スーパーロボット&宇宙戦艦大戦MW   作:ケット

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再会と拉致

〈スタートレック時空〉

「ここは……」

 目を覚ましたアムロは、自分がいまだにνガンダムのシートに座っていることに驚いた。

 ディスプレイを見ると、まだサザビーの脱出ポッドをつかんだままだ。

「なんて夢だ」

 吐きそうになるのを必死で押さえる。

「アムロ!アムロ、応答しろ!」

 シャアからの通信に、

「シャア!生きていたか。ここはどこだ……ううっ」

「あの夢も共有しているな?ここは、宇宙世紀の、我々が生まれ育った宇宙じゃない。別の時空にまで跳んでしまったんだ」

「くそ、やはりそうか……とにかく、こちらの生命維持装置だけでは長くはもたないな」

「あきらめるな!周囲を見回して生存可能な惑星を探せ、SOSでも打て」

「おまえはあっさり諦めたんじゃないか、人間を」

 苦笑するアムロに、シャアも苦笑しつつ

「争うのは助かってからだ!」

 と怒鳴る。

 

『宇宙……そこは最後のフロンティア。これは宇宙戦艦エンタープライズ号が、新世代のクルーのもとに24世紀において任務を続行し、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求め、人類未踏の宇宙に勇敢に航海した物語である……』

「前方に生命反応あり、艦長。昔の地球の日本語および英語による救難信号を発信しています」

「奇妙な形の宇宙船を発見しました」

「多数の波長で短3、長3、短3のパターンも繰り返されています、艦長」妙に表情に乏しい士官も報告に加わる。

 禿げ頭の艦長が真剣に考え始めた。

「モールス信号とは懐かしいもの。艦隊の誓いによればワープ以前の文明とは接触してはならない。だが、彼らがワープ技術を持っていないと証明することもできないな?副長」

「地球の古代語を使っているという時点で、地球と関係ないワープ以前文明の可能性はないのでは」

 ライカーが返しつつ、とにかく膨大な艦隊法規や判例を調べ回している。

「現在位置の周囲七十パーセクにわたり恒星は存在しません、艦長」データがいわずもがなの報告をする。

「ならば何らかのワープか、とんでもない方法でここにいるわけだ。もちろん、別の文明に接触したときは情報を収集するのもエンタープライズの任務の一つだ。なにより、ずっと昔の海に浮かんでいた頃から、救難信号を無視することは“船”そのものにとって最大の罪悪なのだよ、データ。ラフォージ、即刻乗員を転送し治療、船を回収し分析してくれ」

「アイ、サー」

 

 アムロとシャアは、いきなりシートに座ったままの体勢でどこかの病室に転送されて驚いた。

「医療処置開始します」

 機械の無機質な声、それ以上に無機質な士官の目と声に一気に不安が高まる。

 その脇にいる温かい目をした女性、そして……

「うわっ!……すまない」

「ああ」

 アムロが驚くのを見てシャアは自分を抑えた。人間に近い形ではあるが、明らかに違う……多数の畝のような盛り上がりが顔面にある、巨大な士官の姿。

「クリンゴン人を見たことがないのね?」

 もう一人の女性が優しげな声で語りかける。

「チームによっては異星人に接触したことがあるものもあるが、我々はない……あなたがたは?」

 中央の、頭に毛がない男性が軽く一礼した。

「USSエンタープライズEにようこそ。艦長のジャン=リュック・ピカードです」

「地球連邦軍ロンド・ベル所属、アムロ・レイ大尉です」

 シャアは自己紹介をしようとして一瞬迷い、

「現在はアムロ大尉の捕虜であるシャア、本名キャスバル・レム・ダイクン」

 と胸を張った。

「捕虜?」

「はい、彼は連邦に対して独立戦争を挑んだ勢力の長です。私は二度目の小惑星落としを阻止して彼を捕虜にし、直後なんらかの現象でここに転送されたようです」

 精いっぱいの報告をする。

「さてこちらのクルーも紹介しよう。副長のウィリアム・ライカー、データ、ビバリー・クラッシャー、ジョーディ・ラフォージ、ウォーフ、ディアナ・トロイ」

「あらためて救助を感謝します、ピカード艦長」

 アムロはややふてた感じ、シャアは完全に自分を客観的に見ているようだ。

「まず聞かなければならないのだが、あなた方はどこの星から?」

「地球です」

 アムロの答えにシャアが慌てて

「未確認情報だが、並行時空の地球だろう」

 と補足した。

「われわれには艦隊の誓いという法規がある。それはワープ以前の文明との接触を禁じているのだ……あなたがたの故郷がどこであれ、ワープはできたのか?」

 アムロが一瞬口をつぐんだ。シャアが一瞬迷い、

「別働隊でワープ能力がある艦が研究されており、これまでの同盟者にフォールドやボソンジャンプなどができた船があった。銀河の反対側で大規模な作戦をしたこともある」

 そう答える……ピカードとディアナ・トロイがわずかに視線を交わす、嘘ではない、と。

「ではあなた方は、連邦未加入の別文明として扱って良いだろうか」

「私に外交権限はありませんが、そう考えていただけばよいでしょう」

「アムロ、元の地球に接触してから正式の裁判を要求する!」

「そのための努力は惜しまないさ。わたしたちがどのようにしてここにいるか分からない以上、簡単に送ってくれと言うわけにもいきませんね」

 ピカードにやや苦笑気味に話しかける。

「そう焦らないで欲しい、アムロ。もちろん難船者を救助し、そしてできるなら故郷に送り、無理ならば我々の地球に送って生活の基盤を用意するのは我々、宇宙船以前の海上船からの義務だ。ロビンソン・クルーソーが救助されるたびに次の仕事の資本をもらったように。それに並行時空からの転送も実に興味深い事象であり、我々はそれを調査するのが本来の任務でもある」

「失礼します、艦長」

 と、ラフォージが話しかける。

「彼らの宇宙船の回収作業が終了しました。これから分析に入ります」

「さて、落ち着いて治療を受けるがいい。精神面ではカウンセラーのディアナ・トロイに何でも相談することだ。もちろん私や他のクルーにもいつでも何かあれば連絡してくれ、宇宙の旅人仲間よ」

 ピカードが一礼して、ラフォージやライカーとドアに消えた。

 

「体調はどうだ?」

 ライカーがアムロに話しかけた。

「はい、ありがとう。νガンダムを見に行っていいでしょうか?」

「ああ、あの妙な……人間のような形をした宇宙船か?」

「モビルスーツですよ」

「今ラフォージとデータが分析しているな。八番デッキだ」

「ありがとうございます。それにしても素晴らしい艦ですね」

 ライカーがひげ面をほころばせた。

 巨大な艦内工場で、データが振り向いた。

「アムロ大尉、お元気でしたか」

「アムロでいいよ、データ。君はアンドロイドか?」

「はい」

「人間よりずっと優秀ですが、紛れもなく人間です。大切なクルーです」

 ラフォージがデータの肩を抱く。

 アムロは微笑み、

「νガンダムは?」

「こちらです。人間型の宇宙船というのが信じられませんよ。どう考えても不合理です」

「論理的ではない、とバルカン人なら言うでしょうね」ラフォージが苦笑した。

「乗ってみればわかるよ。手足がないものより、運動性も汎用性もずっと高いんだ。シャア!」

「アムロか」

 再建中のサザビーのそばで色々指導していたシャアが振り返った。

「設計図が残っていたからな、作り直してもらっている」

「そうすることによって、もっともうまくあなた方の技術を学べます」

「もちろん救助していただいたご恩もありますし問わないが、本当ならこちらの技術を差し上げるのだから代金はもらわないと」アムロが微笑みながら肩をすくめたが、

「代金?」ラフォージが首をかしげた。

「ああ、彼は貨幣経済文明の世界から来ているのでしょう。技術・物資などすべて金銭で換算される文明系が、フェレンギをはじめアルファ象限でも」データが語りだす。

「そういうことか、24世紀には貨幣なんてもうないですよ」ラフォージが苦笑した。

「何!?」

「どういうことだ」

 シャアも驚いた。

「レプリケーターとホロデッキはもう?」

「はい」

「実に便利だな」

「あれがある以上、惑星連邦の住民は誰もが、欲しいものも娯楽も好きなだけ手に入れることができます。貨幣など無意味です」

 二人とも呆然と顔を見合わせた。

「なぜ……我々の世界は、そうならなかったんだ?」

 アムロがシャアに聞いたのか、独り言か。

「レプリケーターの有無は関係ない。小型核融合炉と木星の無限の水素資源があるんだ、木星往復船団・スペースコロニー・小型核融合炉の増産に力を集中していれば、人類全員に限りない富を与えることは可能だった。違うか、シャア!」

「我々は、その力のすべてを戦争に向けることを選んでしまった。外宇宙に出ることもせず……だから私は、人類をスペースノイドに脱皮させようとしたのだ!」

「スペースノイド?」

 データが不審がった。ラフォージはもう作業に戻っている……サザビーの右腕が胴体にとりつけられた。

「我々の世界での、そうだ宗教みたいなものだ。宇宙に出た人は地球にとどまる人を恨み、地球にとどまる人は宇宙に出た人を蔑み恐れ支配しようとした」

「その結果、我々の世界では宇宙時代になってからも内戦が絶えなかったのさ」

「私たちの時間軸においても、大規模な第三次世界大戦が起きています。2063年4月5日にコクランによるワープ実験が成功し、それを観測したバルカン人とファーストコンタクトを行って宇宙時代が始まるまで」データの正確きわまりない話が延々と続くが、アムロもシャアもそれを中断しようとはしなかった。知らないことが二人とも多すぎる。

 

「どうぞ」

 艦長室のドアが開き、アムロとシャアが入ってきた。

「ここでの暮らしには慣れたかね?不自由がないといいのだが」

「いえ、前の時空では想像もできないほど素晴らしい生活です。ありがとうございます」

 答えるアムロの態度は、なんとなくだが軍人らしい態度になっている。ピカードの威厳がそうさせるのか。

「お呼びだてしてすまない。座ってくれたまえ、これは私の実家で作っているワインなのだが」

 ピカードが静かに、とろりとしたワインを注ぐ。

 宇宙の男同士の、沈黙の中での豊かな交歓が続く。

 ふと、アムロとシャアがテーブルに置かれた三つの笛に目を留める。

「これは?」

「そうそう、用件というのはこれでね。あの日、私はエンタープライズDでパーヴェニアム星系を探査していたとき、誰が打ち上げたとも知れぬ人工物を発見した。異星文明・生命の探査も我々の任務で、そのプローブを調査したのだが、突然シールドを突き通った何かを浴び、私は意識を失った。

 気がついたのは民家のベッドで、一人の女性が私を介抱し、ケイミンと呼んだ……」

 アムロもシャアも、皆まで聞かずとも涙ぐんでいた。

「というわけだ(TNG123:The Inner Light:超時空惑星カターン)。そのプローブにこの笛が入っていた」

 ピカードは笛を手に取り、曲を吹いた。

「あなたがたがもとの時空に帰れる日が来るなら、科学技術情報だけでなくこの笛と曲を、どうか持ち帰って欲しい。カターンの、レシクの人々が存在した証を、たとえ今私がいる時空が滅びたとしても別の時空で伝えて欲しいのだ」

 アムロとシャアはためらわず、自らの前に置かれた笛を手にした。

「レプリケーター製ではないですね」

「ああ、ケイミンとしての、鍛冶の技術で作ったものだ」

「必ず」

 三つの笛の音が重なり合い、響く。二つは始めは稚拙に、だんだんと上達して。

 

「失礼します。カウンセラー、予約の……失礼!」

 シャアが飛び出し、数分後ライカーが恥ずかしげに出てきた。

「やあ、失礼した」

「いえ、お気になさらず……(人のこという資格はなし)よろしいでしょうか?」と、シャアが改めてチャイムを鳴らした。

「お恥ずかしいところを。さて、体調はいかがでしょうか?あなたが起こした反乱についてもうかがいました」

「アムロですね」

「いえ、皆様が乗ってこられた機体にあったデータベースからも。ああそうそう、あのデータベース内の歴史を士官教育などの資料として使わせていただいてよろしいでしょうか?」

「もちろん、ご自由にお使いください」

 シャアの表情は揺るがない。

「ご存知と思いますが、私にはテレパシー能力が少しあります。あなたがしたことは間違っているとも正しいとも言えません」

「!!!」

「誰にもあなたを、法的にはともかく本当に裁くことなどできません。アムロさんも、私も、艦長も、そしてあなた自身も」

「……」

「遠い未来の歴史でどんな評価を受けるかはわからないでしょう?さて、ではあなたは自身はどうなれば一番幸福でしょうか?」

「……考えたことがなかった。いつだってそれ以前に、色々な目的があった。自分の幸福など問題外、目的あるのみだった。それにあまりに多くの人を、私は殺した。そんな私に自分の幸福など」

「ここで、すべての過去を忘れて再出発することもできるのですよ。それを選びさえすれば」

「そんなことは許されていいはずがない!」

「では、宿題です。今まであなたがしてきた選択を思い出し、どんな別の選択があったか、それをあなたはどんな認知のゆがみによって見ることができなかったかを考えてみてください。本当にあなたが何を求めていたか」

「その課題を考えたのはピカード艦長ですか?」

「はい。あなたもある意味テレパシーがあるようですね。ならばそれを、自分にも向けてみてください。また来週のこの時間に」

 トロイはにこやかに笑い、シャアを送り出した。

 

 ピカードと話していたシャアが、突然「敵だ」と、警告した。

 同時に「アムロから艦長!警戒を助言します」と通信。

「センサーには敵影なし、いい加減なことを言わないでください」とラフォージ。

 ピカードは黙って、指先を動かしただけ。沈黙の数秒後、艦を衝撃が襲った。

「ロミュランのディスラプターです。シールドを上げていたおかげで助かりました」

 データが報告し、その指がコンソールをすべる。

「警報!」

 ピカードの声。ラフォージとライカーが驚いた顔を見合わせる。

「敵は見えないのか?」シャアが叫んだ。

「ロミュラン艦には遮蔽装置がある、どんなセンサーでも見えないんだ」

「νガンダムで出る!」

 アムロの声。

「おい、ちょっと……」

「待て、それは外交上まずい!新兵器の無断開発を疑われる!」

 ライカーが叫び、

「それに文明レベルが違うんだ、とても戦える相手じゃない」

 ラフォージも怒鳴ったが、もうアムロは飛び出していた。

「2-2-6だ、回避後撃て!」

 シャアが叫ぶ。

 ウェスリーが迷ってピカードの目を見て、その通りに動く……飛ぶ光子魚雷、虚空に確かな手ごたえがあり、鳥が翼を広げたようなロミュラン艦の姿が浮かぶ。

「遮蔽装置があるのに、敵の位置がわかるのか?」

 ライカーが驚いた。

「すまない、指揮系統の混乱を招いてはいけないことはわかっているのだが」

 シャアが謝罪する。

 浮かび上がるロミュラン艦を、フィン・ファンネルが集中攻撃する。

「あの機体にシールドはない、反撃されたら終わりだラフォージ!強制転送を」

 ライカーが言うが、

「待て」ピカードが強い、だが割れない声でブリッジを満たす。「カウンセラー」

 トロイがピカードの隣に移動し、シャアにうなずきかけた。

「反撃が」

 対空砲火の嵐を、νガンダムは簡単にかわし、あるものはバズーカ弾、あるものはファンネルのシールドで相殺する。

「なんて腕だ!あの並行時空人には予知能力があるのか?」

 ライカーが小さく叫ぶ。

「なんて運動性だ。不合理に見える人型機にそれほどの性能があるとは」

 ラフォージもつぶやく。

「少尉、3-2-6、光子魚雷準備」ピカードの声、そのたびにトロイの額が微妙に引き締められる。

 エンタープライズも鮮やかに攻撃を回避し、νガンダムを追うロミュラン艦に光子魚雷を叩き込む。

 ライカーが微妙に、ブリッジの隅で集中しているシャア、トロイ、ピカードの顔をかわるがわる見て、うなずく。

「敵、撤退します」

 ライカーが告げたが、

「警戒を怠るな!後方スキャン集中」

 ピカードが再び叫び、データが冷静な声で敵の接近を告げる。

「撤退した敵も反転!はさみうちです!」

「アムロ機があちらに!援護しろ、フェイザー斉射!」

 わずかにνガンダムをかわすようにフェイザーの嵐が飛び、それで弱ったシールドにバズーカがぶちこまれる。そしてフィン・ファンネルのビーム砲が別の角度からシールドを弱め、そこにエンタープライズのフェイザーが刺さる。

「ウォーフ、部隊を率いて転送室へ!」

 大破した敵を尻目に、ファンネルがもう一隻を襲って大量の弾を注ぎ、そこに完璧なタイミングで光子魚雷が命中する。また宇宙に大輪の花が散る……

「はあ、はぁ……」

 トロイが息を弾ませる。

「カウンセラーを休ませてくれ」

 と、ピカードがライカーに告げ、そのままシャアに目礼、シャアも答礼した。

「ラフォージ、アムロ機の回収と修理を。ドクター、待機してくれ」

「ウォーフからエンタープライズ、制圧完了!」

「よくやった、修理可能性は?」

「ないです」

「ならば自爆をセットせよ。転送」

 ピカードが指示を出し、服のしわを引き伸ばした。

「一体今回の奴らの目的は?」

 戻ったライカーが独り言のように言うと、ピカードにささやきかけた、「シャアの指示をトロイに中継させて?」

「すまなかった」

「いえ、承知しています。彼らの実力が本物であることも、命令系統が最優先であることも」

 ピカードに肩を叩かれたライカーの視線に、シャアは黙って軽くうなだれた。

「敵の目的が判明しました。隠していた遺跡があちらの白色矮星のそばにあり、我々がそれに気づくことを防ぐためのようです。遺跡の存在を公開しないこと自体が最前の協約に反していますし、いつもどおり死人に口なしを狙ったものかと思われます」

 ウォーフが報告した。

「それほど重要な遺跡か?」

「いつでも発進できますよ」

 

 華麗な星雲の中に、ひっそりとひそむ白色矮星と、その傍らにある不毛の惑星。

「彼らは探査できないのか?」

「ある範囲よりロミュラン船は近寄れないし、遺跡ごと破壊することもできないので誰も近づけまいとしていたようです」とウォーフ。

「艦長、一種のシールドのようなものを感じます」

 ウェスリーがつぶやいた。シャアとアムロがうなずく。

「はい、強力なレムベレルド線によるシールドが、星系全域に張られています。これ以上の接近は船を損傷する危険があります」

 データが静かに警告する。

「艦長!敵の増援が!」

「七隻、完全に囲まれました!」

 遮蔽さえ外したロミュラン・ウオーバードの群れ。

「それに、見たこともない敵も多数!」

 それは黒の月が量産した突撃艦とビッグコアだったが、そのことを誰が知ろう。

「くそう、到底」

「サザビーで出る!」

「νガンダム、整備完了!ゲートを開けろ!」

 シャアとアムロが飛び出す。

「敵は多い……一か八かだ、ミスタ・クラッシャー、反撃後あの星に向かえ!」

「え……アイ・サー!」

「シールド60%にダウン」

 データが静かに告げる。

「エンジン焼けつきます!」

 ラフォージの、静かにあせった声が響く。

「並行時空の人は?」

 ライカーがνガンダムとサザビーの、鮮やかに敵を翻弄する姿を認めた。

 まるでダンスのように息を合わせ、ファンネルもすべて使いつつ。

 サザビーのメガ粒子砲の一撃で、ロミュラン艦の一つのシールドが揺らぐ。そこにすかさずライカーが光子魚雷を放ち、そこにさらにフィン・ファンネルのビームが注ぎ込まれ、大破に至る。

「いまだ!一気に降下する!アムロ、シャア、戻れ!」

 ピカードの命令とともに、νガンダムが引き返したがサザビーはさらに前進する。そこに大量のディスラプターが注ぐが、アムロがフィン・ファンネルで張ったシールドに防がれる。

「何やってんだシャア!戻れ!」

「アムロ!貴様は戻れ、私は……」

「ピカード艦長を、クルーを殺す気か!自分のくだらない罪悪感でエンタープライズを危険にさらすな!」

 アムロが叫び、νガンダムがサザビーをかばってディスラプターに左腕をシールドごと吹き飛ばされる。

「あの星を包んでいるシールドを解析しろ!逆位相をぶつけるんだ!」

「やってますが、なんて重層シールドだ……ロミュランに破れなかったのも無理はない……」

 ラフォージの呆然とした声。

「言語の問題かしら?なら」

 トロイがラフォージの傍らに立ち、コンピューターのパネルに指を躍らせる。

「転送、同時に反転!」

 最後にアムロがバズーカを放ち、ファンネルからのビームが乱れ飛ぶと、νガンダムとサザビーが消えた。

「二人とも無事か?」

「はい、ご迷惑を」

「私は……昔、アムロを追っていたとき、部下が大気圏突入能力をないのを知りつつ帰還不能になるまで戦い続けるのを見殺しにしたことがある」

「ああ、あの時はガンダムの大気圏突入フィルムに助けられたが……おまえの部下は……」

 アムロが責めるようにシャアを見る。

「そんなことは、償えることじゃない。逃げてはいけない」

 ピカードが一喝し、

「艦長も、この私もそのような重荷は背負っている。でも後悔は一つもしてない」

 ライカーがより強い口調で。シャアがうなだれる。

「艦長、レムベデルド線シールドに突入します」

「大丈夫です」

 アムロが突然つぶやいた。

「ああ」

 シャアも同調する。

「レムベデルド線シールド、船体を」

「あ!大丈夫です、シールドが瞬間的に弱まって!」ラフォージが言うと、すぐ「七番修理急げ、強制冷却!」忙しく働き始める。

「あの遺跡には、一体何があるんだ……」

 ライカーが振り返りながら前を見る。みるみるうちに、分厚い大気に覆われた惑星が迫る……

「敵、追撃できません。一隻がシールドで破壊されました」

「でもこのままではここに閉じこめられたままです」

「では遺跡を調査しよう。転送準備。ウォーフ、一体を編成。データ、カウンセラー、アムロとシャアも来てくれ」

「私はMSで降下します。大気圏突入ぐらいはできますよ」

 アムロがすばやく飛び出した。

「よし、転送準備。副長、ブリッジを頼む」

 

 そこはなんといえばいいのだろうか。石のようであり、動物の内臓の中のようであり、千年を経た古木の中のようであり、磨き上げられた金属のようでもあった。

 ただいるだけで発狂しそうな、うごめく壁。そして自分の記憶の中の、すでに死んだ人があちらこちらに出てくる。万華鏡のように世界が崩れる。

 あまりに巨大。νガンダムが普通に歩けるほど。

「なんてひどいところだ」

「それにしてもMSというのは、こうして並んで歩くとすごいな」

「少なくとも戦闘になれば実に頼もしい存在だ」シャアが見上げる。「真後ろには位置するな、重金属の推進剤噴射を浴びると命に関わるぞ」

「歩けるというのが信じられないな」

「それより、この遺跡は一体」

 ウォーフが不快げに鼻を鳴らし、

「トリコーダーが全く解析できません」

 データが静かに報告する。

「感覚を無視しろ。目をつぶって歩いたほうがいいぐらいだ。考えず、動物みたいに自分の心を落とすんだ」

 ピカードの言葉にシャアが素直に従ったようだ。

「こっちだ」

 シャアが向かう先に、突然巨大な空間が広がる。あまりに巨大な空間。

「なんて広い……気をつけろ!」

 叫んだ瞬間、向こうから巨大な影が歩んできた。

「でかい、敵か?」

「敵だ。巨大な敵意」

 アムロが言うとライフルを構える。突然出現した巨人と、激しい撃ち合いになる!

「シュウ・シラカワ!なぜここに」

「本当か?奴は死んだはずだ、だが確かにこの気配は奴だ!」

「どういうことだ?」

 とりあえず物陰に隠れたピカードが聞く。

「俺たちの時空で前に戦った敵だ。死んだはずなのに」

「だがここにいる、そして戦えるのはアムロだけか」

 斬り合いに変わり、νガンダムのシールドが斬り飛ばされる。そして二刀に切り替えたνガンダムと、グランゾンを思わせるが微妙に異なる、生物であるように見える怪物が激しく切り結ぶ!

「シュウ・シラカワ!なぜこんなところで戦わなければならない!」

「………試す」

「意味もなく戦いたくはないんだ!それにお前はもう死んだはずだ、あの世に帰れ!」

「なんという機動力だ、これがMSの戦いか」

 ピカードが呆れながら、必死で手持ちフェイザーで援護射撃をする。

 そこにエンタープライズから通信が入った、敵艦隊に襲われて危機的な状態だ、と……

 νガンダムが追い詰められたとき、シャアの手にしたフェイザーが敵巨人のかかとを直撃、その隙にフィン・ファンネルが背後から攻撃し、ビームサーベルがシュウ・シラカワの亡霊を切り捨てた。

「……成仏したようだな」

 シャアがつぶやく。

 そこに突然、黒檀と黄玉に彩られた奇妙な鎧を着込んだ男が虚空から出現した。

「Q。またお前か……」

 ピカードがうんざりしたようにつぶやく。

「Q?誰のことかな?セピリズと呼んでくれ。多元宇宙に関する戦いで戦士を案内するときはその名だ」

「どうでもいいが、今度は何をたくらんでいる」

「きさま、死んだ戦士をもてあそぶとはこの外道!」

 シャアが叫んだ。

「たくらむ?まあとにかく、アムロ・レイ。この剣を抜け」

 と、Qが指したそこには、MSサイズのとてつもなく巨大な剣の柄が、奇妙な形のこれまたとてつもなく巨大な岩に深く刺さっていた。

「これを抜かなければ、君たちの艦は助からない。いや、多元宇宙そのものが暗黒に食い尽くされるだろう。アムロ、君の故郷の時空も。あの戦士の霊は、自分から君たちを試したいと志願して一時よみがえったんだ。僕が恨まれる筋合いはないねえ」

「どうするんだ、アムロ!それはものすごく危険なものだぞ!」シャアが恐れおののいて叫んだ。

「確かにこれは、純粋な善ではない。おれにもはかりしれないほど巨大な力、そして善と悪両方のとてつもない力を感じる。

 でも、ここで抜かなければエンタープライズのみんなが助からないし、Qだかセピリズだか知らないが、あんたの言葉を信じれば俺たちが出発した宇宙も含めたくさんの宇宙が、たくさんの人々が死ぬかもっと悲惨なことになる。なら、抜く!」

 νガンダムが、奇妙な長い柄に手をかけた。そのまま引き上げる……大型MSであるνガンダムの身長の倍ほどもある長い、美しく黒い幅広の刀身が岩から抜き出されていく。表面に刻まれた無数のルーン文字や未知の回路図のようなものが次々に赤い光を放つ。

 鋭い切っ先が抜けた、その瞬間剣が刺さっていた岩が恐ろしい力で輝く。νガンダムも黒い稲妻のような光に包まれる。

「うわーっ!」

 アムロの悲鳴。

「アムロ!」

 シャアが叫んだ、その目の前に、何かとてつもないものが出現した。

「これは……」

 ピカードがうめく。

 そこには、黄金に純白の筋で彩られたヘビがいた。太さだけで10m近く、長さはどれだけだろうか。その一部から、まるで鳥のような純白の翼と、小さな手足があり、頭部にはたてがみと小さな角があるのがヘビとの違いである。

 そのあまりの美しさに、皆はただ呆然と見守っていた。

 龍から、無数の音楽が流れてきた。あまりに美しく、深く、人の認識力を超えた音楽が。むしろ苦しみつつ、アムロは首から下げたレシクの笛を手にして吹き始めた。二つの旋律が絡む中、龍とνガンダム、剣から出る数多くの無限の光が絡み合い、踊る。

 巨大な龍が、まるで機械でもあるかのように分離変形し、νガンダムに合体していく。

「ああああああっ!」

 アムロが叫んだとき、νガンダムも変貌していた。

 一回り大きく、黄金と白で美しく彩られ、全体に曲面が多くより生きているような印象を受ける。

 バックパックと左腕のビームサーベルは失われており、左腕には一回り大きくなった盾。

 右肩にはあの巨大な剣が背負うようにマウントされ、左の背にはほぼそのままだが、奇妙な印象を与えるフィン・ファンネル。

「さあ、行こうぞ……何億年ぶりかもしれぬし、昨日やも知れぬ、時など無意味な眠りから覚めてまた戦いが始まるのだ!」

「さあ、君たちも戻るんだな」

 妙なコスプレをしたQがピカードたちに命じ、勝手に転送を始動させた。

「また、あれを見ることになるとはね」

 なぜか廊下で出迎えたガイナンが、不思議な目をシャアに向けてつぶやいた。

「心当たりでも?」

 ピカードが聞くが、

「さあ?ブリッジがお呼びですよ」

 かなり破壊されたブリッジに戻ったピカードたちを、すぐに敵の猛攻が襲う。

「シールドダウン!」

「デッキ破損、サザビー出撃不能!」

「生命維持装置のエネルギーも入れろ!フェイザー全方位発射!」

 叫びながら皆が半ば死を覚悟していた、そのときに下からすさまじい輝きが吹き上がった。

「計測不能のエネルギーを探知」

「画面に出せ!」

 そこには超龍合体したνガンダムの姿があった。

 それが掻き消えたかと思うと、一瞬で敵艦の至近距離に出現して大剣をふるう。強力なシールドにもかかわらずの一刀両断!

 背から放たれたフィン・ファンネルがとてつもない速度で宇宙を駆け、その黄金に輝く航跡はまるで六つの頭を持つ龍を思わせる。そのあぎとと化したフィン・ファンネル本体から放たれる何かに大型艦が一撃で粉砕される。

「メガ粒子砲などではない、測定不能の兵器です、艦長。艦のトリコーダーの容量をオーバーしています」

 データが静かに計測する。 

 まさに鎧袖一触。ほとんど瞬時に敵が掃討される。

「なんて力だ」ピカードが呆然としつつνガンダムの転送を指示した。

 戻った瞬間、シャアが驚き、計器を注視した。

「艦長、さらに何かとんでもないものが」

 データがピカードを振り返ると、

「大規模な空間断裂があの遺跡を中心に起きています」

「全速!この宙域から抜け出せ!」

「無理です。あの断裂の速度は……」

 データのあくまで冷静な言葉をさえぎり、エンタープライズを激しい振動が襲った。

 

「こ……ここは……副長、艦の状態を報告せよ」

「死者はいませんが、重軽傷者三十……五名」

「ワープナセル破損、しばらくはワープ不能です」

 普通の艦の会話が続く中、シャアとアムロの声が同時に響く。

「「ここは、違うぞ!」」

「そう、違うわ」

 ガイナンも加わる。

「はい。クエーサーの地図に狂いがあります。ここは我々の時空ではありえません」

 データの報告に、ピカードたちの表情が凍った。

「Q!」

 ピカードが怒鳴った。一瞬宙にQが首だけ出し、

「この次に君が行くところの戦いも、多元宇宙の未来に関わるんだ、勝ってくれないと困るよ。ああ、勝てば帰れるから、多分ね。まあ、ボイジャーの旅に比べたらたいしたことないよ?じゃあ健闘を祈る」

 と消えた。

「Q」

「あん****……失礼しました、艦長」

 ウォーフがとんでもない言葉を言って、クリンゴン語に堪能なピカードににらまれた。

「一体、何に巻き込まれたんだ……戻れるのか、いつか」

「戻れるわよ、きっと。魂さえ盗まれなければ」

 ガイナンのつぶやきは誰も聞いていなかった。

 

「近くに恒星があります」

「助けなきゃ!」突然アムロが叫んだ。「あっちに、とても高い自己犠牲の気配がある」

「恒星周辺を探査します……内部への突入軌道に小型宇宙船があります。生命反応あり」

 とデータが報告する。これほどの事態にも何の動揺も見せず。

「早く救助しろ!牽引の上転送」

 ピカードの命令に、

「転送はやめろ!牽引し、徹底的に検疫しろ!」

 シャアが叫んだ。

「ああ、邪悪ではないがとんでもなく危険なのを感じるよ」

 とアムロ。

「もちろん検疫は徹底しないと。牽引は?」

「終りました。艦から2kmのところに隔離しています。シールド上げました」

「よし、まず艦首大型トリコーダーで分析。ドクター、カウンセラー、検疫と除染の準備を」

「はい、艦長」

「艦長、この宇宙船およびその乗員に、きわめて微細な、原子サイズの胞子状寄生生命体が観測されます。危険度S」

「厳重に分析、隔離せよ!乗員は救えないか?」

「困難ですが、やってみます」

「待て、気配としては……人格のかけらのようなものを、乗員に寄生している生命体にも感じる。できれば乗員とその寄生体、両方を分けた上で救助できないか?」

 アムロがデータに訴えた。

「危険がありますので、船外活動可能ドクターホロを利用します。この実験用ウサギを寄生生命体を保全するのに用いましょう」

 ビバリーが言うと、すばやく作業を続ける。

 数時間後……ビバリーがブリッジに。

「成功しました。患者の寄生は完全に除去成功、寄生生命体もウサギの脳に隔離しました。宇宙船も徹底的に除染しました」

「ありがとう。患者の容態は?」

 ピカードが微笑む。

「そろそろ起きる頃と思います、お会いになりますか?」

「もちろん。案内してくれ。ご苦労だった」

 ピカードが病室に向かう。

 そばかすだらけの、不思議と少年という印象の強い少女が、ビバリーが触れたときにぱっと目を開け、飛び起きた。

「なぜ……誰かが?みんな離れて!最大限の検疫隔離!」

 彼女の叫びは恐ろしい絶望の声だった。

「心配ないわ。徹底的に検疫、除染したから」

「そう、でも……シル、シロベーン!……そう、彼女は殺したのね……そうね、あなたたち人間にとっては彼女は汚染でしかない……」

「いいえ、ちゃんとあなたに寄生していた生物は除去し、ウサギに移して隔離しているわ」

 その言葉に、彼女の表情がやっと崩れ、大粒の涙があふれ出した。

「大丈夫。もう大丈夫だ……」

 ピカードが不器用に彼女の背中をなでる。そこに来たライカーが、報告書を渡した。目を通したピカードの表情が変わる。

「君に心からの敬意を……勇敢な探査、そして人々を助けるための偉大なる自己犠牲、まさしくわれら全員が範とすべきものだ」

 そういって敬礼する。

「大人としては、親と社会に対する反抗に一発お尻ひっぱたいてから、だけどね」ビバリーが笑う。

「敬礼なら私だけじゃない、シルも同じよ。シルは?早く惑星ノリアン、星図をちょうだい!ここに向かって」

「わかった。すぐ向かう」

「よかった……そういえばここは?あなたたちは?あたしたちの文明じゃないみたいだけど」

「ああ」とピカードは苦笑し、「ここはUSSエンタープライズE、私は艦長のジャン=リュック・ピカード。この艦は、どうやら別の並行時空出身なのだが、何らかの現象でここに宇宙と宇宙の壁を破って来てしまったらしい」

「並行時空!?」少女の瞳は丸く輝く。まるっきり、海賊船を見つけた少年の目だ。

「他にも別の並行時空からの客がいる。もしよろしければ、ノリアンによってからあなたをご両親のところに送り届けたいのだが」

「待って!おねがい、あなたたちと一緒に旅をさせて!別の宇宙も探検したいの!」

「い、いやそんなわけには」

「おちついて、あなたの名前は?」ビバリーが話しかける。もちろん彼女の名前は知った上でだ。

「コーティー・キャス。ちゃんと宇宙船の操縦だってできるし、ファーストコンタクト成功者……ううん、イーアに本当に最初に接触したのはあの勇敢な二人だけど。でもあたしにだって」

「あなたは未成年でしょう?もし旅をしたいなら、正式にご両親のご了承を取ることよ。このままあなたを別の宇宙まで連れて行ったら、わたしたちが誘拐罪に問われるわ」

 と、トロイが微笑みかけた。

「う~っ……とにかく、助けてくれてありがとうございます、ピカード艦長。何よりもシロベーンを助けるために、ノリアンに急いでください」

「もちろんだ。ゆっくりと休むといい」

 ピカードが立って、もう一度コーティーに敬礼した。

 

「ノリアンが見えてきました。通信も無理、転送も危険ですね」

「先にシロベーンを送って。彼女からイーアのみんなに連絡して、人間と接触するときに注意すべきことを学んでもらうから」

「わかった……ウサギ一匹、転送」

 その後イーアドロンとの接触は成功し、シロベーンも回復して繁殖欲を制御する方法を学ぶ。

「じゃあ、また一緒に旅しようか、シル」

「はい、大好きなコーティー」

「それより徹底的に汚染除去!一片の胞子も見逃すな、あのボーグの攻撃を思い出せ、一片のドローンからあれだけの被害が出たんだ!」

 ライカーが強く言う。

「さて、ワープ8でコーティーの故郷へ、発進」

 コーティーと両親の再会、そして彼女がどう家族や彼女を心配する司令官を説得して再び旅立つ許可をとりつけ、小型宇宙船にシロベーンの名を改めて与えられて旅立つことになったかはあえて描写しまい。

 そして、ずっと未来の図書館にあった本に、彼女の生還についての章がなかったことについても……

「ではお嬢様はお預かりします。もし我々の時空に帰ることができたら、責任を持ってお嬢様は艦隊アカデミーに推薦しますし、もし自由に時空の壁を破って行き来できるようになったならいつでも里帰りにお届けします」

「いや、コーティーは……死んだものと思っていた。だからこうして一目会えただけでもう十分だ。本当ならどこかに閉じ込めたい、でもそんなことをしたらこの子は……肉体は無事でも魂を殺してしまう。親として、忍びない、忍びないが……どうかよろしくお願いします」

「お父さん、お母さん、お姉さん……ありがとう。あなたたちに、もらい、ピカード艦長やアムロさんに助けてもらったこの命、決して無駄にはしません……どうかお元気で」

 そして、本来禁止されていた遮蔽装置を用い、密かに旅立ったエンタープライズEは時空裂の探査中、別の時空流に巻き込まれて……出現したそこでは、少し見覚えのある黒い無人艦に包囲されていた……

 

〈クラッシャージョウ時空〉

 クラッシャーに関する説明は毎回あるので略。3『銀河系最後の秘宝』直後。

「コワルスキー……」

 ブラックホールと化した星を見つめつつ、ジョウが悼んだ。

「くそっ!」

 リッキーが叫んだ。

「おまえが何を言おうと死んだもんは死んだんだ」

「なんだとーっ!」

 巨大なフランケンシュタインの怪物にも見えるタロスの言葉に、リッキーが激しく殴りかかる。タロスは無言、不動でリッキーの拳を受け止めた。

「やっちゃえリッキー!」

 恐ろしいほどの美少女、アルフィンが涙ながらにけしかける。

「ガガ……ぶらっくほーるカラ、奇妙ナ……」

 ドンゴが出した声は誰も聞いておらず、激しい振動が襲うまで不毛なウサばらしケンカは続いていた。

「何だこの振動は!」

「未知の光線です、ワープに似ていますが……」

「引きずり込まれる!このままじゃコワルスキーの後を追うことになるぞ!」

「エンジン出力限界、焼ききれる!ジョウの兄貴、助けてくれ!」

「いや、潮汐力は感じない……ワープした星と同じように、何かのシールドに守られている」

 ジョウが静かにつぶやいた。

 そして全員の意識が一瞬途切れ、そこには……黒い多数の艦とにらみ合う華麗な色の大型戦闘機、その背後の巨大艦と、そして少しはなれたところに円盤状の本体から奇妙な二本の棒状ナセルを突き出した艦の姿があった。

 

〈ギャラクシーエンジェル時空〉

「はさみうちか!どうする、タクト」

 レスターがつぶやいた、そのときココが叫んだ。

「他、エルシオールのすぐ近くに、未知の艦が二つ出現しました!この出現パターンはクロノ・ドライブではありません。全くの未知です!」

「また増援を出しただと!こしゃくな、増援もろとも叩き潰せ!」

 エルシオールの通信画面内で、レゾムが怒鳴り散らした。

「全くのアンノウン、皇国やこれまでのエオニア軍にあった技術と根本的に異なります」

 ココが相手にせず報告する。

「とにかくアンノウン二隻に通信!同時」

「はい、通信つなぎます。言語調整……波長、2044、11271……」アルモが必死で調整する。「通じました、…………USSエン……クラッ……ミネルバ、どうぞ!」

「トランスバール皇国近衛軍旗艦エルシオール指揮官、タクト・マイヤーズです」

「USSエンタープライズE艦長、ジャン=リュック・ピカードです。別の並行時空から、何らかの未知の現象で転送されたと思われます」

「クラッシャージョウ。人工ブラックホールによる超時空移送機を別の文明が作動させたのだが、その余波で飛ばされたようだ」

 三人の宇宙の勇者が、瞬時に互いを知る。

 一瞬の沈黙をタクトが破る。

「こちらの状態を説明しますと、オレたちが属するトランスバール皇国のクーデター騒ぎです。

エオニアという罪を得て追放された皇子が、どこかから謎の無人艦隊を率いて本星を壊滅させ、皇族をほとんど処刑し皇王位を宣言しました。

それに対して皇族唯一の生き残り、シヴァ皇子が脱出し、我々は皇子を護衛しつつ味方と合流すべく航行中です。

詳しいことはこちら、エオニアの演説を転送しますので聞いてください」

「頼む、敵はクーデターを起こし、無抵抗のトランスバール本星を攻撃し、民間人も大虐殺したし親族である皇族を皆殺しにした悪魔だ!ともに戦って」

 レスターが叫ぶのをタクトが制した。

「彼らは全くの外から来た、中立の存在だ。我々の大義など彼らには関係ない。感情的な言葉は馬鹿にされるだけだよ」

「公平な説明、敬服しました。我々はもとより並行時空より来た全く無関係の存在。また艦隊法規には惑星連邦に加入していない貴国に対する内政不干渉の原則があります。事が収まった後に並行時空の壁を破る探査の協力をお願いし、正式な外交交渉を期待するのみです」

 ピカードが一礼した。

「俺たちはクラッシャーだ。金次第で何でもするが、法に触れることは決してしない。ここは俺たちの宇宙の外、別の時空なのか?ならここで違法行為をしない、だが……」

「ジョウ、お願い!ひどい連中がクーデターで国を乗っ取った……」

 アルフィンがジョウにしがみつき、震えた。クーデターにさらされた故郷ピザン王国、無残に変貌した両親の姿……思い出す傷は多い。

「問答無用!殲滅せよ!」

 レゾムの叫びとともに、エンタープライズとミネルバにも多数の無人艦が襲いかかった。

「我々は並行時空からの漂流者でトランスバールとは無関係、内政不干渉による中立を宣言する、攻撃を中止せよ!」

 ピカードが叫ぶが、

「やかましい!立ちふさがる者はすべて敵だ!」

 レゾムが吼える。

「なんて乱暴な奴だ……応戦する!リッキー、ファイター1で出ろ!」

「がってん!」リッキーがアルフィンの尻をたたき、満面の笑顔で飛び出した。アルフィンの笑顔が爆発する。

「ああいう連中だ。とにかく乱暴なんだよ」

 タクトが肩をすくめた。

「エオニアの演説は聞かせてもらいました。コメントは控えさせてもらう。あくまで攻撃するというのなら、本艦は自衛する」

 ピカードが不敵に微笑んだ。

「一番機ラッキースター、エンジン回復!発進できます!」

 ミルフィーユの声。

「ようし、ラッキースター、発進!新しい味方二隻とともに、後方の敵をやっつけてこい!」

 ラッキースターとファイター1が高速で敵に襲いかかる。

「いっきまーす!ハイパーキャノン!」

 ラッキースターの中央から強大な火線が伸び、敵艦を撃沈する。

「反撃!光子魚雷発射!」

 エンタープライズも次々に攻撃を開始する。

 ミネルバも負けじと、敵に強烈な打撃を叩きこむ。

「どちらも強い!」

「やるなあ」

 ジョウが微笑み、ハーベスターに迫るミサイルを撃墜した。

「敵増援!多数!」

 アルフィンが叫ぶ。

「エンタープライズEが包囲されます!」

「ランファ、ミント」タクトの叫び、二機の紋章機が高速で向かい、敵の攻撃をそらす、その隙にエンタープライズからのフェイザーと光子魚雷の嵐が敵をなぎ払う。

 そしてラッキースターの猛攻がレゾムの旗艦を追い詰め、そこにファイター1のミサイルが刺さる!

「く、くそお……覚えていろぉおおおおぉおおぉぉ!」

 高速の脱出ポッドが戦線を離脱する。

「よし、残敵を片付けろ!」

 タクトの声。

「若いが、なかなかの司令官だな、タクト・マイヤーズ」

「あちらのジョウという若者も大したものだ、思い出すなあ」

 ピカードとシャアが微笑みを交わす。

「敵は全滅しました。こちらの損害は軽傷者五名」

 ライカーが告げる。

「それにしても、エンタープライズの人的損害の大半は、艦の衝撃じゃないか?」

 シャアがライカーに言った。

「ああそうだが」

「なら全員シートベルトをして、あらゆる操作を手元のパネルでできるようにして、席ごとレールで動けるようにするとか、耐衝撃パワードスーツを着るとかすれば、損害のほとんどはなくなるんじゃないか?」

「……確かにそうだが、伝統というものが……あと大きな声ではいえないが、撮影とか予算とか……」

「さて、これからどうしますか?」

 タクトがピカードとジョウに話しかける。

「アルフィンのたっての希望でもあるし、仲間になろう。だが一つだけ条件がある、セレモニーとか除幕式とかああいうのは一切なしだ!そういうのがあったらエオニアにつくかこの宇宙の果てまで逃げる!」

 タロスが力強くうなずき、リッキーが青い顔をした。アルフィンが白い目で見ている。

 かつてジョウたちがアルフィンを助けてピザンを解放してから、セレモニーやら銅像やらで宇宙生活者であるクラッシャーにとっては悪夢のような経験をしたのである。

「わかった、約束するよ。ピカード艦長、内政不干渉を遵守しこの戦いには中立を?」

 ピカードは表情を変えない。

「もちろん、私たちはあなたの内政不干渉に感謝し、尊重します。ですが、エオニア側はわたしとあなたが法を遵守しているか疑うでしょう」

 タクトが微笑み、ピカードも笑みを浮かべた。

「そうだな、今こうしているときに、重大な技術供与をしていない証明はできない。その疑いを言い立ててエンタープライズの技術を求められた場合反論できない」

「そう。ですからあなたがたには、ここからトランスバール皇国の領域外に単独で逃れて内戦終結を待ったり別文明を探査してその協力を求めるか、エオニアに投降し武装解除・技術供与に応じるか、または」

「あなた方の側につくか。第一案も、エルシオールは強く追跡されている以上多数のエオニア軍に囲まれ、武装解除を求められるだろう。よろしい、当面は同行し、敵の話せる指揮官との接触を待って改めて中立を宣しよう。また、双方の非人道的行為の有無なども検討し、惑星連邦の外交権限を持つ艦長としても判断する」

「外交官としても一流のようですね、ピカード艦長。わかりました、惑星連邦および貴艦の内政不干渉に感謝します。また何か必要なものがございましたら海難事故の援助に関する法や中立国との交易の法を準用しますので、どうかご遠慮なくお申しつけください」

「感謝する、これ以上ないお申し出だ」

 タクトは微笑を崩さず、エンタープライズとの交信を断った。

 

「クラッシャーの皆さん、エルシオールにはビーチとか公園とか色々ありますよ。固いこといわずにエンタープライズのみなさんもどうぞ遊びにいらしてください」

「ピクニックの準備ができてます、おいしいケーキも焼きましたよ」

 タクトの後から、嬉しそうにミルフィーユが声をかけた。

「よし行くか!」

 ジョウの笑顔に、アルフィンも大喜びで水着選びを始めた。

「ありがとうございます、こちらにもホロデッキなどがありますのでよろしければ遊びにいらしてください。転送していい場所をお教え願えますか?」

 転送技術について聞いたときのレスターやココの驚きときたらなかった。

 女性陣の華麗な水着姿と、広いクジラルーム・ビーチを見た皆の反応は今更描くまでもなかろう。

 そしてミルフィーユの心づくしの料理も皆が堪能した。

「これはうまい!」

 ジョウが素直に喜ぶ。

「ジョウ、こっちこっち!」

 アルフィンは宇宙クジラと夢中で遊んでいる。

 

「……の戦場では覚悟を決めていた。だが、ダンが言ったね、あきらめるにはまだ早い、できることはまだある、と。ガンビーノはまったくいつも通り、ただ黙って前進した……腹の傷から腸が出てたってのにな」

 タロスは静かに、フォルテやランファと話していた。

「そうそう、DS9で似たようなことがあったな。あのボーグとの戦いでも……いまだに悪夢を見る」

 ウォーフも控えめに話す。

「ああ、あたしもそんな経験があるよ。どれだけ自分を信じられるかだね」

 フォルテが豪快に笑う。

「あのジョウって人、結構カッコいいわね。でもあのアルフィンって人も美人だから」

 ランファが浮かれた表情でジョウたちを見る。

「なあに、あたしたちだって負けちゃいないよ」フォルテはランファの背を軽くたたく。

「まあ、あんたももっといい女になるさ」タロスが優しくランファを励ました。

「あ~、今でもじゅうぶんいい女よ!」

 もうランファはタロスもウォーフも全く怖がっていない。最初はかなり怖がったが。

「そうそう、まったくだ」

 タロスが笑う。

「どんな女を思い出してるんだい?いや、こんなときに話すことじゃない、酒でも飲みながら、できれば戦場で話すことだな」

「ああ、まったくだ。泳ごう!」

 ウォーフの声、ベテラン戦士三人が海に飛び出し、ランファが必死で後を追う。

 

「そっちにはどんな星があるの?どんな宇宙人が?どんな……」

 コーティーが夢中でジョウやアルフィン、タクトに話しかける、かなりうるさく思われながらも。

 アルフィンは静かに故郷、連帯惑星ピザンについて語り始めた。

「そんなことがあったんだ」

「ああ、だからエルシオールにつくと決めたのさ」

「ありがとう、ジョウ」

 アルフィンがジョウにしがみつく。

 

「あなたたちはエンタープライズとは別の並行時空からおいでとか?」

 ミントがシャアをつかまえる。

「ああ。おや、君も……思い出すな」

「死んだ女のことをいつまでも考えるものではありませんわ、目の前のいい女を見て、楽しみましょうよ」

「本当の問題は別にありますよ、解決できるのは自分自身だけです。あなたが自分を救おうとしない限り、私たちカウンセラーは無力なのですよ」

 トロイは言うと、ヴァニラとケーラに話しかけようとしているライカーのところに行った。

「それに、あなたは能力のある少女と見ると……そんな、あまりにひどい歴史ですね」

 シャアはミントをにらんだが、口でミントに勝てるはずがない。簡単に利用できない女自体、シャアにとっては苦手な存在だ……

 向こうではラフォージやウェスリーと、ココたちやクレータをはじめ整備班の女性陣が話していた。

 

 そのヴァニラにリッキーがおずおずと近づき、なんだか話しかけたそうにしていたが、そこを親衛隊が囲んで排除しようとする。リッキーと親衛隊が遠慮会釈なくケンカしているのをヴァニラは置いて、クロミエと海に向かった。

 アムロがじっと海を眺め、心の中で宇宙クジラに話しかけている。

「宇宙クジラと話しているのですか?」

 喧騒を逃れたクロミエとヴァニラがアムロに話しかけた。

「ああ。すごくいい声だ」

「そうですね」

 ヴァニラも静かに答える。

「これほど多様な宇宙生物がいる艦だとは。本来は非武装の儀礼艦なのですね」

 データもあとからついてきた。

「はい。緊急時ゆえシヴァ陛下とともに戦闘に従事していますが。あなたは」

 と、ヴァニラがデータに話しかけた。

「エンタープライズのデータです」

「人間以上に人間であることを求める、多くの人のよき友です」

 アムロがデータを紹介し、また宇宙クジラとの会話に戻る。

 

「おーいみんな、集まってくれ」

 タクトの声に、ビーチで騒いでいた男女が顔を向ける。

「なになに?」フォルテが飛んできて、はっと表情を変える。

「儀式はなし、という約束ですのでこの場にて紹介します。トランスバール皇国、シヴァ皇子です」

 タクトの声に、侍女に連れられた細さを感じさせる子がきっと皆を見回した。

「このような場だ、謁見とはいえ無礼講としよう。この者たちが、別の並行時空から来たという客人か?」シヴァの声は固さがある。

「は」

「クラッシャージョウだ」

 シヴァが一瞬むっとしたが、すぐに眉を開いた。

「本日は御尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります。惑星連邦所属USSエンタープライズE艦長、ジャン=リュック・ピカードでございます」

 対照的にピカードの態度は、見事な宮廷儀礼である。トランスバールの儀礼さえとっくに調べていたのだ。

「このジョウという者たちは味方なのだな?」

「はい、傭兵として雇い入れました」

「傭兵?金のために戦う者を信用できるのか?歴史では傭兵は危険だと習ったぞ」

「いや、金のためだからこそ、雇い主を裏切ったら今後二度とクラッシャーと名がつく者を雇う人はいなくなる。だから俺たちクラッシャーは決して非合法なことはせず、決して契約は裏切らない。破ったら他のクラッシャーに殺される」

 ジョウの口調の強さに一瞬シヴァはたじたじとなったが、すぐに立ち直ってタロスを見た。

「陛下、怖くは」

 ココがいいかけたが黙った。

「歴戦の勇士ですよ」

 フォルテが励ます。

「ふむ、恐ろしい傷と肉体だ。だが、そのようなことで人を判断しては王は務まらん。そうだな」と、シヴァが不安げに侍女を振り返った。彼女は無言、表情も首も微動だにさせず肯った。タロスが顔をゆがめる。

「よろしいでしょうか?わたしたちは、ただ金だけで雇われたのではございません。わたしのたっての頼みでもあります、わたしこそ陛下の気持ちが、何千何億の並行時空があっても最もわかる人間だからです」

 アルフィンが顔を上げた。

「そなたは?」

「クラッシャーアルフィン。連帯惑星ピザンの王女です。あの忘れられぬ日、操られた民が王宮を襲い、王夫妻である両親は緊急脱出ロケットで私一人を逃がしました。そして私は宇宙を漂ってジョウたちに拾われ、内政不干渉原則ゆえ誰も助けてはくれぬと知ってジョウたちを雇いました。わずか四人のクラッシャーが一星系を支配する敵を打ち倒し、見事にピザンを解放してくれたのです。尊い犠牲も払って……」一瞬、ガンビーノのことを思って目を伏せる。「そして私は、もとより故あって王位継承権者ではなかったこともあり、クラッシャーこそ私の生きる道と知って彼らに加わりました」

 シヴァは数秒黙った。どうしていいのかわからない、感情を制御するだけで精一杯なのか。

「では、頼む」震える声。必死の、王の仮面。アルフィンは全てわかっている、と目に力を込めた。

「ピカードとやら、そなたたちは……中立なのか?」

「申しわけございません、漂流し助けを求める身でありながら。この船は私のものではなく、この身も私の身ではありません。自らの船で宇宙を旅する傭兵なれば喜んではせ参じたものですが、私は惑星連邦の法規に縛られているのです」

「内政不干渉の大切さはよくわかっておる。われらが見事エオニアを鎮圧した暁には、並行時空に至る道を見つけるための援助は惜しまぬ。かなうならば貴国との友好のためにも力を尽くそう」

 シヴァの精一杯の微笑。ピカードは儀礼が要求するより深い礼で応えた。

「ただ、こちらの者たちはまったく別の並行時空の出身者であり、母国の外交権限を放棄しています。その意志によって、これからはエルシオールから戦うことを希望しています」

「さようか。名は?」

「アムロ・レイ大尉」

「シャア・アズナブル、アムロ大尉の捕虜。これもまたなにかの縁と」

「コーティー・キャスと、頭のなかにシロベーンって」……『シロベーンと申します、陛下』と、コーティーの口調が急に変わった……「別のもいるわ」

「ほう、脳内に寄生している異星人か?珍しい話もあるものだ。よろしく、シロベーン、コーティー」

 コーティーの表情がぱっと輝いた。

「アムロとシャア、二人は故郷の時空では名のある武人だったそうだな?よろしく頼む」

 

「物資不足?」

 タクトが頭を抱えた。

「ああ、水や食料、弾薬や装甲板も」

「このごろ私たちも本来の仕事だけで……」

 色々調べたタクトは、とんでもなく甘いものを食わされたりシャンプーがどうこう言われたりして疲れて帰ってきた。

「エンタープライズにはレプリケーターというとんでもない道具があるそうだな」レスターがうらやましそうに口にする。「それから色々作ってもらうのも内政干渉というか中立違反か?」

「交易の形を取れば大丈夫だろう。どうせ何ももらわなくても非難されることは変わりないんだ」タクトは肩をすくめた。「必要なものがあれば、なんて言っといて助けてもらうのもみっともないがね」

「まあ、腹が減っては戦はできん。ましてあんな女の子たちはなあ……」

「あ、性差別」

「男の子だってたくさん食べるじゃないですか」

 アルモとココが楽しそうに合いの手を入れてきた。

 

「エンタープライズのレプリケーターを利用したいと?もちろん、補給が得られない船同士助け合うのは当然のことです」

「だが、こちらのレプリケーターも無尽蔵ではない。元素自体を作ることはできないし、反物質などの燃料もいつかは不足する」

 ライカーが少し心配そうに口にした。

「となると、皆さんも補給が不要なわけじゃないですね」

 アルモが軽く小首をかしげる。

「でも、そちらのそれだけ多いと思われる廃棄物の類を送っていただければ、それをこちらのレプリケーターで加工すれば食料など大抵のものは作れますよ」

「こっちからも色々補給を頼めるか?実はこっちに来る前にきついドンパチした直後で、あまり余裕はないんだ」

 ジョウからもピカードに連絡が行く。

 

「ブラマンシュ商会の船が襲われている!」

「何、民間の商船が襲撃されている?……これは商船側から事情を聞かないと」

「……わかった。ただ、こちらの正体がばれないよう、また別文明の船がいたら都合が悪いからできればこちらにいらしていただけますか?」

 まずミネルバの急襲から、一気にカンフーファイターとトリックマスターが敵陣を分断、そのまま火力を強化したエルシオールとアムロのνガンダム・サザビーがそれぞれの敵に突撃し、商会の船を救出した。

「それにしても、見事だったな。仕事はきちんとやったし俺への指示も申し分なかった」

 ジョウが微笑んだ。

「実に動きやすかった。指揮官としての能力は私が知る中でも最高級だな」

 シャアも満足げにサザビーを降りる。

「新しい力にだいぶ振り回されてるな、クレータたちにまた世話をかけそうだ」

 アムロのνガンダムが合体を解き、剣を背にしまうとエルシオールに着艦した。

 やっと補給ができたときに、ブラマンシュ側は首をかしげた。意味不明に近い鉱石や化学薬品の類が山ほど……よく考えれば、周期表順に元素を注文したとわかるだろうか。

「それより、あの敵艦隊はどんな理由をつけて攻撃したのか?交信は?所属は明らかにしたのか?」

「いえ、恐ろしいことに何の連絡もない問答無用でございました。お嬢様の獅子奮迅のご活躍のおかげで助かりました」

「わたくしだけではございませんわ。他の皆のほうが活躍しておりました、むしろわたくしは今回不調でしたよ。それより聞かれたことにきちんとお答えくださいな」

「それは海賊行為に近いな、惑星連邦の前例としては……」ピカードが考え込んでいる。

 

「やれやれ、ようやく安心できそうだ」

 友軍からランデブーポイントの連絡を受けたレスターが、タクトの反応をいぶかしんでいる。

 そして、タクトの予感どおり無数の敵が出現した。そのときに長時間の待機を強いたためもあり、かなりエンジェル隊は疲弊している。

「あなたがエルシオールの司令官ね?待っていたわ」

 完全に包囲された状態で、頬に傷のある美女が交信に入ってきた。

「わたくしの名はシェリー。所属は正統トランスバール皇国軍。エルシオール追撃部隊の司令官よ。よろしく」

 ユーモアを帯びた会話に、傍聴しているピカードが微笑した。

「シヴァ皇子を引き渡しなさい。そうそう、あなたたちがうわさの、並行時空から来てしまった船ね?」

 シェリーがジョウやピカードに微笑みかける。

「ああ、あんたがクーデター勢力か?悪いが、俺たちはクラッシャーとしてタクトに雇われた。あんた達は敵だ」

「わかりやすいわね、じゃあ死になさい。そちらの皆さんは?」

 シェリーはエンタープライズと独立に交信しようとしたが、すぐにピカードは会話をエルシオールに中継する。

「惑星連邦には非加盟国に対する内政不干渉・中立の原則がある。こちらから敵対行動を行うつもりはない」

 ピカードが眉一つ動かさず言い放つ。エルシオールからの、やや非難をこめた視線を無視して。

「わかったわ。でも、もうトランスバール皇国という実体はないわ、ほんのわずかな反乱軍を鎮圧するだけよ」

「それはそちらの主張だ。またそちらには民間人の虐殺の容疑があり、民間船舶に対する無警告攻撃が確認されている。惑星連邦への加盟・同盟は一定水準の人権の遵守が条件であることも伝えておこう」

「わずかなまきぞえを誇大に伝えられたのかしら?また、民間船舶は逃走して反逆者に対し密輸を行った容疑で拿捕を試みただけ。強いものが正しいのよ、見せてあげるわ。いいこと?中立を遵守なさい」

 シェリーは交信を切った。

「エンタープライズの皆さんは敵と交信しつつ、こちらの中立地帯に退避してください」

 タクトが、アルモやココの非難の目を無視して指示した。

「了解した」

 敵が中立を受け入れず戦闘になった場合、敵を分断する絶好の地点であることにピカードは気づいていたが、あえて逆らわなかった。

「俺たちはあんたの指揮に従う」

 ジョウが傲然と胸を張った。

「ありがとう。右側でエルシオールの防衛、敵が崩れたときに突っ込んでくれ」

「わかった」

「敵には高速の新型艦が多い。ハッピートリガーは左翼防衛、カンフーファイターとラッキースターが突っ込むいつもの布陣だ」

「了解!」

「もう一度、作戦内容を確認するか?」

 レスターが聞く。

「いや、その必要はない。みんな頼んだぞ」

「はいっ!タクトさん」

 戦闘開始。ジョウたちの強さが目立つ。

「見たことのない敵も混じっているな。あの球形艦は皇国のデータにないぞ?」

「強い!」

 フォルテが歯をくいしばる。

 一発の破壊力が大きくきわめて耐久性の高い球形艦、そして高速で一撃離脱戦法を取る戦闘機……ごく弱い戦闘機も多数だとうっとうしく、ファイターが戦艦にかかれない。

 そして高速戦艦による車がかりに、紋章機やミネルバ、サザビーのダメージは徐々に増していく。

 アムロのνガンダムは実質無敵だが、すでにデータは得ているのか多数の無人艦による攻撃でエルシオールから引き離されている。また、エネルギーの消耗が激しく補充できないため出撃時間が短くなる。

「これで……最後!」

 ラッキースターのハイパーキャノンが敵旗艦にダメージを与える。

「敵の……第二波、第三波、多数!」

「くそっ、なんて数だ」

 レスターが詰まった。

「大丈夫よ、まだ戦えるわ!」

「何とかなりますよ!」

 エンジェル隊は元気一杯である。

「どうするんだ、タクト」

 タクトが沈黙している。

 ジョウたちは静かにそのタクトを見守っている……特にタロスの目は炯々と光り、まるでタクトの器を推し量っているようだ。

「第二ランデブーポイントの方向が開いています!クロノ・ドライブ可能です」

 ココの報告。

「だが、そっちだけ開いているってことは」

 レスターが迷った。

「わかってる。でもこのまま戦い続けるよりはマシだ」

 タクトの目が、ジョウやタロス、フォルテの間を泳ぐ。レーダーのエンタープライズも。そして一瞬目を閉じ、

「非常用第二ランデブーポイントへ、クロノ・ドライブ」

「了解。時間を合わせてこちらもワープに入る」

 ジョウは黙って交信を切り、ワープの準備を始めた。

「アニキ、でもあっちだけ開いてるってことは」

 リッキーがあせったように星図を見る。

「ああ、まず間違いなく罠だ。向こうについたら袋のネズミさ。だがお前の仕事は機関だろう、ワープの準備をしろ!アルフィン、航法計算に入れ」

「ジョウ、タクトが間違ってるかもしれないのに」

 アルフィンが小さな悲鳴を上げる。

「いや、どちらであってもリスクはある。ここはタクトにとって正念場だ、そして俺はあいつを信じる」

 ジョウが歯を食いしばる。常に自分の決断で戦ってきた、そのために一度大切な仲間を失ったこともある。多数の人間を救えなかったこともある。

 だが、自分が信じた男の決断を信じる、そのために大事な仲間の命をかけても。

 その覚悟に、タロスが深くうなずいた。

 ドンゴは静かに仕事をこなしている。

 

「どういうことよ、これは」

 タクトはエンジェル隊のメンバーに問い詰められていた。アムロとシャアは黙って見つめているが、それはそれでプレッシャーになる。

 フォルテの助けでそれは切り抜けたが、絶望的な予想と士気の低下はタクトを悩ませていた。

「司令官どの、ちょっといいかい?あまり感心しないね」

 フォルテの言葉に、タクトは逃げ場を失った感じさえ抱いた。

 そしてアムロやジョウたちが黙って従ってくれていること……もしピカードなら?

 

 深夜のクジラルーム……フォルテがたっぷりタクトと泳いでから、その目を強く見た。

「なんでジョウたちが、黙ってあんたの命令に従ってるかわかるかい?」

 フォルテの言葉が、まるで心のとげが爆発したようだ。タクトにはそれがわからない。

「あいつらは、あんたを信じるって決断をしたのさ。その決断をした自分自身を深く信じてる」

 ぶるっとタクトが震えた。

「応えなきゃ、戦士じゃないよ」

「……ああ」

 そして、タクトはすべてを仲間に伝えた……ジョウたちは黙ってそれを受け止め、うなずく。

「みんなを信じてる。オレ自身も信じる。どんなに敵が多くても、必ず切り抜けてみせる」

「ああ。俺はお前を信じると決めた、タクト」

 ジョウたちが力強くうなずく。

 ドライブアウト……予想通りの膨大な艦隊。

「予想以上だな」

 タロスが不敵に笑う。笑うとますます怖い。

「だが、タクトは乗り越えたんだ……俺たちに敵はない!」

 アルフィン、リッキーがすばやくファイター1・2に飛び出す。

 νガンダムとサザビーが、紋章機が次々に発進する。

 絶対に勝つ、タクトを信じて……その闘志に応えたのは、味方の大軍だった。

 

 ピカードはそこでエオニア自身と交渉しようとしたが、それより先に味方の攻撃でエオニアやシェリーは後退し、あとは大軍と無人艦の戦いを中立地帯から見るのみだった。

 

「舞踏会には並行時空からの客人の皆さんも参加していただく、さよう心得よ」

 ジーダマイアが乱暴に言い放つ。

「セレモニーの類には出さない、それがクラッシャージョウとの約束です」

「そんな約束などどうでもいい、命令だ!第一お前はもうエルシオールからの解任が決定されておる、分をわきまえよ!皇国を救った別宇宙からの英雄を出さずして何の式典じゃ」ジーダマイアがやや感情的に、圧力を強める。

「武人の約束を破るくらいなら、この場で死にます。そしてエルシオールとミネルバはこのまま宇宙の彼方まで逃げろ……聞こえたな、レスター、ジョウ」

 タクトの目に、いつもと違う戦場での光が宿った。

「なんとこの逆賊めが!」

 将官の一人が叫んだ。

「私も行くぞ」

 突然シヴァがはっきりと言った。

「な、なんと」

「私も行く、と言ったのだ。武人の約束を重んじぬような皇国など知らぬ!私についてくる民を率いて宇宙のどこかに旅立っていこうではないか」

 十歳とは思えぬ威厳と迫力。

「な……」

 ジーダマイアたち、一言もなし。

「私にも覚悟がある。武人が約束したからにはトランスバールの名誉にかけてセレモニーの類には引き出すまい、彼らはきちんと契約を果たした。報酬の件よろしく頼むぞ、ルフト」

「は」

 ルフトが嬉しげにうなずく。タクトの表情は変わらない。

「エンタープライズはどうなる?」

 別の将官が聞いた。

「あの方々は内政不干渉、この内戦に関して中立を表明しています。内戦が収まった後に本格的な外交交渉に入り、元の時空に帰還する術を探し、可能ならば惑星連邦代表としての外交交渉にも入るとのことです」

「中立だと?あのエオニアに中立もなにもあるか、許せん」

「いえ、客観的に見れば今起きているのは内戦に他ならず、ならばトランスバールの外の別の国から来た者たちがこれに介入することは内政干渉に他なりません。それを許せばもっと悲惨なことになりましょう」

「内戦もなにもない、反逆に過ぎぬし逆賊エオニアはもう鎮圧したではないか」

「彼らはそうは認めておらず、双方を対等な交渉相手とみなしております。ただし彼らの心はかなりこちらに寄っており、そのために偏見のない目で集められたエオニア軍の、民間人虐殺などの証拠を求めています」

「まったくどいつもこいつも……」

 高官たちがいきまくが、胆を据えたタクトは一切動じない。

 ルフトはその教え子を、苦笑と愛情をこめた目で見ている。そしてシヴァの目は……

 

「ファーゴ全域に強力な妨害電波」

 ラフォージがライカーに報告した。

「それにかなり遠距離ですが、とんでもない大質量がワープアウトしています、艦長」

 ライカーがピカードに。

「きわめて強力なエネルギーを感じます」

 と、データ。

「黒い艦隊だ!ミネルバ、聞こえるか?」

 エンタープライズがミネルバとすばやく交信した。

「脱出したいが、ジョウとアルフィンがまだ戻っていない!」

「二人とも買い物に出て、群衆に巻き込まれているはずだ」

 タロスがあわてた。

「まったくあの二人は!」

 リッキーが怒鳴る。

「急だと思うなら転送で回収するか?通信ができれば」

「ありがとう、ジョウ!アルフィン!聞こえるか?」

「ああ、くそっ!」

 ジョウとアルフィンを、奇妙な雰囲気の黒い男たちが取り囲み、激しい戦いになる。

「少ししのいでくれ、転送する」

 かろうじてアートフラッシュで敵の目をくらまし、物陰に逃げ込んだ二人の姿が消える。

「大丈夫か?」

 ラフォージが心配げに二人を見た。

「ああ、一体なんだったんだ? ミネルバに転送してくれ」

 

 突如すさまじい光の柱がファーゴをかすめ、惑星ロームに突き刺さった。

 緩慢にさえ思える衝撃波が、巨大な惑星の表面を破壊しつくしながら広がっていく。

 ピカードが見たものを信じられないように見て、叫んだ。

「民間人の大量殺戮……USSエンタープライズEはエルシオールにつき、惑星連邦を代表してエオニア勢力の鎮圧に全面協力する!副長、転送でできる限りの人命救助」

「やっています!」

「雑音が激しい、転送がどうしても不安定になる」

「ソーナ人が使った、転送マーカー射出機を使え!小型無人機をレプリケーターで作って転送しろ!」

 ラフォージが怒鳴る。

「それに……くそっ、まさに焼け石に水だ」

 ライカーが拳を握り締め、破壊されたファーゴを見つめる。

「諦めるな!一人でも多く助けるんだ!」

「艦長、敵が接近します。この時空に来る前も戦った球形艦が中心です」

「うぬ」

 ピカードの温厚な表情が憤怒をもらす。

「私たちが食い止めます。エンタープライズは一人でも多くの人を助けてください」ヴァニラの、静かで感情をもらさないが、それゆえに底知れない悲しみと怒りを感じさせる声。「私たちには、誰も助けられないのです」

「ああ、やるよ!」

「おお!」

 フォルテの声に、タロスの怒号が混じる……ハッピートリガーとミネルバが、神業じみた機動でエンタープライズに迫る敵艦を次々粉砕する。いつもは修理に徹するハーベスターも最前線で激しく戦っている。

「シャア!」

 アムロの悲鳴。サザビーに、黒の月の偽紋章機が決定的な一撃を加え、黒の月が迫る方向に吹き飛ばされる。

「フィン・ファンネル!」

 助けようと口を広げて飛ぶ龍、だが敵艦が間に入り、それを撃墜した爆発にまぎれる。

「アムロ」

 ライカーが何か言おうとしたのをアムロは目で制し、エンタープライズに迫る大型戦闘機を両断する。

「黒の月、接近します」

 アルモの悲鳴。

 

「味方の艦隊はボロボロだ……」

「トランスバール本星へ、白の月に行こう。そしてエルシオールや紋章機について調べよう」

 タクトがエルシオールのブリッジから命じた。

「われわれも同行しよう、これからは味方として。やっと味方になれて光栄だ」

 ピカードが立ち、制服の裾を引き下げた。

「ありがとう、そしてファーゴの人たちをたくさん助けてくれて」

「ありがとうございます」

 ヴァニラが思わず心を漏らしたように頭を下げる。ミルフィーユも、エンタープライズの収容室からシャトルで残存艦隊に向かうファーゴから転送された人々の中に、ブティック店員の姿を見つけて顔を輝かせ、そして哀しげに歪めた。一人助かった陰に何十億人が死んだのか……

「だが、まず必要なのは補給だ。ローム星域には物資もなく、あっても生存者が優先だ」

「ブラマンシュ星系なら近いが」

 と、タクトがミントを見るが、ミントはすまして「はい、ちょうどいい場所にあります」と言うだけだった。

「何かあったら、こちらにもいらしてください」とトロイが告げ、ミントは「ありがとうございます」とごくいつも通りに言った。

 

 ブラマンシュ星系で補給を受け、いつものワープのはずだった……だが、そのワープの最中突然時空の嵐が襲った。そしてエルシオール・エンタープライズ・ミネルバの三隻が……

 

〈スパロボ時空・トリトン〉

 そこは海王星の輪も含め、おぞましい異界と化していた。

 逆行する軌道をもち、一億年後には崩壊すると言われる大衛星はそれ自体が、別の宇宙からのゆっくりした侵略者だった。

 戦争が多く、外部太陽系探査に関心が低かった彼らはそれをはじめて知った。

 海王星と多数の外部太陽系小惑星をとりこんでいた、その侵略者は、ヤマトたちの接近に応じるように牙をむき出してきた!

 多数の偽装された大型要塞から、次々と各種ビッグコア・デスなどが飛び出す。

 その間を縫って飛び込んだ宇宙戦闘機や人型機が、内部から敵要塞の撃破に向かう!

 

 内部が火山だらけの空洞惑星に飛び込んだ虎龍王が、多数の移動砲台と激しい格闘戦を繰り拡げる。

 岩だらけの要塞を、自在に四本の腕足から牽引ビームを出して動き回るロンド・ベルのワーウルフたちが自在に駆けまわり、一つ一つ敵を潰していく。

 ZとZZに、複雑な地形のそこかしこからモアイの吐くイオン・リング砲弾が襲いかかった。

 そして細胞に絡め取られたブラックタイガーを、不気味な巨大細胞が呑もうとするのを蒼い人型機が助け出す。

 戦艦からの圧倒的な火力支援にもかかわらず、ビックバイパーとスーパーロボット隊を結晶や泡が食いとめる。

 

 そして最後の要塞と、その奥にあった巨大な脳をSRXの天上天下無敵斬りが葬ったときトリトンは消滅し、代わりに光と闇が混じった塊が皆に語りかけた。

「紙を重ねたように、螺旋のように重なりあう無数の時空……今、結ばれるとき……百万の天空の結合……旅人たちよ、集いし者たちよ、戦士たちよ……征け、新たなる時空の禁断の星、テレザートへ……失われた友との再会……新しい出会い……バッツーラもバクテリアンも黒の月もボーグも、名を呼ぶことすら禁じられた反存在の陰でしかない……見失うな、混沌の武器にて法の側に立て……光と闇ではなく、法と混沌……天秤を襲う者……」

 その声が終わると同時に、戦隊全体を何かが包み……激しい衝撃と幻覚。醒めたそこは、まったく見知らぬ時空だった……

 

〈とある時空にて〉

「レーダーあっちに向けろ!」

 見知らぬ時空をさまよう艦隊。ラー・カイラムのカミーユが、虚空の一方を指差した。

 ヤマトやアリエール号の高性能レーダーが、丁寧に巨大な宇宙を探査し、そこに……星間氷塵と一見区別できない何かが捉えられた。

「あれだ!」

「早く救助しなくちゃ、いい、このまま出る!」

 飛び出したジュドーが拾ってきたのは、恐ろしいほどの美少女の、真空で凍結した死体だった。

「何をしたんだ?宇宙に放り出しただと?」

「なんて恐ろしい刑罰だ」

 全員が震え上がる。少女はヤマトの病室に運ばれ、低体温療法のノウハウを持つデンダリィ隊の軍医も急行して、必死で彼女を治療した。

 

「どうじゃ、問題はないはずじゃ。これは何本に見える?」

 佐渡が指を開く。

「ほらほら、さっさと出て行って」

 雪が古代を含め、ヒマな野次馬たちを追い払う。

「三本……だめ、名前は思い出せない」

「大丈夫?ゆっくり休んで、宇宙空間に生身で放り出されて、肺や脳神経細胞にはかなりのダメージがあるんだから」

「宇宙放射線症もひどい、当分安静じゃよ」

 佐渡がゆっくりと酒をすする。

「あの、でも……兄さんにだけは、早く連絡してください!それに……そう、早く!」

「話したほうがいいわ。どうしたの?なぜ宇宙に生身で?」

「その、わたしは……う、そう、何も知らなかったんです。無知は罪なんです」

 その悲痛な表情に、雪は深く共感して彼女を抱きしめた。

「罪であってもどうしようもない罪もあるわ。神様は決してそんな罪を責めたりはしないわよ」

「ああ……あのパイロットの方も、どれほど傷ついたでしょう。ええ、わたしは、ただ兄に会いたくて何も考えず、植民星に向かう緊急艇に密航したんです。一人分の体重ぎりぎりに設計されていて、いかなる余計な質量も許容されていませんでした。そして……薬を運ばなければ、多くの人命が失われる……あのパイロットの方は、私を宇宙に放り出す以外選択の余地はなかったんです」

 雪は何も言えず、ただ彼女を抱きしめていた。

 そして佐渡が自分の、極上秘蔵の酒を彼女に飲ませる。とてもじゃないが、二人とも両脚と片腕を根元から切ればなんとかなっただろうとかは言えなかった。

「ああ……早く、助かったことを知らせなければ」

「安心して、必ずご家族のところに返してあげる。ゆっくり休んで、笑顔の練習をしていましょう」

「ありがとうございます」

 

 無事な彼女を迎えたその兄や家族、そして緊急艇のパイロットのことは描かずにおく。

 そしてそれからしばらくさまよい、別の門から行った別の時空には……

 

〈スターラスター時空〉

 時空移動で再出現したエルシオール・エンタープライズE・ミネルバに、一機の大型戦闘機が通信してきた。

「こちらガイア。君達が、何かわからない女から聞いた並行時空の友軍か?」

「多分な」

 ジョウがあっさりという。

「この時空でビッグバンを起こし、宇宙全体を吹っ飛ばそうとしてるとんでもない敵が相手だ」

 そう話している間にも、無数の敵が襲いかかってきた。

「ああ、あれか。何度かお見かけしたよ」

 タクトがにっこり笑う。

 球形の大型艦を中心とした金属製の艦隊。

「敵から守るべき目標は?」

 ピカードが鋭く聞いた。

「基地と惑星だ。情報を収集し、敵を撃破して欲しい」

「わかった、できれば統一的な作戦を取るためオレの指揮に従って欲しい」

 タクトの一言。

「わかった!」

 ガイアからの声、そしてピカードとジョウが力強くうなずく。

 そして、激しい戦いが始まった……

 

 小惑星帯に敵を引き寄せ、紋章機たちが障害物をかいくぐって敵を引きつけ、エルシオールにぶつかりそうな岩を破壊する。

 傷ついたエルシオールの艦体を修理しようとしていたコーティーの小艇に、敵の高速戦闘機が襲いかかって弾き出された。

「ミント!」

 タクトの叫びに急行する、そこに強引に、奇妙な翼を広げたような大型艦が、片端から小惑星帯を破壊する膨大な弾幕を張って襲ってくる。

「フォルテ、こっちに投げてくれ」

 カンフーファイターがいくつかつかんで投げた巨岩が、ほんの一瞬エルシオールを守る。そこに跳びこんだνガンダムの大剣がその艦を両断した。

 だが、その一瞬の間に数十機の小型戦闘機が襲いかかってきて、一瞬だけエンタープライズの迎撃フェイザーを全門使用状態にした。

「まずい、総員耐ショック!」

 タクトの言葉と同時、至近距離にワープアウトした巨大球形艦の猛攻。

 コーティーの小艇が直撃を受ける直前、νガンダムのファンネルが張るシールドがそれを守った。だがダメージは大きく、火を吹きながら不規則な軌道でエルシオールから遠ざかり、最も濃密な小惑星の渦に飛び込んでいった。

「コーティー!フォルテ、」指示を出そうとするタクト。

 だがそのときデータが「2-5-2方面から敵二十隻来ます」と無情に告げる。

「全艦散開!右の小惑星帯を抜けて応戦しろ!ミント、精密な位置を索敵してエンタープライズに。ガイア、フォトントーピドーを斉射して4-2-9方面へ小ワープ。アムロ、一度戻って補給してくれ」

 タクトが歯を食いしばって指示を出し続ける。

 

 その間に、コーティーの小艇が引き寄せられた内部が空洞になった小惑星。その中は、次元そのものがひん曲がっているような印象があった。

『コーティー、何かが艇にとりついて』

 シロベーンがコーティーの口を借りて小さな悲鳴を上げる。

「大丈夫、なんとなくだけど……害があるって感じはしないわ」

 コーティーはそれだけ言って、艇をチェックし始める。

「な、なにこれ……急に直ってるなんてもんじゃない、新しい機能が……こんなエネルギー、それにコンピューターも通信も……」

 次々と画面に新しい機能、新しいソフトが加わる。

『別の、何か別の生命が』「シル、ちょっと胞子を出して、その生命と連絡してみて!」

 間もなく、画面上にメッセージが表示され、スピーカーから音声が出る。

『こんにちは、長老シロベーン。あなたの子供のコンフです。この宇宙生命に入って、そのコンピューターとリンクする能力を利用して話しかけています』

『こんにちは、わが子コンフ、コーティー・キャスも紹介します』「よろしくね、コンフ」

『今私が入っている宇宙生命は、機械と生物の中間的な存在で、より大きな機械に寄生することを求めてさまよっていました。直接は話せませんが、皆さんにお目にかかれて喜んでいます。適度なエネルギーさえもらえば、害をなす気はないそうです』

「私も嬉しい、って伝えて」コーティーが微笑みかける。

『早速お役に立ちたい、と戦闘モードを取っています。敵も多数接近していますし……彼女に任せてもらえば』

「それはありがたいわね……お願い」

 と、コーティーが微笑みかけると、一瞬でシートベルトがコーティーの体をしっかり固定し、とんでもない加速がかかり……すぐに加速感が消える。

「さっき、コーティーの艇が消えたところから巨大なエネルギー反応!」

 ココが嬉しそうに報告する。

「コーティー!無事だったか」

 タクトが微笑む。

「あの艇からとてつもないエネルギーを感じます。まったく別の宇宙生命のようです、提督」

 データが静かに報告する。

「あっち方向から敵艦隊、球形艦だけで八隻、ビッグコア二十隻以上!」

 ココの嬉しげな声が悲鳴に変わる。

「エンタープライズ、援護してくれ!なんとか転送収納。ランファ、ミント」

「今向かっています……でも、わたしたち……必要でしょうか」

「え?」

 タクトがちょっと戸惑った、そこでコーティーの小艇に周囲の空間自体からすさまじいエネルギーが集まるのがわかる。

「ク……クラゲ!?」

 絶大な光が、柔らかく動く半球を作り出す。その下から、次々と曲線を描く緑の光帯が敵を正確に追尾し、突き刺さる!

 フォルテが目を見張る中、次々と敵艦が閃光に消える。

「す、すごい……」

「あの弾はワープ5で不規則機動をする敵も追尾しています。命中した敵のすべてを吸収し、本体のエネルギーとしています、あれを防げるシールドは存在しません」

 冷静に分析しているデータを除く全員が目を見張る中、恐ろしいペースで敵を掃討していく。

「エンタープライズ、ミネルバ、左右から敵を押し包め!やらせるな!」

 タクトの叫びにわれに返ったピカードとジョウが素早く敵の左右を封じる。

「惑星が攻撃されている!助けに行かなければ」

 ガイアからの通信に、タクトはハッピートリガーとカンフーファイターを同行させた。

「見つけた!敵の本拠地、暗黒惑星」

 ガイアのパイロットが目を輝かせ、タクトが全艦をワープさせる。

 そこは悪夢のような、圧倒的な黒い敵艦隊の巣だった……

「ひゅう」

 ジョウが口笛を吹き、画面のタクトに微笑みかける。

「シールド修理完了!機関の修理にはあと三十分」

「五分だ!」

 ラフォージの報告にライカーが返す。

「フェイザー、量子魚雷準備完了……いい日だ」

 ウォーフが全身を、戦いの歓喜に震わせる。

「修理完了、追加ランチャーに光子魚雷装填完了、アムロ出る!」

 νガンダムが敵の中央部に一気に転送される。

「目標、敵暗黒惑星……戦闘開始!」

 タクトの手が大きく振るわれる。

 νガンダムの背中に取りつけられた多目的ランチャーから光子魚雷が放たれ、ビッグコアを次々と撃沈していく。

 コーティーの光の半球から放たれる、緑の帯が複雑な曲線を描いて高速機やミサイルを次々に捕らえ食い尽くす。

 ミネルバからのミサイルと砲撃の嵐が、エルシオールに迫る敵機をことごとく撃墜する。

 そしてエンタープライズが破城槌となり、敵艦隊を分断しつつ全方向に光子魚雷とフェイザーの嵐をぶちまける。

 敵の黒い球形艦の攻撃力は凄まじいの一語であり、エンタープライズのシールドも次々とダウンしていく。

 ラッキースターが大打撃を受け、かろうじてハーベスターに助けられる。

「暗黒惑星に量子魚雷発射!」

 ピカードの声に、ウォーフが素早くコンソールを操作し、あまりに強大な最終兵器が黒い惑星に向かって飛ぶ……そこで、突然黒い衝撃波がその一帯を包んだ。

「暗黒惑星が……消えた?」

 ココが慌てる。

「はい、今の何かにより敵暗黒惑星がどこかに消失しています。この惑星消失反応は以前も、多元宇宙の壁が破れた時に」

 データの長広舌をさえぎるように、全艦を激しい時空嵐が包む……

 

〈タイラー時空〉

「やっ、どーもどーも!」

 ロンドベル・ヤマト・デンダリィ隊等混成艦隊がその時空に出現して間もなく接触してきた、辺境パトロール小艦隊の提督。若い、ただそれをいうならこちらも幹部の平均年齢が若すぎるが。

「並行時空? そりゃあ面白い」

「本当の話でしたらですよ、閣下!」同じく若い、こちらは超絶美形で見るからにエリートの副官が疑いを示す。

「じゃあ他に説明があるかね? こんな奇妙な、色々な形の艦! そして目の前の」と、タイラーは美しく閉ざされていく、雄大な光の虹を指差した。「この現象!」

「はい、確かにこれは別の時空への、一方通行の門と解釈するのが数学的に簡潔です」

 オペレーターのキョンファ・キムが感情をこめない声で告げた。

「とにかく君たちの身の安全は僕が保障しよう。こっちは長いことラアルゴンと戦争中で、それに最近変な連中が別の時空からか来てね。ああ、僕はジャスティ・ウエキ・タイラー、残念ながら既婚。よろしく!」

「変な連中?」

 これまでの敵たちの姿を思い浮かべたテツヤがつぶやいた。

「『お前たちを同化する。抵抗は無意味だ』って言ってくるでっかいサイコロ、心当たりない?」

「いえ、ないですね」

「あっそ」

 タイラーはちょっと肩をすくめるようなしぐさで、そしてにっと笑った。

 その無警戒な開けっぴろげな笑顔に、テツヤもレフィーナも、古代もニュートンも、みなぐっと心臓をつかまれた。

(これは)

 その感覚を警戒に変える冷静さがあったのはマイルズだけだっただろう。

「さてと、パトロールはどうするか、〈大山〉と〈はるかぜ〉に任せてみんなでどっかの惑星でぱーっと歓迎会でもやるか!」

 おーっ、と盛り上がる艦隊、そこに蒼白になった副官が

「かっくゎー!このパトロールも、このパトロールも……」

「じゃあどうすればいい?ヤマモトくん」

 その一言に頭がパンクしたようになったマコト・ヤマモトを救ったのは「敵襲」とのキョンファ・キムの言葉だった。

「ヤマモトくん、総員戦闘準備」そしてすかさず、「ついてきてくれるかな?」とタイラーが一言。マイルズは衝撃に一瞬目を見ひらく。

「まあまかせといてネ。みーんなまとめて、メンドーみるヨ?」

 その砕けた口調に呆れた皆だが苦笑してリラックスした者も多い。

「か、閣下、そんな」

「いいから反撃用意。対空レーザー・ポムポム砲発射準備、艦載機は第二爆装」

「はっ!」

「さあて久々に、戦闘に殺戮に励みましょう!

 あそれ、

 みんな大好き戦争ケンカ のんびりぽっきりいこうじゃないか

 面倒見なくちゃ始まらない 腹が減っては戦はできぬ

 酒に煙草にトイレに酸素 めんどいことは副官任せ

 訓練よりも実戦だぁ 酒さえあればみんな友!」

 軽く一曲歌い上げながら、気がつくともうボーグキューブの真正面至近距離に突進していた。

「提督うっ!近すぎます!敵の攻撃が」

「カトリくん、さっさと左にワープ。あ、ヤマトはそこで右二十五度に小ワープして」

「え?は、はい」

 と、島が慌てて条件反射的にそれを行い……われに返ったときはもうワープ準備に入っていた。

「敵、攻撃を開始しました!」

 南部が叫ぶが、

「ワープ三秒前、もう間に合わん!南無三……」

 半ば叫ぶように島が操縦桿を引く。

 交わったワープの航跡、その凄まじい時空の乱れに、ボーグキューブから放たれた光槍がねじまげられ、それがロンドベル隊が出てきた時空の穴に刺さる。

「え……もの、ものすごいエネルギーが」

「全艦退避!とにかく全力加速!」

 タイラーの一言に、慌てて各艦が遠ざかる、それを追うように乱された時空の穴が、まるで津波のようなエネルギーと化してボーグキューブを飲み込んでしまった。

「あ、あとかたも……」

 カイ・タングが目を大きく見開く。

「す、すごい」

 ブライトが腰を抜かしたように座り込んだ。

「なんという無謀な、ワープによる時空の乱れなんてむやみに使っていいものじゃないのに」

 ブランドンとウェストフォールが顔を見合わせ、天井を向いて目をぐるっと回した。

「敵第二波来ます!」

 騒いでいる中、雪とキョンファ・キムが競うように告げた。

「同様の立方体艦、それに、これまで見たことがない大型の戦闘機と黒い無人艦隊です」

「あれは見たことがない連中だなあ……少し話してみよう」

 と、タイラーが通信を開く。

「やれやれ、愛しのハニーから別れて別の時空で、こんな美しくない人間たちと戦うなんて……早く愛しのハニーと巡り会い、限りなく美しい永遠の眠りを与えてやりたい……あの熱い血潮を浴び、このボクの美しさをいっそう高め……さっさと醜いものには消えてもらおう」

 とカミュ・O・ラフロイグ。

「何をバカなことをほざく、愛というのは相手の幸せを願い、守り、たとえかなわなくとも相手が生きていてくれるだけでも幸せ、というものだ! 貴様のそれは愛でも美でもない!」

 古代がコンソールを叩く。

「ここにもいるのかぁ! 俺の血を燃やしてくれる、強いライバルがあ!」

 とギネス・スタウト。

「おおおおお! ここにいるともお! 叩きつぶしてやる!」

 まあブリットとかリュウセイとかは勝手に熱くなって……

「高貴なぼくの手を汚す価値があるかどうか、みせてもらおうか……そこの醜く歪んだ小男に」

 とリセルヴァ・キアンティが冷笑した。

 マイルズの傍らのエリが苦笑した。実はベルやタングも目尻がかすかに笑っている。

「高貴がなんだと言うんだ、お前に分かるとでも……所詮貴族などフィクションに過ぎないと、いや、そんな態度は自称貴族によくあるな」

 マイルズが忌々しげに吐き捨てて通信を切り、笑い転げるエレーナをにらむ。

「任務を果たさなければ元の宇宙には帰れない。悪いが死んでもらう」

 とレッド・アイ。

「そうとは限らない。協力してこの厄介な多元宇宙を切り抜けないか?」

 とビル・ニュートンが告げるが、レッド・アイは無造作に通信を切った。

「よく覚えといてね、おいらはベルモット・マティン。チャームポイントはハ・チ・マ・キ。そうそう、もう一人いるんだけどさあ、ちょっと無口でねえ」

 と、赤に黒が混じる機体が出現し、一瞬で人間の姿に変型した。

 その機体には右足がなく、右手も不自然だ。

「よく見ろ、あの右手は自然な手じゃない、背中から伸びたアームにつながれた大型機関砲だ」

 ブリットが興味津々に言った。

 直後、かなりの距離からヤマトを黒い光の筋が多数襲った。

「この威力と連射速度、ショックカノンに匹敵するぞ!」

 真田が叫ぶ。

「命中精度も高いです、あの距離から正確に」

 南部が目を見張った。

「接近させるな! ロボット隊、頼む!」

 古代が叫ぶ。

「あ、あれはクワトロ、いやシャアだ!」

 カミーユが叫ぶ。

「そ、そんな……でも、そうだ」

 ハサウェイが目を見張った。

「アムロは、アムロは無事なのか! シャア、応答せよ、なぜ敵についている!」

「ブライトさん、何か感じがおかしい……強く洗脳されているような」

 カミーユがあわてた。

「そうか、とにかく降りかかる火の粉は払わなければ……だが、シャアが生きているとすればどこかでアムロも生きているかもしれない」

「ああ、そのためにも」

 カミーユがシャアの機体をにらむ。と、そのまま変形し、ウェイブライダー形態で一気に突進した。

 接近してZが再変型しようとしたとき、シャア機の左腕と、展開した胸から放たれた恐るべき稲妻の嵐がZを包む!

「うわああああっ!」

「緑のシールドがあるのにこのダメージとは」

 ワーウルフの牽引ビームが間一髪Zを救出するが、その機体のダメージはすさまじいものがあった。

「「主砲発射!」」

 ヤマトとアカガネのショックカノンの嵐で、かろうじてZが逃れてペリグリン号に逃げ込む。

「助かった……あの機体は危険だ」カミーユがきっとにらみつける。「とんでもない何かがあるんだ。人間の世界のものじゃない」

「敵機接近」雪の声。

 紋章機もどきが大きく弧を描き、高速でヤマトを襲う。

「ヤマト、右舷全速!」タイラーの大声。

「別の敵に警戒しろ、ヤマトを射線上に入れず援護の準備!艦載機発進!」すばやくヤマモトがフォローする。

 紋章機もどきの性能は驚くほどで、ヤマモトの堅実な指揮とスーパーロボット隊の優れた能力がなければ危険だったろう。

 また、高速で迫るボーグキューブの圧倒的な火力には誰もが驚かされた。

 

 マイルズにとって、それは初めてだった……使いこなしてもらっている、というのがこれほど気持ちのいいことだとは。

 自分が無茶と思える作戦を思いつく、と同時にさらにその斜め上の、そして自分にはそのとんでもない有効性がわかる作戦がタイラーから指示される。前線指揮官としての自分、そしてエリ・クィンやエレーナ・ボサリ・ジェセックの資質も、会ったばかりなのに最大限に、出し惜しみなく引き出される。

 彼自身の秘めた夢、父であるアラール・ヴォルコシガンの指揮下で本当の戦いを戦いたい、という思いが満たされるような気さえする。まあその夢はカイ・タング准将も別の意味で同じことだ。

 古代やテツヤ、レフィーナら若手の艦長にとってもそれは同じだった。タイラーの指揮だけでなく、マコト・ヤマモト参謀の堅実なフォローに的確な事務処理、アンドレイセン旗艦艦長の豪放と勇気……その優れたスタッフたちからも学ぶべきものは多い。

 戦いそのものは、タイラーがタイミングよく退却を命じたために、どちらも大きな被害はなく互いに退いた。

 

「よかったらこっちでブワァ~っといこう、酒はうまいしねぇちゃんはきれいだ!」

 タイラーの誘いで、ロンドベルたちは中立地帯近くの軍保養星を訪れた。

「故郷の地球で、地下で放射能におびえ死を待っている人々を思うと」

 とヤマトのクルーは苦しんだが、マイルズが率先して楽しむ姿勢を見せたことから気持ちを切り替えた。彼らも所詮訓練学校を出たばかり、それを言うならこの混成隊は若者が多い。

 惑星ネオ・ショーナンは素晴らしかった。見方を変えれば海と単一の大陸しかないのだが、見渡す限りどこまで行っても砂浜珊瑚礁砂浜珊瑚礁砂浜砂浜に茂るヤシ。ただしはるか東側はモンスーンに洗われ、こちらは森と農地がたっぷりあって人口も多く、充実したレアメタル鉱山をもつ衛星は大規模なドックとなっている。

 描くことと言えば女性陣の水着姿のみ……といっても、挿絵を描く力もないしマンガでもアニメでもないので、読者の想像に任せよう。

 

 

 その頃、同じ時空の少し離れたところに、エンタープライズ・エルシオール・ミネルバが飛び出し、敵対的な艦隊に囲まれていた。

「わが栄光あるラアルゴン帝国領宙に侵入した不届き者よ、絶対服従か全滅か選ぶがよい」

「戦うか?」と聞くジョウをピカードは軽く手で制し、ウォーフにうなずきかけた。

 ウォーフがクリンゴン語で吼える、「モーグの息子、ウォーフだ!戦士たる我らを奴隷とせんとは笑止、ともに戦士ならば名誉ある出会いは決闘あるのみ!今日は死ぬにはいい日だ!」

 画面の向こうの、長身でやや細身、堂々とした赤毛の提督は莞爾と笑ってうなずく。

「名誉ある申し出、しかと受けた。ならば闘神アードラへ生贄を三人出すがよい、戦士らしく戦おうぞ!我が名はラアルゴン帝国国防長官兼任大提督ル・バラバ・ドム」

 三人の艦長はその圧倒的な圧力に一歩も引かず受け止める。

「惑星連邦USSエンタープライズ艦長、ジャン・リュック・ピカード」

「クラッシャージョウだ」

「トランスバール皇国近衛艦エルシオール艦長、タクト・マイヤーズです」

 壮絶な笑みを残して通信が切れ、移動座標が示される。

 タクトがピカードに微笑みかける、「さすがピカード艦長」

「あのような種族とのファーストコンタクトも何度もやってきた。誠実と思いやり、相手の論理を尊重するのみだ」軽く微笑む。

 そのまま、彼らに導かれるように航行する。

「彼らを信じろ!あのタイプの種族は戦士の名誉を重視する。だまし討ちはない!全ての回線を常にオープンにしろ!シールド解除を保て!」

 ピカードの命令に彼らは当然のように従う。

「あれは……ひどい、末期の赤色巨星だ」送られたラアルゴン本星の映像に、ジョウが驚いた。

「惑星はあるが、生命維持ギリギリだぞ」ピカードが眉をしかめる。

「いつ超新星化しても不思議はありませんね」データが告げる。

「あれがわれらの母なる星だ。今別に戦っている戦争に利あれば、第二の母星に移住することもできようが」ドムが不敵に笑う。「ここならばよかろう」

 とドム自身、そして副官のバルサロームとシア・ハスの三人が並んだ。

 こちらはウォーフ、ジョウ、ランファの三人が進み出る。

「転送の許可を」

「許可する」

 と、ドムの旗艦内部の広い一室、地面に砂を敷いた円形の闘場に三人が出現する。

 六人それぞれが、恭しくささげられた武器盆から、思い思いに武器を手にする。ドムが目で「ラアルゴンの名誉にかけてこの武器にイカサマはない」と言うのに、ウォーフが重くうなずく。

 ドムは彼自身のようにすらりと長い、日本刀に似た長剣。

 バルサロームはその外見に合わぬ、豪放な宇宙斧。

 シア・ハスは海賊らしいカットラスを手にし、笑いながらかすかに左腕を切って血で唇を染める。凄絶なまでに妖艶な美しさだ。

 ウォーフはちょうどクリンゴン斧に似た斧を手に。

 ジョウは野球バット程度の長さの細い鉄棍と牛刀に似たDガードつきのナイフ。

 ランファは独特の弧を描いて拳を広く補強する、優雅にして凶悪な鴛鴦鉞を。

「いざ!」

 雄叫びと共に、六人が激しくぶつかり合う。

 力と力、技と技、勇気と勇気、いずれ劣らぬ強者たち。

 ドムの凄まじい剣閃に胸板を深く切り下げられたウォーフが、ひるむどころか嬉しげに吼え、激しく打ちかかって土煙を上げる。

 バルサロームとジョウが、正面から激しい力比べになる。

 シア・ハスとランファが、ともにあまりに華麗な剣舞を見せる。紙一重で服だけ切らせてともに肌をあらわにしつつひるまず戦い、互いの血化粧を増やしてゆく。

 それぞれの愛する人たちは、艦でひたすら唇をかみしめ、固唾を飲んでいた。

 右肺を貫かれたジョウがそのまま刀身をつかんで自分を貫かせながらドムに迫り、その喉に手をかける。ドムは嬉しげに笑ってジョウの顔をつかみ、凄まじい握力で握りつぶそうとする。互いの口から恐るべき声が漏れ、その腕が筋肉にはちきれようとする。

 いつしかウォーフとバルサロームが、秘技の限りを尽くした寝技戦となっている。ウォーフは左アキレス腱と膝をねじ断たれ、バルサロームは右肘があらぬ向きにへし折られながらともに闘志は衰えない。

 床に血の水溜りを作りつつ、ランファがシア・ハスに激しい蹴りを見舞う。右腕を犠牲に受けたシア・ハスの、左に持ちかえての一閃に血しぶきが飛ぶが、その血を目くらましにランファが影から地に這って、のびあがる肘がシア・ハスの脇腹をとらえた。シア・ハスの口からも血が吹く。

 突然凄まじい警報音が響いた!

 ピカードが振り返り、その温厚な顔を激しい憎悪に染めて叫ぶ、「ボーグ!」

「我々はボーグ。お前たちの生物的特性と科学技術は我々と同化する。お前たちの文化は我々と同化する。抵抗は無意味だ」

 その、ピカードのその口からも出した言葉が通信で響く。

 とっさにドムが、手を離して飛び退る。

「これほどの楽しみを放棄するは心苦しく闘神アードラにも申し訳ない。されど我は何よりも帝国国防長官兼任大提督、あの悪辣きわまりない侵略者との戦いこそ」血しぶきをあげてジョウを助け起こしたドムが叫び、忠臣二人も引く。

「なにもおっしゃいますなドム閣下、我々にとってもボーグは最大の怨敵。共に戦ってください!」ピカードが叫ぶ。

 バルサロームがウォーフを助け起こす。

「ラアルゴンの名誉はこの血にかけて!」ウォーフが叫ぶ。

「汝らを戦士と認める!」ドムの言葉に、ラアルゴン艦隊の全員が最敬礼した。

 ランファとシア・ハスがほほ笑み合いつつ優雅に一礼した。

「タクト、ジョウ。ボーグに対する恨みは半ば私怨。されど奴らはどの宇宙のいかなる知的種族にとっても敵であることは、命にかけて誓います。どうかともに」

「何も言わなくていい!共に戦うのみ」タクトが微笑み、かたわらのシヴァが力強くうなずく。

 ジョウが黙って、胸に風穴を開けたまま一度ナイフの刃を出し、鍔を鳴らした。その衝撃にも血を吐くが、無理に飲みこんで微笑む。見ていたアルフィンが気を失いそうになるが、唇を噛み破って耐え、ファイター1に飛び込む。

「転送を許可する、勇士の治療を!」ドムの命令下、ウォーフ・ジョウ・ランファ三人の姿が消える。

 バルサロームとシア・ハスはともに、重傷などないかのようにそれぞれの持ち場に飛ぶ。

「アムロ、出ます!」νガンダムがもう飛び出し、ラアルゴン本星に迫るボーグキューブに、一瞬かき消えたかと思うと肉薄した。

「ボーグに同じ攻撃は二度通じない!」ピカードが叫ぶ。

「ファイター1、2、出る!」リッキーとアルフィンが飛び出す。

「応急処置だけでいい、ミネルバに転送してくれ!」とジョウがビバリーを怒鳴りつけた。

「頼む!戦わねばならぬ」ウォーフも必死だ。

「二人とも長期入院が必要な重傷なのよ」といいながら、ビバリーがかなり痛い応急処置をする。

 ランファは応急処置なしで出撃するからエルシオールに転送してくれ、と直接ライカーに頼みこんでいるが、ライカーもそれどころではないので無視され、デッキに飛んでシャトルを奪おうとしてデータに止められていた。

「今のあなたの失血量は即刻の輸血がなければ長時間の生命維持が不可能で、最低三十時間の絶対安静が必要です。また左肺に外傷性気胸、右足に大腿骨に達する傷があります。脳内麻薬の影響を考慮に入れても、あなたの戦闘力は10%程度と思われます」

「バカ、そういう問題じゃないのよ!紋章機はテンションで動くの。テンションが高ければ、肉体がどうでも気力でカバーできる!おねがいピカード艦長!みんなと戦うの!送ってくれるまでここで暴れるわよ!」

「送ってやってください艦長、共に戦った戦士として、彼女の闘志を尊重します!」ひきちぎった包帯を引きずり、フェイザーライフルを杖にブリッジにたどりついたウォーフが叫んだ。

 困った顔をしたピカードがうなずき、歓声を上げて笑顔を輝かせランファがウォーフに抱きついて、エレベーターに飛んでいった。

 ウォーフは困惑しつつも、むしろ闘志の心地よい高ぶりに身を任せ、画面のボーグキューブを見ている。

 ラアルゴン艦隊の激しい攻撃に、次々にボーグキューブのあちこちから火が吹く。

「私を信じてくれ!この座標に攻撃を集中しろ」ピカードの言葉に、まず瞬間移動したνガンダムのファンネルの吐息が刺さり、そこにミルフィーのハイパーキャノンが、ファイター2のミサイルが大槍のように突き刺さる。

 ミネルバがその影から迫り猛攻を加える。

「離れろ!」

 ピカードの叫びと共に、エンタープライズの量子魚雷が突き刺さって大爆発を起こす、それをミネルバがタロスの鮮やかな操縦で回避する。

 飛びだしたカンフーファイターが、ランファのすさまじいテンションに応えてボーグキューブの火線をかいくぐり、深く抉るように引き裂く。

「おおう!我らもゆくぞ、友に笑われるな名を惜しめラアルゴンの勇者たちよ!」ドムの叫びに応えるように、完璧な艦隊機動でラアルゴン艦隊が援護に入り、射程も何もない密着しての猛攻。

 さしものボーグキューブもたまらず、そこにエンタープライズが肉薄した。

「乗りこめ!ボーグは生身の兵士は無視するし、センサーをごまかせば認識できない!」

「それはよいことを聞いた、行くぞ!」ドムが叫ぶ。

 傷を掠めたエンタープライズから兵士たちが、そしてラアルゴンの強襲揚陸艦が突き刺さり最低限の宇宙服だけの兵たちが駆けこむ。

「これを使え、位相変調フェイザーだ」

「ありがたい!」

 ピカードが放るライフルをラアルゴンの精鋭は嬉しげに受け止め、そのままボーグキューブに走りこむ。

「慎重に動け、敵意を見せるな。攻撃しない限り、生身の我らは奴らにとって無視すべき虫けらに過ぎない」

「腹の立つ話だな」と、こちらはほぼ無傷のドムが先頭に立ってピカードと肩を並べた。

 ボーグキューブの最深部、罠を知り尽くすピカードの案内で奥に向かう。

「待っていた……ロキュータス……」

「やかましい!」

 ドムの腰から鞘走った剣がボーグクィーンを切り下げる。

 彼を守るように、ピカードが襲い掛かるドローンと激しく格闘し、次々に倒していく。

「艦長、ボーグキューブが崩壊します」

 データからの通信を受けたピカードたちが素早く撤退する。

 その中、襲ってきた元ラアルゴン人と見えるドローンを、ピカードを制止したドムが叩き切った。人間離れした動きをするドローンを一瞬で……ドム自身の身体能力が人間を超えている。

 ピカードは何も言わずうなずいた。言葉は必要ない……自分もまた、ボーグとなった部下や友を自らの手で殺したことがある、そして自分自身もボーグとされた事も含めて。

 言葉なく痛みを分け合える、背中を預けられる戦友との出会いに、胸の痛みが熱さに変わった。

 

 ピカード達が脱出した瞬間、黒の剣がボーグキューブを深く断ち割り、聞き取れぬ重低音の音楽、歓喜の声を上げてその魂たちを吸いつくしていった。

「恐ろしい剣だ」

 ドムがつぶやく。

 

「ではあらためて歓迎の宴を。その上でなんとか、もとの世界に帰れるように我々も尽力しよう」

 あらためてそれぞれの艦に戻り、一同はドムの案内でラアルゴン本星に向かった。

 そこではジョウらの希望によって盛大な儀式ではなく、自己紹介もない無礼講だが心のこもった歓迎が待っていた。古い伝統を持ち、儀式張ったことを好むラアルゴンの伝統にはそぐわないが、ジョウたちの質実剛健をドムが気に入ったからでもある。

 無礼講の中でも、一人の少女の姿は際立っていた。彼女が誰なのか、紹介の必要さえなかった。ただいるだけで、周囲のラアルゴン人の反応など見なくても、彼女が皇帝であることははっきりしていた……ゴザ16世アザリン。

「歓迎するぞ、戦士たる客人よ。このような宴でよかった、ジョウにも感謝せねばなるまい」

 アザリンがシヴァに声をかけた。同じ程度の、まだ幼さが残る年頃。燃える赤毛と目。恐ろしいまでの美しさ、宇宙的なまでの形容を絶する威圧感と気品。

「あ、あなたは……」

 シヴァが圧倒され、口もきけなくなる。

「朕の身分もなし、そなたたちの身分もきかぬ。朕が別の宇宙に流されたのであれば、すべてなんの意味もないであろう。ただ実力と誠あるのみ。そなたたちが信じるに足る戦士であることは聞いたし、見た。いかなる助けも惜しまぬ」

「は」

 アルフィンがとっさにシヴァを支えようとしたが、彼女自身もそれに圧倒されていた。

(まさしく……これこそが、王。お父さまが見せる気迫と同じ、でもその何千倍?ピザンの王適性試験でも、満点はおろか……)

 ただ二人息をのむ。

 シヴァがある動きをしようとしたのを、アザリンが止めた。剣客が敵の抜きかけた刀の柄頭を押さえるように自然な動作で。そして一瞬遅れ、侍女がシヴァを抱き止めた。

「そなたたちにも故国があろう。ややこしいことは、恒久的なつながりができたのちでよかろう」そしてシヴァに声を落とした。「君主の孤独をわかってくれる友がいて嬉しい、これから仲良くしよう」

 にこっ、と輝くような笑みを残したアザリンが、今度はピカードのところに向かった。

 シヴァが崩れるように足が砕けて床に座りこみそうになる。

「シヴァ……さま」

 侍女がなんとか支え、椅子に座らせた。アルフィンがとっさに飲み物をとりに行く。三人とも、足腰も危ういほど震え上がっていた。

「すまぬ……皇国を売ろうとしてしまった」

 がたがた震えるその手にアルフィンが飲み物をわたし、シヴァがかろうじて飲み干すのを見てその小さな手を強く握った。

「あなたが弱いわけでも悪いわけでもない、あれほど圧倒的な王に会ったのですもの」

「だ、だが」

「万の王を並べても一人か二人、このラアルゴン帝国の歴史でも空前絶後でしょう」

 そこに、ドムがつと寄って声をかけた。

「驚かせてすまぬ。アルフィンだったな、そなたたちの闘いぶり、見事であった」

「失礼いたしました。光栄でございます、ラアルゴンの皆様もまさしく」

「礼は不要と申したであろう。さて俺は何も知らないことに、いやそんな腹芸はラアルゴンらしくない。アルフィン、そなたも王族であろうし、シヴァ、貴女も故郷の時空で王であるようだな」

 シヴァがまだ足を震わせながら、ひたとドムの燃える目を見て、かすかに頷いた。

「言質を取ったりはせぬ、責めることもない。アザリン陛下の器は我らもうれしいほどわかっておる。陛下ほどの帝器が生まれてくださったこと、俺もよい時に生まれてかの陛下に仕えるを得た幸運に感謝するのみ。そのことについてはあのワングめにもいくら感謝しても足りぬ」

 ドムの面は誠意と忠誠、喜びに燃え上がっていた。それもまた、シヴァにとってはかなり威圧的ですらあり、このような臣下に恵まれたアザリンを羨む気持ちもかすかにあったが、(マイヤーズたちがいる、それもこれ以上ない幸せだ)と思い直す。

「ワング?幾度か聞きます、恐るべき佞臣であったと」

 アルフィンが興味深げに。

「そのような言葉では言い尽くせぬ。陛下の兄上、そして先帝御夫妻をも殺し、傀儡として擁立したつもりであったろうが……」

 ドムの憎悪に満ちた目に、女性の身が引きつる。アルフィンがささやこうとしたが、それより早くシヴァが、

「トランスバール皇国、追放された皇子が援軍を得て帰還し、首都を襲って父皇王はじめ一族を殺した。私ひとり、白き月にいて生き延び、忠実な者に連れられて逃げ延びた。そのさなか、時空の門に巻き込まれて……」

 まだ震えの残る声で堂々と言った。

「お察しする。なればこそ、よけいな忠告をしたい……強くあれ。陛下を見習ってよき友と臣を信じてたくさん笑い、よく学び体を鍛え、戦うことだ。辛ければ辛いほどに……陛下も、天才であればこそ日々たゆまず努力もされ、われら臣には思い及ばぬつらさも抱えておいでになるのだ。励めば自信となり、それが器を大きくするだろう」

 と、にこっと圧倒的な強さの笑顔を見せたドムがダンスの場にふわりと出た。いずれが誘うともなくフォルテと、そしてビバリーと踊り出す。優雅でさえある鍛え抜かれた身ごなしに、満場がため息をつく。

 ほうっ、とまたシヴァが息をついた。

「強く、ならねばならぬな。あの方のように。器が今小さいならば、励めば大きくなれる、信じよう」

 と、ピカードと談笑しているアザリンの後ろ姿を見つめる。

「皆様信じていい方々です。いかなる策謀もなく、ただ戦士の信義のみ。シヴァさま、どうか信義には信義を」

 アルフィンの言葉に、シヴァは強くその手を握った。

 侍女が万感の感謝をこめ、踊るドムに目礼した。

 

 数日後、突然ラアルゴン本星の周辺に、ボーグキューブやバッツーラ、バクテリアンなどが出現し、猛攻をかけてきた。

 この宇宙のワープ技術ではラアルゴン本星などの重力干渉で不可能な、超長距離ワープからの完全な奇襲。しかもまるで波動砲と閃光手榴弾をかけあわせたような、広範囲に将兵と電気設備を麻痺させる兵器の一撃があり、同時に地上に突如出現した黒い兵士と15mほどの人型機動兵器、歩行砲台、高速で飛びまわる数機の大型戦闘機が恐ろしい速さで宮殿を蹂躙していった。

「こしゃくな!陛下を守れ!」

 ドムが叫び、近衛隊を率いてアザリンの住まう宮廷に急ぐ。アザリン自身も、自ら特注のカイザースーツをまとい、黒い人型機やボーグ兵と激しい戦いをくり広げていた。彼女自身幼くして、育ての父と言うべきユッター・ド・ロナワーより受けた厳しくも愛情に満ちた学びの中、なまじの武術教師などおよばぬほど格闘の基本をたたきこまれ、それを天才と血のにじむ研鑽で磨き上げてきたのだ。

「陛下!ご無事でしたか」

「朕は心配ない。ゆくぞ、不届きなる侵略者を撃滅する!」

「応!」

 アザリンとドムの叫びを受けたラアルゴン兵はまさに無敵の強さを発揮し、じわじわと重囲を押し返す。次々とカイザースーツから放たれるマイクロミサイルが、宮殿の地形の複雑さを利す人型機の関節を正確に穿ち無力化していく。

 ドムのライフルが次々と敵の指揮官級を狙撃する。自分も敵弾の嵐に身をさらしつつ、致命弾は首をかすかにひねるだけでかわし、致命傷にならぬ弾など無視して撃ち続け、時には剣を抜いて斬りこむ。

「客人たちの無事も確かめよ!」

 カイザースーツには高い指揮通信能力もあり、宮廷全域に即座に連絡が行く。

 そのアザリンに、高速の黒き紋章機もどきが迫る……対空砲も対ビームコーティングで弾かれるが、放つミサイルを大量の高速実体弾が撃墜する!

「フォルテ・シュトーレン!」

 ドムが叫び、笑顔を振り向けた。

 彼女はハリネズミのように大口径の銃器を身につけ、壁の隙間から激しい援護射撃を送り続ける。電子麻痺も旧式の火薬銃器にはなんの意味もない。

「傭兵時代を思い出すねえ」

「感謝する!」

 アザリンが叫び、自らカイザースーツを最大噴射して光剣を抜き、フォルテの放った年代物の無反動砲弾を煙幕に紋章機もどきに接近戦を挑む。

 

 宮殿の客室に休んでいた皆も、素早く飛び起きる……が、完全な武装解除ではないものの、体面を損なわぬ武器以外は自主的にそれぞれの艦に置いてある。

 それぞれの艦こそ、最初に激しい電子攻撃を受け、連絡もとれない。

「ピカードよりエンタープライズ、応答せよ!ブリッジへ転送!」ピカードがくり返し胸のボタンを叩く。

「艦長!」ライカーが酒瓶の入ったケースを担いで走りこんだ。二人ニヤリと笑みを交わし、即席の火炎瓶として敵を撃退する。ラアルゴンの殺人的に強い酒は目に見えぬほど熱い炎を発して敵の暗視装置を焼き切り、その間に壁に飾られた剣が閃く。

 遠くではリッキーのアートフラッシュが咆え、タロスの腕の機関砲が爆音を上げている。

 

 激しい戦いは、まるで津波が引くように去っていった。敵はまるでかき消えたように、来たときと同じく消え失せる。

 そして調べたとき、衝撃が走った……タクトが重傷を負い侍女が麻痺銃に倒れ、シヴァとアルフィン、そして隣室のミルフィーユとディアナ・トロイの姿がなかった。

 調べても死体は見あたらず、捕虜となったとしか思えない……

 

「朕らが目の前で、このラアルゴン帝国……あえて栄光あるとは言うまい!認めた客人、友の安全を守れなかったのだ!」

 その威にドムが平蜘蛛のようにひれ伏す。

「万死、いかなる拷問の上の処刑も」

「ならん!そなたを責めてなんになる。拷問と処刑に値するのはこの朕じゃ。ラアルゴン帝国の臣民全てに告ぐ、ラアルゴン帝国の名誉を取り戻すため、客人たちをなんとしても救出してくれ!それまで朕も含めラアルゴン帝国のすべて、ただそのためだけにある!」

 凄まじい怒号が、帝国全土を震わせた。

「朕自らも、我らを信じて艦を降り身を預けてくれた客人たちを助けるため、いかなる遠征にも赴こう!手がかり一つのため単身別の時空に、身を売りものを乞うて彷徨うも辞さず!」

 ドムがショックに身を震わせる。ラアルゴンの人々も。

「タイラーにこの事態を打電せよ。彼ならば朕の苦衷を分かってくれよう。いかなることをしても」

 ドムは即座にその意を察した。最悪の場合、タイラーにクーデターのための戦力を供与しても、と。アザリンの名誉のためなら反対派を押さえるためクーデターを起こし、惑星連合を掌握してラアルゴンに全面協力してくれるはず……自らの地位も名誉も忠誠も捨て、汚名を着ることも辞さぬ、と。

 遠く敵にほかならぬタイラーが、この美しき皇帝がもっとも信じる忠臣なのか……嫉妬に燃えるのも、すべて敵への怒りに変える。

 アザリンがそれほどまでのことをしてくれる、と理解したピカードたちも深く感動し、闘志も新たに応急修理に励んだ。

「いいか、この恩を忘れたらクラッシャーじゃないぞ」と重傷を押して出たジョウがリッキーに言う。

「わかってらい」

「それに、忘れるな……アルフィンは命がけで今もシヴァ皇子を守ってる。そして、おれたちのわがままのために命と軍歴を賭けてくれたタクトも、シヴァ皇子のために戦い抜いた。いいな」

「ああ、アルフィンよりもシヴァ皇子を、それにミルフィーユさんを助けるほうを優先しろってんだろ。わかってら。すぐにでも戦いたい、あの黒いやつらを叩きのめしてやりたいんだ」リッキーの声が涙でつまりそうになるが、振り払ってエンジンの隅々まで目と手をはわせ続けた。

「それに、あのおいしいクッキーもまた食べたいしな」タロスが静かだが、限りなく重い声でつぶやいた……恋人と主君を奪われたタクトのことを思えば彼自身も気が狂いそうなほどだが、ベテランである彼が慌てるわけにもいかない。リッキーに責められてもどっしりのんびり、そしていざとなればまず自分が命を投げ出す覚悟を固める……ガンビーノのことを思いつつ。

 

 秘密通信の返信は衝撃的だった。

 タイラーもまた並行時空から彷徨いこんだ艦隊と遭遇し、保護していた……その中のブライト、レフィーナらの名前は、アムロにとってあまりにもよく知る名前だった。

 さらに、せっかく同じ宇宙にいることを知ったのに、その幾人かはまた敵の手にあるとも……

 

 その襲撃はタイラーが留守の間であり、あまりに突然だった。

 アカガネを軌道上のドックで修理しつつ、その設備を見学したり訓練したり、さまざまな形で仲間たちが混じり合っていた。アカガネのクルーの多くも、バカンスや他艦の見学で出払っていた。

 そんな隙を一瞬で突かれた。

 超長距離の、並行時空の壁すら越えるワープからの奇襲。巨大な黒の月が出現したかと思うと広域であらゆるエンジンや蓄電池が無力化され、アカガネだけを速攻で接舷し奪取、軌道上での危険なワープ自体を武器に周囲を破壊して消え失せた。

 多くの並行時空の技術を結集した、最も危険な艦が、すでにシャアを操っている敵の手に落ちた。テツヤ艦長、エクセレン、クスハ、ラミア……人型機の研修に訪れていたネイスミス提督、レーダーシステムの改修に協力していた森雪、見学に来ていたシリウス号のスティヴンスとナディア夫婦にヴァーナ・ピッカリングとブランドン、そして休暇中のハナー・シスターズ……スペオペのお約束として美女が多いだけでなく、優秀で敵に操られでもすればこの上なく危険なメンバー。

 

 アカガネの、隔離され監房と化した光もない一室が開く。

 抵抗しようとして二カ所骨折し、押しこめられていたマイルズは、一瞬二日ぶりに見た光に目を奪われ、そして光が消えるのを惜しんだ……美しい金髪の輝きが一瞬だけ目に残り、そしてまた暗黒となる。

 二人の人が室内に突き飛ばされ、また扉が閉ざされた。一人は女性、もう一人はまだ幼さが残る子供だ。

「誰だ?」マイルズの声。

「捕虜、だと思います」女が、男の声に怯えながら告げる。

 ほんの一瞬の光に、部屋の中の奇妙に歪んだ矮躯はしっかり目に焼きついた。本能的な恐怖に、子供が女に強くしがみつき、女はこの子だけは守ると母のように子をかばった。

「私も捕虜だ」マイルズの穏やかだが芯の通った声に、二人が何となく安心する。明らかに人を指揮するのに慣れ、激戦をくぐってきた司令官の声だ。「所属と名前は?」

「クラッシャーアルフィンとシヴァ」アルフィンが言う。

「怪我は?」

「な、ないわ。麻痺銃酔いはあるけど。あなたは?」

「マイルズ・ネイスミスだ。アカガネを視察に来ていて捕らえられた。共にここに来ていた人々や、タイラー提督の世界の人間ではないようだな?」

「アカガネという名は聞いたことないわ。ラアルゴンで聞いた惑星連合の艦名のパターンでもない?」

 互いの顔も見えぬ暗闇の中、マイルズがズボンを指で叩く音がする。これはこれでかなり有効な拷問だな、と思いながら……アルフィンからの女の香りは強烈だった。

「さて、どうやって脱出する?」マイルズが性急に、もう我慢できないという感じをむき出しにした。

 アルフィンが慌てて身を探る。アートフラッシュは二つ残っている。だが、彼にその存在を言って大丈夫だろうか?

「あなたがたがわたしを信用できない、こちらも同じだ。でもそれは、敵にとって最大の武器になる。わたしはあえてあなたがたを、全面的に信用する」マイルズの静かな声。「互いの顔も見えない、それは敵にとって有利だ、信頼関係を結ぶのが難しくなるから。男のところに女子供を入れた、それは敵にとって有利だ、男が劣情を催せば、女子供が性暴力を恐れれば争いになるから。初対面なのだから、互いの行動だけが判断材料だ。あなたがたはわたしに暴力をふるっていない。今のところわたしはあなたがたの密告で罰を受けていない。わたしはあなたがたを犯そうと今までのところしていない。暴力も今までのところふるっていない」言葉の中のくり返しが、巧妙にパニック状態の心に染みこんでいく。

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