最終回の前編です。
独自解釈強めになります。
由宇が目を覚ましたのは、見知らぬ場所だった…。
さらにいうと、その起きた時の体勢もまたどこかおかしい。
というより、彼は縛り付けれていた……。
「――ここは…?」
だが、今の彼は未だにボロボロであり…あたりを見渡すことで精一杯だった……。
あたりを見渡して見ると、その薄暗い部屋の中には――ミッド語…だろうか?由宇には馴染みない文字や数値が浮かんでいるモニターのようなものや……それに加え、何かの実験用の装置らしきものもいくつか見える。
ここは、何かの実験施設……ということだろうか?
「どうやら…お目覚めのようね」
その声に驚き、その声の発信源を見ようとして顔を向けた――――
―――するとそこには、かなり漆黒に近い紫色のドレスを纏った女性がいた。
どこか、悲し気な……その瞳に、由宇は見覚えがあった気がした。
でも、その瞳をどこで見たのか?
意識がおまだにおぼろげな由宇にはどうしても思い出せない。
しかし、その悲しげない瞳が……そこかで見たことがあるものとは、似ているけれどどこか違うのだ。
前に見たことがある気がするあの瞳とは違い、この女性の瞳は……非常に冷たく、虚ろで、それでいてどこかに焦りを感じている。
何事かに切羽詰まっているような、滞りを感じた。
それはまさに『狂気』――そう呼べるものの類をその女性の瞳は宿している……。
その瞳を見ていると、とても怖い。その感情は――『恐怖』。
これまでにも、何度も……幾度となく感じた感情。
だが、これほどまでに……背筋を凍らせるようなものだっただろうか?
(この人は…?)
そんなことを感じていたためか……。
由宇はその目の前の人物が、一体誰なのかわからず…しばらくなんと返事をしていいものか言葉に詰まった。
しかし、その女性は特に気にした様子もなく由宇に話しかけてきた。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったかしら。初めまして小さなヒーローさん?
私はプレシア――プレシア・テスタロッサ」
その言葉を聞いたとき、おぼろげなものだった視界が一気に晴れた……。
「………テスタ…ロッサ……?」
(じゃあ……じゃあまさか………!)
思い出されるのは、あの時のフェイトの帯びた様子と怯えた声……。
『か………母さん………?』
つまり、この人が。この目の前の女性が……!
(この人が、フェイトの母親……!)
「貴方が……フェイトの、母親…?」
「……まぁ、一応そういうことになるわね」
一応……?
どういうことだろうか……。
子供の親ですかと聞いて一応なんて答えるなんて……。
フェイトのことを嫌っている…のだろうか?
「貴方は……。フェイトが嫌いなんですか……?」
この失礼な問いに憤慨し、否定してくれるだろうと思っていたのだが……。
プレシアの口から告げられた答えは――肯定の返答……。
「ええ、そうね。あの〝人形〟の母とは正直なところ呼ばれたくもないわね……忌々しい〝出来損ない〟だったから」
何ということだ……! この
――しかも自分の娘であるあの子を、どんなことがあったらこんな風に称することができるというのだろうか!?
「どうして自分の娘にそんなことが言えるんですか!? あの子は貴方の娘なんでしょ!?」
「あの人形は、私の『娘』じゃない」
「なにを…! さっき貴方はあの子の母親は自分だって……!」
「ええ、確かに生みの親ではあるわ……。でも、〝アレ〟が私の娘であるかどうかは別の問題よ」
プレシアは、先ほど由宇が冷たいと称した瞳に怒り……いや、これはもはや『憎しみ』といっても差し支えない程のものを浮かべて由宇に視線を向ける。
「そういえば、どうしてあの子をそんなに庇うのかしら?
貴方の戦うところを何度か見たけど……。あの人形が一緒だと必ず助けるわね、しかも……管理局にすら逆らって」
「!?」
何で分かったんだ!? と由宇は自分の闘いを見られていたこと、そして何より……その過程を見抜かれていることに驚愕した。
確かに、プレシアは……由宇が目覚めたとき、〝小さなヒーローさん〟と称した。それはそのまま、由宇=ウルトラマンであることを知っているという意味だったのか。
確かにあの時、フェイトとなのはへの攻撃を庇ったときに変身が解けたところで意識がなくなったが…それをわざわざ見ていたとは……。
もはやここまで知られているならば、〝なんで〟や〝どうして〟といった疑問はもう不要だ。
こうなれば、自分のそのままを聞かせればいい。そして彼女に知りたいがままに聞き、それを知る。
そうきめた由宇は、なぜフェイトを守るのか……。正直なところそのままをプレシアに語ることにした。
「……そこまで知られているなら、もういいです。
お話しますよ、フェイトを守るわけはを……。
単純に僕が、あの子を…フェイトを好きになったからです。ただ、それだけです……」
「……とても幼いわね、理由も考え方も」
「……大切な人を、大事にしたいものを。そして、全ての命が尊く思えるから守りたい……。ただそれだけなんです……それでいいと思うんです。
ただ僕は、フェイトが……その中でも特別になってしまった。だから僕は、彼女を守りたかった……本当にただ、それだけです……」
「……、」
プレシアは黙ったまま、由宇を見る。どうにも純粋というか幼い子供というのは扱いやすい反面、とても面倒でもある。とでも言いたげに……。
プレシアが沈黙したので、由宇は今度は質問をしてみることにした。少々気になっていたことを……この人はおそらく知っているであろうからこそ、聞いてみる価値はあるだろう。
「……今度は僕からも質問ですが、フェイトがジュエルシードを集めているのはなぜですか……?」
これは由宇が一番気になっていたことだ……。
フェイトの言う大切な人が誰なのかについても気になっているので、この質問の半分は個人的なエゴでもあったが……。
(とはいえ、その『大切な人』が=フェイトの好きな人。という方程式には必ずしもなるというわけではないことを……幼い由宇は初めから全く考えていなかった。
もしかするとその『大切な人』というのは……他の女性だったり、祖父・祖母あるいは弟・妹のような『家族』について称していたことも可能性としては十分であり、実際彼女がそう称したのはまさに『家族』で『女性』だったわけだが……)
「私が回収を命じたからよ」
「……えっ?」
聞いたとき、一瞬耳がおかしくなったのかと思った。
こんなにもフェイトを嫌っている母親が、彼女にとっての一番大切な人……?
たちの悪い冗談だと思いたいが、笑顔にしたいとかそういうことをフェイトは言っていた。つまり献身的だったのは、母に認められ・好かれたいからということになる。
だとしたら、勝手に失恋だと思っていた自分とは何だったのか……。
――とはいえ確かめるべきはそこではないと、流れ出そうになった心の汗を抑え込み確かめるべきことを尋ねる。
「……あなたが、フェイトにジュエルシードの回収を…。だとしても、なぜあんなにボロボロになるまでジュエルシードをフェイトに無茶を……」
「……本当にあの〝人形〟に入れ込んでるみたいね。……いいわ、どうやら貴方には『真実』を見せた方が……これから始める、≪永久へと旅立ち≫にさしあたって『補助』として働いてもらうのに丁度よさそうね。
まあ、せいぜい後悔しなさい……。知り過ぎることを願った自分自身に……」
そういって、由宇を張り付けてある台座を浮かせ……。どこかの一室に連れて行く。
薄い緑色がかった明りが灯されたその部屋には……巨大な、培養器?だろうか。そんなものがたくさん並んでいる……。
(ここは……実験室? いや、違う。どっちかっていうと……むしろここは―――――)
―――――何かの、保存庫……?
そして、その視線が――その部屋の中心にあるもの…。ほかの培養器よりも少々大きめの培養器を捉えたとき。より正確には、その培養器の中に入っている〝何か〟を由宇の目がはっきりと捉えたとき。
――由宇の体は硬直した……。
「フェイ……ト……?」
その容器の中には、人間が入っていた。
そしてその人間は……。由宇が恋い焦がれている少女の姿と、瓜二つだった……。
このとき、由宇は……。プレシアの言った……。後悔しないようにしなさい、という言葉がどういう意味だったのかをようやく理解したのだった―――
***
「フェイ……ト……?」
その培養器の中に入っているもの――人間は、彼の恋い焦がれる少女と瓜二つだった……。
「この子は、あんな出来損ないの〝人形〟じゃないわ」
また……!と思ったが……。それよりも、この目の前にいる少女は――フェイトとは違う、ということの方が驚きだった。
だってその少女は、フェイトにしか見えないのだから……。
「この子は――『アリシア』…。私の、〝本当の娘〟……」
アリ……シア………?
そこから先、プレシアの口から語られたのは………。
悲しみと狂気……そして―――
―――憎しみと……………愛の昔話。
この培養器の中に入っている少女の名は―――アリシア・テスタロッサ……。
数年前に、〝死亡〟した少女……。
そしてこの少女は……プレシアの実子。
この少女、アリシア・テスタロッサは……。
数年前に、プレシアが携わっていた実験の爆発事故に巻き込まれた。
その実験とは……。
当時彼女が務めていた企業「アレクトロ社」における新型の大型魔力駆動炉プロジェクト・次元航行エネルギー駆動炉――通称「ヒュドラ」の設計主任としてのもの。
しかし、その実験はプレシアが望んだものではない。
本来彼女はアリシアのことを考え、研究の方から遠ざかり管理部門へと異動を希望しており……ようやくそれが通り、愛娘が学校へ上がる年齢となる前に……。ゆっくりと『家族』の時間を―――
―――しかし、優秀な魔導研究者だったプレシアにすでに動いていた大型プロジェクトが回されてきた。
それが「ヒュドラ」の設計主任。
それは、あまりにも無茶な要求だった。
元々、他人の研究を誰かに引き継ぐというのは十分な引き継ぎ機関が必要であり、はいコレね? 等という簡単なものではないのだ。
それを無視して無理なスケジュール通りに完成させようなどという考え方自体が無謀であり、絶対不可能なのだ……。
おまけに、前任者の杜撰な資料管理や複数の人間によって何度も変更したと思われる設計やシステム。
それらが絶対的に足りない日数を、さらに不可能領域へと押し上げていく……。
そしてさらに進捗状況を眺めた上層部による修正・見直し……。それに伴い追加される機能の追加案を一方的に告げるという…進行を遅らせるだけのだけの無駄な案の数々……。
しかし、それらの必要かさえも不明で意味があるのかすらまったくわからない機能を追加させる案は依頼元の大手メーカーのものであるため、新人主任程度のレベルにあるプレシアには反論すら許されない。
そんな開発で完成などするはずはない。
しかし、〝上〟はそれを認めない。開発が終わらないことに業を煮やす……その開発に必要な時間も、計画も全くできるわけ無いのに見下ろすだけ、指示するだけの上層部はそれを理解しようとしない。
自分たちの能力の低さを認めようとせずに、利益や信用・面子といったものを守り、富や名声にしか興味のない歪み、穢れた自分たちの欲望のツケをプレシアへと回す。
そしてついに、上層部と本社の人間の思い上がりは頂点に達する……。
プレシアに告げられたのは――駆動実験を10日後に行う、というもの……。
本来は来月にする予定の物を、無理矢理10日後に行うことを強引に決定された。
建前上は、本社からの開発担当の増援をするということだったが……。
その本社の増援というなんとも頼もしい言葉が、全てを崩壊させることになるとも知らずに……。
そして本社から来たという増援の研究者たちは、安全の確認や基準を決定するのはこちらでやる、といった。
実験が行われず、開発が間に合わなければ、本社の責任問題となるといって……。
その強引な推し進めの結果、〝書類上〟では開発は〝順調〟に進んでいたことになっている。
しかし、それでも忙しいのは変わらず……。一人娘には寂しい思いばかりさせてしまっている。
もうこれ以上は……と思い、駆動炉の実験が始まるとこれまで以上に遠くでの勤務となり、寂しい思いを減らすべく……開発室の一室を量として借りて少しでも、ほんの少しでも一緒にいられたら……。
その追い詰められた選択も、プレシアに厄災をもたらすことになる……。
その後も開発は続けられ、実験後に与えられる5日間の休暇だけを心の糧としてプレシアは研究をつづけた。
だが……。
何故か、実験の直後になり……製作されている実機への接触を〝禁じられた〟。
プレシアは「安全基準責任者」という役職を主任職のほかに与えられ、接触を禁じられたまま『書類上』でも安全チェックを続け、現場の行員たちの安全のためにマニュアルの製作に努めた。
しかし……その実験は、誰もが〝予想もしなかった〟結末を迎えることになる……。
それは最初の稼働実験の日……。
その場にいた者たちが、その異変や事態に気づいたときには、すでに遅かった……。
報告された情報をもとに製作・用意され、しかも正しく受理されたはずの安全装置は――全く機能しなかった。
その暴走の際、プレシアたちは急遽張った完全遮断結界に逃げ込んだ。
その際の計測で、燃料が〝金色〟の光と高温の熱に変化しているが……。どうやら、正しい反応ではないようで二次的被害は防げそうだ……。と思ったその時…!
この熱と光の発生は燃料と〝酸素〟の反応して発生しているという。
周囲の酸素を急激に奪う――すると、結界に入っていない生物はどうなるだろうか……?
後に分かったことだが、その反応は燃料から発生した微粒子が酸素と反応したものであり……その微粒子を吸い込んだ生物の血液の中の酸素にすら反応するものであったという……。
その日、結界外にいたすべての生き物は……金色の光に飲み込まれた。
それは、実験施設の近くにある寮の一室にいる少女もまた――例外ではなかった……。
『その日――金色の光が……私の全てを飲み込んだ』
そして、事故の後……プレシアが見たのは―――
―――アリシアと飼い猫『リニス』の……亡骸だった。
その姿には一切外傷は見当たらず、まるで彼女たちの魂だけを抜き取ったように……。
アリシは今にもまるで「ママ!」と飛び込んできてくれそうなほど、眠っているかの様だったのに――――
――――そのあと決して、アリシアが目を覚ますことはなかった……。
その後、プレシアはアリシアの死の責任を訴えるが……彼女に残されたものは―――
―――汚名と愛娘の死という枷と、たった一人残された孤独だった……。
その後、プレシアは何かにとりつかれたかのように研究に没頭する。
いくつもの研究所を転々とし、資金をそして自身の目的を成し遂げる為のノウハウをかき集め、今由宇が捕らえられている『時の庭園』を購入。
そこで命の創造を始める……。
表向きには人造生命の開発をし、その人造生命を素体としそこへ生前の記憶を転写するという『死者蘇生』の研究。
昆虫、爬虫類、小型の哺乳類と……。着々と計画は完成へと向かっていった。
このときの彼女の研究者たちへ言い渡したプロジェクト名は―――
―――Project 【F・A・T・E】
そして……それらのノウハウのすべてを注ぎ込み、独自にアリシアの完璧な素体を完成させたプレシアはついにアリシアの記憶転写を行った。
―――同じ記憶を持ち、同じ姿ならば……。それは蘇生と言えるだろう。そして、もう一度……親子二人で……!
そして、その時の記憶転写は行われた。
アリシアと飼い猫リニスの転写も同時に行われた。
アリシアがリニスもいた方が嬉しいだろうという思いと動物の命は人より短いのだから、あの死はあんまりではないか、という意向からのものだった。
そして、ついに――――
―――〝アリシア〟は目を覚ました……。
ハズだったのに……。
生き返ったはずの〝アリシア〟はどこかが『違った』……。
『リニス』を見せても反応が鈍い……というより、〝覚えていない〟?
しかし、目覚めたばかりの後遺症だろうと思い気にしなかった。
そのあと、〝アリシア〟を彼女の部屋へと連れていき、これからはずっと一緒だと告げるとお仕事は大丈夫なのか?と聞いて来たが、大丈夫だと告げると……。〝アリシア〟の癖だった『利き手』を頬に当て、約束などを確認するというあの癖をしようとしたので、プレシアは『いつものように』彼女の利き腕である『左手』に右手を添えるために右手を自分の頬にある〝アリシア〟の手へと持っていき……自分の頬に触れた。
驚き、自分の頬に当てられている〝アリシア〟の手に視線を向けると……。〝アリシア〟は『右手』をプレシアの頬に当てていた―――
―――その時、ずっと感じていた不信感は……確信へと変わる。
《この少女は、『アリシア』ではない……!?》
何故!
何故!?
いったいどうして!!??
記憶転写も、身体の素体も完全にアリシアのものと同一、完璧だというのに……!!
何故? なぜ? 〝違う〟のかっ!!!???
―――利き腕も、喋り方も、魔力資質も……人格さえも!!
アリシアの体、アリシアの記憶……。
それら全てが、〝この少女〟にもあるというのに……!!
自身の娘たる要素全てが、備わっているというのに!?
なのに何故……!? どうしてこの子は〝アリシア〟じゃないのか!?
おまけに…………なんとも腹ただしいことに――
――こんな『偽物』に、自分がアリシアへと向けた【愛情】が…………勝手に『偽物』への【愛情】へとすり替えられている……!!
皮肉なことに……こんなところばかり『完璧』に仕上がっている。〝アリシア〟ではない癖に、この少女は自分が〝アリシア〟だと疑わない。
それはそうだ、なにせ『記憶転写』は完璧だったのだから…………!!
我慢ならない。これまでにアリシアに注いだ愛情は、アリシアだけのものであるはずなのに……!
どうして勝手に『偽物』へのものに変わっているのだ!?
見た目がそっくりなだけで、中身は得体のしれない「何か」……。
その「何か」が、自分と愛娘の過去を奪い取ろうとしている……!!
こんなものは、ただの『失敗作』だ…!
この計画は失敗だった……。
だが、まだだ……幸いなことに素体を作り直すという、失敗の要因の一つらしい物の問題はクリア済みだ。
まだ、アリシアの体は綺麗な状態のままに残っている。
今度は、『記憶』ではない……。
本物の――『魂』を取り戻して、体に戻す…!
そうすれば、今度こそ……きっと―――
―――次こそ、『本物』のアリシアの魂を取り戻さなくてはならない。
だが、『魂』の蘇生――ここから先は魔法世界であるこの世界でも《禁忌》の領域に踏み入ることになる……。
おまけに……。プレシアの体は例の稼働実験の際の影響で呼吸器気が侵され始めていた。
――もはや、自分には、時間がない――
こうなってはもはや一人で悲願を成し遂げることは不可能だ……。
そのために、実行役……。思い通りに動いてくれる「道具」が必要だ。
だが、その前に……。この偽物をどうするか、という問題も残っている…。
曲がりなりにもアリシアの体を持っているのだ……。
いかに得体のしれない「何か」だとしても廃棄という選択肢はプレシアにはない。
なにせ、偽物と言えどもこの世界でアリシアとして生きているのはこの少女だけなのだ……。だが、アリシアでもないものなどこれから愛情を注げるかと聞かれれば答えは――ノーだ。
だったらどうすればいい……?
――その時、プレシアは思いついた……。ある一つの可能性を……。
言うことを従順に聞き、尚且つ絶対に裏切らないことが確信できる存在。
丁度いいのがいるではないか……。
ここにいるアリシアの『偽物』が。
持て余していたところだ、ちょうどいい。アリシアという名に関する記憶を消し、実行役として育てればいい。
だが、実行役となるまで育て上げるには研究の手を止めることになる……。
それはできない。益々アリシアへの道が遠ざかることになってしまう……。
その時視線の先にいたのは、リニスの『偽物』これも〝リニス〟ではない。猫一匹くらいなら廃棄するのも別にそれほど心が痛むこともないが……この偽物も利用すればいい。
この猫も記憶を消して、使い魔にして『教育係』にしてしまえばいい。
それなら、自分が手を煩わされることもない……!
加えて使い魔なら、契約の終了という形で『消滅』させることも可能だ。
それでこの〝リニス〟は消えてしまうが……。そのときはアリシアが悲しまないように別の〝リニス〟を用意すれば済むことなのだ。
時間が残り少ないことを理解したプレシアには、もはや手段を選んでなどいられない……。
それを決意したとき―――
―――その優しげだった『母』の瞳には……【狂気】が宿っていた………。
しかし、もうプレシアは止まらない。二度の【絶望】を味あわされた彼女には、止まるとか後戻りなどという選択肢はない。
次こそは………次こそは……!〝アリシア〟と共に――――
その決意のもと、育てられた少女……。
名無しというわけにもいかず、仮の名として当時のプロジェクト名から適当にとってつけた名が―――
【F・A・T・E】
―――これが、『フェイト・テスタロッサ』誕生の秘話…………。一人の母が生み出した、〝娘となるはずだった〟少女。
***
そんな事情があったなんて……全く知らなかった。
こんな物語が……あったなんて。
「どう? 後悔したかしら……?」
プレシアは狂気を残したままの瞳を由宇へと向けて、口元をゆがめる…。
由宇は何と答えるか、また言葉に迷った……。
どういえばいいのか……?
分からない……。そんなこと分かるわけがない……。
正解なんて、あるわけない。
娘ともう一度会いたいと願うことは罪じゃない。それはきっと〝当たり前〟の事なんだ。
でも、それでも――――
――――フェイトを蔑ろにすることが正しいとは絶対に思わない……!
「後悔して無いかと言えば、それは嘘になります……。でも、これを聞いたからと言って……フェイトを嫌いになったり、気味悪いと恐れる気なんてない!
あの子は……あの子は………!」
その答えを聞いて、プレシアはウザったいものを見る様にして視線を逸らし由宇にこう言った……。
「まぁ、いいけど……その前に、あの子が壊れないといいけれどね?」
「な…に……を………?」
何を言っているのか……?
言ってることが理解できていない由宇にプレシアは、映像を呼び出し拡大して由宇の目の前に弾く。
そこに映っていたのは――空で戦いを繰り広げているなのはとフェイトの姿だった……。
一体どういう事なのか……。説明を求める様にプレシアを見る。
「何をしているのかという顔をしているけど、考えてみれば当たり前の事でしょう?
ジュエルシードは多いほうが良い……つまり、成功の確率を上げるには一つでも多いほうが良いというだけの事」
つまりは、あの時のジュエルシードの残りをフェイトは幾つか、あるいは全てを持ち帰ったにも関わらず……数を一つでも増やし、成功の確率を上げる為に戦いをする様に彼女に仕向けたというのか!?
「そうそう、貴方気づいていないかもしれないけれど……貴方は既に数日間意識が無かったのよ?」
なんだって…? 数…日?
コスモスと同化してからというもの。怪我は治るのが早くなり、体力の回復や身体能力に至るまで、能力の上昇こそあれ下がるなんて事があるわけが――――
たが、それが思い当たる原因はいくつもあり……絶対と言い切れない由宇はそれが真実だと、受け止めざるを得なかった。
事実、回復も何もされずに磔にされていたのだ。まともに治っているわけが無い…。
その証拠に、未だに由宇の体はボロボロで意識が高まったおかげかプレシアとの会話の間は言い返す事もできた。
だか、その事実を体だけでなく心も認識したその時……由宇に蓄積していた疲労とダメージは一気に自覚として彼にのしかかった。
自覚という形でのしかかってきたそれらは呆気ないほどに、由宇の体から心を追い出し『無』という世界へと吹き飛ばした……。
「自覚してからは随分呆気ないのね……?」
という声と、必死の覚悟で戦う二人の姿を見ながら……由宇の意識は消え去った。
(み、んな………………フェイト――)
ユウの視界はそこで完全に消滅し…ブラックアウトした。
***
次に彼が目を覚ましたのは先ほどまでと同じ薄い緑色の明かりが照らす部屋の中――
――だが、何かが…違う。
先ほどまでは、プレシアと自分だけだったはずなのに……。
なぜかアリシアの培養器を抱いているプレシアと、その周りに転がっている魔導師たち……。
一体、この状況は――なんだ?
さらに、虚ろな意識の中に……プレシアの声が聞こえてくる。
「もう、終わりにするわ……この子を亡くしてからの暗鬱な時間も――この子の身代わりの人形を娘扱いする事も……」
だから――
「もう貴方はいらないわ…フェイト。
どこへなりと、消えなさい!!」
……何?
「……なんで」
未だに重たい体の由宇の口から絞り出された、微かな声はプレシアには聞こえていなかった様で、そのまま画面の中にいる――今にも崩れ落ちそうなくらいに青い表情をしているフェイトに……止めの一言を告げた。
「良い事教えてあげるわフェイト……。貴方をを生み出した日からずっと……。
私は貴方のことが――――ずっと…大っ嫌いだったのよ」
「……てよ」
『!?』
そのプレシアの一言にかぶせる様に絞り出した声が、その会話を聞いていた全員を驚愕させた。
その言葉を口に出したのは……由宇だった。
画面の向こうのリンディやクロノなのは、ユーノそしてアルフに――フェイトもその言葉を聞き驚いた……。
ボロボロなのに、まだ回復しきらないのに……それでもこの少年は言葉を発したのだった。
いつでも、ピンチに間に合わないのが『ヒーロー』だが……誰かを救うことを厭わないのもまた――『ヒーロー』なのだ。
***
なのはとフェイトが、ジュエルシードをかけた最後の闘いは、結果的になのはが勝利をおさめた。
そして、ジュエルシード及び由宇をこちらへと引き渡してくれるかと思われていた――事実フェイトはそうするつもりでジュエルシードをバルディッシュから取り出していた……。
だが、それをプレシアが妨害する。
フェイトから、ジュエルシードをすべて彼女の手元へと転移させ受け渡しを拒否。
しかし、その際にエイミィの逆探知でプレシアのいる場所の座標は特定される。
ここまでできれば、後は管理局…大人の仕事だろう。
リンディは魔導師たちを『時の庭園』へと送りこんだ。それと並行し、フェイトをここ『アースラ』へと連れてきた。一応彼女も実行犯ではあるので此方も〝拘束〟という形になってしまう……。
フェイトの細く幼い腕にかけられた手錠を見ると、なんともやるせない気持ちになる……。これもまた大人の汚さなのかもしれないとリンディは歯噛みしたが、今それよりも責任者としてプレシアをとらえなければならない。
その場面をフェイトに見せるなどここまで酷なことをしておいて今更だが、母親の逮捕の場面なんて見ていて気持ちのいいものではない。
ということで、フェイトを別室へ言った方がいいと思いなのはやユーノに誘導してもらおうと念話で促すが…フェイトはじっと画面を見つめたまま動かない。
そこまでの決意があるなら――とそこにいることを了承したのをリンディは……その決断をその直後に後悔することになる……。
魔導士たちはプレシアをと取り囲み拘束まであと一歩というところで……。急にプレシアの様子が変わった。
それはプレシアのいた部屋の近くの一室を魔導師が中を確認した際のことだった。
由宇の監禁場所を探しての行動だったが、そこにあったのは―――
―――フェイトとまったく同じ姿の人間だった。
その部屋に入られたことで激高したプレシアにより、魔導師達は全滅。このままでは本当に殺されかねないと判断したリンディは局員たちの送還を急ぎ指示する。
しかし、プレシアにとってそんな局員たちのことなどどうでもいいのか、別に彼らを回収する作業を邪魔する気もないようだ。
その代わりにプレシアの口から告げられた、フェイトの存在を徹底的に否定する言葉の数々。
そしてエイミィやクロノがその概要を補足し、ますます真実が浮き彫りになる。
そして、その極めつけの言葉が……プレシアの口から告げられる。
『結局、失ったのものの代わりになることはなかった……。
フェイト………貴方は私の娘じゃない。ただの――「失敗作」
だから、貴方はもう要らないわ……。どこへなりと消えなさい…
――いいことを教えてあげるわ…フェイト。
貴方を作り出してからずっとね………。
――――私は貴方が…………「大嫌い」だったのよ!』
その言葉にフェイトの瞳から希望や自分の存在を保つための『光』が拭い去られていくのは気持ちのいいものではないし、ここまで尽くした少女にここまでの言葉を浴びせるとはさすがに思っていなかったため……リンディは酷く後悔したのだが――――
その時だった……。
『……てよ』
――――プレシアが「大嫌い」と言い切ろうとしたその時、かなりかすれているが、それでもしっかりとした意志の込められた声がその言葉を遮った。
この突然の乱入にはプレシアだけでなく、『アースラ』の面々も驚いていた。
なのはやユーノ、アルフや……崩れ落ちそうかけていたフェイトにも――届いた…。
画面の端の方に映されている少年は、ボロボロだった……。その理由を知っている面々は、どうしてそんな状態になってまで……。こんなに幼い少年が自分を顧みず誰かのために声を出せるのか……。
その少年は、磔にされていることも、自分の傷のこと等どうでもいいというようにプレシアの言葉を遮った。
『やめてよ……。どうして……どうしてそんな事が言えるの……?
フェイトは……あんなに頑張ってたじゃないか……。
貴方を笑顔にしたいって……。「世界で一番大切な人」って言ってたのに……そんなに一生懸命だった子になんでこんなこと言うんだ……。確かに、アリシアのことを聞いたとき――悲しいと思った。こんな理不尽なことがあるのか? って思った…。
でも、だからって……生まれてきた彼女がアリシアと違うからって、なんでフェイトが責められるのさ………。
双子だって、ところどころ微妙に違うことが多いのに……アリシアと違うことが=フェイトの罪って訳じゃないはずだよ……。
フェイトはフェイトだ……アリシアじゃない。それでいいじゃないか。
フェイトはこの世でたった一人しかいない……フェイト・テスタロッサって名前の優しい女の子だよ………それに――『そんなことで…』……』
彼の必死に紡いだ言葉は、画面の向こうのフェイトにはしかと届いた。
だが、それでも。その言葉は……プレシアには届かない……。
『そんなことであの子がアリシアの代わりになるとでもいうの!?』
そのプレシアの叫びと共に、『時の庭園』内から多数の魔力反応が確認される。
「魔力反応いずれもAクラス! ――総数……60………80…まだ増えてます!」
「プレシア・テスタロッサ……いったい何をするつもりなの!?」
プレシアはアリシアの培養器と、由宇を磔にしている台座を浮かせ再び最初に管理局員の乗り込んでいた『玉座の間』へと歩を進めながら……好悪答えた。
『私たちは旅立つの――永遠の都【アルハザード】へ!!』
「アルハザード……!?」
その言葉を聞いたクロノは急いでも解いた部屋を飛び出し、『アースラ』の通路へと駆けだした。
『この力と、この子の光の力を使って……。永久の都への扉を開く……。今度こそ……今度こそは―――取り戻す……全てを!!』
プレシアの周りに14個のジュエルシードが展開され、エネルギーを解き放ち始める。
「次元震です! 規模は……中規模以上!」
「振動防御! ディストールションシールドを展開!」
「ジュエルシード14個発動……次元震さらに強くなります!!」
「波動係数拡大…! このままだと……次元断層が!」
その事態に指令室ではプレシアが発動させようとしているものの規模や影響域などを観測し、対策するための情報を大急ぎで叩き出し始める。
リンディも、部下たちに指示を出しこの事態を止めるべく動き出す。
「転送可能距離を維持したまま、影響の薄い空域に移動を!」
「了解!」
慌ただしくなっていく艦内の通路を走りながら、クロノはエイミィにゲートを開くように指示する。
「ゲートを開いてくれエイミィ!」
《りょーかい!》
ゲートへと向かいながら、クロノはプレシアの言葉を思い出していた。
――忘却の都……【アルハザード】。禁断の秘術が未だに眠るとされている土地だが……。
(その秘術で失った時間を……命を――取り戻そうとでもいうのか?)
バカなことを…!とクロノはつぶやき、一刻も早くこの状況を収拾するべくゲートへと走る。
一方指令室では、次元震の力の強大から発動までの予想時間を出していたのだが……。
艦内中に響き渡った絶叫と共にその数値が多少の安定を見せた。
「うぁああああああああアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!」
それは、光を奪い去られるときの苦痛に対する由宇の叫びだった……。
『素晴らしいわね……! この力は…。いったい何なのか知らね…? 得体のしれない「何か」は嫌いだったけれど……どうにも貴方は別らしいわ』
「次元震、震度増強中……!? ですが、数値が多少安定してきています! このままなら次元断層発生まで……あと30分は持ちます!」
「うそ!? あの庭園の駆動炉も暴走して要るんですよ? これ以上ないってくらいに無茶なエネルギー量を注ぎ込んでるのに……!?」
「ジュエルシードを14個も手中に収めているというのに……」
皮肉だが、由宇の奪い去られた光が歪みを補正したのだった。この辺りのプレシアの推測は正しかったらしく、回復しきっていないとはいえ由宇に残っていた光をほぼ全て奪うことで、それを実現させたのだ。
そのおかげで、14個同時発動+駆動炉暴走のエネルギーというこのあり得ない状況で、30分もの時間を得ることができた。
「なんとも皮肉ね……ユウ君が敵の手に落ちたことが逆に幸いするなんて……!」
しかし、それを嘆いてばかりもいられない。
プレシアはこれ以上ないほどに本気だ。彼女はそれこそ世界を歪めること…消滅させることすらいとわないほどに…!
【アルハザード】への道を完全なものにしようとしている……!
「……此方も切り札投入ね!」
その頃通路では由宇の絶叫が響き渡ったことで、一体今度は何事なのかとなのはたちは驚愕していたが丁度そこへゲートへクロノが合流し、クロノに連絡してきたリンディから先ほどの悲鳴にも等しい絶叫の意味を告げられる。
「艦長僕は……!」
『ええ、わかっています。私も追って現地へ飛びます。貴方はプレシア・テスタロッサの逮捕を!』
「私も行きます!」 「僕も!」
「君達……!」
『……ええ、貴方たちにも出撃を命じます。こちらも総力戦になりそうですからね…!』
「「はい!」」
なのはとユーノが返事をし、ユーノはアルフに抱かれているフェイトのことを気遣い待機して休んでおいてと言い。アルフに護衛を頼んだのだが……。
フェイトは、アルフの支えから自分で立ち上がりこう告げた……。
「…………私も………行きます………行かせて、ください……」
その言葉に、皆が驚く。先ほどの心のダメージからすぐに回復できるほど、彼女の心のダメージは軽くはないはずだが…。
それでも今、彼女は、瞳に再び光を取り戻していた……!
暫く迷って……。リンディは、フェイトに許可を出した……。
『………いいでしょう。許可します…ですが、決して無茶だけはしないように』
「……………はい………」
そうしてクロノ・なのは・ユーノ・フェイト・アルフは、『時の庭園』へと出撃したのだった……。
***
私の生きる目的は……母さんに認めてもらうことだった。
だけど、結局……。
母さんは一度も〝私〟のことなんて見てくれなかった……。
最後まで、一度だって心から微笑んでくれたことなんてなかった……。
母さんの心にいたのは、最初っから〝アリシア〟だけ……。
そのアリシアになれなかった出来損ない……それが〝私〟。
どんな時でも。力や知識が足りないと言われても、虐げられ心が痛くても、酷い暴力を受けたとしても……。だけど、だけど私は…――――
――――それでも……どうしても…………。母さんに…笑ってほしかった……。
………あんなふうに、あんなにはっきりと捨てられたのに……それでも未だに〝母さん〟に縋っている。
その縋りついている記憶は、自分のものではないのに……。その記憶の中にある笑顔は〝アリシア〟に向けられたものだというのに……。
自分が、心が…………壊れそうだった……いや、もう既に、壊れていた。
もう…必要がない私は。糸の切れたマリオネットが床に落ちるように、ただ絶望の底に沈んでいただけだった……。
その時だった……。
もう、必要とされていないはずの〝私〟名を呼んだ人がいた……―――
《――――――――――フェイトはフェイトだ……アリシアじゃない。それでいいじゃないか。
フェイトはこの世でたった一人しかいない……フェイト・テスタロッサって名前の優しい女の子だよ…》
あの人だった……。
いつも、助けてくれた。あの人……。
自分のことを、大切だと言ってくれた人。
【真実】を聞いたはずなのに、私のことを……。ちゃんと≪フェイト≫と呼び、≪アリシア≫でなくていいと。
≪フェイト≫のままでいいと、たった一人しかいない人間だといったくれた……。
そこでようやく、周りに本当の意味で目を向けられた……。
母に認められたいがために、度外視してきた……。自分に向けられている『温かい気持ち』を。
隣にいる、二人やアルフも……。
こんな『私』を『私』として、見てくれている。
真っ白なこの子もそうだ……。
この子も、何度も私に名を教えてくれて……、何度も『私』の名前を呼んでくれた……。
何度もぶつかったのに……。何度も、……酷いことをしたのに……。
この子は、初めて私を対等に見てくれた……。
ここはあの人と少し違うところだ。
守りたい存在としてではなく、もっと別の『存在』として見てくれた。
その子の隣にいる男の子も、私に偏見なんて持ってない。ひどく優しい子なのだということが伝わってくる。
そういえば、ジュエルシードは確かこの子が見つけたんだったっけ……?
それを回収するためにたった一人で、知らない世界へきて知らない人たちのために戦っていた。
凄く、優しい子だ……。
それに、ずっとそばにいてくれたアルフも……。ずっと見てくれていた。
なのに、母に認められることを第一としてしまいアルフの思いすら理解しきれずに〝知ったつもり〟になっていた。
いっぱいいっぱい、心配してくれたのに……。
いつも、いつもでも一緒だったのに……。
誰もが皆。
こんなにも、自分を見てくれているのに……。
自分の全てが終わったつもりになっていた。
まだ、『始まってもいなかった』それを、終わってしまったと勝手に思った……。
【まだ、自分の可能性は消えていないだろうか……?】
それは恐らく、自分自身が決めるものなのだ、ということをなんとなく悟った。
――――まだ、自分自身の全ては……始まってすらいない。
それを知ったとき、手の中に有った自身の相棒『バルディッシュ』が再び起動した……。
自分もまだ終わりたくないというように……。自分も付いていると告げる様に……。
この子もずっとそばにいた。
そんな当たり前のことすら忘れていたのだろうか……?
あの真っ白な少女と戦った時に、彼女が言っていた言葉……。
「捨てればいいって訳じゃない………。逃げればいいわけじゃ………もっとない…」
そうだ。
逃げるな。
上手くできなくてもいい。
今自分にできることを……。
そして、今自分ことを助けてくれたあの人が、苦しんでいる。
まだ呆然となっていたが……確かに聞いた。
彼の絶叫――心の悲鳴を。
ならば――助けにいこう……。
今度は――私の番だ。
そして終わらせよう……。【これまでの自分を】……。
そして始めよう……。まだ始まってもいなかった、自分の全てを――――
――――【本当の自分】を始めるために……!
こうして、少女は……再び光の中へと歩を進めていく。
フェイト復活、でした。
このまま、後編へと続いていきます。