元文科省職員が学園艦廃艦計画阻止のために奔走する話 作:単細胞
東京霞が関、センチュリーやプレジデントといった黒塗りの高級車が駐車してある車列の中に似つかわしくない車が1台、言うまでもなく俺のシルビアだ。
「久々だなぁ・・・」
せわしなく出入りするスーツを着た職員、かつては俺もあの中の一員だった。
黒のスーツ群衆の中から白の制服を着た女子が出てきた。大洗女子学園高等学校の生徒会長、角谷杏だった。
クラクションを鳴らすと角谷は俺に気付いたらしい。
「確か文科省の・・・」
「今は違うけどね。東京駅まで送って行ってやるよ」
「ありがとうございます」
角谷は助手席に乗り込んだ。
「前に文科省に行った時に居ましたよね?」
「まぁな、でも辞めちゃった」
自分なりに茶目っ気を含ませたつもりだったが角谷は無反応だった。リアクションを取る余裕はないようだ。
学園の廃校案を彼女達に通達した時、俺は辻さんの後ろに居た。それが今は向かい合う立場にいる。人生何があるかわかんねぇよな・・・
「そのカンジだと交渉は失敗に終わったっぽいな」
「口約束は約束ではない。善処はした・・・だそうです」
「まぁそうなるでしょうねぇ」
変わってないな。
記憶に無い、秘書がやった、努力はした。政治家が責任逃れするときの常套句だ。本当にやったかどうかはお察しだ。
「別口から攻めるしか無いな、周りを固めてじわじわ迫るってカンジで」
連盟の公式サイトのニュース欄に記事を掲載しておいた。SNSなどの反応は上々だ。噂によと駅前などでは戦車道に関係するNPO法人などが署名活動を行っているらしい。
「周りから・・・戦車道連盟・・・」
「まぁ始めに行くとこはそこになるだろうね・・・理事長にアポとっとくけど。何時がいい?」
「明後日でお願いします」
この行動力、見習いたいよ。
「おっけぃ、朝迎えに行くから」
「感謝します」
角谷は此方に向かって深々と頭を下げた。
「いいって」
ビルの隙間から特徴的な赤いレンガ造りの建物が見える。東京駅まであと少しだ。
「あの・・・」
「ん?」
「どうして私たちにここまでしてくれるのでしょうか?」
まぁそうだよな。戦車道連盟の人間とはいえ自発的にここまで動きまわる義理はないのだ。
本来なら・・・
「どうして学園艦統廃合計画が出来たか知ってる?」
「運営予算の節約と聞きましたが・・・」
「当たらずとも遠からずってカンジだね」
近々行われる戦車道世界大会の誘致に文科省は躍起になっている。戦車道のフィールドを東京都からほど近い、埼玉県に作ろうと考えていた。国内には既に多くのフィールドがあるにも関わらずだ。
フィールドを作るのには莫大な資金が必要となる。このしわ寄せが学園艦の運営費に回ってきた。
国内最大級という触れ込みから察する通り、予算は一般のフィールドよりも遥かに高額である。
しかしその予算全てがフィールドの設営に使われる訳ではない。過去最大の建設費用という表現には裏が有る。
文科省、国交省、各国戦車道連盟の査察団の旅費、宿泊費その他・・・それが全てこのフィールド建設の予算に含まれているのだ。
一般人が戦車道のフィールドを作るのにいくら掛かるかなんて分からない、偉い人がこれくらいかかると具体的な金額を提示するとすっかり信じてしまう。
「それにこの建設費のいくらかは上層部の懐にも入っている。そんな事、放ってはおけない」
「敷島さん、出世できそうに無いですね」
「まぁ事実文科省辞めちゃったしな」
俺達は軽口を叩き合って笑いあった。初めて彼女の笑顔を見た気がする。
「じゃ、頑張ってね。期待してるよ」
「必ず期待通りの成果を上げてみせます」
そう行って角谷は東京駅の建物へと入っていく。
彼女の小さな背中が大きく見えたのは気のせいでは無いはずだ。