スーパーロボット&宇宙戦艦大戦MW   作:ケット

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エピローグ

〈エピローグ、タネローン〉

 静寂の中、戦士たちはタネローンに集う。そこはどこでもあり、どこでもない、安らぎと静寂に満ちた場だった。

 天には、修復された〈天秤〉が高くそびえていた。

「多元宇宙の旅人たちは、それぞれの船に集合してください。そしてアムロ、シャア、コーティー、ヘルハウンズの皆さんはアカガネに。アカガネのクルーは、もう戻ることはないよう退艦してください」

 エメラルダスの指示に応じて、それぞれが船に乗り、暖かく互いの健闘を称えあう。死闘の思い出を語り飲む酒に、船の隔てなどなんでもない。

 メーテルと鉄郎、そしてウルリッヒ・フォン・ベックは、タネローン駅のホームで999号のドアの前にいた。

 ひとときの、永遠とも思える戦士たちの交歓。そこには、別れの予感が満ちていた。

「別れの時が来ました。天空の結合が閉じるときが」

 メーテルが告げる。

「一つだけ選んでください。技術か、歌か」エメラルダスの言葉に、誰もがいぶかしげな顔で見上げる。「多くの人は、この多元宇宙の戦いの記憶を失います。ここでの、多元宇宙そのものを救う戦い、そして〈永遠の戦士〉の宿命は、常人が負うには耐え難いのです」

 スティブンスらが衝撃を受ける。

「何人か覚えている人もいるでしょう、特に王族は。夢として思い出す人もいるでしょう。ただ、一つだけ選ぶことができます……技術か、歌か」

 ピカードが、首から下げた笛を手にし、見つめる。別の生涯をすごした一つの世界の、記憶と思いが詰まった笛。

 戦士たちが通信越しに顔を見合わせる。

 物理学者や技師たちが、静かに瞑目して、うなずく。

「歌を!」

「では、みなさんそれぞれの故郷の、歌を交換してください。情報記憶装置に、記憶に、手に」

 エメラルダスの言葉と共に、今や一つの艦隊となった彼らが必死で、全ての歌を交換しようと死力を尽くす。

 ピカードが伝えるレシクの笛歌。そしてピカード自身の時空での歌。クリンゴンの、ロミュランの歌。

 ヤマトに乗りこむ戦士たちのパレードで、彼らを見送った歌。宇宙戦士訓練学校で、走りながら歌う歌。半ば泣きながら隠れて歌う、上官をけなす下品な数え歌。通信の雑音に混じっていた、ガミラス兵のざれ歌。雪が記録をとったイスカンダルの音楽データベース。

 ラアルゴンの荘厳な歌。最近タイラーの親友と結婚した、タイラーとも面識があるアイドルの伝説的なアルバム。〈信濃〉事件の犠牲となった、若いアイドルの名曲。

 バラヤーの街で歌われる歌、宮廷の曲、ヴォルコシガン領の山深い村の民謡。デンダリィ隊それぞれが好む、あちこちの星の歌。実験動物だった幼い頃にタウラ軍曹が聞き覚えた、ジャクソン統一惑星の歌。セタガンダの宮殿に響いていた歌。

 エルシオールのデータベースのすべて。ランファとミルフィーユがデュエットで歌った最近のヒット曲。

 伝説のダーティペアが滅ぼした星からなんとか救出した名曲集。

 フォン・ベックの所領に伝わる民謡。彼が幼い頃、奇妙な剣技を伝える家庭教師に歌われた子守唄。先祖が聖杯探索の頃に覚えたという、人前では歌わぬ歌。異端審問に怯えながら歌い継いだ、サタンを称える賛美歌。第一次大戦の泥地獄で戦友が、砲弾に上半身を粉砕される瞬間までのんきに歌っていたウィーンの酒場歌。

 鉄郎がなんとか覚えている、立ち寄った多くの星の歌。すでに滅びた不定形惑星の子守唄。化石の星の戦士がくちずさむ戦歌。

 ボルテスVのメンバーの耳にかすかにのこる、ボアザン星の子守唄。

 ディアナ・トロイが耳で覚え持ち帰った〈ケイロニア・ワルツ〉や街角のざれ歌、海賊の綱引き歌。

 新しく生まれる歌もある。多元宇宙のぶつかり合い、ゲイナーのうめきやアムロが駆る竜と剣の声、それはそのまま人が知らない歌となる。

 

 永遠であれ。ひととき共に戦った戦友よ。元気で、愛している……兄よ、姉よ、妹よ、弟よ。父よ、母よ、パパ、ママ、娘よ、息子よ。われらが一員、兄弟よ。たとえ時空の壁に隔たれても、歌の絆は変わらない。もしまた再会できたときは、敵であれ味方であれ、覚えていてもいなくても、また素晴らしい戦を……

 別れがいつ訪れたのかは、誰も知らなかった。

 ヤマトは、ちょっとしたワープの事故であるかのように、コスモクリーナーを抱えて赤い地球への家路を急ぐ。雪と徳川彦左衛門、沖田艦長だけは全てを覚えており、素早く航海日誌をまとめて封印したが。他の誰もが、奇妙な夢と無数の聞きなれぬ歌は覚えていた。夢は語らず、歌は酒場で交わすだけ。

 デンダリィ隊は、なぜかいきなり彼らの時空での地球のそばに出現した、辻褄が合うような記憶を上書きされて。マイルズは大方は覚えていたが、それより何とかバラヤー大使館に接触し、傭兵艦隊に……実はマイルズ・ヴォルコシガン機密保安庁中尉の秘密任務が成功した以上、その秘密活動資金を出させ……せしめて修理費と給料を払うことに頭をフル回転させる。けなげな妹と弟の思い出が、地球で出会う弟に対する行動にどう関係するかは知らない。全てを記憶していたカイ・タング准将が退役したのも、それと関係があるのだろうか。

 シリウス号は避難民を連れて、火星への道を航る。科学技術の大半を除き全てを覚えていたナディアとスティヴンスは、長い旅で生まれた子供に迷わずシヴァ、そして鉄郎の名をつけた。科学者たちの記憶の断片がどれほどの技術進歩につながるかは知らない。ただ、無数の歌が三惑星の文化を豊かにすることは確かだ。

 エンタープライズEは任務を続行する。データだけは、隠された航宙日誌のありかを知っていたし、ピカードは半ば夢として覚えていた。ディアナ・トロイもほぼ覚えており、特に孤独に苦しむ狂王を救いきれなかったことに胸を痛めていた。何も語らぬガイナンは、今回の旅だけでなくどれほどの旅の記憶を抱えているのか。そしてQは……

 エルシオールとトランスバール本星、〈白の月〉は元の時空に返り、エオニア戦役の戦後処理に没頭していた。シヴァは全てを覚えていたし、旅は彼女を優れた王に鍛え上げていた。銀河の天使たちはかなり記憶していたが……ほかのあらゆる記憶や記録は、多元宇宙の旅を除いて編纂されていた、残るのは無数の音楽データのみ。そしてまた、吹き飛ばされた〈黒の月〉のコアに眠る少女の記憶媒体も、そちらから見た情報の断片を記録していた。

 クラッシャージョウたちは全員覚えていたが、戻れた以上切り替えてコワルスキーを悼んで酒を虚空に投じ、次の契約に間に合うためにミネルバを飛ばす。また会えるか、共に戦える日はあるか……その時を夢みながら。そしてアルフィンは、誓いどおり境遇を同じくする少女を守り抜いた誇りに、美しい目を輝かせつつジョウに寄り添っていた。

 ドムとアザリン、タイラーとキョンファ・キム、シラギクはおおかた覚えていた。ヒラガーは、自分のデータベースにある無数の音楽と、奇妙な恐ろしく洗練されたプログラムにいぶかしい思いをしたが、そんなことより新しい艦の設計が優先だった。アシュラン三兄弟は全てを忘れていた、わずかでも覚えていれば、アザリンとタイラーに挑戦することなどしただろうか。キーナンとバーセルミ男爵は、互いに背中を預け熱い火酒と戦歌を交わした友を忘れ、後の再会……死闘の時に思い出すのか。

 ハガネに残ったギリアムはもちろん全てを覚えている。他にもラミア、クスハ、マイ、エクセレン、マサキ・アンドー、そしてブライトやカミーユ、ジュドー、キラ・ヤマトなど、覚えている人は何人かいた。イングラムの姿は、相変わらず消えていた。ブライトは、アムロの遺族にどう説明するか迷ってはいたが、結局は公式報告どおりMIAを告げた。クスハの健康ドリンクの威力は、イエライシャにもらった謎の薬草のせいで倍増しとなって皆をますます恐れさせていた。

 彼ら、元々幾多の世界がつながることに慣れた人型機中心の戦士たちには、別世界の戦士と出会い、戦い、そして別れるのはいつものことでもある。

 

 アムロとシャア、コーティー・キャス、ヘルハウンズの五人……彼らは、故郷の歴史には戻らなかった。〈黒の剣〉を手にしたアムロは自らの宿命を受け入れ、コーティーは新しい世界の探検に目を輝かせ、助けた仲間たちから回収した多数のイーアをウサギに入れて保護し世話をしていた。

 彼らはアカガネ、そして回収したコスモワーウルフ・レトリバー、玄武を乗せて永遠の旅に出るのだ。どこの時空にも永住せず、多元宇宙を彷徨いつつ時に〈天秤〉を守り、理解できない理由で、または単純な正義で戦い続ける。たとえ寿命が尽きても、何度でも生まれ変わる永遠の旅を。

「わたしたちと、似たようなものですよ」エメラルダスが寂しげに、新しい仲間に告げる。

 ガイナンがいくつもの酒と、短いメッセージをアカガネの酒保に送っていた。

「俺たちは永遠に自由だ、戦友よ」ハーロックが手を振り、時空の壁の抜けかたを教え導いて、別れを告げた。

 アカガネの豪壮な双胴が、多元宇宙の厚い本のように重なり合うページを貫いて、星の音楽とともに光の軌跡となる。

 三つの永遠の艦が、またどこで交わるかも知れぬ道を航る。ひとときの別れを惜しみつつ。

 

 そして鉄郎とメーテル、そしてウルリッヒ・フォン・ベックはタネローン駅から999号で旅立った。無論三人とも、全てを記憶している。

 次の駅が「地球~地球はブリテン、パディントン駅。1942年」といわれたのにはびっくりした。

「さあ、ここがあなたの、ひとときの安らぎの駅です」メーテルがフォン・ベックに言う。

 静かに、何の違和感もなく999号は、霧を縫って夜中のホームに滑りこむ。

「お別れです」剣を楽器ケースに隠し、変哲のない銀杯とわずかな宝石を懐に、メーテルの手を握ったフォン・ベックは鉄郎とも固く握手する。

「ありがとう」鉄郎は輝く目で、共に戦い抜いた戦士、鍛え上げてくれた師の手を握りしめた。

「勝利を祈っている。決して、負けるな。間違った力に頼るな、何が正しいのか、よく見るのだ。戦士よ」フォン・ベックは貴族らしく、決然と二人に背を向けた。

 振り返りもせず、これからの人生に立ち向かうフォン・ベック。彼の故郷もどれほど荒らされているか、それどころか故郷に戻ることができるのか。戦局も、彼は駅の新聞と本屋でやっと知るだけだ。レジスタンスの仲間を訪ねヒトラーとの戦いを続ける決意はあるが、今はただ、別れた少年の前途を願う。

 そして〈永遠の戦士〉の宿命を共にし多元宇宙をさすらう戦友たち、共に戦った戦友と交わした、歌を低く口ずさむのみ。

 999号は静かに汽笛を吹く。ゆっくりと動輪が回り、きしみながら鉄のレールを超金属の車輪が蹴り、しずかに遮蔽フィールドをまとって駅を出、戦時下のイギリスの灯火管制を守って走る。

 鉄郎は最後尾で手を振り続けていたが、ベックが背を向けたままなのに諦め、決然とした目で車内に戻り、メーテルに再び寄り添った。

 列車は、人目のない待避線を駆けて、ゆっくりと虚空にのびあがっていく。何人かの目撃者が奇妙な話をするか、それもこの時代多くある奇譚の一つでしかない。

 999号は汽笛を鳴らしながら、無限軌道を駆けていった。

 

 

【完】

 

〈参戦作品〉

【スーパーロボット大戦の一つとして】

機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(カミーユ、ジュドーも参戦)

ガンダムX

ガンダムW

ガンダムSEED

ボルテスV

マジンガーZ

ゲッターロボ

バンプレストオリジナル(ハガネ、ヒリュウ改)

 

*スパロボのイベントとして、「逆襲のシャア」が原作再現され、それが終わった直後に話は始まります。

 

宇宙戦艦ヤマト(旧1の帰り道)

ヴォルコシガン〔L・M・ビジョルド〕(「無限の境界」と「親愛なるクローン」の間)

火星航路SOS〔E・E・ドク・スミス〕(終了直前)

グラディウス

スターラスター

無責任艦長タイラー〔吉岡平〕(「明治一代無責任男」前後)

たった一つの冴えたやりかた〔ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア〕(事実上、スーパー系オリジナルとして)

 

新スタートレック(ネメシス直前)

ギャラクシーエンジェル(無印全編)

クラッシャージョウ〔高千穂遙〕(銀河系最後の秘宝直後)

 

銀河鉄道999

クィーンエメラルダス

宇宙海賊キャプテンハーロック〔松本零士〕

永遠の戦士フォン・ベック〔マイクル・ムアコック〕

 

*ゲスト

冷たい方程式〔トム・ゴドウィン〕

グイン・サーガ〔栗本薫〕(原作終了直後、ヴァルーサが出産する少し前)


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