バカとクウガと未確認   作:オファニム

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サブタイトルは束の間(つかのま)と読みます。
束の間の日常、という意味を込めています。

さて、前回の更新から大分期間が空いてしまいました。
申し訳ありません。

それでは本編をどうぞ。


束間

 一条さんに家まで送ってもらい、その日は何事もなく夜が明けた。

 そして朝は、色々なことがあった為に遅くまで寝付けず、少し寝不足気味だ。

 

 今日も学校があるので制服に着替え、寝癖を解いて歯を磨き準備を整えた。

 

 家を出ていつもの通学路を歩き、相変わらずボロっちい我らがFクラスに遅刻ギリギリで滑り込む。

 

「おはようなのじゃ明久。……? お主、何か浮かない顔をしておるのう」

 

 僕の姿を見た秀吉が挨拶をしたが、心配そうに顔を覗き込んできた。

 

 昨日の未確認生命体の件のせいで晴れない僕の心を見透かされる気がして、既に人間ではなくなっていることがバレるのではと、ついドキリとしてしまった。

 

「明久?」

 

「い、いや! 何もないよ。それよりそろそろ鉄人が来ちゃうから、席に座ろう」

 

「何もないのなら良いのじゃが……。何か相談があれば乗るからの」

 

「ありがとう、秀吉」

 

 話が終わると同時、ガラリとドアを開けて鉄人が入ってきた。

 

 鉄人の姿を見て、Fクラスの皆は席に着く。

 

「おはよう諸君。点呼を取るぞ」

 

 そう言って鉄人は出席を確認する。

 やがて全員の名を呼び終えた。

 

「島田と姫路は休みだ。休みの理由については後ほど説明する。……それと吉井、朝礼が終わったら少し来てくれ」

 

「え、はい」

 

 そうか、美波と姫路さんは休んだか……。

 無理もないか、本物の死体と化け物──未確認生命体を見たんだから。

 

『また何かやらかしたか吉井?』

 

「……違うよ」

 

『ホントかよ? またバカなことしたんじゃねーのか?』

 

 クラスメイトの数名が茶化してきたけど、無神経なその言葉に少しイラ立った。

 

 ……けど、クラスメイトは昨日の未確認生命体のことを知らないから、ここで僕が怒っても仕方ない。

 

 僕がこれ以上何も言わないでいると、鉄人が助け船を出してくれた。

 

「滅多なことを言うな! 吉井は今回、断じて悪いことはしていない。これ以上何か言うようなら生徒指導部まで来てもらうぞ」

 

『す、すみません……』

 

「反省したなら良い。さて、朝礼を続けるぞ」

 

 それからは滞りなく朝礼が終わり、鉄人に言われた通り彼の元へと行った。

 

「吉井、少し場所を変えるぞ」

 

「はい」

 

 僕らは教室から出て、近くの空き教室に入った。

 

「……さて吉井。まず最初に聞くぞ。怪我は、ないか?」

 

「怪我、ですか? ありませんけど」

 

「そうか……安心したぞ……」

 

「あ、あの。どうしたんですか?」

 

 心底安心したと言わんばかりに額を拭う鉄人に、疑問を投げ掛ける。

 

「いや、吉井と姫路と島田の3人が殺人事件に巻き込まれたと、警察の方に聞いてな。無事とは聞いていたが、どうしても心配でな……気が気じゃなかったんだ」

 

「警察の方にですか。もしかして、一条さんという男性でした?」

 

「そうだ。しかし、姫路と島田は精神的ショックが大きかったようだな……。一条警部補からは酷く怯えた様子だったと聞いている。……まだ若いというのに、可哀想に……」

 

 拳を固く結んでそう言う鉄人の表情は、とても悔しそうに歪められていた。

 生徒想いで正義感の強いこの人のことだ、自らの生徒の危機に駆けつけられずに悔しい思いをしたのだろう。

 

 少しの間、言葉もなく時間が過ぎ去る。

 

 やがて鉄人は顔を上げ、僕に声を掛けた。

 感情を飲み込んだのか、その顔からは悔しさが消えている。

 

「見苦しい所を見せた。ひとまずは3人が怪我なく無事で良かったということにしよう。時間を貰ってすまなかったな、辛いことがあればいつでも相談してくれ。全力で力になろう」

 

「こちらこそご心配お掛けしました。お気遣い、ありがとうございます。それでは授業に戻りますね」

 

「ああ」

 

 そして鉄人と別れ、僕は教室に戻った。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 PM 1:34

 警視庁内部

 

 その中で一条と数名の警察官が会議をしていた。

 

「──では、未確認生命体のことを公表されるのですね?」

 

 一条が上司にあたる男性に確認を取る。

 

「そうだ。一条警部補、君が直接戦って脅威を知っているだろう。もはや我々が秘密裏に駆除するのは難しい。市民に呼び掛けて、出来る限り外を出歩かないなどをしてもらわないと、被害が広がるばかりだ」

 

「そうですか……混乱は避けられないでしょうね」

 

「それは承知の上だ。我々警視庁から呼び掛けて、出来る限り混乱を抑えるなどの対処を行う」

 

 上司の言葉に、一条は1つ頷いた。

 

「分かりました。……では、未確認生命体第1号の行方を追うので、私はこれで」

 

「ああ、お疲れさん。既に何人も警察官がやられてるんだ、一条も気をつけろよ」

 

「はい」

 

 一条は一礼をすると、会議室を後にした。

 

「やれやれ、あいつは堅物ですからね。俺たちが無茶させないようにしないといけませんね、松倉警備部長」

 

「そうだな。その時は頼むぞ、杉田刑事」

 

「ええ」

 

 その場に残った、50代頃の初老の男性と、少し髪の毛が後退した30後半頃の男性が、見守るような目でそう言った。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 PM 4:00

 文月学園Fクラス内

 

 1つの携帯電話に複数の学生が群がり、皆ニュースを見ていた。

 その内容とは、警視庁からの未確認生命体の公表であった。

 

 ニュースキャスターが、流暢にニュースを伝えてゆく。

 

『──警視庁本部は、人型の化け物──未確認生命体について発表をしました。現在、未確認生命体第1号と呼ばれる化け物は県内に潜んでおり、行方をくらましています。凶暴性が強く、既に多数の犠牲者が出ている為、市民の皆様は極力外出は避けるようにと警視庁本部はコメントしています』

 

「……未確認生命体、物騒」

 

「ああ、ヤバいな」

 

 ニュースを聞いていた者の1人であるムッツリーニと雄二が、率直な感想を口にした。

 

(あの化け物、まだ退治されていないのか……)

 

 未確認生命体第1号がいまだに近くに潜んでいることに、思わず身震いしてしまう。

 

 それはすなわち、更なる犠牲者が出る可能性があるということだった。

 

「明久? やっぱり朝から様子がおかしいのじゃ。顔が真っ青じゃぞ。保健室に行った方が良いのではないか?」

 

「いや……大丈夫、だよ」

 

「いいや、尋常ではないのじゃ。やはり保健室に……」

 

「本当に大丈夫だから。保健室に行くほどではないよ」

 

「そうかのう……明久がそこまで言うのなら……。じゃが、変だと思ったらすぐに保健室に行くんじゃぞ」

 

「うん」

 

 いけない。

 未確認生命体のことを考えると、どうも顔色が悪くなってしまう。

 あまり皆に心配は掛けなくないんだけど……。

 

 ──あ。

 保健室で思い出した。

 一条さんから病院に行くように言われてたんだった。

 

 確か、椿さんという名前のお医者さんを訪ねればいいはずだ。

 

 外出は避けるようにって警視庁は言っていたし、未確認生命体は怖いけど……。

 僕の身体がどうなっているのか気になるし、1度行ってみよう。

 

 そう思い、一言断ってから離れ、一条さんから貰ったメモを見て病院に電話を掛けた。

 

 そして少し話して、病院に訪問する日程が明日の昼過ぎに決まった。

 学校があるけど、警察官に身体検査を受けるよう言われたと言えば、事情を知っている鉄人なら分かってくれるだろう。

 

 ……さっき心配ないって言っといて病院に行ったら、やっぱり秀吉たちに心配掛けちゃうよね。

 ただの風邪だって言えばそこまで心配掛けないだろうから、そう言って誤魔化そう。

 

 ──さてと。

 遅くなるといけないから、ここら辺で帰るとしよう。

 ……もうあんな化け物には会いたくないから。

 

 そうして僕は帰路に着き、何事もなく無事に家へと帰り着いた。

 




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