公園のベンチに読み捨てられている新聞をチェックする。
それがここ最近の私の日課だった。
「やっぱり、ヒーロー特集が多いなぁ。あ、ヴィラン警報だ。ふむふむ、隣町でヒーローが襲撃されると。これ、例のヒーロー殺しかな?」
読み終わった後は次の人に回してあげるのがここのルールだ。私は風で飛ばないように新聞紙を綺麗に折りたたんで持ち歩いていた段ボールの中に入れて立ち去る。
あれから約六年。
私の生活は激変した。外に出れないながらも管理され、衣食住を与えられていた施設での生活と違い、外の世界では自給自足を強いられる。
毎日空き缶を拾い、回収業者に売りに行く。たまに廃品として捨てられたまだ使える電化製品などがあればラッキーだ。修理してリサイクルショップに売れば何日か分の生活費が一気に手に入る。修理の仕方は知り合いが教えてくれたし、数年間この生活をやってきたおかげで修復不可能と呼ばれるほど損壊が激しくなければ大体直せる。
しかし、この生活もそろそろ限界が来ている。
毎日新聞を読んでいるおかげで辛うじてついていけている情報によると、今年度から国からヒーローに支払われる報酬に対する予算が増えるらしい。
現代ではヒーローは個人経営では無く、国からの保証を受けた立派な公務員という扱いになっている。私達には税金を納めるにも戸籍自体が無いのであまり関係が無いが、限りある資金の中から一つの部署に比重がよれば代わりにどこかが削られる。そして、それが生死に直結するのが私達だった。
「……働くしかないのかな」
ヒーロー飽和社会。
平和の象徴と呼ばれる一人の男の影響で年々増え続けるヒーロー達。それに反比例するかのように肩身が狭くなるのが私達悪役だ。
一度ヴィラン登録された者は真っ当な職に就く事は出来ない。正確にそんな法律がある訳ではないが、どこに行ってもヒーローの文字が消えることの無いこの社会ではヴィランという肩書きはそれだけで不利になる。
何せ、先日の調査によると中学生一クラス丸々の進路希望が”ヒーロー科”志望というちょっとよくわからない結果になったくらいだ。
……ヴィラン一人に対して、ヒーローが十人ついてもまだ余ってるってこの国おかしいよ。みんな普通の仕事しようよ。
因みに、不人気職の中に警察官が入っているというのが救われない。何でも、世間一般の認識では警察というのはヒーロー達によるヴィラン引き渡し科という側面が大きくそれならヒーローを目指そうと思うものが大多数なのだそうだ。
「まぁ、そのおかげでこっちは助かってるんだけど」
正面玄関から入り、左手の受付にサインする。
すぐに顔見知りがやってきて私に手を振った。
「あ、かさねちゃん。いつも悪いね」
「いえ、これも私の仕事ですから。で、あの人は?」
「いつも通り留置所で騒いでる。本当にどういう神経してるんだか」
「そういう人ですよ。禅門さんも大変ですね」
「いやいや。これも俺達の仕事だからね。毎回引き取りに来てもらっているかさねちゃんには敵わないよ」
アハハ、と朗らかに笑うのは禅門正樹。
現職の警察官だ。
何故、ヴィランである私が本来正義の味方側である警察官とこうして話していられるかというと。
「おう、来たかがきんちょ。出迎えご苦労」
「……帰ります」
「ちょ、こんなの置いてかないでくれよ。コイツ冬は寒いからって自分から毎日
「屑ですね」
「ああ、屑だ」
檻の中で偉そうに胡坐をかく屑を私と禅門は息の合った視線で冷ややかに見つめると屑は心外だというように立ち上がる。
「おうおうおう。俺はここのおばちゃんが最近暇で話し相手が欲しいと思ったから来てやってんだ。客としてきたからには飯を出してもらうのは当たり前だし、寒さで凍えてるんだから毛布を持他うのが筋ってもんだろうが! それとも何か? 天下の警察様はその程度の事も出来ないってのか?」
「食堂のおばちゃんは留置所の飯作るのが仕事じゃねえから! お前の為に毎回出前取るのが割に合わねえからついでに作ってもらってんだよ!」
「おいおい、聞いたかがきんちょ? ヴィラン引き渡し科の皆様は数少ないお仕事も真面目にやろうともせず手を抜くことばかり考えてるとよぉ」
檻の内側なのをいいことに何故か自分の待遇改善を要求している屑改め、チンピラは唐突に関わりたくないので食堂という素敵空間に対して考えを巡らせていた私に意見を求めてくる。正直どうでもいい。
「葛原さん。私、忙しいんですが。そこが気に入ったならずっとそこにいればいいじゃないですか。私は外の世界で自由に暮らすのでどうぞお好きに」
「待って! 待ってかさねちゃん! 置いてかないで! こいつ本当に厄介だから、担当だってだけで課長ににらまれてるから俺!」
「知りませんよ。大体、こういう人間が生まれるような社会の仕組みを作ったのが悪いんでしょう」
ヴィランは一般的な職に就く事は出来ない。そして、どこを歩いてもヒーローばかりな社会じゃ動くに動けない。
そして、増えすぎたヒーローもまたこの平和な社会でいつ起こるかもわからない災害や事故を待つばかりで仕事が無い。
そんな両者の利害が一致した悪法が近年誕生した。してしまった。
いつ起こるかわからない事件。仕事が無いヴィランとヒーロー。そして、世間はヒーロー達の輝かしいショーを期待している。
個性発現からヒーロー達によって支えられていた政府は平和になったことで本来その役目であるはずのヴィラン達から標的が自分達に変わる事を恐れ、支持率維持の為ある日遂に折れた。
「さっさと保証金の引き取りに行きますよ葛原さん」
事件が起きなければ起こせばいいじゃない。
何をトチ狂ったのか。政府はある日唐突に軽犯罪を起こしたヴィランに対し、保証金を出すことを決めたのだ。
ヒーロー達はその活躍に応じて国から収入を得ている。
しかし、それも近年ではヒーロー同士の仕事の奪い合いや活動するヴィランの減少によって報酬を得られるものが限られている。毎週のように行われるヒーローランキングに名声を得たいがために行われる過剰ともいえる活動。一人のヴィランに対して、十分もしないうちに近隣からヒーローが何人も集まってくるのがその証拠だ。人々の寄付金でその報酬の大部分が補われているが、そもそものヒーローの活躍が無ければ寄付金は集まらないし、毎年何百、何千と増えるヒーローに対応する額を集めるなど不可能だ。
平和な社会が成立してから十数年すでにその仕組みは崩壊しかけていた。
「やれやれ、人々の平和と安全を守る筈の警察官があんなチンピラに報酬を支払わないといけないとはねぇ」
「仕方ないですよ。仕事が無ければ生きていけないのはみんな同じですから」
初めは仕事を欲した一部のヒーロー達が始めたものだった。
ヴィランに報酬を払い、暴れさせて自分達が捕まえる。そんなマッチポンプ。
ヒーローにあるまじき行為だが、膨大な数に膨れ上がったヒーロー達の一部にはこんな人間もいる。
プロヒーローと呼ばれる頂点達がどれだけ素晴らしい人間でもその二次、三次団体がその思想を持っているとは限らない。
周囲の人間がみんなヒーローを目指せば、多くの人間はその流れに乗るだろう。その中には当然本来
そして、あろう事か政府がそれを参考にしてしまった。
軽犯罪を起こし、ヒーローに確保された者に補償金を渡す法案を秘密裏に可決してしまったのである。殺人など大きな罪に問われることをしなければ、ほとぼりが冷めるまで暮らせる程度の資金が国から支給されるのだ。
当然普通の人々はそれを知れない。ヒーロー達にしたって契約書の隅に小さく書かれているような内容だ。
大体おかしいと思わないのだろうか。
ニュースに乗るヴィラン達の犯行が無銭飲食や引ったくりが大多数などどう考えてもおかしい。個性を使ってまで暴れるなら普通もっと大きなことをするだろう。それが失敗すれば社会的に抹殺される状況だというならなおさらだ。
結果、保証金目当てに軽犯罪を犯す職業ヴィランと言われるモノの完成だ。
「おう、がきんちょ。この金で焼き肉食いに行こうぜ!」
「……ハァ」
平和な社会の実態など、所詮こんなものである。
原作の最初の方で引ったくりなどで暴れているヴィランを見て考えました。
冷静に考えて一クラス丸々ヒーロー科志望ってあの世界他の職業どうなってるんだろう。