其の八極に   作:世嗣

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それは、鮮烈で、叙情的な、そんな日常。





Vivid Lyrical days

 

 

 

そして、彼が願った明日は静かに流れていた。

 

 

 

「うーん、今日も頑張ったー!」

 

ヴィヴィオが、帰りのホームルームが終わってがやがやとやかましくなる教室の中で大きく伸びをした。

 

そんなヴィヴィオの元へ八重歯の似合う同級生が一人やってくる。

 

「ヴィヴィオ今日は随分疲れてるんだねー。夜更かしでもした?」

「うん、ちょっとレポートを昨日まとめちゃったの」

「へ? レポート? 魔法理論の?」

「うん、それそれ〜」

「でもあのレポートって明日までじゃなかった?」

「あー、ちょっと今日の夜は予定があって出来そうになかったから」

「予定?」

 

こてん、と首を傾げられてヴィヴィオは言葉に詰まってしまう。別に言ってしまえば良いのだろうが、あの厳つい友人のことについてなんと言えば良いのだろうか。

 

「ふふ、今日ヴィヴィオは件の彼氏さんの退院祝いに行くんだよね」

「え?! 彼氏さん?!」

「ちょ、コロナ!」

「あ、これ内緒なんだっけ?」

 

てへ、と戯けたような笑みを飴玉のような髪留めをした友人が浮かべた。

 

「ちょ、ヴィヴィオ彼氏さんって!」

「コロナの冗談に決まってるよ! アレが彼氏とか絶対ないって!」

「ほ、ホントに?」

「ホントに!」

「あはは、ヴィヴィオったら必死に否定したらかえって怪しいんじゃないの?」

「誰がさせたと思ってるの〜!」

 

ヴィヴィオが追いかけると友人の一人は楽しそうな笑みを浮かべて、逃げ回り困惑するもう一人の友人を連れて疾風のごとく教室から出ていく。

 

「頑張ってね、朗報待ってるよ」

「ねえ、ヴィヴィオ彼氏って嘘だよねー」

「もう、リオ! コロナ! ちょっとー!」

 

ねー、ねー、ねー、と友人の言葉が響きながら遠ざかっていくのを苦い気持ちで見送った。完璧におもちゃにされてしまったことにヴィヴィオも少しばかりの屈辱を感じざるを得なかった。

 

「もういいや……、早くアインハルトさんのとこに行こう」

 

はあ、と溜息をついて帰り支度をして教室を出る。そして初等部の隣の中等部へと足を進める。

 

その最中なんとなく空を見上げた。

 

「もう一ヶ月かぁ……」

 

思い出すのは、あの日の命を削る戦い。一時間に満たない短い時間だったが、ヴィヴィオの記憶から消えようとしない出来事。

 

あの日、ナハトヴァールが消えてからは大変だった。

 

大怪我していたアインハルトやジーク、『エデル』は当然として、比較的怪我の少なかったヴィヴィオもファビアも速攻で聖王教会系列の病院に搬送され、検査と治療のオンパレード。因みにアインハルトと『エデル』は速攻で入院することになっていた。因みにジークの方は入院してない。

 

その後は、管理局からの事情聴取。少し大変だったけどとても良くしてもらえた。

 

むしろヴィヴィオにとって大変なのはここからだった。

 

家に帰ったヴィヴィオの姿を見て、母親のうち金髪の方が抱きついてギャン泣きし始め、それを必死に慰めていると茶髪の方が凄いにこやかにヴィヴィオを見ていた。

その後、あなたは子供なんだからとか、無茶しがちなのが心配とか、その男の子と付き合ってて大丈夫かとか、命が一番大切なんだよとか、ひとしきりお説教を受けた後は、目の端に涙を浮かべてしっかりと抱きしめられた。母親の体が、なぜかとてもあったかくて、ヴィヴィオも少し涙が出たのは内緒だ。

 

「ヴィヴィオさん」

 

ぼんやりと空を見ながら歩いていると、前方から声がかかった。慌てて目を向けると、そこには優しい笑みを浮かべた緑髪の先輩がいた。

 

「アインハルトさん〜! 今私そっちに行こうとしてたんですよ〜」

「ええ、私もそうしようかと思っていました。ちょうど同じことを考えていたみたいですね」

「えへへ、なんか嬉しいです、アインハルトさんと仲良しみたいで」

「そ、それは……こほん、ええ、私も嬉しいですよ」

 

アインハルトが少しばかり感じた気恥ずかしさを隠すように、軽く咳払いをして、ヴィヴィオの方を伺った。そこには嬉しそうに顔をひまわりのようにした少女がいて、アインハルトの気恥ずかしさが増すだけだった。

 

「その、ヴィヴィオさんは今外を見て何を考えていたんですか? 何か面白いものでも?」

「あ、いえちょっとこの前のことを思い出してただけです」

「…………そうですか。そう言えば、随分とお母様にお叱りを受けたとも聞きましたね」

「う……それは……」

「まったく無茶ばかりするからですよ。ヴィヴィオさんはもっと体を大切にしなければ」

「そ、それはアインハルトさんには言われたくないですっ!」

 

びしっ、とヴィヴィオが指差した。

 

「アインハルトさんだけですよ、女子で一人だけ入院してたの!」

「うっ……で、でも割とすぐに退院できましたし」

「お腹に傷がちょっと残っちゃうって聞きました!」

「ああ、アレくらいなら一年もすれば跡形もなく消えますよ?」

「脳味噌ベルカはさっさと卒業してください! 可愛い水着とかきれないじゃないですか!」

「脳味噌ベルカ?!」

 

説明しよう! 脳味噌ベルカとは脳味噌が筋肉でできているような野蛮人をいう! 主にシグナムや赤髪の少年がこれに該当する。

 

「でも、水着は別に……行く予定もそんなにないですし」

「そうは問屋が卸しませんよ! 今度の夏は絶対にみんなで海に行きますからね!」

「みんなと言うと……彼もですか?」

「ええもちろん!」

 

ぐっ、とヴィヴィオが親指を立ててみせる。

 

「それに次のカルナージの合宿にも連れて行く気です。なんか、ウチの母が直接鍛えてあげたいとか言ってました〜」

「あの人死ぬのでは?」

「いや、流石にママでも見知らぬ男の子には優しくしてくれますよ。たぶん」

 

アインハルトの脳裏には赤髪が桜色の砲撃に飲み込まれている光景しか見えなかった。アレは近接だとやたらと強いが、遠距離相手だと途端にカモと化すため、ただのサンドバッグになりそうだった。

 

「というか、私だけこんなに言われるのは解せないです……ジークさんも同じくらいの怪我してたはずなのに」

「えっと、確かジークさんって肋骨折れてましたよね?」

「ええ。でもなんか牛乳飲んでたらくっついたとか言って三日後には中庭で走り回ってました」

「あの人も人間の枠から飛び越えてますね。回復力が異常……」

「私はあんな回復力よりも鉄パイプで殴られたくらいじゃ動じないような硬い骨がほしいですね……。あんな回復力よりも」

 

二人の脳裏にはあははー、と元気そうに笑う黒髪ツインテールが走り回っていた。流石次元世界最強の十代女子の名は伊達ではなかった。

 

二人で顔を見合わせて小さく笑う。

 

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「ええ、そうですね」

 

ヴィヴィオとアインハルトが並んで歩き始める。

 

「そういえば、アインハルトさんって少し背伸びました?」

「そうですか? 自分ではなんとも言えませんが……ヴィヴィオさん?」

「胸も大きくなっていますよね?」

「そ、そんなことは、無いと思いますが……きゃっ、ヴィヴィオさんっ!」

「いいじゃないですか約束された勝利の巨乳なんだから」

「ちょ、手をわきわきさせないでくださいっ!」

 

その道程にはきっと、彼の守りたかった笑顔があふれていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「ジーク! 聞きましたわ! また貴女定期検診サボったでしょう!?」

「ぎゃ、ヴィクターどこでそれを……」

「あ、それは私」

「ちょ、ファビア! (ウチ)との友情どこいったんよ!」

「別にエレミアが検診サボろうがどうでも良いけど、教えたらヴィクターはお菓子くれるから」

「まさかの餌付け! それに名前の呼び方戻っとる! 前ジークやったやんな!」

「え、記憶違いでしょうエレミアさん」

「更に距離遠ざけてきた!」

 

がびーん、という効果音がつきそうな表情でジークがファビアに詰め寄るが、当のファビアは鬱陶しそうにジークの額を指で弾いた。

 

「あーん、ヴィクターファビアが冷たい〜」

「今私は定期検診を定期的にサボる貴女よりもファビアの方が好感度が高いわ。残念だけどジークの事を慰めたりしないわよ」

「そ、そんなぁ……」

 

ジークは一番の親友に裏切られたことにより次なる避難先を探そうとしたが、今この部屋にはヴィクターとファビア、それに執事のエドガーしかいなかったため諦めて大人しく席に着いた。

 

一瞬エドガーに泣き付こうかとも思ったが、やっぱねえな、と思い直した。

 

ヴィクターが隠す気もなく大きなため息を漏らした。

 

「ジーク、今日彼の病室に行く前に定期検診受けてきなさい」

「え、今日? 明日でええやんか」

「どうせ貴女は明日になればどこかに行ってしまうわ。なら、今日済ませるのが正解でしょう?」

「ええ〜、でも長引いたら今日の夜のパーティ出れへんやん……」

「パーティに重ならないように設定してくれた日程をすっぽかしたのは貴女でしょう?!」

「て、定期検診って定期的にしなきゃ意味ないと思うんよ」

「その定期をぶち壊したのは貴女でしょうが。この時ばかりよく回る口はこれですか〜〜」

「いひゃい、いひゃい〜」

 

ヴィクターがジークのほっぺたをぐにぐにと引っ張った。そのまったくスキンケアなどしてないのにやたらとらもちもちした肌にヴィクターがイラッとしてさらにほおを引っ張った。

そして、そんな二人を見てファビアは何も言わず紅茶を飲んで、ほうと小さく息をついた。

 

「エドガーさん、紅茶美味しいです」

「お褒めに預かり光栄です」

「こんなに美味しいなら家でも淹れてみようかな……」

 

ふむ、ともっともらしく腕を組むファビア。そんなファビアに「砂糖マシマシでの紅茶飲んでもそんなにかっこつかないよ」と言わないだけの優しさがエドガーにはあった。

執事とは常に紳士でなければならないのだ。

 

「ねえ、ジーク」

 

ファビアがジークに声をかけた。その少し落ち着いた調子に、ジークもなんとなくそれが真面目な話だという事を察した。

 

ジークが椅子に座りなおしてファビアに向き直る。

 

「話は、この前の『鉄腕』のこと」

 

ほんの少しジークが息を呑んだ。そんな態度を特に気にした様子もないファビアは、手の中で出されたクッキーを弄ぶ。

 

「私も通して術式を通した時、私は『鉄腕』の構成術式を全部見た。たぶん、再現しろって言われたら完璧にできると思う」

「な、ファビア貴女っ────」

「ええ、ヴィクター」

「でも、貴女の『鉄腕』は……!」

「ええんや、ヴィクター」

 

食いかかるようにして立ち上がったヴィクターがジークに押しとどめられて渋々腰を下ろした。

 

「そんで? ファビアは、『鉄腕』の術式公開して特許でも取るか?」

「そうだね、それも良いかもね」

「そうか、まあしゃあないか」

 

ジークは困ったように笑って頭をかいた。その表情はたしかに困ってはいたが、悲壮なものではなく、来年からおんなじ魔法使う人がわんさか出てくるかなぁとかそんな楽観的な事を考えていそうなものだった。

 

そんな、明るい表情を見て、ファビアの方もまた呆れるように笑みを浮かべた。

 

「でも、そんな事よりもジークに借りを作っとくのも良いかなって、思うからやめるね」

「へ?」

「全部、忘れるって事。『鉄腕』のことは、全部。私のここにしまっておく」

 

ここ、といったときに胸を叩いて見せて、ファビアは悪戯っぽい笑みを見せる。

 

「貸し、一つだからね」

 

その無邪気な笑顔にジークもまた嬉しそうに笑った。

 

そこには、きっと彼の守りたかった笑顔があった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一人きりの病室で服をサクッと着替えてしまう。

 

一月近く過ごした病室もこれで完璧におさらばすることとなる。

 

「世話になったな、ベット。お前には寝るだけでなく筋トレでも助けてもらった。かけがえのない、友だ……」

 

ふ、と笑って軽く白い清潔なベットを軽く叩いた。スプリングがぎしりと軋んで、まるで返答してくれているかのようだった。

 

「俺もだよ、相棒」

 

また、叩く。ぎしり、とベットが言葉を返す。そして、また言葉をかけようとして扉近くから咳払いが聞こえた。

おそるおそる病室の出入り口へと目を向ければ、そこには扉を背に微妙な表情を浮かべた八神はやて。

 

「…………どこから見た」

「気にするな相棒」

「よし、今のは記憶から消せ今すぐだ。さもなくば俺は今から自分の頭を割れるまでベットに打ち付ける」

「自分を人質に取るなんて驚きの脅迫方法やな」

 

からからと八神はやてが笑うのに、俺も毒気を抜かれて思わず表情が緩んだ。

 

「一応、退院手続き終わったで」

「すまんな、親代わりをさせてしまって。親父たちが目覚めるや否や病院から抜け出さなければやらせてたんだが……」

「別に謝る事やあらへん。というか、君の両親アグレッシブすぎやろ。まだ、傷治り切ってないとこあったで絶対」

「あの人たちナチュラルボーンベルカだからな……」

「…………それに怪我させてしもうたのも私が不意打ちでやられてしもうたからやし」

「それは、仕方あるまい。ナハトヴァール相手だ、不意を突かれれば誰でもやられる。それが、ナハトヴァールという存在だ」

「ほー、励ましてくれとるん?」

「八神はやてがそう思うならば、きっとそうなのだろうな」

 

俺がそういうと八神はやてが目を丸くして自分を見つめた。

 

「……なんだ」

「いや、変に素直やなと思って。もしかして私を口説いとる?」

「ハッ」

「鼻で笑われた?!」

 

その様子を見て、少し笑みを浮かべた。八神はやてはよっぽど何かを言い返そうとしていたが、自分の笑みに毒気を抜かれたように肩を落とした。

 

「ほら」

 

ひゅっ、と八神はやての手元から一枚の紙が放られた。魔法に乗ってきたそれを空中で受け取り、目を通した。

 

 

 

──────

 

患者名 ーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

 

 

魔力保有量

負傷前はEランク。大規模戦闘後、管理局系列の調査により現在はDランクの査定。要経過観察。

 

毛細魔力回路(マジックサーキット)

魔法属性・身体強化

大規模戦闘後魔力暴走を起こし、全壊。其の多くは消失及び機能停止し肉体と一体化している。要経過観察。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

………

……

 

 

───────

 

 

 

「……魔力保有量、上がったのか」

「どーやら、毛細魔力回路がずっと持っていっとった魔力が常にリンカーコアに戻った分、使える魔力増えたんやて」

「そうか。この歳で増えるとはな……

 

毛細魔力回路が消えたから使える魔力が増えるとは、少し意外だった。大方エデルの置き土産とでもいったとこだろうか。

思わず消えていった初代に想いを馳せて、なんとなく窓の外を見つめた。個室からの窓では辺りは木々しか見えず、なんとなくそれが在りし日のシュトゥラを思わせる。

 

「毛細魔力回路、消えてもうたんやな」

「ああ、そうだな」

「随分、軽いな。もうちょいショック受けるかと思っとった」

「…………たぶん、これで良かったんだよ。なくなっちまった方が、良かったんだ」

 

背中にかけられる声に振り返ることなく、そう答えた。未だ幼い頃からあった毛細魔力回路のない感覚はなれないし、これからの八極拳をどうして使えばいいのかという不安もある。

だが、それでも俺は、あの時初代の思いと共に毛細魔力回路が消えた事に、不満を抱いていなかった。

 

あれが、一番正しくて、あれがエデルにとっての正解だったのだと、そう信じている。

 

「なあ、これから君はどないするん?」

「これから、とは……?」

「この病院出た後のことやあらへんで? これから、将来どう生きるかって事や」

 

八神はやての問いかけに自分は振り返りながら頭を悩ませる。

 

将来、未来、俺のしたい夢。

 

そう言われて思い浮かぶのは自分と友人になってくれた少女たちの顔。

ファビアとはいつかクロゼルグ一族を探して旅をしようと約束しているし、ヴィヴィオには八極拳を教えて欲しいとも言われた。ジークとはこの前模擬戦なしの本気の試合をしようとも頼まれたし、アインハルトにはDSAAに興味ないかとも尋ねられた。

どれも楽しそうで、彼女たちと一緒ならきっと眩しいものになるだろうと言うことはなんとなく予想はついた。

 

しばらく頭を悩ませたが、どうも今は何か将来について決めきれそうにはなかった。

 

「ああ、でも一つあるよ、夢みたいなもの」

 

脳裏に、赤髪の男と最後に交わした約束が蘇る。俺と彼が、たしかにあの時誓った言葉を思い出す。

 

「俺は、彼奴らの幸せを守りたいと思う。普通の、平和な人生を笑って過ごせるようにしたい」

 

それが約束だったし、俺も今はそうしたいと思っていた。将来のことはまだよくわからない、でも、今はそれが俺の夢だった。

 

そんな俺の言葉を聞いて八神はやては苦く笑った。

 

「そういう時はな、自分がなりたいもの言うんやで、普通」

「そう、なのか……?」

「そうやよ。でも、なんちゅうか、君らしくてええんちゃう?」

 

思わず「なんだそれは」と零して、息を吐きそうになった俺の耳に、ぱたぱたと複数人の足音と話し声が聞こえてくる。

 

「ねえ、アインハルトさん病室ってこっちで良かったですっけ?」

「ええ、受付の方がこちらだとおっしゃっていましたよ」

「なあ、ファビア、検査に行ったらめちゃ怒られたんやけど」

「いやむしろ今までサボっててよく怒られないと思ったね。というかヴィクターは? 私にジークの子守はできないよ」

「なんか、先にホテルに行ってパーティの準備するんやて。あの男には会いたくないって言ってたなぁ」

「ヴィクターさんに嫌われすぎでしょ……」

「まあ、彼ですからね、仕方ないです」

「というか、もう扉の前だけど喋ってていいの?」

「「「 しまった! 」」」

 

その声の集団が扉前にきて、急にこしょこしょと声を小さくした。

 

「え、今の声聞こえてたかなぁ……」

「どうでしょう、彼は結構耳がいいですからバレているかも知れませんね」

「しまった、不注意のせいでドッキリ作戦台無しやっ」

「もうバレてるならさくっと中に入らない?」

 

扉越しに聞こえるそのやり取りを聞いて、微妙な顔を八神はやてに向けると、彼女もやれやれとでもいうように肩をすくめた。

 

小さく息を吐いて、静かに扉に手をかけて、勢いよく開けた。

 

「きゃっ」

「わぷっ」

「うげ」

「あ、元気そう」

 

すると金、緑、黒の三人が雪崩を起こすように病室に入ってきた。残りの一人は特にそんな無様は晒さずに、病室の外でいつものように自分に接した。

 

病院に叩き込まれて以来、久しぶりに会う俺の大切な人たちの姿だった。

 

「久しぶり! あの日以来だね! あ、あのこれ退院祝いで! 私たちみんなで選んでそれでね────むぐっ」

 

堰を切って話出そうとするヴィヴィオの口に指を置いて押しとどめた。ヴィヴィオの(ルビー)(サファイア)の瞳がまん丸くなり、鏡のように俺の姿を映した。

 

「まずは、自己紹介をさせてほしい。友達は『名前』で呼び合うんだろう?」

 

俺がそう言うとヴィヴィオは丸くした目を不意に優しく緩めて、こくりと頷いた。

 

「ジーク、自分の名、聞いてくれるか」

「ん、別にええよ」

 

ジークは特に考えもせずにすぐに頷いた。

 

「ファビアは…………」

「あなたのことなら、なんでも聞きたいかな」

 

わざわざ聞くことがなかったほどしっかりと返答してくれた。

 

「アインハルトも、構わないか?」

「ええ、もちろん構いませんが……」

 

アインハルトはよく理解していないようだがそれでも頷いてくれた。

 

瞳を閉じる。

 

今まで長い道のりを歩いてきた。傷ついて、迷って、その果てに多くのものを失ってきた。

 

でも、今目の前にあるものが、得られたならば今までの道も、決して間違いなどではなかったのだと、今はそう断言できた。

 

名前を告げる。親父と母さんから貰った、俺の、俺だけの、名前。

 

何となく、長い物語が、始まる予感がした。

 

「俺は、シリウス・エデル」

 

それは、きっと美しく、鮮烈なのは間違いない、そんな物語。

 

 

「これからも、よろしく頼む」

 

 

────俺の、友人たち。

 

 

顔には、自然と笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「其の八極に」 完

 

 

 




魔法少女リリカル(美しい)なのは vivid(鮮烈)

というわけじゃ。

これにて「其の八極に」完結となりました。
いやはや、今月に入ってから毎日この作品のこと考えてた気がしますね……。
いや、二年近くもこの作品書いてる事実が驚きでした。
まあここでだらだら書くのもアレなのであとはあとがきに回しましょうか。

では、皆さん今まで応援ありがとうございました。

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