらいなら隠れて暮らせるよう準備しておく。
船はラダトームの近く、最初の船着場で返すといったが、やはり親子は受け取らない。仕方なく近代機械を外して係留した。
他にも飛行艇の高さから双眼鏡でドムドーラの南、ルビスの塔のある多島海などあちこち、人里と離れていて水源と広い森や炭鉱があり、隠れ住める土地を物色して回ったりする。
それからラダトームの城に向かった。
町で人々に歓迎される。
教会から、もう釈放されていたカンダタは、戻れないと聞いても笑っていた。
「ならこっちで、ゆっくりできることを探すさ。それに何人か呼んだしな」
ともに旅をしたことのある魔法少女ジジと重戦士ゴルベッド、他数人の見覚えのある盗賊や海賊が傍らで笑っていた。
ジジがラファエルに抱きついて、それでミカエルが嫉妬していたのをカンダタが楽しそうに指差し、ミカエルが怒って剣を抜きかける。
「よかったら、そこの船着場に置いてある船をやるよ」
ガブリエラが笑って、船の名を告げて係留鎖の鍵を渡した。
「ありがとよ。おまえらは」
カンダタが眉をひそめ、ミカエルを見つめる。
「無理すんじゃねえぞ。うまくいったら、じいちゃんにはよろしくな」
「あんたがちゃんと戻って、責任とって」
ガブリエラがかみつこうとするのを、カンダタは必死で手を振って、
「冗談じゃねえっ!今度顔見せたら絶対殺す、って、エオドウナはやるといったらやる。ゾーマ十匹に一人で挑むほうがましだっ!こっちでなんとかやってくよ。まったくありがたい話さ」
と困って、それから大声で笑っていた。
「ラファエル。ミカエラのこと、よろしく頼む」
ふと、真顔でそういわれたラファエルが真っ赤になり、ミカエルがまた剣を抜こうとして、結局赤くなってやめた。
ラダトーム城の地下にいる、記録管理などをしている特殊な役目だが高貴な家柄の大臣に、夢のお告げがあったとおり太陽の石を預け、ガブリエラが手形を書かせた。
着いたことを知らせてからゆっくり客室で着替え、身を清める。
それから丸一日宴の準備があり、そしてやっと謁見の日が来た。
ラルス王はやつれた身に、厚着でなんとか太ったふりをして威厳を出し、臣たちにミカエルを紹介した。ミカエルの希望で、仲間の三人はかなり引っ込んだ立場にいることを許される。
「ミカエルよ、よくぞ大魔王を倒した。心から礼を言うぞ!この国に朝が来たのも全てそなたの働きのお陰じゃ!
ミカエルよ、そなたこそ真の勇者。そなたに、この国に伝わる真の勇者の証、『ロト』の称号を与えよう!
ミカエル、いや勇者ロトよ!そなたの事はロトの伝説として語り継がれてゆくであろう!」
王の声と共に、アレフガルドの臣民こぞっての大喝采が起きた。
ガライがここを先途と、銀ではないがいい竪琴で素晴らしい曲をかなで、歌う。
ミカエルは未練を振り捨て、王者の剣・勇者の盾・光の鎧を外し、王に返納した。また聖なる守り・光の玉もアレフガルドを守るためと王家に捧げ、祭祀を保つように言う。
三神武装はそのための木人形にかけられ、ミカエルを求めるように輝き続ける。
かわりにミカエルはオルテガがつけていた剣や鎧、そしてムオルで継いだかぶとを身につけ、再び大きく群衆に手を振る。
ガブリエラは巧みに貴顕たちに入り混じり、上の世界の楽しい話を紹介している。
瓜生とラファエルは民衆の間に、子供たちと遊んだり、女たちから逃げ回ったり。
人が余裕で入れる、風呂桶のような鍋から次々とご馳走が運ばれ、樽酒が配られる。
まばゆくアレフガルドを照らす光の中、歌と踊りは終わることがないようだった。
しかし、その後勇者ミカエル……ミカエラの姿を見た者は、ラダトーム周辺にはいない。
夜が更ける頃、ミカエルは酔ったふりをして王の傍らから逃れる。
ガブリエラは瓜生が処方した睡眠薬で寝こけるガライの寝床から這い出して。
瓜生とラファエルは、いつのまにか変装して。
予言でも言われていたし、ガブリエラも王宮の主要な貴族を調べ、危険が大きいと判断した。
だが、ミカエルが残していった武器防具は、ロトの剣・鎧・盾として、聖なる守りはロトのしるしとして、後の世に伝えられた。
そして伝説が始まった。ミカエラたちの、新たな旅も。