チヒロとロードは二体の怪人に再び戦闘態勢に入り拳を強く握った。
カザリとスコーピオンゾディアーツもまた戦闘態勢に入る。
ガンバライダーという名はこちらのデータにも入ってはいるのだがこのタイプのライダーのデータはなかった。そして同じ個体が二体。
「どういう術式でこれを可能にしたのかな?」
「どちらにせよ我々がやることは変わりない。」
カザリは髪を逆立て一気にロードへと突撃する。鋭い爪が木々へ傷を入れていく。
そしてロードへとあと一歩で攻撃が届くというその時だった。
「甘いねえ。」
振り抜いたその爪は虚空を裂き、その勢いでカザリは空中で一回転した。
カザリはすぐさま受け身を取り立ち上がると周囲を見渡した。
「どういうこと・・・?」
「お前らじゃ俺達に勝てねえってことだ。」
スコーピオンゾディアーツが何かに気づきすぐさまカザリの元へと飛びかかるがすでに遅く、スコーピオンゾディアーツの目の前には赤い目のガンバライダーが首を鳴らしていた。
「そらよっと!!」
チヒロの振った音撃棒はスコーピオンゾディアーツの頭を直撃し、脳の焼かれるような感覚とともに地上へ落ちていく。
「何!?」
カザリがすぐさま逃げようとした時、彼の逃げる眼前には緑色の目のガンバライダーが走ってきていた。
彼の持っていた武器はメタガブリュー、かつてオーズがカザリを滅ぼした際に使用した武器である。
カザリが後ろへ逃げようとすると、赤い目のガンバライダーが片手に稲妻を灯して待ち構えていた。
「チヒロ!サポートは任せたよ!」
「任せろよ!」
チヒロはカザリへとエレクトロファイアを放った。カザリへと向けられた雷撃は直撃、そのまま吹き飛ばされた。カザリはそのまま立ち上がろうとするが異変を感じる。
「何が起こってる・・・?」
カザリを形成していたセルメダルは分解されていく。そのメダルは少しずつメタガブリューに吸われていた。
「君は何を・・・?」
カザリは怯えて逃げようとするがもう遅い。カザリの体は分解され、コアメダルだけとなって落ちていった。
「さあ、あとはこれを」
「あの空に向けてぶち当てるだけだ!」
空へ広がる大きな穴、その存在にはきた時から彼らは気づいていた。
そして彼らはこれだけの力があれば撃ち抜けることもまた確信していた。
"プトティラーノヒッサーツ"
その音声とともに放たれたストレインドゥームは大きな穴へと直撃し、周囲に無言の風圧を与えた。
近くにいたメガニウムたちは必死に地面に食いつくが、クリスタルだけがそのまま意識を失って倒れたままだった。
砲撃が終わると、チヒロたちはその光景に驚きを受ける。
「嘘・・・だろ?」
ストレインドゥームを受けた穴は破壊されるどころか更に大きさを増して侵攻を進めている。遠い彼らの位置でも吸い込まれていく塵の姿が見える。
「どうなってんだよ・・・?」
そして少しずつ歩いてくる男の気配に気づい
たチヒロはガンバソードを召喚し男に刃を向けた。
「敵意はありません。私、悲しいです。」
チヒロは獣のような鋭い視線を男に向けた。恐らく一歩でも近づけば突き刺される。冷淡な表情を見せていた男でも彼から放たれる威圧感は感じ取ることが出来た。
「私たちの名は"財団X"、あなたたちに交渉をしに参りました。」
「交渉だと?」
ロードが近づいてチヒロのガンバソードを下げさせた。そして彼より一歩前に出る。
男も彼らの交渉の意思を感じ取ったのか、一歩前に近づいた。
「内容は?」
「あなたたちの力を解析させていただきたいのです。」
「解析だと!?」
チヒロは驚愕の表情を浮かべた。
彼らからしてみればこのドライバーも全て機密情報、漏洩など起きようものなら自分たちが真っ先に抹消されることは言わずもがなだ。
「もちろんあなたたちの強化も含めて、なら条件はいかがでしょうか」
「断る。」
ロードははっきりそう言って去ろうとしたその時だった。先程まで後ろにいた少女がいないのだ。無論気を失っていた彼女に立つ力などない。
嫌な予感を感じ取ったロードは男に視線を再び向ける。男の余裕そうな表情が崩れることはない。
「そこにいた子供なら私たちが拘束しました。彼女も必要な"材料"なので。」
「っ!!」
ロードが殴りかかろうとしたその時、チヒロが手を止めた。ロードは必死に振り払おうとするが彼の力は強く、ロードの力では振り払えない。
「お前のその条件、乗ってやる。」
「チヒロ!?」
彼の交渉はあまりにもハイリスクすぎた。誰かも分からない人間にガンバドライバーを渡すなど、組織としてありえない行為である。
「分かりました。ではこちらに。」
男はロードたちに手招きをして誘って行く。
チヒロもわかっていた。これが正解ではないこと、この一件が誰かを犠牲にしてしまうかもしれないということも。
ガンバライジング社では九重からの通信で状況が一転、慌てふためいていた。
ロードがいなくなったという通信を受けてから早一時間、檀を中心とした捜索チームが編成され、急速な対応が行われている。
「ロードがいなくなったというのは本当かい!?」
檀の通信に九重は頷く。彼としても迂闊だったのかいつもとは違い重い表情を浮かべた。
彼としても監視係とはいえこれまで旅をしてきたパートナーだ。檀もそこまで理解がないわけではない。
「僕の油断が引き起こしたことです。僕の方でなんとか」
「そりゃならないなぁ。」
そこへと声を割いたのは恵田だった。恵田はガンバドライバーを手にとって、外へと出ようとした。
「どこへと行くつもりだ?」
檀の言葉に不敵な笑みを浮かべる。何かを企んでいるのは言うまでもなかった。
「勿論、そいつの探索さ。命令無視の痛い"お仕置き"も兼ねての話だが。」
檀が止めようとした時には既に遅かった。もう恵田は出て行っていた。
彼もまたこの場所では何人もの上司の部類に入る。恐らく彼が部隊を動かすのも時間の問題だろう。
どうしたものかと考える檀は一つ案が浮かぶように笑みをこぼした。
「九重くんの事情は分かった。こちらに戻ってくる前に恵田くんを止めてきてくれないか?」
「了解しました!」
九重はそのまま通信を切ってバイクを走らせた。
檀はすぐさま携帯を取り出して、ある人へと通信を送る。
宛名には"BLAZE"の名が書かれていた。
もう沈んでしまった廃墟ビル。そんな暗く汚い場所に彼はいた。
ソルジャー・スタンス
スタンスに与えられた名はその一つではあるが、彼がどう生まれ、何を目的としていたのか、そこまで彼が知ることではなかった。
スタンスが雑居ビルの中へと入っていく。おそらく人なんてこの暗い場所にはいないだろう。そう、スタンスともう一人のソルジャーを除いて。
「やっと帰って来たの?」
スタンスはその貧弱そうな体を突き飛ばして席に座った。その声をかけた主はスタンスへと近づく。
「もう!君からぶっ殺すことも出来るんだからね!」
その瞬間、お互いの刃が首筋に置かれた。緊迫した間が一瞬続いたと思うと二人は剣を納めて離れていく。
彼のコードネームは「HAPPY CHILD」、スタンスと同じく作り出された"ソルジャー"である。
ハッピーチャイルドはその貧弱そうな体をクネクネと動かしながらスタンスから離れていく。そして首を一八〇度回転させるとそのままスタンスに一二歩歩み寄った。
「で、例のターゲットは殺ったの?」
スタンスは黙り込みながら首を横に振った。それを見て"つまんない"とハッピーチャイルドは首を元に戻した。
「まあ、いいよ。」
スタンスの横にナイフを投げた。ナイフは回転しながら壁に刺さった。
「僕がそいつらをぶっ殺してあげる。」
そう楽しそうにスタンスに伝えるとハッピーチャイルドは部屋から出て行った。
「・・・貴様では不可能だ。」
スタンスは自らのデータを整理した。あのガンバライダーのこと、そして組織の計画のことを。
「・・・。」
あのガンバライダー"ノヴェム"とか言った。恐らく奴がこちらを解析するのも時間の問題であろう。そしてそれが時を同じく"組織の計画"の障害になることもなり得ない。
「・・・策を打つか。」
スタンスは刺さったナイフを取り、そのまま壁へと投げつけた。
自分がどうであれ関係ない。兵器として-任務を遂行するのみ-