魔法と光の使者   作:形右

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それでは、第二部開始です!


【第二部:2nd A's】
闇の書 『ヴォルケンリッター』


第二部 『2nd A’s 編』 ――始動―― 『第一章:闇の胎動』

 

 

 

 

 

由宇とアスカ、二人の光の戦士が宇宙を飛びながら確実に、第97管理外世界・地球へと向かっているその頃――

 

 

 

――地球の海鳴市で、一人の少女の運命が……動き出す。

 

 

 

 

 

【海鳴市】

 

 

 

 

 

何てことない、普通の道。

そんな道は夜更けの闇に包まれ静寂を作り出しており、不気味とも言えるだろうが何とも言えない美しさや神秘的な感じを醸し出していなくもない。

そんな風に、人が想像を巡らせることができる程度には平凡な一般道路を、一人の少女が横断しようとしていた。

 

少女は足、あるいは下半身の不全を患っているらしく車椅子に乗っている。

 

その両膝の上に一冊の本があり、何とも古めかしく装飾も何だか普通では無い。まるでそれは、何かの呪術的なものを宿しているかのようであり……おおよそその華奢な少女には似つかわしくは無いのでは無いか? と思う程かなりオカルトかつ大柄な本。

しかし、この少女はこの本をそんな風には捉えてはいない様で、段差などで本を落とさない様注意しながら道路を横断して行くと――

 

 

――居眠りでもしているのだろうか?  大型のトラックが、少女を吹き飛ばそうとするかの如く突っ込んできた。

 

「あっ…………」

 

 

その時少女は、死を覚悟した。

 

しかし、不思議と恐怖や悲しみは無かった。

 

世界の理不尽さや醜い部分を誰よりも知っている彼女にとって、この世界でこれ以上生き続けることに……この世にしがみつきたいと思わせるほどの魅力……未練などが、ある訳も無かった。

 

 

 

――――しかし、世界は……彼女を現世から逃しはしなかった。

 

 

 

突然彼女の膝元にあった本が、紫炎の光を放ちながら動き出す。

 

そして、彼女を上空へと逃がし、命を救った。

 

上空に展開された白色の光を放つ三角形の陣の上に、彼女は乗っていた。

なんとその陣は人を上空に止める足場になっていた。

 

少女は驚愕した。

 

こんな薄いものに自分が乗っていること、そしてそこが上空であること……自身に起こっているこの出来事の意味が理解できない。

少女がそうして驚いている間にも、先ほどまで自らの膝の上にあった本が宙に浮きながら、再び音声を発した。

 

 

【 Ich hede das Singel auf.(封印を解除します】】

 

 

聞いたことのない言葉だが、少女はその音声……というより、その言葉の意味そのものについてはなんとなく理解した。

 

『封印解除』……。確かにそう言っている様だと、少女は分かった。

 

事実、本はまるで眠りから目覚めるかのように〝胎動〟し、掛けられていた鎖を破ろうとしている。やがて、鎖は破られ、解き放たれたその本は、自らのページをパラパラと捲っていく。

しかし、その本のページは何故か――ページは全て白紙だった……。

 

【Anfang (起動)】

 

そんな、少女の動揺をよそにその本は……『魔導書』は、自らの力の解放を示した……。

 

 

新たなる主の、目覚めの祝福と共に――――

 

 

 

 

 

 

第二部:『2nd A’s 』 始動…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 ジュエルシード事件から、約半年が過ぎた……十二月の事。

 

 

 

海鳴市にある喫茶店「翠屋」を営む高町家の末っ子、高町なのはは半年ほど前に起こった事件で知り合った友人たちと少々疎遠になってしまっており、どことなく寂しく思いながら日々を過ごしていたのだが…………。

 

そんなある日、彼女のもとに一通のメールが届く。

その内容とは――

 

――テスタロッサ家とハラオウン家の面々、そして彼女の魔法の師であるユーノがここ海鳴市にまたやってくるという知らせだった。

なんでも、アリシアもフェイトも〝学校〟には通っていなかったのでそれで通わせてみてはどうかという話になった。

勿論、フェイトは既にAAA(トリプルエー )ランクの魔導師であることに加え、前回の事件の贖罪の意味も込めて彼女は既に嘱託魔導師として管理局に席を置いた。

だが、いかんせん社会経験が少ないことやその事件の際に出会ったフェイトと同等の才能の持ち主のなのはも以前リンディがスカウトしようとしたのだが、ミッドチルダに比べて地球は就業年齢が高いため、彼女が義務教育を終えたらもう一度スカウトということになったのもあり、どうせなら友人がいる地球で、ということになりフェイトとアリシアの姉妹をなのはの通う小学校『私立聖祥大付属小学校』に通ってみてはどうかという話になった。

フェイト自身もなのはにあいたかったことや、彼女を救う際に大きく貢献し彼女の姉と母を救って見せた秋宙由宇の通っていた場所であることも後押しし、話は直ぐにまとまった。

それにより、フェイトたちはもう既に地球へ向かっているという話だ。

なのははこの話を聞き嬉しさのあまりその場で飛び上がったほどだ。(その直後、母と姉がよっぽど嬉しいことがあったらしいとなのはを微笑ましげに見ていたのに気づき、真っ赤になったが……)

それはともかくとして、非常に嬉しい知らせを受けたなのははその日一日中ずっと機嫌が良かった。彼女の友達であるアリサとすずかも、なのはがよっぽど嬉しいことがあったらしいとこちらも微笑ましげに見ていた。

 

 

 

しかし、その日の夜――

 

 

――新たなる騒動が巻き起こる……。

 

 

 

なのははその夜、唐突に発動した『広域結界』を察知した。

奇妙すぎる……、となのはは思った。

 

 

なにせこの街には今、自分以外魔導師のはいない筈なのだから……。

 

 

それなのに、何故か唐突に広域結界が発生している。加えて――

 

【広域結界発動を確認、通信遮断。こちらへと近づいてくる敵正反応を感知】

 

彼女のデバイス『レイジングハート』が、こちらへと近づいてくる敵正反応を察知したことを告げる。

結界を張られてしまった以上、逃げる……というのは蛇足でしかない。完全に外部と隔絶されているような状態で逃げ回るのは意味がない。

それに、自分の住んでいるこの街で……事件が起こっているのに、見逃せるわけはない。

 

なのはは、外へと飛び出し……戦うことを選択した。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ビルの屋上にて……敵意を持った魔導師を迎え撃つ体制に入る。辺りを見回すが……どうやらその魔導師の張ったらしい結界――魔力光の…紅色染まった、切り取られた世界。その静寂を切り裂くように、紅の誘導射撃魔法がなのはに迫る。

それをとっさに防御魔法『ラウンドシールド』で防ぐ。その誘導弾は思ったよりも重く、押されそうになってしまう……。

どうにかそれに耐えるなのはに、襲撃者自らが追撃を仕掛けてくる。

 

「テートリヒ・シュラーク!」

 

「ううっ!」

 

その追撃もどうにかシールドで防いで見せるなのはだが……、両サイドからの攻撃によって空中に弾き飛ばされてしまう。

このままではまずい、とレイジングハートに呼びかける。

 

「レイジングハート……お願い!」

 

【Stand by ready,Set up. 】

 

レイジングハートもなのはの声に応え、セットアップを開始しバリアジャケットを展開しなのはに纏わせる。

そこへ先ほどの襲撃者だと思われる赤毛の少女が新たな追撃を仕掛けるべく、その手にいくつかの鉄球らしきものを出現させる。

 

【Schwalbefliegen. 】

 

それを彼女のデバイスであるハンマーで打つことで発射するタイプの誘導射撃魔法、こういうタイプの射撃もあるのかと、なのはは魔法の新たな一面に触れた気がした。

しかし、今度はちゃんと射撃を防ぎきったなのはを見て、赤毛の少女は苦々しくこう呟いた。

 

「ちっ……! やっぱり空戦魔導師……」

 

そんな赤毛の少女と正面から対峙して、なのははこう問いかけた。

 

「いきなり襲い掛かられる覚えはないんだけど……。どこの子? なんでこんなこと!?」

 

しかし、赤毛の少女は答えない。

それどころか、第二波を既に装填してなのはを打ち落とそうとしている。。

 

「教えてくれなきゃ……分からないってば!!」

 

今度はなのはの射撃魔法『ディバインシューター』を出現させ、赤毛の少女に向けて放つ。ここで、レイジングハートとの練習の成果が発揮される。

自在に動きながら赤毛の少女に一発目を当てる様に動かし、それを彼女がシールドで防いだところに二発目を当てる。

どうやら二発目は当たったようだが、大したダメージではない。

「っの野郎―っ!!」と、向かってくる少女に威嚇と反撃を兼ねて『カノンモード』に変形させたレイジングハートのトリガーに指をかける。

話を聞く気ゼロの少女を止めようと、砲撃魔法『ディバインバスター』を放つ。

 

「話を……聞いてってばっ!!」

 

【Divine Baster. 】

 

桜色の砲撃が、赤毛の少女へと放たれる。砲撃の威力が思ったよりも強かったため、少女は少し避けるのが遅れ……その際に彼女の頭から落ちた帽子に砲撃に当たってしまう。

掠った程度ではあるし、あくまでもバリアジャケットなのだから直ることは治るが……そうやらそれはその赤毛の少女にとって相当大事なものだったらしく、目つきがいきなり鋭くなる。

彼女が相当に激高しているのは火を見るより明らかだった。

思わずなのはも怯み、申し訳ないことをしたという気持ちも出てきた。ほんの威嚇のつもりだったのにまさかここまで怒らせてしまうとは……。

しかし、なのはの申し訳なさそうな表情も今の彼女には意味をなさないようで、視線で人を殺せそうな程になのはを睨みつける。

 

「グラーフアイゼン! ロード――『カートリッジ』!!」

 

彼女が掲げる様に彼女のデバイス、『グラーフアイゼン』に何かの指示を飛ばす。いったい何をするつもりなのか、と身構えるが……その際に彼女の足元に展開された魔法陣を見て、なのはは少し違和感を覚えた。

 

(何だろう……? 形が、違う…………)

 

そう、赤毛の少女の足元に浮かぶ魔法陣の形は三つの円を線でつなぎ合わせた三角形の様な形をしている。

普段自分が使っている魔法陣の形は、円上であり、少なくとも三角形ではない。これまでに出会ってきた魔導師たちの魔法陣を思い出してみるが……少なくとも今まで出会ってきた皆の魔法陣は、円を形作っていた。

つまり……。自分たちとは異なる、別の魔法……ということなのだろうか……?

 

その予感は、すぐさま的中する。

 

先程掲げた少女のデバイス『グラーフアイゼン』は先程の少女の指示通り、ガコンッ! という音共に……何かを〝読み込んだ〟ような動きをする。

それが何なのか、なのはには分からない。故になのははこの状況を理解するために、先ほどの少女の言っていた言葉を思い出してみる。

 

『グラーフアイゼン! ロード――「カートリッジ」!!』

 

『カートリッジ』――と言っていた。それはいったい何なのだろうか? そもそもデバイスに、何かを読み込ませたりするなんてこと……聞いたことが無い。

すると、再びガコンッ!! という音がして、アイゼンから何かが〝吐き出される〟。それは、まるで銃の弾丸のような形をしていて……今までなのはが見たこともないものだった。

 

(もしかして、あれが……『カートリッジ』なの?)

 

だとしたら、あれにはどんな意味があるのか? 魔法を学んで半年程度のなのはにとって、未知数のことに直面するのは珍しくはなかったが……今回はその中でも不自然なことが多すぎる。

次から次へと知らないことが――自分の関わって来た『魔法』のカテゴリを塗り替えるような『もう一つの魔法』の出現に、なのはは戸惑っていた。

それに追い打ちをかける様に、赤毛の少女のデバイスが形を変えていく。

レイジングハートのカノンフォーム同様、彼女のグラーフアイゼンにももう一つの形態があったのだ。

 

【Raketenform. 】

 

ハンマーの形が変化し、槍のように先端がとがり……まるっきりロケットのブースターのような噴射口までが現れる。

 

「ラケーテン……ッ!!」

 

少女が技名を叫ぶと、ブースターが魔力を噴射してなの覇への距離を一気に縮める。なのはその攻撃を回避しようとするが、加速がつきおまけにその加速に加え……回転の遠心力を加えたその技は、なのはに直撃した。

 

「ハンマーッ!!」

 

受け止めるためにシールドではなくバリアーを張ったのだが……少女の攻撃はそれを無理やり押しのけ、突き破ってレイジングハートの柄に直撃した。

そのままなのはは地面に叩き付けられる。そこへとどめと言わんばかりに、加速の乗った一撃がなのはに叩き付けられた。

 

「ぶち抜けぇえええええっ!!!!」

 

なのはの張ったバリアーを突き抜け、バリアジャケットにまで攻撃が到達した。上着のようになっていた部分が破壊され、インナーのジャケットがむき出しになった。

なのはの防御力は、完全にレッドゾーン。危険レベルまで低下してしまった。

 

しかし、その攻撃の威力はそれだけにとどまらず、なのはを払いのける様にして近くにあった噴水に彼女の体を激突させた。

バリアジャケットの恩恵で……ダメージは酷いが、直接的な負傷にまでは至っていない。

しかし、このままでは絶体絶命だ。次に、先ほどの『ラケーテンハンマー』級の攻撃を喰らったりしたら、確実に致命傷を負うことになる。

それだけで済めばいいのだが……次に喰らった瞬間、少女がその攻撃に……何の躊躇も持たなかったとしたら――取り返しのつかないダメージを負うことを避けられないなのはは……命を落としかねない。

 

生まれて初めて――本当の意味で感じた、死の恐怖。

これまでにも、ピンチは何度もあった。

しかし、これほどまでに追いつめられたことはまだ無かった……。

 

まだほんの九歳の女の子が、こんなに近くに『死』を感じるなど普通はあり得ない。

……というより、普通は一生感じずに生涯を終えることの方が実は多い。

「怖い」と思っても、「死にそうだ」と思っても、それで死ぬことはなかなか無い。故に、現代を生きる普通だった少女がこれを感じたことが無いのは、いたって〝当たり前〟のことである。

だが、非日常に身を委ね……『そこ』での生き方も自分の一部として受け入れたなのはにはこれが起こることは不思議ではないことの筈であった。

何度も、覚悟したつもりだった。

戦うことを選んだのだから、こういうこともあることを知っていた筈なのに……。

 

いま彼女の中では、『死』を待つしかないような恐怖と、それに抗いたい――あきらめたくないという『不屈の心』がせめぎ合っていた。

相反する二つの要素の中で、なのはの中に浮かび上がって来たのは……家族や友人たちの顔だった。

 

(お父さん…お母さん。お兄ちゃん、お姉ちゃん……アリサちゃん、すずかちゃん……。ユー君、クロノ君……ユーノ君、フェイトちゃん……)

 

 

まだ……終わりたく、ない。

 

 

 

そんな彼女の思いが、届いた……。

 

赤毛の少女となのはとの間に、翡翠の光を放つ魔法陣が現れる。

 

そこから、金色の少女が現れ……二者の間に立ちふさがった。白い魔導師の少女、なのはを庇うように……。

 

「チッ……、新手の仲間か……?」

 

赤毛の少女は、倒す対象が増えて面倒だとばかりに吐き捨て、金色の少女は赤毛の少女の言葉を訂正する。

 

「……友達だ……!」

 

斧の如きデバイスを構え、赤毛の少女に名乗る金色の少女。

 

「時空管理局・嘱託魔導師――フェイト・テスタロッサ」

 

 

 

少女の紡いだ友情が救った命は、今度は少女自身の命を救った。

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

「時空管理局・嘱託魔導師――フェイト・テスタロッサ」

 

そう名乗り立ちふさがる金色の少女フェイト。なのはを救う為に、ユーノに転移を頼みいち早く現場に駆け付けた。

今頃ユーノたちはほかの敵の存在の有無を確認している。そちらを確認した後、何もなければこちらへと救援に来ることになっている。

 

「抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある。同意するなら、武装の解除を……」

 

「誰がするかよ!」

 

そのまま空中へと飛び上がり、フェイトは赤毛の魔導師と戦闘を開始したのだが……。

その戦いは、もう一人の乱入者によって遮られることになる。

 

 

「紫電一閃!」

 

「!?」

 

唐突に放たれたその一撃は、炎を纏った鋭いものでフェイトの薄い装甲等ものともせずにフェイト自身にも、そして彼女のデバイス『バルディッシュ』にも相当にダメージを与え、地に叩き伏せた。

 

「シグナム……来てたのか?」

 

「ああ。要らない気づかいかと思ったが……許せよ。

管理局がそこの金の魔導師に絡んでいるらしい、早くことを済ませた方がいいだろう。あちらの白い魔導師はお前に任せた、早速『蒐集』をしてくれ。あの金の魔導師の方もまだ完全には倒せていないだろう、私が引き受けるが……いいか?」

 

「ああ」

 

そう言ってなのはの方へ向かおうとする赤毛の少女を、シグナムと呼ばれた女騎士が引き留める。

 

「ちょっと待てヴィータ」

 

「?」

 

「忘れ物だ……」

 

そういってヴィータ、と呼ばれた少女に先ほどなのはに吹き飛ばされた例の帽子をかぶせる。

 

「直してくれたのか……」

 

「ああ、それとシャマルとザフィーラも来ている。手早く済ませよう、我ら『ヴォルケンリッター』の騎士の誇りにかけて……成さねば成らぬことの為に」

 

「……うん、分かってる」

 

 

「頼むぞ」

 

「ああ」

 

 

そういってそれぞれがフェイト、なのはの元へと歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

「――驚いたな……まだ動けるとは思っていたが、まさかまだ戦う意思を失っていないとは……」

 

「これ以上、なのはに酷いことは……させない…!」

 

必死にバルディッシュを構え、シグナムを倒しなのはの元へ行こうとするフェイトを見て……シグナムはこんなことを聞いた。

 

「あの子は、お前の家族か何かなのか……?」

 

「友達だ……! 闇の中にいた私を、あの人と一緒に救い出してくれたんだ……。今まであえなかったけど……やっと、やっと会えることになった……大事な友達なんだ!」

 

「……そうか」

 

シグナムは、少しだけ微笑み申し訳ないような表情を浮かべたが……表情を引き締めると、フェイトに向かってこう告げた。

 

「だが、お前が友の為に戦うように……我らにも、どうしても成さねば成らぬことがある。たとえ騎士の誇りを捨てることになったとしても、守りたい方がいるのだ」

 

 

だから――とシグナムはフェイトに彼女のデバイスである剣を向け、こう言った。

 

 

「――われらの邪魔をするものは、切り捨てて通るまでだ……!」

 

 

シグナムの放った攻撃をフェイトはもはや避けられない。当たり前と言えば当たり前のことだ。

機動型のスピード重視の先頭スタイルのフェイトに、パワーアタッカーのシグナムの攻撃をまともに受けきることなどできない。

既に先ほどの一撃だけでも完全に満身創痍に近い。

まして、フェイトは知る由もないことだが……。シグナムは歴戦の勇士等と形容することさえもおこがましいほどの『経験』を積んでいる。

そんな相手に、まだ九歳程度の子供が初見で敵う筈など無いのは道理であるだろうし、また相性も悪い。

フェイトの速度がシグナムを完全に上回りでもしない限り、恐らくこの戦いでは勝てないだろう……。

 

結果として、フェイトはシグナムの追撃をガードも回避もできなかった……。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

フェイトがシグナムと対話をしていたころ、再びなのはの前に立ったヴィータは、一冊の本を取り出す……。

 

その本が何なのか、なのはには全く分からなかったが……嫌な予感が彼女の直感を刺激し、警告を鳴らしている。

 

パラパラとページが捲られていく音だけがその場に響いた。

 

そんな静寂とは裏腹に、なのはの鼓動は早まり続け……冷や汗が止まらなかった。

 

もうどうしようもないところまで来てしまったような、そんな感覚が彼女を襲い……まるで最後の審判を待つ死者のような気分を、なのはは味わう羽目になった。

そして、そのページをめくる音は白紙のページが開かれた瞬間に止まった。

 

「闇の書……蒐集」

 

ヴィータが、そう口にしようとしたとき――翡翠の魔法陣が彼女の前に展開された……。

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

二人の少女が絶望を感じたとき、少年達がそれぞれ彼女たちの前に達ふさがる。

 

《僕が女騎士を、君が赤毛の方だ。いいかユーノ?》

 

《OK、クロノ。じゃあ……行くよ。転送!》

 

翡翠の魔法陣が、再び開かれ……少女たちの前に少年たちが現れる。

 

 

「またかよ……ウジャウジャ湧いてきやがって」

 

「僕の友達にこれ以上手出しはさせないよ」

 

 

「新手か……」

 

「彼女は僕の妹分でね……これ以上の手出しはよしてもらおうか」

 

 

「時空管理局・執務官――クロノ・ハラオウンだ」

 

「時空管理局・嘱託魔導師――ユーノ・スクライア」

 

 

漆黒の少年と、翡翠の少年は、それぞれ名乗り……騎士たちの前に立ちふさがった。

 

 

「大人しく投降を願いたいが……そうもいかないだろうな『ヴォルケンリッター』」

 

「ほう、我らの名を知っているか」

 

「ああ、嫌という程にね……」

 

クロノはシグナムにそういうと、彼のデバイスである杖『S2-U』を構える。

 

「ジャマすんなそこを……どけぇええっ!!」

 

ヴィータは、ユーノに特攻を駆けるがユーノは『ラウンジシールド』で攻撃を防ぐ。

 

「させないよ、チェーンバインド!」

 

ユーノが放った翡翠の鎖はヴィータを捕らえるべく縦横無尽に動き回り、ヴィータを翻弄する。

 

「うっとーしぃんだよ!!」

 

アイゼンを使いユーノのバインドを無理矢理に破壊して、攻撃を叩き込もうとするヴィータだが……生憎ユーノにそれは通じない。

そこを狙ってユーノは、相手の魔力を封じる拘束魔法『ストラグルバインド』を使い、ヴィータを捕らえた。

 

「くっ……!!」

 

「拘束完了……次は――」

 

ユーノの視線を向けた先は、シグナムとクロノが戦っている方向。

もう一度チェーンバインドを使い今度はシグナムを狙う。クロノはその援護を好機とばかりにシグナムに攻撃を畳み掛けるが……しかし――

 

「レヴァンティン、ロード――『カートリッジ』」

 

ガゴンッ!!

 

再び、あの動きだ……。

 

 

ユーノはそれを知っていた。あれは――『カートリッジシステム』という古代ベルカの魔導騎士たちが使っていたという代物で、「カートリッジ」と呼ばれる魔力の弾丸をデバイスで読み込ませ、瞬間的に魔力を爆発的に増大させる装置。

 

「そろそろ、終わりにしようか……っ!」

 

――来る!

 

 

かなり強力な攻撃が来ると、直感的にそれを理解したユーノとクロノは防御の体制位に入る。

ユーノは、自身の分に加えなのはとフェイトにも防御魔法『スフィアプロテクション』を発動させる。

クロノも防護壁を展開し、シグナムの攻撃を受け止める用意を済ませる。

 

「飛竜一閃!」

 

シグナムのデバイスが形状変化し、まるで鞭のように撓る剣と化す。

 

その攻撃は、まさに対象の防御を許さない程の威力を対象に叩きこんだ。

 

「うぁあああっ!!」

 

「がぁああっ!?」

 

ユーノとクロノは直撃を防ぎ切ったもののクロノはジャケットにまでその威力が届き、ユーノはどうにか防ぎ切ったものの副次的に発生した衝撃を殺しきれなかった。

二人の少年に決定的な隙が生じてしまう。

 

 

その隙を見逃すほど、ヴォルケンリッターは甘くない。

 

 

シグナムを向き直ったクロノとユーノの胸を〝腕〟が貫いた……。

 

「なっ……!?」

 

「これは……!?」

 

「若き魔導師たちよ、詰めが甘かったな。我ら騎士は二人ではない」

 

「そいつはこっちのセリフだってぇの!!」

 

それを聞き、歯噛みする二人を助けるべくアルフが駆け付ける。シグナムに攻撃を仕掛けるべく突撃を試みるが……。

 

「うぉおおおっ!!」

 

「なっ……!?」

 

シグナムに近づこうとしたアルフをアルフ同様に使い魔のような風貌の男が止める。

 

「アンタも、使い魔か……?」

 

「違うな……ヴォルケンリッターの一角、〝盾〟の役割を担う『守護獣』だ!」

 

「同じようなもんじゃんかよ……!」

 

にらみ合う両者、その間にもシグナムは先程ユーノに拘束されたヴィータを開放した。

 

「ではヴィータ、『闇の書』を……」

 

「ああ」

 

その本は古めかしい魔導書然とした書物で、先ほどヴィータがなのはに向けたものだった。

 

「それは……っ?」

 

「やはり……『闇の書』!」

 

ユーノはそれが何なのか、よく分かっていなかったようだが……クロノはまさに噛みつかんばかりの勢いでシグナムの手にあるその魔導書――『闇の書』を睨みつける。

しかしシグナムは淡々と、彼女らの補助系筆頭のシャマルが作った機会を逃さないために闇の書をむき出しになった二人の翡翠と紺碧の『リンカーコア』に向ける。

 

「闇の書、〝蒐集〟」

 

二人のリンカーコアから魔力の光が本に吸い込まれていき、それが吸い込まれた白紙のページが次々と埋められていく。

 

「「うぁあああああああああっ!!!!」」

 

 

そして、その場には二人の叫びだけが木霊した……。

 

 

 

× × ×

 

 

 

なのはとフェイトはユーノの作り出した防御に守られ、シグナムの攻撃の余波も受けることはなかった。

だが、彼女たちにはそれ以上の衝撃を受けた。

 

ユーノとクロノの胸を……何と人の〝腕〟が貫いてしまった。

 

そして、二人のリンカーコアに向けられた、あの魔導書。

 

それが、ユーノとクロノの魔力――いや、もっと根本的な『魔力』を吸い取っている。まるで、二人の力を奪い取り、記憶するかの如く――その魔導書は容赦なく二人の翡翠と紺碧の輝きを吸い取っていった……。

 

「「うぁあああああああああああっ!!!!」」

 

二人の苦しそうな叫びがなのはとフェイトにも届く。

「助けなきゃ……!」と思っても、願っても――動けない。

 

現実は、彼女たちにその残酷さをまざまざと見せつけたのだった……。

 

 

そして、二人の光が弱り切り……おぼろげな程度の輝きになってしまったところで、ようやく魔導書は閉じられ…二人の少年は、地に堕ちた……。

 

「ユーノ君……ッ!!」

 

「お兄ちゃん……ッ!!」

 

なのはとフェイトが声を上げるが、それに二人は反応しない……。

 

しかし、その代わり……動けぬ二人の元へ、ヴィータとシグナムが降り立つ。

先に動いたのは、ヴィータだった。

 

最早動けぬなのはに先ほどユーノとクロノに使ったような手段は必要ない。『闇の書』による【蒐集】は〝元々〟……『相手から奪う』ためのものだ。

相手が動けないなら、わざわざとらえる必要などない。弱っているところから力を奪い、拭い去るのだから……抵抗など、初めからできはしない。

 

「闇の書、〝蒐集〟……」

 

なのはの胸からもリンカーコアが浮かび上がり、彼女の桜色の輝きが吸い取られていく……。先程の悪い予感の正体、直感的に恐れていたのは――これだったのかと、なのはは薄れ行く意識の中でそう思った。

まるで、自分から魔法を切り離されていくような感覚。それが、『闇の書』による【蒐集】だった……。

 

「うあぁああああああッ!!!!」

 

「なのは!!」

 

フェイトが叫ぶしかできない……。指をくわえて見ているしかない。

今度は、なのはを自分が助けると、言ったのに……。ユーノとクロノがいなかったら、もっと早くやられていた。

しかも、二人をここへ呼んだのは自分が敗れたせいだ。それを助けに来た二人を巻き沿いにしてしまった原因は――フェイト自身だ……。とフェイトは思った。

 

それが、たまらなく悔しく、悲しかった……。

 

「済まんな……。闇の書、〝蒐集〟」

 

金色の光が、自分の『魔法』が奪われていく……。

 

全てが……消えてい、く……。

 

 

「うぁあああああああっ!!!!」

 

「フェイトォオオオッ!!」

 

フェイトの視界はそこで消えてしまい、彼女が最後に見たのは……フェイトを守ろうとして此方へと飛んできたアルフを、『守護獣』と名乗った使い魔の男性が倒したところだった。

 

 

 

 

 

こうして……若き魔導師たちは敗れ、騎士たちは何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

夜の海鳴市の某所に、四人の騎士が集った。

 

「シャマル、今回の連中で何ページ埋まった?」

 

「凄いわ、今回の相手の子供たちの魔力はどれも並じゃない。今のページ数は――412ページ……」

 

「! すげぇ……一気にきたな」

 

「ええ、かなり稼いだわ……」

 

ヴォルケンリッターの湖の騎士・シャマルは『闇の書』をめくりながら、今回の収穫を確かめ、改めて今回の相手が別格だったことを時間する。

 

「それにしても……、あの子たち相当に強いわ……。あの黒い子は一人で30ページ以上を埋めたし、それにあの翡翠の子……防御系においてはこれまでの使い手の中でもピカイチ、おまけにあの金髪の女の子と栗色の髪の女の子……二人ともとんでもない魔力量だわ。攻撃においては威力は黒い子よりも上…あの栗色の子に至っては――収束砲撃なんて魔法も持ってる」

 

「収束……? 確かか?」

 

シグナムがシャマルにそう聞き返した。

 

「ええ……ただ、私たちの戦い方からしてこれだけの収束をさせる隙なんて与えはしないだろうけど……翡翠の子とか金髪の子とタッグで来たら、かなり厄介ね。

どれだけのダメージを負っても、それを耐えて……たった一撃で勝敗をひっくり返すほどの威力だわ……。それに、あの子たちは管理局に所属しているみたいだし……」

 

シャマルがそんな弱気なことを言った時、ヴィータが口を挿んだ。

 

「関係ねぇよ……」

 

「ヴィータちゃん……」

 

「あたしらは、『騎士』だ。主の為に……〝はやて〟の為に――戦うだけだろ」

 

「そうね……その通りだわ」

 

シャマルはヴィータの言葉に同意し、頷いた。

 

「では、帰ろう。我らの家に……」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

「了解した」

 

 

こうして、騎士たちは主の待つ家へと帰るために歩き出した……。

 

 

温かく、安らかな……優しい主の待つ家に。

 

 

騎士たちの戦は無ければならない〝理由〟。

 

 

笑顔でいていただきたい彼女の元へ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しき騎士と、優しき魔導師……そして、光の使者の物語の幕は上がった。

 

 

 

 

 

 




男性陣を活躍させたかったのですが、こんな形になってしまいました。

ですが、これからも頑張って書きますのでよろしくお願いします。

ウルトラマンたちは、次話以降から順次出していく予定です。


後なんとなく思ったんですが、シリーズ分けはハーメルンの方が見やすいですね。

いっぺんに見れるので、簡単ですし。

pixivの方も一度一まとめにしてみたのですが……何か微妙な気がします。

まぁ、もう少し時間をかけて、それぞれに合ったやり方を自分なりに探すことにします。
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