スーパーロボット&宇宙戦艦大戦MW   作:ケット

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新たな敵、決戦

「上空で、なにが起きている?そういえば、タネローンと言われる都市そのものには連れていってもらっていないぞ」

 ベックがメーテルをとがめた。星空では、星とはまったく違う爆発の閃光が次々にひらめく。まるで激しい雷嵐だ。

「それどころか、この駅とホテルのあるドーム都市から、我々は一歩も出ていない。この星はなんなのだ!」

 マイルズが強く言う。

 ホテルの広い運動場では、ラミアに罵られつつ鉄郎とシヴァが激しい訓練を続けている。自らの体重より重い荷物を背負ったまま、急な坂を走って上り下りし、穴を掘ってはその中に隠れ、すぐに全速力で走ってまた伏せたまま掘る。

 スティヴンスが率先して、圧倒的な体力で模範を見せていた。

「肘を上げるな!」

 ラミアの鞭のような叫び、スタナーが鉄郎の身体を痙攣させる、身体が高く跳ね上がるほどに。

「何も高くせず掘れ!味方が死んでも動揺するな!前進しろ!」容赦ない叫びに、シヴァが鋭く走り、よろめくように倒れて穴を掘る。

「立て、走れ!その程度の子を産んだ母親など、死んで当たり前の虫けらだ」

 ラミアの声に、鉄郎が激しい怒りを爆発させる。

「母さんを、悪く」

「声を出せるなら、走れ!」

 マイルズの怒鳴り声。

「ちくしょおおおおっ!」

 それは走るではなく、よろめきながら這いずる、といったほうがよかった。

「そろそろね、休息も」メーテルは哀しげに言って、皆を集めて入浴させる。

「やっと休める」と、慢性的な寝不足とスタナー酔いで風呂に反抗する気力もない鉄郎がつぶやいた。

 シヴァは声も出ず、アルフィンに抱きかかえられてえずいていた。気力が切れれば自分の足で立つこともできない、ナディアとアルフィンの二人に身を任せ、赤子のように洗われる。

 アルフィンも、クラッシャーの資格を取ったときに厳しい訓練を受けた。だが……あまりにも苛酷すぎる。怒りをマイルズやラミアに叩きつけたい、だがシヴァ自身がそれを望んでいること、皆が子供たちのことを思っていることはわかっている。

 

 ドームから出た、そこは戦場だった。

「内戦が起きているの」メーテルはそれだけ言い、静かに自動運転に任せた。

 巨大な廃墟。どれほどの都市だったのか、それがどれほどの兵器で破壊されたのか。

 どれほどの人が死んだのか。

 廃墟で寝起きするボロをまとった人たち。

 鉄郎は痛ましげに、「助けたい」と言ったが、メーテルは無視した。

 そして、荒廃した惑星の奇妙に無事な、美しすぎるのが逆におぞましさを感じる超近代都市に着いた。

 巨大な美しい塔、その入口から、偽りの頂上ではなく真の、地下洞窟に案内される。

 そこには、美しい女王が一同を待っていた。

(セタガンダのホート・レディより美しい)マイルズは恐怖さえ感じた。

「よくいらしてくださいました。メーテル、ガイナン、お久しぶりです。そしてフォン・ベック、以前お目にかかったときはエルリックの名でしたね。その折りには、わたしも別の名でしたが」

 それきり、テレサは瞑目した。

 マイルズが一同を代表し、バラヤー式ではあるが完璧な宮廷儀礼で挨拶する。

 テレサは一同を歓迎したが、「この戦いに、わたしは介入できません。この星自体が内戦で滅びに瀕しています。わたしにできるのは、あなたがたを、お仲間たちに会えるようにすることだけ」と悲しげに語った。

 先を知っている者の悲しみ。滅びゆく者の悲しみ。ヤマトの乗員なら、それはよく知っているだろう。

「かしこまりました。任せると決めた以上、きたものに応じるだけです」

 マイルズが微笑み、全員を見渡す。

「では、こちらへ」

 テレサが導いた、宮殿の秘められた一角にある、競技場のような広い路面。テレサが手を振るや、そこにコスモレトリバーとワーウルフの巨体が出現した。

「アカガネはこちらの位置にあります。どうか、〈天秤〉を守って」

 テレサがそう言って、祈り始めた。それと共に、全員が乗ったレトリバーと、ラミアが乗ったワーウルフが輝き、消え失せる。

 彼女はわかっている。自分はそれから、超能力の暴走で母星を滅ぼし、白色彗星の警告を地球に打電することを……だがそれは、もう別の物語である。

 

 

 

 いつ、時空の壁を越えていたのかは誰も知らない。混乱した戦線、膨大な敵を相手に戦い続けていただけだ。

 レフィーナがふと気づいた、「今、位置確認をしようとクエーサーを観測しました。ここは、わたしたちが出発した時空の、銀河系の外れです」

「またか」もう、誰もがそれには慣れてしまっていた。

 それと前後して、敵に新しく増援が加わった。かつて戦ったことのある、シェリーの隊だ。

「シヴァ皇子はどこ!」

 それはこっちが聞きたいが、そんなことを言う必要はない。

「わかっているのよ、早く渡しなさい。最後通牒よ」

「最後通牒は一度で充分だろう。外交的な解決は不可能なのか?」ピカードが問いかける。

「あの大量虐殺を見ただろう!」レスターが叫んだが、ピカードはそれでもだ、と目をゆるがせない。

「無理よ。われわれは、絶対にシヴァ皇子を諦めることはない。攻撃開始!」シェリーが冷たく言い放つ。

 新手はスピードが速く、高く統制されていた。

 その動きを見たドムが、軽く頷いて通信を求める。

「シェリー!そなたが、堂々と戦っていることは見た」そしてタクトやピカードにうなずきかける。「手札をすべてさらす。そちらもそうしてほしい」

 その目を、シェリーはじっと見つめ、ほおえんだ。

「わかったわ。シヴァ皇子はどこ?」

 もう一度、タクトとうなずきあう。

「知らない。そちらの手にないとしたら、そのほうが驚きだ。奇襲を受けてさらわれたのだ」

「そ、そんな、ならなぜ、私に連絡されていないの」

「アカガネという船を知らない!?」レフィーナが叫んだ。「私たちから奪われた新鋭艦よ。何人ものクルーや、ネイスミス提督まで」

「知らないわ。……私はあなたたちを信じる。でも、私の言葉は」

「信じよう」

 ドムが重く言う。シェリーがため息をついた。

「私たちの側も、一枚岩とは言いがたい。エオニア様はわけのわからない小娘の指示に従っているし、ヘルハウンズたちは行方不明。私はただあなたたちを追い、滅ぼすことしかできない」

 目が、闘志に燃える。

「我々もただ、主君のため戦い抜くのみだ。見事に戦おう!」

 ドムが敬礼し、シェリーも敬礼を返す。

「これが最後。エオニア様のために、絶対にあなたたちをテレザート星にたどりつかせるわけにはいかないの」

 そして、真正面から小細工なしのぶつかり合いとなる。

 三男ティン・シュン率いるアシュランの精鋭が、エンタープライズの転送で敵陣に踏みこみ、バーセルミ男爵が凄まじい技術と力で機械化巨人をうちのめし、ひしぎ砕く。

「やるなあ!」

 タイラー麾下の海兵隊も負けてはいない。敵陣を突破し、並んだキーナンがバーセルミ男爵の背を守り、数多い敵に殴りかかる。

「バーセルミ男爵だ。そなたの名は?」キーナンに聞いた。

「ボブ・キーナン特務曹長。よろしくな!」叫びながら、襲う巨人の蹴りをそらして別の敵に突き刺し、膝をねじ切る。

「一度戦ってみたいものだ、強者よ!」バーセルミ男爵が叫び、キーナンの背後を狙った戦棍を片手で受けて崩し、斧のような手刀で装甲ごと敵の首を叩き折った。

「あんたに殺られるなら本望だ!」

 怒鳴ったキーナンが衛兵にタックルをかけて扉をぶち破った。

「こっちよ!」

 エレーナ・ボサリ・ジェセックがタウラ軍曹を率いて突撃し、火力で敵を怯ませて突破口を作る。

「彼女たちもたいしたもんだ」

 キーナンが微笑んだ。

 タウラ軍曹が凄まじい速度で斬りこみ、指向性爆発する手榴弾を放ると、全員転送でエンタープライズに戻る。

 シェリーが艦隊戦力を集中した、そこにタイラーの指示で修理されたヤマトがワープアウトし、時空の揺らぎから多数の敵艦が沈み衝突し合う。追ったエンタープライズの火力が、浮き足立つ艦から狙撃していく。

 ファイター2が、タイラーの駆るラッキースターが、次々に敵艦を火球にする。

「タクト・マイヤーズ!」シェリーが叫ぶと、旗艦をエルシオールへの激突軌道に加速させた。

「エオニア様の、ために」

 その表情には何の迷いもなかった。

「タクトを守れ!」

 ドムが叫び、高速戦艦とミネルバが立ちはだかって激しい火力を集中する。

「恩を、ここで返す」

 まだ傷だらけのジョウが、無人艦をにらみ立ちはだかる。

 あちこちから火を噴きながら、ただ一人が操縦する無人艦は光速でエルシオールに向かう。

「見事だ」

 ドムとジョウがつぶやきながら、自艦を激突軌道からずらさずシェリーの艦を撃ち続ける。

 最後の瞬間まで、一点の迷いもなくシェリーと見つめ合い、軽く頷きをかわす。

「4……3……」沈着なオペレーターと、ドンゴのカウントダウンが響く。

 そこに、凄まじい閃光が輝いた。

 シェリー艦に、無数の光点がともる。

「狙いはあちらに任せて、全艦全機全力射撃!」

 ラッキースターのコクピットで、タイラーが叫ぶ。

 全艦が放つ、無数の光砲……それがすべて、新しく出現した紋章機の誘導にあわせ、一点集中する。

 厚い装甲に守られた艦が瞬時に蒸発し、熱い蒸気だけがドムの旗艦とミネルバを焼いた。

「敵ながら見事、武人の本懐!」ドムが敬礼する。

 そしてバルサロームを振り返り、

「俺なら、こちらを撃沈して生き延び、さらに主君の役に立つ道を選んだだろう。だが、忠誠と武人魂を批判すまい」

 それだけ言って微笑んだ。

「そんな形じゃない、別の忠誠だってあったはずだ……エオニアを、止めるっていう。継承順だって、理想だってエオニアのほうが高かったのに。殺しすぎ、力に頼りすぎて、すべてを失ったんじゃないか、エオニアは。止めることを考えなかったのか」

 病床のタクトが、血の出るような声でシェリーに、届かないと知りつつ呼びかける。

「あの星への道は開けたようだね。行こうよ」

 タイラーが全艦に目的を思い出させ、隊列を取って別の方から襲う敵艦隊を蹴散らしながら、降下軌道を目指す。

「まずい」

 アムロが小さくつぶやき、突然虚空から襲う光条の嵐をかわした……

「シャア!」

「それに」

 カミーユが、そしてタイラーが、テレザート星の一角を見た。

「全艦散開!シールド最大!」

 タイラーの叫び、生身で核爆発のすぐそばにいたかのように、全艦のセンサーが振り切れる。圧倒的な攻撃力。

「この、猛烈な攻撃は」

「狙撃機関砲」

 タイラーが、そこを見つめた。

「アカガネ」

 レフィーナの喉から、彼女らしからぬ獣のような声が漏れる。

 美しい水上迷彩に塗られていた艦は、漆黒に塗り替えられていた。逆にそれが、星野に暗黒星雲同様シルエットを浮きだたせている。

 それを知らぬ味方が放ったミサイルが、次々と両舷のガトリング砲に消し飛ばされる。

 タイラーとキョウスケが駆るラッキースターのシールドがもたず、大破しそうなところを別の紋章機が飛びこみ、強力なシールドでカバーしアームでつかみ、射程外に引き戻した。

 そこを襲うシャアの機体と虎龍王が激しく格闘し、アカガネの射程外に逃れる。

「だいじょうぶですか?」

 ミルフィーユの声に、タイラーが軽く親指を立てた。

「はじめまして、タイラーだよ」

「こちらこそはじめまして。ミルフィーユ・桜葉です」

 二人がにこっと笑い合った。

「これの本来のパイロットだな。借りていた」

 キョウスケ・ナンブがエンジンを調整し、二機の紋章機を狙うミサイルを撃墜する。

「クスハ、ブリット!無事だったんだな」

「ご心配おかけしました」

「すごいですね、紋章機を使えるなんて」

 ミルフィーユが笑いかけた。

「それより、早く帰ってきてくれ!そこは危険だ」

 レスターが叫ぶ。その画面に、傷だらけのタクトを見たミルフィーユの瞳から、涙があふれた。

「タクトさん」

「ミルフィー……」

 お互い言葉にならない。

「母艦に退避する」

 キョウスケが鋭い機動で、新しい紋章機とかばい合いつつエルシオールに戻ろうとする。

 襲いかかる敵の、何千という高機動機、そこに立ちふさがったのはミネルバとファイター1!

 ジョウが歯を食いしばり、かろうじて動く手で対空砲を使う。

 タロスが黙って、ミネルバの機体を盾に紋章機を守る。

「絶対に、ミルフィーユさんには指一本触れさせない」

 リッキーの駆るファイター1が全ミサイルを発射し、機銃も打ちつくして、それでも突撃して突貫でつけた重力内破槍を大型艦に突き刺す。

 そして、エメラルダス号からエンタープライズの転送装置で雪・トロイ・ブランドンがそれぞれの母艦に戻った。

 ライカーがトロイを、古代が雪を固く抱きしめる。

 ブランドンは、ニュートン艦長らの抱擁ももどかしくウェストフォールを捜し、紙の山を突き合わせ始ようとした。

「ミス・ピッカリングは、パーシーは」

「……二発、おもいきり殴ってくれ。そしてすぐ、これを検算してくれ」

 二機の紋章機がエルシオールに着艦するのももどかしく、医師たちを振りきって立ったタクトが、ミルフィーユを固く抱きしめた。

「ごめんなさい、シヴァさまがどこにいるかは」

「謝るべきなのは……もういい」

 そしてラッキースターが激しく輝くと、エルシオールの何かが動いて元の姿に戻る。

「さっそく、いってきます」

 ミルフィーユがタクトを抱きしめて、身を離すとラッキースターに飛び乗る。

 エンタープライズ経由の転送でタイラーがそよかぜに戻る。お茶菓子がしっかり用意されていた。

「さすが、有能な副官」

 マコト・ヤマモトに笑いかける。

「軍規違反ではありますが、提督がお望みなのはこれだろう、と思いまして」

「指揮は楽だったけど、ウクレレを弾くスペースもないしお茶もないのは辛かったからね。ほう、ネオ・アサクサの宇宙空母鯛焼きとグェンくんのコーヒーか。どれだけ修行は進んだかな」と、タイラーが熱いコーヒーを一口すする。「鯛焼きはね、このバリから食べるのがおいしいのさ」

 そう言いながら鯛焼きの合わせ目にできる、鉄板にはさまって軽く焦げた薄い部分を歯先でかじった。

「そうだ。ここからいこう」

 と、サカイや加藤を呼び出して二言三言相談した。

「ああ、できる。やってみせる!」

「じゃあ頼んだヨ」

 タイラーが笑いかけた。

 その指示にあわせ、十数機の、スーパー系やジガンスクードなど防御が堅い人型機がアカガネを襲い、ZZが垂直射出ミサイルを狙撃、アムロがシャアを敵要塞近くに押しこんで一対一に持ちこむ。

 多くの機体は、アカガネを縦に断ち割る面にそって、強力な対空砲の射程で迎撃機と交戦する。

「提督。あの面では、左右両舷の対空砲双方が重なる範囲で、倍の火力を注がれます」

 ヤマモトが蒼白になって進言する。

「まあ、あれだけ頑丈ならしばらくは大丈夫だよ」

 マジンガーが、ゲッターが……強烈な掃射を二重に浴び、傷つきながら円を描くように、対空ガトリングの射程球と、アカガネを縦に割る面が交わる円で戦い続ける。

 ちょうど、鯛焼きの合わせ目のような境界に沿って。

 そのうちに、徐々に二門のガトリング砲の追随が鈍る。

「野球でフライを追ってお見合いするみたいなのを繰り返してるんだ、そのうち疲れるよ。まして抵抗するのを操るだけでも大変なんだから……いまだ!ヤマトを先頭に、突っこめ」

 タイラーの指令、ヤマトが強力な狙撃機関砲を装甲に任せて耐え抜き、アカガネに接近する。

 アカガネに向かう揚陸艇、それを迎撃しようとするミサイルを、近くにいる人型機が打ち落とす。

 その瞬間、アカガネの至近距離から光が放たれると、一機のコスモレトリバーが強引に、飛行甲板を撃ち抜きながら船首を突き刺し、数人が艦内に躍り込んだ。

「提督!」

 揚陸艦のエリ・クィンが叫ぶ。マイルズの姿は、遠く装甲宇宙服を着ていても見間違えるものではない。

 その隙に、精鋭を乗せた揚陸艇が次々に接近する。

「危ないでそろそうろう」

 聞きなれた声と共に、リュウセイたちに迫るミサイルを、一機のワーウルフが放つパルスレーザーが叩き落とした。二機の、駆逐艦サイズに拡大され、旧地球のB2爆撃機のようにのっぺりした偽紋章機は容赦なく大量のミサイルを放ち続ける。

「ラミア!」

 リュウセイの歓声が上がる。

「先に、ネイスミス提督らが奪回作戦を始めている。援護を!」

 ラミアの叫びに、キーナンが叫び返して揚陸艇の船首を、アカガネのハッチにぶち当てた……下品四文字を絶叫して。

 

 巨大要塞の奥、激しく開閉されるシャッターと膨大な敵。その中で、アムロのνガンダムとシャアが激しく一騎打ちをしていた。

 機動性と瞬間的な短距離ワープで詰めるアムロに、遠距離からの強力な機関砲と、至近距離の指向されない紫の雷撃を繰り出すシャア。

「これがおまえの末路か!」激しい叫びに、答えはない。通信を見るまでもなくコクピットの惨状は、アムロは察していた。

 押し寄せる、無数の脚を持つ要塞通路移動車と、通路防衛用のダッカーの弾幕をかわし、またかき消えてシャアの背後をとる。だがハッチが一瞬で二機をはばみ、ハッチの反対から無数のビックコアが押し寄せる。

 それをファンネルで一掃し、またシャアを求めてかき消えたが、その出現場所に機関砲が叩きつけられる。

 かろうじてファンネルを用いたシールドで防いだが、その間にまた逃げられ、要塞を爆砕して飛びだした。

 そこでは多数の大型艦と、ヤマトの主砲の援護を受けた紋章機たちが激しく戦っていた。

 ハッピートリガーの弾幕がシャアの黒い機体にまともに当たる。瞬間かき消え、出現したνガンダムが背後から黒の大剣を振りおろそうとし、左手がそれを押しとどめようとする。

「だめだあっ!」

 絶叫、無指向性の紫電に吹っ飛ばされる。

 そこに、数条の蒼い光弾がシャアの機体を狙撃する。

「あなたは、これを望むのですか!抵抗してください!」

 ミントが叫び、トリックマスターを接近させて直接集中弾を打ちこんだ。 

「危ない」

 アムロがシールドで庇う、そこに強力な機関砲が注がれた。

「アムロさん」

 ミントの通信、アムロがうなずくと、二人息を合わせ、多数の無人機が奇妙な形に配置される。

 シャアの機体が一つを破壊し、シールドと別のミサイルをよけ、黒の剣をかわす。

「あと、三手」

 ミントの真剣な目。無人機を操作して砲弾のシャワーを張る。

 その一点の隙間に入る、と見せ、被弾しつつアムロに迫って紫電を放つ、だがとらえたのはダミーバルーン。

「チェックメイト」

 黒の剣がエンジンブロックをぶち抜く。

 大破したシャアの機体を抱きしめたまま、νガンダムはエンタープライズに着艦した。

 

 アカガネを守る、十数機の偽紋章機。どれもかつて見たより大型となり、しかも機動性も高い。

 それぞれが数機の、極めて機動性の高い小型戦闘機も遠隔制御している。

「ユーミと、エイミィも」

 サカイが歯を食いしばる。

「あの連中……もう死んでるわ」

 ランファの言葉。

「そう、彼らの魂はもう彼らのものではない……紋章機が、そう伝えています」

 ヴァニラの言葉に、皆に怒りと悲しみが広がる。

 実際、シリウス号からの透視ビームでコクピット内部を見た、その映像は恐ろしいものだった。

 ヘルハウンズも、ハナー姉妹も、エクセレンも……ボーグ化され、おぞましい触手に脳を侵食されている。

「エクセレン……止めるしかないのか、誓い通りに」

 ワーウルフに乗って飛び立ったキョウスケが唇を噛み切り、血を飲む。

「あの人たちを助ける方法は、ないのでしょうか?」

 ラッキースターに戻ったミルフィーユ。ないと言いかけるタクトの声を制し、

「あるわ! 生きたまま連れてきてくれれば、シルが胞子を出して、かえったイーアの子を入れれば中から脳を掃除することができる」

 コーティーの言葉に、みなの表情がぱっと明るくなった。

「まだ希望はある、なら……殺さないように、制圧します」

 クスハが、龍虎王に再変型して犠牲者たちを見つめた。

 エンタープライズの皆……特にピカードは、かつてボーグのドローンと化し自らの手で殺さざるを得なかった部下たちのことを思い出し、一瞬表情を凍らせた。

 ライカーが強く拳を握り締め、軽く首を振った。

「まず、拘束したシャアで、実験しましょう」

 とビバリーが指示する。

 コーティーの細い手がシャアの、仮面も振り捨て顔じゅうにボーグの機械部品、後頭部から無数の触手が突き出た悪夢の姿に触れる。

 小さな金の粉が振りかけられ、数秒後にはシャアの全身が輝き、余計な部品がことごとく砕け腐り落ちていった。

「うわっ」

 ひどい匂いに、皆が顔を背ける。

「アカガネにいる味方に、通信してくれ!ボーグ化されていても助けられる。殺すな、と」

 ピカードが叫び、全艦の通信士が大急ぎで呼びかけ始めた。

 

 アカガネ艦内では、多数の見知らぬ機械生命体が襲ってきた。

 カマキリのような外観で、人間よりはるかに素早く動く。よほど厳重な耐ビームコーティングのようで、火器がほとんど効かない。

 そしてボーグとなった、仲間たち。

「殺してはならないのなら、私の近くに出さないでくれ!」ベックが叫んだ。彼の剣、レイブンブランドはあのストームブリンガーの眷属である。

 その彼が、何かに呼ばれたように装甲宇宙服のまま、広い飛行甲板に出た。

「ゲイナー」

 奇妙な、灰色の剣を握る、宇宙服も着ていない姿がある。

 突然、メーテルの電磁ムチがひらめく。一人の男の手から、ワルサーが飛んだ。

「クロスターハイム」

 メーテルとにらみ合う男が、消えた。

 ゲイナーがメーテルを襲い、そしてベックと激しい斬り合いになる。

 艦内ではマイルズやアルフィンが、そしてキーナンたちが、機械生命体やボーグ化された人々と、激しく格闘していた。

 鉄郎とシヴァがかばいあい、カマキリのような機械を払いのける。

 戦士の銃が一体を撃ち抜き、シヴァの重力サーベルが表面のコーティングもおかまいなしに不気味な体を貫く。

 ボーグ化されたテツヤ・オノデラが襲うのを、長身の男が両膝を斬りつけながら左手で転送マーカーを貼りつける。と、テツヤの姿がかき消えた。

「無事か!」

 そう言って、別の敵に向き直った、その敵の体に穴が開き、そのまま襲う脚を重力サーベルが斬りつける。敵の爪が機関部に当たって故障し、即座にシヴァは鋼のナイフを抜いて構える。

「見事だ。共に戦えるな」

 ドムが、装甲宇宙服の下で笑いかけた。

「ドム卿!」

 シヴァが喜びを叫びそうになる、そこを鉄郎が二人に飛びつき、伏せさせた。

 炸裂弾と熱線の嵐が上を吹きすぎる。

「名は?」

 立ち上がり、常人には使えぬ巨大な拳銃を抜くと連射でカマキリを仕留めたドムが訊く。

「星野鉄郎」

「ル・バラバ・ドムだ。行こう!」

 鉄郎が戦士の銃を連射し、血路を開いてマイルズたち、そしてドムの部下と合流した。

 そして、ドムはじっとシヴァを見つめた。

「励んできたようだな」一瞬沈黙し、「生まれが命じる、一人の戦士とは別の義務も、承知しているな」と、ドムは小さなコインをシヴァに差し出した。

 ソーナ人が使ったのと同じ、転送マーカー。改良され、シールドの中からでも転送できる。

 戦友たちを置いて一人安全なところに退避するのと、先頭に立って地雷原を走るのと……前者の方が残酷だ。

 シヴァは表情を変えまいと、必死で鉄郎を、マイルズを見つめる。

「グレゴールも、ぼくも父上も母上も、その苦しみを経験してる。きみの義務だ」とマイルズ。

 アルフィンはシヴァの手を固く握っている。その目を見て、ドムは彼女にもコインを渡した。

「どんなときも、ともに」と、シヴァを見る。「ごめんなさいみんな、あたしは、何があっても守り抜く、絶対にそばを離れない、って、クラッシャーの名にかけて誓ったの」

 アルフィンが唇を血が出るほど噛みしめて、マイルズに告げる。

「ここで戦い続けるほうが楽だろう。誓いを果たすんだ、クラッシャーアルフィン」

 マイルズが笑いかけ、スティヴンスとナディアがうなずく。

 ぎゅっとアルフィンがシヴァの手を握った。

「ありがとう、アルフィン。鉄郎……みんな。ごめんなさい、どうか、無事で」

 そういうとシヴァは胸にコインをつけ、アルフィンと共に転送された。

 

 エンタープライズの、次々に転送されるボーグ汚染者にごったがえす転送室で、戦闘中のピカードは二人に一言だけ無事を祝し、即座にエルシオールに再転送した。

 ヴァニラの力もあり回復してきたタクトが、ブリッジに出現した二人を見つめる。

 誰もが、一瞬誰だかわからなかった。線の細い少年のように見えていたシヴァが、背も頭ひとつ伸び日焼けし、鍛え抜かれ引き締まって、それでいて女性らしい姿で出現したのだ。

「シヴァ……さま」

 まずタクトが気づいて、呆然とした。

 時間の流れも違う……エルシオールでは一カ月も経っていないが、シヴァは丸一年の旅を経てきた。

 アルフィンが、そっとシヴァの背を押す。

「マイヤーズ……マイヤーズ!」

 シヴァがタクトに抱きつき、ほんの数呼吸だけ激しい涙に暮れる。

「なんて美女!誰なんでしょう」アルモが驚いた。

「シヴァ様、シヴァ様よ!ご無事だったのですね」ココが目を見開く。

 すぐにシヴァは立ち直り、身を離して堂々と立った。

 知らせを聞いて飛んできた侍女が、シヴァの姿を見て凍りついたように立ちつくし、衝撃と罪悪感に泣き崩れた。

「まず責められるべきは私だ、感謝しかない。今は責めより、ただ戦い抜こう!」

 シヴァが宣する。その威に、全員が打たれひざまずく。

「無事であったか!」

 と、アザリンから通信が入る。

「客人を守れなんだこと、謝罪する」

 炯々とした幼い女王の目。シヴァは真っ直ぐに受け止め、

「感謝はすべて、勝利の後に!」

 と、堂々と笑いかけ、アザリンも嬉しそうに笑って麾下に号令した。ラアルゴン艦隊が鬨に沸き立つ。

 改めて侍女が、アルフィンに深く頭を下げ、タクトもつづいた。

 そうしている間も、直接戦力こそ弱いが補給・医療機能が高いエルシオールには、人型機を中心に多数の機体が飛び込み、再出撃するのを繰り返している。

 

 二機の大型偽紋章機が次々にデコイを放ち、砲撃を回避しようとしたちょうどそこに小型無人機の攻撃が集中する。

「ハナー・シスターズが中心になっている。二人がテレパシーを拡大し、操る通信の核になってるんだ」

 カミーユが歯を食いしばる。

「なら、最優先で二人を救出する」

 キョウスケがそちらをにらむ。そこに、ヤマトの魚雷発射管からミサイルが飛んできた。

「こんなこともあろうかと作っておいた、非致死性接近戦パックだ!受けとってくれ」

 真田からの通信、大型ミサイルのパックが四散すると、大型のエンジンを含めいくつもの部品がワーウルフの手足に収まる。

「なるほど」

 素早くシステムを確認する。飛行機型への変型こそ不可能になるが、両脚部分にワーウルフの胴体に匹敵する駆逐艦用スラスターがつけられ、右手には大型のトリモチ四連ロケットランチャーとスタン・コレダー、左腕には巨大な牽引ビーム増幅装置と小さいがばかばかしいほど分厚い追加シールド。

「ついてきてくれ!」

 キョウスケが加藤と、サカイ・シラギクに叫ぶ。

「ヤマト、主砲集中」

 タイラーの指示で正確に放たれた主砲が、濃密なVLS対空ミサイルの子弾と無人機を一瞬吹き飛ばし、その隙間を通って、敵陣中央にいる二機の大型偽紋章機を狙って四機が身をねじこんだ。

 サカイとシラギクのイカのような機体と、偽紋章機が激しい二対二を繰り広げる。

「ただやりあってたら勝てないな」

 シラギクがわずかに減速し、高精度の援護射撃を長い触腕から放つ。それを、前に予測していたようにひねってかわし、ミサイルが発射されてすぐ数百発に分離し、飛んでくる。

 触腕の機銃で迎撃しようとするが、子ミサイル一つ一つが高機動で機銃をよけ、あらゆる方向から襲ってくる。

 それをキョウスケの分厚いシールドが弾き、押しのけながら突進する!

 注がれる弾雨に削られつつ接近し、その陰からサカイ機が飛びだし、それを読んでいたように散開しつつ狙いを集中する二機に、別方向から急降下した加藤のブラックタイガーが襲いかかった。

 初対面に近いメンバーだが、いずれ劣らぬつわものども、鮮やかに連携を組みテレパシーで結ばれた天才双子に挑む。

 他の敵たちと紋章機、また多くの人型機も、激しい闘いを繰り広げている。

 心を奪われたヘルハウンズたち。エクセレン……

 

 ベックとゲイナーの斬り合いは激しく続いていたが、ゲイナーが一撃食らいながら身を翻すと、闇の中から多数の、おぞましい不定形の雪だるまのようなものが生じ、襲ってきた。

 アカガネ艦内では、左右両舷の大型対空ガトリングを操るプルとプルツー、さらにメインエンジンを目指し、キーナンたちやドムたち、アシュラン精鋭部隊がますます数を増すカマキリやボーグ化された人々相手に戦い続けていた。

 機械の冷酷さと人間に百倍する力を押しつけられた捕虜たち。かよわい女性であるアヅキ・サワが、雲突く巨体のロコフ准男爵を片手で投げ飛ばす。

 コトセット卿がその怪力を逆手にとり、丁寧に逆関節をとって手首を砕くが、痛覚なしの頭突きで吹き飛ぶ。

 シュンを襲うのをバーセルミ男爵が食い止め、長い掌底で打ちつつ力をさばいて入り身、密着強打、無重力での関節を壊しながらの投げ技と流れるように決めるが、殺さぬための手加減で弾かれ……そこに遠くからスティヴンスが、転送マーカーを強弓で撃ちこんだ。

「ありがたい」

「このまま制圧するぞ!」

 叫ぶシュンの声を聞いて、追ってきたドムが眉をひそめる。

(アシュラン辺境伯、これほど屈強な精鋭を育てていたとは……侮れぬ。そしてネイスミス提督も敵に回せば恐ろしい、ぜひ部下に欲しい将だ)

 その彼らの目前で、突然カマキリたちの背に雪だるまのようなものが取り憑くと、さらに力と速さを増して襲いかかってきた。

 あやうくドムが攻撃を蹴り飛ばす。

 マイルズが叫ぶ、

「いまだ!ここを制圧すれば勝ちだ!スティヴンス、惑星間警察隊は左舷側砲塔へ。キーナン小隊は右舷側を制圧!」

 ドムもその声に応える。

 何百ものカマキリに飛びこんだ精鋭が、次々と人間以上の力を持つ機械を引きちぎり、砕いて、隔壁をぶち破った。

 広い中央制御室で待ち構えていたのはボーグクイーンとクロスターハイム、そして全裸の、小学校低学年程度の少年だった。この世のものと思えぬ美しさと底知れない邪悪さに、誰もが凍りつく。

 その姿がかききえた、と同時に剣を向けたドムの右手が砕かれ脚を拳で貫かれ、巨体のタウラ軍曹が片手で壁に叩きつけられる。

「な、なんだこいつは」

「さあ?」

 ボーグクイーンは何食わぬ顔で微笑んでいた…

「食われたな」

 ドムがつぶやき、鉄郎の肩を借りて起き上がる。かつてボーグキューブで見たボーグクイーンとはまったく違う、何かを奪われている。

「これほどまでとはね」クロスターハイムが軽く肩をすくめた。「あの星で拾ってきた、何でも食い尽くす星間精神生命体。それにゲイナー卿の力を加えた機械の体を与えてやっただけで、これほどの力が」

 ドムの目にうながされ、鉄郎が放った戦士の銃。それにP38を全弾打ち込んで相殺したクロスターハイムが、にこやかに微笑して一礼し、消えた。

「ずいぶんとおいしそうな人たちがたくさんいるね。さあ、食事の時間かな」

 美少年がまた微笑すると、パーカー卿の肩と脚を砕いた。

 その衝撃波に装甲宇宙服を砕かれ、壁に叩きつけられたエリ・クィンが小さく叫ぶ、「音速」

「これでもまだ、ゆっくり歩いてるだけなんだよ。本気で走ったら船が壊れちゃうからね」

 にこやかに言い、エリの腕を装甲宇宙服ごと、子供がアリの頭をもぐように引きちぎった。絶叫と恐怖の声、それをシュンとマイルズが統制された攻撃にしようとする。

 鉄郎に支えられたドムが左手拳銃を抜き、あらぬ方向に放つ。

 シュンに突進していた少年が停まり、にっこり笑って、側頭部すれすれに指で挟んだ長い針を見た。

「ふうん、光より速く先がわかるんだ。少し遊ぼうよ」

「セレムスオオハリガの針を光速の半分まで加速する銃だぞ、戦艦の装甲も貫通する」

「止まって見えるよ」

 ドムが呻いて、常人なら肩が吹っ飛ぶ反動を抑え二発、三発と放つ弾。目に見えぬ速さで動く指が虚空をつまみ、あらぬ方に投げる。バネ入りの装甲宇宙服で跳んでいたドナー卿が衝撃に、蹴ろうとした右脚全体を失って天井に叩きつけられた。

 もう一発が、ドムの折れた右肩を貫通する。

「反応は早くても、身体がほんとに遅いんだね」

 鈴の転がるような声で、弾けるような笑いが飛ぶ。

 ドムが片足で立って、拳銃を落とした左手で何かを抱き止め、鉄郎に目顔で訴える……自分ごと撃ち抜け。

 笑い声と共に、ドムの左腕が肩から引きちぎられ、鉄郎の右手首が砕かれて戦士の銃が落ちる。

「かかれ!」

 シュンが号令とともに率先して突撃する。精鋭たちが、大量の銃撃を掩護に走る。

 何発も直撃弾はあるはずなのに、動きもせずに立ったままにこにこ笑い、猛者揃いの突撃を……

 

 プルが守る右舷側砲塔を襲うキーナンやクライバーンが隔壁をぶち破って、残りは数メートルの、左右は底なし溶解炉のキャットウォーク。

 そこには、巨大な槍を振り回す4m近い巨体の怪物が待ち構えていた。

「へっ、楽しそうじゃねえか……いっくぜええっ!」

 キーナンが先頭を切り、近くに転がっていた、150kgちかい鉄棒を装甲宇宙服の力を借りてひっつかみ、突撃する。

 女の腰より太い鉄棒が、槍の一撃で斬れとび、衝撃にたたらを踏みながら、隙を見て頭から突っかかる。

「男ってもんには、こいつがあるんだよおおおおおおおおっ!」

 特殊合金で強化された額の、頭突きが巨体にぶち当たる。

 

 プルツーの左舷側砲塔に向かったスティヴンスたち、合流した惑星間警察らは圧倒的な数のカマキリに迎えられた。

 その中央には、似つかぬ姿に変貌したヴァーナや何人もの顔見知りの仲間たち……

「スティヴンス!」

「ナディアお嬢さん!」

 精鋭たちが二人の姿を見て喜ぶ、そして放たれる強弓の援護を得て、勇気百倍で打ちかかる。

 一瞬は押し返されるかに見えた、そこにヤマトそのもので体当たりし、踊りこんだ古代たちや続くエレーナの小隊が加わり、人間たちは転送マーカーを打ちこまれカマキリたちは次々に打ち倒されていく。

 ついにスティヴンスの振るう巨大な剣が、切断ビームが隔壁を切り破り、プルツーにナディアの矢についた転送マーカーが刺さり、消える。

 

 その巨体は、近づいてみると実に醜かった。八割は機械、わずかな肉の部分は何でできているのか、混沌そのものが見えていた。

 狂ったように振り回される腕が、キーナンの脇腹を粉砕する。

「くるんじゃねえっ!」後詰に入ろうとするクライバーンに叫んだ。「あのバーセルミって男に比べたら、こんな奴小虫だ」

 血を吐きながら、脇に食い込む腕をとらえてねじ折り、再び頭突きを股間にかます。敵は何も感じず、もう一つの腕にキーナンをつかみ、キャットウォークからぶらさげて、上下に大きく振り回す。

「痛みがねえってのも、不便だなあ」

 キーナンが笑った。キャットウォークの手すりの破片が槍のように、膝関節に突き刺さっていた。

「やれい!」

 絶叫にクライバーンの、必殺のタックルが巨体をひっくり返す。放り出されるキーナンは垂れ下がる別の手すりにつかまり、這い登る。

「さて、じゃあ一気にいきますか」

 二人がにやりと笑い、巨体を端から折ったり砕いたりしながら持ち上げ、放り落として、振り返りもせずに隔壁をぶち破り、プルを転送させた。

 

 美少年が、踏み潰された鉄郎をにやにや笑いながら見下ろす。その美しさでの邪悪な笑みは、なんともいいがたい、宇宙的な恐怖だった。

「醜いねえ」

「黙れ」

 もう自分の足で立つものは美少年一人だった。ドムも、シュンもアシュランの精鋭も……冗談抜きで素手どうしなら千人を倒せる強者たちが一人残らず叩きのめされていた。

 殺さぬように、アリを慎重につまむように。

 鉄郎の折れた右腕が、嫌な音と共にゆっくりとねじり続けられる。三回、四回、五回……靭帯がちぎれ、骨が砕けて肉を破り、血があふれる。

 落ちた戦士の銃に伸ばそうとした左手も、またあっさりと踏み砕かれ、その足の指で器用に指を握りちぎられる。プレス機のような力。

 鉄郎は凄まじい苦痛に吼えながら、その足に噛みつく。

「ふん」

 あっさりと蹴り離され、歯が何本も飛び、顎から鼻が砕ける。

「この僕に唇を触れる、君のような下賎の者が。これは並大抵の苦痛では足りないね。まず不老不死処理をして、百億年はかけて心を砕いていかないと」

 無造作に、鉄郎の脚を、くるぶしから順に踏み砕いていく。子の姿で軽く蹴っているだけなのに、一発一発が大人が巨大な土木工事ハンマーを振るうように、壁ごと揺らぐ。

「戦士の心を砕けるものか、この悪魔が」

 ドムが怒りにまかせ砕かれた手足で起き上がり、せめて噛みつこうとして蹴り飛ばされる。

「もう味つけもいいや、楽しみには足りないけどね。じゃあいただこうかな」

 美少年の、美という言葉がばかばかしく思える超絶に美しい微笑は、際限なしに無垢で邪悪だった。

 そこに、いつの間にか二人の美女と、一人の黒人女性がいた。

 鉄郎が、砕かれた顔から言葉にならぬ声を漏らす。

 メーテルとエメラルダス、そしてガイナン。姉妹が、重力サーベルを抜く。

「お、これはまたおいしそうだ」

 美少年の笑いが、何かを抜かれたボーグクイーンの狂った笑いが響く。

 傷ついた戦士たちにガイナンが転送マーカーを投げた。彼らの姿が消える、エンタープライズの医務室へ。三人の女が、美少年を冷徹に見つめる。

「もう、何も隠す必要もないわね、姉さん」

「こんなときが来るとは、思わなかったわ」

「ひっぱりだされるとはね」

 ガイナンが不満そうにつぶやき、鉄郎が落とした戦士の銃を拾った。

 

 膨大な光弾の渦が、多数の人型機に次々とダメージを加えていく。

 偽紋章機たちが組織的に、的確な動きで味方を翻弄する。逆にそこには、個性豊かだったヘルハウンズの、一人一人の動きすらない。

「エクセレン!敵に操られていたときも、お前はお前だった。だが、今はなんなんだ、ただの機械じゃないか!」

 キョウスケが怒りに絶叫する。

 ハナー・シスターズの二機と激しい格闘戦を続けるサカイ・シラギクの二機。

 サカイが凄まじい加速に内臓をやられたか血を飲み、「ヒラガーの奴、人間の限界とか考えて設計したのか?」と、むしろ嬉しそうに怒鳴る。

「返品するか?それにしても、おっと」巧みな機動で追尾するミサイルをかわしたシラギクがつぶやく、「あの二人には、いろいろ教えすぎたかなあ……天才だとは分かってたけど」

 そのシラギクが接近して放つ重力内破槍を、二機の偽紋章機がぶつかり合ってかわし、その動きの乱れから瞬時に放った一弾が山本のブラックタイガーの翼を打ちぬく。

「やってくれたな」

 今度は加藤と山本、ヤマトのエースコンビが、激しい格闘戦を挑む。

「お、あのガトリング砲が止まった」

 シラギクがふと、シールドのレッドアラートを見て微笑んだ。

「さてと。本当の二人だったら、多分負けてたけど」

「あのシステムは、どうやら人間の個性とかまでなくすようだな」

 シラギクとサカイが、加藤と山本が微笑みを交わす。

 激しい機動。次々と放たれるマイクロミサイルと機銃。

 そこに、真上からコスモゼロのパルスレーザーが吼える!

「古代!」

 加藤が嬉しそうに叫ぶ。

「おいしいところを持っていかないで下さいよ」

 山本が苦笑しながらミサイルをかわし、パルスレーザーでエイミィ機の退路を潰し、そこに加藤が体当たりと見せてぎりぎりでかわす。

「アカガネはほぼ制圧した。待たせたな!」

 叫ぶ古代の連射が、ついに偽紋章機をとらえる。

 虚空から数本の、緑の光の帯が偽紋章機を襲った。

「もらった!」

「ツイン・バード・ストライク!」

 ゼオラとアラドが、

「ユーハブコントロール!」

「パターンセレクト、RHB……」

「ファイナル、ブレイクですわ!」

 ラトゥーニとシャインが、次々に息の合ったコンビプレイで偽紋章機に反撃し、ダメージを積み重ねる。

 シャインの予知が敵全体の動きを予測し、伝えられた情報を各自が手早く処理して、組み立てていく。

「退けえっ!」

 叫びのような通信。大型偽紋章機から、ハリネズミのように高圧の攻撃が放たれる。

 キョウスケがシールド任せに、一気に接近してボロボロのシールドを捨てる……そしてはるか遠くから、突然出現したアムロのνガンダム。左手に握った艦載級フェイザーが、ユーミ機のエンジンを止めた。

 その瞬間に、かすめるどころかわずかにぶつかるほど接近した古代のコスモゼロがエイミィ機に機銃を浴びせ、反撃をわずかにかわす。そこにキョウスケのワーウルフが飛びこみ、スタンコレダーとトリモチランチャーを放ってすぐさまエクセレンの偽紋章機を襲い、猛反撃に大破しつつエンジンを破壊して抱きとめる。

 二機をしっかり抱えたサカイ機とシラギク機が、全速でエンタープライズに飛ぶ。

 そしてミルフィーユたちが、テレパシーによる制御が乱れたヘルハウンズの紋章機を次々と無力化していく。

「おねがい、目を覚まして!昔のあなたたちにもどって!」

 ミルフィーユが泣きながら突撃する。彼女をかばうようにリッキーのファイターがミサイルの嵐を放ち、それに分離したコンバトラーとユウ・カジマの蒼いPT、ゲッターロボが激しい波状攻撃をかける。

「ライバルって呼ぶのなら、せめて目を見て言いなさいよっ!」

 まだ傷もいえぬランファが、叫びながら重力アンカーを叩きつけ、リュウセイのT-LINKソードがその上からぶち抜き、アヤのシールドが苦し紛れのミサイルを撃墜する。

「信じていますわ。もう一度、あなたを罵れることを」

 ミントが微笑しながら、遠距離からフライヤーで攻撃し、ZやZZとも連携する。

「プロの傭兵ってもんは、金で戦いながら魂だけは誰にも渡さないもんだろ!」

 叫ぶフォルテ、そして重装甲で激しい反撃を受けきったそこに、ゼンガーとボルテスVの巨大な剣がうなる。

「もう一度、たとえまた戦うためだとしても、せめて心を取り戻して」

 ヴァニラが悲しく、攻撃を集中しながら傷ついた味方機を癒していく。

 彼女をビームシールドでキラ・ヤマト、アスラン・ザラ、シン・アスカが守り、激しい攻撃をかける。

 

 中央制御室にたどりついたキーナンやスティヴンスたちの前にあったのは、崩壊し崩れていくボーグクイーンの姿だけだった。

「なにが、あったんだ」

「勝った、んだよなあ……」

 全員首をひねりながら、もう一度敵と味方を調べるため広いアカガネの捜索活動をやり直し、スティヴンスが機械的な情報を調べる。

 エンタープライズのバーにガイナンの姿がないことに、気づいたクルーはいなかった。多数のボーグ化された捕虜たちの、そして重傷を負ったドムたち、シュンはじめアシュラン精鋭部隊、そしてエリ率いるデンダリィ隊とマイルズや鉄郎の治療に忙しかったから。

 

 

「少なくとも、目標は達成したよね」

 タイラーが笑いかける。

 指揮官級全員での会議。といってもドム、マイルズ、タクトは重傷で、エンタープライズの病室からだ。テツヤもまだ病床から離れられない。

「捕まったみんなは帰ってくるか、助けて頭を掃除した。アカガネも取り戻した。めでたいねえ」

 疲れた指揮官たちが笑い合い、うなずきをかわす。

「ただ、これはわたしたちがやっていることですが、そこのタネローンにいくように、と指示されております」

 レフィーナが遠慮がちに言う。

「われわれが元の時空に戻るのにも、そうしなければならないと言われている。言葉自体は、みんな同じはずだ」

 マイルズが古代たちに同意を求める。

「今更、言葉は不要であろう。われら、ついに汚名をそそいだ栄光あるラアルゴン!」アザリンの表情が誇りに輝き、立てるものは総立ちになって最敬礼した。「そしてその朕が認めた雄々しき戦士たちは、何者にも操られはせぬ。ただそれぞれの故郷に帰るため、共に戦い抜くのみじゃ」

 アザリンの笑いに、傷ついたドムが身を折る。

 その会議室の回線に、突然割り込みがあった。

「クイーン・エメラルダス号からの通信です」

 ミルフィーユの「あーん」に鼻の下を伸ばしていたタクト、トロイの目を見たピカードがうなずき、回線を開く。

「ついにタネローンに到達しましたね。ここで見ていただきたい映像があります、アザリン陛下、タイラー提督、あなたがたの故郷宇宙で、数年後に観測可能になります」

 その映像に、全員が息を呑む。巨大な宇宙の暗黒に、銀河そのものが瞬時に飲み尽くされ、破壊されていく。それが次々と、大宇宙に銀河を何十個も集めたサイズの筆で、一刷きにすべてを消していくように。まっしぐらに、彼らの時空の銀河に向けて。光速をはるかに超えて、どんどんワープスピードを上げている。

「真偽は帰ってから検討すればわかるはずです」

「彼女は真実を言っています」

 トロイとうなずき合ったピカードが、そして紋章機を整備していたヴァニラが、アカガネを修理しているニュータイプや念動力者たちが即座に頷いた。

「この方角を観測しなさい」

 エメラルダスの指示に従い、エンタープライズのトリコーダーやヤマトの超空間レーダーなど、数々の観測機器がある方向に向けられ、悲鳴が上がる。

 ここ、スーパーロボット大戦の時空の銀河の、ちょうどアンドロメダ銀河の反対方向から、とてつもない数と光量の点が極超光速で押し寄せてくる。

「クエーサーの大軍?」

 レフィーナが悲鳴を上げた。

「いや、この強烈なサブローザー青方転移は、こいつらが光速の数億倍でこちらに急行している、と解釈できる」

 ブランドンが断言し、ウェストフォールとスティヴンスが検算して頷く。このトリオも久しぶりだ。

「タイラー提督、ラアルゴンのみなさん、このままあなたがたが帰還すれば、あなたがたの時空では銀河がまとめられ、あの颱宙から人類が守られるかもしれません。それを阻み〈天秤〉を砕こうとしている邪悪が、あなたがたとタネローンをここで殲滅しようとしています。大半はエメラルダス号で対処しますが……」

「この戦いに敗北すれば、この時空の全ての生命、その次はラアルゴンのある銀河が、そして次には……生命のある時空はことごとく破壊されるでしょう」

「まだ、戦いはあるようだな」

 ピカードがため息をつく。

 ふと気がついたときには、テレザート星であったはずの〈タネローン〉は、この時空での地球に変じ、さらにすぐ近く、地球公転軌道の反対側にはトランスバール本星と〈白き月〉も出現していた。

「タネローンに、いつどこにあるというのはあてはまりません」エメラルダスが「戦いの準備を」と冷静に告げ、船ごと消えた。

「なんと嬉しい言葉ではないか、『戦いの準備を』とは。ラアルゴンにとってはな」アザリンが笑う。「問題は誰が最高指揮官となるか、じゃな。朕が全てを総覧し、指揮はタイラー提督に、全面的に預けるとしよう」

 誰がトップになるか。言い出すだけでも、問題を指摘するだけでも野心や支配欲を疑われかねない危険なことだ。その火中の栗にためらわず手を伸ばした。さらに故郷では敵であるタイラーに全てを委ねた以上、その無私を疑う者などない。

 ドムはもちろん、タクト・ピカード・古代・マイルズらも、即座に合意する。皆タイラーの能力は理解していた。

「では地球との交渉を。ダイテツ艦長、アザリン陛下、そしてアムロ・レイ中佐、ご協力下さい」なんとか車椅子に乗れるようになったマイルズが、眼下の地球を見おろした。

 地球で治療していた沖田艦長も、エンタープライズのビバリー、エルシオールのヴァニラらのより優れた治療を受けてヤマトに復帰し、地球の母港でアカガネやハガネの修理が始まる。

 同時に、トランスバール本星の〈白き月〉をシヴァが儀式で解放し、紋章機たちの修理とリミッター解除、エルシオールにクロノ・ブレイク・キャノンを取りつける作業が開始された。

 グインの星で手に入れた紋章機、そしてシャアがどこかから乗ってきた機体も、いつしか〈白き月〉が収納して何かをしているように見える。

 

 地球の政治家たちは問題にはならなかった。アザリンの美しさと迫力、ドムの覚悟。そしてピカードの理路整然とした交渉、天性の詐欺師の才を縦横に尽くしたマイルズの説得……。何よりも圧倒的な戦力差。ヤマト一隻であっても、地球の全てを瞬時に破壊できる力。

 そしてアクシズ落としを阻止して帰還したアムロが、宗教に近いほど崇拝されていたことも。彼の呼びかけに背ける者など、地球の政治家にはいなかったのだ。暗殺をもくろむ者はいても、宇宙で圧倒的な戦力に守られたアムロに届く手などない。

 

 鉄郎の治療は、ヴァニラのナノマシン技術を使っても長くかかった。そのかたわらに、いつしかメーテルの姿があった。

「いつ戻ってきたのですか」

 いつの間にか、バーでいつも通り働いていたガイナンに、アムロとベックが聞いた。

「あなたたちには、気づかれてしまうわね」

 ガイナンが笑って、ワインをついで渡した。

「これは、故郷のアウスレーゼ」

 ベックの表情が変わる。

「ピカード艦長もご存じないのよ。艦長のご実家で使われてる葡萄の先祖が、あなたの畑から来ているって」

「そんなことより、あなたも」

 アムロが、νガンダムから降りるときはなぜか人間用のサイズになって腰にされる大剣の柄を叩く。ガイナンは笑って別のカクテルを作るだけだった。

 そこにやってきたマイルズが、じっとガイナンを見る。

「メーテルも、なにも話してはくれなかった」

「いつものことだな、こいつらの秘密主義は」

 アムロが飲みかけていたカクテルを渡されたマイルズは、またあちこち骨折した体を器用にスツールにもたせかけて、深いため息をついた。

「そうそう、マイルズ・ヴォルコシガン卿中尉」

 ガイナンが自分の本名を呼んだのに、マイルズはカクテルを吹きかけて周囲を見まわす。幸いデンダリィ隊の者はいない。

「これを鉄郎に返してやって。あの二人の息子が、大きくなったね……鍛えてくれて、ありがとう」

 と、戦士の銃をカウンターに置き、マイルズの故郷のメープル地酒をマイルズに渡した。

 

 捕獲した偽紋章機を参考に、ヒラガーや真田たちが、新しい機体をいくつか量産し〈玄武〉と名づけた。サカイとシラギクが受けとった機体に似ているが、より大型で波動エンジン搭載、ペイロードは駆逐艦なみ、蓄電補助エンジンで短距離加速は紋章機級だ。

 第一印象はヘビクビカメに似ていた。だが前脚はザリガニのようにハサミ状で尾がない。短いが頑丈な後足だけで着地・歩行可能。

 首と手足を収納した時の全体像は、上から見ると前後45m左右32mの卵形、最大厚22m。その状態なら大気圏内でも、全翼爆撃機に似た高い空力性能を発揮する。胴体前方には波動砲と光子魚雷発射管さえついている。

 ただし首と手足を出して人型を取っても、波動砲は発射不能にはならない。「腹」中央部から、散弾のように拡散して放つことができる。

 コクピットは胴体内部で、直視キャノピーはないが救命カプセル機能はある。

 三関節の細長い首についた「頭」は高性能なトリコーダー、高発射速度のショックカノン、多連装パルスレーザー、クレーンを兼ね、全身を「掃除」できる長さだ。

 ザリガニを思わせるが、小爪が二つある前腕は歩くこともつかむこともかなりでき、刺す挟むと接近戦武器としても強力だ。またセンサーと補助スラスターと牽引ビーム、ショックカノンとブラスター、重力内破槍も備えている。

 厚みのある背中は頑丈な装甲、多数のVLSと大量のペイロードのハッチでもある。

 その「広さ」がまた役立つ。前方投影面積・空気抵抗が最小である細長い円筒は、内部の部分どうしが「連絡」する燃料パイプ・情報・電線など「線」が大量に必要になる。複雑な宇宙機では、「線」の質量・価格も大きいし、長ければ長いほど切れて故障する確率も高くなり、修理も面倒になる。最も短い連絡線ですみ、また体積と表面積、すなわちペイロードと装甲材の比が最善の球は前方投影面積が大きすぎ、修理点検や貨物の出し入れなど内部に手を入れるのが困難だ。厚みのある円盤であれば、線の総延長・前方投影面積・ペイロード・内部アクセス・空力性能などバランスがいいのだ。

 背の装甲ハッチを開いて大量のペイロードや故障部モジュールを、首のクレーンを用いコンテナ船のように交換できるため、専門工場でなくても短時間で再出撃が可能なのだ。

 

 観測機たちが映像を検出するより先に、ニュータイプたちがいっせいに訴える。きた、と。

「質量ともに、あの宇宙怪獣の大群をはるかに上回るな」かつての悪夢を思い出す。ゲートを抜けた時に見た、何億もの、一つ一つが大型戦艦をしのぐ強大な戦闘装置の群れ。

「だが、こっちだって……何とか動く」

 アカガネの修理に駆け回っていた真田と徳川がうなずきあう。

〈白き月〉からクロノ・ブレイク・キャノンを積んだエルシオールが出現する。

 地球で待っていたはずのギリアム・イェーガーが、なぜか〈白き月〉からXNガイストを思わせる機体で出てきた。

 ただしダイゼンガー同様内臓武器が一切なくケンタウロス型で、アムロと同様の黒い巨剣が右腕と一体化している、剣を使うためだけの機体といえる。

 それにも、ゼンガーはうらやましいが人の手にする剣ではない、とおののいていた。

「じゃ、パワーアップしたっていうクスハのあれで水杯と行くか」アラドの冗談に、

「戦う前に全滅する気かよ」リュウセイたちが背筋を凍らせて拒んだ。

「あれが、パワーアップしたって?」マサキ・アンドーが震え上がる。

 そのせいでの病床からやっと起きたブリットが、泣きながらうなずき、よろよろと着替えた。

 

 最初に、トランスバール本星の側に襲来したのは、〈黒き月〉とエオニア、それにバクテリアンが含まれる大艦隊だった。

「降伏し、シヴァ皇子と〈白き月〉を引き渡せ」

 魂が抜けたように繰り返すエオニア。そしてその傍らのノア。皆は怒りすら通り越した何かを覚えていた。

「食われたようだな。隣の少女が本体だ」ピカードが目をそむけた。

「王を名乗っていながら、無様なものだ。それでもあのシェリーが主君と呼び命を捧げた男か」ドムがもう起き上がって、怒りをぶつける。

「楽にして、やらないとな」タクトもやっと、車椅子のままだがエルシオールのキャビンに戻った。

「マイヤーズ」母子の名乗りを交わした、シャトヤーンと寄り添ったシヴァが、タクトを見つめる。

「お任せください」タクトがシヴァに笑いかけた。

「私も戦う」タクトが何か言おうとするのを制した。「これはわがままではない。皇王としての、義務だ。エオニアを討つのは、わが手でなければならぬ。エオニアはまぎれもなく皇族であり、そしてわが父、故ジェラール前皇王の裏切りもある」

 タクトはひざまずくだけだった。

「シヴァ。一片の私心があったとしても、王たるものは剣を振るってはならぬぞ」アザリンが厳しく言う。

「はい。わたくしの恨みはない、しかし、トランスバール本星や、ローム星系で殺された、何十億という人の恨みと怒りが、ここにあります」彼女がはっきりと胸を打つ。

「ならばこの朕も、共に返り血を浴びよう」アザリンが凄みのある、それでいて慈悲に満ちた笑いを浮かべた。

「シヴァ」シャトヤーンが胸詰まるような目を向ける。

「母上。これは私のつとめなのです。必ずや無事に帰ります」シヴァがシャトヤーンを強く抱きしめ、エルシオールに向かった。

 

 厄介だったのが、鉄郎とメーテル、ウルリッヒ・フォン・ベックの扱いだ。旅を共にしたマイルズたちは、メーテルの凄まじい力を垣間見ている。

 またベックが手にするレイヴンブランド、鉄郎の拳銃も、とてつもない力を秘めていることはわかっていた。雪らも、鉄郎と同じ戦士の銃をエメラルダスが使っていたのを目撃している。

 マイルズやドムは、人智を絶する人間大の敵……ゲイナーやあの美少年を相手にすることを考え彼らを手許に置きたがったし、スティヴンスやナディア、シヴァは避難民として〈白き月〉かトランスバール本星に退避させようと主張した。

 とはいえ鉄郎は重傷で、機械の手足も断固として拒絶している。だが最も治療能力が高いヴァニラ・Hは紋章機パイロットでもあり、休息も必要。そうなると最も治療水準が高いのはエンタープライズである。エンタープライズからであれば、必要とされたときにはどこにでも転送で行ける。またデンダリィ隊の軍医も、大桶で細胞を培養して機能回復に協力する。

「また999号で旅立つとしても、君はずっとデンダリィ隊の一員だと思っている」と、かなり無理をして治療を中断し、デンダリィ隊に戻るマイルズが言った。

 その言葉に、鉄郎は必死でリハビリに励む。

 

 敵はエオニアだけではなかった。ヤマトとアカガネを上空から襲う、一機の黒い人型機……

「イングラム・ブリスケン!」リュウセイが叫んだ。

「あ、あなたは死んだはず」アヤが怯え叫ぶ。

「ボーグ化されています」データが冷静に告げるが、それは見れば分かる。

「彼は、何度でもどこにでも出現する存在だ。戦うしかない!」ギリアムが黒の剣で打ちかかる。

 アムロとゼンガーも同じく大剣を連ね、サイバスターや龍虎王も加わる。

 イングラムが乗る、改造された黒いアストラナガンの手にも、巨大な黒剣が握られていた。

 

〈黒き月〉直営部隊の強さは際立っていた。エオニア護衛部隊も、大型機動要塞級多数が連携して波状攻撃をかけてくる。

 だがついに集結し、技術を結集した艦隊は一歩も退かず、その圧力を受け止める。

「さあ、ブワ〜〜〜ッといってみよ〜〜!」

 タイラーの声だけで、士気は天井知らずに高まる。

 クロノ・ブレイク・キャノンと波動砲が同時に咆え、敵陣に大穴を開けて、そこにクロガネとヒリュウ改が斬りこむ。

 ヤマトから、ハガネから、次々に戦闘機や人型機が飛び立つ。

 傷癒えたアカガネが、攻防共に凄まじい威力で敵の圧力を食い止める。

 デンダリィ隊艦やシリウス号の、ミサイルもレーザーも無にするシールドが何万ものビッグコアの砲撃を吸収し、至近距離から重力内破槍を突き刺して突入隊が飛びこみ、中枢部に爆弾を仕掛けて転送離脱する。

 ラアルゴンとアシュランの精鋭艦隊が、マコト・ヤマモトの細部処理と兵站が、マイルズとカイ・タングが、タクトと紋章機たちが鮮やかなリードでタイラーの総指揮を演奏する。

 エンタープライズとミネルバが競い合うように加速し、敵陣を切り破る。

 亀に似た新鋭機、玄武が龍虎王に混じり、光子魚雷とショックカノンの嵐をぶちまけ、敵艦に肉薄して重力内破槍を叩きこむ。

 ビックバイパーとガイア。ブラックタイガー、タイラーやラアルゴンの戦闘機。そしてZガンダムやウィングガンダム、ガンダムエアマスター。二機のクラッシャー・ファイター。そしてワーウルフが、翼を並べ宇宙空間やトランスバール本星大気圏を切り裂き、舞い踊る。

 五機の紋章機が渦巻く敵に身を投じ、ガンダムXやフリーダムガンダム、ZZなどが掩護する。

 敵の大型ミサイルを、SRXチームやATXチームが、フェアリオンやゲシュペンストが鮮やかに撃墜していく。

 大剣をひっさげたダイゼンガーが、νガンダムが、XNガイストケンタウロスが縦横に暴れる。

 全ての艦が、まるで二十年訓練されぬいた精鋭艦隊のように一つの生き物として機能する。

 何億という巨大な、眼のような何かを、三つの絡み合う蛇のような艦隊が誘って包囲殲滅し、奥に見える月サイズの巨大要塞に突進した。

 ビックバイパーとνガンダムが先陣を切り、ハッチを切り破って飛びこむ。

 エンタープライズから転送された小型MS部隊が掩護に回り、海兵隊や惑星間警察の精鋭が襲う。

 内部は膨大な迎撃システム。高速で動きまわるハッチをすりぬけるビックバイパーを、人型に戻ったウィングガンダムのバスターライフルが掩護する。

 短距離対空ミサイルが次々に、ミサイルとファンネル、パルスレーザーの嵐を浴びて沈黙する。

 複雑な地形を切り破り、置かれた転送ポイントに、強化装甲服の精鋭が次々と出現し、人間より大きいサイズの機械人形に襲いかかる!

 キーナンやクライバーンと治療がすんだアシュラン精鋭部隊が、まだ包帯も痛々しいシュンの指揮に従い、肩を並べて四腕の巨体を殴り倒す。

 そこに出現したゲイナーと、転送されたフォン・ベックが切り結ぶ。

 その間に次々とハッチが破られ、要塞内防衛コアが粉砕される。

 通路をふさぐ多足清掃装置の炎嵐をシールドで防いだ玄武が、両のハサミをぶちこみながら至近距離で光子魚雷や小型波動砲を含む全弾を放つ。

 ワーウルフが牽引ビームで天井を引っぱって急加速、敵の懐に飛び込んで重力内破槍で切り破り、瞬時に変型して爆発を逃れる。

 ラミアの剣が巨大なダッカーの砲撃をかわして関節部を超高速で切り刻み、アイビスがとどめを刺す。

 サイバスターとヴァルシオーネが、巨大な壁にへばりついた多数のモアイと後方から襲う戦闘機の大軍を殲滅する。

 キョウスケがエクセレンのハウリング・ランチャーに掩護され、超高速で突進する。彼が今駆るのは、強引に短期間で、手足とコクピットを処分中の人型機から小型波動エンジンに移設し、重装甲をつけただけの超急造機だ。左腕の火薬式ガトリング砲がミサイルを排除し肉薄、旧式化した榴弾砲ででっちあげた中折れ単発の火薬式杭打ち機が刺さり、胴体からウェストフォールが改良した、小型波動砲の出力を重力内破槍の応用で至近距離に叩きこむ兵器が無数の闇弾をばらまき、道をふさいで上下から強烈な炎を放つ動く壁を粉砕した。

 一番奥の部屋に、ひとりエオニアは待っていた。

 護衛していた、心のない多数の、機械化し三つの口をもつ犬。猛攻をキーナンが先頭に立ってしのぐ。

 静かに、道が開かれる。

 そこに、重装甲宇宙服を着たシヴァとアルフィン、華麗なカイザースーツに身を包んだアザリンが転送された。

「エオニア」

 シヴァが静かに呼びかける。

 ニヤリと笑って手を伸ばそうとしたクロスターハイムとノア。そこにベックとメーテルが転送される。

 次の瞬間、床から壁が伸び上がり、ノア・クロスターハイム・ベック・メーテルの四人を他から隔てた。

「ついに、手に入れた。〈白き月〉の鍵、シヴァ皇子」

 エオニアの、生気のない声。

「シャトヤーン、〈白き月〉よ、なぜ応えてくれない。なぜ、私を拒絶する。トランスバール皇国は閉じこもるのではなく、外に開かれ、より多くのロストテクノロジーを解き明かし、より広い宇宙を見るべきなのだ」

 壊れたような繰り返し。

「その通りだ。私も全面的に賛同する」シヴァが、沈痛で悲しそうな声を漏らす。「だが、あなたは血を流しすぎた。一人一人の、食べて着て、愛しあう人々がいたのだぞ」

 長い旅を思い出す。エルシオールでの、時空さえ超える不安な日々。タクトやエンジェル隊の皆、そしてジョウやピカードの強さと温もりに、少しずつ触れた。

 アザリンに圧倒された、屈辱と底なしの罪悪感、無力感。王そのものに対する凄まじい恐怖。

 襲撃の衝撃、侍女やタクトの、ミルフィーユの犠牲、アルフィン、そして面識もないマイルズとの不安な捕虜生活。

 名も知らぬ無人星の森での暮らし。穴を掘りテントを張っただけのトイレにショックを受け、ナディアが狩った獣の解体と焼肉に吐き、破れた血豆の痛みに震えながらアルフィンの胸にすがり、当時は知らない母を呼びつつ生乾きの毛皮にぬくもった夜。はじめて野生動物を狩った時の誇らしさ。傷を負わされた恐怖。また、つい狩猟を楽しみとしてしまい、妊娠雌を必要もなく狩って厳しく叱られた時の涙。

 銀河鉄道での旅。列車で出会い別れた人たち。999号で鉄郎と駆け回ったあまたの星駅。苛酷な訓練と教育の日々。

 一人一人の人間が生きている、生き物を殺して食べ、着、出し、産み育てる動物に他ならないと……〈白き月〉の奥に閉じこめられ、ジェラール先王ほか王族たちに蔑まれて厳しい教育を受ける日々では知りえなかったことだ。

 装甲宇宙服を脱ぎ捨てたシヴァの手に、鋭い短剣が握られる。スティヴンスが残骸の軸受け鋼から打ちだした刃に、シヴァが仕留めた獣の皮紐を巻いた柄。

 アザリンもカイザースーツを解除し、その光剣のみを手にする。アルフィンがククリとブラスターを構えた。

「エオニア、王よ。トランスバール皇王シヴァ、殺された皇国人民を代表して、あなたを誅殺する!」

 叫んで突きかかる。持ち上げられようとしたエオニアの着剣小銃、敏捷に跳んだアザリンの光剣が腕を切断し、アルフィンが銃剣をかばうように打ち落とす、華麗に着飾られた胸を、シヴァの短剣が貫いた。

 返り血が噴き、シヴァの顔と服を染める。その血を、涙が薄めた。そのままかすかに洩らす、「あなたの理想は、私たちが継ぐ」

 そのままシヴァは、涙も隠さずエオニアの首を搔ききろうとする、アザリンが止めて光剣を一閃し、首をはねた。

 アルフィンがシヴァを強く抱きしめる。

「しかと見た。王たるにふさわしき聖断であったぞ。エオニアを王と認めるなら、このまま葬ってやろう。シヴァ皇王を称えよ、総員脱出!」

 アザリンの命令が通信で響き、次々と人々が転送されていく。そして巨大な要塞が、大輪の爆炎と化した。

 

 戻ってみると、ついに〈黒き月〉が本格的に動き出し、またバッツーラの暗黒惑星・バクテリアンの惑星級大型要塞も出現して、さらに敵の数は増えていた。

 ワープによる時空の歪みを巧みに使い、波動エンジンを備えた無人駆逐艦をミサイルがわりにしたタイラーが翻弄し、切り破っていく。

 

 回復したヘルハウンズたちを、車椅子のマイルズが訪れた。

「なぜ殺さない?」レッド・アイが冷淡に聞いた。

「捕虜を殺す文化は我々にはない、ラアルゴンはともかく。美しきセタガンダのように、大きさが変わるドームに閉じこめる趣味もない」

 マイルズは、多元宇宙の旅に巻きこまれる直前まで裸で苦闘していた収容所を思いだし、あちこちの傷をなでようとして止めた。

「助かってしまったね。こんなのは、美しくない。美しく散るべきだった」カミュが全身の包帯を見て、自嘲気味に笑う。

「美しいかい?あんな力を、他者に求めた君は。その結果があれだよ。鉄郎も今は間違った力を求めているが……君たちは、君たちをあんな姿にしたエオニアや、あの」

「ノアだよ。あの女の子は」ベルモット・マティンが、眼鏡がないと奇妙に美形な顔で笑った。

「あいつらに、まだ忠誠を尽くすのか?だとしたら、戦争法に基づいて捕虜として処遇する」

「契約は契約だ」レッド・アイが言おうとするのを、マイルズが押しとどめる。

「ノアは行方不明、エオニアは死亡した。君たちの契約は、エオニアとではないか?」

「じゃあ、あんたらにつけ、ってことか。そうしても敵は無人艦ばかりだ、魂を燃やしてくれるライバルがまるでいないじゃないか!」ギネス・スタウトが怒鳴り、痛みに顔をしかめる。

「ライバルとの研鑽なら、熱い血の味方と肩を並べて戦ってもできる。誇りをもって」

「誇り?誇りは貴族のものだ。君たちにわかるもんか」リセルヴァ・キアンティが顔をしかめるのを、マイルズは冷たい目、祖父ピエールや父の政敵たちからも学んだ、貴族ならば貴族とわかる視線で見て静かに応えた。

「誇りを知る貴族を見たければ、ラアルゴンやアシュランの士官、クラッシャーアルフィン、シャイン王女やシヴァ皇女、フォン・ベックやメーテルと会うといい。だが、今の君たちを、彼らは誇りある戦士と認めるかな?」

 しばらく、雄弁に沈黙する。

「行動を選ぶことは、結果を選ぶことだ」と、マイルズがそれぞれに、スタナーと銃剣、そして玄武のキーを渡す。「武装解除は、信頼していないというメッセージだ。さらに自殺防止措置は、おまえには死を選ぶ権利もない、おまえの生命はおれのものだ、というメッセージだ。われわれはそれをしない……選びたまえ」

 そう言って、じっと五人を見つめる。

 

 圧倒的な数を誇る敵、そして高い士気に支えられた味方。そこに、〈白き月〉から突如人型機が出現する。

「あれは、シャアの乗ってきた機体と」アムロが息を呑む。

「エメラルダスが借りた紋章機」ミルフィーユが目を見開いた。

 改めて見ればはっきり分かる、一体の大型人型機が強引に分離していたのが、あの二つの機体だったと。

「〈黒き月〉とミルフィーユたちが行った星に、さらに〈白き月〉にも何か関係があるのか?」レスターが訝しむ。

 ヤマトに集中攻撃をかけようとする、超高速で遠距離から襲うミサイルと、不安定に短くワープする高機動駆逐艦、大型巡洋艦隊、さらに黒い人型機。さらにその後ろから迫る、恐ろしく防御の固い大型戦艦……その全てが一瞬輝く。

 シャアの機体から放たれた黒紫の雷が、遠距離のミサイルや駆逐艦を順番に貫き、粉砕していく。どんな機動でもかわせない、すさまじい攻撃力。

「遺失紋章機だった機体のマルチロックオンシステムに、あの上限のない紫の稲妻が乗っているんだ」真田がうめいた。

 そして近づく人型機に、強力な機関砲が注がれ次々と撃墜する。被弾も頑強なシールドがすべて無効化する。

 かろうじて接近した量産型偽紋章機に、人型機の腕から伸びる黒い稲妻の剣が一閃し、まっぷたつにした。

 そして恐ろしいスピードで大型戦艦に迫って指差し、ほんの一瞬対峙してから紫雷を解き放つと、黒い闇の球が大型戦艦を押し包み、爆発さえさせずに消し去った。

「グランゾンの縮退砲以上だ」その威力を体で覚えているマサキ・アンドーがおののく。

 シャアとアムロの凄まじい戦力が次々と大型無人艦隊を屠る中、〈黒き月〉が急速に〈白き月〉に迫り、直営の機動要塞が襲いかかる。

 

〈黒き月〉が見えたとき、突然、タクトは直接聞いたことがある声がした。「素敵なおもちゃ……全部欲しいな」

 そして、突然全艦全機の、あらゆるエネルギー・コンピューターが使用不能になった。

 それから〈黒き月〉がゆっくりと、〈白き月〉に迫り融合しようとする。

 同時に無限の宇宙に、巨大な天秤が出現すると、〈黒き月〉の側に傾こうとした。

 その天秤の頂上に、誰かがいる。

「機関室、どうした!」

 古代が叫ぶ。

「波動エンジン・補助エンジンとも完全停止」徳川彦左衛門の声は、冷静さは保っているが、誰も聞いたことのないほど恐怖に満ちていた。

「くそっ、すべてのエネルギーを停止させるキャンセラーだ。このままでは一方的にやられるぞ」

 真田がいろいろといじる。

「シリウス号!レーザー、いや手旗信号で有視界交信しろ!」

「今突きとめている、と交信です!」

「くそっ、〈白き月〉が」

 窓から見える美しい月が、まがまがしく変型して〈黒き月〉と融合しようとしていく。

「どうしようもない、エネルギーがなければ」

 全ての艦が同様だ。シールドも武器もエンジンも、何も使えない。棺桶だ。

「ドローメより手旗通信。〈ラアルゴンニゼツボウナシ コイデデモススミ カミツク〉」

「〈トモニタタカエテコウエイ〉と返信せよ」古代が座り直す。

「おねがい、わたしの、この強運で、どうかみんなを助けて」ミルフィーユがラッキースターで祈る。

「ぼくの強運も、全部使っていい」タイラーが眼を閉じてつぶやき、あえて外れた声で歌い出す。照明もパネルもダウンし、絶望に陥りそうなブリッジが明るい笑い声と、マコト・ヤマモトの絶叫で転がる。

「俺の運も、持っていけ!全額00一点賭だ!」キョウスケがレバーを握りしめる。

「大した運じゃないけど」アラドが必死で祈った。

 強運を誇る戦士たちの艦や機体から、小さな光が灯り、集まる。

 それが、ラッキースターに集中すると、その機体から白い翼が出現した。その翼はカンフーファイターに、トリックマスターに、ハッピートリガーに、ハーベスターにも出現し、輝きが集中して無数の羽根が宇宙を埋め尽くすかのように舞い散る。

「全エネルギー回復!」徳川の歓声が上がる。

「クロノ・ブレイク・キャノン発射準備。狙いは〈黒き月〉コア」タクトが素早く艦を動かす。

「全艦、エルシオールを護衛せよ!」ドムの叫びと共に、高速で迫るデリンジャーコアに高速戦艦の砲撃が注がれ、カバードコアのミサイルをシールドと対空機関砲が受け止める。

 エンタープライズのシールドに守られたエルシオールがエネルギーを蓄積し、光の嵐が放たれる。

 ほんの一瞬見えた、もはや〈白き月〉を取りこもうとしていた〈黒き月〉の中心核を、光が射貫いた。

 全員がほっとしたとき、虚空に最高のブランデーや純粋なガラス板を割るような、美しいがおぞましい声の笑い声が響く。

「すばらしいよ」

 そこには、柱のない、虚空から吊された〈天秤〉に腰かけたあの美少年がいた。

「な、なんだあれは。どんな大きさなんだ」

「なんだあれは、という質問には、現時点で明白な解答はできません。トリコーダーは地球人のDNAを検出していますが、同時に機械人間の元素も検出しています。大きさは測定できません。人間大とも、大型宇宙要塞サイズとも、木星サイズとも思える多重解数値を出しています」

 データがピカードに応える。

〈天秤〉の下には、ゲイナーがそれに剣を向け、ハーケンクロイツをつけた、巨大な西洋竜を思わせる大型戦艦と、アストラナガンが控えていた。

 さらにその向こうに、何かとてつもないたゆたいが感じられる。これまでの艦隊とは比較にならぬ膨大な敵艦隊も。

「龍虎王が、恐れおののき叫んでいます。邪悪だと」クスハが震える。

「邪悪は見ればわかる」キョウスケが静かな目で睨む。

「討つべし。タイラー、ドム」アザリンが、静かに瞑目し、決意する。

「承知!」ドムは自らの全身を砕いた人智を絶する相手を、恐怖よりも激しい憎悪と闘志で激しく見、剣を抜いた。

 タイラーはじっと、それを見つめる。そしてしばらく瞑目し、

「恐ろしい、でも戦う」と、涸れた声でつぶやき……「ダイジョーブ、さっさと片付けて、故郷に帰ろう!」

 圧倒されていた全軍に、強い鬨の声が上がる。

「無力なえさが、けなげらしいね」美少年の笑い声と共に、〈天秤〉が解体される。

 長大な棒。二枚の皿。それを繋ぐ鎖。皿の一枚から湧きだす〈混沌〉が、全ての形を失わせ、背後のたゆたいを取りこんで何か、巨大な銀河のような姿に変じていく。

 突然、それまで無言だったゲイナーが絶叫をあげる。

 それとともに、皿がふくれあがる。球に、そして四次元、五次元……無限次元に。

 鎖が、無限の長さになってたゆたいを縛り上げる。

「あ、あれはクロノ・ストリング、と紋章機が」ミントが青ざめる。

 一体。そして何兆もの無数、一つ一つが月に匹敵する巨大な、高次元の不定形から槍のような単一砲を突きだしている艦。膨大な、身長ほどの銃剣をつけた小銃を構えた虚無黒の人型機が整列する。その超艦隊が生物の細胞のように鎖で絡み、全体が一つの超巨大艦を構成している。それでいて、その全体は例の、一人の……人間の大きさの美少年と同質でもある。いや、少年という言葉が誤りか……それは男でも女でもあり、両性具有でもあり、そのどれでもありどれでもないのだ。

「ああ」誰もがはっきりと思い知らされる。人のつくるものなど、すべて〈混沌〉に流されていくだけのひとときだと。

 その、もう一枚の皿が、力を受けてはじけ飛び、いくつかに別れて飛んだ。

「これは」ブリッジにいたフォン・ベックが、小さな金属製の皿を手にする。

「聖杯です、ヒトラーが求めていた」いつしか傍らにいたメーテルが告げる。

 アムロのνガンダム、ギリアムのXNガイストケンタウロスの左手に、矢の紋章が描かれた巨大な円楯が出現する。

 ほとんど瞬時に、艦隊機動すらままならなくなる。ほぼ全ての艦や機体が、自らをより強力にコピーしたような敵と一対一で戦う羽目になり、同時に艦の内部に転送された中身のない、黒い甲冑が着剣小銃を握るだけの、人間より一回り大きな敵との白兵戦に陥ったのだ。

 ギリアムとイングラムが激しく斬り合う。

 アムロやシャアの前に、死んだはずのシロッコやハマーンが、ララァが次々と出現し、混沌の機体で襲う。

 タイラーは、百年近い未来において自らが、ジェーンの戦いのため自分が生みだしたクローンと戦うその時間を垣間見、その罪とベルファルドそのものに震えながら采配を振るっていた。

 いずこともしれないところで、ゲイナーとフォン・ベックが果てしなく切り結ぶ。その中で二人は時にエルリックに、時にはコルムに、時にはホークムーンに、エレコーゼになって、悲劇と死を繰り返しながら剣を振るい続けていた。

 それは、時にはヒトラーの宮殿でさえあった。

「神々なのか」執務室で切り結ぶ、人とは思えぬ力に満ちた姿に、ヒトラーが怯え叫ぶ。

「アドルフ・ヒトラー!」叫んだフォン・ベックがヒトラーに斬りかかろうとするのを、コルムに変じたゲイナーの魔剣〈反逆者〉がはじく。

「ニーベルンゲンの神々よ、導きを!」

 その叫びも聞こえず、ベックの肩からしぶいた血が剣を伝い、机にあった書類を染め、本が踏みにじられた。

「神の血印がハイゼンベルグの……そして『相対性理論』が神に踏みにじられる、やはりアインシュタインは誤っている、この機に追放しよう!彼の追放がドイツ科学の崩壊を意味するというなら、われわれは数年間は科学なしでやっていくのだ! ユダヤ人科学などで新兵器は作れぬ、ハイゼンベルクを信じて任せよう。あの聖槍の力を彼の研究に注げば、全ての敵を破壊してくれるであろう……」

 ヒトラーの声が遠くなる。

 そして二人は、気づけば今度は別の、竜がその下でうずくまる巨大な木の下で斬り合っていた。

 一時剣を離し、フォン・ベックは傍らにいたエメラルダスにつぶやいた、「あと3cmでヒトラーを斬れたのに」

「あなたは十分に、ヒトラーの敗北につながる貢献をしました」

 

 ギリアムとアムロが、イングラムと激しく戦い続ける。周囲が〈混沌〉に呑まれる中、彼らの二機は無事だった。

 その背後のSRXとダイゼンガーも、半ば崩れながら。その破滅の中、ひたすらに大剣を振るい続ける。

「フフフ……〈法〉の盾か」イングラムが相変わらずの笑顔で言う。

「なんであろうとかまわない。仲間たちを助けるために!」アムロが叫び、剣を振るう。

「宿命に縛られた戦士よ、言葉ではなく剣だ!」ギリアムも黒い剣を叩きつける。

 いつしかそこにはアクセルとアルフィミィの姿さえあった。

 最後に、νガンダムの背から離れた竜がアストラナガンに噛みつく。

 アクセルの機体の肘と拳が、次々に手足を打ちぬく。

 同時に混沌の中から出現した、SRXの光剣がイングラムのアストラナガンをえぐる。そこにギリアムが黒の剣をふるい、その傷に何かのカプセルを押し込んだ。それがはじけると、光の粒が吹き出して人型機を金色に染める。

「〈戦士〉はわれらだけではない」

 コクピット内のイングラムの脳から、光の粒と共に触手やボーグの機械が溶け失せる。目を覚まし、何も言わずにリュウセイらSRX隊にうなずきかけた。

 

 混乱した戦場、その中タイラーは近くにいたラアルゴン艦隊やエルシオール、エンタープライズ、ヤマト、それにコーティーなどを、まるでピクニックにでも誘うように誘った。

 そして他の全艦に、「バラバラに戦いながら、できるだけ戦線を広げて。死ぬな」と命じた。命令を通信文に変えるキョンファ・キムの冷静な表情に、何の迷いもない。

 彼女が受け取る外界の映像や情報は混乱しきっており、ここが海か宇宙か、それどころか自分たちは細菌で人の体の中にいるのかさえもわからないのだが。

 どの艦も、それは定石では破滅への道だと分かっていたが、あえて命令に服従する、タイラーを信じて、必死の思いで。

 混乱の中、タイラーやアザリンを中心に、ごく小さく硬い艦隊だけが敵の中央部に盲進する。

「ばかだね、食べてくれといわんばかりに。まわりのみんなも、もっとまとまろうとすればいいのに、どうせ無駄だけどね!〈混沌〉の中で正しい艦隊機動なんて取れるはずがない、でも〈混沌〉も〈法〉も、ぼくにはただの食べ物だけど!」

 美しくおぞましい声の中、平然と小さな艦隊は攻撃に耐え、突進する。

「もうばかばかしくなっちゃった」

 そういった瞬間、タイラー率いる小さな艦隊を、その大きさ・数とも何万倍もの艦隊が囲んでいるのがわかる。

「死ぬにはいい日だ」ウォーフが言う。

「このまま総攻撃を受ければ、確実にエンタープライズは破壊されます、艦長」データが平然と言う。

「まあ、タイラーを信じるんだ」ピカードは何か分かったのか、余裕で平静を保っている。

「タイラー提督……」タクトは必死の思いで紋章機を指揮し、猛攻からエルシオールを守り続ける。

「タイラーを信じよ!勇者たちと共に戦い死ねるならば本望じゃ。戦い抜くぞ!」莞爾と笑うアザリンに、ドムも余裕の笑みを返す。

「全速前進!ひたすら加速して」タイラーが命じた。

 そして、たどりついたことがなんとなくわかる。敵そのものに。

「さて、ここかな」タイラーが、軽い笑いを浮かべている。

 もはや、艦すら形がなかった。内部に侵入される、生物とも泥とも機械ともいえぬ〈混沌〉と必死で戦う海兵隊も、次々に取りこまれていく。

「待っていたよ、食卓へようこそ。全然おいしそうには見えないけどね」そこにいる例の美しい邪悪が笑う。

「ああ。本当の邪悪というのがあるんだね。ぼくはずっと、そんなのはないって思ってたんだ。誰にだっていい部分はあるし、悪いのだっていろんな事情もあるし、それぞれの欲望もあるし、どれも御仏のおぼしめしだ、って」寺の子であるタイラーが、目をひそめた。

 そしてしばらく沈黙し、瞑目する。

「まあいいや。終わりにしようか」

 その時のタイラーの目。その目を見たものは、タイラーの長い生涯、彼と戦い散った何十億の敵、他に誰もいない。

「コーティー、ヒラガーくん」

 隣にいた二人が、うなずく。ヒラガーは手にしていたPDAをタップし、コーティーはただ軽くつばを吐いただけだった。

 みるみるうちに、〈混沌〉に溶けていたブリッジが元に戻っていく。機械と闇の生命の融合体に取りこまれ、体が溶けかかっていた人々が、次々と輝きと共に人の姿を取り戻す。

「一種のコンピュータウィルスがセンサーにも脳にも侵入してた、と仮定してみた。それにそっちの、全構造がコンピュータみたいなものだ、とも。ヒラガーくんは、そっちのほうでもエキスパートなんだ。そして、人の実際の脳を冒している細かいものなら、なんであろうとイーアドロンが掃除してくれる。逆に、そっちに感染してるよ……イーアと、統合された最悪のウィルスが」

「ウィルスとしては、コンピューター黎明期の原始的な代物ですよ。だからこそ、ワクチンソフトも忘れられていた。あと、データくんに押しこまれたプログラムとその添付プログラムも参考にしたよ。誰だか知らないが、あれをプログラミングしたのは……女神だね!」

 ヒラガーが不気味に笑う。

『同じ寄生存在、そしてエネルギー吸収生命体……好きなだけ食べてください、子孫たちよ、友よ。おなかを壊さないように』

 コーティーの口を借りた、シロベーンの言葉が出る。

 美しき邪悪の表情がゆがむ。そして激しくタイラーを襲う、それを一瞬キーナンとアンドレイセンの二人が盾になって食い止め、マコト・ヤマモトの正拳と中段蹴りが突き刺さる。

「はっはあ、無力な人間なんて」

 ヤマモトとキーナンの手をすりぬけ、高速でかききえて天井を蹴った、その体が突然崩れる。

「あ、ああ」

「いまだ!」タイラーの叫び。

 タイラーを守り抜いた守りの堅い小艦隊が周囲に攻撃を放つ。

 その時、周りを広く逃げ回っていた全艦隊が、全力攻撃を中央に放ちつつ、タイラーのいる中央部に向けてワープする。

「こんなことを……全艦が一つの座標にワープなんてしたら、あの地球もトランスバール本星も、全部消えます」マコト・ヤマモトが泡を吹いて気絶する。

「さ、予定座標へワープ、カトリくん」タイラーの軽い一言、同時にタイラーの小艦隊がワープに入る。それぞれ定められた座標へ。そのワープが、螺旋と六芒星印を交えた奇妙な印を描く。

 奇妙なことに、ワープしたはずの周辺の艦隊は、ワープしないままだった。

「〈混沌〉の影響でワープが平常には働きませんでした。通常のワープをはるかにしのぐエネルギーだけが暴走し、虚数次元の定義されていない存在のみが当該座標にワープアウトしたようです。それが虚次元から、実次元の〈混沌〉を通じて表出しています」ワープアウトしたデータが冷静に解析する。

「さらに、ワープを追った敵艦全て、重複した時空に出現して、ワープエネルギーも含めて全て暴走している」真田がおののいている。

「結果的には、敵の全軍を包囲殲滅しているようなものだな」マイルズが、目を光点だけに移して分析し、カイ・タングがうなずく。

「それに、それぞれの艦から放たれた最大攻撃も混じって、中央部はどうなったんだ」タロスが呆然とする。

「タイラー」ジョウが唇を噛む。いや、シヴァと共にいるアルフィンも、エルシオールにいるのだ。

 遅れて着弾した膨大な砲が、その集中した何かをさらに激しくかき回す。

「真似されたようですね、ピカード・マニューバーを」ライカーがピカードに笑いかけた。

「それどころじゃないな、このタイラー・マニューバーは」ピカードが疲れたように腰かける。

 ありえない数の敵艦隊が、混沌と混沌がぶつかって虚無に帰っていく。

「さ、頼むヨ。クスハくん、ブリットくん、SRX隊のみんな。シャアくん、とどめを」タイラーが、それぞれに呼びかける。

「龍虎王、おねがい……念動、集中!」クスハが、

「念動フィールド、暴走」リュウセイが、

「T-LINK、フル……コンタクト!」マイが、

 龍虎王、そしてSRXが、強力な念動力を振り絞る。

 シャイン王女とミントも、別の地点から超能力を注ぐ。

 五機の紋章機が、白い翼を広げて、それぞれが太陽のようにすさまじい力を吐き出す。

 彼らを襲おうとする膨大な、奇妙な深海魚のような巨大機体。それをすべて、五機の玄武が食い止める。

「ヘルハウンズ!やってくれたか」マイルズが笑った。

「ハニーを、あんな美しくなくはないけどぼくほどじゃないのに食わせたくはないからね」カミュ・O・ラフロイグが笑い、波動砲を叩きこむ。

「ライバルたちに、手を出すなあああああああああっ!」ギネス・スタウトが暑苦しく怒鳴って爪で敵を次々に引き裂く。

「敵は叩くのみ」レッド・アイが感情を見せず、素早く玄武の巨体をひるがえす。

「貴族を操ろうとした者がどうなるか、思い知らせてやる!」リセルヴァ・キアンティが珍しく熱くなっている。

「さて、と。これがこうなって、うまくいくかな?」ベルモット・マティンがニコニコと笑っている。

「八卦封魔……陰陽太極、急々如律令!」クスハの叫びと共に、その巨大なエネルギーが太極のシンボルを描く。白と黒、光と闇、法と混沌のかすかな調和に表出する、生命を許す多様性。〈天秤〉のもう一つのシンボル。

「うう……餌どもが、蛆虫どもが!」

 叫んで、サイズも分からぬ人の姿で襲いかかる美少年。

 ヘルハウンズの、五機の玄武が瞬時に姿勢を制御し、その強大な装甲に覆われた背を並べて攻撃を防ぐ。

 五機の、白い翼を広げた紋章機がそれを包むように迎撃する。

 アムロの〈法〉のシンボルを描いた盾が食い止め、腹を黒の剣がえぐる。

 シャアの人型機が、コーティーの小艇が、瞬時に全てのロックを集中し、ロックオンレーザーを解き放った。

 虚空の球となる黒紫雷電の嵐が、エネルギーを全て吸い尽くす緑の帯が、全て突き刺さり引き裂く。

 

 見守るエルシオールのキャビンに出現し、シヴァを襲おうとしたクロスターハイム。その体を、鉄郎とエメラルダスが放った戦士の銃が貫き、クロスターハイムの姿が深い深い虚無と絶望に変わる。

「さてと、いただくか」出現したQが、クスハの健康ドリンクでも飲むようにそれを飲み干した。

 

「見事でした」「見事だ」と、全艦に通信が入る。

「エメラルダス、ハーロック!」

 鉄郎が笑顔で叫ぶ。

 クィーン・エメラルダス号とアルカディア号。その背後には、タイラーたちが倒した敵よりも、はるかに数知れぬ敵の、スクラップさえ残さぬ虚無が散乱していた。

「こちらでの戦いもそろそろすみますよ。さて、とどめに入りましょう。〈一なる四者〉よ」

 いつしか、アルカディア号の舳先に乗っていたフォン・ベックが、黒の剣を高く掲げた。

 その周囲に集まったアムロのνガンダム。ギリアムのXNガイストケンタウルス。イングラムのアストラナガン。

「あれは!レーダーに」ヤマトの雪が叫んだ。

「こちらに、来たようですね……颱宙ジェーンの、本質。〈天秤〉を壊すもの。無限の食欲と破壊」エメラルダスが見つめる。

「ゲイナーが、あそこにいる」フォン・ベックがうめく。

「とどめを。メーテルよりエンタープライズ、ベックと鉄郎をアカガネに転送」メーテルが静かに言う。

 指差した先には、言葉にも観測データにもならぬ、たゆたいが地球とトランスバール本星、そして多元宇宙の全てを呑み尽くそうと迫っていた。あの美しい邪悪の、形を失った残渣もまたそれに混じり、巨大アメーバのような感じになる。

 

 アカガネの艦首に三種の大型人型機が黒の剣を並べて立つ。ベックが黒の剣を掲げ、装甲宇宙服だけで艦首に立つ。

 アカガネの機関室で鉄郎が、戦士の銃を波動エンジンに直結し、構える。

 科学者たちと、メーテルやエメラルダスがさまざまな言葉を素早く交わし、各艦に命令する。

「波動砲チェンバーから波動エネルギー、強制注入!」

 アカガネの艦首に、すさまじいエネルギーが集中する。艦首から伸びる光の龍、その先端に掲げられた、四本の黒き大剣……そこに、波動砲二発に相当する波動エネルギーの塊が超高密度でまとわりつく。

 エネルギーの嵐から、艦体を緑のシールドが護る。

「さあ、ぶわ~~~~~~~っと、いっちゃおう!」タイラーが叫ぶ。

「機関全速、ブランドンドライブ!アカガネ、突撃いいいいいいいいっ!」

 テツヤの叫びとともに、ブランドンが発見した半ば実宇宙に実体を残す超光速飛行で、波動エネルギーの槍と化したアカガネが襲いかかり……叩きつける!

「艦首波動砲……」ヤマトが、

「クロノ・ブレイク・キャノン……」エルシオールが、

「艦首トロニウム・バスターキャノン……」ハガネが、

「艦首超重力衝撃砲……」ヒリュウ改が、

「量子魚雷……」エンタープライズEが、

「コスモ・ノヴァ……」サイバスターが、

「一撃必殺……」SRXが、

 他にもありとあらゆる艦・ロボットが最大攻撃のタイミングを同調させ、全てのエネルギーを振り絞る。

 エメラルダス号とアルカディア号、そしてアカガネでも、艦に直結された戦士の銃の引き金が絞られる。

「発射!」

 完璧な同調。力の槍が次々にアカガネを追って突き刺さる。そのすべてがまた、アカガネ後方を覆う光の龍を通って先端の剣に集中される。

 四つの〈黒の剣〉、それを手にする〈永遠の戦士〉が人知を絶する〈一なる四者〉となる。一人にして四人、四人にして一人。さらにその背後にはハーロックとエメラルダス、メーテルとガイナンも、その人智を絶する力を振り絞り、また幾多の戦士たちの魂の力を集約していた。

「ビッグバンをはるかにしのぐ、特異点を越えた極限の高密度高次元エネルギー……あの黒の剣なら、それを集約できる……」

 スティヴンスが目を見張り、計算尺を複雑に動かす。

「これで破壊できなければ……」

 ウェストフォールが拳を握り締める。

「四振りの〈黒の剣〉が一つになって、なにかとてつもないものになっている。言葉にならない」ブリットの念動力が、彼に激しい痛みを返してくる。

「うかつに読んだら発狂しますよ。攻撃に集中しなさい」エメラルダスが厳しく止め、エメラルダス号につながった戦士の銃の引き金を引き続ける。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 全員の激しい叫びが、一つのビックバンになる。

 気がついたときには、まったくの虚無。その遥か奥で、ひと時の安らぎを与えられたゲイナーのため息と、無数の顔が焼けただれる悲鳴が聞こえた気がした。

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