バカとクウガと未確認   作:オファニム

4 / 20
今回は少し悩みました。
戦闘描写と心理描写はやはり難しいですね。

残酷描写があります。
苦手な方はブラウザバックを推奨します。


大人

 ──白い戦士は、駆けた。

 

 陸上競技における100メートル走のアスリート選手にはやや劣るが、それでも充分速い速度で、己の今出せる全力を以て商店街を走り抜ける。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 やがて、刑事さんに助けられた場所にたどり着くと……。

 

「ぐっ……うぅ……!」

 

「刑事さん!?」

 

 刑事さんは、化け物に片手で持ち上げられ、今にも鉤爪で刺し貫かれそうになっていた。

 

 当然、そんな事はさせない。

 

「やめろぉ!」

 

『バビ!? グガ!』

 

 走る勢いそのままに、身体全体を使ったタックルを叩き込む。

 

 逃げる前は全力で引っ張っても微動だにしなかった化け物だが、どうだろう。

 その実、僕のタックルを受けた化け物は、車に轢かれたかの如く跳ね飛んだ。

 

 必然的に、化け物に掴まれていた刑事さんも化け物と共に跳んでいく訳だが……。

 どうやら、運良く擦り傷程度で済んだようだ。

 

 殺されるよりかはマシだから、緊急事態って事で許して欲しいなぁ……。

 

「ぐ……み、未確認生命体が、2体……第2号!?」

 

「え?」

 

 未確認生命体?

 一体それは何だろう。

 

 それに、刑事さんは僕が分からないのだろうか。

 まるであの化け物と同じものを見るような目で僕を──

 

「あ……そうか、今の僕は人間じゃないんだ……」

 

「未確認生命体が喋った!?」

 

 あの蜘蛛の化け物と同じように見られている事に、もの悲しさを感じる。

 

 ここに向かう途中で、一度鏡に写った自分の姿は見た。

 

 胸部から背中にかけて覆う、白い装甲──というより、鎧。

 

 胸部の物と同色の、前腕部(肘から手首にかけて)と下腿(膝から足首にかけて)を包む、前腕当てとすね当て。

 

 手の甲を覆う手甲。

 

 身体全体の皮膚は、黒く硬く変質している。

 

 そして、まるでフルフェイスの仮面のような物で頭部は覆われている。

 

 その仮面の目の部位には、昆虫を思わせる大きなオレンジ色の複眼がある。

 

 そして腰部には、オレンジ色の宝玉が埋め込まれた鉄色のベルトが巻かれていた。

 そう、あの石のベルトが変化した物だ。

 

 この身体を見て、人間だと思う人はいないだろう。

 

『ギラボパ・ギダバ・ダダゾ』

 

 ……っと、今の間に蜘蛛の化け物が体勢を整えてしまった。

 

 僕は刑事さんと化け物の間に割り込む形で、化け物と相対する。

 

『ジャデデ・ブセダバ・クウガ・バブゴギソ』

 

「くっ!?」

 

 化け物は拳を握りしめ、振りかぶった。

 激しい恨みが込められ、しかしどこか楽しそうに殴り掛かって来る。

 

 その妙な剣幕に思わず1歩引いてしまうが、背後の刑事さんを思い出し、踏み留まって迎撃する。

 

「はあっ!」

 

 やはり、この身体になった事で、強くなっている。

 生身のままの時は1度でも喰らったら致命傷になっていただろうが、この姿でなら何とか受けれている。

 

 決定打を与えられない事に苛立ったのか、化け物は大振りのパンチを繰り出して来た。

 

 大振りになった事で出来た僅かな隙。

 それを見逃さず、今度はこちらから殴りつけた。

 

「おりゃあ!」

 

『グガ!』

 

 怯む化け物。

 そのまま追撃として蹴りを叩き込む。

 

『グガ……ジャスバ・クウガ・バサボセ・パゾグザ』

 

「しまった、蜘蛛の糸っ!?」

 

 更に追撃を仕掛けようとして、糸のカウンターを貰ってしまった。

 とっさに身をひねったが、避けることは叶わず腕ごと胴体を絡め取られてしまう。

 

「く、くそっ……動けない」

 

『ジョギダ・ギョビガンバ・ギギデジャス』

 

「うわぁっ!?」

 

 動けないのを良い事に、糸を引っ張って、僕ごと近くのマンションを登る化け物。

 蜘蛛の化け物だけあって、壁を登るのもお手のものの様だ。

 

 やがて戦いの場は、マンションの屋上に移る。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 場所は10階建てのマンション。

 その屋上。

 

 この高さから落下すれば、ただでは済まないのは明白だ。

 

 屋上の床に叩きつけられた僕は、糸から脱する事が出来ないでいた。

 

 その大きな隙を逃がす程、相手は甘くないだろう。

 

 ゆっくりと、しかし確かにこちらに近づいて来る足音。

 

「このままじゃマズい……何とかして糸を外さないと」

 

 だが糸は、いくら力を込めても千切れる気配がない。

 

 人間の時と比べて遥かに上がった腕力を以てしても、この糸を千切る事は叶わない様だ。

 

『ブサゲ!』

 

「ぐっ!」

 

 倒れたままの僕に、馬乗りになる化け物。

 僕ののどを掴んで、伸ばした鉤爪で貫こうとしてくる。

 

 幸いにも顔を狙った攻撃だったので、大きく首をひねって避ける事が出来た。

 

 しかしこのままでは、いつかやられてしまう。

 

 それは御免なので、フリーになっている足で化け物の背中を蹴ってやると、体勢を崩せた。

 

 糸は今だほどけないが、この隙に馬乗りから逃れる事に成功した。

 

 とは言っても、とりあえずの危機を脱しただけだ。

 この糸をどうにかしない限り、僕が劣勢なのは変わらない。

 

「糸さえどうにか出来れば……」

 

 さてどうしたものか、と考えた矢先の事だった。

 

 甲高い、火薬の破裂した音が鳴り響いたのは。

 

「刑事さん!?」

 

 そう、今の音は刑事さんが撃った拳銃の発砲音だったのだ。

 

 放たれた鉛玉は見事化け物の側頭部に直撃した。

 

 ……が、驚くべき事に、銃弾が一人でに傷口からこぼれ落ち、あまつさえ瞬く間に傷が塞がっていくではないか。

 

 これが刑事さんの言っていた、銃弾が効かないと言う事か。

 

 なるほど、確かに堪えた様子は見られない。

 

 だがしかし、ダメージはなくても注意は引けた様だ。

 

 その証拠に化け物は糸を手放し、刑事さんに向かって跳び掛かる。

 

「危ない、逃げて下さい!」

 

「なっ!?」

 

『ギベ!』

 

 化け物が糸を放したので、何とか糸をほどく事が出来た。

 

 その化け物はと言うと、刑事さんに掴み掛かっている。

 

 慌てて化け物を彼から引き剥がし、顔面を数度に渡って殴る。

 

 殴る、殴る、殴る。

 

 無我夢中で殴り続けて、気づけば屋上の端まで来ていた。

 

 このまま突き落とせば大きなダメージになるだろう。

 そう思い、僕は渾身の蹴りを放つ。

 

「これで、落ちろぉ!!」

 

『グガガ! ブゴ! クウガアァァ!』

 

 果たして目論見通り、胴体を打ち抜いた強烈な蹴りが、化け物を屋上から突き落とした。

 

 何事か叫びながら落下していった化け物は、倉庫らしき建物の屋根を突き破って、そのまま姿を消した。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

「……ふぅ。何とか追い払えたみたい」

 

「止まれ、未確認生命体第2号。お前はなぜ日本語が話せる。そしてなぜ俺を助けた」

 

「あ……その未確認何とか2号って、僕の事ですか?」

 

「そうだ。質問に答えろ」

 

「えーと……とりあえず、その拳銃を下ろしてくれませんか?」

 

 安心したのも束の間。

 刑事さんが次に狙ったのは僕だった。

 まぁ、今の僕の姿は人間じゃないとは言え、やっぱり化け物扱いされるのは少し悲しいな……。

 

 それに、拳銃を下ろしてと頼んだにも関わらず、下ろしてくれない。

 

 警戒されてるなぁ……。

 

 せめてこの姿が元に戻れば、弁明のしようもあるのだけれど。

 

 そう思ったと同時、僕の身体全体が光った。

 

 光はすぐに収まり、自分の身体を見下ろすと、なんと元の人間の姿に戻っていた。

 

 刑事さんは心底驚いている。

 これならいけるかも知れない。

 

「君は……未確認生命体第1号に襲われていた少年か。どういう事だ。君が未確認生命体第2号なのか?」

 

「えっと、その未確認生命体ってのがよく分からないですけど、たぶんそうです。でも、僕は人間です、信じて下さい」

 

「……本当に人間だと言うのなら、証拠を見せろ」

 

「証拠……学生証なんかどうでしょう? 僕は文月学園2年Fクラスの吉井 明久です。この学生証にも同じ事が書いているはずです」

 

「……確かに、この学生証は本物だな。君が人間である事は確かな様だ」

 

 僕が人間だと分かると、刑事さんの物腰が少し柔らかくなった。

 

「しかし、それではなぜあんな姿に?」

 

「それは……」

 

 僕は妙な女性からベルトを受け取った事を話す。

 

 その話を聞いた刑事さんは、怪訝な顔をする。

 

「妙な女? 知り合いだったのかい?」

 

「いいえ、初対面でした」

 

「そうか……その女、怪しいな」

 

 刑事さんはあごに手を添え、何やら考え込んでいる様子だ。

 少しの間そのままでいると、不意に顔を上げて話し始める。

 

「分かった。今日の所はもう帰りなさい。これが私の電話番号だから、明日の空いている時間に掛けなさい。それと、こちらが私の信頼している医者が勤める病院の番号だ。1度、身体を検査して貰いなさい。医者は椿という名前だ」

 

「は、はい。あの……刑事さんのお名前は……」

 

「ああ、まだ自己紹介をしていなかったね。私は一条 薫。すでに話したが、刑事だ」

 

「一条さん……。その、先程は助けて頂いてありがとうございました! お陰で、今生きています」

 

「礼を言うのはこちらの方だよ。私も君に助けられた」

 

 そう言い合うと、お互いに礼をし合う。

 

 刑事さん改め一条さんは、まだ蜘蛛の化け物がいるかも知れないとの事で、僕を家まで送ると切り出してきた。

 

「大丈夫ですよ。もしまた襲われたら、あの姿になって戦いますから」

 

 ──しかし、僕がそう言った途端、急に表情が険しくなった。

 

 そして強く僕の肩を掴み、こう言う。

 

「君が力を手にいれたと思うのは勝手だ。だがあの化け物──未確認生命体と戦うのは我々警察の仕事だ。守るべき一般市民……ましてや、未成年で学生の君が戦うべきではない!」

 

「で、ですが、拳銃だって効かなかったじゃないですか。それなら僕が戦った方が……」

 

 良いじゃないですか、と最後まで言えなかった。

 

 一条さんが、とても悲しそうな顔をしていたからだ。

 

 思わず息を呑んでしまう。

 

「……そんなに、身体が震えているのに戦えるのかい? ──姿が戻ってから、ずっと震えているよ」

 

「っ…………!」

 

 気づかなかった。

 僕の身体は、確かに震えていた。

 止めようとしても、一向に止まる気配がない。

 

「あ、あれ? おかしいな。なんで止まらないんだろう」

 

「…………」

 

 そんな僕の様子を見て、一条さんは益々悲しそうに顔を歪めた。

 

 彼は再度肩に手を、しかし、今度は優しく置いた。

 

「……君が、戦う必要なんてないんだ。……怖かっただろう。もう大丈夫だ、後は我々大人に──警察に任せなさい。これからは、中途半端に関わってはいけないよ」

 

 もう駄目だった。

 溢れ出る涙が止まらない。

 

 僕は──怖かったんだ。

 一条さんを助けるって思いで誤魔化していただけで、本当はどうしようもなく、怖かったんだ。

 

 そして、優しい言葉を掛けてくれた一条さんへの感謝で、恐怖とは違った意味での涙が止まらない。

 

「一条……さん……っ! 怖かった……怖かったです……っ!」

 

「良く頑張った。君のお陰で私も生きている。だから、後は任せるんだ」

 

 一条さんは、泣きじゃくる僕の頭を強めに撫でた。

 髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまうが、今はその温かく大きな手が、とても安心した。

 

「さあ、そろそろ泣き止めよ。家まで送ろう」

 

「……はいっ!」

 




感想、誤字脱字報告受け付けております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。