太刀川、出水、小南、村上、影浦が出てきます。米屋、遊真が話に出てきます。
少し前回から話を引用しています。
太刀川はどこまでも行く
「太刀川さん太刀川さん。」
ボーダー本部正面玄関からこれから出かけようとしていた太刀川に後ろから声をかけたのは太刀川が隊長を務める太刀川隊の隊員出水だ。
「出水か。どうした?」
「いや、大したことじゃないんですけど、今時間大丈夫ですか?」
「散歩に行くだけだ。大丈夫だぞ。」
実は出水は昨日から太刀川を探していたがなかなか見つけられなかった。休みというわけではないのに、隊員が隊長を捕捉出来ていないのは由々しき問題である。出動など有事の際には太刀川が誰よりも早く現場に駆けつけるので問題はないのだが……
「で、どうした?出水。」
「あのー。太刀川さんて空閑のブラックトリガーって見たことあります?」
「玉狛のか。いや。直接はないな。」
「直接戦った米屋曰く、とんでもなく強いらしいんです。風刃よりも。」
あえて出水は直には頼まず搦め手で、太刀川の興味を引き、太刀川がより面白がる方向に話を持っていく。出した情報も太刀川が興味を引く様に多少マスキングされている。
「ほう。まぁそうだろうな。だが、風刃より強い?俺はその風刃に切られたんだが?」
「ま、まぁそれは迅さんだからですよね。でもブラックトリガーを使う空閑は風刃を使う迅さんに匹敵するかもってことなんですよ!」
「なるほど。興味はあるぞ。だが空閑がブラックトリガーを使うことになれば、訓練では済まなくなるだろ。」
近界民である空閑がボーダーに所属できるのは迅の献身とブラックトリガーを使わないという誓約があるからだ。
「そうなんですよねー。城戸さんも訓練だけなら許してくれませんかね?」
その瞬間太刀川の眼がキラッと輝いたように見えた。そしてクルッと踵を返しさっきまでとは真逆の方向に歩きだす。
「えっ?なんすか?えっ?どこ行くんですか!」
こうした太刀川の突然の行動はこれまでもたびたびあった。その度に周りの人間が振り回されたり、振り回されなかったりするが、どちらにしても太刀川を止めることは出来ない。共に巻き込まれるか、遠巻きで見守るかしかない。
「どこに?決まってるだろ。玉狛だ。」
「えっ!えぇ?直で!?」
「空閑に会いに行くのに何故他に寄り道する必要があるんだ。」
それはそうなんだが、それが出来ないからこそのさっきまでの話だったのだが……
「先に忍田さんとか城戸さんとかに話を通さないと!あと遠いです!何キロあると思ってるんですか!」
「必要ない。本部にバレなければ問題ないからな。玉狛でやれば良い。」
なるほど。それはそうなんだけど……と出水は困りながらも着いていく。あと距離の問題に関しては言い訳もねーじゃん……自分の中で抜け道が作られてるから、この人の変な行動力はこんなに頑ななのかと少し太刀川の事が分かってしまった出水。
「一応、俺たち、ついこの前空閑を拐いに玉狛に乗り込もうとしてたんですけど……」
ボーダー内で、本部と玉狛支部は微妙な対立関係にあり、太刀川隊も過去に玉狛支部の隊員と戦った過去もある。
「出水ー。細かいことを気にするな。林藤支部長は心が広いし、俺のは更に広いぞ。」
もう、こうなった太刀川は止まらない。出水はもう諦めた。よくよく考えれば別にいいのだ。これで怒られるとしても太刀川だろうし、太刀川のいう通り玉狛でならバレないだろう。そもそもブラックトリガーとやりたかったのは俺だし。と出水も納得してしまう。ただ遠い!
「あんたたちこんなとこでなに騒いでんのよ!」とちょうど本部から出てきた制服姿の女子に声をかけられた。本部からでて歩き出して途中で真反対に歩き出したため、二人は丁度本部まで戻って来てしまった。
「小南か。丁度良い。玉狛まで行こうと思ってたんだ。」
「いやいや!不味いですって太刀川さん!小南に直接言ったら……」
「なに!?あんたたちまた玉狛にちょっかい出しに行くわけっ!?」ポケットから取り出した特注のトリガーを構える小南。
「いや違う!違う!小南違うんだ!」
必死に釈明するが、結局殴り込みに近い現状をなんと説明すればいいか分からない出水。
「そうだぞ。俺たちはただ、玉狛に行って、すーぱー格別うまい小南のカレーを食べに行こうとしただけだ。」
「なっ!なにをっ!ほっ、誉めてもなにも出ないし、あんたたちの分なんてつくらないわよっ!作らないわよ……絶対作らないわ!」
太刀川に騙された上にカレーまで作らされそうになる小南。こんなことを言ってしまう上に夕飯まで作らせようとするとはやっぱり太刀川は変人だが、下手ではないなー。と出水は感心した。空閑のブラックトリガーと戦うという本題はからは少し離れてしまったが、出水からすれば、色んなトリガーと戦いたいだけであり、相手が小南でもなんら問題はない。
「俺も小南のカレーは一度食べたかったんだぜ!空閑が『この世界に来てから一番うまかった。』ってさ!」
太刀川に調子を合わせる出水
「ま、まぁ?そこまで私のカレーが世界最高で完全だって言うなら、そこまで頼むなら作って上げないことも無いけど……感謝しなさいよ!」
そこまで言ってないけど。と太刀川と出水は二人で目を合わせた。
「で、小南は本部でなにしてんの?」
空閑もそうだが支部の人間が本部に来ることは基本的にはよくあることではない。
「なんか、支部じゃ出来ない手続きらしいわ。学校の関係よ。」
ぴらぴらと書類を振りながら言う小南。出水の通う高校と違って、小南が通う高校はボーダーと提携した高校ではなく、一般の、しかもお嬢様学校と呼ばれる学校だ。任務で学校に通えないことも多いので色々手続きが必要なのだろう。
既に三人は並んで歩いて、玉狛支部に向かっている。
「小南ってさ学校ではオペレーターってことになってるんだろ?」
「なっ!なんで知ってるの!?じゃなくて!そんなことないわ!おしとやかキャラを維持するためにオペレーターやってるなんて嘘は吐いてないわよ!」
ボーダー最高の破壊力を誇るアタッカーがよくもまぁ……と出水は思ったが、女子には女子の世界が有るのだろう。
「お前の攻撃力は恥じるような、中途半端なものじゃないだろ?」
と、どこか師匠風のやけにカッコいいことを太刀川。
「お前って言わないでっ!何様よ!それに女子に攻撃力なんて必要ないのよ!」
何様って太刀川は小南より3才も年上のはずなので、問題はないはずなのだか、太刀川に優位に立たれるのは小南の気持ちが許さないらしい。しかし結果として嘘をついてることを認めてしまった。
「そういえば小南は空閑のブラックトリガーを見たことあるのか?」
太刀川もこれ以上、小南に騒がれることがめんどくさくなったのか素直に『お前』ではなく『小南』と呼んだ。
「あるわよ。それがなに?なにか企んでるのね。私から情報を集めようとしたって無理よ。」と胸を張って言う小南。この頭がばがばな感じが逆に可愛いと太刀川も出水と感じだした。
「小南は頭がばがばで可愛いな。」
「かっ、可愛い!?私が!?そ、そんなの当たり前でしょ!」
「太刀川さん普通に言っちゃうんだ……で小南は誉められてると思ってんの?」
規格外のやり取りに出水はもう訳が分からなくなってきた。
照れ隠しにムキになって話を戻す小南。
「遊真のトリガーの話でしょっ!黒くて服みたいな感じよ!強いわ!」
「なんだそれ。適当か」
そして結局、空閑のトリガーの話をしてしまう小南のがばがばっぷりである。「それ以外になにがあるのよ!」とか騒いでる小南からのブラックトリガーの情報は諦めて、出水は先ほどからの疑問の確認をする。
「小南ももしかしてこのまま歩いて帰るの?」
素直に疑問だ。出水は聞いてみた。
「そんなわけないでしょ。馬鹿じゃないの?何キロあると思ってるのよ。レイジが迎えに来るわよ。」
「って言われてますよ。太刀川さん」
玉狛まで歩こうとしているのは出水ではなく太刀川なので、馬鹿呼ばわりされたのは太刀川ということになる。
「そうだな。俺は馬鹿だった。よし俺たちもレイジさんに乗せて行って貰おう。」
「それ賛成!」
やっぱり歩くの無理だと思ってたんじゃん!と出水は思ったが、絶対に玉狛までは歩きたくないので素直に太刀川に賛同する出水。
「まぁ運転するレイジが良いなら良いんじゃない?別に私のカレーを食べに来るくらいなら誰も文句言わないでしょ。」
「だなっ!あー小南のカレーが楽しみだー!」
白々しいことを言ってみる出水。そして出水の予想通り何度でも照れて赤くなる小南。
「あれ、鋼じゃないか?」
30mほど先から走ってくる影が顔見知りのボーダー隊員だと太刀川は気づいた。まだここは警戒区域内なので、この辺りををうろつくのは隊員だけだ。遠目の印象でも人違いではないだろう。
「ですね。横の黒いのは影浦っすかね?めずらしー」
出水は、村上が本部内の訓練施設で筋トレなどをしているのもよく見かけるが、影浦のそんな姿は一度だって見たことがない。
目の前まで来たら立ち止まり「お疲れ様です」と礼儀よく挨拶をする村上と日光がうっとうしそうに眉をひそめて挨拶もしない影浦。
「めずらしーな。影浦がジョギングなんて。」
「ほっとけ。こいつに無理矢理ひっぱりだされただけだ。二度とやるか。」
「そうなのか……カゲ……俺はてっきり……身体を動かせば気分も少し晴れるかと思ったんだが……」
「ちっ。別に俺は気分が曇ってるわけじゃねーよ。」
村上の控えめで友達思いな態度にすっかり牙を抜かれてしまう影浦。ボーダー屈指の狂犬、影浦も優しさという感情を向けられてしまうと、噛みつくに噛みつけない。
と、同時に痒いような感情を受信して、その方向をみると、村上と影浦のやり取りをにやにやと生暖かい目で見ている太刀川、出水、小南である。
「なんだ!文句あんのか!あぁ!?」
「いえいえ。文句なんてありませんことよ。友達思いの影浦さん?」
「殺す!今すぐトリオン体に換装しろ!」
茶化す出水とキレる影浦。
「おいおい。カゲ落ち着け。ところで太刀川さん達はこんなところでなにを?」
なだめるつつ話を逸らす村上。
「玉狛に行って小南のカレーを食べる。ついでに小南や空閑とも模擬戦をする。」
実はついでの方が本題で、しかもブラックトリガーのことは隠して話す太刀川。
「カレー?よくわかんねーが、あの白チビとやんのか?」
影浦は先日ランク戦において空閑の所属する玉狛第2をコテンパンに叩きのめしている。その前は村上が惜敗を喫してもいる。村上、影浦ともその話に引かれる部分があるのだろう。
「太刀川さん。出水、小南、それは俺とカゲも参加しても構わないんですか?」
「おい!誰がそんなこと言った!俺は帰るぞ!」
「照れるなカゲ。空閑に興味あるって言ってたじゃないか。」
「くっ、それはそうだが……空閑にじゃない!空閑の戦い方にだ!」
「一緒なことだろ。」
細かいことにこだわる影浦だが、本心では行きたい気持ちが有るのだろう。完全に否定はしなかった。
そしてそれを許可する立場にある小南はというと……俯いてわなわなと震えている。そしてがばっと顔を上げたかと思うと、太陽のように輝く笑顔で、
「あんたたちまで!そんなに私のカレーが食べたいのね!いいわ!何人でもかかってきなさい!世界最高で完全なカレーを味わわせて上げる!」
と小南が言った。
太刀川、出水はやれやれといった表情。村上と影浦に関してはポカンとして何が何やらという表情だ。
「なによ!あんたたちその顔は?私がそんなに心の狭い女だと思った?」
「そ、そうか、カレーまで頂けるのか。ありがたいぞ小南。」
「ちっ……」
村上と影浦も余計なことを言うまいと思った。
ぶろろろ……とレイジの運転する車の音が聞こえた。太刀川、出水、小南、村上、影浦の5人はそれぞれの思惑を抱いて玉狛支部へ向かう。
今回はそのうち玉狛での続きの駄話を作りたいと思っています。
小説を書くのはこれが初めてですがなんかテンポが変な感じがします。地の文が多すぎる?ご意見頂けたら幸いです。