ごった煮D×D   作:花極四季

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「この作者の作品はドブも同然だ。」

「しかも書かれているのはなんちゃって勘違いものばかり。」

「書きたいままに書いて、エラッタした作品すべてを削除してしまえば、いっそすっきりするだろうに。」

「欲望のままに作品を乱雑するだけのクズが……」

「俺の作品の更新停滞の嵐でがんじがらめになった読者達は、終いには天に向かって叫ぶだろう。」

「"はやく続きを書いてくれ!"とな……」

「そしたら俺はこう答えてやる」

「"すいません許してくださいなんでもはしませんけど!"」


ごった煮1

身体が氷になったような、そんな不快な感覚で意識が浮かび始める。

そして、次に感じたのは、拘束されているような異常なまでの閉塞感。

音も光も何もない。前後不覚の世界。

黒く濁った底なし沼の中、どうしてこうなっているのかと冷静に考える。

……思い出せない。そもそも、自分が誰だったかさえも曖昧になっている事に気付く。

 

名前は確か――レン。読み方だけ覚えていて、どんな書き方をしていたのかは不明。

国籍は日本人――の筈。と言うか、英語をイメージしても日常会話ぐらいしか出てこないし、多分そう。

家族構成、友人関係――思い出せるものと思い出せないものと、まばらな感じ。

親以上に鮮明なのは、昔からの付き合いの友人。女子に迷惑掛けていたりと、周囲からは嫌われていたけど、自己主張の少ない自分をいつも引っ張ってくれて、いざと言うときに頼りになる、大切な存在だった――と思う。

パッと思い出せるのはこれくらい。……それを思い出せたからと言って、現状に影響がある訳ではないようだが。

 

突如、視界に光が差す。

スポットライトのようなもので照らされ、視界が白く染まる。

痛いぐらいの閃光に少しずつ慣れてきた頃、聞き慣れない声が響く。

 

『おはよう、気分はどうだい?』

 

据え置きの拡声器から聞こえた声は、男の物。

ふと見ると、光に紛れてガラス越しに人影が確認できる。

しかし、その姿は逆光のせいか酷く曖昧で、青年とも老人とも取れる状態でしか知覚することが出来ない。

 

「……最悪」

 

『それもそうだ。失敬、これも形式的な会話の切り口に過ぎない。気にしないでもらおう』

 

おどけているような、それでいて決して隙が無い。

声だけでもはっきりと分かるそれは、声の持ち主の人間性を透かしているように感じた。

 

「お前は、誰?」

 

『わたしか?ふむ――そうだな、「水銀」とでも名乗ろうか。偽名ではあるが、本名を語る理由はないだろう?』

 

「……水銀。レンは何故こんな状態になっている?」

 

『こんな?――なるほど、その反応から察するに、意識が戻る前の記憶がないようだ。なら僭越ながら説明させてもらうとしよう。端的に言えば、君は実験動物として拉致され、とある研究の道具として扱われていたのだよ』

 

「研究?実験?」

 

『そう。英雄の因子を持つ者から因子を抽出し、異なる者へと転移させることで英雄を量産するという、チープな実験さ』

 

実験動物にされている――なるほど、それらしい扱いだ。

そんな事実に直面しているにも関わらず未だに冷静なのは、実感がないからかそれとも自分の性質故か。

自分自身への記憶があやふやな時点で、自己乖離しているも同然なのだから当然と言えば当然か。

 

「それで、水銀は実験参加者?」

 

『いいや、違う。わたしは、そうだな……この下らない演劇の幕を下ろす者だ』

 

「……意味が分からない」

 

『理解する必要はない。君はただ、現状から解放されると言う事実さえ理解すれば十分だ』

 

パチン、と音が鳴ると同時に拘束が緩み、宙ぶらりんだった肉体が地面へと落下する。

ぶつかる――そんな思考とは裏腹に、肉体の方はあたかも当然と言わんばかりに綺麗な着地を行った。

……有り得ない。自分はお世辞にも身体能力は高くなかった。

少なくとも、唐突な落下から身体を捻って着地だなんて芸当は絶対に不可能だ。

と、言うことは……実験の副作用?

それ以前に、英雄の因子って……あまりにも急展開な話に理解が追い付かない。

そんな混乱を遮るように、今度は建物全体が音を立てて揺れた。

 

『さて、ついでに自爆スイッチを押させてもらった。君がこれから被る筈だったリスクの代価としては、少々物足りなくはあるが、即興ならばこんなものだろう』

 

「……自爆?」

 

『呆けていたら、圧死してしまうよ?因みに予定では三十分前後で倒壊するようだから、頑張り給え』

 

呑気にそんなことを言う水銀に言いようのない怒りを覚えつつも、脱出すべく行動を開始する。

 

『ああ、忘れていた。この施設にはもう一人、君と同じ立場の少女が隔離されている。助けるも見捨てるも自由だが、伝えておかなくては不公平だろう?』

 

言い終えたかと思うと、水銀の気配が消える。

まるで初めから存在しなかったかのように、跡形もなく、泡沫の如く。

悪魔の囁きを残して消えた水銀。その意図がなんであれ、間違いなく言えることは――知ってしまった以上、見捨てるのは難しくなってしまった、ということ。

真実か虚偽か、それを確かめる術はない。付け加えるならば、地形も一切分からない場所で孤立している現状。

助ける見捨ている以前に、自分が助かるかさえも怪しい。しかも脱出に関してはノーヒント。

もし見つかれば助けるし、そうでなければ……。

やはり冷静にその辺りを分析出来る辺り、元々こういう性格だったのかもしれない。達観していると言うか、執着していないと言うか。

少なくとも、漫画の正義のヒーロー的な熱血とは程遠い、リアリストなのは間違いないだろう。

 

自己分析もほどほどに、拘束されていた部屋から脱出する。

自爆スイッチが押されたことで、セキュリティが完全開放されたのか、カードキーのスロットらしきものがあったドアもすんなり開いた。

視界に映ったのは、どこまでも広がる十字廊下。

蛍光灯も点滅し、壁も無機質な色合いで統一された世界は、冷たく不気味。

爆発で紛れているが、それがなければ音一つない静謐な世界が広がっていたことだろう。

人の気配はない。突然の爆発の中、研究者がいたのなら騒ぎが起きていてお不思議ではないのに、避難警報さえも鳴らないのは不自然極まりない。

全て水銀が根回ししたと考えるのが、最も自然だろう。会って数分の関係だが、アイツならやりかねないと言う謎の確信があった。

知らなければ悩まずに済んだ、同じ境遇の人間の存在。それをあのタイミングで教えたのも、ふと思い出したのではなく敢えてそのタイミングで告げたとなれば、受け止め方も変わってくる。

水銀の謎は深まるばかりだが――間違いなくアイツは、この状況を愉しんでいる。

何かしらの方法で此方の動向を探り、どういう行動を取るかを見て反応を楽しむ。それを平然とやりかねない奴だと言うことは、贔屓目に見ても恐らく間違ってはいない。

しかし、水銀がこの状況を引き起こしてくれなければ今も捕まったままだと考えると、嫌な奴と切って捨てることが出来ないのも嫌らしい立ち回りだと思う。

 

思考を振り払い、長い廊下を駆け抜ける――瞬間、地面が砕けた。

爆発の結果ではない。自分が踏み抜いた(・・・・・)のだ。

予想外の結果に、脚がもつれる。

倒れる身体を支えるべく咄嗟に突き出した手は、地面を砕いた。

……流石に動揺する。しない訳がない。

人間離れした腕力、そして脚力。あまりにもぼんやりと覚えている過去の自分とはかけ離れたスペックを前に、ここで初めて己の肉体を観察する。

手術着のようなダボダボとした服装で気づかなかったが、胸周りがどうにも膨らんでいる。

襟を掴んで中を確認する。

 

「……おっぱい」

 

そこには、女性にあるべき起伏が存在していた。当然のように、下着はない。

これを見て思い出したが、確か前の自分は鳩胸で、それを理由に例の女子に嫌われていた友人に揉まれていた……筈。

記憶の限りでは、ここまで大きくはなかった。

思えば、自分が発していた声も、前に比べて少しだけ高くなってたような。

決定的な違いを見るならば、股間を確認すれば良いのだが、流石にそこまで余裕はなさそうだ。

と言うか、こんな自分でも多少は抵抗はある。羞恥とかではなく、自分が男ではなく女になっていたら、なんて事実に直面する心構えの問題。

だが、ある程度予想は付く。

超人的な身体能力、記憶とは異なる性別、英雄の因子。

ファンタジー染みた展開から導き出される可能性。異世界転生、憑依、並行世界……。

性別だけ変わったなら、まだ辛うじて現実的な側面もある。だけど、この異常な肉体強化は、流石に説明が付かない。

 

何にせよ、この力の程度は不明だけどこの状況を打開するにはお誂え向きなことは確かだ。

今度は踏み砕くことを前提に意識を足に向け、力の限り踏み込み、飛び出した。

一歩。たった一歩が、まるで新幹線のような速度を生み出し、長い筈の廊下の距離が一瞬にして縮まった。

距離にして、およそ50メートル。それが、片足一歩での距離。

普通、そんな肉体改造をされていたならば、着地からの制御なんてままならない筈なのに、この身体はまるですべてを知り尽くしているかのように淀みなく着地し、更に一歩を踏み出した。

まるで獣、いやそれ以上の運動性を発揮した動きで、予想を遥かに上回る機動力で施設内を駆け巡る。

無意識の内に、その身体能力に呑まれていたのだろう。普通ならば考えられないことを次に実行した。

 

「はぁっ」

 

掛け声と共に、眼前のドアを蹴り破った。

何で出来ているかは知らないが、まるでプラスチックを折るような感覚で扉はひしゃげ、部屋内へと吹き飛んでいく。

いちいち開ける時間も惜しい上に、崩落の影響で地盤の変化から立て付けがおかしくなっている可能性もあった為、無理矢理こじ開けられることは絶対的なアドバンテージになる。

部屋内を一瞥し、次々とドアを蹴破り、道を切り開いていく。

その大半は個室で、地理的にも階段を探した方がまだ活路を開けると言うのに、それでも個室を探索するのは、やはり水銀が残した少女の存在が心残りになっているからか。

 

時間にして、およそ15分は経過しただろうか。水銀の言葉を信じるのであれば、完全倒壊まで半分を過ぎたことになる。

水銀は胡散臭い奴ではあるが、この状況を愉しむのであれ、考える意図が的外れであれ、虚偽を告げる理由がない以上、そんな無駄なことはしそうにない……と思う。

昔から勘は鋭い方だったし、今回も信じるに値する筈。と言うよりも、縋るものがそれぐらいしかない、と言うのが一番の理由。

幾度と階段を昇り、廊下を駆け、ドアを破壊し――遂に、見つけた。

 

ベルトで拘束され宙吊り体勢と言う、自分とまったく同じ状況の少女を発見する。

躊躇うことなく跳躍し、ベルトを思い切り引っ張って引き千切る。

重力に従い落ちていく少女の身体を支え、そのまま着地。

自分の身長の半分より少し上程度しかない幼い体躯。

美少女と呼ぶに相応しい童顔、光源の少ない環境下でも映えるエメラルドのような髪。

ほんの少しだけ――その姿に見入っていた。

 

「ん、う……」

 

身体を震わせ、少しずつ少女の目が見開かれていく。

状況を理解できないまま、少女の意識は覚醒していく。

 

「あな、たは……?」

 

「助けに来た」

 

「たす、け……」

 

その言葉で、少女の意識が完全に戻った。

 

「助け……そうです!確かねねは変な奴らに捕まって、って何なのですかこの揺れは!」

 

「もうすぐ爆発する。だから逃げないと」

 

「爆発って、ねねが寝ている間に何が起こったって言うのですかー!!」

 

「説明している時間はない。でも脱出するにも出口も分からないから、急いで探さないといけない」

 

パニック状態の少女を尻目に、状況だけを端的に説明する。

それを聞いた少女は、一変して冷静になり考えを絞り出す。

 

「地図はないのですか?」

 

「ある。でも読んでも分からない、読みにくい」

 

実は、探索している間に地図を失敬していたのだが、それは地図と言うよりは構造図に近い、三次元的な構成であり、揺れる環境下ではまともに読むことさえ叶わない。

 

「ねねに見せてください」

 

「ん」

 

少女に地図を手渡すと、真剣な目つきで地図を注視し始める。

時折、周囲をちらちらと観察しながらも、時間にして一分も満たない間に顔を上げた。

 

「どうやら、この施設は山の頂点を入り口とした地下施設のようです。必然的に階層を昇っていけば出口に辿り着きそうですが……余程の機密なのか、地下何十階と階層がある中、ねね達はその半分ぐらいにしか到達していないようです」

 

「半分……」

 

絶望とも取れる情報だが、それは普段ならではの話。

そして、今までの移動工程を考慮に入れた場合、少女探索によるタイムロスがこれからなくなると考えると、余裕はないが間に合わない訳ではなさそうだ。

 

それにしても、この少女の記憶力と理解力は凄まじいの一言に尽きる。それに、集中力もだ。

水銀は英雄の因子を自分が持っていることを仄めかしていたが、恐らくそれは彼女にも言えること。

自分が肉体強化なら、彼女は知力関係にブーストが掛かっていると考えていいだろう。

 

「名前、レンはレンって言う」

 

「ねねは音々音と言うです。それで、レン殿……このままだと脱出は到底無理でございます……」

 

じわりと涙目になる音々音の目元を指で拭い、そのまま頭を撫でる。

 

「大丈夫、絶対に助ける」

 

「え……?」

 

音々音の身体を横抱きに持ち上げる。

突然の事態に目を丸くさせているが、それを無視して走り出す。

 

「わ、わわわわわーー!!は、速いですぞー!!」

 

「ねね、地図の中身は覚えてる?」

 

「は、はい!余すところなく記憶済みでございますぞーー!!」

 

「なら、案内して。最短距離を進む」

 

「了解であります!!……そこを右、直進から分かれ道を更に右!」

 

音々音のナビゲートを頼りに、スピードを緩めることなく疾走する。

風になった錯覚に身を投じながら、肉体を必死に制御して可能な限りの最短距離を目指す。

さっきから全力疾走しているのに、疲労感は一切感じられない。

これほどの運動量を行使してなお、息ひとつ乱れない。

肉体そのものに経験があるかのような、自分の身体とは思えない動きの数々。

腕力や脚力が強くなっただけでは説明がつかない、反射に等しい最適な動きの連続。

制御している、とは言ったがその殆どは意識レベルのもの。

言ってしまえば、右に行きたいと思ったら右に動くのだ。

何を当たり前な、と思うだろうが、そもそも肉体が動く仕組みなんて、究極的な意味で反射と同じだ。

普段から右手を動かしたい、どの方向に動かす、どこで止める、と言ったプロセスを全て脳内で反芻してから結果を出力している訳ではない。

人間が認識できる感覚下においては、結果を認識できて初めて行動の結果を理解出来るのであって、人間の思考はある意味では肉体に追い付いていないことになる。

それに対して、今の自分の動きはゲームのキャラクター動かすようなもので、人間が普段当然に行うような動作に関しては連動するが、自分にとっての非常識――それこそ、扉を蹴破るといった動作を行うには、きちんと脳内で命令しなければならない。

デメリットのように感じるが、実際はそうでもない。

どれだけ肉体が優れていようとも、徐々に慣れていったならばともかく、いきなりそんなことになれば身体を動かすことさえもままならない。

箸を持てば箸を砕き、靴紐を結べば容易く紐を千切る。そんな感じで、精密な動きが出来なくなっている筈だ。

事実、先程地面を踏み抜いたのは、自分の潜在意識に残った走るイメージと筋力の相違が生んだ不具合であり、今では軽く陥没する程度にまで制御が出来るようになっている。

それもこれも、走るイメージをより最適化する為に、走る間にトライ&エラーを繰り返して修正していったからである。

アスリートが理想の動きを身体に覚えさせる作業と似ている気がする。

同じようなことを繰り返していけば、いずれは思考を置き去りにしてこの動きが出来るようになるのだろうか。

出来れば、そんな危機的な状況には関わりたくないけど……きっと、そうはいかないのだろう。

それは、英雄の因子とやらを内包するこの身体を持つが故の宿命、なんて割り切れる程理不尽に慣れてはいない。

そんな手前勝手な理由で死ぬのは流石に嫌。死ぬならせめてもう少しマトモな理由で死にたい。

 

指示に従い走り続け、完全倒壊まで残り1分。

最後の難関で待っていたのは、近未来な世界観でよく見る巨大斜行エレベーター。

当たり前だが、安全性を考慮してエレベーターの速度はゆっくりでありながら、地上までの距離はおおよそ500メートル。

それはまだいい、問題はその先にある分厚い扉。

ドアの何倍も分厚く、そして巨大なソレは、本来ならばエレベーターの移動をセンサーが感知して開閉する仕組みなのだろうが、それを無視して昇っていくのであればその恩恵には与れない。

センサーを探している余裕もないし、ハッキングなんてそもそも技術がない。

別の壁を壊すことも考えたが、このギリギリな状況下で下手に地盤を崩せば、それだけで崩れてしまう恐れがある。

やはり、あの扉を通る以外には最適解は無い。あるとしても、思いつかないし考える余裕もない。

 

「背中に乗って」

 

音々音が無言で頷き、自分の身体を這うようにして背中へと移動する。

彼女の脚をしっかりと掴む。下手をすれば、自分だけ飛んで後は真っ逆さまなんてことも有り得る。

不備がないことを確認して、全力で地面を蹴り穿ち、弾丸の如く飛んだ。

 

「口を閉じて」

 

勢いをそのままに、扉を殴る。

殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る――

常人離れした腕力の賜物か、分厚い筈の扉の表面はベコベコに歪んでいる。

これならば、打ち破ることも時間の問題だ。――そう、時間だけが懸念材料だ。

たったひとつのピースが不足しているだけで、思い描く理想の未来を掴み取れない。なんと歯痒いことか。

 

「れ、レン殿!血が――」

 

「知ってる」

 

音々音の悲痛さが染み渡る

流石にこんなものを間髪入れず殴っていれば、拳も砕けて当たり前だ。

いや、普通は砕けているんだけど、この肉体では肉が裂けているレベルと言うのが、この肉体の強靭性を如実に表している。

当たり前だが、滅茶苦茶痛い。傷口に塩を塗り込むよりは流石にマシだろうけど、痛いものは痛い。

しかし、この身体は苦悶の声を上げることも無ければ涙を流すこともない。

意識と肉体が中途半端に融合している、とでも言うべきか。

逡巡の考察を断ち切ったのは、タイムリミットが近いことを告げる大爆発だった。

 

「嫌あああぁぁああ!!」

 

衝撃波に耐えるべく必死にしがみ付く音々音の身体は、恐怖で震えている。

音々音がどのような事情でここに連れて来られたかは知らないが、十中八九ロクな理由ではないことだけは分かる。

絶望が絶望を呼び、彼女の精神は最早限界を超えている。

寧ろ、その幼さで今までよく自己を保ち続けられたものだと思う。素直に、尊敬する。

だからこそ、言える。

音々音は、こんな所で死んでいい人間ではない。もっと、幸せな人生を歩む権利がある。

こんな理不尽の果てに命を散らすなど、許されてはいけない。

 

「――大丈夫」

 

「レン殿……」

 

「絶対に、助けるから」

 

何の根拠もない、虚勢に等しい言葉。

だけど、この気持ちに嘘はない。それこそ、自分を犠牲にしてでも彼女だけは助けたいと思えるぐらいには、本心である。

事なかれ主義な自分らしくない――でも、悪い気はしない。

心が豊かになる、とでも言えばいいのか。胸の奥がポカポカして、とても心地よい。

誰かを助けたい、なんてここまで強く思えたのはこれが初めて。それも、行きずりの相手でしかない少女に対して向ける感情としては、あまりにもヒーロー然としている。

自分は、元々はそういう人間だったのか?それとも、あの達観した姿が正しいのか?

記憶が不鮮明であるが故に、明確な答えを見出せない。それはまるで、この肉体と自分の関係のようだと思えてならない。

 

腰に回されていた音々音の手を取る。

カタカタと震えるそれは、握ってその小ささをより実感する。

少しでも安心させてあげたい――そんな想いを込めて握った、次の瞬間。形容しがたい現象が起こった。

 

「暖かい……」

 

「これは……?」

 

自分と音々音の繋がった手を基点として、淡い光が包み込む。

それはおもむろに宙へと浮かぶと、徐々に光を強めていく。

そして、タイムリミットが訪れたと同時に、光が世界を余すところなく包み込んだ。

 

 

 

 

 

深く、深く生い茂る山中を駆けるひとつの影。

ローブを目深に被ってはいるが、僅かに見え隠れする輪郭からだけでも、美貌の片鱗が覗けるぐらいの美しさを秘めているのが分かる。

しかし今はその表情は焦燥に満ちており、当てもなくひたすらに走り続ける。

求めるモノがここにあるという可能性を知り、隠密潜入で目的地に至ったは良いが、肝心の入り口が発見できず焦れていた。

先程から鳴る爆発音と地震が、ここに何かあることを証明している。

だが、それでも答えに辿り着けない。

餌を眼前に吊るされた獣のような扱いを前に歯噛みするも、それで事態が好転する訳ではない。

それにこの爆発がもし、此方に情報が漏洩したことへの対策――つまり、証拠隠滅の自爆スイッチ等によるものだとすれば、完全に後手に回った形になる。

折角手に入れた情報を、成果もなしに失うなど己のプライドに賭けて許せない。

いっそのこと、自分の『力』で山そのものを手ずから破壊してしまおうか――そう、考えた時だった。

 

山の頂から、天を貫かんばかりに伸びる光の柱が、網膜を支配した。

時間にして、一秒にも満たない一瞬の光景。しかし、先の光が錯覚ではなかったことは、光に貫かれたであろう雲が、ぽっかりと穴を作っていることからも証明できる。

そして、数秒遅れて襲い掛かる衝撃波が、ローブのフードを煽り、遂にその全貌を晒す。

金糸のような髪に結われた髑髏の意匠が施された髪飾りと、それを通して左右に分かれた巻き毛が目を引く美少女がそこには在った。

フードが開けたことも意に介さず、光の柱が発生した方を見ながら歓喜に震える。

 

「見つけた……!!」

 

瞬間、脇目も振らず少女は走り出す。

あの光の柱こそ――否、あの光の柱を生み出した者こそ、彼女が求めて止まなかったもの。

まだ見ぬ『同類』に向けた呟きは、少女の胸の中に消えていく。

 

一瞬の間を置き、先程のものを遥かに上回る大爆発が起こる。

爆発に紛れ、何かが飛び出す光景を確かに見た。

疑念は確信へと至り、殊更走る力が強まる。

そして、山頂の光の柱の基点、その中心に人影を発見する。

それと同時に、穴の開いた雲の隙間から射した光で、スポットライトのように影を照らす。

物憂げに空を見上げるは、自分と同じぐらいの年齢であろう少女。

褐色肌と真っ白な検査衣の対比に、それを後押しするように照らす陽光に身を預ける姿は、まるで神への祝福を受けているかのようにどこか神聖で、厳かささえ感じた。

褐色肌の少女の腕に抱かれ眠る、あどけなさを残す翠髪の少女に目が行く。

静かに寝息を立てる姿にあどけなさこそあれど、そこからは相応の年齢には不釣り合いな知性の片鱗が感じられる。

この場にいるということは、その少女もまた彼女が求める人物の一人となる。

予想を上回る成果に、これまでの苦労が一気に吹き飛んでいく。

浮足立つ気持ちを自制し、一歩少女たちへと歩み寄る。

此方の存在に気付いたのだろう。視線を投げかけ、しかし一切の動きを見せない。

だが、肌に刺さるような殺気が、此方を警戒していることを如実に表している。

常人では気絶してしまうようなそれを掻い潜り、目と鼻の先にまで距離を詰め、ようやく褐色の少女は口を開いた。

 

「誰?」

 

剣呑な雰囲気とは裏腹に、どこかのんびりとした口調。

どちらが彼女の本質なのか――知りたい。だけど、それはいまするべきことではない。

好奇心を抑え、言葉を続ける。

 

「私は華琳。――いえ、その名はこの場では相応しくないわね」

 

一歩踏み出すと共に、先程とは比べるべくもないほどに雄々しく、尊大に、威儀を正して再び名乗りを上げた。

 

「我が名は曹孟徳。治世の能臣、乱世の奸雄にして、覇道を以て三国を平定した英雄――その因子を受け継ぐ者よ。歓迎するわ、同じ『英雄の因子』を持つ者同士として、ね」

 

破壊によって静寂を得た地で、三者の出逢いは果たされた。

この出会いが後にどのような結末を齎すか、それは誰も知らない。

 




そんなこんなで、珍しくもNot勘違いもの。
そして、ハイスクールD×Dの原作など欠片も見いだせない展開。

分かる人には分かる程度のクロスで、最早オリジナル作品に近い。(なおタグ)
取り敢えず原作にいつ入るとか、そんな計画なんざハナから考えてませんが?(開き直り)

水銀……一体何者なんだ……。
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