ごった煮D×D   作:花極四季

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一話だけだと、まるで意味が分からんぞ!って人が多いだろうし、溜めてた分(今回で尽きた)をさくっと出していく。
説明回だけど、だが、しかし、まるで全然!ネタを消化し切るまでは程遠いんだよねぇ!!

あ、一応言っておくけど、この作品に出る他作品からの引用キャラ=同一人物ではないから、性格とか嗜好とか違ったりするけど、仕様だと納得してくれよな~頼むよ~。



ごった煮2

気が付けば、外で音々音を胸に抱いた状態で棒立ちしていた。

閃光の果てに行き着いた光景は、自然溢れる山頂のただ中という、コマ送りもかくやと言わんばかりの超展開だった。

爆発の音は聞こえない。聞こえるのは、地面の底から聞こえる建物が崩れ行く音。

助かったのか――そう、確認の為に振り返ろうとした時、何者かの気配を感じ、其方へと振り返る。

 

そこに居たのは、またしても少女。

金髪に髑髏の髪飾り、そこからのツインテール+巻き毛という個性てんこ盛りな髪型を持つ少女は、気品を損なわない程度に早足で此方へと歩み寄ってくる。

何者かと問い掛け、返ってきた答えは、予想を超えたものだった。

自らを曹操の『英雄の因子』の所有者だと語る彼女は、此方もまた『英雄の因子』を持つことを承知でこの場に訪れていたことを直ぐに知る。

当然、警戒した。だが、彼女に敵意がないことも直ぐに理解した。

 

「曹操……」

 

「信じられない?確かに、証明する手段はない。相応の場に来れば無いことはないけれど、そんなことをすれば面倒が増えるだけだから、今は信じて欲しいとしか言えないわ」

 

「お前が曹操かどうかなんて、どうでもいい。そんなことより、ねねが心配」

 

「ねねって、その子のことかしら。……だいぶ疲弊しているわね、極度の緊張からか、血の気が引いている。でも、命に別状はないわ」

 

「そう……」

 

それを聞いて、安心する。

曹操がこの場で嘘を吐く理由はないだろうし、落ち着いた寝息を立てているのは見れば分かること。

 

「私のアジトに行けば、安静に出来る場所を提供してあげられるわ」

 

「……分かった」

 

正直、悩んだ。

敵意がないのは分かったが、信用に値するかは別問題。

しかし、現状こそ安定しているとはいえ、悪化しない保証などどこにもない。

それに――曹操は自分が知らない事情を知っている。無知な自分にとって、ここで関係を切るには惜しい人材だ。

 

「賢明ね。じゃあ、すぐにここを離れましょう。早くしないと、奴らに見つかる」

 

「奴らって?」

 

「そんなの決まってる。悪魔、天使、堕天使――人間を誑かす為に存在する様な、人間にとっての不倶戴天の敵のことよ」

 

曹操が吐き捨てるように告げた言葉は、悪意をたっぷりと含んだものであった。

英雄の因子ときて、次は悪魔やら天使と来たか。……これは、本格的に覚悟しないといけないかもしれない。

 

魔方陣のようなものが空間に張り付いたかと思うと、それに吸い込まれるようにして曹操の身体が消えていく。

これを見ても納得できてしまうのは、もう色々と諦めているからだろうか。

続いて自分の身体も同じく吸い込まれ――気付けば、豪華絢爛と呼ぶに相応しい部屋に立っていた。

 

「ようこそ、我が城『洛陽』に」

 

漫画やゲームとかで見る、中国のお城の中そのものな光景が、そこにはあった。

慣れない光景で目が回りそうになる。あるいは、圧倒されているだけか。

 

「……それよりも、ねねを」

 

「ええ、分かってるわ。ついてらっしゃい」

 

そんな心情を振り切るように、曹操に催促する。

部屋を出ると、先程の研究所と比類する長さの廊下に歓迎される。

無機質な景観だった研究所とは違い、個性が全面的に押し出されたそれは、やはり曹操の趣味によるものだろうか。

そんな益体の無い思考をしている内に、客間の一角に辿り着く。

客間の内装も華美でありながら露骨な自己主張をしない造りとなっており、廊下などに比べて落ち着ける空間となっている。

音々音が六人ぐらい寝転がれそうな大きさのベッドに寝かせ、ようやく一息吐く。

音々音も安定した寝床が手に入ったからか、僅かばかりに顔色も良くなった気がする。

 

「それじゃあ、貴方の聞きたいことに答えたいと思うけれど……ここで話した方がいいかしら?本当なら腰を落ち着ける場所の方がいいんだけど、この子の事を思えば、離れたくはない――そんな顔をしているわ」

 

「当たり前。レンは別にお前を完全に信用した訳じゃない」

 

「信用してもいない相手の居城に乗り込んで寝床を提供してもらった人間の台詞とは思えないわね。そんなにその子が大事なのかしら?」

 

「……分からない。ねねとはついさっき知り合ったばかり」

 

「それにしては、随分傾倒しているように見えるけど」

 

「レンもそう思う。レンにも良くわからない」

 

曹操は自分と音々音を交互に見やると、面白そうに笑みを浮かべる。

曹操は近くにあった椅子に脚を組んで腰掛けたので、自分も同じく座る。

 

「まぁ、今はいいわ。じゃあ、本題に入りましょうか」

 

「じゃあ、単刀直入に聞く。『英雄の因子』って何?」

 

「その質問をするということは……貴方は『無自覚者』ってことよね?」

 

「無自覚者?」

 

「此方で勝手につけた呼び名だけど、因子持ちで有りながらその事実に気付いていない者の事を差す言葉よ。その逆は『隔世者』――その名の通り、世代を隔てて英雄の力を手に入れた者って所ね。発音的にも力に『覚醒』したと言う意味としても通じる分、悪くないネーミングセンスじゃないかしら」

 

ほんのりドヤ顔をする曹操。

ああ、彼女が考えたんだな。そして渾身の出来だったんだな、と子供のような反応をする彼女に対する警戒心が緩んだ。

此方の視線の意図に気付いたのか、軽く咳払いして曹操は話を戻す。

 

「『英雄の因子』とは、過去に存在した英雄の力を行使することが出来る証のようなもので、それらは生まれついて持っているもの。悪魔や天使がこの恩恵に与ることが出来たという例は確認されておらず、あくまで人間のみが対象だと私は考えているわ」

 

「因子を持って生まれる条件は?」

 

「不明ね。明確な規則性がある訳ではないのよ、実際私は日本人だけど曹操の因子を持っているし。遺伝子が関わっているとしても、何百年前の血なんてどこでどう枝分かれしているか分かったものじゃないし、アテに出来るようなものではないわ」

 

日本人だったんだ……そういえば華琳って名乗ってたね。多分、それが本名なんだろう。

 

「色々と理解している風だけど、他にも英雄の因子を持つ知り合いがいるの?」

 

「ええ、いるわ。そもそも洛陽は私の城であり、そんな私は一国一城の主。ならば、臣下がいて然るべきだとは思わない?」

 

「……つまり、それなりの数が居ると」

 

「そうね。数としては少数精鋭だけど、一人一人が一騎当千の兵であることは保証するわ。今は出払っているけれど、もう少しすれば一人ぐらいは帰ってくるでしょう。一応残っているのも一名いるけど……出てくるのを待つしかないわ」

 

身体の奥底からの溜息が、残った一名が問題児であることを体現していた。

英雄って癖が強いイメージがあるけど、本人でなかろうとその例には漏れないと言うことか。

 

「取り敢えず、此方からも聞きたいことがあるのだけれど」

 

「何?」

 

「まず……そうね、名前から。レン、と言っていたけれどそれは個人としての貴方の名前であって、真名とは違うんでしょう?出来れば教えて欲しいのだけれど」

 

「……知らない。レンが英雄の因子なんてものを持ってたこともついさっき知ったことで、真名なんて知らない」

 

「知らない……ね。なるほど、貴方は『後天的隔世者』だと言うのなら、納得がいくわ」

 

「また、専門用語」

 

「仕方ないじゃない。そうした方が説明が楽なんだもの。これまで何人に説明したと思ってるのよ」

 

「興味ない」

 

「……本当、あの子のこと以外だととことん冷めているわね。少しだけ貴方のことを理解できた気がするわ」

 

「どうでもいいから、続けて」

 

お前のせいだろう、と言わんばかりの恨みがましい視線を向けられるが、知ったことではない。

何も知らない人間に優しくない会話をする方が悪い。

 

「まぁいいわ。後天的隔世者とは、因子所有者ながら生まれながらに力の素養を持たなかった者を指すわ。私もその部類に入るわ」

 

「その言い方だと、先天的な方も?」

 

「ええ。『先天的隔世者』は、簡単に言えば記憶を保持した上での転生と同じ。英雄だった頃の記憶、人格をそのままに器だけが変化した状態って言えば分かるかしら。後天的な場合、記憶という形で人格を理解することは出来ても、とっくに英雄としての人格以外のものが出来上がっているせいか、あくまで人格の優先度は器の方が上になる訳。これも分かるわよね?」

 

曹操の言葉に頷く。

なるほど、ライトノベルでよくある設定そのまんまと言うことか。

分かり易いが、身近な例えで理解してしまうとどうにも安っぽく感じてしまう。

 

「後天的隔世者は、どういう条件で力を自覚するの?」

 

「私が知る限りでは、突如英雄の記憶を思い出すって流れね。この傾向に当て嵌めるのであれば、貴方の中に宿る英雄の記憶がある筈よ」

 

「……レンは記憶喪失だから」

 

「記憶喪失……?それは、予想外の答えね」

 

曹操は考えるそぶりを見せる。

記憶喪失、という表現が正しいのかは分からないけど、こっちも全然理解していないのに詳細を説明出来る訳もなし。

それ以前に、この世界のことだってはっきりしていないのに、下手なことを口走ろうものなら、面倒なことになりそうだし。

「先天的でありながら記憶がないせいで……」とか、「まさか実験の弊害で……」など、ボソボソ呟いている曹操を尻目に、自分の置かれた状況が如何に前途多難なものかを考える。

 

「――ひとまず、それに関しては置いておきましょう。記憶が回復するかは分からないけれど、知らないなら説明するだけよ。……そう言えば、私は貴方達が居た場所で、光の柱のような力の塊を観測したのだけれど、それは貴方の仕業ではないのかしら?」

 

「……?」

 

光に包まれて、過程をすっ飛ばしていつの間にか外に出ていた自分には、その辺りの記憶もまた抜け落ちている。

そこに、ヒントが間違いなくあるというのに、どうしてこうも都合よく行かないことばかりなのか。

 

「……知らない、って表情ね。予想外の事態ばかりで、嫌になるわ。でも、私の推測では、その光の柱を創造したのは、恐らく貴方かねねって子のどちらかよ」

 

「ねねが知っているかもしれない」

 

「そうね。起きたら彼女にも事情を説明してもらいましょう。――どうやら、帰ってきたようね」

 

曹操が部屋の扉に視線を向けると、同時にノック音が響く。

 

「華琳、いるのですか?」

 

「ええ。ちょうど紹介したい者がいるから、貴方も同伴しなさい」

 

透き通るような声がドア越しから伝わる。

声質からして、女性のようだ。

その女性は曹操の言葉を受け入れるようにして、部屋の中へと入ってきた。

 

此方の存在に気付くが否や、柔和な笑みを向けられる。

腰にまで届く金髪を三つ編みにして束ね、ノースリーブのワイシャツと胸元で結ばれたネクタイはシンプルながらに彼女が放つ独特の清廉された雰囲気と相まって、特別な物にさえ思わせられる。

 

「こんにちは、初めまして。貴方も関係者ですか?」

 

「……こんにちは。多分、そう」

 

関係者、というのは恐らく『英雄の因子』の所有者かどうかということだろう。

そう判断した上で答えると、清廉な女性は露骨なまでに嬉しそうに表情を明るくさせる。

 

「やはり、そうなのですね。私はレティシア、因子は『ジャンヌ・ダルク』。呼び方はどちらでも構いませんよ」

 

人懐っこいと言うか、警戒心が薄いと言うか。初対面の相手にもぐいぐいと攻めてくるこの感じ、苦手だけど友人を思い出して悪い気分ではない。

 

「レティシア、彼女とそこのベッドで寝ている子は、恐らく『あの実験』の犠牲者よ。実は彼女――レンは記憶喪失で、もしかしたらその実験のせいでそうなったのかもしれない」

 

「……華琳が必死になって暴こうとしていたアレ、ですよね。非道を働く者はどこにでもいる、なんてあまり信じたくはありませんが、やはり……」

 

『あの実験』とか言っているが、それって水銀が言っていた『英雄の因子』を抜き取るとかなんとか言っていた奴だろうか。

人体実験なんて時点でロクなことではないのは確かだし、掘り下げたとしても自分の正体には迫れないだろうし、スルー推奨かな。

 

「んあ……ここはどこですかぁ……?」

 

二人が事情説明をしている中、音々音の意識が覚醒したことに気付く。

 

「ねね」

 

「レン殿……あれ、確かねね達は爆発に巻き込まれて」

 

「大丈夫、生きてる」

 

「う……うわあああああん!!」

 

先程のことを思い出してか、徐々に涙目になっていき、遂には自分に抱きついてきた。

恐怖から開放され、感極まった音々音の頭を優しく撫でる。

 

「あらあら、本当に随分と反応が違うわね」

 

「曹操……」

 

空気も読まずに話しかけてくる曹操。

そして、知らない人間がいることに気付いた音々音の身体が強張るのを肌で感じる。

 

「ねねが怯えている」

 

「配慮が足りないですよ、華琳。事情を理解していれば、こうなることぐらい分かりそうなものですが」

 

「ぐっ……悪かったわよ」

 

レティシアに窘められ、渋々非を認める曹操。

立場としては王と臣下の筈なのに、これではまるで生意気な妹を窘める姉の構図だ。威厳の欠片もありはしない。

 

「レン殿ぉ……二人は何者でございますか?」

 

「少なくとも、敵ではない」

 

納得出来ない様子ではあるが、先程よりは落ち着いたらしく、見上げる形ではあるが曹操達と目を合わせることは出来たようだ。

 

「初めまして、『英雄の因子』を持つ少女よ。私の名は華琳、三国志の英雄『曹操』の因子を宿す者であり、この城の主よ」

 

「私はレティシア。因子は『ジャンヌ・ダルク』です」

 

「えっと、ねねは……」

 

「挨拶はいいわ。私の話を聞いて、信用に値すると思ったら名乗ればいいわ」

 

「はぁ……」

 

敢えて名乗りを阻むとは、いよいよもって曹操の思考が読めなくなってきた。

 

「一応、貴方達は保護と言う名目でここに滞在してもらっているわ。打算があることは否定しないけれど、悪い話ではない筈よ」

 

「華琳、明け透けないのは美徳かもしれませんが、時と場合によるかと」

 

「こういう事ははっきりと言っておく方が、お互いの為になるわ。私は別に、腹の探り合いがしたい訳じゃないもの」

 

「それで、お前はレン達に何をさせたいんだ?」

 

埒が明かないので、此方から本題を切り出した。

こちとら言い訳が聞きたい訳ではない。打算があるというのなら、さっさと言って欲しい。

……とはいえ、正直あらかた予想は付いているが。

 

「なら、単刀直入に言わせてもらうわ。――貴方達、私のものになりなさい」

 

尊大に、大胆に。予想通りの台詞を吐いた。

 

「もの、って……どういうことですか」

 

「華琳、貴方はまた誤解されるような……。すみませんね、別に華琳は貴方達に忠誠を誓えと言っているのではなく、共同戦線を組もうと誘っているだけなんです」

 

「共同戦線、ですか?」

 

「『英雄の因子』を持つ者は、人間でありながらその潜在能力の高さ故に、あらゆる組織から狙われている。悪魔、天使、堕天使――果ては同じ人間からでさえも。眷属にする為に、信仰の旗印とする為に、ただ単純に戦力として運用する為に。理由は違えども、迷惑極まりないことは事実。だから私達は、同じ英雄同士で徒党を組むことで、新しい居場所を自らで作るの」

 

「それが『洛陽』の起源?」

 

「その通りよ」

 

わりとまともな理由だと、少し曹操の評価を改める。

しかし、彼女は打算があると公言した。

ならば、寄り合い所帯としての意味よりも彼女にとって重要な何かがある筈だ。

 

「でも、それだけでは足りない。組織として独立するにしても、所詮は口先だけのものに過ぎず、政治的な抑止力とは成り得ない。だから私は、三陣営と同じ土俵に立つために戦力を欲しているのよ」

 

「……まるで、天下三分の計を為そうとしているようですね」

 

音々音がぽつりと呟く。

天下三分の計――劉備・曹操・孫権で土地を三分に分け、三国を平定する策。

これを悪魔・天使・堕天使の中にひとつ増やしただけで、確かにやろうとしていることは同じだ。

 

「二人は、悪魔達がどの様な立場で地球に存在しているか理解している?」

 

自分はともかく、音々音も知らなかったらしく、二人して首を横に振る。

 

「まず共通した認識として挙げられるのが、悪魔も天使も堕天使も、姿形は人間とそこまで大差ないと言う点ね。下級ならばいざ知らず、多少なり力を有していれば人型に変身出来る。つまり、人間社会に溶け込むことは容易なの」

 

「力のある者ならば、人間との違いを感覚で見分けることは可能ですが、一般人ともなれば間違いなく気付けません。それこそ、都市や街を管理しているのが悪魔だったり、というケースは決して珍しいことではないのです」

 

「その人間社会に溶け込む能力を用いて、悪魔は契約――願望を実現してもらう代わりに代償を提供してもらう行為で、悪魔としての格を上げる下地を作ったり、文字通りの糧としているの」

 

「契約って、まさか代償は魂、とかですか?」

 

「選択肢の中にはあるわ。でも実際、現物支給のバイトみたいなものよ。仕事内容だって、殺人の肩代わりとかそういうのよりも、引越の手伝いやら畑仕事の手伝いやら、そんな俗な願望が殆どらしいわ。そんなしょっぱい契約で得られるものなんてタカが知れているし、どちらかと言えばさっき言った悪魔としての格を上げるという目的でやっているようなものね」

 

「随分と詳しい」

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからず、って奴よ。別に秘匿すべきことでもないでしょうし、調べれば簡単に分かったわ。それよりも問題なのは、人外である悪魔が人間社会の一部を牛耳っていることにあるわ。人間が気付かない内に、人間の立場はより低くなっている。侵略行為、なんて考え恐らくあちら側にはないんでしょうね」

 

吐き捨てるように、曹操は言葉を紡ぐ。

 

「それで社会が成り立っているのなら、それでいいと思う」

 

「そうね、今はまだ。それで、何十年、何百年後も人間が地球上の生命体として君臨できる保証はある?」

 

今まで一番強い――それこそ、殺意に似た覇気を発し、昏く告げる。

音々音の様子からして、自分にのみ向けられたものであることは一目瞭然。

流石に返す刀で言葉を紡げなかったせいで、曹操が追撃を図る。

 

「私は、悪魔達人外を信用していない。人間のためになる行為をしている側面はあれど、結局それは悪魔達にとっての利があるから。そして利益の裏には、悪魔によって命を散らしたりしている者は大勢いる。その殆どが自業自得なれども、惑わす者さえいなければ起きなかった悲劇であることに変わりはない。だから私は、悪魔達と同じ土俵に人間が立ち、奴らにとっての都合の良い駒ではないことを証明したいの」

 

そこまで言い切り、しん、と静まり返る部屋。

はっきり言って、悪魔とか天使のことを何も知らない自分にとって、曹操が過去に悪魔に対して何があったとか、そういう興味さえ沸かない、対岸の火事と同レベルの内容に過ぎない。

とはいえ、曹操も共感や同情が欲しくてそんなことを言った訳ではないだろう。

人間のため、と聞こえの良い大義名分を掲げてはいるが、どこまでが本心か。

 

「――曹操。お前の本心は知らないし、興味もない」

 

「――……ええ」

 

「だから、言わせてもらう。お前の野望にレン達を巻き込むな」

 

「レン殿……」

 

これが、自分の本心。

そっちが身勝手な希望を押し付けようとするなら、こっちも本音を晒すのに躊躇いはない。

はっきり言って、自分は争い事が苦手だ。

そういう行為の必要性を否定するつもりはないが、巻き込まれる側からすればたまったものではない。

ましてや、自分だけではなくこんな小さな子供である音々音さえも、『英雄の因子』を持つという理由だけで巻き込もうとしている。

そこに正義なんてものがあるとは認めないし、それを為そうとする曹操に善性を見出すこともまた有り得ない。

 

「……どうしても、駄目かしら」

 

「二言はない」

 

「そう」

 

ひとしきり自分を見つめたかと思うと、曹操はおもむろに立ち上がり、部屋から出ていこうとする。

 

「分かったわ。私は引き止めない。貴方達の好きにしなさい」

 

「……本気?」

 

「私は強制するつもりはない。だけど、私からも言わせてもらうわ。ここを出て行くにしても、覚悟しなさい。記憶喪失の貴方が考える以上に、世界は英雄(わたしたち)に優しくはない。貴方がその子を大事に想うのであれば、ここに留まりなさい。それを盾に此方から何かを要求するつもりはないし、自由にすごせばいいわ」

 

曹操が退出し、再び訪れる静寂。

沈黙を破ったのは、レティシアだった。

 

「あの子も――華琳も悪気はないんです。あの子はあの子なりに現状を憂い、行動しようとしているだけで、貴方達を巻き込みたくないと思っているのは確かなんです。そうでなければ、あのように簡単に引き下がる筈もないでしょうし」

 

「それを聞かせて、レン達にどうさせたいの?」

 

「私からは何も。私自身、あの子に付き従ってはいますが、争い事は本意ではありません。それこそ、将来の夢だったパン屋でも経営して生きていくという願いは、今も残っています。ですが……」

 

「『英雄の因子』があるせいで、普通の人間のような生活が出来なくなった……ってことですか?」

 

レティシアは僅かな哀愁を匂わせる表情と共に頷く。

 

「因子が宿っていたことは、運命だったのでしょう。それを悲観するつもりはありません。ですが、今の世の中では、それを持つが故にあらゆる生き方が制限されてしまう。英雄ならば英雄らしく生きなくてはならない――そんな強迫観念が、私達の意思を否定し、未来を束縛する。そんなの、悲しい考えだと思いませんか?」

 

曹操に言われた言葉を思い出す。

世界は英雄(わたしたち)に優しくはない――その言葉が意味する片鱗が、レティシアの会話の中から伺えた。

悲劇的だ。普段ならばそれで終わっていたことだが、最早他人事ではない。

『英雄の因子』の所有者であると見出された時点で、自分達の選択肢が限りなく狭まってしまった。

曹操の言葉から察するに、悪魔の勢力圏内は人間社会を幅広く侵食している。

どんなに平凡を装っていても、いずれはボロが出る。

ならば、曹操の言葉に甘える事が、安全を確保する最も身近で確実な手段だと、認めるしかない。

しかし、曹操の目的が不明瞭な中、彼女の下にいて本当に正しいのか?という疑念は晴れないまま。

 

「ねねは、どうしたい?」

 

「ねね……ですか?」

 

「レンは、ねねの言葉を尊重する。ここが嫌なら一緒に出て行くし、レンが守ると約束する」

 

疑り深い自分では、答えを見出せない。だから、音々音に縋った。

情けない――そうは思っても、これが一番確実な気がした。

音々音の言葉ならば、どんな選択でも信じて進んでいける。自分でも理解の及ばない強力な信頼が、この判断に至らせた。

 

「……ねねは、ここに残るべきだと思います。ねね達にはまだ知らなければならないことが多いですし、それを踏まえても確実な拠点があるというのは魅力的ですぞ」

 

「そう……ねねがそう言うのなら」

 

「それと、なのですが……ねね個人としては、曹操殿の言葉は信用して良いと思うです。少なくとも、虚言を申しているようには思えなかったのです」

 

確かに、嘘は言っていないだろう。ただ、隠していることがまだあるというだけで。

だけど、音々音にだってそれはわかっていることだろうし、それを踏まえた上での決断ともなれば、選択肢を委ねた自分があれこれ言う権利はない。

 

「……なら、今日からお世話になる」

 

「――ええ、歓迎しますよ。華琳もきっと喜ぶことでしょう」

 

そう微笑むレティシアは、とても慈しみに溢れていた。




自分が書いてきた主人公で初の、排他的で懐疑的でリアリストな性格のレンちょん。
ねねがいないと、まともに話が進まないじゃないですか、ヤダー!!

取り敢えず、今のところ原作除いてクロスしたのは三作品か……。
別段作者がアニメやゲームに精通している訳ではないので、ごった煮と言っておきながら偏った構成になりそう。

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