Cの邂逅/絡み合う糸
百億ドルの街を救ったチヒロ、ロード、そして九重は変わらぬ夜の街をファルファラの何所であった古びたマンションから見つめていた。
「こう見ると綺麗なんだがな・・・。」
「だね。裏にあんな奴らが蔓延ってると思うと背に虫がいる気分だよ。」
九重は冗談めかしくそう笑った。
裏には何億ドルも借金をしてここを作り上げたとされるコステロの存在があり、そしてそれの借金を返すべく取り立てるヴィンセントの姿があったという事実がある。
ファルファラが布団から出てくるとチヒロはファルファラの方を向いた。
「ん?ちと煩かったか?」
「ううん。ただ起きてきただけよ。」
ファルファラは目をこすりながらそっとチヒロたちの横へと座り込んだ。彼女だけは窓を見ずにそこにいたティナとブラッドを見ていた。
「私は歌姫として利用しながら彼らに利用されていた。覚悟はあったつもりだったけど甘かったのかもしれないわね。」
九重はファルファラの方に目を向けて再び街を見た。彼女の目は少し寂しそうでどこか違うところを見ているようだった。
「でも楽しそうだったよ。あなたがライブに行く前の笑顔は戦闘の時では考えられないほど綺麗に笑ってた。」
九重の言葉にファルファラは半分にやけたような顔で頷き、チヒロのユニゾンブレスをそっとポケットに入れた。
「あんたいつの間に・・・?」
チヒロが驚いた顔を見せるとファルファラは笑顔でそっとチヒロたちの方を向いた。
「私たちのルーンを少しだけ託してあるわ。行っちゃうなら二人がイチャつく前に行ったほうがいいでしょ?」
あー・・・。と二人が微妙な表情を浮かべて苦笑いした。そんな微妙な表情を浮かべるのも無理はない。
昨日の夜、ティナとブラッドに血縁があるという話になった時のことだった。
無論姉からその話を聞かされていたティナと真実を知ったブラッドは姉の話や自分たちの話で大いに盛り上がった。というかここまでは良かったというべきだろうか。
本当にキツかったのはこの自分たちの話が終わった後である。
「やっぱりブラッドおじさんだ!」
「そうだぞ〜!お前やっぱ姉ちゃん似で美人じゃねえか〜!」
こんな調子で現在の約二時間ほど前、トータルにして三時間ほど騒いで眠ったのである。
勿論テンションのボルテージは最高潮なので彼ら三人に寝ることを許されなかった。
もはや起きていて眠気が吹き飛び、暇を持て余したのがロード、九重の状態だった。
「しかしアンタはよくあの状況で寝てたよな・・・。」
「ファルファラさんだけ寝てたものね・・・。」
あの騒ぎの中ファルファラは端で寝ていて布団と毛布を握りしめていたのだ。絶対に起きないという強い意志すら感じさせた。
「あ・・・あれは疲れただだけで普段は絶対あんなことないのよ?」
二人がフフッと笑いをこぼすとどこかツボに入って笑いが堪えられないチヒロとロードが人格が変わった。
「ファルファラさんもここを去るんですか?」
ファルファラは立ち上がって彼らと同じく街を見た。街はいつもの賑わいを見せ、カジノは潰れたもののそれでも変わらずに復興しようと取り組んでいた。
「・・・私がここにいる意味もなくなったし、ここにはいられないわね。」
九重とロードは窓から離れてゆっくりとドアの方へと歩いて行く。ファルファラもその方向から彼らもここを去るのだろうと察した。
「じゃあ、次に会うときはあなたの歌を聴かせてください。絶対に会える約束です!」
九重が振り返ってそう言うと、ファルファラは笑顔で頷いて手を振った。
二人はそれを見ると一礼してそのドアを開けて去って行った。ファルファラはそのドアが閉まるまでずっと手を振り続けた。
「・・・ありがとね。あなたたちに出会えたことが本当に楽しかったわ。」
そう呟くと再び栄える夜の街を一人眺めていた。
マンションを去ったロードと九重はバイクに跨り、GRZ社側からワープの指示があるその時まで待っていた。
「最初はどうなるかと思ったな。」
「全くだよ。」
九重は半ば呆れ気味でそう返した。
最初にレイシフトをミスして突き落とされ、そして彼らはティナという同一の目的のために街を焼き払うほどの戦闘を行い、果てには倒す目標であるアクートとも組んだ。本来彼らがするべきをことを色々すっぽかした状態でこの役を終えたのだ。
「しかしアクート・・・か。」
今回の戦いで彼は自分たちと共同戦線を組む形でコステロ、ナーベルを討とうとした。それは敵と認識していたチヒロたちに驚きそのものだった。
「しかしアクートは何が目的だったんだろうね。」
チヒロはさあ。と首を横に振った。
「でもファルファラさんが言ってた"何者か確かめる必要がある"っていうのはこれからの俺たちの動きにも加える必要がありそうだな。」
結果として自分たちがアクートについて何も知らなかったという事実は確かなものだった。今回彼が手を貸したのも自分たちを"完全に敵と見なした"行動ではないことは確かであり、彼が逃げ出したことにも理由があると見ていいのではないだろうか。
チヒロはそう頭で回転させるも"何故逃げたのか""彼の呼ぶ友の存在とは誰なのか"この二つの疑問が頭をループする。
「まあ、頭ごなしに考えたって仕方ないんじゃない?」
ロードはチヒロへとそう問いかける。今考えたところでアクートの真実は見えてこないしそれを今知ってもどうすることも出来ないことは明らかだった。
「・・・だな。俺たちは俺たちのできることを今しよう。」
チヒロたちがバイクのエンジンをかけて走らせようとしたその刹那だった。
「ーーーー!!!」
「っ!!?」
チヒロは後ろへ方向転換してそのままバイクを走らせた。九重は気付かず前進し、そのまま進んで行った。
チヒロたちはバイクをフルスロットルでは知らせる。そのスピードは道を走る車を次々に追い抜くほどだった。
「聞こえたな!!」
「あぁ、でも今のは一体!?」
頭に電流のようなものが流れて彼らへと何かの信号を送った。それを示唆するものが何かは分からない。
だが、彼らは電流の示した道へと走り続ける。-そこに救いを求める人がいる限り絶対に-
逃げ回る少女は街を超えて林を抜けて行く。その道の行く先は少女にもわからず、また追っ手である-モンスター-にすら分からない。
少女は決して後ろは振り返らないと必死に前を見て走り、右そして左へと何度も道なき道を切り開き進んで行く。
「無駄だ・・・。人と俺たちが同じ体力であるはずがない!」
モンスターの追っ手は彼女が今感じている気配だけでも四体、恐らくそれ以上いることは大方予測出来た。
「何なんですか・・・。」
少女-クリスタル-は走り続けてずっと林を走り続ける。
クリスタルの体力も限界に近づいており、その足取りは少しずつ重くなり進む速度が遅くなっていく。
「でも・・・。」
彼女の頭には仲間たちの顔が浮かぶ。こんなところで死ぬわけにはいかないと重い足を無理矢理にでも走らせた。
「潮時か?」
少女は足を止めると化け物の方を向いた。モンスターたちは木の上からクリスタルを見つめた。
「どうした?鬼ごっこは終わりか。」
「はい終わりです。ここであなたたちを・・・!!」
彼女は懐からボールを取り出すとそのボールから生き物を召喚した。
「めがピョン、からピョン!あのモンスターを倒しましょう!」
「ふん、"メガニウム"と"カラカラ"・・・"ポケモン"とやらのデータにあったものに違いはないようだな。」
二匹のポケモンはモンスターたちに攻撃を開始し、めがピョンと呼ばれたメガニウムは葉をカッターのように飛ばし、からピョンと呼ばれたカラカラは自分の持つ骨をブーメランのように投げた。
モンスターたちは散らばり、その攻撃を鮮やかに躱していく。
「あなたたちは一体何者なのですか!?」
少女の言葉にモンスターは答える。
「我々は財団Xの捕獲部隊。君と同じ-捕える者-とでも言っておこうか?」
少女は自分の持つ端末-ポケモン図鑑-を強く握りしめた。辺りを見ながら散らばったモンスターたちの様子をうかがう。
「どういうつもりですか?」
彼らは攻撃を仕掛けるどころかずっとポケモンの攻撃を避け続ける。ポケモンたちはそれを追うように攻撃している。
「おかしい・・・。」
自分が指示していないのにポケモンが勝手に動いているのだ。まるでその姿は操られた人形のようだった。
「お気付きかな・・・?」
クリスタルの背後へと回ったモンスターはそっと呟いた。
クリスタルはモンスターから距離を取るように前へと前進した。
「この"パペティアードーパント"の力は操り人形。君のポケモンを少し操らせてもらったよ。」
「なんてことを・・・!!」
少女から見える怒りの目、その怒りの目をパペティアーは嘲笑うように見つめた。
「良いねえその怒りの目、じゃあこういうのはどうだろうか?」
「っ!!?」
パペティアーが指を動かすと、メガニウムはツルを伸ばして後ろからクリスタルを捕らえた。
「めがピョン・・・!!」
メガニウムにその声は聞こえておらずその強い力でクリスタルを絞めあげていく。
「っ・・・!!」
首を絞めあげられて声も出ずその場でもがき続けた。
「いいねぇその絶望の顔、君ももうリタイアしてもらおうか・・・!!」
メガニウムが空高く打ち上げると、クリスタルはそのまま打ち上げられて空を舞った。彼女は体勢を立て直そうと体を翻した。
「スパイダー…やれ。」
「御意。」
クリスタルは気配を感じて横から飛ぶ糸を間一髪で回避した。
「助かっ・・・!!?」
その糸を蔦のように使い、モンスターがこちらへと近づいてくる。モンスターのスピードは速く彼女はこのまま回避出来なかった。
「ぐっ・・・。」
首を強く掴まれてそのままクリスタルは蜘蛛の巣へと叩きつけられた。クリスタルは逃げようとするが首を掴まれたその状態で逃げるなど不可能に近かった。
「眠れ。」
クリスタルの首へと針が刺さりその針に刺さった瞬間クリスタルは眠りに落ちた。
スパイダーと名付けられた-スパイダードーパント"はそのままクリスタルの両腕両足を糸で縛り、蜘蛛の巣に貼り付けた。
「これであとは持ち帰るのみですね・・・。」
「そうだね。僕らの役割はここまでだから。」
そう呟いたのは"スコーピオンゾディアーツ"と"カザリ"だった。クリスタルは白兵戦が可能という情報もあり彼らが付いて来たが、結局彼らの出番はなくそのまま終わってしまった。
糸の解かれたポケモンたちは主人のところへ向かおうとするが木の上で縛り上げられた主人の元へと向かうことはこの二匹では不可能だった。
二匹の鳴き声が虚しく林の中に響いた。
「無駄ですよ。こんなところに助けに来れるものなどー」
その瞬間、ほかの気配を察知するとパペティアードーパントとスパイダードーパントは逃げようと足を動かした。
「誰だ!?」
彼らの周囲には蝶が舞い、その美しさと何者か分からぬ緊張感で包まれていた。
「あれ?ご存知ないかな?」
「バケモンじゃ考える知恵もねえよ。」
銃を構えて周囲に魔法陣を描く。その赤いボディの戦士を怪人たちは知っていた。
「貴様ガンバライダーか。」
魔法陣を描いた二人の攻撃はドーパントたちを貫き、そのまま爆散させた。
倒されたスパイダードーパントの貼っていた蜘蛛の巣が消滅してそのままメガニウムの背に落ちていった。
「ご名答。俺たちはガンバライダーだ。」
「君たちで相手になると思わないでね?」
そこにいたのは二人の赤いガンバライダー-ロード-だった。