其の八極に   作:世嗣

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・本日二話目。


覇王再会

 

ミッドチルダ首都クラナガン。そこのショッピングモールの前で自分は人を待っていた。

服はいつも通りのパーカー、と言いたいところだが八神はやてに強引にいろいろ着せられた。

現代のふぁっしょんは全くわからないが、かじゅあるな感じにしてみたらしい。

 

何故この様な服装をして、ショッピングモールにいるかというと、まあ自分でも甚だ予想外な事だ。

 

「ま、待ちましたかエデル」

「ああ、5分ほどな」

「す、すいません」

「いや、構わんよハイディ……いやアインハルト」

 

目の前の少女とでーとなのだ。何故か。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

遅れてきたアインハルトと連れ立ってショッピングモールの中に入る。

がやがやとすし詰めの状態の人に少し気分が悪くなる。

 

「人が多いな」

「まあ、お休みのお昼ですしね。人が来るのは必然とも言えるでしょう」

 

武装せず大人化していないアインハルトは頭が自分の肩あたりに有るので、少し話しづらい。

アインハルトの歳は今年で十四。そして自分は今年で十七。およそ三つの違いだ。そして、男女の違いを考えればこのくらい離れるのは妥当なのかもしれない。

 

誓って言っておくが自分からは誘っていない。相手がいきなり今度の休日暇ならば共に出かけましょう、と言ってきたのだ。

 

「今日は珍しい格好をしていますね、貴方のものですか?」

「いや、八神はやてからの貰い物だ。『デートならちゃんとした格好し』と言って渡された。似合ってるかはしらぬ」

 

そう言うとアインハルトが此方をじーっと見つめてきた。人とはあまり関わってこなかったし、女子との付き合いもあまり無かったので何処か居心地が悪い。

 

「何だ」

「いえ、私はその……とても似合っていると、そう思います」

「そ、そうか感謝する……」

「はい……」

 

自分で言っておいて俯いてしまった隣のアインハルトを見る。

ふぁっしょんには詳しくないからわからぬが、薄緑色のわんぴーすに身を包み真っ白の帽子を被っている。あのお嬢様がよく被っているようなあれだ。イメージだが。

 

「あー、そのなんだ。アインハルトもよく似合っているのではないか、服」

「あ、ありがとうございます」

 

アインハルトが蚊が鳴くような声で礼を言うと顔を赤くして尚更俯いてしまった。なんとなく此方も気恥ずかしくなって頭を掻く。

 

「取り敢えず何処か座るとしよう。何か食いたい物とかあるか?」

「いえ、特には……」

「うーむ、ならば」

 

辺りを見回すと少し古めかしい感じの喫茶店が目に入る。あのような喫茶店ならば軽食も置いてあるし飲み物の心配はない。それに長居しても文句は言われないだろう。

 

「彼処の喫茶店でいいか?」

「構いません」

 

二人で並んで歩きながら進もうとするが、人が多いのでなかなか前に進めない。隣にばれないように密かにため息をつく。

 

──もう帰りたくなってきたのである。

 

「──ッ」

 

そうした所でアインハルトが悲鳴をあげた。まあ悲鳴と言っても飲み込み我慢したようなうめき声にも近かったのだが。

何事かと見てみれば人混みに押されて自分からはぐれそうになっていた。なので、未だ手の届く距離にあった彼女の手を引いて隣に戻し、手を離した。

 

「大事ないな」

「…………」

「アインハルト?」

「……………………」

「おい、ハイディ・E・S・イングヴァルト?」

「あ、はい!」

「なに手をじろじろ見ている早く行くぞ」

「す、すいません」

 

(ほう)けたようにぼんやりと掌を見ていたアインハルトを一喝すると、再び二人で連れ立って歩く。

 

大きかったなぁ

 

アインハルトは自分にだけに聞こえるように言ったつもりだったのだろうが、今まで鍛えてきた聴力がそれを捉える。

しかし、あえてそれを聞き返すようなことはしない。アインハルトが慌てふためくのは目に見えている。わざわざ地雷を踏みに行くような愚は犯さないのだ。

 

喫茶店の扉を開けて中に入る。白髪の店主に2名と告げてから適当な席に腰掛ける。

 

メニューを手に取り珈琲を頼むとアインハルトは「同じものを」と言った。

 

「其れだけで良いのか?」

「……ええ構いません」

 

アインハルトの目にほんの一瞬の迷いがあった事を見てとると彼女の手からメニューを引っ手繰る。

 

「この『しょーとけーき』を一つ頼む」

「え、エデルッ!」

 

食ってかかってくるアインハルトを手で留めて注文を終わる。ウェイターが戻っていくのを見届けて唇の端を吊り上げて笑う。

 

「嫌いか?ならば自分が食べるが」

「いえ、好きですけど……」

「なら良いであろう?」

「貴方は──、もういいです」

 

アインハルトが被っていた帽子を脱いで隣の座席に置いた。

 

「今日クロはどうしたのですか?」

 

まだ珈琲は来ていないのでお冷を飲んで喉を潤す。

 

「アレは仕事だ。先日の襲撃の所為で管理局の嘱託魔導師となったので、朝早くアルピーノと出かけて行ったよ」

 

ギリギリまで駄々をこねて八神はやてを大いに困らせ、挙句アルピーノに一喝され泣く泣く出て行ったのは記憶に新しい。余りにも哀れで今度一緒に出掛けてやると約束してしまったほどだ。

 

「アレは其方たちと話せたか?」

「はい、しっかりと。襲撃の時より少し様子が落ち着いていたので、大変話しやすかったです」

「そうか……」

「今では友人、といっても差し支えはないでしょう」

 

ファビアにかけてしまった、自分への呪いがうまく働いていると言うならばそれはそれでいい。例え、夜ともに寝なければならなくなっていたとしても。

 

そうした所で珈琲としょーとけーきが運ばれてきた。

珈琲を口に運ぶと仄かな苦味を含んだ味わいが駆け抜ける。八神はやての淹れる珈琲もなかなかのものだがやはりプロには敵わない。

ちらりと前を伺えば運ばれてきたしょーとけーきを食べて、僅かに表情を綻ばせそうになって必死に耐えているアインハルト。

それを、暫く眺めていたい気もしたが今日の目的を思い出して首を振る。

 

「さて、本題に入ろうかアインハルト。呼び出したということは何かしら尋ねたいことがあるのであろう?」

 

自分がそう問いかけると半分ほど食べていたしょーとけーきから目を外しフォークを置いた。そして、口直しのためか珈琲を飲み、居住まいを正した。

 

「貴方は、()()()ですね」

 

他人から聞けば意味のわからないその問いかけ。だが、自分やアインハルトにとっては様々な意味を持つ。

 

「思い出したか」

「ええ。まだ完璧ではありませんが」

 

アインハルトはそう言ってまた珈琲を飲む。

 

「『魔拳』。聖王連合に雇われた正体不明の暗殺者。本名は不明。出身地、性別すらも不明。最後は、戦場で戦死……。史実ではそうなっていますが、その正体は」

 

そこでアインハルトが大きく息を吐いてその、二色の瞳で此方を見据える。

 

「暗殺者集団『翁』の元暗殺者。孤高の八極拳士エデル。オリヴィエ(聖王女)クラウス(覇王)とはまた違う歴史に埋もれた救国の英雄」

 

そして、とアインハルトが一旦区切る。

 

「オリヴィエやクラウス、エレミアやクロと同じ日々を過ごした、友人の一人です」

 

「ようやくか。随分遅かったな」

 

にやと唇の端を吊り上げると、アインハルトははっと息を呑んだ。

 

「やはり、やはりそうなのですね……」

「むしろ自分としては今まで其方が気づいていなかったことの方が驚きだ」

「うっ、それは申し訳ありません」

 

少し緩くなった珈琲に口をつける。

 

「私の記憶は何処か曖昧で……。何かきっかけがあれば思い出すこともあるのですが」

「それは記憶転生の魔法をかけた奴の未熟だな。誰がかけた」

「一応、自分(クラウス)()

「納得だな。彼奴は戦闘以外はからっきしだったからな」

「──なっ、貴方ほどではありませんでした!」

「如何だかな」

 

小馬鹿にしたように鼻で笑うとアインハルトは唇をへの字に曲げて此方をじとーっと睨む。

 

「顔、余り面影がないと思っていましたが、そんな風に馬鹿にする顔はよく似ていますね」

「む、そうか?」

「ええ、昔も今も極悪人の顔をしています」

「それはファビアにも言われたな」

 

色男の顔はしていないとは思うが、極悪人まで言わなくても良いと思う。まあ、普通に歩いるだけで職質を受けた回数は、とうに片手では数え切れぬが。

 

「ということは貴方も記憶がある、そう判断しても構いませんね」

「構わんよ」

 

ぴり、とあたりに軽い緊張感が張り詰める。

はてさて、アインハルトは何を質問してくるか。

過去に魔拳がどのように死んだかか、それともクラウスの技術についてか。もしくは、オリヴィエの祖国でのことか、もしくは歴史にも語られぬ彼女のことか。

 

「貴方はどうして記憶を継いだのですか?」

 

ほう、と口から言葉が漏れる。これは、予想していなかった質問だった。

 

「理由を、問うても?」

 

アインハルトはそのままの口調で淡々と話を続ける。

 

「記憶転生の魔法には三つの要素が必要です」

 

そう言って指を三本立てて見せる。

 

「一つ目、記憶の転生させる範囲の限定。何歳から何歳まで、どのような記憶を、どのような質で。誰のことを、どんな事を中心的にか」

 

一つ指を折る。

 

「二つ目は、まあ言うまでもないですが、魔法式です。これがしっかりしていないとしっかりと記憶が受け継がれず、私のように部分的な封印がかかったり、記憶の継承がとびとびになる可能性がでてきます」

 

クラウスが失敗したのはこれです、と付け加えて指をまた一つ折る。

 

「そして三つ目、記憶転生の()()です」

 

そう言って最後の指を折ると、静かに手を胸に置いた。

 

(クラウス)ならば、覇王流の最強を証明。クロならば、自分を捨てた王たちへの復讐。ヴィクトーリアさん(雷帝)ならば、『魔拳』との決着、と言ったように」

 

そこでアインハルトは珈琲に口をつけて喉を潤すと、言葉を続ける。

 

「記憶転生者には、何かしらの目的があります、理由と言い換えてもいいもしれません。世代を超えて記憶を継ぐということは、血が薄れても消えないような()()が必要なんです」

 

アインハルトが胸置いた手を強く握りしめる。まるで、そこに誰かからの強い想いが宿っているかのように。

 

「ねえ、エデル。貴方はどうして記憶を継ごうと思ったのですか」

 

どうして、か。ならば答えはとうにあるのだ。しかし、其れをアインハルトに伝えてもいいものなのか。心優しいクラウスの子孫である目の前の少女はこれを聞くと自分に協力する、というだろう。

 

しかし、違うのだ。

此れは自分が一人で解決しなければならない事なのだ。例えそれが、彼女に関係ある人物の事なのだとしても。

 

「話すのは構わない。だが、その前に一つ約束してほしい」

「何でしょうか」

 

首かしげるアインハルトに少し威圧を込めて睨む。

 

「絶対にオレの目的に関わるな」

 

無意識に拳を握り締める。

 

「今から言う事に、協力するな。止めてくれるな。他言してくれるな。オレと、関わってくれるな」

 

──其れが約束できるならば話す。

 

アインハルトは、一瞬迷うように僅かに俯いたがすぐに顔を上げて、強く頷いた。

 

「オレは奴を破壊する為に生きている」

「──奴?」

「そうだ。オレの全てを殺し尽くした奴を、この世で一番憎いと言っても言葉が足りぬほど憎んでいる」

「そ、それは一体だ──」

 

──れ、とアインハルトが続けようとした時、喧しいベルの音が響いた。

自分とアインハルトが眉を寄せると、アインハルトの胸元から人形の、猫みたいなものが躍り出た。

 

「にゃあ!」

「こ、こらティオ!」

 

アインハルトが人形の猫を抱くと、猫は一鳴きしてホロウインドウを展開した。そこには電話のマークとともにアルピーノの顔写真が貼り付けられていた。

 

「出ていいぞ」

「すみません……」

 

アインハルトが電話に応対し始めると、自分の体からこもっていた熱が逃げていく感覚がする。いつの間にか僅かに昂ぶっていた感覚が落ち着いてしまっていた。

機を逃した、そういう事なんだろう。

 

珈琲をもう一度口に運ぼうとして中身が空なのに気づく。小さく舌打ちをして、隣の水に手を伸ばした。

 

「──わかりました、お願いします」

 

しばらく待つとアインハルトの眼前にあったホロウインドウが消えた。

 

「終わったか」

「はい、一応」

 

そう返答したアインハルトの表情が何時もよりも優れない事に気付いた。

 

「何かあったのか」

「──いえ、貴方にはあまり関係はありませんが」

 

──ヴィヴィオさんに、練習試合を申し込まれました。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「──エデル、置いていくよ」

「自分としては置いていって欲しいのだがなぁ」

「ダメ。ヴィヴィからの直々のお願いだから、破っちゃダメ」

 

後ろで乱雑に縛ってある髪を引っ張られる。

 

「痛い、放せファビア」

「一緒に行くって言ったら放す」

「わかった、一緒に行くから放せ」

「ならいい」

 

憂鬱な気持ちで靴を履き替えると玄関でニコニコ笑う八神はやてが自分たちを見送っていた。

 

「楽しんできてなー」

 

その笑顔に少しイラッとしたがすぐに怒りをなだめた。現状八神はやてには世話になりっぱなしなのだ。

住むところのなかったファビアを家に住まわせてくれ、ついでに学校にまで行かせてくれるつもりらしい。

 

最初は怪我が治るまで厄介になるつもりだったが、ファビアも一緒に世話になる事になってしまった以上易々と出て行く事も出来なくなった。

 

というか、八神はやても裏があるのかもしれないが、どこぞの馬の骨に此れほどよくしてくれるとは、つくづくお人好しというか……。

 

「八神はやて」

「──ん?どしたー?」

「感謝する、自分とファビアの面倒を見てくれて」

 

そして自分がほんの少し頭を下げると、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした後、にんまりと笑った。

 

「うふふ、ええよ。私にとってエデルは世話のやける弟みたいなもんやから」

「姉弟何ていう歳の差ではあるまい」

「なんやて?」

「何もない。だから、拳を下ろすがいい」

 

自分が手で留めると八神はやては大きく息を吐いた。

 

「というか私まだ二十三やから。ピッチピチのお買い得品やから」

「ならさっさと恋人の一人でもつくるがいいさ」

「──うっ、痛い所を」

「エデル──!」

 

玄関を先に出たファビアから呼ばれて、今何をしていたか思い出す。

 

「呼ばれたからもう行く」

「りょーかいやー」

 

靴がきちんと履けたかどうか確認すると扉に手をかけ、八神家を出ようとする。

 

「あ、エデル忘れもんしとるで」

「む、そうか?」

 

基本的に自分は手荷物は持たない。少しのお金とこの身ひとつあれば大体何とかなるため、持つという習慣がない。

だから、忘れ物をしたとは考えにくいのだが──。

 

「ちゃうよ、挨拶忘れとる。家からでるんやろ?」

 

自分がさっぱりわからないというように首をかしげると、八神はやては綻ぶように優しく微笑んだ。

 

「いってらっしゃい」

「────ッ」

 

少し、息を呑んでしまったのはそんな事をいう習慣がなかった為か、それとも何か感ずる事があった為か。

 

「エデル、急がなきゃルーテシアとの待ち合わせに遅刻する」

「ああ、すまんな」

 

最後にもう一度八神はやての顔を見て、八神家から出た。

 

「────行ってきます」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

聖王協会に着くと既にヴィクトーリアとエレミアは到着していて、自分たちを待っていた。

 

「待たせてごめーん!」

 

途中で合流したアルピーノが謝ると赤い髪の小さなシスター、──シャンテというらしい──がおどけた風に返答した。

 

「全くだぞ?もう陛下とアインハルトの試合始まっちまうぞ」

「え、ウソ?!」

「ウソ」

「シャンテ〜〜!」

 

きゃいきゃいとアルピーノとシスターシャンテが戯れ付き合うの遠めで見守る。

 

「魔女っ子呼ばれたんやね」

「うん。ヴィヴィが呼んでくれたんだ」

「へえー、あ、チョコポップコーン買ってきたんや、食べへん?」

「食べる」

 

エレミアがファビアに話しかけ、今度はこの二人が仲良く話し出した。

ちらりとエレミアの隣の金髪のお嬢様に目を向ける。

 

「……どうも」

「ええ……」

 

あまり者同士で言葉を交わしたら死ぬほど気まずい。自分はヴィクトーリアが少し苦手かもしれない。

 

「エデルも呼ばれたんやね!」

「ああ、自分もタカマチ・ヴィヴィオに呼ばれてな」

「よかったなぁ、仲間外れにされんで」

「自分としてはして貰っても構わなかったのだが」

「エデル、そういうこと言わない」

「はいはい、わかった」

 

隠す気もなく堂々とため息をついた。

 

「エデル!貴方人前で堂々とため息をつかないでくださいまし!此方まで憂鬱になります!」

「見なければ良いだろう」

「いやでも目に入りますわ」

 

些か横暴な気もするが、自分とヴィクトーリアは出会い方から失敗しているのでこんな所が妥当なのだろう。

 

「お、仲良くやってるな?」

「「やっていません(おらぬ)わ」」

 

声が重なったことにヴィクトーリアが大きく舌打ち。

お前、やはり自分にだけ態度違い過ぎないか。

 

「さっ、そろそろ陛下たちの試合も始まる、行こうぜ」

 

シスターシャンテの言葉に従い、ぞろぞろと皆で中庭に行くとそこにはアップをしているタカマチ・ヴィヴィオとアインハルトがいた。

 

「お、セットアップするぜ」

 

シスターシャンテがそう言うと殆ど間をおかず二人が武装して大人形態となった。

 

「へー、ヴィヴィオやる気入ってるねー」

「ハルにゃんもやる気十分や」

 

アルピーノとエレミアが二人への評価を述べる中、自分とファビアの興味はある一点に注がれていた。

 

「あの装備……」

「ああ、オリヴィエの物と似通っているな」

 

偶然なのかもしれぬが、どうしても其処に何かの意図が隠されているような気がしてならない。

 

「さーて、もう直ぐ試合が始まるんだけど、皆さんはどっちが勝つと思うわけ?」

 

シスターシャンテがにやり、と笑って自分たちに問うた。その問いに皆が少し考えて言葉を発していく。

 

「うーん、順当にいけばハルにゃんやと思うけど……」

「ヴィヴィオも気合十分。番狂わせあり得るよ〜」

「そうでしょうか、アインハルトもやる気はあります。やる気の面で言えば同じなのでは?」

 

ヴィクトーリアがそう言うと、アルピーノがちっちっと指を振った。

 

「いーや、あのバリアジャケット見てみなよ。いつもと違うことからも覚悟の違いがよくわかってるでしょ」

 

アルピーノがそう言うと二人はもう一度考え込むような仕草を行った。

 

「そう言われれば、わからへんのかなぁ」

「ええ、そうですね。勝負は時に意外な方に転ぶことも──」

 

ヴィクトーリアが言葉を閉めようとしていた時、思わず口を出してしまっていた。

 

「──ないであろう。やる気じゃ結果は決まらんよ」

 

自分がそう言うと全員が一斉に此方を見た。

 

「──へぇ、その心は?」

 

アルピーノの面白がるような問いかけに、少し詰まりそうになるが勤めて同じ調子で続ける。

 

「もし、やる気で勝負が決まるのなら努力する必要はない」

 

その考え方は、魔拳としての在り方に相反するような考え方だから。

それだけは、それだけはオレの在り方として許せない。

 

「気合というのはあくまでも、努力を発揮するために使うものだ。もし、自分が気合で勝ったと思っているならば、其れはただ単に気合というきっかけで己の力が発揮されたに過ぎない」

 

じーっとみんなが此方を見てくるのが居心地が悪く、最後に自論だが、と付け加えた。

 

「ふーん、そっかぁ」

「なんだ、アルピーノ」

 

含みがあるように笑うアルピーノの態度が気に入らず問い返す。

 

「いや、そう思うんなら尚更この試合みとけばいいと思うよ」

 

──たぶん、面白いもの見れるよ。

 

そう言ってアルピーノは小悪魔のような笑みを浮かべた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

タカマチ・ヴィヴィオとアインハルトの試合の後自分は一人で帰途についていた。ファビアはアルピーノの所に置いてきたが、まあなんとかするだろう。

 

「何が、違ったのだ……」

 

自分はアインハルトの勝利は必至だと踏んでいた。例え、何度同じ場に遭遇しても、アインハルトと断言するだろう。

 

価値観が揺らぎそうだった。

 

それでも、今一番自分を動揺させているのは、もう一つあった。

アインハルトが、笑ったのだ。

 

彼女はひたすらに自らが笑むことを律していた。

にも関わらずタカマチ・ヴィヴィオとの戦いの末花が咲くように優しげな笑みを浮かべたのだ。

それは、彼女が長い長い覇王の呪縛から独り立ちしたことを示すものだった。

 

自分の身の回りの記憶転生者たちへと思いをはせる。

アインハルトは微笑みを見せ、ファビアはクロと己を分断して考えるようになり、ヴィクトーリアは魔拳への怒りを、自分との再戦という形で消化した。

 

──前に進めていないのは、自分だけなのかもしれない。

 

ぎり、と歯を噛みしめる。

 

──違う、此れでいい。

 

だって、オレは前に進むことでなく。今に停滞することを選んだ愚か者なのだから。

 

「嗚呼、そうだ。此れでいい。此れが──」

 

────魔拳としての己の在り方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





──彼はそうして、前を進む彼女たちの背を見送る。
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