ここから頑張ってA’sの完結まで駆け抜けていきますので、どうぞよろしくお願いします。
それでは本編をどうぞ!
とある次元世界にて、黄金の輝きを手にした由宇とコスモス。
厄災さえも払いのけた彼らに、一人の少女に迫る蝕みの闇が……彼らにも、牙を振るわんと迫りくる。
破滅の運命の時は……すぐそこまで迫りつつあり、どこまでも……どこまでも非常に、それぞれの心を傷つけてく。それはさながら、血反吐を吐きながら続けるマラソン。あるいは、〝ヤマアラシのジレンマ〟……と言い換えてもいいかもしれない。
だれかを守るための力は、どこまでも争いを呼び……。誰かのために何かを成さんとする力は、誰かを傷つけるだけにしか使われなくなってしまう。
何時か、その争いに終止符は打たれるときは来るのだろうか? 誰かと誰かをつなげることができるのだろうか?
その答えは、それを示すのは……。
誰かと誰かがつながったときに、気持ちを重ね合わせたときに、自分自身の限界を超えたときに、きっと……。
破滅の始まりを告げる胎動は終わりの時を告げ、全ての柵の終わりを告げる光の導きはこれからの始まりを告げる。
絡み合った運命の二本の螺旋の鎖は、柵の鎖を断ち切った者たちの手で、未来の鎖をこれからへと繋いでいく……。
× × ×
『海鳴市』 日時:十二月十二日・明け方ごろ――。
八神家のリビングにて、『闇の書』の守護騎士たちはこんな話をしていた。
「ねぇ……『闇の書』を完成させたら、はやては本当に幸せになれるんだよな……?」
「? どうしたんだヴィータ、今更そんな事を……」
赤毛の少女、「鉄槌の騎士」・ヴィータの問いかけに対し……桃髪のポニーテールの女性、「烈火の将」・シグナムはそう問い返した。さらにシグナムのその言葉に乗せる様に金髪の女性、「湖の騎士」・シャマルがヴィータにこういった。
「――『闇の書』の主は、〝大いなる力〟を得る――私達守護騎士が、一番よく知っていることの筈でしょう……?」
そう、自分たちが、〝一番知っていること〟。誰よりも〝知っているはずのこと〟。そこに疑問を抱く余地などはない、無いのだ。
だが、だがしかし……何かが、心の奥底に引っかかっている様な感じがしたのだ。その、何なのか分からない――抱く必要のない、抱く余地のない――その『疑念』に、苛立ちか……滞りに近いような感情を、ヴィータはその胸の奥に感じていた。
「そうだけど……、そうなんだけどさ……! それでも、何か……何か〝大事な事〟を忘れている気がするんだよ! あたしたちが覚えていなくちゃならない何かを……忘れちまっている気がするんだ……」
必死に何か自分の胸の内にある、何かさえ分からないが、確かにそこにいる者たちの心のどこかに〝確かにある〟そんな滞りを言葉に、事実に、しようしているそんなヴィータを見て、シグナムやシャマル、そんな彼女の隣についている「盾の守護獣」・ザフィーラもその何かについて考えを巡らせてみる。
だが、それでも、答えは出ない――否、出せなかったというべきだろうか。
その時、リビングの向こうにある彼女らの主の未だ眠っている寝室の方から、何かが〝倒れる〟かのような大きな物音がこの部屋全体に響き渡ったのだから。
× × ×
――寝室にて。
カーテンの隙間から差し込む朝日にまどろみの時の終わりを告げられ、一人の少女が目を覚ます。
八神はやて、齢九歳の少女である。彼女は、足が不自由ということもあって、学校には通っていないが魔法と出会い守護騎士たちと暮らしていても、彼女とてまだ子供。朝が来れば目を覚ますのは当然の道理であり、自然の摂理でもある。
そんな目を覚ました彼女が、初めに目にしたのは……このうちの末っ子のお気に入りであるウサギのぬいぐるみであった。それを見て、末っ子であるヴィータはトイレにでも行ったのかと思ったが……リビングの方から何か声が聞こえることから、すでに起きている年長組のシグナムやシャマル、あるいはあの律義な守護獣としての誇りを全うしているザフィーラとでお話しているのだろうということを知り、早速自分も〝家族〟の下へと向かおうとした――その時だ。
――ドクンッ!
「……ッ…………ッッ!? …………ぅぅっ!!」
突然襲ってきた、胸から発せられる謎の痛み。
自分の根底が揺らされているかのような、そんな痛み。外的な痛みとは違う、体の奥底から湧き上がるそれは、胸の奥にある何か白い輝きを宿した丸いガラス玉のようなものが胎動している様なイメージを彼女に与えた。
それが、自分を……自分の『命』を奥底から揺るがしている様な感じがする。
身体は硬直し、しかし力はだんだんと抜けていくような矛盾した感覚が彼女を襲う。動かない体から力が抜け、前に倒れそうになるのを必死に止めようとする本能のまま……動かない腕をベッドの隣に置いてある車椅子の方に伸ばす。しかしその車椅子は、その瞬間に再び少女を襲った『胎動』……『動機』によって、伸ばされる途中で再び硬直しかけてしまった手に込められた力で倒れてしまう。
ガダンッ! と音を立てて、倒れた車椅子と同調するように……彼女の体も、床に転がりはしないまでも、ベッドのわきに大きくはみ出すような形で力が抜け、視界の暗転と共に体から意識が抜け落ちると、その華奢な体は倒れた……。
「……て! やて…………!!」
(ヴィー……タ…………?)
彼女が最後に聞いたのは、彼女を姉のように慕う、可愛い我が家の末っ子の心配そうな声で、自身の名を叫ぶように呼ぶ声だった…………。
彼女の命の灯を、貪り尽くさんとする『闇』の胎動。彼女の破滅の定めが……ついに、表立ってその姿を見せつけながら、動き出した……。
それはまるで、生ぬるい夢などは終わりだと告げるような……冷たく、残酷な、一人の少女の運命を、これまで目をそらしていた〝真実〟をまざまざと見せつけるような……始まりの鐘の音だった…………。
× × ×
それから数時間の後、海鳴大学付属病院の一室にて――。
八神はやては、目を覚ました。
彼女は〝家族〟の顔を見て、安堵の笑みを浮かべた。
その後彼女の主治医の石田医師に先ほどの急な痛みについての説明がなされる。石田医師の説明によると、急な発作だったが今は大丈夫――とのことで、はやてはホッとし……一緒に来ていたシグナムやシャマル、そしてヴィータには釣っただけだとかめまいだとか言い訳を重ねて……早速家に帰ろうとするが、石田医師によりそれは止められた。
せっかくだから、検査ついでにもう少しゆっくりお話でもしようと誘われはやてはそれを快く受けた。しかし、それを告げた石田医師の表情が若干の曇りを帯びたのを、はやてとヴィータは気づかなかったが……シグナムとシャマルはしかと感じ取っており、その後部屋の外ではやての入院についてのことを告げられてもなんとなくそうなるのだろうということは、誠に遺憾ではあるが、…………それは確かに、予期していた通りではあった。
「入院……ですか」
「はい。はやてちゃんの今回の発作ですが……少なくとも本人が言うような軽いものではないと思います。勿論、今回の検査では取り立てて急激に悪化している、とは言えませんが……。少なくとも、麻痺の進行は確実に深まりつつあるかと」
「…………」
石田医師は、今後は……というよりも今から入院をしてより厳重な治療を始めた方がいいという話をシグナム達に告げたが――シグナム達の思いは、別のところになった。
それは、この世界の理を外れる力を知っており、尚且つそれによってはやての体に迫りつつある『死』を……感じ取っているからだ。
彼女の幼い体を蝕み続ける、〝呪い〟。
それは、自分たちの存在の根源である――『闇の書』が、主であるはやてのリンカーコアを利用して自分たちの存在を維持している為、未だに未熟なままのはやてのリンカーコアを食いつぶすかのようにして、はやての体を蝕んでいる。
それはまさに――『呪い』。
だから、はやてを『闇の書』の〝真の主〟としての覚醒を経たとき……この柵の定めからはやてを解き放てるのだ……と、シグナム達は、『闇の書』の完成を目指し密かに暗躍し、魔導士たちの魔力を〝蒐集〟し、『闇の書』の項を集めてきた。
――だがしかし、はやての命は……彼女らの想像よりも〝早く〟蝕まれつつあった。
このままでは……はやての命が、一年を待たずして尽きてしまう。
次第氏の話は、シグナム達にはもはやひどく遠い事の様に聞こえる。そう、これはこの星の――この世界の技術では、〝絶対に〟どうしようもないのだ……。
今自分達が動かなくては……はやては本当に死んでしまう。
シグナム達ははやてに、入院の理由云々をぼかしぼかしに伝え、友人からのメール等もしっかりと受け取り、伝えに来ると言ってゆっくりとご養生を――と、伝えると……はやてはまだ少し残念そうにしていたが、ヴィータが毎日お見舞いに来るというと、はやてはようやく笑顔を取り戻し、それを見た彼女らはホッとし……そして、決めた。
これからの全てを……〝蒐集〟にかけるということを…………。
――全ては……、優しき我らの主の為に……。
× × ×
はやてが入院したことは、彼女の友達であるすずかに伝わり、なのはたちにも伝わっており……彼女らは皆ではやてのお見舞いに行くことを決めた。しかし、アポなしで……というのも頂けないので、「早く元気になってね」の旗をなのは、フェイト、アリサ、すずか、由宇の五人で持った写真を送った。
更に、その知らせはなのはを通じてユーノに。由宇を通じて、さらにアスカへと伝わっていたった。
アスカはその知らせを聞き、いち早くはやての下を訪れた。
はやての入院している一室に、飛び込んできたのはアスカにはやてはすごく驚いた。
「はやて!」
「あ、アスカ君……?」
「倒れたって聞いて、飛んできたんだけど……大丈夫なのか!?」
「あ、うん……そんな大したことあらへんよ? 皆大げさなんよ……」
「ホントか? 無理してねぇよな?」
「もぉ……アスカ君までそんなこと言うん?」
はやては呆れたようにしてアスカにそういった。アスカは悪びれもせず、そのまま「心配してたんだぞ~」とか軽いような、しかし温かい言葉の調子ではやてにそう言った。
はやてはそんなアスカの様子がおかしいのか、クスクスと笑いながら……とても楽しそうにしていた。
「ふふふ……」
「まぁ、俺ははやてを守るって、約束したし? 大好きな友達のことが心配なわけよ」
「もぉ、前もゆーたけど、ほめてもなんもでーへんよ?」
「その代金は、はやてが笑ってるだけでいいよ」
「……そんなことばかりゆーてると、将来女ったらしになるよー?」
「大丈夫……これでも結構一途だから」
「そーなん?」
「勿論」
「そっか……ふふふ」
何だかとても甘い空気が、この場に流れていた。
「……絶対、はやてのピンチには駆けつけるよ。でもはやては強いからなぁ……俺の助けなんていらないかな?」
「別に……私は強くなんて……」
「ならもっと、頼れよ。強がりなんて、要らないぜ……?」
「……何でも、分かってまうんやね……」
「……別に分かるわけじゃない。ただ、感じるのさ……」
「……ホント、キザやねぇ」
「ははは」
でも、決して不快ではない。寧ろ和やかだ……。まどろみの時が、この街にそびえる病院の一室にて……とても穏やかなままに、流れていたのだった。
聖夜近し夕暮れの、一時のまどろみの中に……安らかな心の安らぎが……訪れていた。
× × ×
主のまどろみの時の頃、八神家では……シグナムとシャマルが少々こまったことになってしまったことについて念話で話していた。
シグナムは、とある次元世界で〝蒐集〟の途中だったが、はやての携帯に送られてきたメールの件でシャマルからの念話を受けた。
そのメールの内容とは――。
「シグナム、大変なの! この前戦った魔導師の子供たちいたでしょ? あの子たち、すずかちゃんのお友達だったのよ……!」
「……テスタロッサと、タカマチ……とか言ったか? あの二人か? それとも、少年二人か、この間現れた方の少年二人か?」
「なのはちゃんと、テスタロッサちゃん。後この間の次元世界に現れた方の男の子、黒髪の方ね。金髪の子の方は映ってなかったわ……でも、管理局の方の魔導師がはやてちゃんのところに来ちゃうの! どうしよう……どうしよう!」
「いや、落ち着けシャマル。幸い、今の主はやての魔力資質は検査をいくつか行ってやっと観測できる程度だ。少なくとも、あの二人が来たくらいではバレはしない。二人とも純粋な戦闘タイプだったからな……。まぁ、あの漆黒の執務官と翡翠の魔導師の二人だったらバレるかもしれんが……あの二人は映ってはいなかったのだろう?」
「え、えぇ……そうだけど…………」
「なら、我らが奴らと会わなければ済むことだ。鉢合わせることが無ければ、少なくとも主が魔導師だ……などということはバレはしない」
「ええ……」
シグナムの言葉に、どうにか冷静さを取り戻すシャマル。シグナムは、今とある次元世界にいる。となれば、今根回しに動けるのはシャマルだけ、となれば……。
「あとはシャマル、石田先生と主はやてに我らの名を出さぬようにと上手く伝えておいてくれ」
「うん……。でもはやてちゃん、変に思わないかしら……」
「仕方あるまい、ともかくそこら辺の根回しを頼む。今は私たちは今すぐにはそちらに帰れん。シャマル、任せたぞ」
「ええ……、分かったわ」
そこで一旦交信は切れるが……シグナムは、なんだか胸騒ぎを感じていた。
――光の巨人の出現……。
――はやての容態の悪化……。
――以前戦った者たちと、はやての邂逅……。
まるで、何かが……運命の歯車を無理やりに推し進めているかのような感覚さえ感じる。一体、これからどうなるのか……。それさえも分からない。
だが、それが何であろうが……邪魔はさせない……決して。
優しき主との〝これから〟を、過ごすために……何人たりとも、自分たちの進む道を阻ませは、しない……!
× × ×
シグナムのいる次元世界とはまた別の次元世界で――。
守護騎士の一人、「鉄槌の騎士」・ヴィータが額から血を流しながら、彼女の相棒である紅の鉄槌――「
転んでしまった彼女だが、満身創痍な自身の体に鞭を打ち……無理やりにでも前に進もうとする彼女のその姿は、もはや執念とすらいえないような……重く深い彼女自身の『意志』が現れていた。
「痛くない……! こんなのちっとも痛くない! 昔とは、もう違うんだ……! 帰ったらきっと……あったかいお風呂と、はやてのご飯が待ってんだ……。 優しいはやてが……ニコニコ待っててくれるんだ!! そうだ……あたしはすっげぇ〝幸せ〟なんだっ!! だからこんなの…………全然、痛くねぇぇぇェェェッッッ!!!!」
その叫びと共に、手に持つ「アイゼン」を振り上げ……目の前にいる大型の魔導生物たちへと向かって行く。
「(あたしの記憶の片隅にある〝何か〟が……何かが違うって告げてる――でも!)今は、こうするしかねぇんだ! はやてが、笑ってくれなくなるのも、はやてが死んじゃったりしたら……嫌だもんなぁっ!? だから……やるよ、アイゼン!!」
【explosion.】
ヴィータの感情の激高と呼応するように、アイゼンの形が変わる。
紅の騎士服を纏うヴィータの手に握られている今のアイゼンのその姿――まさに、「鉄槌」。そのまま、飛翔し……上からまさに叩き潰すようにして攻撃を仕掛けるヴィータの姿は、まさに『鉄槌の騎士』。
「ぶっちぬけぇぇぇっっっ!!!!!!」
涙と、怒りと、悲しみと、そしてどこまでも一途に主を慕い、主の為に戦う彼女の愛が今、……炸裂する。
× × × 『行間 一』
それぞれの想いを乗せ、動き出す運命の時。
残酷なまでにそれぞれの「想い」を揺らし続けた事件は、今まさに……最終楽章へと、はいっていく。
はるか遠い過去から続いて来た因縁が今、ある一つの決着を迎えんとする。
誰もが苦しみを抱いて来たこの物語の終わりを告げる鐘の音は、死者を迎え入れんとする「
来るべき聖夜の闇の中に、楽曲の前奏となる
――――しかし未だ真実は……どこまでも深い、闇の中に…………。
× × ×
私立聖祥大付属小学校の三年一組の教室にて――。
その教室の前の方に集まった五人の子供たちは、新しい友人へのお見舞いについて話し合っていた。
「何を持っていったらいいかなぁ?」
茶髪の少女――高町なのはがそういうと、濃いめの金髪の少女――アリサ・バニングスがこう提案した。
「うーん。なのはなら、『翠屋』のケーキ……とか?」
「あ、それいいかも」
それを聞き、紫がかった黒髪の少女――月村すずかがその提案に賛成する。
「うん、なのはの家のケーキなら、きっとはやても喜ぶよ」
「だといいなぁ~」
「あとは僕らが何を持っていくか、だけど……」
すずかと同じくアリサの案に賛成したのは、明るい金髪を二つに結わえたツインテールの少女――フェイト・テスタロッサ。そして、彼女の隣にいた黒髪の少年――秋宙由宇が、自分たちは何にしようかと再度問いかける。
「そうねぇ~」
そうして再び考え込む一同。すると、その時由宇の携帯が振動する。開いてみると、そこには友人であるアスカからのメールであった。
書いてあった内容は、はやてのお見舞いに先に行ったということが書いてあり、彼は何冊かの本を持っていたとのことだ。その知らせに、由宇はアスカになのはやすずかたちと自分も後でお見舞いに行くことを書いて返信する。
本を持って行こうかという案に関しては最初の考えの家に有ったことは有ったのだが、アスカが先に持って行ったとなるとあ被ることになってしまうし、いくら入院中とはいえ十冊も二十冊も渡されえてはやても困るだろうし、手持ちの荷物が多くなっても退院の時に邪魔になる。
となると、どうするかと由宇は考えていたのだが、そのことを聞いた皆は……ならばいっそのこと「何か、手作りのものを」……ということになったのだが、アリサが「それならば……」と――。
「そうだ、なら一回お見舞いに行ったあと、クリスマスの日にサプライズを用意するっていうのはどうかしら?」
「うわぁ……! 素敵だね、アリサちゃん!」
「うん! 凄く良いと思う!」
「はやてもきっと喜ぶよ……!」
「うん、いいと思う。なら、最初のお見舞いで、なのはの家のケーキを持って行って……それからはやてにクリスマスプレゼント持って行ってあげようか」
そうしよう! と、一同は一斉に賛成し左側今日から準備に取り掛かるのだった。
聖夜は、近い。
しかし、この考えが、新たな……いや、これまで避けていたすれ違いの火種をさらに大きくし、地獄の豪炎にさえ匹敵するほどの動乱の口火切りになるなど――誰一人として、予想だにするはずもなかった……。
× × ×
そして、その日の放課後……海鳴大学付属病院にて――。
「「「こんにちは~」」」
「いらっしゃい」
一同ははやての病室を訪れていた。
「初めまして、八神はやてです」
「初めまして、アリサ・バニングスよ」
「初めまして、高町なのはです」
「初めまして、フェイト・テスタロッサです……」
「秋宙由宇です、初めまして」
一同はそれぞれに挨拶し、アリサがまずはやてに花束を渡し、続いてなのはがケーキをはやてに送る。はやてはとてもうれしそうな表情でそれらを受けとり、大切そうに花束を花瓶に生け……ケーキをベッドの脇の机の上に置いた。
「そのケーキ、家のお母さんが作ったんだ。うちは『翠屋』っていう喫茶店やってて……そこのケーキなの」
「へー、凄いんやねぇ……!」
「そうなの、なのはのお母さんの桃子さんのお菓子はすっごく美味しいのよ~?」
「うん、本当に美味しいんだよ。なんていうか、心がポカポカするような味なんだ~」
「へぇー……! 退院したらなのはちゃんのお家のお店行ってたいなぁ……」
「うん! ぜひ来て見て、はやてちゃん!」
なのはがはやてに笑顔でそういうと、はやても嬉しそうな顔で「ほんなら是非、行かせてもらいますぅ」と、言った。
それからしばしの間……病室には和やかな時が、流れた。
しかし、その穏やかなひと時の間にも、心穏やかならざる者が一人、いた。
「……、」
「…………何してるんですか、シャマルさん?」
「ひゃうっ!? い、石田先生……」
そう、病室の外でその中の様子をただならぬ様子で見守っていた(?)不審者が一人いた。彼女の名はシャマル、ヴォルケンリッターの一人にして、「湖の騎士」の名を冠する女騎士である。
「そんなに中のはやてちゃんが心配なんでしたら、いっそ中に入って一緒に話したらどうです?」
「い、いや、その……、ちょっとそういうわけにもいかなくて……」
「はぁ……そうなんですか? そういうのも禁句……の範疇、ということ……なんですか?」
「いや、まぁ……その…………」
いまいち事情が呑み込めない石田医師だが、シャマルのその様子を見ているとなんだかとても「可愛い」と思う心のほうが強くなってしまうのだから不思議である。
病室の前にコートにサングラス姿で立っている美女……というのも、何とも奇妙なものだが……シャマルがやると不思議と愛嬌があるというか、二十歳かそこらの女性なのにこういうところがなんともチャーミングで、見ていて飽きないと思わせるのは、彼女の持つ独特の人柄故だと言えよう……。
石田医師は少し苦笑すると、ちょっとお話でもしませんか? と言って、シャマルをロビーの方まで連れていくことにした。この場合は、あまり深く詮索することはよいとは言えないだろうことは、彼女たちがはやてと過ごしてきたこの半年余りの時間を誰よりも傍で見てきた石田医師自身が一番よく分かっている。
それならば、彼女らにも、彼女らなりの事情があるのだろうと、彼女は今しばし見守る姿勢に徹するのだった。
それから、ロビーに移動した二人の会話は自然と……はやての容態についての話の方へと向かって行った。石田医師も、何故かは知らないが、なんだか医療の心得があるかのようなシャマルにケアを頼むのはやぶさかではない。
今のはやてには、誰よりも何よりも、〝家族〟の支えが必要だ。
危機を救うヒーローでは、日常の心をまだ癒せないだろう。彼女のそばには、まだそういう人はいないから。
だからこそ、普段から傍で支えていてくれる〝家族が〟、幼いながらも聡明で達観居ている彼女――はやて自身の『心のよりどころ』となる存在が、何よりも必要不可欠だ。緘黙なシグナムや、はやてと姉妹のように仲のいいヴィータ。そして、皆を優しく見守るはやてとは待った違った面の母性をのぞかせるシャマル。そしてそれらを厳粛に見守り続ける……それこそ、何とも奇妙だが――〝お父さん〟のような……ザフィーラも加わってこそ、まさに今の「八神家」であると言えよう。
だから、石田医師は、あまり多くは語らずに……はやてに残された時間は少ないけれども、それでも傍で支えていてあげてほしいという意味を込めてシャマルにこういった。
「支えてあげてくださいね、今のはやてちゃんにはきっと……、シャマルさんたちの助けが必要ですから……」
石田医師のその言葉に、シャマルは少し声を詰まらせつつも、瞳に溜まる優しき心の故の雫に……瞳を潤ませながら、しっかりとした意志の下で、
「…………はい……っ!」
と、そう答えた……。
それぞれの想いは、己が誰よりも大切の思う人の為に……。
その思いがぶつかり、火を散らし……そしてまた、どこまでも歪んでしまった悲しみの中に飲み込まれていく。
――その連鎖を断ち切る力は、一体何なのだろうか?
溢れんばかりの『愛』か、揺るがない鋼の『意志』か、あるいはすべてを蹴散らす無敵の『強さ』か、全てを思いやる『優しさ』か、貫き通すための心の『勇気』か、それとも……それらすべてなのか――。
やはり答えは、未だに闇の中に……。
× × × 『行間 二』
聖夜迫る。
人々の心を躍らせる日が迫る中で、順に明かされていく真実。
悲しき魔導書の呪い。
主を慕う騎士たちの心。
救いたいと願う心。
浮上する真実。
やり抜かなければならないという信念。
その信念の根底を曇らせる、呪いゆえの忘却。
そしてそれを解き明かす、無限の叡智。
見つけ出された鍵。
その鍵が紡ぐ、新たな可能性。
そしてすべてを救いたいと願う、光の祈り。
全てが、重なり……悲しき別れの、運命を……どこまで、変えられるか……。
その答えは、彼ら彼女らの――
――意志の力が、示していくのだ。
前に立つ、天使と閃光。
後ろに立つ、漆黒の戦士と翡翠の守護者。
その魔導師たちを支える、光の使者たち。
そしてその重いは……夜空統べる王の騎士たちにも、おのずと伝わるように…………思いを伝えられるまで、決して――折れるわけには、行かない。歩みを止めず、どこまでも進み続ける彼ら彼女らの想いは、世界さえも変えていく。
さあ、始めよう。
どこまでも、悲しき戦いを。
しかし、どこまでも優しき……戦いを――
――決戦の時、
× × ×
十二月二十四日、クリスマス。PM_04:50_海鳴大学付属病院にて――。
本日は、クリスマス。
街も人も、心を躍らせる日。あちらこちらで、家族連れやカップルがキラキラと魔法のような幻想的なイルミネーションの中を行きかっている。その表情は、皆とても幸せだということを示唆していて……今この世界全部が浮かれて踊ってしまっているかの様だ。
そして、ここにも……幸せを友人に届けんとする、子供たちの姿が……あった。
海鳴大学附属病院、八神はやての病室内にて――。
「「「こんにちは~!」」」
なのはたち四人の少女と、由宇とアスカ(由宇の友人ということであっさり輪に入った。ここら辺は彼の友好的な性格と、人の中に入っていく度量が成せる業でもある)の二人の少年が、友人である八神はやての病室を訪れた。
「どうぞ~」
部屋の主も、聞こえてきた声に朗らかな返事を返し、彼女らを病室へと招き入れる……。だが、それは――
「うわぁ~! 今日は皆さんお揃いですか?」
「ホントだぁ」
「お邪魔しま~す」
「お邪魔します……」
「こんにちは」
「おっす!」
――ある意味で、互いの保っていた均衡を……図らずして崩壊させる結果となってしまう。
ガララッ、という部屋のドアを開ける音はさながら……その壁の崩壊を告げている様であり、対峙した騎士と魔導師、そして光の使者を……驚きで固まらせる。
――――『!?』
それは、ほんの些細な出来事。
されど、崩壊に等しい……互いにとっての大打撃と、なった。
にこやかに交される、アリサとすずかの「サプライズプレゼント~!」の声。
それらを笑顔で受け取るはやての、非常に嬉しそうでにこやかな、お礼の声。
同じ病室内で流れる、まったくもって対極の空気。
張り詰めた緊張の様なものが……事情を知る者たちの背に、走る
交わされる、視線。
睨むような、目線。
楽しいはずのひと時は、表面を取り繕っただけの……されど互いの心は確かにある一人へと向けられたとても暖かいものであるような――殺伐とした、されど思いやりを忘れない……なんとも奇妙なものとなった……。
サプライズ、実行。
そして、驚き……驚かされる。
まさに、
そして、始まる――
測らずして始まった、それぞれの想いを掛けた戦いが――始まる。
× × ×
病院の屋上に佇む、人影八つ。
聖夜の寒空の下に、終結せしめる彼ら彼女らは……戦うことを、選び取ることになる。
悲しき戦いが、今始まる。
「はやてちゃんが…………危ない?」
「どういうこと、ですか…………?」
「……主の体は、『闇の書』によって蝕まれつつあるのだ……。主の未熟なリンカーコアを『闇の書』が食らい尽くそうとしてしまっている。だから、書の完成させることで、主が〝真の『闇の書』の主〟として覚醒を経ることでその蝕みは止まる……後、ほんのわずかなのだ……だから、邪魔は――させんっ!」
シグナムは、彼女のデバイスである『レヴァンティン』を構える。力づくでも、決して管理局に情報を伝えさせない気だ。
なのはとフェイト、由宇とアスカは、必死に戦わない選択をするために言葉を紡ぐ。
「待って、私たちは……!」
しかし、なのはが出した言葉も、フェイトが紡ごうとした言葉も、由宇とアスカの言葉も発せられぬ内に、紅の鉄槌がその言葉を阻む。
なのははとっさの襲撃にシールドを張り、同にか直撃は防いだものの……威力そのものは防ぎきれず、その場から吹き飛ばされ屋上のフェンスに体を叩き付けられてしまう。
「邪魔……すんなよ…………!」
「ヴィータ、ちゃん……」
「邪魔すんじゃねぇよ……。あと少し、後ほんの少しで……はやての笑顔を、取り戻せるんだ。ずっと……頑張って来たんだ。必死にやって来たんだ……。あと少し、あと少しなんだから…………邪魔、すんなぁぁぁぁぁぁああああああっっっ!!」
怒りと、何故ここで……という滞りと、悲しみがごちゃ混ぜになった表情で、ヴィータは涙を迸らせつつ、なのはたちへ向けて怒鳴るように、そして彼女らの感じてきた理不尽に対しての思いを吐き出すように叫ぶ。
ヴィータの足元に紅の魔法陣が浮かび、ヴィータの姿を「鉄槌の騎士」のそれへと変える。
「……この辺り一帯に、私の張れる最大の通信阻害、そして転移阻害の結界を張ったわ。貴方たちは、決して……逃がさない」
「主のことを、管理局に知らされては困るのだ……。だから、決して逃がさん」
「待ってくれ! 何も戦うこたぁねぇだろうが!?」
「そうだよ、僕らが今ここで戦ったって……それに、『闇の書』が完成したらはやては――」
アスカと由宇の言葉も、今のヴォルケンリッターの面々には届きはしない。
「――完成すると、だと? それこそ我らにとっては愚問だ。我ら、『闇の書』の守護を司りし者……守護騎士・ヴォルケンリッター。完成したらどうなるか、は……我らが誰よりもよく知っている!」
「そうだ、テメェらなんて……はなっから、およびじゃねぇんだ!」
シグナムが当たり前のことを提示する。ヴィータは叫ぶ。
――邪魔をするな!! と。
しかし……、
「だったら、なんで『闇の書』なんて呼ぶの!? どうして、〝本当の名前〟で……呼んであげないの!?」
なのはもヴィータたちへ向けて叫ぶ。
「……〝本当の、名前〟…………?」
「そうだよ! ユーノくんが言ってたもん! 『闇の書』は、本当の名前じゃないって!!」
「何、言ってやがる……?」
ヴィータはそう否定しようとするが、心のどこかに感じていた引っかかりが今……探し求めていたもやもやとした感情の答えへと繋がったような感覚が、彼女に沸き起こる。まるで、目の前の『敵』が言っていることが…………有りえないことだが、絶対にあってはならないことだが――。
それがまるで、真実であるというかのように……心の底から何かが湧き上がってくる。
魂に沁みついた記憶だとでも言うのだろうか? 守護騎士たちも、少し動揺というより……その引っかかりの疑念に対して、彼女らは……自分達自身のその心の訴えかけの『真意』に、迷っていたのだ……。
だが、その時さらなる襲撃者が……その場に現れ――場の流れを攫って行く。
事を計っていたのは、何もこの場にいる者たちだけではなかった。
もっと大きな流れと、過去から続く因縁を背負いし……悲しき〝復讐〟もまた、物語の一幕に組み込まれていたことに気づいたが……それはもう、遅すぎる知覚であった。
蝕みの時は、ついに……破滅への始まりへと、変わる。
――〝闇〟の目覚めは、近い……。
× × ×
次回、『闇に染まった夜天 ――ミッドナイト――』
いかがでしたか?
今回は日常のシーンが微妙に途切れ途切れになっているかのような感じがありましたが、どうでしたでしょうか。少し不自然でしたでしょうか?
もっと文才が欲しい今日この頃です。
さて、次回よりA’sも大詰め……他の小説もだんだんと大詰めにかかってきましたし、それぞれの章を完成させられるように頑張っていきます。
では次回またお会いしましょう。