バカとクウガと未確認   作:オファニム

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見ててください

僕の

変身。


変身

 PM 10:13

 某公園内

 

 薄らと街頭が闇を照らすそこには、一条と杉田が駆けつけていた。

 

「──これで第3号の被害者が8人目か……くそっ」

 

 公園の真ん中で倒れ付している、成人女性だった死体の首筋には、コウモリに噛まれたような痕があった。

 

 やるせない、というように悪態を吐く杉田。

 杉田は、未確認生命体の事件を追う一条のパートナーとして捜査に当たっている。

 

 30代も中頃の彼であるが、今なお現役で捜査に当たれるほどには身体を鍛えている。

 そして、警視庁でも一目置かれるほど優秀な警察官である。

 

 そんな杉田に、一条は気付いたことを告げた。

 

「杉田さん。第3号の被害者が襲われた場所に地図で印を付けたのですが、奴の拠点が分かりそうです」

 

「何、本当か」

 

「ええ」

 

 一条は地図をライトで照らし、印を指差してゆく。

 

「襲われた場所、これらはある区域を中心として、円状に位置しています。その中心とは……」

 

 一条は地図の上で指を滑らせる。

 そしてある一点で指を止めた。

 

「──ここ。この街の教会です。恐らく第3号はここにいるかと」

 

「よし、ナイスだ一条! ここは鑑識を呼んで任せるぞ。鑑識が来るまで待機だ」

 

「了解です」

 

 鑑識官が現場に到着すると、一条と杉田は後を引き継いで第3号の捜索に向かう。

 

 2人は覆面パトカーに乗り込むと、すぐさま発進する。

 覆面パトカーの赤色ランプが夜の街に赤い線を引き、サイレンが暗闇に溶けていった。

 

 ──その2人の姿をじっと見つめる双眼が、1つ。

 怪しげな人影が、2人の行方を追いかけてゆく。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

 PM 10:41

 教会

 

「……配置に着いたぞ一条。いつでも行ける」

 

「……了解です。合図で突入しましょう」

 

「……分かった」

 

 街頭すらない真っ暗闇の中。

 その中で一条と杉田は散弾銃を構え、未確認生命体第3号のアジトと思われる教会に突入しようとしていた。

 

 突入箇所は正面の扉。

 普通は夜遅くには閉まっているはずだが、不自然に鍵が開いていた。

 そのことからも、第3号がいるのでは……という推測に拍車が掛かってゆく。

 

 第3号に存在を悟られない為、2人は会話は必然的に声を抑えながらになっている。

 

 2人は散弾銃に弾丸(ショットシェル)が込められていることを確認し、お互いに頷き合う。

 

「……行きます!」

 

「……ああ!」

 

 激しく軋むほどの音を立てて両の扉を開き、素早く散弾銃を構える。

 

 お互いの死角をカバーし合えるように、左右を警戒した。

 

「……クリア」

 

「こっちもクリアだ」

 

 勢い強く突入したが、中には誰もいない。

 しかし誰もいないにも関わらず、教会内はロウソクで不気味に照らされていた。

 

 そのことから、決して2人は油断することはなかった。

 

「気を付けろ一条。何かおかしいぞ」

 

「ええ。俺も、どこか不気味で──」

 

 ──ガチャ、と奥の部屋から、物音。

 

「誰だ!」

 

 緊張から出る、神速の反射神経で散弾銃を構える一条。

 

 果たして気のせい、ということもなく、人が歩いてくるような足音が近づいて来た。

 

 その足音の主が、姿を表す。

 

「……こちらの教会の神父の方、ですか?」

 

「…………」

 

 奥の部屋から出て来たのは、漆黒という表現が合うような、黒い神父服を着込んだ男性だった。

 

 顔色はすこぶる悪く、青白い。

 ロウソクの灯火に照らし出されて、より一層不気味さが増していた。

 

 一条と杉田は、どこか様子のおかしい彼に対し、警戒を解けないでいた。

 

 ──不意に、その神父が口を開く。

 

「リント・ン・ラギセ・ボンザバ」

 

「っ!?」

 

「おい一条、こいつまさか!」

 

 猛烈に嫌な予感を感じた2人は散弾銃を神父に向け、動くなと勧告を促す。

 

 しかし神父は一切動じることなく、妙にとがった犬歯を見せつけながら、三日月状に口を裂いた。

 

 そして──神父の身体は、人型の異形へと変化した。

 

 頭部は、目が細くなり、口が大きく裂け歯の全てが鋭くとがり、耳が大きく広がった。

 

 皮膚が赤茶けた色に変色し、腕にコウモリのような皮膜が生えてゆく。

 

 全身をコウモリを思わせる姿に変えた、神父だった異形──未確認生命体第3号が、一条と杉田の前に立ちはだかった。

 

 第3号は、大きな耳に開けられたピアスを軽く触ると、鋭い牙だらけになった口を、再び開く。

 

『ゴラゲダヂ・ロジョグデビ・ビギデジャス』

 

「くっ……来るぞ!」

 

「くそっ」

 

 第3号は、2人に襲い掛かった。

 

 △▼△▼△▼△▼

 

「ぐああっ!」

 

「杉田さん! うぐっ!?」

 

『リント・ン・ヅビ・ロボデギ・ドバ』

 

 この場は、未確認生命体第3号の独壇場だった。

 

 警視庁から借り受けた散弾銃は全く効果がなく、一条と杉田はただ蹂躙されているだけだった。

 

 強さの差は、火を見るよりも明らか。

 やられるのは時間の問題だ。

 

 第3号が振るった腕に杉田が吹き飛ばされ、一条も軽くあしらわれた。

 

 吹き飛ばされた杉田はロウソクを倒しながら無様に床に転がる。

 倒れたロウソクの灯火がカーテンに燃え移り、あっという間に業火へと成長した。

 

 倒れた際に頭でも打ったのか、杉田は気を失ってしまっている。

 

「す、杉田さん……大丈夫ですか!? ──くそっ、反応がない」

 

『ブサベ!』

 

「うわっ!」

 

 第3号の攻撃を間一髪の所で避けた一条だが、大きく体勢を崩してしまった。

 

 苦し紛れに散弾銃を撃つが、全く堪えた様子がない。

 

 万事休すか、と一条が諦めかけた──その時。

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

『バビ!?』

 

「なっ!?」

 

 教会の扉を突き破って、新たな人物がこの場に現れた。

 

 その人物とは──戦う覚悟を決めた、吉井 明久だった。

 

「吉井君!? なぜこんな所に!」

 

「一条さんの車を追って来ました。僕も戦う為に!」

 

 一条の覆面パトカーを見つめていた怪しい人物とは、吉井 明久のことである。

 

 彼は未確認生命体を撃破する為に、パトカーを追っていたのだ。

 

 だが、戦う度にキルマシーンに近付くと聞いている一条は、当然明久を止めた。

 

「何を言ってるんだ吉井君!? 君は戦えば戦うほど、人間とはかけ離れてゆくんだぞ!」

 

「構いません! それでも僕は戦います!!」

 

 一条は止めたが、しかし。

 覚悟を決めた明久が、その程度の説得で止まるはずもなかった。

 

 明久が突入したことに対する驚きに、一条への攻撃を中断した第3号だったが、ただのリント──人間の子供だと判断すると、再び一条に攻撃を仕掛けようとした。

 

 もちろん、明久はそんなことは許さない。

 

 第3号にタックルをかまして、強制的に距離を取らせた。

 

 自分を犠牲にするかのような発言をする明久に、一条は怒りをあらわにして怒鳴る。

 

「なぜそんなことを!」

 

「こんな奴らの為に!!」

 

「っ!?」

 

 だが明久は臆さない。

 怒鳴る一条に負けじと、彼を超える声量で怒鳴り返す。

 

 そして、己の中に燃え盛る熱い思いをぶちまけるように、声が枯れるほど、叫ぶ。

 

「これ以上、誰かが傷付くのを見たくない! 誰かの涙を見たくない!!」

 

 第3号に振り払われ、殴りつけられるが、明久は両手で受け流す。

 

「黙って見ているのは、もう嫌なんです!!」

 

「吉井君……」

 

 一条は、明久の心の底からの叫びに、言葉を失った。

 明久の必死さの中に、強い怒りと、悲しみと──覚悟を見つけてしまったから。

 

 その間に第3号が動いた。

 

 明久は第3号が振り回した腕を、腹と手で受け止めるが、そのまま掴まれ一条のそばへと投げ飛ばされてしまう。

 

 だが転がりながらも、すぐさま第3号の方へと向き直り、膝を立てた。

 

「だから見ててください!!」

 

 戦うという決意を、胸に宿し。

 

「僕の!!」

 

 枯れつつある声で、闘志の咆哮を上げる!

 

「変身!!」

 

 そして立ち上がり──両腕を広げた。

 

 すると、決意がベルトという形になって現れた。

 ベルトの宝玉の色は──燃え盛る炎のような、赤。

 

 ベルトに手をかざし。

 

 右手を左前方に突き出し、左手は宝玉に添えた。

 

 右手を右前方にスライドさせ、左手は左腰にもってゆき。

 

 左腰の辺りにあるベルトのスイッチを、右手で勢いよく──押し込む!

 

「うりゃあ! はっ!」

 

 第3号を、助走をつけて右手で殴る。

 もう一度殴る。

 

『ギギ!』

 

「ふっ、はっ! だあっ!」

 

 反撃に顔を狙われたが、腕で受け止めて顔面を2発殴ってやる。

 

「おりゃあ!」

 

 怯んだ所に、わき腹に蹴りを叩き込む。

 更に大きな隙が出来たので、もう2発拳を叩きつける。

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

 拳を突き出したまま、投げ飛ばさんと全身に力を込めた。

 

 すると、ベルトの宝玉が回転を始め、更に赤く光り輝き始めた。

 

 そして──明久の身体は装甲に包まれ変化してゆき──

 

 完全に戦闘用の身体に作り変えられると、一気に力が上がり、第3号を持ち上げ投げ飛ばした。

 

「おりゃああぁぁぁぁ!!」

 

 その姿は──赤。

 

 最初に変身した時は白かった装甲が、今は烈火のような赤に染まっていた。

 

 短かった頭部の2本角も、雄々しく伸びている。

 

 そして何より──その姿は、力強かった。

 

 吹き飛ばされた第3号が起き上がり、変身した明久を見て呟いた。

 

『バゼ・ゴラゲ・グビ・クウガ?』

 

「クウガ……? そうか、僕の名前はクウガか!」

 

 戦いの姿の自らの名前を知り、納得した明久──いや、クウガ。

 

 クウガは第3号に向けて構えを取り、戦闘を続行した。

 

「はああぁぁぁぁ!!」

 

 拳を握りしめ──全力で、腕を引き絞った。

 




長くなったので分けました。

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