彼らの前に姿を現したのは意外な人物だった。
「ブラッド・・・」
「なんで君がここに?」
彼らの目の前にいるのはこの世界にロードたちが来てから幾多も戦闘を繰り返してきた傭兵「ブラッド」その人である。
「君はヴィンセントの傭兵の筈だ。だからプレシャス・チルドレンであるティナを」
「細けえことは知るか。」
九重の会話を遮りブラッドはロードを静かに道路のアスファルトへと置いた。
「俺は兄貴・・・ヴィンセントに捨てられた傭兵だ。」
「!!?」
二人はその言葉を聞いて愕然とした。唯一ガンバライダーと互角に戦った兵士であるブラッドを捨て駒にするなど考えることすら出来なかった。
予想外を超える予想外に二人は困惑して目を合わせた。
ブラッドは一度俯くがすぐに顔を上げた。
「だから俺は兄貴に、ヴィンセントにもう一度問いただす必要がある。この計画の真意、そして兄弟である俺を捨てた理由。」
「分かった。」
「ちょっ九重くん!?」
ファルファラが差し出した右手を払ってファルファラの肩を抑えた。
「ロードが倒れている今、戦える戦力は僕とあなただけだ。勝つためには彼の力が必要なのは明らかです。」
ファルファラは九重の目を見つめた。これまでの彼には見えなかった鋭く強い目つきだった。
「・・・そうね。」
敵と組んでまででもこの戦闘を切り抜ける覚悟。彼女は彼のその目を見た以上認めるしかなかった。
「よし、決まりだな。ヴィンセントのところまで案内する。」
二人はそれぞれのバイク、そしてブラッドはロードのバイクに跨った。
「なんだアイツ使いにくいバイク乗ってんな。」
「調整した僕に対する文句かそれ?」
「あっ、悪い悪い。行くぞ!」
ブラッドに続くように二人もエンジンに点火して走り出した。
-またこの世界だ-
少年はこの光景を見たのは一度ではなかった。
なのはの世界で決戦を終えた後に眠った彼は全く同じ光景を目にしている。
暗く、冷たい闇の中に一人置き去りにされている。助けなど見えずただただ冷たいだけだ。孤独と闇の中でチヒロはこれまで起こったことを思い出した。
「俺はまた・・・。」
チヒロは自分の起こした事態を思い出して強く拳を握りしめた。
ナーベルと戦い、闇を振り払ったもののティナは攫われ、そのまま自分は倒れ込んだ。フェイトを守れなかったあの時の自分と全く同じだ。
守るべきもののため、大切なものを救うために自分は戦い続けていた「つもり」だった。だが、蓋を開けたらどうだろうか?
フェイトもユキカゼもティナも誰も彼も自分とアクートの戦いに巻き込まれて傷つき、悲しみへと突き落とした。
そして自分はこの戦いに巻き込んだ当事者にもかかわらず沢山の人に何もしてやれなかった。ただ戦いに巻き込んで人を傷つけただけだ。
「俺は・・・。」
「自分一人で背負い込めるものだとでも思っていたのか?」
チヒロはふと顔を上げた。そこにいたのは白と緑を基調とした仮面ライダーだった。もちろんチヒロはその人間が誰なのかも弁えている。
「仮面ライダー・・・斬月。」
かつて仮面ライダー鎧武の世界でユグドラシル・コーポレーションの主任として世界と戦い続けた仮面ライダー「斬月」。そしてその変身者である「呉島貴虎」その人だった。
「俺の質問に答えろ。お前は全て一人で背負い、戦い続けるつもりだったのか?」
「・・・あぁ。皆を俺の力で救えるって・・・そう思ってた。」
斬月はチヒロへと歩み寄り、その手を差し伸べた。
「そう思うのであればお前は間違っている。なぜならお前は既に沢山の人の光を受けたからだ。」
「・・・光?」
「これまでお前が出会った人たちはお前に沢山の光を与えた。そしてその光が今のお前を作っている。」
チヒロはふとこれまでの記憶が走馬灯のように走り出した。
ミッドチルダやビスコッティ、そしてこの街で出会った沢山の人達。自分は戦いに巻き込み傷つけただけじゃなかった。
自分は誰かに何かを与え、そして影響されるように自分も与えられていた。そんな簡単なことにさえチヒロは気付けなかったのかと頭を掻いた。
その姿を見た貴虎はチヒロへと背を向けて歩き出す。
「斬月!!」
貴虎は歩みを止めて少し首をこちらに向けた。
「お前と出会う次の時、その輝きがどこまで進化を迎えているか楽しみにしている。」
貴虎が去って行ったと同時にチヒロも少しずつ瞼が開いた。
「う・・・うぅ。」
「おっ、起きたか!」
チヒロが瞼を開けた目の前には自分のバイクを平然と使う男の姿があった。無論それが誰なのかも背中で理解した。
「ブラッド!!?」
「あーうるせえうるせえ。静かにできねえかな。」
「仕方ないでしょ?あなたが味方になるなんて誰も思ってないわけで」
ファルファラがブラッドにそういうと、チヒロはその言葉少しずつ状況を理解した。
「チヒロ、大丈夫かい?」
「あぁ、問題ねえ!こっから突っ走るぜ!!」
三台のバイクは加速して一気にヴィンセントのアジトへと飛ばして行った。
ヴィンセントはワインを片手に上がり続ける綺麗な満月を見ていた。
「そろそろかしら。」
ヴィンセントはワインを置いてソファへ座り込んだ。弟であるブラッドはおそらく捨てた自分を憎んでこちらへ兵を進める。彼にとってはそれが容易に想像出来た。そして彼が組むであろう協力者が誰なのかも。
「ガンバライダー・・・ねえ。」
彼にとっては俄かに信じられない。これまで世界を救ってきた仮面ライダーという存在の噂は耳にしていたが、この世界にまでくるとは思っても見なかった。
これもまた巡り巡った運命なのかもしれない。
そんなことを考えているとドアのノックが鳴る。戦闘配備に全兵を向かわせている今、ノックをしてくる人間などいないはずなのだが・・・。
「入れ。」
そこに入ってきたのは全身を純白ともいえるスーツを着た青年だった。ヴィンセントはこの男も組織も理解していた。
「財団X・・・か。」
-財団X-
各世界に拠点を置いて研究を続ける研究機関。というのが表向きの姿らしいがその裏ではモンスターを作り世界征服を目論んでいる。という何とも悪役のような企業だ。
そして目の前にいる男は財団Xの研究機関でも権威の位置にいる「カズ・ジュン」だった。
「大手研究機関であるあんたらがこんなところで何の用だ?」
「戦うつもりもないのにそんな目線を向けられるとは・・・私、悲しいです。」
ヴィンセントの警戒した鋭い眼差しにカズは平然と答えた。そして話を続けた。
「現在この世界では現在大きな歪みが発生しています。」
「・・・あのガンバライダーとかいうやつらの仕業か?」
カズは頷き話を続ける。
「そして各世界から歪みに触れたものが何人かこの世界におちてきたようなので、あなたに報告しようと思いまして」
「勝手にしろ。俺には関係のねえ話だ。」
「分かりました。こちらの好きにさせてもらいます。」
そうカズは言い残して部屋を出た。ヴィンセントは部屋の時計に目線を向けた。おそらくブラッド達がくるまで一時間といったところだろうか。
「軍を進めるか。」
ヴィンセントは指示を飛ばすための通信端末を手に取り、そのまま彼も部屋を去った。
カズは長い廊下を歩きながら携帯電話を手に話をしていた。
「えぇ、まさか予想外でした。」
カズ達からしてみれば時空の歪み、そしてそこからくる来訪者を放っておくなどという答えが出るとは予想もしていなかったのだ。始末もこちらに任せるのだから助かるには助かるのだが・・・。
「目的と違うとはいえ彼女達も大事な"駒"なので、こちらで丁重に扱いますよ。」
電話を切って資料を眺めた。これまでこの世界に紛れ込んだ人々のリストだった。彼の目に止まったのは一人の少女だった。
「ポケットモンスターの世界・・・クリスタル。」
おそらく駒にするには最適役であろう。カズは不敵な笑みを浮かべて空を見上げた。
彼女はこれまで数々の巨悪と戦ってきたそうだ。そう自分たちが憎むべき対象"仮面ライダー"のように・・・。