其の八極に   作:世嗣

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オラオラオラッ!久しぶりっ!




番外
閑話休題


 

 

「ほい」

「もは?」

 

寝ぼけ眼で朝飯のパンを齧っている自分の前に、深い茶色のケーキが置かれた。

 

「ガトーショコラや。私の手作りやから味は保証するで?」

 

にっこりと八神はやてが笑みを浮かべる。

 

「……いくら払えば良いんだ?」

「エデルの中での私のイメージどうなってるんよ」

 

まったく、と八神はやてが腕を組んだ。

 

「バレンタインやよ、バレンタイン。聞いたことくらいはあるやろ?」

「ばれんたいん……人の名前か?」

「いや、全然ちゃう…………訳でもあらへんな。語源は人の名前やったっけ」

「で?その『ばれんたいん』が何だというのだ」

 

自分は八神はやて手製のがとーしょこらをぼんやりと見ながら問いかける。

すると、八神はやてはにっこりとさも楽しそうに笑った。

 

「今日はなー」

 

この顔は見た事があった。自分をからかおうとした時によく見せる笑みだった。

ぐいっと自分に顔を寄せてテーブルの上で肘をついて胸を強調するように寄せた。八神はやての吐息が、自分の顔の表面を撫でる。ふわりとミントのような爽やかな香りがした。

八神はやてはその水に濡れたような瞳で自分を見つめる。

 

「女の子が好きな男の子にチョコレートをあげる日なんよ」

「へー」

「興味なしかーいっ!」

 

さくっ、とフォークをガトーショコラに入れた。

 

「何でやっ!もっと良い反応すべきやろ!」

「何を馬鹿なことを」

 

自分はやや呆れながら、がとーしょこらの乗ったフォークを八神はやての目の前に持って行く。

 

「其方、女の子という年ではあるまい?」

「それ言ったら戦争やで?!」

「あ、美味い」

「無視せんでくれへん?!あとおおきに!!」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「こ、これ、バレンタインのチョコっ!よ、よかったら食べて」

 

所変わってダークグリュン邸。約束のあった模擬戦闘をヴィクトーリアとエレミアとこなした自分たちは、テーブルを囲んで休憩となっていた。

 

「すまんな、感謝する」

 

少しリボンの崩れた、如何にも手作りといった感じの包装の小箱がエレミアから手渡された。リボンを解いて中を見てみると、不揃いな玉の形のチョコになにやら砂糖がかかったものが入っていた。

 

「なんだ、これ?」

「ええと、確か……」

「トリュフチョコ、ですわ」

「ああ、うん、それ」

 

エレミアが少々顔を赤くして少し体を縮こまらせた。

自分はそんな彼女を見ながら、小箱から1つチョコを取り出して矯めつ眇めつして見てみる。

特に危険性はなさそうだが、此処は安全を行きたい。

 

「ヴィクトーリア、此れ食べれるのか?」

「ええ、大丈夫ですわ。私がしっかり監視──もとい、指導しましたから」

「酷い!ヴィクター今監視って言ったと思うんよ!」

「いや、監視で間違い無いのではないか?」

 

エレミアは放っておいたら予想できないことをしそうだ。チョコレートをガイストで消し飛ばすとか。

 

「もう〜〜、エデル早よ食べればええんよ!そしたらわかるから!」

「でもなぁ」

「とりゃ!」

「もが」

 

痺れを切らしたエレミアによって口にチョコが突っ込まれる。しばらく口の中でチョコの喉を焦がすような甘さと、特有の匂い、そして、焦げたようなほんの少しの苦味。

 

「ど、どう……?」

「甘いな」

「う、ならええんやけど……」

 

自分の感想にエレミアがほんの少しガッカリしたかのように顔を下に落とした。心なしか自慢の二房の髪も下がって見える。

すると、自分の右側からものすごい視線を感じた。言わずもがなヴィクトーリアだ。

ちらりと其方を伺うと、ヴィクトーリアの目が自分に言葉を訴えかけてきていた。

 

ちゃんと褒めろ

 

その視線に小さくため息をついた。

 

「エレミア」

「ほえ?」

 

顔を上げたエレミアの頭に手を乗せる。

 

「感謝する。美味かった」

 

ほんの少し苦かったけど、それはエレミアが作ってくれたならば気になる程でもない。こういうのは気持ちを受け取るものだと思う。

 

「え、えへへ。お、おおきになぁ」

 

エレミアが頬を赤らめて満足げに笑う。

 

「ふふ、ジーク顔が真っ赤よ」

「い、言わんといて!」

「本当に貴女は可愛いわね」

「そ、そういうヴィクターは嫌いや」

 

ぷう、とジークが頬を風船のように膨らました。

そんな二人を尻目に自分は椅子から立ち上がり、小さく伸びをした。

 

「もう行くん?」

「ああ、この後はヴィヴィオとアインハルトと用事があってな」

「あらあら、色男は辛いですね」

「ふん、憎まれ口ならもう少し自分に応えるように言うんだな」

 

嫌味を言ってきたヴィクトーリアに鼻で笑って見せて、テーブル上のクッキーを二つほど握った。

 

「貰っていくぞ、ヴィクトーリア」

「なんで私に聞くのですか、持っていくなら持っていけばいいではないですか。エドガーが作ったものですし」

「────くく、そうか」

「なんです、その笑い方」

「いやいや、何でもない」

「……早く行くなら行きなさい」

ヴィクトーリアが目に見えてイライラし始めたので笑いを堪えてそこから立ち去ることにする。

最後にクッキーを一つ齧って、味を確認して口の端を釣り上げて、笑って見せた。

 

「流石にこの味で何時もの執事殿の作品というのは、信じれんぞ」

 

そう言った瞬間、ヴィクトーリアの顔が赤みを帯びた。

 

「え、エデルっ!」

「くくく、美味かったぞご馳走様」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はい、チョコでーす」

「あ、私のもどうぞ」

「ん、すまんな」

「もう、そういう時は」

「ありがとう、か?」

「そうそう!」

 

自分の手にはヴィヴィオとアインハルトの二つのチョコがあった。ヴィヴィオの方はヴィヴィオの片目によく似た色合いの赤いもの。

対してアインハルトは、彼女の片目の色合いとよく似た藍色のものだった。

 

「ほらほら、早く開けてみて」

 

促されるままに開けてみると、其処には想像の斜め上を行くものが鎮座していた。

 

「こ、これは…………?」

 

自分が言葉を失っているとふふーん、とヴィヴィオが胸を張って見せる。アインハルトはそんなヴィヴィオの横で少し申し訳なさそうにしていた。

 

「1/1スケール、特製クリスチョコでーす。あ、アインハルトさんのはティオねー」

 

其々の箱の中に深い茶色の兎と、純白の猫?虎?が鎮座していた。

 

「…………これを、食べるのか」

「す、すいません。迷惑、でしょうか?」

 

アインハルトが申し訳なさそうに眉を寄せる。

 

「あー、いやそうでは無くてだな……。自分は、その」

「甘いもの、あんまり得意じゃないんだよ、エデルは」

「そうなんですか?」

 

自分が言うよりも早くヴィヴィオがその先を引き取ってしまった。そのことに少し釈然としない思いを感じながらもアインハルトに頷いてみせた。

 

「でも、大丈夫!ほら、エデル、クリスの頭食べてみて」

「今ここでか?」

「うん!」

 

きらきらとヴィヴィオが目を輝かせる、自分は其れに対して覚悟を決めて兎の耳にかじりついた。

 

「あまり、甘くない」

「でしょ?」

 

自分が驚いていると、ヴィヴィオが自分に向けてピースサインをみせた。

 

「甘いものが苦手な人も安心のビターチョコでーす。これならエデルも食べられるでしょ?」

「そうだな、ありがとう」

 

満面の笑みのヴィヴィオの頭に手を置いて軽く撫でていると、アインハルトが少し拗ねたように呟いた。

 

「ヴィヴィオさん、そうならそうと言ってくれたら良かったのに」

「ふふーん、ファビアちゃん程じゃないけど、私もエデルについては詳しいんですー」

 

アインハルトに珍しく、不満をあらわにしてじとり、とヴィヴィオを睨めた。

 

「大丈夫だ、アインハルト、其方の分を全て食べる」

「本当ですか」

「ああ、本当だとも」

「なら、良かったです」

 

アインハルトが優しく、安心したように笑った。

 

「私とアインハルトさんの、残さず食べてね?」

「了解した……ちゃんと、ちゃんと食べよう」

 

そこそこの大きさの二つの兎と虎のチョコに、ひっそりとため息をついた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ただいま……む?」

 

玄関を開けても返事がない。何時もなら、ツヴァイ辺りが出迎えてくれるのだが。訝しげに思って中に入る。

 

「あ、お帰り、エデル」

「ファビア?」

 

驚いたことにファビアが中でエプロンをして台所に立っていた。いつもは後ろの方に流してある金髪が、料理中のためか後ろの方で一つに縛ってある、いわゆるぽにーてーる、というやつだった。

 

「もう少しで出来るから、ちょっと待ってて」

「う、うむ……」

 

辺りを見ても八神はやてたちの姿は見当たらず気配も感じない。そのことに少しばかりの居心地の悪さを感じながら、食卓のいつもの席に座った。

ふわりと台所から空腹を誘う匂いが漂ってきた。横目でファビアも見れば、薄く笑みを浮かべフライパンを振るっていた。

なんと無く、悪いものを見た気がしてテレビをつけながら特に目的も無くぼんやりと見つめる。

 

「お待たせしました」

 

およそ待つこと10分。自分の目の前に、デミグラスソースのたっぷりかかったオムライスが置かれた。

そして、ファビアは何時もの席の自分の右隣では無く、対面の席に皿を置いて自らも腰掛けた。

 

「なあ、ファビア……」

 

自分が言葉を発しかけるとファビアは首を振った。

 

「まず食べよう?」

 

そして、調理中のように柔らかく笑った。そう言われては、ただ食べる側の自分には選択権はなかった。

 

「いただきます」

「召し上がれ」

 

スプーンで一口分、オムライスを掬った。半熟の卵が濃い茶色のソースと絡み、そしてその断面からは赤色のチキンライスが覗いていた。

一口、口に入れ思わず、言葉を失う。

 

「どう?」

「……美味い、な。腕を上げたな」

「でしょ?」

 

ファビアは自分の反応をみて!満足そうに笑って自分もオムライスを食べる。おいしい、という言葉が小さく呟かれた。

 

「なあ、ファビア。今日、八神はやてたちはどうしたのだ?」

「お姉ちゃんたちは外にご飯食べに行ってるけど?」

「初めて聞く事実だな……」

「エデルには黙ってたしね」

「何故そんなことを?」

 

自分が尋ねるとファビアはほんの少唇を尖らせるようにして、自分に尋ねた。

 

「エデル、今日チョコいっぱいもらったでしょ?」

「む、まあ、貰ったと言えば、貰ったな」

「だから、だよ?」

「──?」

 

自分がさっぱりわからない、という風に首を傾げると、ファビアは困ったようにため息をついた。

 

「私が、エデルの記憶に一番残るバレンタインがしたかったんだ」

「────む」

「みんなはチョコだったら、あんまり記憶に残らなくてもご飯を作ってあげたのは私だけでしょ?」

 

ファビアがまるで悪戯が成功したように笑う。かつてのように、悪戯の後のクロのように、得意と、恥ずかしさが入り混じった顔で。

 

「初めてだから、特別にしたかったの」

「そう、か……」

「うん。だから、今日はこのソースがチョコの代わりかな」

 

ファビアがその、チョコの色とよく似たソースを見てはにかんだように笑った。

 

「おいしく、食べてね?」

 

 

 

 

 

 

 





わっしょいわっしょい!一時間半クオリティ!
キャラはぶれてるけど知らないよ!

いつかどこかのもしもの話。

それはいつか、訪れるかもしれないし、訪れないかもしれない。

それでも、その思いは嘘でない。

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