魔法と光の使者   作:形右

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本編がようやく始まって来たって感じです。

ついでに言うと、今回めっちゃ長いです。頑張って書いたつもりです。

それでは、どうぞ!


英雄凱旋 『――RETURN――』

 

 

 

 ヴォルケンリッターとの戦闘から少しばかりの時間が過ぎた頃、時空管理局本局の医務室にて、なのはたちは意識を取り戻した。

 

 結果として、なのは達は敗北。ヴォルケンリッターたちは逃走……。おまけに、なのは達の『リンカーコア』が著しくその輝きを弱らせ、彼女たちに一時的な魔力不全が起こっていた。

 とはいえ、彼女たちはまだ若い。

 故に『リンカーコア』の回復も早い――とはいえども、優秀な魔導師たちが一度に行動不能に陥ってしまったこの状況は、あまり芳しくはない。

 この状況を受け、医務室にいる彼女たちが意識を取り戻したと聞き、医務室へと向かっていたリンディ、エイミィの両名はその途中でこんな会話をしていた。

 

「どうやら、一時的なものということらしいのでよかったですね……」

「ええ。でも……やはり少々状況は悪いわね……。なのはさんに加え、フェイトさんやユーノ君。アルフに、クロノも……。かなりの痛手を受けてしまったわ……」

「ですね……せっかく〝例の情報〟が第八十七支部から回って来たのに……」

「いいことばかりではない――なんて、まるで神様が決めている様な展開ね……」

「理不尽、ですよね……」

「ええ、そうよね……。いつだって上手く行く、だなんて限らないもの……。それがたとえ、ユウ君のように奇跡を起こした様な人でも、こうして起こる理不尽を防ぐなんて、出来ないものね……」

「それに抗うには、どうしたらいいんですかねぇ……」

「足掻くしか、無いんじゃないかしら……。たぶん、誰だってそうなんだと思うわ……」

「……ですね。ようし! 気合い入れなおしていきましょう艦長!」

「そうね……!」

 

 そして二人が医務室の扉を開けると、一応全員が目を覚ましていた。しかし、やはり皆落ち込んでいる様だ。

 そんな名で、最初に口を開いたのは。クロノだった。クロノは、医務室に入って来た母に現在の状況を確認してきた。

 

「母s……艦長。現在の状況は……どんな感じですか?」

「あまり、芳しいとは……言えないわね。敵だったあの騎士達は逃走。その行先についても、まだつかめていないわ……」

「そうですか……」

 

 悔し気に、クロノは顔を伏せる……。

 クロノに変わり、次に口を開いたのはユーノだった。

 

「あの……、リンディさん。さっきの戦闘で、クロノが口にしていた『闇の書』ってあの騎士たちの持っていたあの本が、そうなんですか……?」

「……ええ、おそらくは。本部の見立てであれは、今から十一年ほど前に起こった事件で暴走した『闇の書』と同一のものだという判断がなされたわ」

「そうですか……。あれが、〝あの〟『闇の書』……」

 

「あ、あの……。『闇の書』って、いったい何ですか……?」

 

 おずおずと手を上げながら、なのははそういった。

 当然だ、彼女はまだ魔法と関わって半年程度しか時間がたっていない。魔法の世界の事件などは管理外世界である地球には入ってこないのだから、知らないのも無理はない。

 加えて、フェイトもその意見に同調している。彼女もまた、出生の複雑さ故にこの手の事件については疎かったりする。

 二人に説明をしなくてはならないと、リンディはエイミィと共に『闇の書』についての大まかな説明を始めた。

 

「『闇の書』……これは、あの『ジュエルシード』と同じ、かなり危険な『ロストロギア』なの。魔導士たちから魔力を〝蒐集〟し、そのページを埋めていく……。そのページがすべて埋まったとき、『闇の書』は完成し……自身が選んだ主に力を与える。そして、主が死ぬと…再び別の主を求めて《転生》を繰り返していく。そうやって、様々な世界に力という名の厄災をもたらし続けてきた最悪の遺産……。それがあの魔導書、通称・『闇の書』」

 

「そんなに危険なものが、また……」

「……、」

「そうね……また、厄介な事件が起こってしまったわ。これじゃあ、この情報も……素直に喜んではいられないわね……」

 

「情報?」

 

 クロノが母の取り出したデータディスクを見て、そう聞き返す。

 リンディは「ええ」と答え、それをその部屋のモニターに唾がれているデッキに入れて再生する。

 

「これは、三日ほど前に第八十七支部で確認された映像で……つい先ほど本局に回って来たの」

 

 そして、映像が再生され出した。

 

 そこに映し出されていたのは、戦闘の様子。

 何やら青白い球体に襲撃される時空管理局第八十七支部。

 

「ひどい……。艦長、これのどこに喜ぶべき要素が?」

「まぁ、もうすぐわかるわ」

「はぁ……」

 

 クロノは首をかしげつつも、映像の方に視線を戻す。

 青白い球体は、交戦する魔導師たちを次々に打ち落としていく……。皆がこの一方的すぎる戦いに表情を歪めたとき……。

 二つの光が、地上に降り注ぎ……球体たちを地に叩き伏せた。

 

「これは……!」

「まさか……」

「ええっ!」

「うっそぉ……!」

 

「…………ユウ……!」

 

 そう、その光の正体は、ウルトラマンだった。

 片方はブルーとシルバーの見慣れない戦士。そして、もう片方は見た目こそ新しいものになっているが……、ここにいる面子にはなじみ深い戦士。……ともに戦った――仲間だ。

 

 ウルトラマンコスモスの姿が、そこにあった。

 

 

 

 ×××

 

 

 

「コスモスが……管理世界に!?」

「帰って来たんだよ!」

「よかったぁ……」

「無事だったんだねぇ……っ!」

 

「よかった……!」

 

 皆それぞれの感想を口にする。

 そしてなおも映像は続いていく。青と銀の戦士と、紫のストライプを纏ったコスモスはなおも宇宙より飛来する球体たちをつぎつぎと撃墜していく。

 だが、その球体たちは……何と、自分たちの破壊したものの瓦礫を吸収して、怪獣を作り出してしまう。

 だが、コスモスたちは強かった。

 凄まじい光線技で、二体の怪獣を吹き飛ばし、管理局支部を守った。

 二人の巨人は、呆然としている人々にサムズアップをすると……再び空へ飛び発って行った。

 

「これが、さっき言った情報の、その一部始終を映したものよ」

「コスモス……ユウは、生きてる……!」

 

「ええ、」

 

 

 先ほどまで沈んでいた皆が明るい雰囲気になっていく……。

 友人の生存報告に、敗北ムードは消え失せる。希望、なんて大げさなものではないが……皆を明るく照らす力が、コスモスと由宇にあった、ということなのかもしれない。

 

「ちなみに、どうやらユウ君は地球に向かっているらしいから、後一週間もすれば来るんじゃないか? っていうのがもっぱらの見解だね」

「一週間ですか……」

「意外と近いね!」

「うん……ユウに、会える……」

 

 フェイトは嬉しそうに微笑む。

 もう二度と会えないかもしれないと、心のどこかで思ってしまっていた……信じてはいても、やはりもしも――と考えたらきりがない。

 しかし、その不安を拭い去るように由宇は再び姿を見せた。皆に希望を与えたあの少年は、再び光をつないだのだ。

 

 

 それに伴ってか、皆の周りに漂っていた暗い雰囲気は消え去り明るい雰囲気のままに今回の事件について考察を始めた。

 

「じゃあ、そろそろ……本題に入りましょうか」

「本題……というと?」

 

 ユーノがそう尋ねると、エイミィがそれに答える。

 

「うん。本題、つまり……『闇の書』について、どう対処していくか? っていうね」

「対処……ですか…」

「まぁ…対処、と言っても、具体的な対策の為にはまだ情報が足りないの。だから、今はとりあえずこの事件の捜査態勢についての報告、という感じかしら」

 

 リンディはそういい、先ほどまでコスモスともう一人の巨人の映っていたモニターに今度は『闇の書』対策の概要を説明する。

 

「本案件は、私達『アースラ』スタッフが担当することになりました。しかし、肝心の『アースラ』は現在使用不可……。そんな訳で、私たちは、独自の本部を事件の発生地区である《第97管理外世界・地球》に臨時の作戦本部を置くこととします」

 そういってリンディは分轄について説明していく。

 まず、観測担当のアレックスとランディ。続けて、ギャレットをリーダーとした捜索部隊一同。この二つに加え、指令室担当として……リンディ、クロノ、エイミィ。そして、エイミィの補佐として、フェイトを加えた四人。

 以上三組による駐屯をする、とリンディは説明し……最後に、こう付け加えた。

 

「以上三組による現地駐屯を基本として行います。それと……現地在住且つ、現在戦闘困難のなのはさんの保護を兼ねて………本部は、なのはさんの家のすぐ近所となりま~す♪」

 

 なのはは一瞬ポカンとした表情を浮かべ、周りの友人たちを見回す。

 皆、うんと頷きリンディの言葉の意味を肯定する。

 つまり――

 

「――具体的に言うと、私とプレシアたちが住む予定だった家が、作戦本部になるということですね♪」

 

 なのはは、パアァッ! と笑みを浮かべると……。フェイトと顔を見合わせ、お互いにもっと笑みを浮かべた。

 

「わぁ………っ!」

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 なのはたちはテスタロッサ、ハラオウン両家の引越しの手伝いをしていた。

 

「わぁ、すご~い! ホントにすごい近所だ~!」

「うん、ホントだ……!」

 なのはとフェイトは先程からそればかりである。お互いに近所に住めて嬉しいのだろう。「ほらほら! あそこが私んち!」なんて、なのはがしきりにあちこちを指さしてはフェイトに海鳴市の建物やら何かの場所なんかを教えている。

 フェイトも、以前住んでいたときはあまりちゃんとは街の色々な場所を覚えていなかったので、興味津々といった感じで聞いている。

 

「二人だけでずる~い! お姉ちゃんも混ぜろ~!」

「うわぁっ!?」

「お、お姉ちゃん……! もぅ、いきなりでびっくりしたよぉ……」

「あははは~、ごめんごめん」

「もぉ……」

「フェイトちゃんもアリシアちゃんも仲良しさんだねぇ~」

「うん! 何せフェイトはあたしの自慢の妹ですから!」

「お、お姉ちゃんってば……。は、恥ずかしいよ……」

「ほらほらフェイト、そんな弱気でどうするの? もっと自信もっていこ~!」

「えぇ……?」

「ほらほら、フェイトも! お~!」

「お、お~……?」

「にゃははは~」

 

 何だか、アリシアのペースに乗せられっぱなしのフェイトである。それにしても、つい半年前に目覚めて、未だリハビリ中とは思えない元気さである。姉は強し、ということなのだろうか?

 そんな光景を少し離れたところから微笑ましく眺めている母親二人。

 

「ははは、フェイトさんすっかりアリシアさんに乗せられっぱなしねぇ?」

「アリシアは結構強引というか、活発なタイプだから……。あぁ、でも、翻弄されているフェイトも、可愛いわぁ……」

「確かにちょっぴり引っ込み思案なフェイトさんをアリシアさんが振り回しているのを見てるとなんだか和むわねぇ……」

「そうなのよ、フェイトとアリシアが合わさるとなんていうか、無敵な感じがするわ」

「ふふ、親ばか、というやつかしら?」

「……そうかもしれないわ」

「ふふ、いいじゃない。これまでの分、しっかり過ごしていきましょう、ね? プレシア」

「ええ、そうね。リンディ」

 

 名前呼びになるほど親しくなってるママンズに見守られながら、子供たちは和気藹々としている。

 そこへさらに――

 

「ありゃ? ユーノ君とアルフはこっちではその形態なんだぁ~」

「新形態! 子犬フォーム、だよ!」

「ええ、魔力欠不全の状態だと、僕らはこっちのほうが楽ですし……それにこの街にいる間だと、僕フェレットってことになってますから……」

 

 ちょっぴり落ち込み気味のユーノくんでした。

 

「にゃははは~君らも大変だねぇ」

 

 ちょっとしょぼんとしたユーノを、エイミィが慰めてた。

 そこへ――

 

「あ~! アルフちっちゃぁ~い♪」

「ホントだ!」

「ユーノ君もフェレットモード久しぶりぃ~」

 

 アルフはアリシアとフェイトに、ユーノはなのはに、それぞれモフモフすりすりされた。

 余談だが、アルフさんとユーノ君のモフモフは癖になる(談:魔法少女ズ)らしいです。(ちなみに、のちにモフモフ担当、通称モフ担があと数人増えることになる……)

 

「あ、なのは~ユーノもモフらせてよぉ~」

「え~、ユーノ君は私の専用です~」

「なにぉ~、とりゃ~! お姉ちゃんダ~イブ!」

「にゃ~!」

「「あははは!」」

「……アルフ、私たちも混ざろっか?」

「フェイト……!」

 

 何だか最近、意思表示が以前よりはっきりしてきたご主人様の変化にアルフは姉御気分で(子犬形態だが)嬉し涙を流した。

 

「……壮絶ね」

「……」

「? プレシア?」

「アルフとユーノくんって、どっちがモフモフしてるのかしら?」

「……」

 

 何だか、混ざりたそうな(というより寧ろ既にうずうずしている)プレシアにリンディは苦笑するしかなかった。(内心彼女も混ざりたかったので、人のことは言えなかったが)

 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴り来客を告げる。

 

「誰かしら?」

 

 するとクロノがやってきて、フェイトとなのはにこう告げる。

 

「アリシア、フェイト、なのは、友達だよ」

「「「はぁ~い!」」」

 

 三人は返事をすると玄関へと向かう。

 そこにはいたのは、なのはの友人アリサとすずかだった。アリシアとフェイトは直接の面識はないが……会えない期間中、なのはとテスタロッサ姉妹の間でビデオメールのやり取りをしていたので、顔は知っている。

 

「こんにちは~」

「来たよ~」

 

「アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 なのはの友人二人がそこにいた。

 アリサ・バニングスと月村すずか。なのはと同じ聖祥大付属小学校に通うなのはの親友だ。

 

「始めまして……っていうのもなんか変かな?」

「ビデオメールではもう会ってるもんね」

「でも会えて嬉しいよ。アリサ、すずか」

「こんにちは~! 改めてよろしく~」

「うん!」

「よろしく!」

 

 フェイトとアリシアがアリサとすずかに挨拶をかわし、五人はすかっかり打ち解けた様である。

 するとそこへ、リンディとプレシアがやってくる。

 

「フェイト、アリシア。お友達かしら?」

「フェイトさんアリシアさんのお友達? こんにちは~」

「「こんにちは!」」

「はい、こんにちは。ええと、アリサさんとすずかさん……だったかしら?」

「ハイ……あれ?」

「私達の事……?」

 

 どうやら自分たちの名前を知っていることに疑問を持った二人に、リンディが答えた。

 

「ああ、ビデオメールを見せてもらったの」

「そうですか~」

「ねぇ、よかったらお茶でもして来たらどうかしら?」

「それいいわね」

 

 プレシアの提案にリンディが同意すると、なのはが「じゃあうちのお店で!」と提案したので、どうせならみんなで行こうということになり……リンディ、プレシアを含めユーノとアルフも引っ張り出され、一同翠屋へと向かうことに。(クロノとエイミィはお留守番希望)

 

「じゃあちょっと待っていてもらえるかしら? 支度してくるから」

「そうね、じゃあ皆ちょっと待っててね」

 

 そういっていったん奥に引っ込んだプレシアとリンディを見て、アリサとすずかはフェイトとアリシアにこう聞いた。

 

「きれいな人だね」

「フェイトとアリシアのお母さん?」

「うん、黒髪の人が私たちのママ、プレシア・テスタロッサで緑色の髪の方がリンディさん。なんていうか、私たちのもう一人のママみたいな人。ね、フェイト?」

「うん」

「そうなんだ~」

「ふーん」

 

 

 

 そして、場所は変わって翠屋へ――

 

 

 

「ユーノ君久しぶり~」

 

 ユーノを抱いて満足げなすずかと、アルフを抱えてなんだか不思議そうな顔をしているアリサ。

 

「うーん……なんかアンタのこと、どっかで見た気がするんだけど……」

「きゃうッ!?」

 

 実は以前、なのはとフェイトが海に眠っていたジュエルシードを封印した後、一度アルフはプレシアに歯向かいに行って返り討ちにされ、アリサに狼形態でお世話になったことがある。

 子犬フォームを使い目立たなくしたものの、アルフの赤に近い橙の毛並みの犬はそう見ないためか、アリサはなんとなくアルフを見ながら疑問符を浮かべている。

 アルフはアルフでちょっと動揺中。子犬フォームと狼の形態ではかなり違うので、アリサが気づくことはないだろうが、それでもちょっとばかり不安なアルフだった。

 

「ユーノ君やっぱりモフモフだぁ~」

「……きゅうぅ……」

「「「あははは……」」」

 

 ちょっぴりぐったりとするユーノに苦笑する三人。確かに、ユーノだって男の子なのだ。同世代の女の子にこんな風にモフモフされれば気恥ずかしいし、なんだか罪悪感もあるだろう。(罪悪感の方に関してはなのはもフェイトもアリシアも気づいてないが……「なんで!?」byユーノ)

 ――まぁ、ユーノ君が可愛いからではないでしょうか? それに君らは子供だし、そんな小さい事、ユーノ本人以外はそんな気にしてないと思いますよ?

「そ、そんなぁ……」

 そんな苦労の多いユーノくんでしたとさ。

 

 

 その頃大人組は、なのはの両親である士郎、桃子の二人と雑談していた。

 

「まぁそんなわけで、しばらくはご近所に住むことになりますので……よろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ~、どうぞご贔屓に~」

「よろしくお願いします~」

「そういえばフェイトちゃんは三年生、アリシアちゃんは五年生でしたっけ? 学校の方はどちらに……?」

「あ、なのはさんたちと同じ学校に通うことになっています」

「フェイトもアリシアも友達の近くの方が安心できるでしょうし、私たちとしてもそれがいいかと思いまして……」

「なるほど~」

 

 そんな感じでこちらもこちらで既に打ち解け合っているペアレンツ。そこへアレックスが二つの箱を抱えてやって来た。

 

「リンディさん、プレシアさん。例の物、受け取ってきましたよ」

「ああ、ご苦労様。アレックス」

「有難うアレックス君」

「いえいえ」

 

 その後ろに付いて来たフェイトたちはそれを受けとり、中身を確認する。

 

「母さん、これって……」

「ええ、そうよ。アリシアはもう少し後にならないとだめだけど……フェイトは早速週明けから、なのはさんたちと一緒にお勉強できるわよ♪」

 

 何て、最近また 一層茶目っ気が出てきたプレシアの返答にフェイトはパアァッと

 きらきらと瞳を輝かせる。アリシアの方は、ちょっぴりつまらなそうに口をとがらせるが……それでもやっぱり妹の嬉しそうな顔を見てアリシア自身も嬉しそうにしていた。

 

 そうやって朗らかな雰囲気が流れ、フェイトたちの新しいスタートが切られた。

 

 

 そんな風に楽しく過ごし、アリサとすずかが帰宅した後でなのはは再びテスタロッサ、ハラオウン家を訪れ、これからのことを話していた。

 本日は主になのはたちの回復の目処についてだった。

 

「ええと、本局の診断の結果から推察すると……大体みんなあと二~三日中にはだいぶ回復するだろうとのことだよ~」

「特に一番早く回復するだろうと思われるのは、ユーノ、なのは、フェイトあたりだそうだ……」

「? なんでクロノ君が遅いってわかるの?」

「……生憎と僕は君たち二人と大体同じAAA+ランクではあるが、実際には君たち程魔力は多くないんだ。だから君達よりも遅い。……ついでにそこのフェレットモドキが早いのはこの中で一番魔力量が少なく、かつ回復しやすい小狡い手を持っているからだ」

「こ、小狡いってなんだよ……。別にこれはそんな裏技ってほどじゃ……」

 

 スクライアのみんなもできるし、とユーノが言うとクロノもそれ以上の追及はしないつもりらしい。

 

「あーでも、なんとなくユーノ君が回復早そうな理由分かった気がする」

「な、なのはまで……」

「なのは、それってどういう……?」

 

 フェイトは不思議そうに尋ねる。

 

「えっとね、なんだか今になって思い出したんだけど……。ユーノ君、確かこの世界と相性悪いらしくて……ジュエルシードの時も、それで魔力不全に近い感じになってたんだって。確かそうだよね、ユーノ君?」

「あ、うん。そうだったね……あの時はさすがに無謀だったと今になって思うよ……」

「「え……?」」

 

 そんな調子のユーノにフェイトとアルフは固まる。

 

「え。じゃあちょっと待ってよ、ユーノ。アンタその状態だったのって……いつ頃何だい?」

「ええと、なのはと出会ったばかりの頃だから……アルフたちの基準で言ったら……そうだなぁ、ちょうどなのはとフェイトが夜の街で戦った頃かなぁ?」

 

 それを聞き、ますます固まる二人。

 

「え、じゃあそんな状態で広域結界を連発したり、拘束魔法使ったり、アルフとぶつかり合いしてたの……?」

「そうなるのかなぁ? いや~あの時はホントにギリギリで……」

「……(あたし、割と――いや、かなり本気だったんだけどなぁ……)」

「……(じゃああの、時の庭園で傀儡兵たちを縛り付けてたときも……本調子じゃなかったりする、の……?)」

(このフェレットモドキが……)

「???」

(ユーノ君、自覚無いんだなぁ……)

 

 アニメ版だと、アルフをバリアで跳ね返したりしてましたよね……。……ホントに魔力足りてなかったのかな…?

 地球の魔力と相性が悪いはずなのに、何故か普通に地球での戦闘をこなすユーノ君なのでした。

 結局、今現在は回復に努めることが第一ということになり、おとなしくしておくようにとの指示が下された。

 そんな訳で、しばらくはおとなしくすることを余儀なくされた若き魔導師一同なのだった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 なのはたちが大人しくすることを余儀なくされていたころ、管理局本局の技術部にて、レイジングハートとバルディッシュの修復が行われていた。

 彼女たちも、先の闘いによってボロボロになってしまった。

 ヴィータとシグナムという近接型のパワーアタッカーの攻撃をもろに受けたのだ。完全にスクラップにならなかっただけラッキーなのかもしれない。

 破損は割とすぐに直せそうだったのだが……必要であるはずの部品を全て仮組み、というか用意して組み立てのシミュレートをしてみたのだが……何故か、エラーが発生したという。

 そんな報告を、技術部の顔見知りであるマリエルから受けたエイミィは首をかしげて、そのエラーコードを読んでいく。

 

「!? これって…………!」

「これ……何かの間違い、ですよね……?」

 そこに表示されていたコード、いや――デバイスたちの「願い」。

 それは――

 

 

 

 ――『エラーコード・E203:必要な部品が不足しています。エラー解決のために、“CVK―792”を含むシステムを組み込んでください』

 

(レイジングハート、バルディッシュ……本気なの……? CVK―792って……)

 

 

 

『CVK―792』……ベルカ式・カートリッジシステム。

 

 

 

 二機は、主人たちに力を……もう二度と、敗北などさせないために、『勝利の為の力』を自らの意志で求めたのだ。

 そして、最後にエイミィとマリーに向けてレイジングハートとバルディッシュが送ったメッセージは――

 

 

 

 ――【お願いします】

 

 

 

 前に進むのは、何も人間だけではない。

 武器として〝使われている〟彼らもまた、ともに戦う『仲間』なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 週が明け、フェイトの転入初日がやって来た。

 人見知りがちなフェイトだが、アリサやすずか――そしてなのはがいるということで、ガチガチ……という程ではなかった。

 担任の先生に連れられて、教室の前まで歩いていく。そして三年一組、なのはたちのクラスの前で止まる。

 

「ちょっと待っててね、フェイトさん」

「は、はい」

「ふふ、あんまり硬くならないでリラックスして入ってきてね?」

 

 そういって微笑みながら先生は教室に入り、クラスの皆に新しいお友達の事を伝える。

 

「先週急に決まったんですが、このクラスに新しいお友達がやってくることになりました」

 

 クラスの面々はざわざわと「誰だろう?」や「男の子かな? それとも女の子かな?」などと言った定番のやり取りが交わされるが、アリサ、すずか、なのはの三人は互いに笑みを躱し合い、これからやってくる友人を静かに待つ。

 

「海外からの留学生さんです。フェイトさん、どうぞ~」

「し、失礼します……」

 

 するとクラスメートたちは「可愛い~」とか「キレーな髪だね~」とフェイトのことをささやき始める。

 その間にも、フェイトは先生の傍らまで歩き、皆の方に顔を向けると自己紹介を始める。

 

「あの……フェイト・テスタロッサといいます、よろしくお願いします」

 

 と言い、ぺこりとお辞儀をするとクラスメートたちから拍手が送られ、「よろしく~」という声がフェイトに送られる。

 それを聞き、フェイトははにかむ様にこりとうれしそうに笑った……。

 

 

 そして少々時間がたち、休み時間になると……クラスメートたちがフェイトの周りに集まり、質問タイムが始まる。

 

「ねぇねぇ向こうの学校ってどんな感じ?」

「えっと…私、学校には……」

 

 しかし、フェイトが一つ目の質問に答える前に、間髪入れずに次々と質問がフェイトに寄せられる。

 

「すげー急な転入だよね? なんで?」

「えっと、その…色々あって……」

「日本語上手だね、どこで習ったの?」

「前に住んでたのってどんな所?」

 

「ねぇねぇ」と次々に質問と共に詰め寄ってくるクラスメートたちにフェイトはタジタジである。

 

「えっと…あの…その…………」

 

 そんな様子を遠目に見ているなのは達。

 

「フェイトちゃん、人気者だねぇ」

「うん。でもこれはちょっと大変かも……」

 

 そんなことを言う、すずかとなのは。それを受けて、世話焼きなアリサはその様子を見かねた様に「しょうがないなぁ……」とフェイトの元へと歩いていく。

 

「はいはい、転入初日の留学生をそんないっぺんにはやくちゃにしないの」

「アリサ……」

「それに質問は一つずつ順番に、フェイト困ってるでしょ?」

 

 とアリサが皆に言うと、確かにそうだと思った皆は一人一人質問を始める。

 

「はいはーい、じゃあ俺の質問から!」

 

 そういった男子をアリサが「うん、いいわよ」と促す。

 

「向こうの学校って、どんな感じ?」

「えっと、私は普通の学校には通ってなかったんだ……家庭教師というか、そんな感じの人に教わってて……」

「へーそうなんだ~」

「ハイハイ!次あたし!」

「ずるーい! 次あたし~」

 

 と、また次々と「ハイハイ!」と手を上げるクラスメートたちをアリサが仕切りながら、フェイトの質問コーナーを進めていく。

 その様子を「「ふふふ」」となのはとすずかが微笑ましく見守る。

 

 

 

 こうして、フェイトの学校生活は穏やかに温かい雰囲気で始まった……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 フェイトが学校で質問攻めにあっていたころ、テスタロッサ、ハラオウン一家の自宅では、クロノがレティ提督と通話をしていた。

 

「クロノ君、ご依頼の武装局員一個中隊の件だけど……グレアム提督の口利きのおかげで指揮権をもらえたわよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 クロノはぺこりとモニターの向こうのレティに頭を下げる。するとレティは思い出したようにクロノにもう一つのことを伝える。

「そう言えば……グレアム提督のところの使い魔さんたちが、会いたがっていたわよ? 可愛い弟子に会いたい、って」

「……リーゼたち、ですか…………」

 

 クロノの表情が引き攣る。

 何か嫌な事でもあるらしく、クロノはレティに「その、適当にあしらっておいていただけますか?」などという。

「ふふふ、じゃあそうしておきましょうかしらね?」

 

 何て、悪戯っぽく笑ったレティはそれじゃあね。と言ってクロノとの通信を終了する。

 通信を終えたクロノは、「はぁ……」とため息をつき、合柄座っていた椅子に深く沈むが……すぐに起き上がりリビングへと出ていく。

 

「おお、クロノ君。どう、そっちは?」

 

 そういって冷蔵庫からジュースを取り出していたエイミィがクロノにそう聞くと、クロノは「武装局員の中隊を借りられたよ、捜査に協力してもらおうと思ってね」と返した。

 さして今度はクロノがエイミィに「そっちは?」と聞くと、エイミィは「良くないねぇ……」と返した。

 そして二人でソファに座り、報告された被害の画像を確認していく。

 

「この間の交戦以来ここより少し遠くの世界での収集が目立ってるね……。魔導士が約十数人、そして野生生物の被害も」

「野生生物?」

「魔力の高い大型の種類が何体か、リンカーコアさえあれば人間でなくてもいいみたい」

「…………まさになりふり構わずだな」

 

 クロノはそういうがその表所には悔しさがにじんでいる。この間の敗北が、大分答えている様

 だ。

 

「それにしても……。何なんだろうね、この『闇の書』って……」

 

 エイミィはそういいながら『闇の書』のイメージを呼び出す。

 

「データを見たんだけど……魔力蓄積型のロストロギア、魔導士の力の源である『リンカーコア』を食ってその力を蓄積していく……」

「全六六六ページ、それら全てが埋まると、その魔力を媒介にして真の力を発揮する……。それこそ、〝次元干渉レベル〟の巨大な力をね……」

「そして所有者が死ぬか、本体が破壊されるかすると……白紙に戻って別の世界で再生する、と……」

「様々な世界を渡り、自らが生み出した守護者によって守られながら……魔力を食って永遠を生きる…………。破壊しても、何度でも再生して蘇り……決して止めることのできない、危険な魔導書……」

「それが――『闇の書』……。私たちにできるのは、完成前の捕獲?」

「そう、あの諸語騎士たちを捕まえて、尚且つあの書の〝主〟を引きずりださないといけない!」

「……うん」

 

 そういって、やるべきこと……一番にすべきことを再確認したクロノとエイミィは、頷き合い『闇の書』の捕獲に本格的に乗り出していく…………。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 クロノとエイミィが『闇の書』について語っていたころ――

 ――フェイトたちはちょうど午前の授業が終わり、昼休みというところだった。

 

 四人でお弁当を食べ、フェイトに初めての学校はどうか? とすずかが聞くと、フェイトは同じ年頃の子がこんなにいるのは初めてで、ちょっぴり困惑気味だと答えた。

 

「まぁ、すぐになれるわよ」

 

 そうアリサはフェイトに言う。それを聞き、フェイトは「だったら良いな……」と答えた。

 

 どうやら、フェイトの転入初日の大部分は中々充実したものになったようだ。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 それと同じころ……。海鳴市のとあるマンションの一室でこんな会話がなされていた。

 

「じゃあ、はやてちゃんの付き添いよろしくね」

「ああ、ヴィータとザフィーラは?」

「二人とも、今日はちょっと遠出……こないだの子たちのこともあるし、一応ね」

「そうか……」

 

 シグナムにそういいつつ、シャマルは何やら箱に詰められた弾丸のようなものを取り出す。

 

「カートリッジか」

「うん。昼間の内に作り置きしておかなきゃね……」

「すまんな、お前ひとりに任せっきりにしてしまって……」

「バックアップが私の役目……気にしないで」

 

 そう微笑みながら告げるシャマルにシグナムは少し申し訳なさそうに笑った。やはり、騎士として役割分担をしていても、仲間に任せてばかり――というのはあまり気持ちのいいものではない、ということだろうか?

 そうしている間にも、シャマルの深緑のような魔力光が部屋に広がり……『カートリッジ』に魔力を注ぎ込んでいく。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン、とおなじみのチャイムを鳴らし……学校は本日の学習時間の終わりを告げ、生徒たちを学び舎からそれぞれの家へと見送る。

 

「きりーつ、礼」

「「「さようならー」」」

 

 三年一組の教室では帰りの挨拶を終え、生徒たちは我よ我よと教室を後にする。

 その中には、なのはたちの姿もあった。

 帰ろうと道具をカバンに詰めていたときになのはの携帯にクロノから連絡が送られてきた。それはなのはとフェイト、両名に向けられたもので……。

 

 ・捜査状況に関してはおおむね順調である、ということ。

 ・なのは、フェイトは自分と同様に魔力が回復していない故、非常時の際は素直に非難すること。

 ・有事の際には二人にはこちらから連絡がいくので、それまでは普通に過ごしてほしいということ。

 ・レイジングハートとバルディッシュの修理は来週には終わるということ。

 

 追伸として、フェイトに寄り道に関しては自由だが、夕食の時間までには戻ってくるように、と――異常がクロノから送られてきた連絡の大まかな概要だ。

 

 そんな訳で、フェイトはなのはたちと共になのはの家によることになった。

 丁度帰ってきていたなのはの姉の美由希や店の方から上がって来た母・桃子たちと、楽しいおしゃべりをして――フェイトはとっても楽しそうに笑った……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 その頃、海鳴市にある『海鳴大学病院』にて……。

 ヴォルケンリッターのシグナムの付き添いの元、その主八神はやては診察を受けていた――

 

「うーん……やっぱりあんまり成果が出ていない、かなぁ……」

 

 ――はやての主治医である石田医師は、はやてにそう告げる。

 

「でも、副作用は今のところ出ていないし……もう少しこの治療を続けましょうか……?」

「はい……、その、お任せします……」

 

 はやては石田医師の問いかけに対し、そう答える。石田医師もちょっと困った顔をして、はやてに再度問いかけようとこういった。

 

「お任せって……自分の体のことなんだから、もう少し真面目に取り組もうよ……」

 

 そう、あくまでも自分たち医者は患者のアシストに過ぎない。患者が自らの意志を示してくれないと、それは時に危険である。

 しかし、はやては――

 

「いえ、その……私、先生を信じてますから……」

 

 ――そう答えた。

 この答えには正直面くらう。確かに信頼されているのは嬉しいが、八神はやてという女の子は、どこかこう達観した部分があり……今の自分の状況を受け入れ、それほど気にしていない――正確には〝関心が薄い〟という方が正しい。

 はやてはどうも大人びすぎている様なところがあり、酷い言い方をするならば……生への執着が薄い、とさえ言えるほど……彼女はj分の人生をあまり大事にしていないのではないか? 等とさえ思わせるほどだ。

 もう一度石田医師は、はやてに顔を向ける。

 目の前にいる少女は、ただ優し気に微笑むばかりだ。

 仕方ない――と割り切るのは〝大人〟としてどうかと思ったが、彼女はまだ子供だ。大人のサポートに身を任せたいと思う節もなくはないだろうし、それもまぁ……間違っているとは言い難い。

 取り敢えずはやてとは、これまでと同じ方向での治療を続けていくということでいったん診察を終える。

 続いて、保護者としてきたシグナムに――はやてについての色々なことを説明し、はやての日常での様子を聞く。

 その間はやては一旦病室の外に行くことになった。

 

「はやてちゃん、日常生活の方はどうですか?」

「足の麻痺以外は、いたって健康そのものです」

「そうなんですよね……。お辛いとは思いますが、私達の方でも全力を尽くしますので……」

「…はい」

「今はなるべく……麻痺の進行を緩和させる方向で、治療を進めていきます。ですが、麻痺の進行が進むと……。これからは、入院なども含めた、辛い治療になっていくかと思います……」

「……はい、本人とも相談してみます……」

 

 そう告げた石田医師の顔も、それを聞いたシグナムの表情も……ともに辛そうなものであったのは、言うまでもない。

 彼女たちははやてのことが好きなのだ。それなのに、片や主、片や妹のような……そんな少女の苦しみをすぐに取り除いてあげられないことが……悔しく、そして悲しかった……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 なのはの家を訪れた三人のうち、アリサとすずかは帰ってしまってなのはとフェイトだけが残った。

 そして二人はなのはの部屋でこんな話をしていた。

 

「ねぇ、なのははあの人たちのこと、どう思う……?」

「あの人たちって……あの『闇の書』の――」

「うん。『闇の書』の守護騎士……『ヴォルケンリッター』の人たちの事……」

 

 その言葉を聞き、なのははあの騎士たちについて考えてみる。

 あの赤毛の少女騎士、桃色のポニーテールのとてつもなく強い女騎士。ユーノとクロノのリンカーコアを奪い去った金髪の緑の装束を纏った女騎士。『守護獣』と名乗った使い魔に似たいでたちの男性。

 皆、強敵だった。

 手も足も、出なかった……。

 なのはとフェイトの砲撃とスピードも……フェイトの使い魔であり、かなりの実力も持っているアルフも。自分達よりも強いクロノも、誰よりも防御に秀でた鉄壁のユーノを、あの騎士たちは――倒してしまった。

 自分達にはまだ遠い高みにいる……兵達。

 

「私はあっさり倒されちゃったから、なんとも言えないんだけど……フェイトちゃんはどう思う? あの剣士の人と、何かしゃべってたよね?」

「うん……なんて言うのかな……うまく言えないんだけど、あの人たちからは――『悪意』みたいなものを感じなかったんだ。それに……〝騎士のほこりを捨ててでも救いたい方がいて、そのために成さねばならないことがある〟って、言ってたんだ」

「〝救いたい人の為に、成さねばならないこと〟……?」

「うん……」

 

 成さねばならないこと――それは彼女らの素体である『闇の書』の完成の事、だろうか……? だが、それでは『救いたい誰か』という点にそぐわない。その『誰かのためにしたいこと』が、『闇の書』の完成とは別の〝何か〟ということなのだろうか……。

 目的についてはさっぱりわからないが、『悪意』の有無に関してはフェイトの意見は確かに当たっている。なのは自身が対峙したあの赤毛の少女からは『悪意』は感じなかった。

 確かにあの時、なのはは赤毛の子にかなりひどく痛めつけられはしたが、結局のところ殺されるまではいかなかった。

 それについてはフェイトと対峙したあの女騎士の方にも言える。

 それこそクロノやユーノを倒してもなお、だ。

 しかし、それで話を聞いてくれるほど素直だったか、と言えば――それは違う。

 

「確かに『悪意』は感じなかったけど……。話を聞いてくれそうな雰囲気、って訳じゃあないみたいだったもんね……」

「うん……。誰かのために、っていう強い意志で自分を固めちゃうと、周りが見えなくなっちゃうから…………」

 

 ――私も、そうだったから……。とフェイトがなのはに告げる。

 強い意志――とりわけ自分の大切な人の為に何かをなそうとするとき、人はおのれを孤独に追いやることさえ厭わなくなる。

 たとえ、どれだけ傷ついて……どれだけの苦しみをその身に刻むことになっても。

 その誰かの力になりたいという願いが――〝愛〟があるとき……。人はどこまでだって突き進んでいく。それが滅亡への道だとしても、闇の中への道だとしても、決して損お歩みを止めることはない。

 しかし、それでも……そんな中にいる自分を救ってくれた人たちを、フェイトは知っていた。

 

 なのはとユウ、そしてクロノやユーノたち……。たくさんの人たちが、フェイトの……ひいては母と姉の為に戦ってくれた。

 その結果、フェイトは母と姉を失うことなく〝救われた〟……。

 だからこそ、彼女は知っている。

 自分を押し固めたときの気持ちと、それを救ってもらった時の気持ちの両方を……。

 

「でも、そんな凝り固まった気持ちの中でも……正面からぶつかって、守ってもらって……向き合ってもらって、支え合ったとき、固まっていたはずの心が揺れるんだ……」

 

 絶対に正しいと、正しいと思いたいと、そう願う苦しい気持ちを受け止めてもらったとき、その気持ちの本当の意味に気づいたとき、心は揺れ、自分の過ちの部分に気づく。

 

「信じようとしていたときは誰の言葉も入ってこない、というより……そっちの真実を受け入れたくないってそう思っちゃうんだ……」

 

 フェイトが少し苦し気な表情で名の範囲そう告げると、なのはの表情も少しばかり曇る。それを見てフェイトは少しだけ慌てて、残りの部分をなのはに語る。

 

「で、でも…言葉をかけるのは……思いを伝え合うのは……。絶対に無駄じゃないよ……! 私も、あんなに信じたいって思っていたときも、ユウやなのはの掛けてくれた言葉で、何度も揺れたから……もし、思いを伝え合うのに、戦って勝つことが必要なら……迷ずに戦える気がするんだ」

「フェイトちゃん……」

「ユウとなのはが教えてくれたんだよ? そんな、強くて優しい心を……」

「ユー君はともかく……私はそんな大したことしてないと思うけど……」

 

 やや恥ずかしそうにそういったなのはに、フェイトはただ優しく笑うだけだった。謙遜することじゃない。彼女は確かに間違いなく、救ってくれたのだから……。と二人の間には穏やかな時間が流れた――

 ――その後、プレシアとアリシア、そしてアルフが迎えに来たので、フェイトも帰路に就くことになる。

 帰る前に、なのはとフェイトはこんな決意を固めた。

 

 ――だから、強くなるよ。思いを貫くために……ユウみたいに、なのはみたいに、私も強くなるよ……。

 ――私も、フェイトちゃんが言ってくれるみたいに、本当に強くなれる様に、頑張るよ。

 ――うん、一緒に頑張ろう……。

 ――うん、一緒に……!

 

 二人の少女が胸に掲げた決意は、果たして……騎士たちに届くのか? 闇の中に沈む魔導書に、光を響かせることができるのだろうか……?

 

 その運命の行方は、きっと……これからの彼女たちの歩んでいく道が、その決意のほどを世界に示すだろう。

 今はただ、夕焼けが……二人の影を長く、長く伸ばし続けるのみだった……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 なのはとフェイトが新たなる決意を固めていたころ、先に帰路に着いたアリサとすずかだが……すずかはアリサと同じ車で帰ったのだが、すずかはその途中で図書館によるということで……アリサと別れ、彼女の家の迎えの車が来るまでしばらく本を物色していた。

 すると、本を探していたすずかの視界に一人の少女が入った。

 

「はやてちゃん!」

「? あっ、すずかちゃん!」

 

 そこにいたのは、以前すずかがこの図書館で知り合った少女で……名を、『八神はやて』と言った。

 はやてはシグナムと一緒に病院の帰りに図書館に寄ったのだ。シグナムに車いすを押されながら、本を探いしていたところ、すずかと再会した。

 

 二人は読書が好きという共通点から知り合い、仲良くなった。

 

 このときのすずかは知らないが――

 ――はやてはあまり人とのかかわりが好きではない――というより、苦手なのだが……すずかははやての足についてのことはあまり触れず、同情や憐れみといった感情をはやてに向けることもなかった。

 はやては弱く見られることが嫌いだ。

 より正確に言うならば、同情されることが嫌いなのだ。

 

 ――別に足が不自由だからと言って、べつにそこまで苦労しているわけではない。

 ――両親を亡くしたからと言って、寂しくはあっても、べつに生活に困るほどではないし、まして……両親の愛情が少なかったとか、まったく無いなどということがあるハズが無い。

 

 だから、はやてはそういう感情を向けられるのが嫌いだった。故に同世代の友人というものは全くと言っていいほどいなかった。

 何故なら、彼女と同世代というのは……一番感情が豊かで、よく言えば純粋・素直。悪く言えば、無遠慮・残酷。

 率直に言葉にするからこそ、はやてに向けられる同情が酷くなる。

 

 だからこれまで、同世代の友人など作りもしなかったはやてだが……。

 偶々彼女は、今年の誕生日を迎えたとき……まったくの偶然だったが、〝家族〟を得た。

 

 そんな中で少しずつ彼女の感情が豊かに、正確には取り戻されつつあったときに出会ったのが――すずかだった。

 すずかがはやてに向ける感情は、決して道場なって物ではなく……。純粋な〝友情〟や〝慈しみ〟だった。

 だから二人は言葉を交わし、友達になった。

 

 だから、今二人の間に流れる雰囲気は、和やかで……安らぎに満ちたものであった。

 

 

「すずかちゃん今日は何借りたん?」

「うーんとね、童話の本なんだけど……んとね、ジーンとくる感じの本なんだよ~」

「あ、童話私も好き。面白そうやねぇ~」

「あっ、じゃあ読んでみる? 確かまだ一巻棚にあったよ?」

「うん、後で見てみる」

「そっか、はやてちゃんも童話好きなんだね~」

「うん、めっちゃ好き…! それどんなお話しなん?」

「ふふ、それは呼んでからのお楽しみ♪」

「ははっ、そうやね~」

 

 そんなはやてとすずかの会話を、シグナムは少し離れた場所から微笑ましく見ていた。

 病院を出てから少し沈んでいたはやてが笑顔になったこともあり、シグナムは一安心だな、といった気分になりシグナムも微笑を浮かべた……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 そんな穏やかな時間の流れている地球より、少々離れたとある次元世界の片隅にて――

 

「『闇の書』、蒐集……」

【sammlung】

 

 ――ヴィータとザフィーラが、巨大な魔導生物の『リンカーコア』から魔力を蒐集していた。

 蒐集が完了するが、そのページ数はたったの三ページ……。大型生物はその見た目ほど多くの魔力を保有しているわけではない。

 

「ちっ……デカい図体してる割に、リンカーコアの質は低いんだよなぁ……」

 

 まぁ、魔導士相手よりは気楽でいいけど……、とヴィータは毒づく。

 騎士としての高い実力を関するヴィータにとって、魔導士相手だろうが負けることはそうそうないが…それでもやはり人間相手だと多少戦いが長引く分面倒だというのが彼女の認識である。魔導生物はその図体こそデカいが攻撃は単調そのもの……それに加え、これらには管理局を呼ぶなどといった面倒ごとには直ぐ発展することはない。故にこちらの方がヴィータたちにとっては都合がよかった。倒すのは簡単なのだから……ぱっぱと倒して数で補う方が、彼女らの足取りもつかまれづらい為大変都合がいい。

 とはいえ、これまではそれに加えて魔導士たちも倒してはきたのだが……偶々この間出くわしたあの白い魔導師の少女とその仲間たちから収集できたのは実にラッキーだったと言える。ヴォルケンリッターの情報が少なく、こちらの攻撃が通りやすかったのも大きな一因である。油断とまではいかなくとも、シャマルのあの奇襲は熟練の魔導師だって動揺を禁じえず、尚且つ抜け出すのもなかなかに困難と来た。何百年単位で経験を積んできた自分たちと、この間のまだ若かりし魔導師たちとの決定的な差はそこだったと言えるだろう。

 ――まぁ、あいつらがまた雇用が本気出そうがあたしらが勝つけどな! とヴィータは思っている。

 魔導生物からの蒐集を終えたヴィータは、愛機である『グラーフアイゼン』にカートリッジを装填すると、お供のザフィーラはと共に次の場所へと向かおうとする。

 

「次行くよ、ザフィーラ」

「……ヴィータ。休まなくても平気なのか?」

「心配いらないよ、あたしだって騎士だ。この程度の戦闘でへばるほど柔じゃないよ」

 

 そういって歩き出していくヴィータに続くザフィーラ。

 二人は主の為に、戦い続ける。

 

 穏やかな時間を、守り抜くために……主を枷から解き放つために、戦うことをやめない。

 

 主と共に過ごす安らかな時間を……、どこの誰であろうが――決して奪わせはどしないと……。

 

 

 

 × × × 『行間』

 

 

 

 穏やかな日々は少しずつ過ぎていき……ついに一週間が経過した。

『闇の書事件』と称された、魔導師襲撃及び、第一級危険遺産指定ロストロギアの保有及び行使といった一連の事件。

 その調査は順調に進み、ヴォルケンリッターの足取りも大分追うことができた。順調に対策も講じられ、体制も前とは違いしっかりと整っている。

 加えて、なのはたちの回復も順調。レイジングハートとバルディッシュも〝例の機構〟を取り付けられ……戦いへの準備は完璧だった。

 

 

 

 ヴォルケンリッターたちも、その間に黙っていたわけではない。少しずつではあるが、魔導師を避けつつ魔導生物中心の蒐集を行ったため、足取りは残っているものの…決して尻尾を掴ませるような真似はしなかった。

 

 こうして……相対する者たちが、戦いへの準備を整え、次なる激戦に備えていたころ……。

 

 

 

 ――光もまた、自らの故郷へと帰還の途を順調に辿りつつあった。

 

 

 

 戦いは、徐々に佳境へと向かい……その火ぶたが切って落とされるとき、火花が舞い…熱き想いが激突する……!

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ――時空管理局本局にて……。

 

「うむ、全員これまでの経過も良好だったからね……。無事完治していますよ、もちろん全員がね」

 

 その診断結果を受け喜び合う若き魔導師一同。するとそこへ、マリエルことマリーさんがやってきて、なのはとフェイトにレイジングハートとバルディッシュ受け渡す。

 

「こちらも無事完治しました。追加された新機構については、後程現地のエイミィ先輩の方からゆっくりとお聞きください」

「新機構……ですか?」

「ええ、この二人が自らあなたたち主人の為に選んだ道です。しっかりと受け入れてあげてくださいね?」

「「はい!」」

 

 そんな風にすべてが上手く行っているのだと思われた……その時だった。

 

 ――緊急事態、発生。

 

 それを告げるサイレンが、本局内にけたたましく鳴り響いた……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「観測地帯にて、結界発生!」

「術式は……『エンシェントベルカ』!」

「現場では、滞在中の隊員四名が、結界の破壊を試みていますが……まだ時間がかかる模様です」

「そう……仕方ないね、なのはちゃんたちにも出動要請を!」

「「了解!」」

 エイミィ達観測チームが、現在なのはたちが不在の海鳴市に『ヴォルケンリッター』の出現をキャッチ。現在対策中ではあるが……さすがは守護騎士といったところか、張られた結界は想像以上に強固で並の術死では破るのに時間がかかりそうである。

 そこで、現在本局で診察中のなのはたちにも応援を要請することになった。

 

「そういえば……エイミィさん」

「? 何?」

「リンディ提督は……」

「そういえば……」

 

 確かにリンディが結界の展開を確認する少々前に外出に出たのは見たが……別に本局のような遠い場所に出向いたわけでもない筈なのだから、彼女ほどの魔導師がこの状況に気づかないのもおかしな話だ。

 加えて、彼女はこの事件の担当責任者だ。気づいていない、なんてことはないだろうから……仮に戻れないにしても、指示が無いなんてことは通常ではあり得ない。

 なら、何だろうか?

 考えられるのは二つ、偶々ヴォルケンリッターの動きに気づきにくいポイントにでもいて、本当に〝気づいていない〟場合。

 もう一つは……何らかの理由で、連絡手段を〝失っている〟場合。

 

(そういえば……ここ最近は地球から離れた世界での蒐集が主だったのに、なんで今日に限って地球で……結界を張らなければいけない場所、つまりは――わざわざ〝気づかれやすい場所〟で、こんな大胆な動きを……まさか!?)

 

 エイミィの勘は当たっていた。

 そう、ヴォルケンリッターが、わざわざ気づかれるリスクを冒してまでこんなことを仕出かした理由とは――

 ――彼女らの主の近くで強力な――それこそ自分たちと〝同等以上〟の『魔導師』を見つけたから、だった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 リンディは、結界の中にいた。

 通信を遮断されるタイプの結界で、外との連絡は不能。結界内にも通信可能な魔導師はおらず、完全に孤立状態。

 しかし、彼女とて時空船の提督を務めるほどの魔導師である。この状況おかれても尚、決して冷静さは失っていない。

 瞬時に状況を推測するに、おそらくは自身は『ヴォルケンリッター』の張った結界内に閉じ込められた、という認識で合っていると思われる。そしてそこから外の状況についても考えてみる。おそらくこれほどの結界なら、発見は既にされているのは間違いない。仮に発見がまだでも、ここ海鳴に置いた本部にはあのプレシアもいる。外の状況は、素手動き出しているとみてほぼ間違いないだろう。

 だとすれば、今は少しでもこの結界の破壊の為の時間稼ぎと、ヴォルケンリッターと遭遇した場合の交戦の体制を整えることだろう。

 この状況なら、クロノやフェイト、なのは、ユーノたちもすぐにここに召集されるだろう。応援はかなり期待できそうだが、その前に自身がやられてしまっては意味がない。

 ならば――

 

(――少しでも連中の動きをかく乱すること、かしらね)

 

 交戦はなるべく最後の手段にしておきたい。という考えの元、リンディは移動を開始した。

 

 リンディの移動速度もなかなかのものであるはずなのだが、それを同等か……あるいはそれ以上で追走する影有り。

 影の数は――三つ。

 

(もう気づかれたのかしら……。三対一、……少々不利な状況ね)

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 リンディが結界に閉じ込められた直後から、既に結界外では結界の破壊の為に魔導師部隊出動していたが……しかし――

 

「くそっ! この結界固い……!」

 

 ――破壊は思うようには進まない。さすがは純戦闘用魔法エンシェントベルカ、と言ったところだろうか?

 そして、そんな魔導師たちを見ている影が一つ。ベルカ特有の三角形を模した深緑の魔法陣の上に立つ、金髪の女性がいた。しかし、彼女はベルカ式の魔導師――いわゆる『騎士』としては珍しく、どちらかというとミッドの『魔導師』に近い出で立ち……後方支援型であるように見える。

 とはいえ……、『騎士』はあくまでもエンシェントベルカの実力者――つまり、一級の使い手に送られる称号なので彼女も立派な『騎士』の一員であることに疑いの余地はないだろう。

 彼女自身も、自分の作り出した結界には相当の自信があるようで、破壊を試みる魔導師たちを見ながらこう呟いた。

 

「ふふふ、当然よ。そう簡単には壊れないわ。私と、『クラールヴィント』の作り出した結界だもの!」

 

 彼女の名は、ヴォルケンリッター、湖の騎士・シャマル。

 見ての通り支援型だが、べつに戦闘ができないわけではない。

 事実、この間の交戦の際……。あのクロノとユーノの二人に、実質王手をかけたのは……何を隠そう彼女であるのだから。

 

 《シグナム、ヴィータちゃん、ザフィーラ。外は任せて、結界の中に閉じ込めた魔導師の捕獲を!》

 ()()()()

 

 結界内にいるほかの『ヴォルケンリッター』の騎士たちはシャマルの念話に威勢よく返事を返し、結界内にとらえた『魔導師』を迅速に倒すべく捜索を開始する。

 

(外はシャマルに任せとけば問題ねぇ、あたしらの役目は、反応のあった強力な魔力を持った魔導師の撃破だ!)

 

 今日のこの大胆すぎる行動の理由はこの反応の対象が、彼女らの主の近辺をうろついていたからである。

 主が誰かとか、この街にいるとか、そういうことは気づかれてはいないものの……この間の蒐集で相当ページは稼ぎ、『目的』がほぼ目の前に見えてきたこの状況で、主が見つかってしまっては話にならない。

 

 何せ、彼女らの主……八神はやては、今現在において――魔導師ですら無いのだ。

 

 なのに、自分たちの主であることは間違いない為……〝従えている〟魔導師として逮捕される理由を与えてしまっているのだから、なんとも皮肉なものだとヴォルケンリッターの面々は思う。

 元々、この蒐集ははやてを〝救う〟為の物であるのに、その行為がはやて自信を追い込んでしまっている事実にヴォルケンリッターはなんとも言えない気持ちになる。

 はやてを救う為には、犯罪に等しい行為を行わなければならない。だが、それはその事実を……『ヴォルケンリッター(自分達)』がそれを行っていることすら〝知らない〟はやてにも回してしまっているのだから、笑えない。

 だが、そう嘆いてばかりもいられない。万が一にも、はやてに向けられるかもしれないその注意を自分たちの方へ誘導するため、ヴォルケンリッターは動いた。

 向こうはそもそもはやてを知らないから、接触さえさせなければ……魔力を少しでも有している事実にさえ気づかせなければ絶対にはやてには届きはしない。

 それに自分たちがこんな強硬策に出る理由にしても、『強力な魔導師からの蒐集の為』でおそらく片付けられる。

 だから今は、その正しいようで正しくない理由を相手に見せるために、そしてその表面上の目的もついでに達成するために……動き出す。

 

「対象……補足!」

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ついに結界内で、リンディと『ヴォルケンリッター』が対峙する。リンディを追う中で、結局リンディが初めに接触することになったのは、ヴォルケンリッター、烈火の将・シグナム。

 両者は対峙し、しばらくにらみ合うが……ふいにリンディが口を開き、シグナムにこう問いかけた。

 

「貴女が、彼女たちのリーダーということでいいのかしら?」

「……」

 

 シグナムはリンディのその唐突な問いかけに対し、答えるべきか答えざるべきかを見極めるためか、最初の質問に対しては沈黙を守った。

 リンディは答えないシグナムに対し、そのまま言葉をつづける。

 

「戦う前に、少しだけ……お話し、いいかしら?」

「……話?」

 

 シグナムはそこで初めて口を開いた。

 話、とは何のことを指しているのかはよく分からないが……単なる対話、というわけでもないだろうから相手のペースを作らせないよう一応口を開く。

 そのシグナムの返答を受け、リンディは会話を続ける。

 

「『闇の書』のシステムの一部、自らの意志と実態を持った無限再生プログラム・守護騎士『ヴォルケンリッター』……あなたたちは『闇の書』を、どうするつもりで蒐集を続けているの?」

「……」

「フェイトさん……この間あなたたちと戦った金髪の少女だけど、彼女から来たところによると、あなたたちの目的はどうやら〝誰か〟の為……つまりは貴方たちの主の為、ということでいいのかしら?」

「……答える必要は有りませんな。我らには、我らのなすべき理由が有る。しかし、貴女に応える理由は無い」

 

 リンディはそのシグナムの言葉に、少しだけ目を下に伏せて……沸いた悲しみを抑え込んだ静かな声色で、こういった。

 

「……私が、十一年前……闇の書の暴走によって、家族を殺された人間だったとしても?」

「!?」

 

 シグナムは驚き、目を見開き目の前の女性をまじまじと見つめる。確かに、十一年前位に自たちの宿る『闇の書』が暴走したことがあった。

 しかし、悠久の時を生きる彼女ら『ヴォルケンリッター』にとって……それはこの何百年という間に起こった暴走のほんの一つに過ぎないが……。それでも、こうして面と向かって言われるとなんとも言えない気持ちになる。

 それが、申し訳なさなのか……それとも、復讐に対する哀れみの様なものなのかはまだ、分からない。

 

 その感情を汲み取るには、まだシグナムは――ヴォルケンリッターは感情に対して幼かった。

 

 だから、戦うしか……ない。

 

「うぉおおおっ!!」

 

「「!?」」

 

 シグナムとリンディの間に誘導弾が放たれる。

 ヴィータの放ったそれはシグナムとリンディの会話を終わらせ、シグナムには本来の目的を思い出させるための、リンディには交戦開始の合図をそれぞれに告げた。

 

「シグナム! 何ボーッとしてやがる!!」

「あ、ああ。すまない……」

 

 ヴィータの叱咤を受け、シグナムも漸く動き出す。

 心に残る迷いの様なモヤモヤしたものを完全に押し殺せたわけではないが……それでも、主を救いたいと願う気持ちの方が大きいと言わざるをえない。

 だから、シグナムは……烈火の将たる力を振るうべく動き出す。

 

 しかし、そこに来て結界の外にいるシャマルから連絡が入る。

 

 《皆! 上空より転移反応、来るわ!》

 

「「「!?」」」

 

「来たのね……!」

 

 その時のリンディの言葉と、空より飛来する二つの光を見て……その存在がなんであるかを、ヴォルケンリッターたちは理解した。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 その頃本局で事態の発生、および出撃要請を受けたなのはたちは本人たちの希望で、まず現地に転送されることになったのはなのはとフェイト、アルフの三人だ。

 今度こそ、『ヴォルケンリッター』に勝つため……彼女らの話を聞くために。

 

「ゴメンね、レイジングハート。いきなり本番で……」

【All right . That’s what I’m here for .(大丈夫。そのための私です)】

「バルディッシュも……!」

【No, problem.(問題ありません)】

 

 主人たちの心配の言葉に対し、二機は頼もしく答える。

 

【This is the first launch of the new system. Requesting a renewed activation call.(新システムの初機動です。新たな名で起動コールを)】

「「うん!」」

 

 結界内に転送される過程で、エイミィより念話で二機の新機構及び、二機に与えられた新たな名を告げられたなのはとフェイトはその名を、叫ぶ!

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

「バルディッシュ・アサルト!」

 

「「セーット・アーップ……っ!!」」

 

 

 桜色と金色に輝く二つの光が、結界を突き抜ける様にして結界内へと降り立っていく……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「来やがったか……!」

「もう魔力が回復したのか、呆れた回復速度だな……」

 

 シグナムとヴィータがそんなことを口にした。

 ビルの屋上に降り立った白と黒の少女たちは、桃色と金色の魔力光を放ちながら堂々たる面持ちでその場に立っていた。

 

 《リンディ提督、大丈夫ですか?》

 《ええ、助かったわ》

 

 どうやらリンディが無事らしいことを知ったフェイトは、なのはと目配せをするとヴォルケンリッターたちの方へ視線を向ける。

 二人はそのまま、ヴォルケンリッターの二人。シグナムとヴィータと向き合う。

 

「随分と、それらしい雰囲気になったじゃないか――それに、そのデバイスたちは……」

「……何だろうが関係ねぇ、邪魔するなら――ぶっ叩く…ッ!」

 

 シグナムとヴィータの二人に対する感想は、大体そんなところらしい。その間にも、なのはとフェイトはシグナムとヴィータの近くまで移動し、二人に向かってこう言った。

 

「私達は、別に貴方たちと戦うために来たんじゃない。まずは……、話を聞かせて」

「うん……。『闇の書』の完成を目指している理由を……!」

 

 なのはたちのその言葉に、ヴィータはウザったそうにこう返す。

 

「あのさ、ベルカのことわざにこんなのがあるんだけどよ――『和平の使者なら槍は持たない』」

 

 それを聞き、なのはとフェイトは顔を見合わせ首をかしげる。

 どういう意味なのだろうか? といった感じの二人に、ヴィータは彼女のデバイスである『グラーフアイゼン』を指揮棒のようにして二人を指し、こういった。

 

「話し合いをしにきた奴がやる気満々の新型武装ぶら下げてくる訳ねーだろ、馬鹿! って意味だよ! バーカ!」

「なっ!? この間いきなり、しかも問答無用で襲い掛かってきた子がそれを言う!?」

「……ヴィータ、それはことわざではない。小話のオチだ」

「うっせ! いーんだよ、細かいことはっ!」

 

 とはいえ、まあ確かにヴィータの言っていることは間違ってはいない。実際なのはとフェイトは完全に臨戦態勢なのだから、話し合いをしに来た者……和平の使者――と呼ぶには少々遠いかもしれない。

 だが、この間なのはとフェイトは有無を言わさずに襲われたわけで……なんとも釈然としない。

 

「まあ、仮にテメェらが武器持っていようが持ってなかろうが……あたしらの邪魔をするってんなら――さっきも言ったけど、ぶっ叩くまでだ!」

 

 そういうとヴィータはなのはに向かって突撃してくる。それを受けて、なのはも空へと飛びあがり、空中戦を開始する。

 フェイトの方にも、シグナムが彼女のデバイスであり剣でもある『レヴァンティン』を構え、どちらが先に仕掛けるかの探り合いが始まる。

 

「こっちはもう、テメェらには用はねーんだ!」

【Explosion.】

 

 ガゴンッ! という音と共に、アイゼンがカートリッジを読み込むと『ラケーテンフォーム』へと変形する。

 そのまま、この間の戦闘でなのはのシールドを破り貫いた攻撃をしかける。

 それを受け、レイジングハートがなのはにこういった。

 

【Master. Please, call me load cartridge.(マスター、『カートリッジロード』を命じてください)】

「うん! レイジングハート、『カートリッジロード』ッ!」

【Commencing cartridge load.(『カートリッジロード』行きます)】

 

 レイジングハートもまた、アイゼンやレヴァンティン同様……カートリッジシステムを発動させた。

 ガゴンッ! という音と共に読み込まれたカートリッジの力で、なのはの魔力が爆発的に高まる。

 そのまま、魔法陣を展開させ……なのはは『プロテクション・パワード』でヴィータの『ラケーテンハンマー』を受け止める。

 

【Protection powered.】

「はあああっ!」

「でやぁああっ!」

 

 両者の技がぶつかり合う、だが――

 

「!?」

 

 ――今回のぶつかり合いの軍配はなのはに上がった。

 

「固ぇ……っ!?」

「凄い……っ!」

 

 その様子を後から結界内に転送で飛んできたユーノとクロノは、その様子を見て喜び、驚いた。

 

「いいぞ……今度はなのはが押してる!」

「……ここまで変わるとは……」

 

 そしてなのはの「シュート!」の掛け声で、ヴィータを押しのけるようにして両社は距離を開けた。

 しかし、ヴィータも負けじと誘導弾『シュワルベフリーゲン』を放つ!

 

 その数はこれまでよりも相当に多い! 十近い誘導弾が、ヴィータの魔力光である紅の光を放ちながらなのはへと迫る。

 それを見てユーノはなのはに加勢しようと、『スフィア・プロテクション』を展開させようとするが……。

 

 《ユーノ君待って!》

 《なのは……?》

 《私、今は……あの子と一対一だから!》

 《……分かった、頑張って!》

 《うん!》

 

 一対一の、タイでの勝負を望んだなのはに、ユーノはその意志を尊重し応援と激励の意味を込めて「頑張れ!」と告げた。

 そしてなのはは、その激励に応える様にレイジングハートにカートリッジを読み込ませる。

 

【Accel shouter.】

「アクセルシューター……シュ――トっ!!」

 

 なのはの放ったアクセルシューターは、ヴィータのシュワルベフリーゲンとまったく同じ軌道を突き進み、全て相殺した。

 

「相殺……!? あんな量の誘導弾、制御できるわけが……!」

【Because it is possible, it is my master.(それができるから、私のマスターなのです)】

「レイジングハート……!」

 

 なのはならばできる、という信頼の元での攻撃。そしてそれをやってのけたなのは。

 今の二人は、前とは全く違う!

 そんな状況だが、なのはは一度レイジングハートを下し、ヴィータに語り掛ける。

 

「私たちは、本当に話を聞いてもらいたいだけなの……。それに、帽子のことも……謝りたいって思ってたの……だから――」

「……」

「ねっ……? いい子だから……」

「……! うっせーチビガキッ! 邪魔する奴は、ぶっ潰す!」

 

 帽子のことを話題に出され、一瞬揺れたヴィータだったが……あくまでも戦う姿勢は変える気はないようで、何かを振り払うように二、三度首を横に振ると再びなのはに向かっていく。

 

「なら……、私が勝ったら、お話し…聞いてくれる?」

「ハッ! やれるもんならやってみろ!」

「なら、必ず勝って……、話を聞かせてもらうから……ッ!」

 

 こうしてなのはとヴィータのそれぞれの〝想い〟を乗せた勝負が始まった。

 そしてその頃、フェイトとシグナムの方は――

 

「はぁあああッ!」

「でやぁああっ!」

 

 ――金と赤紫の光が高速でぶつかり合い、激しい攻防が繰り広げられている。

 そして、ある瞬間に――お互いが一旦距離を置くと……それぞれのバリアジャケットに多少のダメージがあるのが確認される。

 

「魔導師にしては……悪くない太刀筋だ。先日とはまるで別人だな……相当に鍛えてきたか――それとも、前回の動揺が酷過ぎただけか?」

「有難うございます……。今日は落ち着いてますし、鍛えてもきました」

「……」

 

 そしてシグナムは、少しだけ口角を上げ微笑むとフェイトに対し、未だに名乗っていなかった自らの名を名乗る。

 

「ヴォルケンリッターが将、シグナムだ! お前の名は?」

「ふぇ、フェイト・テスタロッサです……」

「テスタロッサか……、覚えておこう。こんな状況でなければ……きっと心躍る戦いとなっただろうが――今はそうも言ってられん……殺さずに済ませる自信がない。この身の未熟を、許してくれるか?」

「かまいません。勝つのは、私ですから……!」

 

 そういってフェイトはまっすぐにシグナムへ視線を向け、宣言する。

 勝つのは、自分だと。

 それを聞いたシグナムは、どこか嬉しそうだった。

 そして、戦いへのほこりを持つ者同士の共鳴のようなものを感じ、より高揚感を感じられるような雰囲気の元、再び戦いの幕が上がる。

 再びぶつかり合う閃光と、それに伴う火花が結界内の色彩の寂しい空に放たれ、美しく煌きながら空を彩った。

 そのそばでも、新たに結界内に突入してきたフェイトの使い魔アルフが、ヴォルケンリッター、盾の守護獣・ザフィーラと交戦を始めていた。

 

「よぉ……、この間の借り、返しに来てやったよ『使い魔』さん?」

「……以前も言ったが、ベルカでは騎士に使える獣を『使い魔』とは呼ばぬ。主に仕え、その牙となり、盾となる者――『守護獣』ザフィーラだ!」

「あたしも前に言っただろう? 同じようなもんじゃんかよ! ってな!!」

 

 そういってぶつかり合う、『主に使える者』。そこにある誇りに多少の違いこそあれども……、主が為に動かんとするその『心』の誇りの根底は同じ。

 それぞれが主と決めた存在の為に、戦う。

 そして、そこにある己が掲げし信念や誇りを踏まえて……激突する!

 

「あんたも誰かご主人様に仕えているなら! その主人が悪いことや間違ったことしてるなら、止めなくちゃダメじゃんかよ!」

「……我らが主は、我らの所業については一切ご存じない」

「ああっ……?」

「すべては、我ら四人の意志……我らの責だ」

「ええっ……!?」

 

 何と、この連中は主人の銘ではなく――その自らの意志でこの事件を起こしている、という。その事実に驚いたアルフの一瞬の隙をつき、ザフィーラ攻撃がアルフに直撃する。

 しかし、アルフも負けじと体制を立て直してザフィーラに攻撃をぶつけ……激しい爆発を引き起こしながら、『仕える獣』たる二体の誇りのもとに始まった闘いは、激しさを増しながら続いていく。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ヴォルケンリッターたちとの交戦の最中、ユーノとクロノは一度結界の外へと出ていた。

 二人は、この結界を張った術者の確保と、その周辺にある魔導師の反応を探るという二つの役割に分かれて行動を開始した。

 この作戦の発案者はクロノで、エイミィが感じた違和感について聞き……リンディを――彼の母を狙ったものであるという推測にどこかまだ違和感を覚えた。

 それだけが、理由でないような違和感がある。

 そこで、一応この辺りにいる〝他の魔導師〟の反応がないかを調べてくれるようユーノに頼んだ。

 そして、自分はユーノの探索をこの間のように邪魔させないようにするために、あの後方支援型の女騎士の確保に向かうことに決めた。

 残りの増援ももう間もなく来る。それまでにヴォルケンリッターが逃げ出さないとも限らない為、今結界の維持や指令的な位置にいるだろう司令塔を捕まえると決め、少年たちはそれぞれの役割の元……行動を開始した。

 

 ユーノは探索魔法を使い、周囲にいる魔導師の反応を探る。この辺りに、自分たちの味方とヴォルケンリッター以外の魔導師の反応がないかを範囲を広げながら探る。

 これの間はユーノは完全に無防備なので、そこは今回の相棒役になったクロノを信頼するしかないだろう。

 今はユーノ自身の役割にのみ、集中する……!

 

 勿論、それを気づかないほどヴォルケンリッターは間抜けではない。

 湖の騎士・シャマルもユーノの捜索に気づき、ユーノを眠らせるなり意識を奪うなりしてこの辺りの広域捜索をやめさせなくては……! もし万が一にでも、はやてに気づかれてしまったらまずい。

 シャマルはユーノを止めるべく次なる手を発動させようとするが――

 

「そこまでです」

 

 ――突然の襲撃者にその手を止められた。

 

「誠に不本意ながら、そいつは一応今回僕の…………相棒なので、手出しはさせませんよ。そして、貴方には……いえ、貴方方には本局まで同行を願います。罪状は、述べるまでもないでしょうが……第一級危険資産指定ロストロギアの保持、およびその力の行使と言ったところでしょうか。もちろん、魔導士たちの襲撃の方も証拠が上がれば追加されますので……そのつもりで」

 

 シャマルは、見て分かる通り支援型。クロノのような純粋な戦闘タイプの魔導師とでは、戦い勝つのも逃げることだってなかなか難しい。

 どうすればいいのかと思考を巡らせていると、クロノが武装の解除をするようにと求めてくる。武装を解除しては、完全にアウトに近い。

 治癒や回復は得意だが、仮に攻撃を受けてでも今すぐに距離を取り交戦に持ち込む――というのはおそらく不可能だ。

 この間見たこの黒い少年と、翡翠の少年の力はかなりのものだ。今のシャマルでは抗うことができるかすら怪しい。

 

「……もう一度だけ言います。それ以上の引き延ばしは抵抗と見なし、実力行使に出ざるを得ません。……良いですか? 武装の解除を、お願いします」

 

 万事休すか、と思われた……その時――

 

「!? 誰d……グアッ!?」

「!?」

 

 後ろで起こったいきなりの事態に、クロノもだろうが……シャマル自身が一番驚いた。

 

「誰……!?」

 

 ――誰か見知らぬ仮面の魔導師が、〝助けてくれた〟……らしい。

 

「新手の仲間!? ……ヴォルケンリッターは四人だった筈じゃ……!」

 

 クロノは驚愕するとともに、先ほど喰らったダメージが思ったよりも重いことに驚く。これでもクロノはAAA+ランクなのだ。そうやすやすとはやられはしない。

 それに、先ほどの攻撃を受けた際も急ごしらえではあるがいちおうバリアは張った。

 だというのに――この威力。

 驚愕としか言いようがない。一体何だというのか、この乱入者――仮面の魔導師は!?

 

「一体……何者だ……ッ!?」

 

 そう問いかけると同時に、エイミィにも念話でこの魔導師の出現の足取りを聞き、正体を探る。

 

 《エイミィ……こいつは、一体……?》

 《それが、こっちのサーチャーにも反応がなくて……!》

 

 反応がない? そんな馬鹿なことが……。

 管理局でも優秀なスタッフがそろっていると言われる『アースラ』のメンバーを出し抜くなんてことが、そう簡単にできるわけが……!

 しかし、その仮面の魔導師はクロノの方に等もはや興味を失ったかの如くシャマルの方を向き直るとこういった。

 

「仲間を連れて、さっさと逃げろ」

「えっ……」

「もうすぐ増援の部隊が到着する。早くしないと仲間の誰かが捕まってしまうかもしれないな……特にアンタやあの赤チビとかがな」

 

 そういわれるとそうかもしれない、と思ってしまう。これから来るだろうその増援部隊にまともにぶち当たって、今なお交戦中の相手を交えてとなると……状況は絶望的問得と言わざるを得ない。

 勿論、ヴィータがやられるなんて思っていないが……自分はおそらくこの情きゅでは守られつつ援護のバックアップとしての仕事はおそらく不可。

 となれば、ここはおとなしく引くしかないだろう。幸いこの仮面の魔導師の出現もあって、どうやら自分たちの方に今一番注意が引き付けられている。

 唯一気がかりだとすれば、あの翡翠の少年くらいだが……。

 

「ああ後、あの翡翠の少年ならもうのされている〝だろう〟ぜ?」

 

 シャマルはどうして疑問形なのか、とも思ったが……事態は一刻を争う。

 

「分かったわ……」

 

 そう答え、結界内にいる仲間たちに向けて念話を飛ばす。

 

 《みんな! 十秒後に照明弾を打ち込むわ……その隙に離脱を》

 《離脱? どういうことだシャマル?》

 シャマルはシグナムあyヴィータ、ザフィーラに管理局の増援が迫っていること、そして今なんだかわからないが、協力者によって注意がこちらに向けられている今がチャンスだと告げる。

 

 《注意が向いているなら、なおさらまずいのではないか? テスタロッサを撃墜してからの方が……》

 《それが今、この辺りにサーチかけてる子がいて……その子もどうにかなるみたいだから、早くこの場から注意を変えさせないと、はやてちゃんが見つかるかも知れない……》

 《そういうわけか……》

 《了解》

 《チッ……命拾いしやがったな、あの白いの……》

 

 そういって皆が納得したところで、シャマルは閃光弾『クラールゲホイル』を結界内に放つ。

 

 

 

 結界内では――

 

「すまないテスタロッサ、この勝負……預けたぞ」

「シグナム……?」

 

「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士・ヴィータだ。そんなに話がしたけりゃこっちから出向いてやるよ……だから、今はジャマすんじゃねぇ!」

「あっ……、待って! えっと…ヴィータちゃん!」

 

「どうやら、のんきに戦っていられる状況ではないようだな……。この勝負の決着はまた今度の様だ」

「あッ! コラッ逃げんな――ッ!!」

 

 

「みんな離脱の準備はオーケーみたいね……。なら――『クラールゲホイル』!」

 

 

 そんなやり取りが行われた結界内で、シャマルの声に合わせる様に放った閃光弾が発動し、結界内を深緑の光で満たし内部にいたものの目を眩ました。

 

 そして『ヴォルケンリッター』は姿を消した……。

 

「ふむ……そうやらここまでの様だな」

 

 仮面の男も立ち去ろうとしたのだが……それを後ろからクロノが阻止する。

「待て! まだ話は終わってないぞ!」

「……いや、俺たちの今回の目的はこれで終わった」

「何!?」

 

 そういうと、転移でどこかへと消えてしまう。

 しかし、こんなに近くで転移魔法を行使したんだ。これなら……と思いクロノはエイミィに念話を送る。

 

 《エイミィ! ヴォルケンリッターとあの仮面の魔導師の転移先は!?》

 《……》

 《? エイミィ……?》

 《……ロスト》

 《えっ?》

 《対象、完全に……ロスト》

 《何だって!?》

 《ヴォルケンリッターの方は途中まで終えてたんだけど、途中で逃しちゃって……あの仮面の方については、そもそも転移先を追うことすら出来なかった……》

 

 嘘だろ? とクロノは思った。

 しかし、それが事実。

 

 

 

 ヴォルケンリッターは、唐突に現れた乱入者によってた逃走。

 前回の雪辱は晴らせないままに、再選は引き分け……いや相手の逃げ切り勝ちかもしれない。

 

 こうして、戦いは……次回へ持ち越されていった――

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 魔導師たちの戦いが終わったころ……。

 八神はやては、一人自宅で彼女の〝家族〟の帰りを待っていた。

 しかし、皆は帰ってこず……暇を持て余した彼女は、友人である月村すずかと電話でおしゃべりをして時間を潰した。

 丁度のその会話が終わったころ、唐突に実質に転移してきた『闇の書』の姿を見つけた彼女は「?」と頭に疑問符を浮かべる。

「確かこの子はとシャマル一緒だったのでは?」と思ったが、別に気にするほどの事でもないかと考え直し、なんなく『闇の書』に語り掛けていた。

 

「なんやこう二人っきりやと、昔を思い出すなぁ……」

 

 それは今年の、彼女の誕生日の前日の事だった――

 

 

 

 ――家族を早くに亡くしてしまい、なんだか孤独な日々を過ごしていた。

 どこか人生や生きていることに対して、無気力そのもので毎日ただし過ぎ去っていく時間にうんざりしていた。

 趣味の読書も、このころはあまり楽しいとも思えなかった。

 

 ――本の向こうの世界には、『輝く光』の様な者がある。

 ――でも、それはあくまでもその中にしか存在しない。

 

 最初は、心の隙間を埋めてくれるような気がしていた。その中にある物語には、苦しみも悲しみもあるが……何かしらの『意味』や『生』があった。

 

 だが、自分には……何もない。

 

 空虚な隙間だらけの心。

 ただ過ぎるだけの毎日。

 不自由な体。

 周りの視線。

 変えようのない孤独。

 意味を持たない人生。

 

 そんな日々にうんざりしていた。

 世界に失望に近いものを抱いていた。

 変えようのない『現実』に嫌気がさしていた。

 

 それでも何ができるわけでもない自分の無力さに、滞りを感じていた。

 

 ――そんな時だった。

 偶々道路を渡ろうとしていたときに、居眠り運転の大型トラックが自分に向かって突っ込んできたのは――

 ――「ちょうどよかった……」何て思った。

 ここで死ねば、この体とも……この日常から逃れられる。

 要らない苦しみの中から解放される、と……そう、思った。

 

 ――なのに、

 

【Anfang(起動)】

 

 世界は自分を逃がしてはくれなかった。

 

 ――突然自分に訪れた……『魔法』との邂逅。

 

 〝あり得ない〟事態の発生。

 どこか憧れていた……そんな力との出会い。

 

 そして、その出会いは――

 

「闇の書の起動を確認しました」

「我ら闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にてございます」

「夜天の下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター……」

 

『何なりと、ご命令を……』

 

 ――彼女の欲しかったものを、世界にとどまりたいと思わせる『理由』を彼女に与えた……。

 

 

「――考えてみると、何だか物語の筋書きみたいな出会い方やったねぇ?」

【……】

 

 はやてはそんな風に、『闇の書』に語り掛けてみるが……どうやら〝彼女〟はダンマリの様だ。

 何故『闇の書』を彼女、と呼べるかというと――

 ――自分の前に現れた、四人の騎士。

 いきなり主呼ばわりをされ、空中での覚醒儀式のようなものに出会ったはやてだが……。彼女はあくまでも『魔法』の実在を知らなかった『普通の女の子』なのだ。

 そんな彼女のとった行動はというと……。

 

 《……? なぁ……。あのさぁ……》

 《ヴィータちゃん! しぃーっ!》

 《黙っていろ……主の前で、無礼は許されん》

 《……っていうかさぁー…………。こいつ、気絶してね?》

 

 そんな『普通の女の子』だった彼女がとった行動とは――「目を回して気絶」という行動だったという。

 

「――あかん、今思い出してみると、ちょっと恥ずかしーわぁ……」

 

 そういって一人顔を赤くしているはやては『闇の書』を出せる。『闇の書』も、べつに嫌ではないらしく……主にすりより、じゃれついている。

 この子は結構人懐っこいのだろうか? なんて思うはやて。実際この子の『意志』だっただろうか? そんな感じの姿にあったときは、随分と大人びた感じというか……まぁ、実際「綺麗なお姉さん」みたいな感じだったのは覚えている。

 そう、それが先ほど言った〝彼女〟。

 その出会いは、夢のひと時の中で――

 

「おはようございます……我が主」

「? あなたは……?」

「お目にかかるのは初めてとなります。私は、この『「……」の魔導書』の管制融合機です」

 

 そう告げたその人の瞳は綺麗な赤で、その透き通るような銀髪と白い肌によく映えていた。

 

「貴方は先程、正式に我らが主となられました……。『「……」の魔導書』と、その守護騎士四騎は貴方の知恵と力となり、御身に尽くさせて頂く所存です」

「えっと……はぁ…………?」

 

 どこか要領を得ないようなはやては、ただぼんやりとその人の言葉に耳を傾けた。

 

「お伝えしたいことは、星の様にたくさんあるのですが……この微睡みから目を覚まされれば、貴方は私が伝えたことのほとんどを忘れてしまわれるでしょう……」

「……そーなん……?」

 

 そう聞き返したが、彼女は答えず、ただ寂しげに微笑むだけだった。

 

「というか……なんか、変な感じやな……。貴方とは、始めた会った気がせーへん」

 

 その、なんだか懐かしささえ感じさせるような、彼女の雰囲気に、はやては感じたその不思議な感じを聞いてみたところ……。彼女は微笑みながら、いつの間に彼女がわきに抱えたのか……先ほどまではやてが持っていたあの本を、はやてに差し出しながらこう答えた。

 

「この動かぬ本の姿でですが……貴方の御幼少の頃より、ともに過ごさせて頂きました」

「ああ、なるほど……」

 

 そう言いながら、その本ははやての方へと浮遊しながらどこかへと飛んでいき……。すると今度はそれに合わせる様にして、はやての体も浮かび上がりながらその色を薄れさせていく。

 

「? 何やコレ……?」

「……微睡みの時が終わるようです。もう、お会いすること叶わないかもしれません」

 

 ですから、と彼女は続ける。

 

「一つだけ、お願いがあります」

「お願い……?」

「あの優しい騎士たちは、ずっと望まぬ戦いを続けることを強いられてきました。ですから、

 どうかあの子たちに優しくしてあげて頂きたいのです……」

 

 そう告げる優し気な瞳に、彼女がどれだけその子たちを思いやっているかが伝わってくる。だからはやては、彼女に「わかった」と答えた。

 その返事を聞き、嬉しそうに微笑むと「あと、もう一つだけお伝えしたいことが……お願いが、あります」と言った。

 

「これはどちらかと言えば、私の望みなのですが……。どうか、何よりも……貴方が幸せでありますようにと……」

 

 そう告げたとたん、一気に視界が白く染まり始める。

 

「えっ……ちょっと、待って……。待って……!」

 

 そのまま、どこまでも優し気なまなざしに見送られ、はやては現実の世界へと戻っていった。

 

 

 

(――それから始まったんやったね……)

 

 それまで、彼女が何よりも欲していた――〝家族〟との生活が、温かいぬくもりに満ちた……そんな日々が、始まったのだから……。

 

「私が、何よりも臨んだもんが……今はこうして、近くにおるんやもん。せやから、寂しくなんてないんよ?」

 

「な? 闇の書?」とそう告げたはやての顔に浮かんでいた笑みは、確かに……彼女の心からのものだった。

 

 しかし――

 

 

 

 ――ぬくもりを欲した少女に与えられた、あたたかな家族のぬくもりは……。今度は、それ自体が……彼女がもはや望まなくなった冷たく暗い闇の底へと、彼女を誘わんとうごめき出したことを……。

 

 

 

 ――彼女はまだ……知らない。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ところ変わって……テスタロッサ、およびハラオウン両家の自宅のリビングにて――

 

 戦いを終え、一度現地本部たるテスタロッサ、ハラオウン家の自宅に戻り、『闇の書』について話が行われていた。

 

「問題は、彼らの目的……よね」

「ええ、だからこそ……腑に落ちません」

「そうね……あの時言ったあの人――シグナムの言葉に、ほかの気s達にしてもそう……これまでも情報とどこか〝違っている〟」

「彼らはまるで、自分たちの意志で『蒐集』を行っているように見えました」

「? それって何かおかしいのかい?」

 

 クロノとリンディの話にアルフは疑問の声を上げる。

 ヴォルケンリッターは主に仕える者なのだから、損お主の為に動くのがそんなに変な事だろうか? と……。

 確かに『使い魔』として主人に仕える身である彼女からしてみれば、主の為に動くのはそんなに不思議な事ではないと思うのは当然だろう。

 

「だってあの『闇の書』のページも、プレシア母さんが集めてたジュエルシードみたいに〝力を欲する人〟が集めるんだろう? だったら、それを集めてる主に使えるあの子たちが、それに協力したいと思うのは割と普通なんじゃないの?」

「いや、そうじゃないんだ」

「そうじゃ、ない?」

「お兄ちゃん、それってどういうこと?」

「うん、どういうことか教えてクロノ君」

「ああ、そもそも『闇の書』はジュエルシードみたいに制御の効くタイプのロストロギアじゃないんだ」

 

 クロノはそう皆に告げる。それに続き、リンディがそれを補足する。

 

「あの魔導書の力は、純粋な『破壊』の為の物でそれ以外には使えない、少なくともそれ以外で使われたという記録は残っていないわ。完成後も、完成前も、純粋な『破壊』の為の代物としてしか使えない厄介な代物――それが私たちの知る情報による『闇の書』の概要」

「それにもう一つ、明らかに違う点がある」

「違う点……?」

 

 クロノの言葉にユーノが疑問の声を上げる。

 

「ああ、あの守護騎士……『ヴォルケンリッター』とは、人間でも使い魔でもない存在。『闇の書』の主の為に動くだけのただ疑似人格――いわゆる『プログラム』の一つにすぎない筈なんだが……」

「驚くことに、今回の事件で私たちと遭遇したあの騎士たちには――『感情』があった……」

「これまでに起こった事件の中で、感情を見せただなんて例は一度もないのだが――奴らには、感情が確かにある……」

 

 それを聞き、なのはたちは『ヴォルケンリッター』に本来『感情』が無いなんてことがいまいち信じられない。

 

「でも、ヴィータちゃんは帽子を傷つけちゃったとき、すごく悲しんで、怒ってたし……」

「シグナムも、『救いたい人がいるから、ページを集めるんだ』って言ってました……」

「なのはやフェイトの話を聞いてると、感情が無いなんて言うのはなんだか信じられないよね」

「ああ、まったくもってその通りだ……何かがおかしいんだ。本来人間でも使い魔でもない所謂『疑似生命』のような存在の筈なんだが……」

「あの、疑似生命っていうと……その、私みたいな……」

「いえ、違うわ!」

「か、母さん……?」

「フェイトは、確かに少しだけ私が生まれ方を変えてしまったけれど……正真正銘の人間よ」

「ああ、それは検査の結果でもきちんと出てる。めったなことを言うもんじゃないよフェイト」

「うん……」

「そーそー! なんたって私の自慢の妹なんだからぁ~」

「お姉ちゃん……」

 

 少しだけ暗い方向に話がそれてしまったが、プレシアやクロノがそれを否定し、アリシアがフェイトに妹なのだと言い切ったところで、話を元に戻すべくクロノが語りだす。

 

「話を戻そう。あの守護騎士たちの役目は、護衛と蒐集。だが、今回の彼らの動きにははっきりと何らかの意思がある。それも、これまでのような『破壊』ではなく、もっと別の何かが」

「主を救うって意味だと、捉え方の幅が広すぎて目的の特定にまではつながらないだろうね」

「ああ、その点に関してはユーノの言う通りだ……何にしても現状では情報が少なすぎる。だが、一つ。かなり確率の高い推測が成り立つ事柄がある」

「それって?」

「彼らの主はおそらくだが、この近辺の世界あるいはもっと近くにいる可能性が非常に高くなった。転移頻度も多少は補足できているから、ほぼ間違いない」

「案外、主の方が先に見つかるかもね。完成前なら、いくら主って言っても普通の魔導師なわけだし」

「あ、確かに! それいいねぇ~わかりやすくて」

 

 アルフがそんなことを言い、皆も確かにそうかもしれないと思い始める。

 しかし、クロノは少しだけ詰めが甘い気がするような気分で他に打てる手が無いか少し考えてみるが、先ほども言ったようにいかんせん情報不足である為……いい案は浮かばない。

 

(いや、待てよ……? 〝情報〟……か)

 

 そこまで考えて、何かを思いついたらしいクロノはユーノに歩み寄りこう聞いた。

 

「ユーノ、君は割とマルチタスクが得意だよな? デバイス無しで戦っているくらいだ、苦手ということはないだろう?」

「え、あ……うん。苦手ではないけど、それがどうかしたの?」

「そこでだ、そんな君に頼みがある」

「? いいけど……どんな事?」

 

 クロノはユーノが同意してくれたので、「そうか」と言って、してもらいたいことの説明を始める。

 

「現状では情報が少なすぎる、だから情報を集められる人材が必要なんだ。そこでユーノ、君には本局にある管理世界最大の巨大データベース『無限書庫』に入ってもらいたい」

「『無限書庫』か……確かにあそこなら情報は点に入るだろうけど、僕一人じゃたかが知れてると思うんだけど……」

「ねぇ、それって私でもお手伝いできる?」

「いや、それについては問題ない。僕の師匠たちに手伝いを依頼するよ」

「……クロノ君のお師匠さんって誰?」

「ある人の使い魔二人だが、実力や能力は保証するよ」

「ふーん……」

 

 何だか不機嫌ななのはだが、使い魔と聞いて少しだけホッとするが……。空気を読まないクロノはさらに続けてこう言った。

 

「〝彼女たち〟ならこういうことにも強いだろうからね。それに、なのはに今現場を離れられるのは少し困る」

 

 〝彼女たち〟の部分で益々不機嫌になったなのはだったが、「現場を離れられては困る」といわれてしまってはもう手伝わせてとはいえないので、なのはおとなしくするしかなくなる。

 それでも、精一杯の抵抗のつもりでクロノをじとーっ、と恨めし気に見る。

 クロノはその視線に気づいたが、何故なのはが不機嫌なのかには気づかずに「?」を浮かべるだけだった。

 

「……なのは?」

 

 不機嫌ななのはにフェイトはクロノと同様に不思議そうな顔をするだけだが、エイミィはやれやれと言った感じでクロノを見て首を横に二、三度振った。

 

(相も変わらずニブちんだねぇ……クロノ君は)

 

 何だか少しエイミィ自身も腹が立ってきた。この間もさりげなくアプローチしたのにスルーされたし……となんだかマジで腹ただしくなってきたので、助け船は引っ込めることにした。

 

 《え、エイミィ、僕は何かしただろうか?》

 《……はぁ》

 《ため息ついてないで何とかしてくれ!》

 《……》 プイッ

 《エイミィー!?》

 

「「「???」」」

 

 そのやり取りに、気づかないユーノ、フェイト、アリシアは「?」と言った感じの表情を浮かべ、首をかしげる。

 その様子を微笑ましく見ていた大人二人は「ふふふっ」と微笑むだけだった。

 

 結局、なんだか自分ではよく分からないモヤモヤが浮かんだなのはは、そのまま終わるまでずっとムスッとしたままだったらしい。

 

(……せっかくユーノ君と再会できたばっかりだったのに……)

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 そんなこんながあった、翌日。管理局の本局にて――

 

「うぁあああッ! アリア! これを何とかしてくれ!」

「いいんじゃない? せっかくの再会なんだし」

「そんな……うあああッ! やめろぉ!!」

「にゃあ~」

 

 ――クロノは災難にあっていた。

 彼の師匠リーゼロッテは、クロノをもみくちゃにしていた。そしてクロノが一通りじゃれつかれたのち……。

 

「ご馳走様♪」

「うぅぅ……」

 

 既にフラフラのクロノ君。心なしか、この間シャマルにやられた時よりもズタボロな気がする。

 

「なんで僕がこんな目に……。というより、なんで……なんであんなのが僕の師匠なんだ……」

 

 恨めしそうな目でロッテの方を見るが、ロッテは既にクロノのことをいじるのはとっくに満足済みらしく、エイミィとハイタッチをかわしており、クロノのことなど既に眼中にないと言わんばかりだ。

 

(く、屈辱だ……)

(たぶん天罰だね、クロノ君)by・未来の嫁。

(そうなの、天罰なの)by・前世の嫁かつ未来の白い悪魔さん。

 

 どこからか謂れのない(?)罵倒を受けたような気がしたクロノはさめざめと泣いた。

 そんなクロノに対し、ユーノ以外同情も無しでクロノは完全に孤立だ。(ユーノも新しい対象として目をつけられ始めた)

 

「ン? なんかおいしそうなネズミっ子がいる……どなた? ♪」

「あははは……」

 

 何だか餌扱いされてる気がするユーノは、もう苦笑するしかなかった……。

 そんなことがあったが、とにかく話を進めようと必死な様子でクロノが事情を話し出して事なきを得た……のだろうか?

 それはともかく、クロノが事情を説明している間にユーノはエイミィからリーゼ達についての事情を聞く。

 

 リーゼ姉妹は、管理局の提督グレアムの使い魔で素体は猫。

 姉妹らしく、姉の方がリーゼアリア、妹の方がリーゼロッテ。二人そろってクロノの師匠をしていた。

 姉の方が魔法教育を担当し、妹は近接戦闘の方を指導したらしい。

 クロノは今でも彼女たちには敵わないらしい。

 ユーノが聞いていた間に大体の事情は話し終わったらしく、リーゼ達は納得したらしい。

 

「なるほど~『闇の書』の捜索ねぇ」

「事態は父様からうかがってる、出来る限り力になるよ」

「二人には駐屯地方面に来てもらえると心強いんだが、今仕事なんだろ?」

「うん。武装局員の新人教育メニューが残っててね~?」

「だからそっちに出ずっぱりにはなれないのよ、悪いねぇ……」

「ああ、いや、今日来たのはそっちじゃなくて……今回の頼みは彼なんだ」

 

 そう言ってユーノの方を示すクロノ。

 するとロッテが物凄く目を輝かせて「食っていいの!?」なんて聞いてくるものだから、ユーノはすっかり怯えてしまっている。

 おまけにクロノも先ほど助けてくれなかったお礼とばかりに、「ああ、作業が終わったら隙にしてくれてかまわない」なんて言い出す。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 ユーノが抗議の声を上げようとするが、それを見ながら皆クスクスと笑うだけだった。どうもからかわれていたらしい。それに気づいたユーノは、ため息とともにちょっとだけほっとしながら座りなおした。

 

「で、本題だ。君たちに頼みたいのは、彼の『無限書庫』での調べものに協力を、ということなんだ」

「ふ~ん『無限書庫』ねぇ……」

 

 そういってユーノの方を見るリーゼ姉妹。

 ユーノは、その視線に真っ直ぐ向き合い意志の強さを示した。これから始まるのは……知識との戦いとも呼ぶべきもの。

 こうして、ユーノの闘いも幕を開けた。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ユーノが『無限書庫』入りしたころ……。

 なのはたちは学校でフェイトの携帯のことを話していた。

 管理世界生まれの管理世界育ちのフェイトは携帯を持ってなかった。というか元からそんなものよりももっと高性能な連絡手段があるわけなので、そもそも必要だとすら考えてなかった。

 だが、この世界で過ごす以上必要かな? と考え、アリサやすずかにも意見を聞き、携帯を購入することになった。

 そんな訳で、学校が終わると四人とプレシア、リンディそしてアリシア、アルフ(子犬モード)も加わり大型の家電用品店に行くことにした。

 そこでフェイトが選んだのは黒いボディの物だった。

 

「有難う、母さん」

「ふふ、いいのよこれくらい。さぁ、友達が待ってるわ……」

「うん」

 

 そんな穏やかな時間が流れていく……。

 深い事件の合間に訪れる、そんな……穏やかなひと時だった――

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ――『無限書庫』。

 管理世界の全ての記録が収められている、超巨大データベース。

 管理局……いや、管理世界の叡智の結晶体。

 それがこの『無限書庫』。その名に恥じず、縦横無尽に書物が並べられている。上下にも長く天井や底などは見えないほどの広さだ。

 この『無限書庫』は整理や検索が困難な為、かなり……いや、相当に荒廃している。

 そのため、心無いものたちは『物置』などと揶揄する者もいる。

 そんな管理世界の記憶が収められている、管理世界の宇宙全てに通ずる頭脳とでも言うべき場所に、ユーノ・スクライアは足を踏み込んだ。

 

「ここが……『無限書庫』……」

「そう、ここが『無限書庫』。管理局の管理を受けている管理世界の全てが収められている場所……。それは言うなれば、世界の記憶が収められているといっても過言じゃない」

「ここは、いくつもの世界の歴史が眠る場所。あらゆる世界の全てがここにはある」

「とはいえ、そのほとんどが未整理のまま……」

「ここでの探し物は大変だよ~?」

「本来なら、チームを組んで年単位で検索――『調査』をするんだけど……」

 

 調べものなのに『調査』と来た、まるでここが一つの遺跡のような言い方だが……。それもあながち間違っていない。

 ここは、書庫でありながら――『未開拓エリア』なんて呼ばれている場所が存在する。

 管理局が発足した当時からずっとある、ここ『無限書庫』だが……。

 誰が、何の目的で、どうやって作ったのか。それらは謎だ。

 しかし――

 

「過去の歴史の調査は、僕らの一族の本業ですから。検索魔法も用意してきましたし……、たぶん大丈夫です」

「そっか。君は、〝スクライア〟の子だっけね……」

「私もロッテも、仕事があるからずっと、って訳にもいかないけど……なるべく手伝うよ」

「ありがとうございます」

 

 ユーノは、検索を開始した。

 

「さぁ、検索を始めよう……」

 

 その言葉を引き金に……翡翠の魔法陣が、ユーノの足元に展開された。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 ユーノが検索を始めたころ、なのはとフェイトは買い物から戻って来たエイミィと一緒に食材やら何やらをしまっていたのだが……。

 

「えっ、もう艦長たち行っちゃったの?」

「うん、『アースラ』に追加されるっていう新型武装が装備されたから、そのテスト航行だってアレックスたちと……母さんたちは別の用事でちょっと出かけてる」

「新型武装っていうと……『アルカンシェル』かぁー。あんな物騒な物、最後まで使わないで済むといいんだけどなぁ……」

「クロノ君も行っちゃいましたから……二人が戻ってくるまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」

「責任重大だねぇ~」

「それもまた物騒な……ま、そうそう緊急事態なんて起こるわけが…………」

 

 ウィィィ――ンッ!! その時リビングに鳴り響いた、緊急事態を告げるサイレン。

 どうやら、緊急事態というのは…………割とあっさり起こるものの様である。

 

 急いで指令室でオペレーションを開始するエイミィだが、どうやらヴォルケンリッターの現れた世界は「文化レベル〇」で人間は住んでいない『砂漠の世界』。確認されたヴォルケンリッターは、シグナムとザフィーラの二人。どうやら大型の魔導生物と交戦中、蒐集目的だろうと思われる。

 それにしても、戦うにはちょうどよい世界だが……あいにくと今現在クロノは不在だ。逃がさないために結界を張るにしても、その局員たちの到着は四十五分後……こういう時一番頼りになりそうなユーノも不在である。

 ユーノかクロノが残っていればもっと事態に対処しやすくなるのだが……二人が不在なら、仕方がない。

 こういう場合に取るべき手段は、とそう考えていたエイミィに――

 

「……エイミィ、私が行く」

「あたしもだ」

 

 ――アルフとフェイトがそう告げた。

 確かにこの状況なら、フェイトが出れば……いけるかもしれない。

 フェイトはシグナムと、アルフはザフィーラと、それぞれの決着をつけたい。その気持ちも汲んであげたい。

 そこまで考えて、エイミィはフェイトとアルフに出撃の要請を出した。

 

「うん、お願い!」

「うん!」

「おう!」

「よし……なのはちゃんはバックス、ここで待機を!」

「はい」

 

 そしてフェイトは自分の部屋に一度戻り、カートリッジのマガジンを掴み、彼女の愛機である『バルディッシュ』と共に現場へと急行する。

 

「行くよ……バルディッシュ」

【Yes, Sir.】

 

 ――フェイト、出撃。

 しかし、その時……フェイトとは別の存在が、その世界へと降り立とうとしていた。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 とある砂漠の世界で、シグナムは巨大な東洋の竜の様な姿の魔導生物を相手にしていた。

 

「ヴィータが、手古摺るわけだな……」

 

 思ったよりも強い相手に、シグナムは少々毒づくが……。この程度でやられていては、烈火の将の名が泣くというもの。

 そうして再びレヴァンティンを構え直し、反撃に出ようとするが……。

 

「グゥオオオッ!」

「ッ!?」

 

 頭の方ばかりに気を取られ過ぎていたせいか、尾の方に気が回っていなかった。尾より生える触手にからめとられてしまう。

 

「しまった……ッ!」

 

 魔獣はシグナムを締め付けたまま、鋭いナイフの如き尾を振り下ろし、シグナムを真っ二つにしようとするが――

 

「グッ……?」

「? なんだ……」

 

 ――その時。一筋の光が、シグナムの前に降り立ち……触手を切り離し、シグナムを開放した。

 

「何だ、あの光は……?」

 

 その光は、魔獣と向き合うようにシグナムと魔獣との間に降り立つと……だんだん人の形に近い姿へと変わり始める。

 そして、その光が晴れたとき――そこには、一人の銀色の巨人が立っていた。

 

「シュアッ!」

 

 その巨人は、魔獣と向き合うが……もう一度魔獣を見ると、突然何かに気づいたように構えを解く。

 そして、紫のストライプの姿から……今度は青い姿へと変わる。

 

「姿が……、変わった……?」

 

 魔獣も、その巨人がいきなり自らの姿を変えたことに驚き、警戒の色を強める。

 だが、巨人は〝戦うつもり〟がない。

 まるで幼子でも見ているかのような、慈愛の雰囲気を醸しているかのようにさえ感じられる。

 

「ホォアッ……。ハァァッ……」

 

 すると、巨人は自らの光を抱くかの如く、両手を胸の前に持ってきた後……その両手を上にあげる。万歳をするかのように上げたその腕の周りには、先ほど発生した光が掲げられるように集まりだす。

 それを右の掌に集める様にして前に突き出していき、それに合わせる様に左手を腰の横あたりに掌を上に向けたまま引き……前に出した掌から放たれる光のシャワーを魔獣に浴びせた。

 

「グゥオッ!?」

 

 魔獣はその光線に驚き、最初はそれを振り払おうとするが……だんだんとその動きは収まりまるで癒されているかの様な動きになる。

 そして、あれだけ暴れていた魔獣はおとなしくなり……まるで小動物のように丸まってしまう。

 

「グルル……ゥゥゥ」

 

 そこへ巨人は近づき、魔獣の負っている傷に掌を当て、傷を治していく。

 そうして完全に傷が治ると、魔獣はじゃれ付くように巨人にすり寄り……まるっきり子供のように甘え始める。

 それを巨人はそれを優しく受け、頭を優しく撫でる。

 そうして完全に落ち着きを取り戻した魔獣は、元の住処へと帰っていく。それを見送った巨人は、再び光となり今度は子供の姿に変わる。

 シグナムの見た限りでは、はやてとそう変わらない年齢だろうことが分かった。

 旅でもしていたのか、ローブのようなものを着ており……幼いながらもどこか一人前の雰囲気のようなものを醸し出している。

 その少年がシグナムの方を向いたとき、もう一つの光が降り立ち……そこにもう一人の少年が現れる。

 シグナムは、いったい目の前でないが起こっているのかがいまいち分かりかねており……。

 自分たちと出会ったときにはやてが気絶したときの気持ちはこんな感じだったのだろうか? とぼんやりそんなことを思っていた。

 そんなシグナムに、少年たちは近づいてきた。

 

「お姉さん、大丈夫ですか?」

 

 そう聞いてきた少年に対し、そういえば先ほどの巨人はこの子供なのだということを思い出し、助けてもらった例を述べる。

 

「あ、ああ。助かった……」

「それならよかったです」

 

 これでもかという程の穏やかな笑顔を浮かべる少年にシグナムは拍子抜けしてしまい、警戒を解く。

 

「ところで、お前たちはいったい……?」

 

 そう問いかけるシグナムに、二人は自分たちの名を名乗る。

 

「僕は由宇、秋宙由宇と言います」

「俺はアスカ、シンドウ・アスカだ」

「私は……シグナムだ」

 

 自己紹介をしたところで、由宇はシグナムが追っている怪我を見て「ちょっと失礼します」と言いながら手をかざして傷を治す。

 

「……凄いな、これは――しかし、腑に落ちないのだが……。これほどの力を持ちながら……なぜ、先ほどの敵を倒さなかったのだ?」

 

 ごくごく当たり前の質問だった。これほどの力を持ちながら、何故〝倒す〟選択肢を放棄したのか?

 その疑問に対して、由宇はこう答えた。

 

「それはですね……倒す必要なんてないから、ですよ」

「……強者に相手を倒さない理由など、聞くものではないのかもしれないな。確かに実力差があれば戦ってもあまり面白いものでは――「ああ、そういうことじゃないんです」……なに?」

「倒す必要がないっていうのは、べつにあの魔獣を倒したところでどうこうとかじゃなくて……ただ、倒したくなかったんですよ。見た感じからして、傷を負っていること、そのせいで気が立って暴れていたのは直ぐにわかりましたから。だから、倒さないことにしたんです。あの魔獣にも、命はあるから……」

「……そういうことだったのか」

「ええ、それに……どうやらお互いに傷ついたようですし、ここで終わりにしておいた方がいいと思って」

 

 どっちかが命に危機があるくらいまで戦ったらそれが一番危ないですし、とのたまう少年にシグナムは閉口した。

 こういう戦い方は、どうもシグナムやヴィータとはかなり対極にあるようで……どうにもコメントしづらい。

 そんな訳で、シグナムはただただ関心というか――畏敬に近いような感情を抱いていた。そんな中でシグナムがようやく絞り出した言葉は……。

 

「……何というか、斬新……だな…………」

 

 そんなコメントに由宇は「たははは……」と苦笑し、その横アスカは「うんうん」と頷いていた。

 そんな雰囲気で会話をしていた三人だったが……そこへ、一人の魔導師がやって来た。

 

「……! テスタロッサか……?」

「えっ……?」

 

 シグナムのその言葉に、一番驚いていたのは――由宇だった。

 そのまま、ものすごい勢いでシグナムの視線の先の方を振り返ると…………。

 

 ――そこにいたのは、彼が……ずっと、ずっと…………。

 

「フェイ……ト……?」

 

 ――会いたかった人だった。

 

 

 

「ユ、ウ…………?」

 

 

 

 ――待ち望んだ再会は、この時ついに……果たされたのだった…………。

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 フェイトは、エイミィに聞いた世界。つまり、シグナムがいるはずの世界に降り立った筈なのだが…………その世界は、妙に静かだった。

 

 アルフはザフィーラの方へと行ってしまっているので、フェイトは一人シグナムの姿を探した。

 

 しかし、どこにも姿が見当たらない。

 転移先を間違えたか? とも思ったが、あの時座標は間違えていなかったはずだ。

 そんなフェイトの視界に、先ほどシグナムが戦っていた魔獣がいた。だが、まったく暴れてない。

 どういうことなのだろう? そんな気持ちでとりあえずその魔獣のやって来た方向をそのまま逆に辿ると――

 ――そこには、シグナムがいた。そして、そこにはもう二人…………人がいた。

 片方は知らない人だった。

 新手の仲間だったら、戦いが不利になるかもしれないと思ったが……。

 そんな考えは、その隣の人の姿をとらえた瞬間に……あっさりと吹き飛んでしまった。

 

 ――そこに立っていたのは……。

 

「ユ、ウ…………?」

 

 ――ずっとずっと会いたかった人。伝えたいことが、たくさんある人…………。

 

「フェイ……ト…………?」

 

 名を呼ばれた瞬間、フェイトは既に走り出していた。

 

 

 

「ユウ!」

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 互いに駆け出し、お互いに抱きしめられた。

 

「……ただいま」

「うん……! おかえり……」

 

 再会の挨拶を交わし、由宇はフェイトをより強く抱きしめた。

 フェイトは、涙を流しながら由宇に顔を押し付ける様にして……そのぬくもりを、確かなものとして感じていた。

 

「約束……果たせた、かな……?」

「うん……!」

 

 由宇は、フェイトにそう聞き微笑んでもう一つ気になっていたことを聞いた。

 

「そうだフェイト……」

「……?」

 

 フェイトは少しだけ顔を上げ、不思議そうな表情を見せる。

 

「幸せに、なれた……? 僕は、君の家族――幸せを、守れたのかな?」

「うん……。ユウが、母さんとお姉ちゃんを助けてくれて……。もう一度、なのはやユーノ、クロノやリンディさん、エイミィに会えたから……。今、こうして、由宇が、帰ってきてくれたから……!」

 

 ――「私は、幸せになれたんだよ」と、フェイトは由宇にそう告げた。

 

「なら……よかったよ」

「ありがとう……。こんなのじゃ、全然足りないけど……でも、ありがとう…………」

「……うん。君を守れて、本当によかった…………」

 

 そうして、しばらく抱き合っていた二人は、完全に自分たちの空間を作りだしてしまっているが…………。

 横から遠慮がちに、忠告が入る。

 

「あのさ? せっかくの再会を邪魔して悪いんだけど……、ちょっといいかいお二人さん?」

「あ、ごめんアスカ……つい嬉しくて――「あーそっちじゃなくて」え……?」

「別にいいんだよ? その再会の感動シーンはむしろ推奨する。俺が言いたかったのは、そっちじゃなくて…………あのお姉さん、逃げちゃったけど――いいのか?」

「えっ……?」

「あっ……!」

 

 由宇は、純粋な疑問だったのだが……、どうもフェイトは違うらしい。

 由宇は何だかよく分からないが、フェイトは固まってしまった。

 

「フェイト?」

「……」

「???」

 

 どうしたんだろうか? と由宇が疑問に思う中、魔導師同士の戦闘は起こらないまま……ことは終わった。

 

 

 

 ――その十分後、ようやく硬直から脱したフェイトはとりあえずユウを連れて地球へと転移した。

 

 

 

 そして地球に戻った由宇は、家族と友人に――精一杯の喜びを込めて、「ただいま」を告げたのだった……!

 

 

 

 

 

 

【英・雄・凱・旋!!】

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?

今後も頑張って書いていきますので、よろしくお願いします。
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