なのはとフェイトの対話と、主人公とフェイトの心の中に迫ってみました。
由宇とコスモスがバルタン星人との対話を終えて暫く経ったある日のこと。
その夜、海鳴市の街中にて……。
桜色と金色の二つの閃光がぶつかり合っていた。
***
「目的があるなら、競争になったりぶつかったりするのも仕方がないかもしれない……。
でも、何も知らないままぶつかり合うのは嫌だ!私も言うよ……だから教えて。
なんで……どうして、ジュエルシードを必要なのか」
「……、」
ぶつかり合う少女たち。
桜色の閃光を放つ方の少女、高町なのはが金色の閃光を放つ少女フェイト・テスタロッサにそう呼びかける。
しかし、彼女たちは……。まだ、互いの名前すら認識していない。
しかし、なのはは金色の少女に呼びかけ続ける。
自分の〝戦う理由〟を……。そして、自分の気持ちを……。
「私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探しものだから……。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通り集めないといけないから。
お手伝いをするようになったのは本当に偶然だったけど……。
今は自分の意志でジュエルシードを集めてる。
自分の暮らしている町に、そしてそこにいる……自分の大切な人たちに危険が降りかかったりしたら嫌だから。
これが―――――私の理由」
金色の少女は迷う。
目の前の少女の……。先ほど名乗っていた名は、何と言っていただろうか?
名前なんて、覚えなくてもいいと思った。
(だって、彼女は――――私の敵だから)
ジュエルシードという、互いの目的に必要で……尚且つ被ってしまうものを奪い合う相手だから……。
そのはずなのに……。
でも、目の前の少女は真っ直ぐに此方を見ている。
そう、この前会った……。あの少年と同じように。
どこまでも真っ直ぐに見ている。真っ向から、ぶつかってくる……。
この少女に対して、自分はどう答えるべきなんだろうか……。
これまでなら、切り捨てれば済むと思ってた。
だって、自分にとってあの人の笑顔を取り戻すことが何よりもしたいことだから。
それなのに……。
少女は迷う。
この自分に向けられる敵意とはまた違う、真っ直ぐな感情を前にして……何と答えればいいのかを……。
「――――――私は……」
迷う少女は、自分の何を語ろうと、したのか……。
彼女にすら、それは理解していない。
でも、それでも。彼女の口は開きかけた。
「フェイト! 答えなくていい!!」
その口から出されるかもしれない言葉が、彼女の使い魔――――アルフによって遮られる。
「ジュエルシードを持って帰るんだろう!?」
アルフの言葉が、彼女の目的を再び心に浮き上がらせる。
「優しくしてくれる人たちのトコで甘ったれてぬくぬくと暮らしてるようなガキンチョになんかに………何も教えなくていい!!
あたしたちの最優先事項は…。ジュエルシードの捕獲だよ!」
この言葉に、金色の少女。フェイトは決めた。
自分の目的を果たすために、戦うことを……。口を閉ざし、心を閉ざし、目の前の〝敵〟に刃を向けることを。
こうして、二人は再びぶつかり合う。
互いの進む道に立ちふさがる相手と戦う。
それは、決して彼女たちの望んだものでは無いはずなのに……。
しかし、その時。
――――ドクンッ――――
「「!」」
まるで、ぶつかり合う事を決めた彼女たちに呼応する様に、ジュエルシードが胎動する。
それを受けて二人の意識がジュエルシードへと集中する。
先に動いたのはフェイトだった。
それを追って、なのはもジュエルシードのもとへ向かう。
二人の杖型に変形しているデバイス―――――
なのはの『レイジングハート』
フェイトの『バルディッシュ』
―――――その二つのデバイスが、ぶつかり合う。
凄まじい衝撃が二人の少女のデバイスから沸き起こる。
「……っっ…………ッ!」
「……っく…………ッ!」
二つのデバイスがジュエルシードを挟み、交差する。
そのぶつかり合いの中で、ジュエルシードの胎動が大きくなり、輝きを増し……。
ジュエルシードは、その凄まじい輝きを解き放ち始める――――――
ピシッ……ビキビキッ!!
「!!」 「……ッ!!」
カッ!! ドオンッ!!
――――――その光が放たれた瞬間、二人の杖に亀裂が入り……。
辺り一帯を吹き飛ばすほどの衝撃波が――――彼女たちを襲ったのだった……。
「きゃああッ!!」
「……ッ!!」
吹き飛ばされる二人。
それを見て二人の名を叫ぶユーノとアルフ。
「なのは……っ!!」
「フェイトっ!!」
空に伸びる光の柱を発生させるほどのエネルギーを開放したジュエルシードは、いまだに胎動を……止めていないのだった。
ドクンッ ドクンッ
***
スサマジイエネルギーダ……。
コレヲ、ワレラノカテトスルノダ。
……?
アレハナンダ……?
上空から彼女たちの戦いを見ていた存在がいた。
自分たちでは使えないそれを、使える者たちが……自分たちの使いやすい状態にするのを待っている。
しかし、彼らは……別のことに興味を抱くこととなる。
***
凄まじい爆発の後、その場にはジュエルシードの胎動音だけが鳴り響いていた。
吹き飛ばされた二人の少女は、どちらとも無事ではある。
しかし、衝撃から身を守ったフェイトに対して、なのはは防御が間に合わずに真正面から衝撃を受けてしまい……壁に激突してしまった。
バリアジャケットを身にまとっているため怪我も大したことはないが、思ったよりもダメージが大きかったため、行動不能に陥ってしまった。
なのは程ダメージを受けなかったフェイトは、まず傷ついてしまった自分のデバイスである『バルディッシュ』に視線を落とす。
酷い状態だ、自分の相棒である彼はかなりのダメージを受けている。これ以上酷使するわけにはいかない。
「ごめん……戻って、バルディッシュ」
【Yes,Sir】
バルディッシュは、フェイトの気遣いを受け取りクレイブモードからスタンバイモードの宝石のような状態に戻り、フェイトの右手の甲に装着される。
それを確認したフェイトはふわり、と地面に降り未だ半覚醒状態で今に暴走しかねないジュエルシードを見据える。
「っ……!」
そして彼女は……。今にも暴走しかねないそれに向かい駆け出し始める。
「フェイト!?」
アルフの声を聞いても立ち止まろうとはせずに、彼女は……その幼い両手に未だに発行を続ける青き宝石を握りこむと、あろうことかそれを―――なんと……その手で、ジュエルシードの暴走を抑え込み始めたのだった……。
***
その戦いを、二人の少女の信念のぶつかり合いを……。見ていた少年がいた……。
「あれは……。なのはとフェイト…? どうして……!?」
止めなくてはならない。
そう思い、変身して止めに入ろうとした……。
だが、コスモスがそれを止めた。
―――――ユウ。あれは、彼女たちの信念のぶつかり合い。我々が軽々しく手を出してはいけない。
「でも……っ!」
あのままでは、ただの殺し合いの様ではないか……。
二人が戦うことなんて無い。
傷つけ合ってほしくなんて無い。
だが、その時……。聞こえてきた言葉があった。
『目的があるなら、競争になったりぶつかったりするのも仕方がないかもしれない……。
でも、何も知らないままぶつかり合うのは嫌だ! 私も言うよ……だから教えて。
なんで……どうして、ジュエルシードを必要なのか』
なのはは金色の少女に語る。
彼女の〝戦う理由〟を……。
彼女の気持ちを………。
『私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探しものだから……。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通り集めないといけないから。
お手伝いをするようになったのは本当に偶然だったけど……。
今は自分の意志でジュエルシードを集めてる。
自分の暮らしている町に、そしてそこにいる……自分の大切な人たちに危険が降りかかったりしたら嫌だから。
これが―――――私の理由』
それを聞いて、由宇は……。
動けなかった。
止めに入りたいと思っていたはずなのに……。
何が何でも止めなくてはならないと思っているのに……。
それでも、動けない。
―――――今は、ただ見守るしかない。彼女たちの選んだ道を……。
「……」
コスモスの言葉を受けて、由宇は――――せめて、あの……優しい少女たちの戦いの行く末を見逃すまいと…彼女たちの闘いから最後まで、その目を離さないことを決めた。
しかし、そのあと……。フェイトはジュエルシード確保を優先するために動き、それをなのはが阻止する形で動いた結果……。
彼女たちの杖がぶつかり合い、ジュエルシードの輝きが増し、その胎動がより大きくなったとき――――
――――ジュエルシードは、その輝きを解き放った。
その爆発は、周囲を巻き込んでとてつもない衝撃と爆風が襲ったが……。ユウは離れていた場所にいたため、被害は大したことはない。
しかし、なのはは重傷を負ってしまったようでボロボロになっている。
今度こそ助けなければならないと思った、その矢先のことだった……。
何と、フェイトが……。その両手で、ジュエルシードを抑え込み始めたではないか……!
あんな不安定な状態のものを自力で抑え込もうだなんて正気の沙汰ではない、と人はいうだろう。
しかし、由宇はまた少し違った。
あの少女の目的を、戦う理由を聞いてしまったから……。
だから、その行動の奥底に彼女の愛情があるのだということを理解した。
しかしその時、その彼女の気高き心を汚すように……。
――――乱入者が現れる。
***
コレハ……ナンダ?
ナゼ、ミズカラダメージヲオウコトヲイトハナイノカ?
イッタイドウイウコトナノカ……?
ワカラナイ。
コレガ『ニンゲン』ナノカ?
コレガ『ココロ』ナノカ?
ワカラナイ……。
『ニンゲン』トハ、ナンダ?
『ココロ』トハ、イッタイナンナノダ?
ワカラナイ……。
ワカ、ラナイ…………。
***
(止まれ……止まれ……。止まれ……っ!)
フェイトは両手でジュエルシードを握りこみ、どうにかしてその力を抑え込もうとしている。
彼女の足元には魔法陣が展開され、力を抑え込もうとして発動する。
膝をつき、手を突き破ろうとするほどの力を……。一身に耐えながら、彼女は止まれ、と念じ続ける。
その時、彼女の遥か頭上にて……光の渦が発生し始める。
その光の渦は、ユーノが張った結界をすり抜け……。フェイトめがけて降ってくる。
「っ……!?」
フェイトは痛みに押されていて余裕がなかったが、自身に迫る脅威に反応し少しだけ上を見つめ……自分に向かってくる光を視線の隅にとらえた。
だが、彼女はこの光の詳細をまったく知らない。
以前由宇が彼女にジュエルシードを渡した公園で、自身となのはが戦っていたときに一度見たきりでいったいあれが何なのかさっぱりわからない。
だが、決していいものではないと、彼女の本能が告げている。
しかし、避けることもできない今の彼女に出来ることなどなかった……。
彼女はなすすべもなく、自分に降りかかる脅威の正体すら掴めないままに、光の中に包み込まれていった……。
***
(アレ……? 何してるんだ…僕?)
由宇は今の自分が何をしているのか分からない。
彼の耳にタッタッタッ、という音が聞こえる。
(なんだ……? 走ってる、のか…?)
自分が走っていることすら認識していなかった。というか、自分は何をこんなに必死に走っているのだろうか?
たしか、先ほどまではなのはとフェイトの信念をかけた闘いを見届けることを決めて……。
それでそのあと光の爆発があって……。
フェイトが、その光の根源を抑え込もうとして―――――
―――――光の渦が現れ彼女を飲み込ん…だ…………。
そこまでいってようやく頭の方が追いつき始めるが、彼の本能の方が一歩速かったようだ。
彼の思考が体に追いつく直前。
すでに彼は、光の粒子に包まれている…愛しい金色の少女に駆け寄っていた。
***
その時フェイトは、これまでに感じたことのない種類の不快感と痛みを感じていた……。
先ほどまでジュエルシードを抑え込もうとした物理的な痛みとも違う。
まるで、自分自身の体のすべてを抉られ、作り変えられていくような感覚……。
そして、そのあとから襲い来る不快感。
此方は、ある一点の根底をすべて覗き込まれるような感覚。
そして、痛みと不快感でごちゃ混ぜになった彼女の目の前に見えたのは……。
彼女自身の思い出。
いったい何故…これが今、自分の目の前にあるのだろうか……?
目は開いている……ハズなのに。
彼女の視界には、夢でも見ているように思い出が、感情が彼女の目の前に現れる……。
――――――母との思い出、母の笑顔。
――――――自身の使い魔であるアルフとの出会い。
――――――そして母の使い魔で、自分とアルフを指導してくれた師であり姉のようでもあったリニスとの日々。
――――――そうやって過ごした時間の中で笑う自分の笑顔。
――――――四人で過ごした幸せな時間。
現れては消え、これまでを振り返る。
楽しかった頃の思い出を、振り返える。
しかし、そのビジョンは次第に消えていく……。
――――――変わってしまった母……。もう見ることはできなくなってしまった笑顔。
――――――リニスが消えてしまった日……。
――――――そして始まった母からのお仕置き……。
(違う、違う!)
こんなはずじゃなかった!
もっと、幸せに満ちるはずだった!
だからその日々を取り戻すために……。
母の笑顔を取り戻すために……。
ジュエルシードが、必要なのだ。
【後悔】 【欲望】
どこからかそんな声が聞こえてきた気がした……。
もうこんな苦しい思い出は嫌だ!
誰か、助けて……。
(かあ……さん………)
そうやって、手を伸ばした先に見えたのは……。
幼き日に見た〝本物〟の母の笑顔。
それは自分自身にだけ向けられる、自分が頑張れる原動力で彼女の存在意義そのもの……。
(母さん……)
手を伸ばす。
この苦しみから救ってほしくて……。
大丈夫か、という声をかけてほしくて……。
あと少し、もう少しで届く。
あの頃の、黄金の思い出に……。
優しい、母に。
「……母さん!」
『とっても似合うわ〝アリシア〟』
(―――――― えっ……?)
しかし、その思い出の中の母が口にしたのは自分の名前ではなかった……。
光に手が届きそうだったはずなのに、フェイトはその言葉に……求めていたはずの言葉とは違うものだった。
光は、今度こそフェイトの目の前から完全に消えた……。
おかしい。自分に向けられているはずのそれは、どれほど待っても彼女の名にならない。
『アリシア』 『アリシア?』 『アリシア~?』 『アリシア!』
母の口から出るその名はすべて―――〝アリシア〟。
フェイトは否定する。自分が壊れてしまいそうだから……。彼女の生きる気力を根こそぎ奪われるように感じたから。
だから抗う、否定する。
(違う!私は〝アリシア〟じゃない……。
違うよ母さん。
私は〝フェイト〟だよ。
私は、私は………ッ――――――――)
そこまで行き、彼女の目の前は……―――真っ黒に、染まった。
【不安】
【悲しみ】
【嫉妬】
【怒り】
そして……――【絶望】
その、声は真っ黒に染まったフェイトの心の中にかすかに響いた。
***
コレガ『ニンゲン』……。
コレガ『ココロ』……。
クライ………。
サビシイ……?
ツライ……?
コワイ……?
ニク……イ………?
コレガ『ニンゲンノココロ』カ。
………………………………………ナンダ?
コノ、ヒカリハ………?
『クロ』ガ、キエル……。
「……ト! ……ェ…ト! ……イト!!」
――――――フェイト――――――
ナンダ……コレハ?
イッタイ、ナンナンダ……?
その時、彼女の中の『黒』を晴らすように。
彼女の一番求める言葉が、彼女の中に木霊した。
「――――――――フェイト!!!」
***
―――――― 何だろう?
誰かに、呼ばれている気がする……。
でも、そんなはずない……。
こんな闇の中で、私の名前を……呼ぶ人なんて……。
でも、なぜだろうか……。何だか―――温かい。
「フェイト!!!」
その時、彼女の暗闇に染まった真っ黒な視界の果てに一筋の光が差し込んだ。
***
「フェイト!!!」
由宇は、本能のままに彼女に駆け寄り抱きしめた。
コスモスと同化している彼は、その光の力でカオスヘッダーを追い払おうとしているのだ。
彼の体から発せれる光は彼女の体からカオスヘッダーを引きはがそうとす。
(僕とコスモスの光で、浄化する!)
しかし、カオスヘッダーもまた、そうやすやすとは引き下がろうとはしない。フェイトに光を注ぎ込むのに夢中になっている由宇にたいして、カオスヘッダーはその自分自身をおざなりにしたところを突いた。
「うっ!? ……うぐぁああああッ!!」
先に由宇を内側から崩して、それから二人纏めて倒す方が効率がいいと考えたカオスヘッダーは標的を変更する。
そして由宇に襲い掛かるのは先程までフェイトを襲っていたものと同じ……いや、コスモスという厄介な相棒を宿している由宇に対して、カオスヘッダーは容赦なくその力をすべて持って彼の体を、心のすべてをえぐり取ろうとする。
しかし、それは……由宇にある一つの新たな事実を知らせることになる。
(知ろうと、しているのか……人の、『心』を……ッ?)
そして入りこんで来る……『心』の――――中に。
――――――怖い。失うことが……。
――――――それなのに、諦めようとした。絶対に失いたくないと思っていたはずなのに……。カッコつけて、身を引いたつもりになっていた。
――――――でも実際は違う。逃げたかったんだ。自分にとって不都合な現実ってやつから。
―――――― だから耳を塞いだ。目をつぶった。
――――――それでも結局諦めきれなくて、覚えていてほしかったから。未練たらしいことこの上ない……。
――――――そうさ。僕は諦められないんだ。そいて、彼女を失うのが怖いんだ。
――――――だから彼女をカオスヘッダーが襲ったときに無意識の内に走っていた。
――――――彼女を苦しめる〝敵〟が……憎かった。
心の中にある自分への疑心。それを目の当たりにする。
結局、何も変わってない。
独りよがりで、これ以上ないくらいに自分勝手に動いてこの様なんて……情けないことこの上ない。
コスモスと一緒になって誰かを救うことに酔いしれて、好きになった人を未練がましく見続けている。
後悔していないなんて嘘だ。どこかで必ず、迷っている。
結局、変わらない……。変わったつもりでも、変わってない。
何かをあきらめないという言葉の意味は、決してこういうことではなかったはずだ。
もっと美しかった。
もっと甘美だった。
もっと……。もっと……。純粋な意味だった……。
誰か、もう一度……。教えて下さい。
善とか正義とか、そういうことじゃなくて……。
もっと、根本的な……諦めないことの意味を。
人の、『愛』の意味を……。
――――――まだ、終わりはしない。
(…………誰?)
――――――諦めるな、ユウ。君はあの時、私を助けてくれた……。
そして、これまでも救ってきた。
私たちはどちらかが欠けてしまっても、完全ではなくなる。
君は、優しい。
(そんなこと……)
だから、背負い込んでしまうこともあるだろう。
だが、誰しも必ず間違ってしまう。間違うことはいくらでもある。
大切なのは、〝次にどうするか〟ではないだろうか?
おのれの過ちを知り、目をそらさずに、そうして自分を成長させていく。
それが、諦めないこと。
(……、)
そして、そのやさしさを誰かに分け与えること。
ほんの少しでもいい。君が救いたいと願う、大切な人たちに。そして愛おしいと感じるものたちへ……。
それが『愛』の始まり。
(愛………)
それらが繋がり、また新たに紡がれていく。それが『絆』、『希望』。
全ての生き物の持つ、無限の可能性。
それはもちろん、君の中にも。
(僕の……可能性………僕の『希望』?)
そうだ。
まだ、終わりではない。さあ、立ち上がれ……ユウ。
君の可能性は、こんなところでは終わらない。
そして、光が差す。
暗闇を照らす。太陽と月の光が、彼を包む。
ドクンッ!
――――――さあ、君の可能性を。『希望』を解き放て。
今はまだ、名前のない新たな光が……空間の暗闇を壊す。
――――――目の前に見える暗闇は、別のものへと変わっていく。
(そうか……。)
嫉妬や怒り、憎しみもあった。
でも―――それだけじゃ、なかった。
『家族』――――帰る場所。
『友達』――――支え合うもの。
『愛』 ――――とても暖かいもの。紡がれ、『絆』へと変わる。
『希望』――――可能性、進むための力。
そして……。―――『フェイト』。
――――恋という感情を初めて抱いた相手。
大切なものは、いくらでもあった。
人の心にあるのはマイナスな心、冷たい『闇』だけでは決してない。
形は違えど、誰もが持っている温かい心、『光』も必ずある。
―――人の心にあるのは闇だけじゃない。
光もまた、必ずそこにある―――
そうして、心を重ねて……。
自分を見つめなおして……。
全てを重ねて、それを力へと変える……。
その力を――――解き放つ。
それは新たに生まれる力。
誕生と進化。明日へ進む決意の咆哮。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおお――――――――――ッ!!!!」
闇は、砕け散った。
***
ナンダ?
ヤミガ…ハレテ、、、イク……。
コレハ……ナンダ?
コノ、「ヒカリ」ハ………。
ワレワレノリカイヲ、コエル……。
コレハ、ナンダ………。
ワカ、ラナ……イ……………。
【怒り】や【嫉妬】、【憎しみ】や【絶望】……。
それは時に、人の心をボロボロにし、ズタズタに引き裂く。
しかし、それだけが人間じゃない。
そう、人の心は時に理屈を越えるものを宿している。
限界を越えるときに、見えるだろう力を。
それを、カオスヘッダーは……まだ、知らない。
カオスヘッダーたちは、自身らのキャパシティを越える『それ』を抑え込むことはできずに敗北した……。
『心』を知るためのカオスヘッダーの挑戦は、こうして幕を閉じる。
そして、その場には……。青い宝石と、少年・少女の二人が残された。
***
「………よかった……………」
今にも途切れそうな声で、そうつぶやく少年に、少女はいまだに虚ろな目を向ける。
少年は少女を放そうとはしなかった。優しく抱き寄せたまま、彼女の無事を彼は噛みしめていた。
「無事で、よかった……。ホントに、よかったよ…………」
「……なんで、君はそこまでするの? ……私なんかの為に……」
よほどのお人好しとか、根っからの善人とかじゃない。自分自身の本質――『人間』の本質を見た少年は……。彼女のその問いにその心のままを伝える。
後悔して、悩んで、見つめなおして、それでも捨てきれないものを……。いや、……捨てたくないものを決めたその心を伝える。
「………決まってるよ」
―――――――君が、僕にとって……。誰よりも何よりも大切に思えたから………。
……だから僕はこうしたいと思った……。
……ただ、それだけ………。
そう伝えた。
「…………」
どうしてこの人は、そんな風に言えるのだろう?
なんで、大切と言ってくれるのだろう?
出会いは数回だけ、二度目はひどいものだった。
彼から、目的の為に『それ』奪い取ったようなものだった。
その気になれば、自分を簡単に倒せるだろうに……。
だが彼は、自分の目的を聞いて……『それ』渡してくれた。
〝君が大切に思っている人の為なら、たぶんそれはとっても優しいことだと思ったから〟
少なくとも、彼の言葉に嘘はない。そう感じた。
今はもう記憶の中にしかない母の笑顔や、師であり姉のようでもあったリニス。そしてアルフとの思い出と同じくらい温かいものを、彼は持ってる。
だからフェイトは、あの光の粒子とかジュエルシードとか……あの……記憶も……――――――
―――――― それらをすべてを、一旦意識の外に置き……。
ただただ、今この瞬間に……自分に、〝フェイト・テスタロッサ〟に向けられる温かいものを感じていた。
こうして、人の心への挑戦……。
『心』を知ろうとした、カオスヘッダーの挑戦はこうして幕を閉じた。
***
その後、フェイトは意識を手放し……。彼女の使い魔『アルフ』に運ばれていく。
その際、人間形態になった彼女はこんな事を言った。
「あたしら使い魔ってのは主人と精神をリンクしてるけど…フェイトは、あの時咄嗟にあたしとのリンクを切ってた。
……あたしに来ない様にしたんだろうねぇ、この子の受けた『心』の方の痛みをさ」
そんな事をしてたのか……。
「でも、なんとなくはこの子の受けた痛みを感じる。切られてもこういう事は何となく分かるんだよ……あたしたちは一心同体だからね」
「そうなんだ……」
「取り敢えず、礼はいっとくよ。有難うね」
「良いよ、僕はしたい事をしただけだから……」
そしてこれからも、したい事をすることに決めたから……。
後半を口に出す事は無かったけれど、此れからは迷う事も受け入れる事を決めたのだという事の再確認として心の中にその言葉を呟いた。
「そうかい……じゃあね」
「あ、ちょっと待って………コレ持って行ってあげて」
そう言って、先程のごたごたの最中にすっかり鎮まったジュエルシードをアルフに投げ渡す。
「それ、フェイトの『大切な人』の為に必要なんだって言ってたから……持って行ってあげて」
「……有難く貰ってくよ」
その言葉を最後に、アルフはフェイトを抱えて去っていった。
そして、アルフが立ち去るのと入れ違いに近づいてくる影が二つあった。
「ユー君……」
「なのは……」
近づいて来たのはなのは。そしてその隣には前見た事のあるフェレット君。
先程まで、フェイトと戦っていたなのはとアルフと戦ってたフェレット君の二人が由宇に話してきた。
***
フェイトがアルフ共に立ち去った後、なのはと以前見たことがあるフェレット君がこちらにやってきて話しかけてきた。
「なのは……」
「えっと……ユー君。さっきのは……それにあの光も――それにジュエルシードのことも……。
あと、フェイトちゃんのことも……」
「えっと……」
何と答えるべきだろう?
……いや、違う。
この件において一番詳しいのは、たぶんこのフェレット君だ。
正直に話して、事情を聞こう。
一人では、絶対的な限界がある。
コスモスと一緒でも、自分一人だけでは絶対どこかで立ち止まってしまう。ならば、ちゃんと話そう。
「実は……、――――」
由宇は事情を語る。
コスモスの事。カオスヘッダーの事。バルタン星人達の事。そして、フェイトとのこと……。
それらを語った。
「――――ということなんだけど……」
「そうなんだ……。じゃあ、あの光はカオスヘッダーっていうんだね?」
「うん」
「じゃあ、ユー君の事情は聴いたから、今度は私たちの番だね」
そして今度はなのは達の事情を聞く。
このフェレット君。名前をユーノ・スクライア、というらしい。
ユーノはあのジュエルシードの発見者で、散らばってしまったことを聞いてわざわざこの星に来たということだそうで……。
正直、凄いと思った。
聞いた限り、ユーノの責任なんてこれっぽっちもない。
彼は発見・発掘しただけで、その輸送中の事故も……。原因はいまだ不明とのことだが、その事故だってユーノのせいじゃない。
なのに、彼の世界から遠く、遠く、何のかかわりもないこの世界にやってきて、その星の見ず知らずの人たちのために行動するなんて……。
非常に尊敬した。
しかも、なんだか同い年みたいなことも言ってたから益々驚く。僕らと同い年くらいで、発掘の責任者して見ず知らずの世界に一人やってきて……。これまた見ず知らずの人々の為に戦う。
とんでもないな……、と改めて畏敬の念を送る。
するとじーっと見てたせいかユーノがこんなことを言ってきた。
「ごめんなさい……僕の発掘してしまった物のせいでこの星にそんな奴らを導いてしまって………」
うーむ、なんて九歳だ……とんでもないな。
ここまで素直で、誠実な相手……これまでに出会ったことが無い。
凄く良い人なんだなぁ……と関心と三度目に尊敬した後でこう返す。
「いや、ユーノのせいじゃないよ。だってユーノ何にも悪いことしてないじゃないか……。むしろすごいよ、見ず知らずの世界に一人で来て、見ず知らずの人のために戦うなんて……とってもすごいことじゃないか。
ユーノは悪者じゃない。どっちかっていうとヒーローだよ」
「そんな……僕なんか。僕はなのはに助けてもらわなかったら今頃死んでたかもしれないぐらい弱い存在だよ、むしろこの世界にも、なのはやユウにも迷惑をかけてばっかりで……」
「そんなことないよ」
「そうだよ」
由宇となのはがユーノの言葉を否定する。
迷惑なんかじゃないと。
「私はユーノ君と出会えて、魔法に出会えて、ホントに良かったと思ってるよ?
だから、迷惑だなんて……。そんな悲しいこと言わないで?」
「なのは……」
「僕もだよ。今こうしてユーノと話せてるのもそうだけど、ジュエルシードがきっかけで、コスモスやバルタン星人とも友達になれて……。魔法とかウルトラマンとか、もっとこの世界のワクワクする部分に出会えてとっても嬉しいよ?」
「ユウ……」
そうだ。ユーノはこの世界に災厄をもたらしたんじゃない。
なのはには魔法との出会いを、僕にはウルトラマンたちとの出会いを。
そして、フェイトとの出会いも……。
そして何より、ユーノという新しい友人との出会いを。
ユーノの見つけたたった21個の小さな宝石で、たくさんの絆が紡がれたのだ。
それはたぶん、とっても素晴らしいことだ。
少しの厄介ごとなんて、この素敵でワクワクする出会いに比べれば大したことなんてない。
それを責任とか、罪科だなんて言ったらそれはこの出会いを否定するようなものだ。
だから、それは絶対に違うと僕たちはいうのだ。
「ユーノだから気にしないで。もし重荷になるなら僕にも分けてよ、一人より二人の方がきっと楽しいさ」
「……ありがとう………」
こうして、ユーノという新しい友人を手に入れジュエルシードに関する詳しいことも教えてもらい改めてその危険性を思い知った。
それを受けて、ユーノたちの使う『念話』というものについても教えてもらい、コスモスの助けも借りてそれをできる様にした。
これで、もっとゆっくりジュエルシードや魔法についてのこととかが聞けるだろう。
しかし、その一方で益々分からなくなったことがあった……。
「それにしても……。なんでフェイトは、そんなに危険なものをわざわざ集めているんだろう……?」
この言葉にはなのはもユーノも難しい顔をする。
「僕もそれが分からないんだ。あの子……フェイトはなんでアレにそこまで執着するんだろう?
あの子だって、ジュエルシードの危険性は知ってるはずだと思うんだけど……」
「理由もまだ教えてもらってないし……」
「……」
由宇は、あの公園でのやり取りを思い出していた……。
『……君は、何のためにこれがほしいの?』
『……、それは―――』
「――---この世界で一番、笑顔でいてほしい人のために、か……」
「「えっ?」」
なのはとユーノが、ユウの言葉の意味が分からずに疑問の声を上げる。
それに対してユウはその時のことを踏まえて話す。
「あの時、フェイトに聞いたんだ。公園でジュエルシードを彼女にあげたときに。
彼女がなぜ、それを求めるのかを………」
その答えが、さっきのあれなんだけど……。と告げると、二人はますます分からないような顔をする。
「誰かのために……。そういったんだね?」
「うん」
「誰かにアレを渡している、ってことなのかな……?だとすれば、そのフェイトにとっての『大事な人』、がアレを……。ジュエルシードを欲しているってことなのかな……?」
「多分、そうだと思う……」
「自分じゃなくて、誰かのためにジュエルシードを……」
そうやって三人でしばらく考えてみたものの、あまり良いアイディアは浮かばずじまいだった。
それに加えてもうだいぶ遅い時間だったこともあり、小学生二人と小動物一人が外出中はまずいということでそれぞれ家に帰り『念話』あるいは明日学校でということになり三人はいったん解散しそれぞれの家に帰った。
こうして、光の巨人と魔法使いたちの物語は完全に交差したのだった……。
結構暗めの回でした……。