ガンバライダーロード   作:覇王ライダー

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守りたいという想い

ー財団Xの最深部ー

ここは限られた人間しか入れない領域であり、入った人間は数人ほどしかいないという。

辺りを見渡せばそこには実験材料となった獣や人間、挙げ句の果てには怪人の死体まで転がっていた。

そんな場所にロードはいた。そこは血生臭く鉄のような匂いがプンプンしていた。

「こんな広い場所がここにあったとはな・・・。」

カズからはここは支部の一つでそんなに広くはない。という話を聞いていたが、支部にしては地下設備にこの開発に出た残骸たちを見るととても支部の規模を超えているように見える。

無論、彼らも無断で入ったわけではなくカズに見てこい。という御達しがあって今に至る。

「血生臭いところでよく仕事できるよね。ホント臭いがきついよ。」

ティナを捕らえていた牢獄のところでも感じたのだが、本当にこんなところでよく仕事ができるな。おそらく彼らなら2分も持たずにギブアップしているところであろう。

そう感じながら彼らは奥へと最深部へ進んでいく。その血生臭さはドアから離れるほどにその臭いはきつくなっていく。

その奥底にー彼女ーはいた。

「クリスタル・・・。」

「どうして私の名を・・・?」

クリスタルはチヒロへと疑問を投げかける。あの時気を失っていた彼女にとっては初対面の人間になるのだから無理もない。

「俺はチヒロ、二重人格の兵士だ。」

「は・・・はぁ。」

何となくわかるガサツな挨拶をされたところでチヒロはクリスタルがいる台の横に座り込んだ。

辺りは真っ暗だが、うっすらと見える光でチヒロのことを認識している。

チヒロは小さくため息をついて話し出した。

「俺はあんたを助けられなかった。」

「どういうことですか?」

クリスタルの疑問は膨らんでいく。否、何となくはつかめたがその靄が消えないというのが正しいだろうか。

ロードは「変わって。」とどこか落ち込んだ様子のチヒロを引き下げて人格を変更した。

「クリスタルさん、僕らはあなたとあなたたちのパートナーを庇うためにここにきました。」

「おいロード!!」

チヒロの言葉に黙っててと一蹴する。

「だからこそ僕らはあなたを救う必要があってここに来た。」

なるほど。とクリスタルは縦に首を頷く。

彼女の手には重そうな手枷が付いており、足は鉄の鎖で縛り付けられていた。

どうやらこの財団は子供相手にも容赦がなく冷酷な人間揃いらしい。

「あなたたちは先に逃げていただけませんか?」

ロードは言葉を失った。呆然とするロードをよそに話を続ける。

「恐らくここにいてはあなたたちの命も危ないです。私一人ならまだしもあなたたちまで」

「逃げられるわけねぇだろ。」

チヒロはクリスタルに対してそう呟いて、彼女の華奢な肩を掴んだ。クリスタルは驚いて背を後ろへ伸ばした。

「俺は絶対目の前の命を見捨てたりしない。もしアンタが死にかけた時は俺が守り抜く。」

クリスタルは彼の言葉に頷くことしか出来なかった。彼の言葉に圧倒されるがまま何度も頷いた。

「だからアンタも生きることを諦めんなよ。」

チヒロも納得したのか頷いてクリスタルに背を向けた。

「待ってください!!」

クリスタルの言葉にチヒロの足が止まる。ロードは彼が止まったことに疑問符を抱いた。

「きっといつかあなたにお礼をさせていただきます!!勇気をありがとうございます!!」

チヒロはゆっくりと歩き出す。彼がするべきはこうじゃなかったのかもしれない。でも・・・それでも

 

ー行ったかなー

クリスタルはチヒロが行ったことを確認すると緊張が解けたのかずしりと重い手枷と共に座り込んだ。

捕まった身のクリスタルはここから動くことも出来ず、先ほどまで呼び出せたメガニウム、そしてカラカラたちもこうも重い手枷と鎖が付いていては呼び出すことも出来ない。

「・・・私が足でボールを使えることも分かった上なんでしょうか。」

クリスタルは少し落ち込んだ様子を見せるが今はそんな時ではないと思考をすぐに変換させた。

自分がここにいる真意すら掴めない彼女は恐らく手枷足枷が付いてなかったとしても情報を集めることすら困難であろう。

それにこんな真っ暗な闇の中だ。自分を襲った怪人たちのような化け物が急に出てきたっておかしくはない。

そう難しいことを考えてしまうともしかしたら諦めのつく手枷があってラッキーだったのかもしれない。

そう思った時先ほど言われたチヒロの言葉が脳をよぎる。

「生きることを諦めるな・・・ですか。」

無理難題を通して奇跡すら起こす力を彼女はこれまで幾つも見てきた。

今頃彼は何をしているだろうか。自分が元々いた世界で私を探しているのだろうか。

そんなことを思いながら小さく呟く。

ーゴールドさん、私は今ここにいますー

 

百億ドルのネオンが輝く街、今はその面影はなく、吹き飛ばされた街の残骸だけが残っていた。

「ホント派手にやってくれたねぇ。」

烈火はゆっくりとその街を歩いていく。だが

「妙だ・・・。」

烈火はすぐにその違和感の正体に気づいた。

商業施設などが吹き飛んでいるのは確実だが、一般市民の住む家屋・アパートなどは破壊されていないのだ。

これで戦った相手は相当の手練れか幸運の持ち主とも言えるのかもしれない。

そんなことを思いながら瓦礫の山を進んでいくと、一人倒れる男がいた。烈火はその存在が誰かすぐに察した。

「ガンバライダー ノヴェム“九重 一成”」だね?」

九重もまた自分の名を知るGRZ社の人間であることを察した。

「あぁ・・・、情けない姿で申し訳ない。」

彼の優しそうな声とボロボロになった身体でああそうか、彼がこの街を守ったのかと。

烈火はその手を九重へと伸ばした。

「情けないなんて言わないでくれよ。アンタはこの街を守ったヒーローそのものさ。」

「ヒーロー・・・か。あいつなら否定してただろうね。」

九重は差し伸ばされた手を掴みゆっくり立ち上がろうとした。だが

「ッ!!!」

九重はフラついた後そのまま地へと倒れ込んだ。

「おい!」

烈火がその手を振り上げようとした時は遅かった。九重は顔を地面につけてそのまま立ち上がらなかった。

否、“立ち上がれなかった”のだ。烈火は容態をすぐに察した。

「まさかアンタ・・・折ったのか?」

「折ったっていうか折れたかな。」

九重は苦笑しながら烈火へと呟いた。彼の足はもう使い物にならないことが目で見ても伺えた

彼が立ち上がれないことを確認すると烈火はすぐさま電話を取った。

「こちらブレイズ、ガンバライダー負傷中。至急応援を求む。」

烈火がそう言い電話を切ると立てない九重へと寄り添った。彼女の赤い髪が風でなびく。

「で、アンタを折った強者様はどこに逃げってった?」

九重はゆっくりと指を指す。その先には遠くにここからでも見えるくらい大きな森があった。

「おそらく奴は向こうに行った。僕の相棒もきっとそこにいる。」

オーケー。と烈火は言ってその方向へと歩いていく。

長らく旅をしていたとは聞いていたが、まさか職員の兵器が人間らしくなるなんてね。

彼女の中で何となく嬉しい気持ちが湧いた気がした。

救護班が来た時にはもう烈火はおらず、九重たった一人だった。

「やっと来たか。」

九重は倒れこみながらそう呟いた。

烈火が呼んでくれてから恐らく30分近く経った上でのご登場、少し遅いような気もするが救われるだけマシかと九重はため息だけで済ませることにした。

救急隊員たちはヒソヒソと話を始める。

「ブレイズさんの本性見たかったよなぁ。」

「ホントそれ、都市伝説ではアイドルらしいけどどうなんだろうな?」

「男の声だしそりゃないっしょ!」

九重はその言葉を聞いていくたびに疑問符が浮かぶ。彼女はボイスチェンジャーを使っているのか?いやというか何のために?

さまざまな疑問は救急隊員によって遮られる。

「九重さんもういいっすかね?」

救急隊員の声に慌てて九重は「はい!」と答える。

どうやらあの烈火という子にも何か事情があるようだ。

彼がそれを知るべきか否かは、今の彼の思考回路の中にはないのだった。

ーGRZ社本社ー

GRZ社の本社では檀が様々なところへと電話しており、その都度「そうか・・・。」と残念な声が上がる。

「お呼びかい?」

そんな中、彼が最も信頼の置く男は即答でオッケーを出してくれた。

「朱崎!!」

檀は嬉しそうに朱崎の手を握った。相当人が集まってないんだろうなと今の段の様子を見るだけで察した。

「君も人集めに手を貸してくれないか!?」

「はぁ!!?」

俺は人事部か何か!?そんな人望が一社員の俺にあると思ってんのかこいつ!?

そんなことは胸の奥にしまって朱崎は檀へと話す。

「あのね、出来ることと出来ないことがあるんだよ?」

檀は朱崎を見た。朱崎はその目を見て長い付き合いの推測で諦めてないことをすぐに察した。

「君には次期社長を継いでもらおうと思っていたのだが・・・残念だ。」

「おい待て今サラッと衝撃発言しなかったかお前!?」

「ということで手伝ってくれェェェ!!!」

ホントこいつ無茶苦茶言ってくるな。そうは思うが結局権力の差かそれとも長い付き合いの差か泣く泣く手伝うのだった。

 

財団X支部ではカズを中心に研究を続けている。

勿論奥底で捕らえているクリスタルもまた実験隊の一つである。

「ワールドコアの研究は順調ですか?」

「勿論です。」

ーワールドコアー

その次元世界を司るコアでありそのもの自身が世界であると行っても過言ではない。

そのワールドコアは世界に複数人いる場合があり、クリスタルもまたワールドコアの一人であった。

かつて大ショッカーはこのワールドコアのシステムを利用、ワールドコア同士を叩かせることで融合と消滅のオーバーロードを起こすという何とも大胆な作戦に出ている。

尤も、彼らの作戦は自らが作り出した“ディケイド”によって失敗に終わったわけだが。

「しかしあれほどの力があれば我々も」

大ショッカーは失敗に終わった。しかし財団Xは違う。彼らよりも技術力のある我らなら。

そんな根拠のない自信だけが今のカズを動かしていた。

「カズ様!!」

「何ですか?」

カズがモニターを開くとそこには五人のガンバライダーが各々壁を超えながらこちらへと進んできているではないか。

しかし敵がいると分かればコチラが出向いて倒して仕舞えば終わる話である。

「怪人を出撃させなさい!!」

怪人たちは次々へと森へと出て行き、ガンバライダーたちへと襲いかかった。

しかし、ガンバライダーたちによって次々に消滅されていく。

「カズ!!」

チヒロが来た時には遅かった。すでに怪人たちは消滅してコチラへと進んでいる。

「ここは破棄しましょう。我々が」

「んなこと出来るかバカ!!」

チヒロはカズの胸ぐらを掴みその軽い体を投げ飛ばした。カズはそのまま地面へと叩きつけられた。

「テメェ一人の命だけじゃねぇんだぞ!!ここには幾百の人がいてその人たちが命枯らして戦ってんだろうが!!」

自分たちは許されないことをしている。こんなモンスターを「生きている」と表現してくれるのは彼が初であり最後かもしれない。

「・・・わかりました。これを持って行ってください。」

カズはチヒロにガンバドライバーを渡すと、そのまま受け取って走り去るチヒロを見送った。

「・・・よろしかったのですか?」

カズはその質問に答えなかった。彼にもこの決断が正しいのかはわからない。だがこうするしかなかったのだろう。

 

怪人たちを消しとばしたブリッツは怪人の死体を転がしながら前に進んでいく。

「いやぁ、テーマパークに来たみたいだなぁ。テンション上がるなぁ。」

ブリッツはマーキングするように周囲の木々にボルテックシューターの弾丸を撃ち込んでいく。

今か今かと楽しそうに歩いていると彼の背後に影を感じる。

「グルァァァァ!!」

後ろから襲いかかってきたラットファンガイアを召喚したガンバアックスで殴りつけると殴られた勢いでラットファンガイアは吹き飛んでいく。ラットファンガイアが立ち上がると、ゆっくりと黒いアーマーを纏ったガンバライダー近づいてくる。

ラットファンガイアにはその目は見えずとも目の前の悪魔が笑っているように見えた。

ブリッツはゆっくりとラットファンガイアへとその大きな斧を向ける。

「さぁその身体を切り刻んだ時の叫びを聞かせてくれよ?」

ラットファンガイアは逃げようとした。ブリッツへと命乞いをする前に体が動いたのだ。

しかしブリッツはそれを逃すまいとガンバアックスを振りかざした。

「ッ!!!」

ラットファンガイアが目を背け死を確信した時だった。

「烈空・十文字!!」

「烈空・一文字!!」

ブリッツは回避しきれずガンバアックスで防ごうとするがすでに遅く、空に描かれた光の一撃で吹き飛ばされた。光弾を放った二人のガンバライダーはラットファンガイアの前に立ちブリッツへと剣を向けた。

「俺たちに任せてアンタは避難を仰いでくれ。」

ラットファンガイアはそのガンバライダーへと一礼するとそのまま去っていく。

「待て!!」

追おうとするブリッツを赤い二人のガンバライダーは止めるように一気に距離を詰めた。

ブリッツはガンバアックスで二人の攻撃を防いだ。

「・・・なんだ。一礼の一つでも出来るんじゃねぇか。」

「ある意味そこらへんの人間より挨拶できるんじゃない?」

二人のロードはそのまま黒いガンバライダーを突き飛ばすと、後ろに引く黒い悪魔へと近づいていく。

血を浴びたような黒ずんだ赤はまるで血を浴びた処刑人のように見えた。


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