基本的に原作ではヒーロー目線で語られているので、ヴィラン側ならあの場面でどう考えるだろう? と考えて書きました。
因みに原作で好きなキャラは黒霧さんです。
なんだろう、あの駄目な子を持ったおかんオーラ。
ヒーローは困っている人を助けてくれる。どんなときでも、どこにいても、どんな状況でも。助けを求めればヒーローは必ず救いの手を差し伸べてくれる。
それがヒーローの使命であり、役目だ。
でも、何事にも例外が存在するようにヒーローにも手を差し伸べてもらえない人間が存在する。
――――生まれながらの
凶悪なヴィランを両親に持つ私はそう呼ばれ、
どんな人間でも手を差し伸べてくれるヒーローはヴィランにだけは手を差し伸べない。少なくとも私の周りはそうだった。
更生プログラムと称し、毎日うんざりするほどヒーローの素晴らしさを説かれ、社会に出た時に犯罪を犯さない為に自分がどれほど弱い人間なのか、ヒーローが居なければ存在が許されないほどの罪人なのかと言う事を教え込まれた。
少なくとも、それが当たり前になる程度にはあの施設で私は生活していたのだろう。
あの脱走の日、必死に逃げようとする他の子供達に手を引かれている最中も何故みんな逃げているのか疑問に思っていたくらいだ。
追いついてきたヒーローに一人、また一人と処分される中、私を守ると言った男の子に突き飛ばされて私は意識を失った。
次に目覚めた時はもう殆ど終わっていた。
正義の味方は悪には容赦がない。
自分達に刃向い、脱走しようとした子供達を嬉々として追い詰めた彼らは一か所に亡骸を集めているところだった。私の息があるのはきっと年齢に反してイマイチ発育の良くない小さな体が他の子供達の下敷きになる様に隠れているからだろう。
……これは、さっき私を守ると言ってくれた男の子。こっちは、何時だったか私が実験の当番を代わってあげた子か。確か音楽家になるって夢があった筈だ。あの時の実験は確か効率的に個性を発現させるためにショックを与えるとかいうモノだった気。うん、あれから暫く指が動かなかったから代わって正解だったかな。音楽家にとって指は命だもんね。結局私には個性は発現しなかったけど、音楽家になれそうな個性は目覚めたのかな?
「…………どうする?」
「どうするって、決まってるだろ? こいつらはヴィランなんだ。どうせ、生きていても俺達と違って何の役にも立たないさ」
「それもそうか」
このままどうにかやり過ごせないかな、と息を潜ませていると周囲を取り囲んでいたヒーロー達が何やら集まって相談していた。
どうやら、彼らにとってもう既に私達の処分は決まっているようなものらしい。
「じゃあ、俺が先日
「お、いいね。最近、ヴィランも減って暇だったんだ。景気付けにやってくれ」
……本当に世界は残酷だ。
ヒーローの一人が手のひらに大きな火の玉を出現させたせいで私はこれから自分の身に起こる事を瞬時に理解した。
理解したところでどうしようもない事は有るものだ。
抵抗しようにも、個性の無い私では勝てる筈も無い相手だった。何せ、私よりも遥かに優秀だった他の子供達が全く歯が立たなかった相手だ。それに、あの火の玉には見覚えがある。何年か前、一緒の班にいた女の子のモノだ。私とは違い、早いうちに個性に目覚めた子はある日研究者に連れられて外の世界に行くと言ったきり帰ってこなかった。
つまりはそういう事なんだろう。
私達は優秀な個性に目覚めれば外の世界に出られると教えられてきた。でも、こうやって何の迷いも無く私達を処分するヒーロー達を見て、そんな約束が守られる筈も無いという事は子供の私にも理解できた。
「はっは、コイツは凄ぇ。俺は本当に複合個性に目覚めたんだ!」
一人一人、新しく目覚めた力を試すように火の玉が振るわれる光景を私は息をひそめて見ているしかなかった。
逃げようにも、私を庇うように覆いかぶさる子供達が邪魔で身体を起こす事すらできない。
本当にどうして、私なんかが生き残ったのだろう。
施設の中で一番の落ちこぼれで、誰の役にも立たないと廃棄部屋に移動させられた私を待っていたのは地獄だった。
毎日様々なヒーローがやってきて、仲間がヴィランにやられたと、初めて悪い奴をやっつけたと、個性の練習の為だと、私の身体をいたぶった。
そんな生活に諦めていたのに。どうして、彼らは危険を顧みずに私を助けに来てくれたのか。どうして、こんな私に手を差し伸べてくれたのか。
「…………本当はお前達じゃないか」
「……おい」
「ああ、まだ生き残りが居たのか」
気づけば自然と声が漏れていた。
私の存在に気付いた奴らが他の子達の亡骸を掻き分けて私を掘り起こす。
……もうどうだっていい。どうせここで終わるんだから正直に言ってやろう。
「どうして、ヒーローのお前達が手を差し伸べないで彼らが来るのよ。本当はお前達がするべきなのに! 私なんかを助けに来なければ逃げ切れていたかもしれないのに!」
生まれてこの方誰かを憎んだことなんて無い。ヴィランの子供として生まれた私達は少しでも犯行の素振りを見せれば教育として暴力を振るわれる。だから、少しでも痛い思いをしないように誰かを憎むより先にこういうモノなんだと諦める事を覚えた。
生まれてこの方絶望なんてしたことも無い。そもそも何かを望むなんて事も無かった。私が命懸けでおねだりしたのなんて外から送られてきた物資を入れた段ボールという素敵アイテム位だ。あれは実にいい、箱状にすればたくさん物を入れられるし、邪魔な時は折りたたむ事も出来、いざという時は防寒具としても使える。なにより、私に似ていた。いらなくなれば何もない空っぽの器として誰の気にも留められることも無く捨てられるという点でとても共感できた。
おねだりした時は施設の人間たちにはその価値がわからなかったみたいで特に何の苦労も無く渡されたし、後から外の世界は段ボールで満ち溢れていることを知った以上、世界から段ボールが消えない限り私が絶望する事は無い。
でも、生まれてこの方怒りを感じた事だけはある。
目の前にいる教えられたヒーロー像とあまりにかけ離れた現実。
夢があるのに、役にも立たない無個性を助けるためだけに命を投げ出してしまった未来。
こんな最悪な状況で私を残していった過去。
そして、今この瞬間も何も出来ずにいる自分自身。
本当に、嫌気が指す。何もかもを諦めてしまいたいのに最後の瞬間まで諦めきれない私自身にどうしようもないほどに呆れ果てる。
ついには赤子を持ち上げられるように私の身体は抱き上げられ、目の前のヒーローと目線が交差する。
……なんでアンタがそんな眼をしてんのよ。
私を睨み付けるその眼は確かにヒーローとしてヴィランに向けられる怒りや憎しみの眼だった。もしかしたら、このヒーローは仲間をヴィランに殺されたのかもしれない。でも、そんな事どうだっていい。
「なんて眼をしてやがる。……この、ヴィランが!!」
「おい、止めてやれよ。そいつ廃棄部屋のガキだろ? 無個性の。お仲間が殺されて気が立ってんのさ。個性も無くて何も出来ないんだから目つきぐらいは許してやれって」
「無個性? こいつが? ああ、だからか。一番弱いから庇われて生き残ってたってわけか。こいつらも馬鹿だな。コイツを盾にしておけばもう少しは生きてられただろうに」
「違いない。……って、そいつなにしてんだ?」
「あん? お前!」
私は呑気におしゃべりしているヒーロー達の話など聞かず、ただ無言で私を抱きかかえていた相手の指に噛みついていた。
返り血で濡れていたグローブを噛み千切り、その先の皮膚に歯を立てる。幸いにして、規則正しくしつけられていたせいか虫歯一つ無い私の歯はその大きな指に綺麗な歯型を付けると肉の一部をもぎ取った。
「……っぺ」
「ッ、このガキ!!」
口の中に残った肉を吐き捨てていると怒り狂った相手の拳が私を捉えた。
身体を抱える様に持ち上げられているのだ。避けようが無い一撃は私の口内に血の味が広がる程の衝撃を伝えてくる。
……あぁ、少しお腹が膨れた。
空っぽの器に中身が満たされるような感覚。
こんなのは初めてだ。今までどれだけ殴られても、個性で打ち負かされても満たされなかったこの感覚。でも、今はじめて私は少しだけ満たされた。
同時に何かが血に交じるような違和感が全身を駆け巡る。
初めての経験。でも、それはとても甘美な味だった。
「こ、コイツ笑ってやがる」
怯えたような声と同時に私の身体は投げ出される。
その先にはまるでこの為に積み上げられていたかのように、子供達の死体があった。
私を仲間だといい、庇ってくれた人達。
暗いあの部屋に閉じ込められ、もう諦めていた私に手を差し伸べてくれた彼らはもう動かない。
『行こう!!』
そう言って、私をあの部屋の中から引っ張り出してくれた恩に私はまだ報いていない。
受けた恩は返さないといけない。それが世の中のルール。少なくとも私達はそう、教えられてきた。
……なら、ちょっとだけいいよね?
「……一人はみんなの為に」
近くにいた
まだ柔らかさの有るその身体は簡単に私を受け入れてくれた。
「……みんなは一人の為に」
また、ちょっとだけ満たされる。
一人、また一人と行うにつれ、私の中に確かな意思が生まれる。
「私はみんなの為に戦うよ。……だから、みんなも私の為に力を貸して」
……みんなの名前、覚えておくんだったな。
これじゃ、お墓も立てる事が出来ない。