10×40   作:作者B

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今回はウィザード本編52、53話の改変です。


ウィザードの世界

 

 

『助けて―――』

 

「何だ?今の声……このでかい魔法石の中から?」

 

『助けて!』

 

「うおっ!?何だ!?吸い込まれ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何処だ?此処は」

 

士は、光写真館に居たところを謎の魔法陣に引き込まれ、気がつけば見知らぬ森の中に居た。

 

「あの魔法陣の絵、恐らくウィザードの世界だと思うんだが……」

 

急に放り出されて行く宛てもない士は辺りを見回す。すると、近くから草木を掻き分けて走る足音が聞こえてきた。

 

「ん?何だ?」

 

士は物音のする方へと歩き出す。すると、その途中で走っていた二人組の子供が士にぶつかった。

 

「痛っ!」

 

士にぶつかって転んだ子供達。それは、大きな木箱を大事そうに抱えている少女と、彼女の手を引く活発そうな少年だった。

 

「おいおい、大丈夫かよ」

「……コヨミ、行くぞ」

 

だが、少年は士のことを気にも止めず、コヨミと呼ばれた少女の手を引き歩き出す。しかし―――

 

『グォォォ……』

『キシャアッ!』

 

彼らの行く手は、突如として現れた怪人達の手によって阻まれた。

 

「っ!ハルト!」

「あいつら、もう追いついたのか!」

 

ハルトと呼ばれた少年はコヨミと怪人たちとの間に入り、彼女を守るように立つ。だがその手は、決して敵わない相手と相対している為か、小刻みに震えていた。

そんな彼らの様子を見兼ねた士は、二人の方へ歩き出し、少年よりも前に出たところで立ち止まった。

 

「アンノウンにオルフェノクにファンガイアか……随分と纏まりのない奴らだな」

「お、おい!危ないぞ!」

「餓鬼は引っ込んでろ」

 

そう言うと、士はディケイドライバーを腰に装着し、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。

 

「変身」

 

【kamen rider Decade】

 

そしてベルトにカードを挿入し、士は仮面ライダーディケイドに変身した。

 

「ハルト!あれって!」

「仮面、ライダー……」

 

驚く二人を余所に、ディケイドは怪人たちへライドブッカー・ガンモードの銃口を向ける。

 

【attack ride blast】

 

『グォッ!?』

『ギャッ!?』

 

ライドブッカーの分裂した複数の砲台から放たれた銃弾は、ホーミングしながら怪人たちに被弾する。そして、ディケイドは空かさずライドブッカーをソードモードにする。

 

「はぁっ!」

『ギィッ!?』

 

間髪入れず、ディケイドはライドブッカーで怪人たちへ切り掛かる。

 

『グォ……』

 

【final attack ride D D D Decade】

 

怪人たちが怯んだ隙に、ディケイドは再びベルトにカードを挿入する。すると、ディケイドと怪人たちの間に10枚のホログラム状のカード型エネルギーが現れる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

ディケイドは10枚のカード型エネルギーを潜り抜けながら突進し、強化されたライドブッカーの刀身で放つディメンションスラッシュで、敵を両断した。

 

『グォォォッ!』

『キシャァァァッ!』

 

横一閃に放たれた必殺の剣により、怪人たちは爆発した。

 

「まあ、ざっとこんなもんか」

 

怪人たちを倒したことを確認したディケイドは変身を解く。

 

「おいお前ら、大丈夫―――」

「仮面ライダー!」

 

士が子供達の方へ振り返ると、二人は士の台詞を遮るように食い気味に言葉を出す。

 

「ライダー!私たちを助けて!」

「……何だと?」

 

 

 

―――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――――

 

 

 

「人間が怪人になる世界?」

「ええ、そうなの」

 

コヨミの打ち明けた信じられないような話を聞き、士は思わず自分の耳を疑った。

 

「でも、俺たちは怪人になんかなりたくない。だからこの世界から脱出するんだ」

 

まだ士に警戒心を持っているのか、ハルトは少し睨みつけるような目つきで士を見る。

 

「やっと……やっと突き止めたんだ。その方法を」

 

そう言うとハルトは視線を下げる。その手は、彼の硬い決意を表すかのように力強く握りしめられていた。

 

「なるほど。大体分かった。それで、怪人たちはその脱出に使うその秘宝とやらを狙って、お前たちを襲っていたってわけか」

 

そう言って、士はコヨミの持つ木箱に目を向ける。

 

「多分そう。きっと、アマダムの命令で私たちを……」

「アマダム?」

「この世界の支配者だよ。そして、この世界で一番強い奴だ」

 

ハルトはぶっきらぼうにそう答え、コヨミの持つ箱に一瞬視線を向けると、再び士の方へ振り返った。

 

「あいつらは、俺達が探し当てた秘宝を奪うつもりなんだ。自分に歯向かう力になりうる可能性を潰すために。こいつには、多分それだけの力がある」

「だったら、さっさとこの世界から脱出すればいいじゃないか。秘宝はもう手元にあるんだろ」

「駄目なの。この世界の魔力が最も高まる(とき)、地球が空のちょうど真上に昇った時じゃないと」

「地球?」

 

コヨミに言われて空を見上げると、そこには月のように薄っすらと空に浮かぶ地球の姿があった。

 

「この世界は……地球じゃなかったのか」

 

その幻想的な景色を見て思わず零れた疑問は、誰の耳にも届くことがなかった。なぜなら―――

 

「ようやく見つけた」

 

再び、子供たちにとっての招かれざる客が来たのだから。

紅く輝く丸い宝石を模したマスクに、全身を覆う黒い衣。その姿からは、先の怪人たちとは明らかに違う、正義の躍動を感じさせる。

 

「なるほどな。あんたがウィザードか」

 

彼こそは仮面ライダーウィザード。この――正確には今いる世界の外の――世界の仮面ライダーだ。

 

「さあ、その箱を渡してもらうぞ」

 

ウィザードは子供たちに促すように手を差し出す。しかし、コヨミは木箱を力強く抱え、ハルトはコロミを庇うように両腕を広げて前に立ち、ウィザードを睨みつける。

 

「……渡すんだ」

「い、嫌だ!」

 

ウィザードの要求に対して、ハルトは声を震わせながらも力強く叫んだ。

 

「子供のおもちゃを取り上げるなんて、随分と大人気ないんじゃないか?」

 

すると、今までのやり取りを横で眺めていた士は、皮肉交じりの口調でウィザードに話しかけた。

 

「なんだ、あんたは」

「俺は、まあ……こいつらのお目付け役、ってところだな。―――変身」

 

【kamen rider Decade】

 

そうして、士は再びディケイドへと変身し、ウィザードと相対する。

 

「ッ!?あんた一体!」

「ほら、さっさと行け」

 

驚くウィザードを無視し、ディケイドは二人に逃げるよう促す。それを見たハルトは、横目でディケイドの姿を捉えながら、コヨミの手を引いて走りだした。

 

「あっ、待て!」

「悪いが、そうはいかない」

 

二人を追おうとするウィザードの行く手をディケイドが遮る。

 

「どいてくれ!今はあんたの相手をしてる暇はない!」

「残念だが、お前には少し付き合ってもらうぞ。はぁっ!」

 

慌てるウィザードを余所に、ディケイドはライドブッカーを握り、ウィザードに斬りかかる。

 

「ちぃっ!」

 

【Lupacchi Magic,Touth to Go】

【Connect please】

 

ウィザードはディケイドの一撃を、魔法陣から取り出したウィザーソードガン・ソードモードで受け止める。

 

「だったら押し通させてもらうぞ!」

 

ウィザードは腰に着けている指輪を1つ取り出し、左手の中指に填める。そして、指輪を填めた手をベルトに翳す。

 

【Hurrycane please】

Air(フゥ),Air(フゥ)!Air(フゥ),Air(フゥ),Air(フゥ)Air(フゥ)!】

 

宝石を模したマスクは緑色の逆三角へと変わり、ハリケーンスタイルとなったウィザードは、全身に風を纏い飛翔する。

 

「はあぁぁっ!」

 

そしてディケイドから離れた上空で、ウィザーソードガン・ガンモードから風を纏った弾丸を発砲する。

 

「ちぃッ!」

 

自身の攻撃は届かないディケイドは、為す術なくウィザードによる一方的な銃撃に晒される。

 

「だったら、こんなのはどうだ!」

 

【kamen rider OOO】

 

ディケイドはライドブッカーからカードをベルトに挿入し、仮面ライダーオーズ/OOO・タトバコンボへと変身した。

 

「ッ!姿が変わった!?」

「はぁっ!」

 

ウィザードが気を取られた隙に、Dオーズはバッタレッグの力を使ってウィザードが浮遊している空中へと跳躍する。

 

「何ッ!?」

 

そして、トラアームの鉤爪でウィザードへと掴みかかる。

 

「このッ……離せ!」

「そうはいくか!はぁっ!」

「うわッ!」

 

空中でバランスを崩したウィザードは、ディケイド諸共地面へと落下した。

 

「くそっ!」

 

【Water please】

Water(スイ) Water(スイ) Water(スイ) Water(スイ)~】

 

空中での利を生かせないと判断したウィザードは、蒼く輝く宝石のウォータースタイルへとスタイルチェンジする。そして、今度は右手の中指に指輪を填め、再びベルトに右手を翳す。

 

【Liquid please】

 

すると、ウィザードの体は指輪の力により青い液体へと変化した。

 

『これで、しばらくおとなしくしてもらおうか』

「何だと―――ぐッ!」

 

液体と化したウィザードはそのままディケイドに巻きつき、動くを封じる。

 

「RXみたいな能力か……だったら」

 

Dオーズはウィザードに動きを阻まれながらも、なんとかライドブッカーから1枚のカードを取り出す。

 

【form ride OOO SYA-U-TA】

 

それをベルトに挿入すると、Dオーズはシャウタコンボへとコンボチェンジする。

 

「はぁぁぁああっ!」

 

そして、ウナギアームの撓る鞭をウィザードごと自身に巻きつける。そして、鞭から電撃を発生させる。

 

「がぁぁッ!」

 

ディケイドの捨て身の電撃攻撃によりウィザードは弾かれ、液化が解除されてしまった。

 

【form ride OOO RA-TORA-TA】

 

Dオーズは、ウィザードが怯んでいる隙にラトラーターコンボへコンボチェンジする。

 

「でりゃあっ!」

「な―――ぐぁッ!」

 

Dオーズは、チータレッグによる高速移動でウィザードを掻き乱し、すれ違いざまにトラアームの鉤爪でウィザードを切り裂く。

 

「速―――がはぁッ!……くそッ!」

 

【Land please】

E-E-E-E-Earth(ド・ド・ド・ド) Earth()!E-E-E-E-Earth!(ド・ド・ド・ド)!】

 

当初とは一転して劣勢になったウィザードは、Dオーズの連続攻撃に対処すべく、防御力の高いランドスタイルへとスタイルチェンジする。

 

【Deffend please】

 

そしてウィザードは、向かってくるDオーズと自身の間に岩の壁を出現させる。

 

「この程度の壁」

 

【form ride OOO SA-GO-ZO】

 

Dオーズはサゴーゾコンボへとコンボチェンジし、さっきとは一転して重々しく力強い歩みで岩の壁へと近づく。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

雄叫びと共に、Dオーズが岩の壁に向かって両手でパンチを繰り出す。すると、堅固な岩の壁が物の見事に粉砕した。

 

「マジかよッ!?」

「はぁっ!」

「うおッ!?危なッ!」

 

先ほどのラトラーターコンボの攻撃よりも強力、しかし鈍重な攻撃を、ウィザードは不意を突かれたとはいえなんとか躱す。

 

「なんて奴だ……」

 

ウィザードはDオーズから距離を取り、再び睨み合いが始まる。

 

「おい。何故お前はあの二人を狙う。アマダムの命令か?」

 

ここで、Dオーズがウィザードに問い掛ける。

 

「別にいいじゃないか。たかが子供の一人や二人、外に出してやったって」

「そうは行かない。あの子たちがやろうとしていることは、そんなことじゃすまない」

 

そう言うウィザードの言葉からは、何か切迫したものを感じた。

 

「?どういう―――」

 

しかしDオーズの疑問は、突然の来訪者によって遮られた。

 

『新たな仮面ライダーか』

「ッ!?お前らはアマダムの手下の!」

 

森の奥から、再び様々な世界の怪人の集団が現れた。

 

「秘宝なら俺が取り戻す。だから手を出すなといっただろ!」

『知らんな。我らは我らで動く。邪魔をするなら、容赦しない!』

 

そこまで言うと、怪人たちはウィザードとDオーズに襲い掛かって来た。

 

「くそっ!」

 

【Flame Dragon】

Burn(ボウ)Burn(ボウ)Burn(ボウ) Burn(ボウ) Burn(ボウ)!】

 

ウィザードは再び左手に指輪を填め、フレイムスタイルを更に強化したフレイムドラゴンスタイルへとスタイルチェンジした。

 

「なるほど。色々と事情がありそうだな」

 

【form ride OOO TA-JA-DORU】

 

ウィザードの様子に何かを感じながらも、Dオーズはタジャドルコンボへと変身する。

 

「はあぁっ!」

「でりゃあっ!」

『ッ!?ぐがぁッ!』

 

ウィザードはウィザーソードガン・ガンモードの銃撃で、Dオーズはタジャスピナーから火炎弾を放ち、怪人たちを近づけさせない。そして、互いに合図するまでもなく、二人は弾丸の発射位置を調節して怪人を一箇所に集まるよう誘導する。

 

Very Nice(チョーイーネ)!Special Fabulous(サイコー)!】

【final attack ride O O O OOO】

 

ウィザードが右手に填めた指輪をベルトに翳すと、ウィザードの胸部からドラゴンの頭部『ドラゴスカル』が具現化する。一方のDオーズは、左腕に装着されたタジャスピナーにエネルギーを貯める。

 

「「はあぁぁぁぁぁっ!」」

 

そして、ウィザードのドラゴスカルから強力な火炎放射を放つ『ドラゴンブレス』と、Dオーズのタジャスピナーから放たれる6枚のセルメダルを模したエネルギー弾『セルメダルエネルギー弾』が、怪人たちに炸裂した。

 

『ぐあぁぁぁッ!!』

 

そして、ダブルライダーの必殺技が直撃した怪人たちは、そのまま爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?お前は何故、子供たちが持つ秘宝を狙ってたんだ?」

 

変身を解除した士は、同じく変身を解除したウィザード・操真晴人に問いかける。

 

「……それは、この世界を破壊から守るためだ」

「世界の破壊、だと?」

 

士が聞き返すと、晴人は深刻な面持ちで話を続けた。

 

「あの子たちがやろうとしているのはこの世界からの脱出。だがその方法は、秘宝の力を使ってこの世界を破壊することなんだ。ここは魔石の中、怪人たちが暮らしている世界。もし、そんな世界が破壊されれば……」

「怪人たちが外の世界に溢れ出すってわけか」

 

なるほどな、と士は納得する。それならば、この世界の仮面ライダーである晴人が秘宝を狙う理由も分かる。だが……

 

「それなら、何を迷っている」

「迷う……俺が?」

「そうだろう?でなきゃ、戦っててあんな一方的な展開になってないだろ」

 

士の言葉に晴人は一瞬困惑する。しかし晴人は、士の言葉がスッっと自らの心の中に収まったように感じた。まるで、自分でも気がついていなかった、いや、目をそらしていた事実に気がついたかのように。

 

「そうか。迷っていた、のか……」

 

晴人はその言葉を皮切りに、ポツリポツリと話し始めた。

 

「あの二人は、小さい頃の俺と暦にそっくり……いや、あいつらはこの世界の(ハルト)(コヨミ)なんだ。俺が守りきれなかった暦を、あいつ(ハルト)は守ろうとしているんだ」

 

そう語る晴人の手は、いつの間にか力強く握られていた。

 

「怪人になりたくないあいつらにとって、この世界からの脱出はあいつらに残された最後の希望なんだ。でも、他の大勢の人々を守るためなら、この世界を壊す訳にはいかない。だから―――」

「何をいうかと思えば、そんなことか」

「なッ!?」

 

話を途中で遮った士の言葉を聞いて、晴人の表情が一変する。

 

「そんなことって、どういう意味―――」

 

晴人が士に向かって反論しようとした瞬間、士は晴人に人差し指を突き立ててそれを制する。

 

「お前は、魔石とやらの中であるこの世界の外から来たんだろ?何故入ってきた」

「何故って、そりゃ……」

 

晴人は士に言われ、魔石を発見した時のことを振り返る。あの時は確か―――

 

「助けて、って声が聞こえて。それで……」

「なら、もう答えが出てるじゃないか」

「え?」

 

士の言葉を聞き、あっけにとられる晴人。

 

「で、でも!あいつらの手助けをしてこの世界が壊れたら、怪人たちが!」

「勘違いをしてる。お前も、あの二人もな」

 

士は意味深な発言をすると、晴人に背を向けて歩き出す。

 

「お、おい!何処にいくんだ!」

「取り敢えず、あいつらを探しに行く。怪人に捕まったりでもしたらやっかいだからな」

「待てって!それなら俺も!」

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

その頃、士と別れたハルトとコヨミは川辺を全力で走っていた。

 

「コヨミ!もうすぐだ、頑張れ!」

 

ハルトは、だんだん走る速度が遅くなっているコヨミに励ましの言葉で及びかける。しかし―――

 

「追いついたぞ!餓鬼ども!」

 

彼らの行く手を遮るように、一人の男が現れた。

 

「ッ!アマダム!」

「さあ、秘宝を渡してもらうぞ。やれ!」

 

アマダムの一声で、アマダムの背後から現れた怪人たちが一斉に襲いかかった。

 

「やめろ!離せ!」

「きゃっ!」

「コヨミ!」

 

二人の抵抗も虚しく、怪人たちに捉えられ、木箱を奪い取られてしまった。

 

「やったぞ。ついに我が手中に」

 

アマダムは怪人たちから秘宝を受け取ると、大事そうにその秘宝が入った木箱を撫で回す。

 

「返せ!」

「悪いがそうは行かん。が、安心しろ。お前の望みは叶えてやる。ふっふっふっ……」

「な、何?それって」

 

不敵な笑みを浮かべるアマダムに、ハルトは背筋が凍るような悪寒に襲われる。だが、その真意を聞こうとしたハルトの問いは新たな介入者によって掻き消された。

 

「待て!」

「その二人を返して貰おうか」

「ッ!仮面ライダー!」

 

そう。ディケイドとウィザード、二人の仮面ライダーがアマダムと怪人たちの前に現れた。

 

「誰かと思えば。秘宝回収の協力感謝するぞ、ウィザード。そして初めましてだな、ディケイド」

 

アマダムは、突然のライダーの登場にも特に驚いた様子もなく、柔らかい口調で応える。

 

「秘宝は手に入ったんだろ!?だったら、もう二人には用がないはずだ。二人を開放しろ!」

「確かに、最早用はないが……だが分からん。何故この二人を助けようとする?」

「何だと?」

 

ウィザードのその反応を見てアマダムは嬉しそうな笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「この子たちはいずれ怪人になる。怪人になるということは、ライダーの敵になるということだ。それを態々助けたところで、新しく敵を増やすだけだと思わないかね?」

「ライダーの、敵?」

 

アマダムの話を横で聞いていたハルトは、ウィザードたちを覚えたような眼差しで見つめる。

 

「違う!俺は……」

 

子供たちの反応を見て困惑するウィザード。人々を助ける、怪人を倒す、この2つの間でウィザードは板挟みの苦しみを味わっていた。

 

「だったらなんだって言うんだ。そのことと、お前らからこいつらを助けることは何も関係ない」

 

しかし、ディケイドはアマダムの言葉など気にも止めず、アマダムに向かって走りだす。

 

「愚かな。はぁっ!」

 

しかし、アマダムがウィザードとディケイドに手を向けると、二人からカードとリングが引き寄せられ、アマダムに吸収されてしまった。

 

「何だ、と……」

「これは、力が、抜け……」

 

突然の出来事に二人は抵抗もできず、力が抜けてその場に膝をついてしまった。

 

「仮面ライダー!」

「はっはっはっー!ライダーが俺に叶うと思っているのか!怪人たちの長である、すべての怪人の起源(はじまり)の力を持つこの俺に!」

 

彼の前で力なく屈する二人を、アマダムは高笑いをしながら見下す。

 

「何でだよ……ライダーなら、怪人を倒してくれるんだろ!そして、俺のことも……」

 

ハルトは正義の味方への期待といずれ自分の敵になる恐怖が入り混じりながら二人を見つめる。

 

「無駄だ!起源(はじまり)の力を持つ俺に、敵う怪人など居ない。それが仮面ライダーであっても……いや、仮面ライダーだからこそな!」

 

アマダムは口角を釣り上げ、笑みを浮かべる。

 

「そうだ!この力があれば、奴らに復讐できる!俺を封印した、あの忌々しい魔法使い共に!」

「……なるほどな。やはり……そういうこと、だったか」

 

アマダムの独白を聞き、ディケイドは弱々しくもその場に立ち上がった。

 

「お前の正体は、かつてこの世界に封印された魔法使い。子供たちをそそのかして秘宝を見つけさせた、そんなところだろ?」

「っ!?そうか!お前の目的は、最初からこの世界を破壊し外に出ること!」

 

ディケイドの言葉を聞き、ウィザードがアマダムの真の目的に気づく。

 

「ふん!今更気がついたところでもう遅い!秘宝は俺の手に、そして今の俺にはこの力がある!貴様らが罪を、炎の十字架(クロスオブファイア)を背負っている限り、俺には勝てん!はあぁっ!」

 

アマダムが再びその手を相手に向けると、突如発生した謎の衝撃波がディケイドとウィザードへ襲いかかった。

 

「何!?―――うわッ!」

「ディケイド―――がッ!」

 

弱った二人は為す術もなくそのまま吹き飛ばされ、変身も解除されてしまった。

 

「ッ!?ディケイド!ウィザード!」

「俺の力は怪人たちの起源。俺と同じ起源から生まれたお前たちの力を、俺は奪うことができる!」

「……怪人とライダーが、同じ?」

 

ハルトの狼狽する様を楽しそうに眺めるアマダムは、ハルトに真実を突きつけるべく話し続ける。

 

「ライダーは言うなれば怪人の成り損ない。そこのウィザードは、サバトの儀式でファントムに成り損なった者。ディケイドに至っては、本来大ショッカーの大首領となるべく生まれた存在。仮面ライダーとは、我々と同じ悪の存在なのだ!」

 

そう言うと、アマダムは苦しみながら横たわっている士と晴人を見る。

 

「俺に刻まれた炎の十字架(クロスオブファイア)が反応し、力を奪えたことが何よりの証拠。それこそ、貴様らに炎の十字架(クロスオブファイア)が、悪から生まれたという罪の証が宿っている証拠だ」

「そんな……」

 

声を大にして笑い続けるアマダム。そんな彼の言葉を聞き、ハルトは動揺する。たとえ自分が怪人になる運命なのだとしても、悪を挫き平和を守る、誰もが信じる正義の味方のはずの仮面ライダーが、悪の存在だったなんて。ハルトにとって、とても許容できることではなかった。

 

「ハルト……」

 

そんなハルトの様子をコヨミは心配そうに見つめる。なにか声をかけてあげたい、でもなんて声をかければいいのかわからない。そんな時―――

 

「それは……違うな」

 

コヨミの気持ちを代弁するかのように、士は地面に手をつき、立ち上がった。

 

「……かつて、敵だった獣人と友になった男が居た。かつて、人ならざる友のために自ら化け物(アンデット)になった男が居た」

 

士は仮面ライダーディケイドとして幾つもの世界を巡り、そして今まで出会ってきたライダー達を思い出す。

 

「俺たちは確かに、悪と同じ存在から生まれた。だが、その後の生き方まで悪に縛られる謂われはない」

 

士の言葉を聞いて、隣で倒れていた晴人も立ち上がる。

 

「俺の力は、確かにファントムの力だ。だが、それでも多くの人の希望を守ることができた」

 

瞬平、凛子、今まで助けた多くの人の笑顔が晴人に戦う力を与える。

 

「俺達だけじゃない。たとえ、悪の力を持つものが生まれようとも、その中に必ず現れる。俺達の後に続く者たちが」

 

二人のその視線は、さっきまで嘲笑っていたアマダムを射抜く。

 

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!」

 

力を奪い、ライダーの存在意義を奪っても尚立ち上がる二人を見て、アマダムが怒りを露わにする。

 

「だったら!正義を自称する貴様らは何故こいつらを助ける!怪人、敵になるこいつらを!」

 

アマダムはハルトとコヨミを指差す。その様子を見た士は、アマダムに向かって言い放つ。

 

「俺たちは正義の為に戦うんじゃない。ある人は言った。『人間の自由のために闘うのだ!』ってな」

 

そう言うと、士と晴人はベルトを腰に装着する。

 

【Driver On please】

【Shabadoobie Touch to HENSHIN】【Shabadoobie Touch to HENSHIN】

 

ウィザードのベルトの待機音が、今まさに始まろうとしている戦いの前奏曲を奏でる。

 

「正義でもない、怪人でもない。だったらお前は……お前は一体何者なんだ!」

「俺は、通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

士はカードを取り出し前に構え、晴人は左手の中指に赤い宝石の指輪を填める。

 

「「変身!」」

 

【kamen rider Decade】

【Flame please】

Fire(ヒー) Fire(ヒー),Fire(ヒー) Fire(ヒー) Fire(ヒー)!】

 

二人のベルトの音声と共に、二人は仮面ライダーディケイドと仮面ライダーウィザードに変身した。

 

「小癪な!出てこい!怪人たちよ!仮面ライダーを始末しろ!」

 

アマダムの一声で、ハルトたちを拘束していた怪人たちも含め、周りに潜んでいたすべての怪人たちがライダーの前に集まる。そして、仮面ライダーを見据えると一斉に走りだす。

 

「悪いが、雑魚の相手をしている暇はない」

 

【attack ride illusion】

 

ディケイドがカードをベルトに挿入すると、イリュージョンの力によりディケイドが3人に分身する。

 

「そんなこともできるのか!だったら俺も」

 

【Copy please】

【【Copy please】】

 

ディケイドの分身を見たウィザードは、複製の魔法であるコピーを使って自身を2人に増やし、更にそれぞれがもう一度コピーを使うことで、最終的に自分を4人に複製した。

 

【【【final attack ride D D D Decade】】】

 

【【【【Very Nice(チョーイーネ)!Kick Strike!Fabulous(サイコー)!】】】】

 

「「はあぁぁぁぁぁっ!」」

 

3人のディケイドによる多重ディメンションキックと4人のウィザードによる多重ストライクウィザードが怪人たちに放たれ、怪人たち一掃した。

 

「何ぃ!?だが、力の殆どを奪われた貴様らなど取るに足らぬわ!」

 

怪人を根こそぎ倒されたアマダムは、自らの姿を怪人へと変身させる。

 

「それはどうかな?」

『なんだと?』

 

しかし、そんなことに全く動揺しないディケイドは、ライドブッカーから1枚のカードを取り出した。

 

「少しくすぐったいぞ」

 

【final form ride W W W Wizard】

 

「え?ちょ、何を―――」

 

ディケイドはウィザードの背中に触れると、ウィザードに龍の爪、翼、尻尾が具現化する。そして、頭に覆いかぶさるように龍の首と頭部が具現化すると、ウィザードの身体全体が魔力の鱗で覆われ、ウィザード・ドラゴンへとファイナルフォームライドした。

 

『俺がドラゴンに!?』

『な、何だその力は!?』

 

力を奪ったはずの二人から巨大な力を感じたアマダムが、驚愕の表情を浮かべる。

 

「これが、俺とこいつの新たな力だ」

『そういうことなら、覚悟してもらおうか。ハァッ!』

 

ウィザード・ドラゴンはその翼で飛翔すると、アマダムに向かって突っ込む。

 

『ぐッ!』

 

その巨体から繰り出される衝撃に耐えられるはずもなく、アマダムは大きく後方に吹き飛ばされた。

 

『まだまだ!はぁっ!』

 

ウィザード・ドラゴンは追撃に、自らの尻尾をアマダムに叩きつけた。

 

『ぐあぁぁぁッ!』

 

追い打ちを食らったアマダムは力を急速に消耗し、遂には吸収したはずの二人の力を解き放ってしまった。

 

「力は返してもらったぜ」

『お、おのれ……だったら、こいつらならどうだ!』

 

壁に力無くもたれ掛かるアマダムが手を振り上げる。すると、何処からともなく魔化魍バケガニ変異体とエラスモテリウムオルフェノク激情態の、二体の巨体な怪人が現れた。

 

「ウィザード。でかいサイの方は任せろ」

『ああ、分かった』

 

バケガニをウィザード・ドラゴンに託すと、ディケイドはケータッチを取り出す。

 

【Kuuga Agito Ryuki Faiz Blade Hibiki Kabuto Den-O Kiba】

【final kamen ride Decade】

 

ケータッチに宿った9人の仮面ライダーの力により、ディケイドはコンプリートフォームへと強化変身した。

 

【Faiz kamen rider Blaster】

 

ケータッチにあるファイズのボタンを押すと、ディケイドの横にファイズ・ブラスターフォームが出現する。

 

『■■■■■■■■■■!!』

 

最早、人語を話すことすら忘れたエラスモテリウムオルフェノクは、ディケイドの姿を確認すると興奮した様子で突っ込んできた。

 

【final attack ride F F F Faiz】

 

迫り来る巨体に臆することなく、ディケイドはディケイドライバーにカードを挿入する。そして、背部からエネルギーを噴射してエラスモテリウムオルフェノクの突進攻撃を躱し、頭上へと飛翔する。

 

「はあぁっ!」

 

そして、ディケイドとファイズは落下速度を利用して、渦巻くフォトンブラッドで周囲を薙ぎ払いながら『ブラスタークリムゾンスマッシュ』を同時に放った。

 

『■■■■■ッ!』

 

ディケイドとファイズの必殺技が直撃したエラスモテリウムオルフェノクは、赤いΦ模様の残像を残し、灰となって消滅した。

 

『ギギギッ!』

『たあっ!』

 

一方のウィザード・ドラゴンは翼による竜巻攻撃でバケガニの動きを封じていた。

 

『これでどうだ!はぁっ!』

 

そして、炎のブレス攻撃を放ち、それが竜巻と合わさることで炎の竜巻となってバケガニを襲った。

 

『ギギ……ギ……』

 

硬い甲殻を4持つバケガニも炎攻撃には耐えられなかったのか、最後にはその場で力尽きた。

 

「さあ、後はお前だけだ、アマダム」

 

巨大怪人を倒し終えたディケイドと人間形態に戻ったウィザードがアマダムと相対する。

 

「何故だ……何が違うというのだ!俺と、お前たちが!」

「それがわからないようじゃ、俺達には勝てない!」

 

【final attack ride W W W Wizard】

 

ウィザードは再びドラゴンの姿になり飛翔すると、更に変形して龍の鉤爪のような形となる。そして、ディケイドも跳び上がると、変形したウィザード・ドラゴンにその足を合体させる。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 

そしてディケイドは、巨大な自身の幻影を纏い、ウィザード・ドラゴンと一体となって『ディケイド・ストライクエンド』を放った。

 

「何故だ……お前たちと俺は、同じ力を……」

 

そして、ディケイドとウィザードの必殺技が直撃したアマダムは、その場で爆発した。

 

 

 

 

 

「ごめんな。結局、お前たちを外に連れて行ってやれなくて」

 

晴人は気まずそうにハルトに謝る。世界の崩壊を防ぐ為には、住人であるハルトたちを連れていく訳にはいかないからだ。

 

「ううん。いいんだ」

 

しかしハルトの瞳は、先程までのすべてを拒絶するようなものとは違い、希望に満ち溢れていた。

 

「怪人になったって、悪い奴になるとは限らないって分かったから」

 

そう言うとハルトは、今度は士に視線を向ける。

 

「俺もなれるかな?仮面ライダーに」

「さあな。それを決めるのは俺じゃない」

 

すると、士はぶっきらぼうな態度でハルトに1枚の写真を渡す。

 

「お前自身だ」

「……うん!」

 

渡された写真を見たハルトは、嬉しそうに、力強く頷いた。

 

「じゃあ、俺は元の世界に戻るか。お前はどうするんだ?士」

「変わらないさ。また旅を続ける、それだけだ」

 

すると、士の目の前に銀色のオーロラが現れる。

 

「……俺をこの世界に呼んだのは、お前の魔法だったのかもな。ハルト」

 

士は小さな声で呟きながら、ハルトに渡した写真を思い浮かべる。それに写っていたのは、コヨミの手を繋ぐハルトの姿と、背景にぼやけて重なるウィザードの姿だった。

そして、士はオーロラを潜り、新たな世界へと旅立つのだった。




この後、次回予告の「10vs44」に続く予定です。(続くとは言っていない)

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