其の八極に   作:世嗣

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鉄腕日常

 

「では、準備は良いですね」

 

ヴィクトーリアが自分と、向き合うエレミアに問いかける。

互いに言葉は発することなく頷きだけで問い掛けに答えた。

 

「一応私の家の庭で結界を張っていますがあまり暴れすぎない様にして頂くと嬉しいですわ」

 

言っても無駄でしょうが、とボソリとヴィクトーリアが言葉を漏らして、溜息をついた。

 

「では────始め!」

 

ヴィクトーリアの声が耳朶に響くと同時に毛細魔力回路(マジックサーキット)に魔力を流し込み、眠っていた其れを励起する。

ほんの一瞬体に不快感が走るが、間を置かずにその不快感が通常だと思えるようになる。

 

腰を落として、震脚──最小限の動きで地面を踏み締め加速を生み出す。

 

「せい、やあっ!」

 

自分がエレミアに向かい駆けると、エレミアはすかさず足に魔力を纏わせ此方へと振るった。

放出面を極限までに抑えられたその魔力は、薄く鋭利な切断性を持つ()として此方に放たれる。

 

身体強化(体唯此鋼也)

 

毛細魔力回路(マジックサーキット)とは異なり体の外面を強化する魔法を展開し刃に相対すべく拳と脚を強化した。

 

「──破ッ!」

 

迫る刃を蹴り上げて消滅させると先ほどまでエレミアがいた所に視線を()()()、ポケットの中にある投石用の石を幾つか取り出して手首のスナップだけで背後に投げる。

 

「──()っ」

 

バチ、という音と共にエレミアの声が聞こえる。

自分ならば目くらましをした後、素早く背後に回り込む。

だからきっとエレミアもそうだろう、という信頼の元に放った物だったが、どうやら自分の判断は間違っていなかったらしい。

 

「──裡門(りもん)

 

右足を軸に体を半回転させ背後にいるであろうエレミアへ、身体を沈み込ませた状態から顎をかち上げた。

 

「──甘いで」

 

エレミアは避けるのが不可能と見るや否や、すかさず魔力弾を作り出し()()()()()()()()()()自分の間合いから離脱する。

 

「此は……上手いものだ」

 

これ以上の深追いは危険と判断して軽く地面を蹴って後ろに下がった。

 

「さて、ウォーミングアップはもう充分やろ?」

「ふん、遅過ぎるくらいだ」

 

にっこりとエレミアが笑い、『黒』が、代々のエレミア一族の魔力光である『黒』がその両腕を包みこむ。

 

消滅魔法(イレイザー)

 

文字通り消しゴムのように触れた場所を消し去る高等魔法。

 

「さて────」

 

──がしゃん。

 

通常の生活を送るために普段は隠して、奥底で抑えている拳士としての本能を表に出す。

 

自分にだけ聞こえる歯車が噛み合うような金属質な音と共に中身(こころ)を入れ換える。

 

「──行くぞ」

 

視界が僅かに色彩を失い世界が色褪せる。感覚が数倍に引き伸ばされる世界で、足を僅かにあげて音もなく震脚の歩法を行う。

震脚は激しい音を立てて踏み込む歩法に非ず。

そんな物は入り口に過ぎず、極めた震脚は振動を起こしながらも無音、一歩一歩が震脚の歩法となる。

 

そして、ある程度は気を使わなければならないが、自分も其れを行うことが出来る。無音の震脚による加速は通常の数倍。通常幾らかのエネルギーが音と、地面を叩き割る事に使われる物を、全て己の中に還元する。そして、関節を通しながらさらなる震脚により加速を生んでいく。

 

其の八極拳の絶技を用いてエレミアへと迫るが、エレミアも一流の武芸者。其れを安易に許すほど甘くもない。

 

「ひとまず君の間合いに入るのは勘弁や」

 

エレミアが腕をふるうと彼女の周りに無数の魔力弾が展開される。

 

「ゲヴェイア・クーゲル」

 

放たれた無数の魔力弾は、本来は黒のはずの彼女の魔力光が白く見えるほどで、その魔力密度と威力の高さを窺わせる。

彼女にとってはゲヴェイア(小銃)であるこの攻撃すら自分は一発放てば魔力は尽きるだろう。

だが、羨ましいとは思わない。

自分は魔導士ではなく、()()

拳を振るうのが一番効率的で効果的なのだ。

 

いまさら切り捨てた才能を羨ましいなどとは思うはずもない。

 

「借りるぞ、クラウス」

 

今は亡き友の名を呼び、向かってくる魔力弾を瞬時に識別、自分に被弾すると思われるものだけに意識を向ける。

 

()()────」

 

にやりと唇の端を吊り上げると、弾幕の向こうでエレミアが眉を少し動かしたのが見えた。

 

()()()ッ」

 

迫っていた魔力弾の弾核を掴み無理やり傍へとそらし、今度はやや左から迫っていたものを上へと投げ捨てる。

一歩踏み込み、さらに迫った魔力弾を今度は全力で投げ返す。

 

魔力弾が尾を引きながら術者(エレミア)へと帰っていく。

 

「本当にメチャクチャやな……!」

 

自分が投げ返した魔力弾をエレミアが鉄腕で消し飛ばすのを見て、旋衝破による反撃は不可能と判断する。

ならばと、さらなる魔力弾を掴んで今度は下へと投げ捨て辺りを粉塵で覆う。

 

「──活歩」

 

震脚で再び地を踏み、今度は滑るように相手の懐まで駆ける活歩の歩法で煙に乗じ間合いを詰めた。

 

「噴ッ!」

「な、エデ……」

 

唐突に自分が現れエレミアがガードを固めようとする。

 

「──遅い!」

 

其れを許すほど甘くはない。

通常の威力に重きをおく一撃を腕を畳み速さに重きをおく一撃に変更し、尚且つ拳を手刀に変えてまだ出来かけの防御の穴をついた。

 

手刀の先が鳩尾に食い込み、心臓を叩かれた事によりエレミアの動きが止まる。それは1秒よりも短い一瞬、しかし其れは自分達のレベルの武芸者ならば致命的な一瞬。

 

双撞掌(そうどうしょう)ッ!」

 

両手を揃えエレミアの胸へと手を当てた。エレミアが心臓を叩かれた事による停止から回復した瞬間、その二撃を叩き込んだ。

 

「──かはっ」

 

肺の空気が強制的に全て押し出され、エレミアが苦悶に呻いて地を転がっていく。

 

その姿を見てふう、と深呼吸をついて息を整える。

 

「如何したエレミア。今日はやたらと魔力弾に頼るのだな。其方も拳士ならば拳で来い、拳で」

 

自分がそう言うと吹き飛んだエレミアがゆらりと幽鬼の如く立ち上がりぼんやりと此方を見た。

その今までと違い据わった瞳を見て、胸を占めていた熱が幾らか引いていく。

 

「『神髄』か」

「…………」

「答えもせんか。まったく、自分はエレミアと戦いに来たのだがな……」

 

舌打ちをしながら中指を立てて、「来い」と指示するとエレミアの両腕を覆う『黒』が膨れ上がる。

 

──来る。

 

身を固め抉り削る一撃に備える。視線はエレミアから逸らさず一挙一動、見逃さぬため瞬きすら数を減らして──

 

「ガイスト・クヴァール」

 

唐突に背後から声がした。

 

「な、に……!」

 

自分が振り向くより早くエレミアの鉄腕が自分の背を展開した防護服ごと抉っていった。

 

「この野郎……!」

 

鋭く走る痛みに歯を食いしばって耐えて反撃の拳を放つが、其れよりも早くエレミアが自分の間合いから離脱する。

 

殲撃(ガイスト)

 

またもやエレミアが視界から消え今度は自分の目の前に現れた。

 

「──クソッ……」

 

エレミアが素早く放つ拳に拳を合わせ数合殴り合うと、またエレミアが視界から消える。

 

(如何なっている……!)

 

目は離してなどいない。常に一挙一動に気を配り、油断などもしていない。

にも関わらず、エレミアのスピードについていけない。

 

此れが、神髄。

エレミア自身よりも、数枚上手に()()()体を動かし最適な攻撃をし続ける、代々のエレミアの経験(化け物)

 

目では追えない。

人並み以上の動体視力を持つと自負する自分でさえ。

此れが、才能の差。()()が絶望し、並ぶのを諦めざるをえなかった極致。

 

──嗚呼、なら目で追うのは()()()()

 

この一瞬一瞬に自分に肉薄し、攻撃の後離脱し、また肉薄するというエレミアの前で、自分は()()()()()

 

視界が闇に染まる。

 

防御を固め最低限の急所以外を捨て置き、後は感覚で防いでいく。其れでも防げぬ攻撃が自分の体を削っていく。

 

一撃一撃が必殺となりうる攻撃を受けながら、意識を耳に集中する。

 

風を切る音、踏み込み、息遣い、今溢れる音を拾い集め、今まで追えなかった攻撃を不利な状態で追う。

 

一つ、一つ、また一つと自分を削る攻撃が加速度的に増えて行く中、唯ゆっくりと掌を動かした。

 

──トン。

 

「成る程、()()()

 

呟くように言うと反対の手も動かして見えぬ一撃を弾く。

 

視覚(ひかり)で知るよりも早く聴覚(おと)で知る。

其れは本来ならばあり得ぬ事。光と音の間には比べるまでもないほどの速度の差があり、何方で判断すると早いかなど論じるまでもない。

 

だが、今其れを覆す。

 

──聴勁と言う技術がある。

 

自ら視覚を封じ、その他の感覚を研ぎ澄ます事により聞こえぬ音を聞く技術。

攻撃をする際に発する(意志)を聞いて、未来(攻撃)を読み、目で見るよりも早く反応する。

 

圏境(けんきょう)で世界と共になれる()()()だからこそ使える、聞こえぬ音を聞く絶技。

 

「──此処だ」

 

数合殴り合い、攻撃を弾いた時遂に聴勁で、彼女の姿を正確に捉える。

 

無音の震脚から加速し、聴勁により聞いた(意志)でエレミアの前に回りこみ、今度は激しく音を鳴らす震脚。彼女の意識を脚に割くための虚仮威し。

そんな物は一瞬しか役に立たぬだろう。

 

だが、今はその一瞬が有れば事足りる。

 

鉄山靠(てつざんこう)

 

何時ぞやの時のように、腰を落とし肩をぶち当て、エレミアの防御を砕きそのまま地面へと叩きつける。

其処で目を開き地面に転ぶエレミアへ向けて、全力で拳を握り締めた。

 

「さァ、目ぇ覚まして貰おうかァ!」

 

 

「──エデル、■■■■■■■■!」

 

エレミアへ向けて拳を振るう中、何かが聞こえたがもう全力の拳が止まる訳はなく────その顔を自分の拳が撃ち抜いた。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「では、反省会ですわ」

「いえーい」

「……解せぬ」

 

先ほどまで殴り合っていた庭に隣接するテラスで自分と、エレミア、ヴィクトーリアはテーブルを囲んでいた。

 

「エデル、真面目に取り組みなさい。ジークの為ですよ」

「いや、協力するのは一向に構わんのだが一つ聞きたい事がある」

「聞きたい事……?ああ、もしかして(ウチ)が負けたんにエデルの方が怪我しとる事について?」

「いや、そうではないのだ」

 

其れは戦闘形態の差だ。

天才的な技能によっての回避と強力な身体強化を基本とするエレミアと、最低限度の攻撃だけを弾き後は鍛えた体の耐久力での防御の自分とではどうしても被弾の数に差が出てしまう。

 

ただ、自分が今言いたいのは。

 

「おい、ヴィクトーリア」

「なんですか、エデル」

「貴様自分がエレミアを殴った後、雷撃で自分を吹き飛ばしたのは何故だ」

 

自分が青筋を立てながら微笑んで聞くと、ヴィクトーリアは優雅に紅茶を飲みながら答える。

 

「私が止めたにも関わらず貴方がジークの顔を全力で殴ったからです。まったく、貴方は練習試合だというのに……」

「む、其れは聞き捨てならぬ。自分の八極拳がルーフェン武術に近いから、という理由で頼み込んだのは其方だろうが」

「それでも限度がありますわ。ジークは試合を控えた身、貴方のような馬鹿力で殴られて怪我したらどうするんですか」

「そんな物自分に試合を頼んだ時点で想定しておけ。何のために自分にちょくちょく負けているんだ、貴様は」

「何ですって?!殴る以外脳がないくせに偉そうに!」

「自分に勝てるようになってから言え高飛車お嬢様が」

「「……ふんっ」」

「まあまあ、二人とも一旦落ち着こ?な?な?」

 

ヴィクトーリアと睨み合うとそっぽを向いた。やはりヴィクトーリアとは仲良くなれないと、此処でわかった。

 

エレミアが慌てて自分達の間を仲裁したので、渋々溜飲を下げてやる事にする。其れでも、少々はイラついていたので目の前の高そうな茶菓子をボリボリと食べていく。

無駄に美味くてなんだか腹がたつ。

 

「で、エレミアは今回自分と戦ってみて如何だった。役に立ったか?」

 

自分が茶菓子を食いながら尋ねると、エレミアは「うーん」と唸りヴィクトーリアの執事さんが淹れた紅茶に口を付けた。

 

「半々、ってところやなぁ。途中神髄になってもーたからあんま記憶あらへんし」

「まあ半分力になってれば怪我した甲斐もある」

 

今回の戦いは自分としてもなかなか有意義なものだった。

久しく使っていなかった旋衝破や聴勁の調子も確かめられた。やはり実力の拮抗した相手との試合は良い。

 

「では、エデルの方から何か気付いたことなどありませんでしたか?」

「そうだなぁ……」

 

茶菓子を口に持っていく手を止めて腕を組んで考えてみる。

今日のエレミアに悪かった所は特に見当たらない。どちらかという射撃に頼り過ぎていたが、それは次の試合の対戦相手を想定した、相手の間合いに入らない戦い方なのだから良いだろう。

 

「ふむ、そうだな強いて言うとすれば『神髄』だろうな」

「あー、やっぱそこやよね……」

 

エレミアも少しは分かっていたのだろうか、少し決まりが悪い様に人差し指で頰を掻く。

 

「はっきり言って『神髄』の力は脅威的だ。あの状態になった途端エレミアを目で追えなくなった」

 

『神髄』なしのエレミアと自分の実力は大体同じ。五戦するとギリギリ自分が勝ち越すくらいだろう。

だがおそらく、『神髄』を足すとこの勝率がひっくり返る。

 

先程の試合、一応勝ちはしたが怪我の割合で言えば自分はボロボロだったがエレミアはほぼ無傷。

それは八極拳が相手の内部破壊を目的とした拳技という違いもあるだろうが、其れでもやはり怪我しすぎだ。

 

今回の試合ははっきり言って辛勝。

聴勁が上手くいったから勝てたもののヒヤリとした場面はいくつもあった。

エレミアが『神髄』を自分の力で制御できる様になる時、其れはきっと自分が勝ち越せなくなる時だとそう思う。

 

「というか、あのいきなり消えていきなり現れるあの歩法、一体如何やってるのだ?」

「んー、多分魔力放出の応用やと思うんよ。無意識でやっとるから上手く説明できへんけど……」

 

もにょもにょとエレミアが言うのを見て溜息をついた。

魔力放出なら自分には真似はできない。自分の魔力量は雀の涙程なのだから。

 

「と、というか(ウチ)的にはエデルが旋衝破(ハルにゃんの技)使ったんが驚きやったんやけど」

「それは私も驚きましたわ。アインハルトから教えて貰ったんですか?」

「──は?お前らは馬鹿か?」

 

余りにも当たり前のことを聞くので思わず思った事をそのまま言ってしまう。

すると、その言葉を受けてヴィクトーリアが勢いよく立ち上がろうとするのをエレミアが慌てて止めた。

 

そんな様子をよそに自分は残り少なくなってきた茶菓子を口に放り込む。

 

「オリヴィエの師匠がエレミアなら、クラウスの師匠は()()だぞ。如何して弟子の技を師匠が使えぬことがあろうか」

「────へ?」

 

ポカン、と口を開けているエレミアを見てもしや、と思う。

 

「知らなかったのか?」

 

この位は『エレミアの手記』とやらに書いていると踏んでいたのだが。

その旨をエレミアとヴィクトーリアに尋ねると二人とも揃って首を振る。

 

「全然書いてへんかったよ」

「私もその様に記憶しています」

 

その言葉に今度は自分が首を捻る。

確かにオレもクラウスに手取り足取り技術を教えたわけではなく、技術の理論のみ教えるという特殊な指導をしていたが別にエレミア達に隠していたわけではない。

まあ、エレミアが書くに足らぬと判断しただけなのかもしれぬが。

 

「しかし、覇王の師匠があのエデル……俄かに信じ難いですわね」

 

ヴィクトーリアは昔の事を思い出しているためか少し苦い顔をする。

 

「なら、少し覇王流について話してやろう」

 

自分は指先についた茶菓子の砂糖を払う。

 

「例えば、アインハルトの代名詞、『覇王断空拳』──あの足元から関節を通して力を伝達する技術。アレはまんま自分の『无二打』だろう」

「あ!」

 

自分が言うとエレミアが確かに、という風に手を叩いた。

一見随分違う技術にも見えるが『断空』と『无二打』に大きな違いはない。

ただ力をそのまま伝達するか、魔力を混ぜ込みながら風へと変換するかどうかの違いだ。

 

「アインハルトは変換の過程で力を散らしてしまっている。故に今の『断空』は入り口だ。クラウスの『断空』はもっと爆発的な威力を持っていた」

「爆発的っていうと具体的にはどんくらい?」

「そうだな……『覇王は海を破る一撃を持つ』とかいう眉唾の伝承があるだろう?」

「あるなー」

「あれは事実だ」

「は?!」

「しかも表面だけではなくて海の底が見えるレベルに真っ二つだ」

「ほぁー、凄いんやなぁクラウスさん……」

 

確か海戦の時に相手の将が単身逃げようとするのを見て「将が部下を残して逃げるなんて事はあってはならない」と憤慨したクラウスが海を殴り相手の船を海の藻屑にしたのだ。

 

オホン、とそこで咳払いが聞こえる。

 

「話がずれてますわ。ジーク、今は次の試合ですわ」

 

自分と雑談で盛り上がる自分とエレミアを些か強めに注意するヴィクトーリア。

 

「来るルーフェン武術の相手との戦い、一体どうするつもりですか?」

 

心配そうに尋ねるオカン(ヴィクトーリア)にエレミアはけろりとした調子で答える。

 

「一回行ってみようと思うんよ。エデルとの試合は楽しいけどやっぱルーフェン武術とは違うし」

 

エレミアは自分が遠慮せずに食べ続けたため残り少なくなった茶菓子を見て、少し不満気に此方を睨む。

 

「わかりました。でも、先方への手配はどのように?」

「えへ、お願いヴィクター?」

「もう……エドガーに頼んでおいてあげます」

「おおきにヴィクター。やから好きやー」

「こ、こら、あまりひっつかないでジーク。もう……仕方のない子」

 

エレミアが抱き付くと一瞬困ったようだったが、ヴィクトーリアは困ったように笑うとやがて我が子を慈しむように頭を撫で始めた。

 

「あー、仲良くやってる所悪いんだが、何処に行くか尋ねても?」

 

白百合が咲いていたが無視して話しかける。こと壊す事については人に劣らぬ自分だ。雰囲気くらいいくらでと壊してやろう。

 

ヴィクトーリアは自分の目があったことを思い出したのかほんのり頰を染めてこほん、と仕切り直すように咳払いをして答える。

 

「ルーフェンです、ルーフェン武術の総本山の」

「ルー、フェン……」

 

──ルーフェン行くことあったら儂の事伝えてはくれぬか。

 

「じゃあ、ジークルーフェン行きの予定はこの辺りに──」

「ヴィクトーリア」

「だから、その間はふらっとどこかにいったりしないで頂戴ね」

「ヴィクトーリア」

「──もう、何ですかエデル。言っておきますけどもう試合は……っ!」

 

ヴィクトーリアが此方を見てぴくり、と引きつった笑みを浮かべる。

大方『凄い極悪人の面』とかいう奴になってるのだろう。

 

「な、何ですか……」

 

少し引き気味のヴィクトーリアに、にやり、と笑って見せる。

 

「なあ、其れ自分も連れてけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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