コードギアスlostcolors 優しさの色彩 作:オムロン
エニアグラム卿との稽古は結果的には何も無く終わる事が出来た
だが、ライは政庁に来たときよりも足取りは重くなっていた
理由は簡単だ
エニアグラム卿に言われた事がライの心の平穏を脅かしていた
「力を見極める…」
言葉にすれば簡単だ。
ただ、その言葉の意味はそう簡単なものではない
実際、ライは自分自身の強さに恐怖と戸惑いを抱いていた。
恐怖とは自分がもつ強さが、並外れている事
戸惑いとは、この強さそのものに対する違和感だ
相手がブリタニア最強の騎士。ナイトオブラウンズだからこそ何も起こらなかったが、あれが並の騎士階級の者…
いや、同僚の枢木スザクであったとしても…
恐らく相手は五体満足という訳にはいかないだろう
(強すぎる力はただ奪うことしか出来ないのだから…)
そう考えるとライには腑に落ちない事がある
それが戸惑い
そもそもなぜここまでの強者でありながら誰も自分を知らないのか…
そしてこの強さが自分の事でありながら自分の事では無いように感じていた
まるで刷り込まれたような…
自分以外の誰かに体を使われているような…
「僕は…誰なんだ」
「貴方は貴方でしょ」
急に聞こえた声の方に顔をむけると、そこには一人の女性が立っていた
自分と変わらないくらいの身長
人の目を奪うほど整えられた顔立ち
蒼の色に光輝く髪をなびかせる女性
自分よりも年は上に見える彼女は自分との距離を狭めると、まるで宝物を見つけた子供もように目を光らせながらライの胸に飛び込んできた
ライは彼女を受け止めると、直ぐに距離を取った
残念そうな顔を見せながら彼女は口を開いた
「元気…な訳ないわよね!記憶が無いんだから」
「何でそれを!?」
ライは目の前の女性から半身を下げた
自分の記憶が無くなっているのは、ライの身の回りの人間しかしりえない情報だ
見ず知らずの彼女が意図的に知ることなんて出来はしない
ライが敵意を少しずつ向けてきた事に気がついた彼女は怯えるどころか、むしろ楽しそうにライに話しかけてきた
「まぁまぁ落ち着いて。私が何か、貴方が一番よくわかっているのよ」
「恋人だったとか?」
正直、自分でも訳がわからない事を言ってた
それを聞いた彼女もまるで豆鉄砲を食らった鳩のような表情をみせ、直ぐ様お腹を押さえながら、回りの人を気にするそぶりも見せずに盛大に笑い声を上げた
「あはは!面白い!面白いジョークね!以前なら絶対言われない台詞ね」
目頭に涙を浮かべながら楽しそうに笑う
ひとしきり笑い終えた彼女は息を整えてから、ふたたびライに話しかける
「いい?よく聞いてね?貴方にはある『力』があるわ。その力は貴方を助けるかもしれない。そして貴方を苦しめるかもしれないわ」
「力だって?」
彼女がいう力と言うのは恐らく自分を今苦しめている力の事をではないだろう
彼女も自分の考えていた事がわかっていたのだろう
仕方ないわね…と呟きながら彼女は話を続ける
「いずれわかるわ。でも気を付けてね。貴方の力はもう壊れてる。あまり力に頼るとまた同じ結果を生むわよ」
「君は一体…」
誰だと問いかける前に口が塞がれた
彼女の唇によって
それは懐かしいような
許せないような
申し訳ないような
色々な感情が入り交じっているように感じた
彼女は名残惜しそうに唇を話すとふたたびライに言葉を伝える
「私は貴方を。貴方は私を。結びつけるは一つの願い。」
願い…
恐らく彼女の言う願いとは恐らく記憶を無くす前に持っていた願いの事だろう
彼女はやはり過去の自分の関係者なのだろう…
思い出せないのが心苦しくなる
「安心して。私が見えなくなったら、貴方は前に進めるわ。私が貴方の不安も、苦しみも、戸惑いも、一緒に持っていくから」
わからない
彼女が何なのか
なぜ彼女は自分の前に現れた
なぜ彼女はこんなに楽しそうに言葉をぶつけてくる
どうしてそんなに悲しそうな瞳を自分に向けてくる
「一蓮托生。一緒に行きましょう。一緒に堕ちましょう。一緒に終らせましょう」
そう言い残し彼女は人の波に消えていった。
彼女の言葉は現実となった
今まで自分の中に渦巻いていた黒い感情が、まるで反転したかのように自分の心は軽くなっていくのを感じた